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『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】

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『SINoALICE CoNCERT』のセカイ

──では4人の関係性が明らかになったところで、音楽についての話を教えてください。もともと『シノアリス』特有のダークな音楽性はどのようなイメージから生まれたものだったのでしょうか。
 当初、岡部さんは『シノアリス』の音楽について「枯れた感じの音」という表現をされていましたよね。

岡部氏:
 そうでしたね。ローンチのときに作っていたときの何曲かが、箱庭っぽい小さな編成の絵本っぽいイメージだったんです。古くて時代を感じさせる質感の音を表現できたらいいなと思っていて、枯れた雰囲気のバイオリンを録らせてもらっていました。

 ただ、曲が増えていくうちに、最初とは全然違うコンセプトの曲も作るようになって。だから「枯れた感じ」というのは、最初の一部だったですが、今回のコンサートではそういう雰囲気も汲んでいただいています。

──白須さんは『シノアリス』の音楽を聴いたとき、どんな印象を持ちましたか?

白須氏:
 僕は前々から岡部さんの音楽が好きだったんです。『ニーア レプリカント』もめちゃくちゃプレイしていましたし、大好きだったんですよ。

岡部氏:
 ああ、ありがとうございます。

ヨコオ氏:
 その音楽を作らせたのは、俺です。

一同:
 (笑)。

──では岡部さんの音楽性を知っていたこともあって、アレンジは施しやすかったり?

白須氏:
 いやぁ……。難しかったです。アレンジをするなかで、メンタルとの戦いでした。どーんと響いてくる曲が多いので……。

 個人的な話なんですけど、僕は新婚で子どもも産まれ……プライベートが充実しているんです。ところが、『シノアリス』の音楽を四六時中ずっと聴くことになって、どんどん暗い気持ちになっていって……。希望や救いのある和音が全然出てこないんです。「あれ、僕、幸せになっちゃいけないのかな?」って。

岡部氏:
 確かに(笑)。白須さんがおっしゃっていたように、『シノアリス』って暗くてどろーんとした音楽が多いんです。白須さんには、かなりご苦労をかけてしまったんだろうなと……(苦笑)。唯一メジャーコードが出てくる曲があって「それがフックになる!」と白須さんが力強くおっしゃっていて(笑)。

『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_016

アオキ氏:
 それ僕にも言ってましたよ、3回くらい!(笑)

白須氏:
 言いました(笑)。だって……メジャーコードが出てくるのはコンサートだと10曲目の「焚殺ノ饗宴」ですよ。もう、唯一の希望です(笑)。

──唯一の希望(笑)。先ほど「メンタルとの戦い」とおっしゃっていましたが、そんななかで白須さんはどんなアレンジを施したいと思っていましたか?

白須氏:
 アオキさんから、雲の上で「コンサートがあるか、ないかわからない」というお話は聞いていたので(笑)、原曲の雰囲気はあまり変えないほうがいいんだろうなと考えていました。
 ただ、1分前後の原曲を、コンサートで演奏するためにはボリュームを出すために3分〜4分ぐらいにしなければいけなくて……。そのアレンジをどうしようという戦いがありました。

アオキ氏:
 原曲だと、ワンシーケンスを繰り返してるだけっていう曲もあるしね。ゲームのバトルもののBGMってそれくらいに収めるものですから。

岡部氏:
 曲を3分に伸ばしていただくというのは、かなり大変で。でも付け加えてくださった音は、原曲の雰囲気を大事にしてくださりつつの、新しい要素を加えてくださって、すごくステキな曲に仕上げていただきました。

──たとえば「精霊ノ迷路」「精霊ノ末路」はサントラだと1分前後の曲でしたが、ボリュームのある構成になっていて。特に「精霊ノ末路」は、エレキギターのメタリックなソロがフックになっていて、カッコよかったです。

