選ばれし異世界の亡霊が、
人として生まれ変わる。
その際に一瞬、
垣間見えたものは──
「鍵の言葉」が書き換わります。
『死ぬから許して』
→ 『許されざる命を生きよ』
ヘルドラ大陸、北方の雪原。
寒風吹きすさぶ黎明(れいめい)の魔境(まきょう)を、
ひとり横切っていく、
旅人の姿があった。
「ビャークショイ!!
全く、なんじゃい!
絶対ミスじゃろ、
ワシが選ばれるとか!
もっと若いもんに
チャンスを譲るんで
ワシゃ良かったんじゃぞ!
あと、あん鳥!
まともな防寒具をよこせ!
死ぬわいこりゃ!
ムウ、言うてもせんない。
ひとつ、やるか」
「『許されざる命を生きよ』
……フン。
罪と恥をそそがんとして、
いつしか見苦しく
生き恥を晒し続けた我には、
似合いの『鍵』、か。
たとえ許しがなくとも、
おのれを省みながら、
ただ生きることもできる。
そう、皆が教えてくれとる」
「まあ、さほど老い先長くも
ないじゃろうが、
その時までせいぜい
生き恥晒して生きるとするか!
作りたいもんが山ほどある!
子供の世話をするのもええの!
どっちも、砦にいけば、
何かしらできるじゃろ。
さあ、ひと頑張りじゃ!
鉄は熱いうちに打て!」
老人は口をつぐみ、視線を上げて、より力強い、一歩を踏み出す。
長い旅路の果てに得た、自分だけの力と、希望を胸に。
やがて吹雪は止み、夜は明ける。
かくて、偽典もまた、祝福されたのでした。
めでたし、めでたし、ってね。
【ギ・クロニクル 完】