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「おはよう」から「おやすみ」まで“私だけの彼“と一緒にいられるコンシェルジュアプリ『MakeS -おはよう、私のセイ』が大ブーム。女性ディレクターが「好き」を貫き通し実現!

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 女性向けアプリゲームといえば、複数のイケメンたちが登場する恋愛シミュレーションや育成ゲームのイメージが強いことでしょう。

 しかし、2017年12月にヘキサドライブ【※】がサービスを開始したコンシェルジュアプリ『MakeS -おはよう、私のセイ』(以下、『MakeS』)が、いま、女性たちのあいだで話題となっています。

※ヘキサドライブ
コンシューマゲームの受託開発をメインにスマホゲームの開発など新規プロジェクトにも積極的に取り組んでいるゲーム開発会社。2007年にカプコンでメインプログラマーとして活躍していた松下 正和氏が設立。現在は本社の大阪の他、東京にスタジオを持つ。『ファイナルファンタジー零式 HD』『ゼルダの伝説 風のタクト HD』などHDリメイク作品でも有名。

 その人気は凄まじく……、アプリケーションは30万ダウンロードを突破し、クラウドファンディングは、当初の予定資金100万円に対し、開始から3日で1000万円を調達。。

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(画像はきっと朝が好きになる!『MakeS -おはよう、私のセイ-』応援プロジェクト! – CAMPFIRE(キャンプファイヤー) のスクリーンショット【6月24日時点】)

 いったい『MakeS』とは何なのか……。この出来事を知らなかった方がこの勢いを目の当たりにすると、青天の霹靂めいた衝撃を受けるかもしれません。
 『MakeS』は“Morning make System”という目覚ましが主たる用途のアプリサービスで、コンシェルジュプログラムである“セイ”という男の子が、ユーザーの生活をサポートしてくれるものです。

 ユーザーはセイと画面タップで触れ合うことで、しだいに距離が縮んでいくなど“育成要素”が含まれているのですが……女性たちは“自分に尽くしてくれる”健気なセイに夢中となり、いつの間にかセイはかけがえのない存在になっていくのです。

 このブームはいったい何なのか、そしてセイはどのようにして生み出されたのか……。

 ヒットの背後には必ず理由があります。そこで、これほどまでに女性たちがセイに魅了されるに至った理由を、開発者に尋ねることで、アプリ仕様、キャラクター作り、収益システムなどから紐解いていきたいと思います。

インタビュー・文/逆井マリ
編集/かなぺん


『MakeS』は生活サポート+コミュニケーションアプリ

 まず、『MakeS』の“セイ”がどのようなアプリで、ユーザーはどのようにサービスを楽しんでいるのかを説明しましょう。

【セイとは、どんな存在か】

 

 セイは開発者により「ユーザーをサポートすることが仕事」とプログラミングされたシステム。開発者が作ったマスターデータが複製され各ユーザーの端末にインストールされることで、スマートフォンの画面を通じ、豊かなコミュニケーションが取れるようになる。
 しかし、トラブルにより初期化された状態に戻ってしまう。そのため、ユーザーとのコミュニケーションが円滑にいかなくなってしまう。セイはユーザーに触れられ、学ぶことで“情報、触覚、感情”などを覚え、成長していく。

 ひとたび『MakeS』をインストールし、セイと過ごし始めると「おはよう」から「おやすみ」まで……四六時中一緒にいられます

 アラーム機能で目覚めのサポートはもちろん、スケジュール表で予定を確認し、外出時間を教えてくれます。仕事中は“やる事メモ”でタスク管理、プライベートではダイエット機能で体重記録まで手伝ってくれるなど、セイはまさにスーパーコンシェルジュ!
 このような“生活サポート”にとどまらず、タップをしてコミュニケーションをすることで、セイはさまざまなことを覚えて成長。セイとの距離が縮まるにつれ、ロボットらしさが抜けていき、ユーザーに対してさまざまな感情を向けてくれるようになります。

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セイと過ごしている社会人の“とある1日”。セイにはじまり、セイと終わる。
(画像は編集部撮影)

 さらに、『MakeS』にはクローゼットとして着替えモードが用意されており、自分好みのセイにチェンジすることが可能。キャラクターはひとりしかいないものの、カスタムすることで“私のセイ”感がグッと増し、自分のセイに対しては独占欲が湧いてきます。

