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「……日没。
ヴァルメイヤの刻限(こくげん)です。
皆さん、よろしいですね?」
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「僕は大丈夫です」
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「別にいい。
最初から決まってるし。
答えも。たぶん、結果も」
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「……」
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「静かに、ヨーズ。
それでは、参りますよ。
『ヴァルメイヤよ、
ご照覧あれ!』
血と肉と骨にかけて──
みっつ!
ふたつ!
ひとつ!」
……
実のところ、
ビョルカさんとヨーズが
『誰も犠としない』を
選ぶのは、読めてた。
一方、
読めなかったゴニヤだけど、
ヨーズを指さしてる。
明らかに、
怒りと怯えの混じった目で。
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「……どういうこと」
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「……!」
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「ゴニヤ……!」
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「やめなさい、ヨーズ。
本来『ヴァリン・ホルン』に
『理由』の表明など
必要ないのですよ。
必要なのは、結果だけです」
結果……
そうだ、結果だけだ。
僕ひとりぶんの指名が
決定づけた、
結果だけなんだ……
断罪(a)
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「こたび各々(おのおの)が指さされた数は、
ヨーズ、2人。
誰も犠としない、2人。
候補たるヨーズを除く3名で、
決選の儀を行います」
──僕の顔に視線が集中する。
ヨーズの無表情な、だけど
刺すような視線。
そして、ゴニヤの熱い視線。
このゴニヤの露骨なアピール、
そして、まるで僕らの誰かを
恐れるような態度を鑑みての、
一手だったけど……
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「なんで?」
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「……こうして真っ直ぐに
見つめられると、揺らぐ。
僕はビョルカさんをうかがう
ように見た。
小さくうなずかれた。
……意を決して、口を開く」
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「ヨーズは……今日一日、
らしくなかった。
どこか積極的で、
誘導的に見えた。
朝はやたら慎重だったのに、
さっきは『儀』をしなくていい
とか言い出すし……
『儀』をされると困る……
そう見えた」
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「それを、ゴニヤは言えない……
言うことを許されてないように
見えた。
余計なことを一切言うな、
でないと怖いことになる、と、
脅されてるみたいに。
そんなヨーズを恐れて、
とうとう逃げ出した……
そんな感じに、思えたから……」
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「……!」
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「ふうん。
それだけ?
思えただけで。
私を殺すんだ」
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「……否定してくれよ!
それで僕とゴニヤが納得して、
決選で『犠としない』を選べば
済むんだよ!
ただ一言でいいから言ってよ!
自分は『狼』じゃないって!」
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「否定、かあ。
んー、ん、ん、」
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「
む り
」
──その時、僕は見た。
ヨーズの両の瞳が、
捕食獣のように細まるのを。
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「じっさい、
おまえの言う通り。
陰謀とか。策略とか。
性に合わない。
らしくなかった
おまえにそう見てもらえたなら
それでいいや
殺しなよ
あ た し を」
その瞬間
それは ヒトガタを捨てた
殺意と獣性をみなぎらせた
ヨーズの声をした獣の怪物
人間離れした笑みをひきつらせ
長銃(ちょうじゅう)を放り捨てて
鉤爪(かぎづめ)を振り上げる
僕は動けない
だって それは同胞だ
変わり果てても 同胞だ──
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「──決選の儀です!
血と肉と骨にかけて!
ひとつ!
ふたつ!
みっつ!!」
巫女の声にあわせ
3本の指が
吸い込まれるように
怪物を指し示して
僕は剣の柄(つか)に手をかけた
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「しっ、
『死体の乙女』よ!
血と肉と骨にかけて、
……奪われし戦士の死体を、
在るべき場所へと
還したまえ──!!」
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シークレットを見る(Tap)
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(まあ、こうなる。
ウルヴルの言葉を聞いて
あたしは手に入れた
夜限定。獣の力と残虐さ。
昼に変身しても恰好だけ。
禁忌も『儀』もやぶれない。
考えるのがいっそう
めんどうになるだけ。
だから、これでいい。
唯一の心残りは、
ゴニヤが引き起こす惨事を
見損なったことだ。)
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「──きたい、してなよ──
おもしろいことになるよ──」
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【ヨーズ死亡】
【2日目の日没を迎えた】
【生存】
フレイグ、ゴニヤ、ビョルカ【死亡】
ヨーズ、ウルヴル、レイズル
怪物
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あれから……
埋葬を終えた僕らは
野営に入っている。
昨日みたいにバラバラには
なってない。アレはヨーズが
提案した方針だし。
でも、顔が見えない程度には
離れてる。
みんな、互いに少し距離を
とりたかったんだ。
連日の強行軍(きょうこうぐん)で
ひどく疲れてたうえに、
『狼』の正体を見て、
心が穏やかじゃない。
気持ちの整理をするための
静かな時間が必要だった。
……他の2人には。
僕は実は、
別の理由で悩んでる。
あのヨーズの顔をした怪物が、
最期、僕だけに聞こえる声で
言い残した言葉。
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『──きたい、してなよ──
おもしろいことになるよ──』
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「……どういうことなんだよ、
くそっ……」
誰にも聞こえないように
悪態をついても、
魔術のランタンの光は
揺らぎもしない。
ため息をついて、僕はまた、
何度目かの無意味な思案に
ふける。
どうせ今日も眠れない。
でも、深夜に嵐がきたら、
また眠ってしまうような、
そんな気がする……