白須氏:
 原曲でも弾かれているギターの後藤さんの力を借りようと思って、エレキギターを入れてみたんです。そしたら、室内管弦の音とピッタリ合ってビックリしました。

岡部氏:
 面白いですよね。スケール感のあるサウンドに、現実篇【※】のようなギターが入ってくるのがすごく面白いなと。ミクスチャー的な要素をふんだんに入れていただきました。
 後藤さんはメタルっぽい音楽も好きな方で、『ニーア』『ドラッグオンドラグーン3』のボス戦の曲でもお世話になっているんです。今回のコンサートでは少しハード目な要素を担当してもらっています。

※現実篇
『シノアリス』に2017年12月に追加されたシナリオ。ヨコオ氏が書き下ろしたシナリオと童話の少女たちの現実の世界をモチーフにした衣装を楽しめる。アリスの制服姿などが話題を呼んだ。音楽面においては、エレキギターが入り、ロックな要素が加わった。

──室内楽器が中心のコンサートにエレキギターが入ることは珍しいことだと思うんですが“ギターが入る”ことの意味は何になるのでしょうか?

白須氏:
 ストリングスやオーケストラにエレキギター入るのは珍しいですよね。しかも後藤さんは『シノアリス』の世界観を熟知されている方なので、今回のコンサートで本当に大きな存在だなと思っています。あと……「ニアコン」はフルオーケストラだったじゃないですか。「ニアコン」にいらした方が『シノアリス』のコンサートにいらっしゃったときに、「小規模になったな」と思わないか心配していたところもあったんです。でも後藤さんのおかげでオリジナリティを出すことができたなと思っています。

 ただ、コンサートは長いですし、もう少しフックとなる要素を入れたほうがいいのかな、どうしようかなと思っていたときに、アオキさんから映像が届いて「めっちゃカッコいい!」となり、映像にすごく助けられました。

アオキ氏:
 とんでもない! 恐れ入ります。

白須氏:
 嬉しかったです。話が少し逸れてしまうのですが……僕はアオキさんとお話できることが嬉しかったんですよ。現場ではアオキさんだけが音楽の話ができる人で。「やっと音楽の話ができた!」と。

アオキ氏:
 えっ、そういうことだったんだ!(笑)。

 話していると白須さんがすごく喜んでくれて。たとえば「ここはグロッケン【※】だけになりますけれど、どうでしょう?」「グロッケン、良いですね!」「頑張ります!」……といったやりとりをしていたんですけど、白須さんがすごく嬉しそうな表情をするんですよ。
 僕としては、好きにして良いんじゃないかな? って思っていたんですけど(笑)。

『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_017
※グロッケン…グロッケンシュピール。金属製の音板を持つ鍵盤打楽器で、鉄琴の一種。

白須氏:
 いや、もう話したくて仕方なかったんです!

アオキ氏:
 その顔を見ていて、「この人、いま寂しいんだ」って……。

ヨコオ氏:
 もしくは「苦しい」。

白須氏:
 そうなんです。誰も褒めてくれなくて……。

ヨコオ氏:
 岡部さん、そこは褒めないと!

岡部氏:
 いやいや! 褒めてましたよ!(笑)。ただ「いい感じです」とは伝えていたんですが、僕はデモを確認するだけだったので、アオキさんのほうがやり取りされていたんじゃないかな。

アオキ氏:
 そうですね。というか、白須さんは、すごくビビってたんですよ。白須さんとしては「業界の“あの”ヨコオタロウ」というイメージがあるんでしょうね。ふたりで話しているとき、「1曲だけどうしても入れられない楽器がある」と深刻な表情をされていて。

 「しかもその楽器がメインフレーズを弾いているんです! どうしましょう、アオキさん!」……って悩んでいらしたんですが、それがパイプオルガン【※】だったんですよ。入るわけないじゃないですか(笑)。
 「パイプオルガンないんですけど、大丈夫でしょうか~!?」って。「それはさすがに怒られないと思います!」と(笑)。

『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_018
※パイプオルガン…鍵盤の楽器のひとつ。音階状に配列した大小さまざまなパイプに送風して音を発する。大型のものは一万本を超すパイプを備える。教会堂やホールなどに設置されていることはあるが、持ち込みは不可能だと思われる。今回のコンサート曲では「無為ナ末路」でパイプオルガンが使われていたが、コンサートではハープで演奏した。