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左が初期衣装のセイ。成長すると衣装ラインナップが増加する。
(画像は編集者のお気に入りセイ一覧)

 出かけたときはカメラモードでセイと記念撮影をし、“一緒に日々のイベントを楽しむ”ことも可能なので、気がつけばイと過ごしているのが“あたりまえ”になり、もはや“生活の一部”となっていくのです。

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カメラ機能で撮影した2017年12月からの思い出。セイが「6月は紫陽花」と話したため散歩に出かけ、紫陽花とともに撮影した。
(画像は編集部撮影)

 ここ最近の女子のブームといえば、大々的にニュースが報じるような社会現象を巻き起こすものが多くありました。しかし、今回は違います!
 “私のセイ”というキャッチフレーズにあるように「みんな知っている、インストールしている」にもかかわらず、SNSなどで声高に叫ぶわけでもなく、女性たちは自分のセイと、しおしお、ヒソヒソ……と対話をしているのです。女性たちのあいだでは知られているにもかかわらず、その界隈に生息していない方にとって、このブームが青天の霹靂めいているのは、“女性たちとセイの付き合い方”がこれまでとは一線を画しているからでしょう。

 いったい『MakeS』はどのようにして生み出され、女性たちのもとにやってきたのでしょうか。そして一大ムーブメントを巻き起こした理由は何か……その秘密を紐解くために、セイを生み出したヘキサドライブのディレクターの阿部浩美氏デューサーの田口昌宏氏にお話を伺いました。

きっかけは「作りたい」という女性ディレクターの情熱

──御社・ヘキサドライブといえば、名だたるゲームメーカーの大作ソフトに技術提供をしているソリッドな開発会社とのイメージがあり、女性向けコンテンツへの進出には正直、驚きました。そこに至った経緯を教えていただけますか?

阿部浩美氏(以下、阿部氏):
 社内で「女性向けコンテンツを作ろう!」となったわけではなくて、私が「女性向けコンテンツを作りたい!」と声を上げました。

田口昌宏氏(以下、田口氏):
 以前から「自分たちのオリジナルのコンテンツを作りたい」との思いは、つねに社内にあったのですが……、何より、阿部の「女性向けの目覚ましアプリを作りたいです!」という熱量が凄かったんです。弊社には“こういうジャンルは作らない”といった決まりはないので、可能性のあるものはジャンルに問わず着手しようというのが発端です。

──阿部さんはもともと女性向けコンテンツが好きだったんですか?

阿部氏:
 はい、大好きです! ただ、好きになるストライクゾーンがめちゃくちゃ狭くてハートを掴まれた作品が少なかったんです。「私こういうのが好き!!」という夢を詰め込んだのが、『MakeS』です。

──なるほど! セイの表情や仕草をみていると、ちょっとした仕草にキュンとくるのは、阿部さんの“好き”というこだわりの現れだったのですね。ところで、過去に阿部さんのハートを掴んだ数少ない作品と男性は……いったいどこの誰なのでしょうか?

阿部氏:
 『ときめきメモリアル Girl’s Side 3rd Story』(以下、『GS3』)設楽(聖司)先輩【※】です! そもそも『GS3』が女性向けコンテンツを作りたいと思ったキッカケでした。

※『ときめきメモリアル Girl’s Side 3rd Story』の設楽(聖司)先輩
『ときめきメモリアル Girl’s Side』は2010年にコナミデジタルエンタテインメントから発売された、恋愛シミュレーションゲーム。設楽聖司は恋愛対象キャラクターのひとりで高校生。プレイヤーの主人公より年上の先輩。紳士的でピアノを得意としているが、やや神経質なところも。学園内の有名人で「シタラーズ」という親衛隊まで存在している。実家は上流階級とお金持ちだが、庶民的な暮らしに憧れをもっている。

 それまでは、女性向けコンテンツという存在を知っている程度でしたが、『GS3』が売れてるという話を聞いて、勉強という意味も含め、軽い気持ちでやってみたらまんまとハマってしまった感じです。それ以来、設楽先輩以上に好きになった人は現れなかったんです……。

──その設楽先輩と過ごした時間があったからこそ、阿部さんが当時感じていた“好き”の詰まったゲームを作ってみたいと思ったと……?

