今VR空間で何が起こっているのか──バーチャルに住む人々が想像する未来とアバター即売会「バーチャルマーケット」という可能性

 VRChat最大の──いや、おそらく世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット3」(以下、Vケット3)が9月21日~25日まで開催される。

 そもそも「バーチャルマーケット」(以下、Vケット)は2018年にスタートした、VR SNS・VRChatで開催されている3Dアバターや3Dモデルなどの展示即売会で、第一回目は数千人規模のイベントだったが、第二回目には約12万人が来場し、企業・個人を含めた429サークルが参加した。

8月26日に実施された最初のバーチャルマーケット

 ご存知だっただろうか? VR SNSという場に、3D技術を身に着けたクリエイターによるサークルが400以上も集まり、そこに12万人以上が参加していたことを。

 バーチャル空間ではいま、そんなことが起こっているのだ。しかも日本のコミュニティが中心となっているのだから、なお驚きだ。

 そして「Vケット3」の規模は、前回を遥かに上回るものになるだろう。まず参加サークル数は600となり、コミケで言うところのホールは全部で15に。

 現代・現実をイメージした“もう一つの渋谷”「ネオ渋谷」や、巨大ロボット展示の縦穴工場「仮想工廠」、魔法と知識の城郭「Castello Magica」など、SFからファンタジーまで幅広い会場(VRChatではworldと呼ぶ)が用意されている。

画像はTwitter:動く城のフィオ@Virtual_Marketより

 また「Vケット3」は、worldに行くまでの導入の部分も素晴らしい。来場者はまず地下鉄の車内にワープし、下車後改札を潜ると、頭上には「↑ 北口 バーチャルマーケット3」と書かれた案内板があり、そのまま直進していくと、これまではリアルな地下鉄の駅だった風景が、非現実の風景に代わっていき、SF作品で見たような世界──エントランスに到着する。
 来場者は、そこから各ホールに行くという設計になっており、バーチャル空間への没入を大事にしていることが伺える。

 つまり「バーチャルマーケット」はただの即売会ではなく、我々が夢見た『レディ・プレイヤー1』『ソードアート・オンライン』のような世界を今ある技術で具現化しようとしているのだ。言い換えれば、“分かっているヤツ”が作っている、ということだ。

 コンテンツの量も膨大で、パナソニックやセブン&アイ・ホールディングス(セブン-イレブン)といった大企業もスポンサードし、バーチャルならではの体験に一役買っている。
 例えば、セブン-イレブンの店舗がバーチャル出店していたり、「ネオ渋谷」の至る所に設置されているパナソニック製(という設定)の街頭モニターを一斉にジャックしたりできるのだ。

 このほかにも、アパレルショップの大手「WEGO」の実店舗・渋谷109店と「バーチャルマーケット3」上の「WEGO」仮想店舗とがリンクしたり、スタンプラリーならぬアバターラリーの実施や、記録されたものを再生する形で演技の閲覧も行うことができる。

左から水菜氏、動く城のフィオ氏、一翔剣さん

 といった感じで「Vケット3」は一体どこから語ればいいのか分からなくなってしまうほど多角的な見方ができるのだが、今回は「Vケット」の理念的な部分を探るべく、ニッポン放送吉田ルーム所属のバーチャルアナウンサー・一翔剣さんに聞き手を依頼し、VR法人HIKKY所属で「Vケット」の主催者である動く城のフィオ氏と、副主催者である水菜氏に話を伺った。

聞き手/一翔剣
文・編集/クリモトコウダイ
画像提供:VR法人HIKKY/バーチャルマーケット3

「バーチャルマーケット3」の圧倒的物量

動く城のフィオ:
 インタビューの前に、まずはいくつかのworldを案内しますね。この会場のコンセプトは「アナザーリアリティ」で、もう一つの現実。ここにあるのは渋谷ではなく「ネオ渋谷」です。そしてあれがハチ公です。だいぶ大きいですけどね(笑)。