ヨコオ氏:
 もちろん怒りません。僕は基本的に岡部さん以外に怒らないんです。

岡部氏:
 ちょっと(笑)。

ヨコオ氏:
 (笑)。僕は調子に乗っている偉い人だけ怒るんです。頑張っている人には、もちろん怒りません。

岡部氏:
 俺、頑張っているし、偉くないし~。もぉ〜、なんかそういうキャラになってる……。

──ところで、パイブオルガンの件はその後どうなったんでしょう?

白須氏:
 岡部さんに相談したところ「全然なくていいですよ!」って言われて。

岡部氏:
 はい。楽器を増やしていただいたこともあったし、ストリングスも4型【※】編成ですし、パイプオルガンがなくてもスケール感は問題なく出ると思います、とそれに置き換えていくことで、コンサートならではのオリジナリティも出るんじゃないかなと思ったんですよね。

 違いが出ることがダメなんじゃなくて、違う雰囲気になってしまうことがNGというお話なだけなんで……というお話をさせてもらいました。でも、気にされるお気持ちもわかりますよ。パイプオルガンって、キャラ立ちしてますもんね。

※4型
 ストリングス編成の規模のこと。1stバイオリンの人数によって数字が変わる。

アオキ氏:
 強烈ですもんね。パイプオルガンが流れてきた瞬間に、一気に「お!」って引かれますもん。

岡部氏:
 そうそうそう。でもコンサートならではのよさが出るようなアレンジを施していただきました。

──岡部さんから白須さんに対して「ここはこういう楽器にして欲しい」といったリクエストはあったのでしょうか?

岡部氏:
 なかったです。僕は監修に近い感じです。白須さんは原曲を理解してくださっているので、「原曲はこうなっていますけど、こういうアレンジにして大丈夫ですか」と気を遣ってくれていて。
 しかも、そうやってご相談していただいたことがすごくステキなアレンジだったから、「バッチリです」としかほぼ言ってない(笑)。だから、僕からお願いすることって、ほとんどなかったんです。

『シノアリス』音楽に欠かせない“コーラスワーク” 

──もう少し音楽のお話を聞かせてください。『シノアリス』の音楽といえば、造語によるコーラスワークが印象的ですが、コンサートでは男女それぞれ2名とのことですが……。

岡部氏:
 それぞれのパートにひとりずつで、四声【※】です。

※四声…
男女混声合唱のこと。混声合唱は通常、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4つのパート(女声2部、男声2部)で構成されている。今回のコンサートでは、ソプラノを紗夜氏、アルトをますだみき氏、 テノールを三木佑真氏、 バスを天野翔氏が担当した。

白須氏:
 本当はもっと欲しかったのですが、ステージに乗らないので。

岡部氏:
 リハで聴く前は、各1人ずつだと迫力に不安があったのですが、コーラスの皆さんの技量が素晴らして、ソロでできるレベルのものでハーモニーを作っていただいているので、とてもステキなコーラスに仕上がりました。

白須氏:
 そうですね。もともとコーラスの人たちが『シノアリス』ファンなんですよ。

一同:
 へぇ~!

白須氏:
 だから岡部さんの曲についても詳しかったんです。まあ僕とコーラスとでバトルはあったんですけど……。

ヨコオ氏:
 そうだったんですか?

──いったいどんなバトルが勃発されていたんでしょうか?

白須氏:
 『シノアリス』の音楽が好きだからこそ、「原曲はこういう表現だから、もっとこういう解釈なんじゃないかとか」とかそういうやりとりがあったりして……。

ヨコオ氏:
 そういうときは殴っていうことを聞かせるんですか?

白須氏:
 そうですね。

一同:
 えーっ!!!!! 即答(笑)。

ヨコオ氏:
 怖い!!!(笑)

アオキ氏:
 そのキャラで殴っていたらめちゃくちゃ引きますよ!