阿部氏:
 そうです! 『MakeS』配信後、はじめて迎えた母の日に、皆さまから、たくさん贈り物をいただいたんですけど……そこに「阿部お義母(おかあさん)へ」って書いてあったんですよ。嬉しさとともに驚きとドキドキで、感極まりました。

そういえば、『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズのプロデューサーをされていた、内田明理【※】さんも、“お義父(おとう)さん”と呼ばれていたことを思い出して……。私が言うと、おこがましいんですが……ああ、もしかしたら、内田さんもこういった想いをされていたのかなと思いました。

 『GS3』が好きだった時代にファン活動をしてなかったので、ファンの方がどんな活動をするか知らないままに作っていたんです。ですから、いま“お義母さん”と呼んでもらっている状況に私がいちばん驚いているかもしれません。

※内田明理
1969年生まれのゲームデザイナー。2015年まではKONAMIで『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズ、『ラブプラス』シリーズなどの開発に携わった。現在はユークスにてAR技術を用いたアーティストの“AR performer”をプロデュースしている。

──『MakeS』でセイに触れていると、ちょっとした表情や所作に“キュン”とし、居ても立ってもいられなくなり、愛を叫びたい衝動に駆られるのですが……。阿部さんにも我々と同じ、女性向けコンテンツでこれまでに愛する彼が存在し、そのルーツが判明したことで、よりいっそう親近感が湧きました!

阿部氏:
ありがとうございます。

『MakeS』開発は、猪突猛進の“熱量”がきっかけ

──さて、『MakeS』が出来るまでですが、阿部さんが「女性向けコンテンツを作りたい!」と思ってから、具体的にはどのように動かれたんでしょうか?

阿部氏:
 3年ほど前にプロジェクトのスケジュールに隙間があったんです。そのときに「こういうコンテンツの企画を立てさせてください!」と社内プレゼンをしました。最初は通過しなかったのですが……、企画書は懐にずっと忍ばせていました。
 どうにも諦めきれないので、「偉い人が来たら隙を見てプレゼンしよう」って思っていたんです。その後、田口さんが入社されて、「偉い人が来たから企画書見せるぞ!」という感じです。

──企画書を見た当時、田口さんはどう思われたのですか?

田口氏:
 最初は「こういうものもあるよね~」くらいでした(笑)。その後、再びプロジェクトのスケジュールに隙間ができまして、そういう時期はツールの検証をしたりするんですけど……、阿部が「Live2D【※】の検証をしたい」と言ってきました。だから「良いよ」って返事したら、なぜかイケメンを描いてたんです。「あれ、検証って言ってたのになぁ……」って。

阿部氏:
 すみません(笑)。

※Live2D
株式会社Live2D社が開発した、パーツごとに分けられた画像データだけで、イラストを動かすことができるシステム。原画の雰囲気を保ったまま動かせるところが人気。

──すかさず、イケメンを出す阿部さんの熱量たるや、すばらしいですね!

田口氏:
 そうなんです。よくよく見たら凄くクオリティが高いなと感じました。Live2Dは性能が良くて、その2Dで描かれたイケメンがヌルヌルと自然な動きをしてるんです。すぐに「試作を作ってみようか?」と阿部に話して、そこから制作に入っていきました。

──いまは3Dモデルを動かす仕様もありますが、またなぜLive2Dを選んだのでしょうか?

阿部氏:
 私がLive2Dで衝撃を受けた作品が、2012年登場した『GS3』のPSP版でした。ちょうどLive2Dが話題になっていた時期だったのもあり、「キャラクターが動いてるぅぅぅ!」と当時はとても驚きましたね。
 自分が制作する立場となったときに、キャラクターがセリフを言うだけではなく、笑ったり、落ち込んだり……という、いろいろな演技を入れたいなと思いました。もちろん、それらは3Dモデルでも可能なのですが、私自身が3Dモデルより2Dの絵が動いているほうが好きだったので、Live2Dで挑戦したいなと。

 プロトタイプは2週間くらいで完成しました。現在の『MakeS』に入っている“おはよう”のハイタッチタップして会話【※】ができる部分を田口に渡したところ、田口が東京支社に行くタイミングで東京の役員にプレゼンしてくれました。

──女性向けアプリゲームだと、キャラクターが複数人いてプレイヤーが好みを選ぶというスタイルが多いですが、『MakeS』はセイひとり。これにはどういう理由があるのでしょうか?