一翔:
 ほんとだ! 大きい(笑)。

動く城のフィオ:
 その周りはスクランブル交差点をイメージしていて、こっちはセブン-イレブンです。全ての会場にセブン-イレブンが出店しているんですよ。

一翔:
 セブン-イレブンのオブジェクト数すげぇ! これは大変ですね(笑)。

動く城のフィオ:
 セブン-イレブンさんは品ぞろえを重視されていて、「つめっつめにしてくれ!」と言われたので、ぎゅうぎゅう詰めにしました(笑)。一つ一つ買って、撮影して、全部食べましたけど、やっぱり美味しいですね。

一翔:
 『イノセンス』という2004年の押井守監督の作品があるんですけど、あれの最大のスペクタクルのひとつがコンビニでの格闘シーンなんですよ。で、あの時代の3Dかつあのオブジェクト数で撮るのが凄く大変という話を伺ったことがあるんですが、そのシーンを彷彿とさせますね。

動く城のフィオ:
 それが今や家庭用VRで描画できてしまうんですよ! 凄い進歩ですよね。

一翔:
 ほんとですよね……ってあ! めぐちゃんだ!!

動く城のフィオ:
 東雲めぐちゃんともコラボをしていまして、今回はセブン-イレブンの店員になっているんですよ。めぐちゃんはVケット1のころから凄くよくしてくれていて。

一翔:
 あ、こっちは『コトダマン』だ!!

動く城のフィオ:
 セブン-イレブンさんは店内で沢山コラボしていて、めぐちゃんの他にも『声優スタンプ』や『コトダマン』など、いろんなものとコラボしています。

一翔:
 こっちは古谷さんだ!!

動く城のフィオ:
 古谷徹さんと島﨑信長さんですね。立ち話をしているのを聞けるんですよ。会話にはいろんな組み合わせがあるのでぜひ全て楽しんでください。

 そしてこちらのブースも面白くて、パナソニックさんが協賛してくださっているんですが、会場内の全てのパナソニックモニターをジャックできるんですよ……こんな感じで。

一翔:
 おおおお!!! ほんとだ!! これ全員に共有されるんですか?

動く城のフィオ:
 同期されていますよ。だからめっちゃ並ぶかもしれないです(笑)。そしてここで撮った写真にハッシュタグをつけてTwitterでつぶやくと、抽選でパナソニック製品が当たるというキャンペーンもやっています。

 そしてここからは一般ブースで、企業ブースを取り囲む形で40ブースが構えています。例えばここはセシルちゃんというVチューバーのブースなんですが、アバターメイキングソフトを作っていまして、そのソフトで作ったアバターが展示されています。

 で、こっちがネオセンター街ですね。行こうと思えば奥まで行けるんですよ。

一翔:
 ここは……フレッシュショップ ビロニスト……?

動く城のフィオ:
 2Fにいるのがビロニストさんで、ここではVRで遊べるお肉やスイカが売っています。2Fにも行けるんですが、2Fにいくと通路に向かって手を振るビロニストさんのケツが(笑)。

一翔:
 うわ! 2Fすごい! これバーチャルでも高いところって意味あるんですね!!見え方が全然違う。

動く城のフィオ:
 皆さんよく2階建てのブースを作ら作られていますね。ブースの範囲が決まっていて、底が4m×4mで高さが5mなんですが、その中でそれぞれが自分のクリエイティブを表現しています。

一翔:
 現実世界のブース出展型のイベントと同じですね。

動く城のフィオ:
 そうですね。さらに現実ではなかなかできない表現もVRだからできるんです。あ、これとかはVチューバーの春日部つくしちゃんと届木ウカちゃんの合同ブースですね。

一翔:
 「ココダケサイタマ」と書かれているパネルがありますね……。

水菜:
 あ、これ持てるんだ! だからネオ渋谷に出店したいと言っていたのか……えっとこれ、パネルごと動かせるんですが、これでどこでも埼玉県にすることができますね(笑)。

一同:
 (爆笑)。

動く城のフィオ:
 春日部つくしちゃんは埼玉県密着型のVチューバーなんですよ。こういう持てるオブジェクトは元に戻さなくても5秒ぐらいで元の位置に戻っていきます。

 そして展示されているアバターの多くは実際に試着することができるんです。

一翔:
 おおお!