白須氏:
 ……というのは、もちろん冗談です(笑)。コーラスの人たちとは話し合って、お互いのこだわりを押し付け合いつつ、うまい具合に調和していきました。

岡部氏:
 本当にすごくいい形にしていただきました。アレンジの具体的なお話をさせていただきたいのですが、いいですか?

──ぜひ教えてほしいです。

岡部氏:
 『シノアリス』の原曲の場合は、コーラスはコーラスでフレーズ感を聴かせる、ストリングスはストリングスでは別のフレーズを聴かせる……と、それぞれのパートのフレーズを独立させることを基本にしていたんです。

 今回のコンサートは原曲よりもコーラスの人数が減ってはいるのですが、少人数ならではのソロっぽさがあっていいなと。しかも、大きく聴かせたい場面では、コーラスとストリングスのフレーズを重ねて編成感を出すという、テクニカルな演出を白須さんが施してくれていて。人数が減ったことによるデメリットをアレンジでカバーしていただいている感じがしましたね。

白須氏:
 ありがとうございます。

──なるほど。フレーズを重ねることで、厚みのある楽曲になったんですね。ちなみに、他のパートの方ともバトルされたのでしょうか……?

白須氏:
 基本的にはないです。ストリングスは僕の言うことを聞いてくれるので……。

一同:
 (笑)。

ヨコオ氏:
 いいっすねぇ! それ言っちゃうんだ(笑)。

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(画像はSINoALICE concert(シノアリスコンサート)公式サイトより)

白須氏:
 僕は現場で“怖い人”ではないんです。こういう現場って、なかには怖い人もいるんですよ。そういうこともあって、チェロ、ビオラ……それぞれのパートの人がけっこう気軽に相談してくれるんです。すごくありがたいなと思っています。小編成ではありますけれど、いいメンバーが揃えられたなと。

岡部氏:
 確かに皆さん穏やかですよね。ちょっとピリつく現場ってあるじゃないですか(笑)。そういうことがなくて。

白須氏:
 とはいえ『シノアリス』ならではのダークな深さを追求したいなと作り上げていきました!

ヨコオ氏:
 ……というか、話を聞いていて思ったんですけど、そんなに白須さんに技量があるのなら、俺、次回から岡部さんじゃなくて、白須さんに曲を発注するほうがよくない?

岡部氏:
 ちょっと!それは僕と白須さんの持ってる良さって別なんですよ。そんなふたりが合わさることによってぇぇ……!

ヨコオ氏:
 急に声がデカくなった(爆笑)。

ギシンとアンキの愉快な会話に苦しむことに……当日配布された「クソ武器」の裏話

──コンサートでは「映像」も流れるとかのこと、アオキさんが手掛けられた映像についても詳しく教えてください。映像に関してヨコオさんはどんな関わり方をされたのでしょうか?

ヨコオ氏:
 今回、僕はコンセプトだけ渡す形だったんです。あとはアオキさんにふくらませてもらいました。

 前回の『ニーア』のコンサートのときは、僕が映像の細かい構成やディテールの指示を出して、アオキさんに制作やディレクションをしてもらう……という形だったのですけど、構成案を渡すのが遅れてしまって。それでアオキさんに迷惑をかけてしまったんです。
 だから今回は早く渡しました。つまり、今回アオキさんが苦しんでいるのは、アオキさんの自業自得だな……! と一安心しているところです。

一同:
 (笑)

アオキ氏:
 うーん、確かにヨコオさんのせいでは……ない(笑)。ヨコオさんが早めに構成案を出してくれたのは事実なんです。ただそのあとが大変だったなあ……。

 なんでこんなに大変かというと、前回はヨコオさんがまず大枠を作り、その後ディテールは僕が仕上げるって感じの共同作業だったんですよね。今回は大部分を僕ひとりでやっていたからなあ。時間がかかっちゃいましたね。