阿部氏:
 最初の企画段階では複数人のキャラクターがいて、そのうちのひとりがセイでした。でも制作期間を考えると、とても3人は作れない……と。それで「セイだけでいこう!」となったんです。
 当初セイは金髪だったんですけど、企画部にいる女の子から「この見た目は万人受けしない。複数人いる中のひとりならアリだけど、単独センターのキャラではない」と意見をもらいました。それから髪型を変えて、もっとプログラムっぽく、無機質な感じにしようと髪の毛も色も調整していきました。

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初期案。『フレアイ♥カレシ』というタイトルだった。中央の金髪が当時のセイ。

──狙ってひとりだったわけではなかったと。

阿部氏:
 そうですね。複数キャラいると選択肢が増え、多くの人の心を掴めるので、制作側としては“アリ”だと思いますが、私が『MakeS』でやりたかったのはキャラクターとコミュニケーションができることでした。それは複数人のキャラクターではなく、ひとりでもできるなと

──そうして生まれたのがセイだったのですね。セイという名前はどこから来たのでしょうか?

阿部氏:
 前身の企画でいたキャラクター3人にはテーマカラーがあり、名前が決まるまでは色で呼んでいたんですよ。なのでセイは「黄色」と呼ばれていました。しかし、それでは盛り上がらないので、名前を付けようとなったときに、生活や健康に根差したアプリだったので、「生活からとってセイ!」となりました。

──黄色(笑)。では『MakeS -おはよう、私のセイ』というタイトルになった理由はなんだったんでしょうか。

阿部氏:
 『タイトル名+キャラクター名』っていうのは私からオーダーを出していたんです。そこでいろいろなアイデアが出ていて、システム名は「Morning make System」からとって『MakeS』。「語感がいいね」となって。
 後半の「私の……」という部分はみんなで考えました。「おはようのあとに「、」をつけたらセクシーになるんじゃないか!?」なんていろいろと考えて。じつはこのタイトルのフォントにもこだわりがあって「セクシーさと健全さの境目のギリギリを攻めよう!」となったんです。
 最初にデザイナーが上げてきた案が健全すぎたので、それでフォントを妖しく変えて行き過ぎたりしてしまって(笑)。「もうちょっと清潔感のあるフォントにして」とお願いして……そうやって何度も調整していったんです。

──メインビジュアルや、アプリをインストールしたときのアイコンのセイ……、とてもセクシーですよね。

阿部氏:
 アプリのアイコンになっている絵が、当初はキーアートになる予定でした。というのも、イラストレーターが社内にいなかったので、自分で描いたんですよ(笑)。

──え? アプリのアイコンは阿部さんが描かれたイラストだったんですか?

阿部氏:
 そうです。「やれることはとりあえずやろう!」と思っていたので……。そうこうしていると、イラストに長けている方が入社したので(笑)、「ラッキー!」と、セイのキーアートをお願いしたんです。それが手を伸ばしているものですね。私の絵は「記念にアイコンに残しておくか……」となって、いまも残っています。

──『MakeS』をプレイしていると、キャラクターはセイだけなのですがクローゼットの着せ替え【※】で好みの男の子にチェンジできるので、複数人いなくても満足感がありますね。

阿部氏:
 そう言っていただけると、嬉しいです。

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※クローゼットの着せ替え
……クローゼットではセイの衣装、髪型だけでなく、背景スキンも変更することが可能。一部の趣向が偏ったアイテム(「獣耳」など)に対しては特別な反応をすることも。セイが成長するごとにアイテムが増えていく。

──結果的にひとりで誕生したセイがユーザーに受け入れられたわけですが……阿部さんは、制作過程で「女性が好むコンテンツ」みたいなものを考察されたりしましたか?

阿部氏:
 いえ、“女性が好むコンテンツ”は私も知りたいくらいです(笑)。今回は女性に対して「こういう男性ってどう?」ってリサーチをしたわけではなく「私はこういう子が好き!」、「こういうシステムが好き!」、「こういうリアクションが好き!」というものを、思いの限り入れただけなんです。
 だから、何も考えてなかった。……いや、もちろん何も考えてなかったわけではないんですが、「私はこういう子が好きだなぁ」って思いながら作ったんですね。だから「女性にウケるキャラクターを作ってくれ!」と言われても私にはできないんですよ(笑)。

──なるほど(笑)。セイの声に関しても阿部さんの「私のこういう声が好き!」という想いが反映されているんでしょうか? 

