それで、
嵐の夜、
凍りつく夜明け前を経て、
何も代わり映えのしない、
夜明けが訪れた。
私は、
皆を探して、
何もかも、嫌になった。
【ゴニヤ死亡】
【3日目の夜明けを迎えた】
【生存】
ヨーズ、ウルヴル、ビョルカ【死亡】
フレイグ、ゴニヤ、レイズル
ウルヴルは、
抜け殻だった。
それを見つめるビョルカに、
言葉はなかった。
だから私が、
ゴニヤを集めて、葬った。
2人とも、止めなかった。
同胞を不幸にしないため、
しかばねを『死体の乙女』へ
返すのは、正しい行いだから。
結局ここは『村』で、
私らは正しいことしか
できない。
私だって、そうだ。
ゴニヤが死んだって
どうってことない。
そう思ってたのに、
悲しくて、
悔しくて、仕方ない。
子供は希望だから。
それが、正しいから。
「……行こうよ。
みんな死んじゃうだろ」
最後の『儀』なんて、
切り出せなかったから、
代わりにそう言った。
それでようやく2人とも
のろのろ動き出した。
老いぼれがよろけてるので、
ビョルカが肩を貸して。
正しいようで、
何もかも間違ってる。
そんな感じが、した。
迷わないように、
もう心に決めとく。
ビョルカは指ささないよ。
何が何でも、ね。
それでもう、
結果はどうでもいいから、
終わりにしよう。
私らは歩いた。
警戒はしたけど、
何も起きなかった。
何も?
少し笑える。
最悪の獣は、
私らの中にいるってだけ。
黙って歩いた。
歩いて、
歩いて、
日が傾いた。
シークレットを見る(Tap)
(ささやく。
暗示する。
心をゆらす。
我を支えるビョルカに、
あらゆるやり方で
ヨーズへの疑念を植え付ける。
こうでもせねば、我が『犠』と
なり終わるだけだ。
『巡礼』は終わらぬ。
より異常な結末へ。
よりまれな破滅へ。
せいぜい我は導いて、
『巡礼』の破綻を期待しよう。)
「……やろう」
結局どこにも
たどり着けなかった。
『護符』の魔力は切れた。
まだ風はないのに、
凍えそうに寒い。
私らは終わりだ。
でも、せめてマシな終わりを
選ぶことくらいはできる。
ウルヴルは頷いた。
ビョルカも頷いた。
『ヴァリン・ホルン』だ。
「『ヴァルメイヤ、
我らを導く死体の乙女よ。
信心と結束をいま示します。
ご照覧あれ。』
血と肉と骨にかけて──
みっつ。
ふたつ。
ひとつ」
シークレットを見る(Tap)
(ビョルカは仕上がった。
さあ、ヨーズ。
予定調和を失って、どう動く?
貴様には期待しているのだ。
願わくば、破綻を。
イクサオトメが発狂し
全てを放り出すような
最悪の破滅的回答を、
『巡礼』の中で出してみよ。
我には──ウルヴル自身には、
それが期待できぬゆえに。)
……
なんで。
なんで?
なんで、
ビョルカとウルヴル、
2人とも、
私を指さしてる?
……
あー。
そういうことか。
ボケてたわ。
早く気付けっての。
でも、そりゃそうだわ。
「……
ごめんなさい、ヨーズ。
でも、」
「言わなくていいよ。
大体分かったし。
全部あんたの仕業だよ。
ウルヴル。
いや、『狼』」
「……
何を、言うとる。
ワシが、ゴニヤを殺せるか。
おまえしかないじゃろう、
ヨーズ、おまえしか──」
「うん。まあ多分、
『今のあんた』は、
知らないんだよ。本当に。
あんたに憑りついた『狼』が、
『今のあんた』が知らん間、
こそこそ要らんことして、
こうなったのをさ」
「……よ、ヨーズ?
あなた、一体何を……」
「つまりゴニヤは、試みたんだ。
したくもない私の懐柔(かいじゅう)を、
誰かに言われてね。
もう、誰かと共謀してたんだ。
おかしいだろ。
私らは禁忌に逆らえない。
『儀』の共謀は、
できないハズなのに」
「事実できなかった。
ゴニヤと私は。
なのにできたやつがいる。
『私ら』じゃなくなったやつ。
つまりそれが、『狼』。
その日ずっとゴニヤを支えて、
耳打ちする暇が
いくらでもあったのは、
ウルヴル。
あんただけだよ」
「黙れ! もう、黙ってくれ!
わけの分からん言い逃れは、
きさまの魂を濁らすぞ!!」
「ウルヴル!
静かにしてください、
私は、ヨーズの言葉を、
『理解』しようと
努めています……」
「は。いいのに。
こんなの、ただの自己満。
ま、バカのたわごとを
勘弁できるなら、聞いて。
ウルヴルはゴニヤを殺せない。
絶対に殺せない。
ふつう、信じるよね。
だからこそ、
ゴニヤが死ねば、
ウルヴルは絶対に、
疑いから逃れられるんだよ」
「実際、昨日はゴニヤを
疑ってたビョルカは、
ゴニヤが死んだとたん、
疑いもせず信じた。
ウルヴルを。
あんたが支えてやってる間、
いろいろ囁いてきただろ?