『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_020

アオキ氏:
 当然、客層は『シノアリス』をよくご存知なユーザーさん達です。普段、小さいスマホの画面で何度もシノアリスのキャラクターや世界観を見続けている方々なので、そこは変に奇を衒わず、大きな画面や生のサウンドで再度、『シノアリス』を体験し直してもらうのが良いのかなって思いました。

 皆さん、ご存知なわけですが、改めて世界観説明からちゃんとはじめて、それぞれの登場人物をもう一回丁寧に見せて。『シノアリス』ってこういうストーリーだったなあ、と思い返してもらいつつ、 さらに、最後は今後の展開が楽しみになるような内容を入れました。『シノアリス』全体をもう一度見直してもらえる場にできたらなというのが、本編の試みです。だから、正直そこは順当に作れると思っていたし、自信あったんです。それよりも……。

──それよりも!?

アオキ氏:
  制作も佳境になってヨコオさんからコンサートのサブタイトル「~ギシンとアンキの愉快な音楽祭~」が出てきたんですよ。
 ……「聞いてない!」って。愉快な要素とか全然入れてない、と! 悪〜い顔したヨコオさんに「愉快な音楽祭だって、アオキさん!」って言われて(笑)。急遽慌てて、ギシンとアンキがあんな大暴れする内容になっていったんですよ。

ヨコオ氏:
 ギシンとアンキは、いわゆるコンサートのナビゲーターです。

アオキ氏:
 そうです。ギシンとアンキが『シノアリス』の世界を案内しつつも、脱線して、「これって愉快なの?」と思うようなお話になっていく……というシナリオを作ったんです。それをヨコオさんに見ていただいたところ……。

ヨコオ氏:
 揉めて(笑)。どうやってもすんなり進まない。

──またもや(笑)。というか、ギシンとアンキの会話は「小話」には収まりきらない量だなと思ったんですが……。

アオキ氏:
 そうなんですよ! 会話が多いんですよね。もう「やらなきゃよかった~!」と思っていて(笑)。

──音楽を映像とともに楽しむことができる、思い出を追体験できる……というのは、ゲームコンサートならではの醍醐味だと思いますが、アオキさんとしては、そのあたりはどうお考えですか?

アオキ氏:
 悩ましいところですね。映像を頑張りすぎてしまうと、コンサート中にそっちに目がいってしまいがちになって、音楽がBGMになってしまうんじゃないか……という懸念があって。

 「ニアコン」はフルオーケストラだったので、情報量の多い音楽が流れるわけじゃないですか。公演後に、ヨコオさんと「映像の情報量はもっと削っても良かったかもしれないね」という話をしていたくらいです。

ヨコオ氏:
 オーケストラが主役で、映像は脇役だから、映像は控えめにしよう、と。だから、コンサートでゲーム映像を使わない方向にしたんです。雰囲気を出すようなパーティクル【※】や文字で適当に飾ろうと思ったんですけど、文字が出ると目がいっちゃって。文字の引力が思ったより強いなとあと反省したんです。でも、今回も文字を出していて。

※パーティクル
コンピューターグラフィックの技術のひとつ。自然界に存在する複雑で不規則な形状をしている火、煙、雲、霧、草、髪などを表現するために使われる。

アオキ氏:
 逆に、出しました。夜中に作業しているときに、白須さんから電波が届いたんです。「映像の情報量を増やしてくれ……」と。

白須氏:
 届いていましたか! 出してたんですよ!

一同:
 (笑)。

アオキ氏:
  バトルのBGMとかはリピートが多いので、そういうところは文字を加えて読ませる内容にしたり。逆に後藤先生がギターソロを弾くときは映像を抑え気味にしたり……特に打ち合わせはしていないのですけど、曲に合わせて、そういう足し引きをしていきましたね。

 ほかにも、会場に来た方だけに楽しめるものが欲しいと思って、今も場内アナウンス原稿を作りはじめてまして……。ポケラボの前田さん(前田翔悟氏【※】)が「なんでも読みますよ」とおっしゃってくれていたので、めちゃくちゃな文章を読んでいただこうかなと……。