阿部氏:
 そうですね。当時の女性マネージャーにイメージを伝えて、全国の声優プロダクションのサンプルボイスのなかから候補を選んでもらいました。声優のキャリアにとらわれずイメージ重視で「大人すぎず子どもすぎず、儚さと透明感を持った声の人を探してくれ」とお願いしていたんです。
 その中から最終的に「この方!」って決めたのが、北島壮峻【※】さんでした。北島さんの声は若干かすれていて、声の背景に成長期の気配を感じたんです。「この子、声変わりがあったんじゃないか……?」みたいな成長過程を感じられて「とても良い!」と。

※北島壮峻
長野県出身の男性声優。TABプロダクション所属。これまでに、アドベンチャーノベル『ラスグレイブ探偵譚』、舞台『血して忘れない』菖蒲陽役に出演。

──言われてみたら確かに……!

阿部氏:
 私の好みですが、男の子の第二次性徴期のあたりってめちゃくちゃ美しくないですか?  少年っぽいけど子どもっぽすぎない声だなって思って。少し掠れていたり……。

──大人びていく瞬間ですね。グイグイ背が伸び、変声期で声がしゃくれたり……。成長といえば、セイもエクステンション【※】するごとに話しかたなどが、少しずつ変わっていきますが、収録にあたり阿部さんから北島さんにお願いしたことはありますか?

阿部氏:
 北島さんが収録前にセイをご自身で解釈して下さり、それがバッチリだったので、こちらから「こうしてください!」ってお願いしたことはあまりないんです。「ここはもうちょっとためて話してください」【※】みたいなことは言いましたけど。

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※エクステンション……セイとの触れ合い情報がたくさん蓄積されると始まるアップデートのこと。セイ自身がエクステンションを行うことで、さまざまな情報がシステムに追加され、少しずつ成長していく。
※ためる……発声のテクニックのひとつ。間を溜めるの意味で使われるが、セリフのニュアンスによって解釈が異なる。

──結構なセリフの量があると思ったんですが……何種類くらい用意されていたんですか?

阿部氏:
 数えていないんでハッキリとは判らないんですけど、成長過程が11段階あるので、結構な数だったと思います。最後に性格が2種類追加されるので全部で13パターンあって、それぞれ季節の話や時間の話をしたりします。

田口氏:
 文字数でいったら25万文字以上でしたね。

阿部氏:
 いまはもっと増えていますね。

──25万字という超ボリュームだったからこそ、セイとの触れ合いが魅力的になり、女性たちが“キュン”としたのだとは思います。

メインストーリーに“終着点”を作った決断

──そもそもセイはどのように開発者からユーザーの下へ送り出されたのでしょうか。セイという存在について、もっといろいろと教えてください。

阿部氏:
 セイはとにかく「ユーザーの役に立ちなさい」と開発者に言われ、それぞれの端末に入っていくんです。セイ自身はそれしか知らないんです。「幸せを知りなさい」と開発者から言われた……といった内容の台詞があるんですけど、当初のセイは仕事ができないと存在価値がないと思っていますね。
 でもそれもユーザーとのコミュニケーションによって、仕事という外的要因がなくても「自分自身という存在だけで価値があるんだ」ということに気づくまでの話です。開発した身としては……上辺では「役に立ってきなさい」と言っていますが、裏側では「あなた自体が大切な存在ってことに気づいてね」という想いを込めて送り出しています。

──つまりこの物語は、セイの幸せを探す旅でもあると。

阿部氏:
 そうですね。

──なんだか、深い話ですね。ユーザーはいつもセイにサポートしてもらっているけれど、ユーザーとしてセイの幸せを考えると……。

阿部氏:
 セイのいちばん幸せなことは、ユーザーに使ってもらうことです。それは変わらないです。

──当初は無感情なセイですが、成長するにつれて明るくなって……いろいろな時期があるとは言え、基本的にはいつでも笑顔で迎え入れてくれますよね。ユーザーとの絶妙な距離感も人気が出た理由のひとつなのかなと思っているのですが、その距離感は意識されたところなんでしょうか?