動く城のフィオ:
 なかなか太ももが凄い子だな……お尻が大変だ(笑)。 でもカワイイなー。あ、これ5体限定ですね。それで3万5000円は安いのでは?

一翔:
 限定!? そういう世界なんだ……。

動く城のフィオ:
 このようにいろんなものを手に取ったり着たりして見て回れるわけです。

一翔:
 いやすごいなこれ! こ、この物量がずっと続くんですよね!? いや、すごいな……。

水菜:
 こういうのが600ブースあります!

動く城のフィオ:
 ここも凄くて、和遥キナさんのデザイナーをかのはら(がんも)さんが3Dモデルにしたアバターのブースです。キナさんのテイストが忠実に再現されていますね。

 実は今回、VRChatにない機能を沢山実装しているんですが、例えば自分の姿を盛ることができるミラー機能のほかに、カタログ機能もありまして。

一翔:
 カタログ機能ですか?

動く城のフィオ:
 VRChat自体にはアバターを購入する機能がないので、「あのアバター、どこのサークルだったっけ」ということがよくあって。そこで気になったブース内で拡張メニューからカタログのボタンを押すと、裏でwebブラウザが立ち上がり、後からカタログが見れるようにしたんです。

一翔:
 ほんと! 凄い!! あ、そして山手線も走っている!!

水菜:
 では次は「仮想工廠」にいきましょうか。

動く城のフィオ:
 ここのテーマは巨大展示でして、VRChatの中にはメカを作る人が一定数いるんですが、そんな人たちが作る巨大メカを1/1スケールで見たい! というのがコンセプトです。いわばロボットのハンガーですね。

 ここにも40ブースぐらいあるんですが、その各ブースにあるメカを実寸大サイズで見ることができます。モデルは中央の操作パネルを使って切り替えられるんですが、表示されているモデルは他の人とは共有されないので、自分の好きなものをじっくり見ることができます。しかもこれ、リアルタイムに光を当てているんですよ。

一翔:
 バーチャルで1/1ってすごく重要な概念ですよね。

動く城のフィオ:
 おっしゃる通りで。そしてエレベーターを使えば上から見ることもできます。モノによってはすごく身長が高いのもあるんで、そういうのは3Fから見るといいですね。

 他にも中華風のworldや、ファンタジーのお城のworldがあったり、きゃりーぱみゅぱみゅのようなカワイイ系のworldもありますよ。あとケモノ系とか。

一翔:
 沢山あるんですね……。


日本独特?このムーブメントはどのように生まれたのか

──さて、ここからはインタビューは移らせていただければと思います。

一翔:
 まずもの凄く聞きたいのが、このムーブメントといいますか、おそらく世界最大で最先端なものが、なぜ日本のコミュニティから誕生したのかという。だってVRChatって日本のサービスじゃないですよね?

動く城のフィオ:
 VRChatはアメリカのサービスなんですが、そもそもアバターを自分たちで作って、それを販売するムーブメントって、実は日本のガラパゴスな文化なんですよ。

 もともとはどの国のユーザーもVRChat内にあるアバターを使っていたんですね。例えば海外のコミュニティはworldに用意されているアバターを着て、それをお気に入りに入れておく、というのが主流だったりするのですが、日本はちょっと違う。
 2017年末頃から、ねこますさん(バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん)キツネツキさんという方が自作のアバターを無料配布して、そのアバターをちょっと改変して使うという流れができ、2018年春には自作アバターを販売する人が現れ始めたんです。

──そこで誕生したのがVケットであると。

動く城のフィオ:
 ええ。そしてVケットがアバターを作る人と使う人を繋げる出会いの場となり、クリエイターはVR空間でクリエイティブを発信して3Dモデルを販売し、ユーザーはそれを買って自分の個性を組み上げていくというムーブメントが出来上がっていったんです。