 そうやってちょっとした遊びを加えては「やらなきゃよかった」「やらなきゃよかった」と思う日々を過ごしていました。

※前田翔悟
日立システムズで、エンジニアとプロジェクトマネージャーを経験後、2012年より株式会社ポケラボに入社。複数タイトルのプロデューサーを経て、『シノアリス』をプロデューサーとして立ち上げる。今回のコンサートでは前説・後説の他、ステージにも登壇。ファンに大きな拍手で迎えられた。

──このインタビューは本番2日前にさせていただいているので、記事が配信されているころにはコンサートは終わっているのですが、開催までの道のりで、そこまで身を削っているということは、「やらなきゃよかった」という気持ちよりも 「来ていただいた方にコンサートを楽しんでもらいたい」というサービス精神が勝っているということですよね。

アオキ氏:
 う~ん……そう言えば格好はいいですけど、ちょっと手を抜くと右にいる人(ヨコオ氏)が怒るんです。怒るというか「本当にそれでアオキさんはいいの?」「アオキさんが良いと思っているならいいけどさぁ」って言いかたをしてくるんですよね……。

ヨコオ氏:
 そうそう、そういう言い方しますね! 「アオキさんが良いと思うなら、僕はいいんですよ?」って。

アオキ氏:
 そういう嫌な圧のかけ方をしてくるんですよ……(苦笑)。

『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_021

ヨコオ氏:
 アオキさんとも話していたのですけど……『ニーア』の場合はそもそもストーリーが大きくて、その思い出を振り返るという構成だったんです。コンサートの曲と映像で「ああいうこともあったね」なんて思い出を追体験していく感じだったんです。

 一方、『シノアリス』は現在進行形のゲームですし、ゲームの本質がGvG【※】のバトルの部分なので、それを邪魔しないようにストーリーは軽めにできているんです。だからストーリーを追体験することはしにくい。そこをアオキさんが無理やり雰囲気を作って。「コンサートではこういう体験ができます」というデザインが必要だったんですよね。

※GvG
ギルド・バーサス・ギルドの略。プレイヤーの集団と集団が戦うシステムのこと。『シノアリス』では特定の時間に「コロシアム」もしくは「グランコロシアム」が開催されている。ちなみにコンサート1日目はグランコロシアムの最終日であった。

アオキ氏:
 そうですね。せっかくだからインタラクティブとまではいかないけど、現場にいるお客さんたちの掛け合いというか……その場にいる人だけが味わえる臨場感は用意できたらなと思っています。

 ギシンとアンキが「今回のコンサートのための特別なガチャを用意しました」ということで、ガチャを引くんですけど……引いても引いてもクソ武器【※】しか出ない。そのクソ武器が実際のゲーム内にプレゼントボックスに入っている……という仕掛けを用意しましたが……とても大変でした(笑)。

一同:
 (笑)。

ヨコオ氏:
 これまでアオキさんって、僕のお題に対して小器用にまとめて「ああ、そうだよね」って納得できるようなものを作る方だったんですけど、今回のコンサートに関しては自分からいろいろな案を出してくれていて。「アオキさん、ここまでやるんだ」という驚きがありました。いちばん印象的だったのが、ギシンとアンキがお客様に「拍手―!」というときに、拍手の音を計測する拍手メーターが出てくるんです。

 ネタバレですが、あの拍手メーターは映像で作っているものなので実際はリアルタイムのものではなかったんですね。つまり、拍手が鳴らなくても、メータ―が動いてしまう仕掛けだったんです。
 だから「アオキさん、これ拍手一切鳴らなかったら寒いことになるけど、どうするんですか」と話をしたら、アオキさんが「自ら率先して会場内で拍手をする」というところまでが、ディレクションだと。

一同:
 (笑)

アオキ氏:
 会場で率先して拍手をし、お客様を誘発するところまで、俺のタスクリストに入れてくれていいです!と(笑)。

ヨコオ氏:
 そこが僕、いちばんすごいなと思ったところです。

アオキ氏:
 えええ、そこ!? 俺としてはクソ武器のほうが大変でしたよ(笑)。配布できる限界の量をポケラボさんに相談したり、ウェポンストーリー【※】を作ったり……。