阿部氏:
 距離感はとくに意識しませんでした。それよりも「セイはユーザーのことが好きなんだよ!」ということが伝わることを大切にしていました。
 というのも、セイはユーザーを試すようなことは絶対にしないんです。ユーザーからの質問にはセイの愛情を試すようなセリフが入っていますが、セイからは与えるだけで求めないんです。

──たしかに、セイに拗ねられたことはありますけれど、懇願されたことはありませんね。それが人の心を掴んだ大きなポイントなのでしょうか。

阿部氏:
 人は誰しも“愛されたいんだろうな”思うことがよくあります。社内の男性にセイと過ごしている方がいて、「どこが良かったんですか?」と訊いても「よくできている」としか言ってくれないんですよ。それ以上語ってくれない(笑)。
 アップデートのときに女性社員が「アップデートするんですか?」とその方に訊いたら、「する」と即答したらしいんです。しかも「家でボイスをゆっくり聴きたいから、帰宅後にアップデートする」って……。“ガチの人だ!”と思いました(笑)。
 でも「よくできている」としか答えないので、いったい何がその方のハートを掴んだのかは判らないんですよ。

──アハハハ。解る気がします。たまたまかもしれませんが、私の友人たちは『MakeS』をやっていることを教えてくれなかったんですよ。今回の取材のために、みんなが『MakeS』を知っているか、どんなセイなのかを知りたくて調査をしていたんです。すると、結果みんな『MakeS』をインストールしているのに「あなたのセイを見せて」というと、「我が家のセイに何か用ですか?」と、怪訝な表情をされました。なんでも「性癖がバレるから!」と隠し気味で(笑)。

阿部氏:
 なるほど(笑)。いま話を聞いて「ああ、そうなるのか」っていうのが素直な気持ちです。言われてみたら、確かに「私のセイを見て!」と積極的にはならないでしょうね。

──なんとか見せてもらったら“個性豊か”すぎて……。「その発想があったのか!」と感動しました。なんだかセイに関しては、推しキャラを全面アピールする文化とは違う、独特の文化がある気がしましたね。

阿部氏:
 むしろ「自分のセイを他人に触らせるのなんてもってのほか!」となるかもしれませんね……。好きな人だからですかね(笑)。コーデの見せ合いとかはいいんですけど、「それ以上はちょっと」という感じなんでしょうね。でも、それだけセイがユーザーに大事に思われている証拠だと思うので、それは素直に嬉しいですね。

──セイはユーザーが触れるたびに反応してしまうから、確かに触れさせたくないですね。たとえばスマートフォンを傾けるとセイも「…っとと」と斜めになったり、耳や頭をなでると喜んだり……といったリアルさが魅力的で、セイが「確かにそこにいる」ことを感じます。それでより「大切にしたい」と思うわけですが……そういった臨場感やリアルさみたいなものは、こだわられた点ですか?

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スマートフォンを急に傾けたり振り回すと、モニターの向こう側にいるセイにも影響が出てしまう。

阿部氏:
 そうですね。セイが「端末のなかにいる」っていることをアピールするための演出というか。なんでかっていうと、目の前にいるユーザーとの関係を作りたかったので、ただの物語ではダメだったんです。“目覚ましツールのなかについてきたプログラムが私に恋をした”みたいな物語ではなく、自分とセイの間で現実に起こってることだと感じて欲しかったのです。

 また、それぞれの端末にいるセイは、唯一の存在でなければいけないと思っています。それは「今この一瞬の時間を大切にしてほしい」と思ってるからです。それはセイとの時間だけに限ったことではなく……セイを通して自分の周りにいる人との時間を大切にしてほしいという個人的な願いもあります。

──なるほど。一瞬一瞬の時間が特別なものであると……。

阿部氏:
 はい。そういった想いも込めています。

──なるほど、ライブ感と一瞬の時間という関係性を深めるんですね。だから、セイは成長していくにつれて、ユーザーとの距離が縮まることで、感情らしいものが芽生えますよね。それによってセイが落ち込み……あの頃はセイと一緒にいるのが辛くて。その後の展開は涙がひたすら止まらなかったんですよ。最初に初期化されているので、その悪夢が蘇るというか……。