自分にはゴニヤを殺せんとか。
ヨーズしか考えられんとか。
よく考えてよ。
それが、共謀なんだよ」
「……!!」
「まっ、待て!
覚えがない!
実のところ、ワシは昼の間、
意識が飛び飛びで──」
「自白じゃん」
「ウルヴル、あなたが……!」
「ワシじゃない!
ワシなわけがない!!
ワシが、ゴニヤを殺すはず──
──何をする! 触るなァ!」
ずいぶん神経質だな。
『儀』で選ばれてない以上、
直接傷つけられないって
分かってるだろうに。
そう、それが問題。
結局これから死ぬのは、私。
避けられないんだ。
だから、
ひとつ、
試してみようか。
「ビョルカ、
そこに崖あるじゃん」
「え、ええ……」
「ほら、ウルヴルも、見てよ」
「何を企んどる……!」
「いや、あそこの尾根にさ……」
適当なことを言いながら、
私は、崖から飛び降りた──!
うまくいった!
うまくいった!
試みその1。
『ヴァリン・ホルンの儀』で
選ばれた者ならば、
自傷の禁忌も侵せる!
自殺ができるんだ!!
さあ、
もう一つの試みはどう?
シークレットを見る(Tap)
(なんてことを思いつきやがる!
雪崩の質量は圧倒的だ。
オスコレイア態の召喚体だって
巻き込まれれば危うい!
そこに自分ごと巻き込むとは!
……惜しむらくは、
限りなく自殺的な行動に、
イクサオトメは
惹かれないってことだが……
ヒントはある、かもな。)
「──うおおおおおお!!?
たっ、たっ、助け、
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! !」
「あははは!
大成功!」
──ウルヴルの服の端に、
つけといた。こっそり。
ゴニヤを縫ったのと同じ、
シカの腸糸(ちょうし)と針!
もう一方を自分に結んで、
飛び降りた!
バランスを崩して、
老いぼれも落ちた!
試みその2!
自分の死に巻き込むような、
間接的な形なら、
他人を傷つけることもできる!
私たちは急な雪面を、
つかず離れずで
転がり落ちてゆく。
あっという間に雪煙(ゆきけむり)が立ち、
崩落が、流動が、
雪崩を引き起こす。
めちゃめちゃに揉まれ、
叩かれ、潰されながら、
決して目を離さなかった。
「試み、その3──
『狼』は──
嵐とともに──現れる──」
全て、思った通り。
雪崩と落下がもたらす、
凄まじい雪と冷気のうねりは、
最悪の嵐にも似て、
私たちをもてあそび、
その渦の中心で、
獣が姿を現した。
「──フフフ、ハハハ!!
面白い!!
面白いぞ、ヨーズ!!
『鍵』もなしに、
ここまで禁忌の鎖を解くとは!
最も狂った巡礼者は
貴様かもしれん!!」
「いや──お前誰よ──
ってか──コウモリ──!?」
「ハハハ!
そう、所詮貴様らはそれまで!
人間とは、それまでなのだ!!
死によってしか
奇跡を起こせんならば、
巡礼の結末は知れている!!
とはいえ痛快だったぞ!
貴様が『狼』となる時も、
かく楽しめるとよいな!!」
最後のほうは、
バケモノが何を言ってるのか
もう分からなかった。
城くらいある
雪の流れに
押しつぶされて
全て
止まった
【ウルヴル死亡】
【ヨーズ死亡】
【生存】
ビョルカ【死亡】
フレイグ、ヨーズ、
ウルヴル、ゴニヤ、レイズル
「……
……はぁっ、はぁっ……
ああ、ああっ……!
冷たかったでしょう!!」
崖の下まで辿り着いた私は、
日が落ちても、
月とランタンの光を頼りに、
雪崩のあとを
掘り続けていました。
そして今、見つけたのです。
雪に埋もれ、
氷漬けになった、
ヨーズの手を。
手にはなぜか、
『雪渡りの護符』が
握られていました。
フレイグから彼女へ
受け継がれたそれは、
私たちの罪と、祈りの
証のようでした。
私は今、ヨーズの手をとり、
『護符』に触れています。
なぜか温かく感じます。
錯覚なのでしょう。
手の感覚など、
とうの昔にありません。
すぐそばには、ウルヴル──
いえ、巨大な怪物の、
ぐしゃぐしゃの死骸が
埋まっていました。
ヨーズは、勝ったのでしょう。
ヴァルメイヤすら見過ごした
この怪物に、
計り知れない、意志と計画で。
なぜでしょう。
それは、
信仰の否定に他ならないのに。
私はなぜか、
誇らしいのです。
──息が、できない。
肺が凍り始めているのかも
しれません。
力尽きるときが来たようです。
それでも、
ヨーズ、
あなたのそばなら、
冷たくも、怖くも──
「そのような感情は不要
排除せよ」
「──はい
ヴァルメイヤのために
血と肉と
骨に
か
け
て」
【ビョルカ死亡】
【巡礼者が全滅しました】