 実際、VRChatの本社からも「日本のユーザーは特殊だよね」という話をされたことがあり、「ものすごいアバターを作ってアップロードしまくっているユーザーがたくさんいますね」と。
 そういった経緯もあり、VRChatの社長を含めた運営の方々と直接HIKKYのメンバーがアメリカで話をする機会があったんですが、そこで「いま日本コミュニティではこういうことが起こっていて、Vケットというものがその集大成として年に二回やっているんです」という話をさせていただいて、協力を要請したんです。

 その結果、今回もかなり助けていただいて、Vケット専用の機能をわざわざ作っていただいたりもしました。だから凄く後押しをしてもらっているんですよ。

一翔:
 運営からしてもVRChatを次のステージに進めるための重要な可能性だと認識されているということですね。

動く城のフィオ:
 だと思います。実際、VRChatの同時接続数が6,000人~8,000人で推移しているらしいんですが、Vケットの会期中はそれが1.2倍ぐらいに跳ね上がるらしいんですよ。新規の流入が多いのはもちろんですが、普段INしないと人もVケットの時はずっとログインしている、みたいな状況になっていて。
 Vケット2では約12万人が来場して、エントランスには2,000人いたときもあったんですが、その規模のworldってほとんどないんです。

 それでVRChatの運営チームをここに連れてきたんですが、みなさん凄く喜んでくれて。これはどうやっているんだ! うおー! クレイジー! みたいな(笑)。

一翔:
 それは「自分たちが作ったシステムでこんなことができたのか!」という感じですか?

動く城のフィオ:
 そうそうそう。例えば3Dマップを出したり、近くにいる他のユーザーのもとにテレポートする機能って、本来ならば存在しないもので、我々が独自に作ったものなんです。
 だからVケットって、VRChatの運営の人でもどうやっているのか分からない謎技術の集合体によってできているんですよ。

ここは空間のインターネット

一翔:
 ここまでの話で二つ疑問点があるんですが、一つはなぜ期間限定なのかという。

動く城のフィオ:
 一つは、Vケットはお祭りだからですね。期間限定であるが故に人が集中し、「みんなで行こうぜ」という動機や、その場の交流が生まれたりする。その結果、熱気が生まれるんです。

 もう一つは、クリエイターさんにとって締め切りってすごく大事で、期間限定がゆえに締め切りがあり、締め切りがあるからこそ作品は完成するんですよ。

 だから、うぃたちは「Vケットは機会です」とよく言っていて。Vケット合わせで作品を作る機会だし、参加者からしたらまだ見ぬアバターに出会える機会なわけです。

 だからこその期間限定なんですよ。ただ、数か月後遅れでパブリック化(いつでもアクセスできる)をしていまして、Vケット1とVケット2はいつでもアクセスできるんですよ。Vケット3のパブリック化は11月頃を予定しています。

一翔:
 そうやって毎度残せるのはいいですね。あと撤収の必要がないのがとてもいいなと思いました。僕、14年間ぐらいコミケに参加し続けているんですけど、設営は楽しいけど撤収はしなくてもいいならしたくないじゃないですか(笑)。

動く城のフィオ:
 うんうん。まぁVRChatの場合はアップデートで壊れたりしますけど(笑)。

──(笑)。

水菜:
 わかります! イベントやるとそうですよね。

動く城のフィオ:
 水菜ちゃんは現実世界でオンリーの主催なんかをやっている子なんで、その辺の知見がありますね。

水菜:
 現実世界のイベントだと、何時から何時までという時間で会場を借りて、そこから逆算して何時までに撤収みたいなスケジュールを切る必要がありますが、そういうのは全然なくて、めっちゃ楽ですね。

一翔:
 ここって夜中でも来られるんですか?