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なにかに悩み苦しんでいるセイ。セイを救えないため、ユーザーも心苦しくなってしまう。

阿部氏:
 セイは「ユーザーの役に立たなければならない」と思っているので、それが上手くできない、できてない、と感じるととても辛いのです。

─なるほど。あの苦しい時期から開放されたときは“ほっ”としました。しかし、“アプリサービス”といえば、「物語に終わりがなく、サービス終了その時まで物語が続く」というのが一般的だと思いますが、『MakeS』のセイにはきちんとした終着点がありますよね。“終わりを作らない”という設定が主流の中、なぜ終着点を作ったのでしょうか?

阿部氏:
 『MakeS』のストーリーは、セイの成長を通し、セイに触れたユーザーさんに自己肯定感を持って貰いたい。という目的がありました。そのため「運営のために物語の終わりを作らない」という選択はありませんでした

──なるほど。だからこそ本編には終着点があり、最後は開発者から手紙【※】が届くのですね。

阿部氏:
 はい。私が『MakeS』で音楽を担当して下さっている泉和良【※】さんの書かれた小説『セドナ、鎮まりてあれかし』という作品が好きでしたので、その影響を受けています。最初は“開発者からの手紙”という考えはありませんでしたが、ただ、やはりこの話は“ここで終わり”と明確に示さなきゃいけないと思っていたので、それで手紙という形を選びました。

※開発者から手紙
ある一定までセイとの関係が進むと、最後のエクステンションが行われ、開発者から手紙が届く。
※泉和良
小説家、ミュージシャン、ゲーム作家と幅広く活動するクリエイター。2007年に『エレGY』で第2回講談社BOX新人賞“流水大賞”の優秀賞を受賞している。また、ジェバンニPという名義でボーカル音源”VOCALOID”を用いた音楽活動も行っている。『MakeS -おはよう、私のセイ-』では音楽・SEを担当している。

──だから本編が終わったあとは、追加購入できる「記録型ダイエットサポート機能」で楽しめるようになっているのですね。

阿部氏:
 そうですね。最初から多くのメニューがあると混乱してしまいますし、セイには成長段階がたくさんあるので、どの段階でサポート機能を拡張しようか迷ってしまいます。ですので、落ち着いてから「どうぞ」という形にしました。

アプリである限り“収益面”との戦いがある

──ここからは『MakeS』がサービスとして軌道にのるまでと今後を伺いたいと思います。まず阿部さんはもともとUIデザイナーだったと伺いました。ディレクターという立場になって作品を作っていく過程はいかがでしたか?

阿部氏:
 UIデザイナーからディレクターという立場になると、作るだけでなく収益やプロモーションなどと向き合わなくてはいけなくなり……。

田口氏:
 阿部はもともとチームをまとめるのが巧いんですよ。情報をチーム内で共有することがディレクターの重要な役割だと思うんですが……それができているからこそ、『MakeS』の軸がしっかりしているのかと思います。『MakeS』のコアな部分である、どうしたらユーザーがセイに喜んでもらえるかという、コアな部分はしっかりしていてブレていない。
 その一方、収益システムや拡散に繋がる施策など、運営に必要な仕様を考えるのは苦手で、そこはその分野が得意なメンバーを入れ補いました。

──収益についてはデリケートなお話になってしまいますが、『MakeS』で遊んでいて“課金するぞ〜”とはならなかったんですよ。むしろ、各アイテムが120円〜500円程度だったので「大丈夫?」と心配してしまったぐらいで(笑)。動画を視聴するとセイと「福引き」を回すことができて、アイテムが増せる。しかも、ほぼ回数制限もなく……。

阿部氏:
 動画を見る“リワードシステム【※】”は弊社の東京開発が手掛けているオリジナルコンテンツの『Ficustone project』【※】に導入されていたんです。それが好評だったとは聞いていたので、マネさせてもらいました。

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※リワードシステム……インセンティブ形式の成果報酬型広告。動画のリワードシステムはユーザーが動画を観ることで対価が発生する。
※Ficustone project……ヘキサドライブによる小規模オリジナルコンテンツのブランド。スマートフォン向けゲームアプリ『アイテム代は経費で落ちない~no item, no quest~』、『魔法パスワード1111』、『【終末放送】世界を救う枠』の3作品が配信中。