※ウェポンストーリー……『ニーア』『ドラッグオンドラグーン』にも搭載されている武器の物語のこと。それぞれの武器ごとに付随していて、レベルごとに開放される。ちなみにクソ武器のウェポンストーリーは、「クソ武器列伝」なるものが展開されていた。気になる方はぜひ強化&進化を……。

 みんな捨てる武器なんですよ。しかも強化しないとウェポンストーリーは見られないし、強化してもクソのままなんですよ。「誰も読まないだろうな」と思いつつ、そのウェポンストーリーを夜中に書いて(笑)。そんなことをしました……。

ヨコオ氏:
 でもほら、このインタビューは本番2日前だけど、記事が出る頃には、コンサートは終わってるから(笑)。

アオキ氏:
 確かに! クソ武器……すごく頑張ったから楽しんでもらえていたら嬉しいなぁ〜。

一同:
 (笑)。

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コンサート会場に設置されていたキャラクターパネル(右)と、ギシンとアンキのぬいぐるみ(左)

 本文中でも触れているが、アオキ氏渾身の「クソ武器」は、コンサート終了毎に実際に大量に配布され、大きな話題を呼んだ(事情を知らないプレイヤーはプレゼントボックスが溢れていてさぞ驚いたことだろう)。

 ちなみに、インタビュー後、アオキ氏に「クソ武器、強化させます!」と伝えたところ、「いや、クソ武器っすよ? やめたほうがいいっすよ!」と全力で止められた。そう言いつつも、力を惜しまずウェポンストーリーを書き切った男気に拍手を送りたい。

 コンサートというものは、観客にとって長い人生で見ればほんの一瞬の出来事にすぎない。だが、その一瞬が一生心に残ることもあれば、それがキッカケで人生が変わることもある。関わった4人は、その一瞬を“特別”にするために、それぞれが意見を曲げず主義主張を貫いた。そう、ここにあったのは“最悪の物語”ではなく、 “最高の物語”だったのだ。インタビュー中、ヨコオ氏と岡部氏のやりとりに笑いながらも、真摯な姿勢を感じる言葉に胸が熱くなった。

 コンサート当日は、ゲームの思い出を反芻しながらも、ゲーム内だけでは感じることのできない音の厚みに圧倒させられた(何度鳥肌が立ったことか!)。また、白須さんの貴公子のような佇まいにも心を奪われた。今回は「グランコロシアム」開催と被ったなどの理由で来られなかったプレイヤーもいるはずなので、またぜひ開催して欲しい……!

【ニコニコ生放送にてコンサート番組視聴】



【昼・夜 通しチケット】 2,000ニコニコポイント(税込 2,000円)
【昼公演のみ】1,500ニコニコポイント(税込 1,500円)
チケット販売期間:2018年12月31日(月)23時59分まで

 

【プレゼントのお知らせ】

 『SINoALICE ConCERT 〜ギシンとアンキの愉快な音楽祭〜』特製クリアファイルを5名様にプレゼント!
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インタビュー・著者
『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_028
逆井マリ
音楽ライターとして数多くの雑誌で活動中。パンクからアニソンまで、ジャンルを問わずこよなく愛している。アニメ、ゲームにも造詣が深く、現在はPC版「クロノ・トリガー」をプレイ中。
構成
『シノアリス』の音楽には“希望や救いのある和音“がまったくない!?コンサートだからこそ表現できる世界とは【ヨコオタロウ×岡部啓一×アオキタクト×白須今 座談会】_029
かなぺん
コスプレ雑誌の編集部を経て、電ファミ初の女性スタッフとなった編集者。乙女ゲームと育成ゲームをこよなく愛し、BLゲームを嗜んでいる。2.5次元舞台の観劇とコスプレ撮影が趣味。アニメに影響されフィギュアスケートを習っている。
 

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