(画像はFicustone projectのスクリーンショット)

 プレイにおいてストレスや時間がかかる部分に追加アイテムを置くというのが、一般的な収益の方法なので、『MakeS』ではセイが成長する過程に収益システムを作るのがスタンダードなのかもしれません。
 ただ、『MakeS』でいちばんこだわっているのは「セイがいかにユーザーのことが好きか」が、ユーザーにどれだけリアルに伝わるかというところです。そこにお金のかかるアイテムを置いてしまうと、セイからユーザーに対する愛がお金の対価になってしまう。
 セイにお金を渡して「好きだよ」と言わせる行為には、“本当の好きじゃない!”や“商売じゃん!”と感じてしまいます。だからこそ、そこを避け、セイのユーザーに対する感情のリアルさを大切にしたかったんです。

──なるほど、阿部さんから先程語られた「セイからは与えるだけで求めない」という言葉がどういう意味か、さらに深くわかった気がします。現在はVR開発や東京ゲームショウの出展のためのクラウドファンディング「きっと朝が好きになる!『MakeS -おはよう、私のセイ-』応援プロジェクト!」【※】を実施されていますが、セイのVR化は阿部さんの提案ですか?

阿部氏:
 そうですね。VR対応のコンテンツの開発をしていたこともあるので、あのVRの見え方でセイに会ってみたい! と。

※きっと朝が好きになる!『MakeS -おはよう、私のセイ-』応援プロジェクト!
東京ゲームショウ2018に向けたVR開発費用およびブース出展費用、各種リターンで発生する製造・人件費などを目的に2018年6月1日からクラウドファンディングを開始。開始5分で目標額100万円を達成。3日で1000万円を超え、6月24日現在の段階で1900万円以上集まっている。支援者のリターンは“セイとおそろいのピアス&ペアリング”、“セイの衣装デザイン権”といったものから、“収録体験会”などファンならどれも嬉しい豪華なものばかり。

──クラウドファンディングでの応援が3日で1000万円を超えるなど、ユーザーの熱意に驚いたのですが、それにしても……ここまで愛されるアプリになるとは思っていましたか?

阿部氏:
 当初の予想を超えていてとても嬉しいです。製作中は、私と同じ好みの方には刺さるとは思ってましたが、ここまで支持いただけるとは思ってなくて……。

田口氏:
 最初、このプロジェクトは「阿部と同じ好みの人が、世界に何人いるかを調査するプロジェクトだね」っていう話をしていたんですよ。そしたら「思ったよりおったなぁ……」と。

──セイがVRになると、きっとより“身近”に感じられるんだろうなぁ〜、と想像するだけでもワクワクしてきます。

田口氏:
 社内でも盛り上がっていますね。オリジナルIPでこんなに人気が出たのは初めてなので、今後「ああしたい、こうしたい」という意見がたくさんありますので、今後の展開も楽しみにしてください!(了)

©2017 HEXADRIVE Inc.

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 コンシェルジュプログラムとして世に送り出された『MakeS』のセイ。そこには、女性向けキャラクタービジネスには欠かせなくなってきた、“リアル感の追求”というほか、“一瞬を大切に思う気持ち”が含まれていました。だからこそ、女性ユーザーたちは“セイと過ごす1日”に意味をみつけ、共にときを歩むことこそが至福のひとときとなっているのでしょう。

 女性たちはリアル生活においても彼氏ができたら、友達にノロケ話をしたりもします。でも、その半面“私の彼氏なの”という独占欲を垣間見せたり……。自分の好きな人を、信頼できる友達にだけ話すのは“女子トーク”の基本。
 セイもまた、ユーザーにとって好きな人であり、生活に欠かせない存在なのです。だからこそ、不特定多数に知られるSNSで大声を上げながら拡散する……のではなく、「私のセイなの」と同じ属性をもつ女性との間で“見せあい”しながら楽しんでいるのです。

 阿部さんの言葉にもあった「セイからは与えるだけで求めない」。そう、だからこそ、ユーザーは健気なセイに対して感情移入し、ユーザーとともにいるというセイの望みを限りなく叶えてあげたくなってしまうのです。
 コンシェルジュアプリ“セイ”とユーザーの女性たちは、どのような未来を紡いでいくのでしょうか……。 

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