動く城のフィオ:
 会期中は24時間いつでも来られますよ。VRなので列形成も深夜組も存在しません(笑)。

一翔:
 それはいいですね(笑)。そして「Vケットは機会である」という話を聞いて思ったのが、もともとメディアって公共物だったじゃないですか。
 新聞もテレビもラジオも。で、それらは社会的な資本として限られたものであり、そこを目指して草の根があって、選ぶ人がいて、パフォーマンスをする人がいるっていうのが長い間続いていて。それがインターネットの登場によって、いっきにタガが外れましたよね。

 その瞬間に、これまでは公共でみんなが同じものを見るという時代だったのが、みんながバラバラで見たいものを見る時代になったと思うんですけど、Vケットには公共の面白さがあって、そこがキモだと感じたんですよ。一人で見る面白さって限定的というか。

水菜:
 めっちゃわかります。

動く城のフィオ:
 ここは空間のインターネットですからね。

一翔:
 空間のインターネット! まさにそれですね。そしてもう一つの疑問が、なぜ売り買いの概念を取り入れたのかでして。だって、集まって楽しいだけで終わってもまぁいいわけじゃないですか。

動く城のフィオ:
 経済至上主義というか、ちゃんとお金が還流してないと文化にならないと思っているからですかね。だから3Dモデラ―もそうですし、Vケットのメンバーにもきちんと価値を生み出した分だけの対価を受け取って欲しいという想いがあります。

 というのも、Vチューバー活動を始めたときは楽しいから続けていたんですけど、その活動の中で「これはバーチャルの中で生きていくことができるな」「であるならば、バーチャルの中に経済圏を作っていかなきゃといけないな」と思うようになっていったんです。

 だからこそアバター販売のムーブメントを感じたときに「これはいい文化だ!」と思いましたし、Vケットはそれを加速させる意味合いもあるんです。

 Vケットが企業協賛を募集しているのもその一環で、このバーチャル空間上に沢山の人とモノとお金がしっかりと流通する仕組みを作らないと、ここで生活し続けていくことができないと考えているからです。

バーチャルに住むとは

──「ここで生活し続けていく」というのは面白いテーマですよね。いずれそういう時代はくると思いますし。

動く城のフィオ:
 これはVRChatでやる意味にも繋がる話なんですけど、VR SNSに住んでいる人たちってもう存在していて、仕事に行って、帰ってきたら、あとはご飯も睡眠もVR SNSで取って、翌日会社に行くみたいな、そういう仕事以外は全部VR SNSで完結している人って結構いるんですよ。
 うぃなんかは仕事もVRChatでやっているから、家族と過ごす時間以外は全てVRChatなんですけど。

 だからVR SNSって言ってしまえば生活空間なんですよ。Vケットはその延長線上にあって、友達同士で「ちょっとハンガー行こうぜ」みたいな感覚で来れる場所です。

一翔:
 しかもそこにプラスして、アバター販売で生計を立てることができれば、本当に出てこなくて済んじゃいますよね。

動く城のフィオ:
 そうですね。今はまだアバター販売だけで生活できている人ってそんなにいなくて、本当にトップの一握りなんですが、それでももういるんですよ。

 そういうことが今後どんどん広がっていくと思っていて。実際、うぃはこのVケットを主催するだけで生計を立てているので、本当に外に出ないんですよ。

 実はVケットを作っているメンバーって、営業メンバー以外は全員フルリモートで、VRChatとSlackだけでコミュニケーションを取っているから、お互い名前も顔も知らない人が多いんです。アバターとハンドルネームは知っていますけどね。

──それでもこれだけのモノが作れてしまうと。

動く城のフィオ:
 だからバーチャルって、人間が生きていくもう一つの選択というか、もう一つの現実なんですよ。

一翔:
 少し前にインターネットと無縁社会を批判的に繋げている人がいたんですが、僕はそれって正解ではないと思っていて、むしろセレクティブなことなんじゃないかと。だって今までは、無理やり一つの現実を共有せざるを得なかったわけじゃない。

動く城のフィオ:
 まさに。

水菜:
 本当に選択肢の話なんですよね。現実世界は現実世界という一つの生きていく選択肢であり、バーチャルはバーチャルという選択肢として並行してあると思いますね。

一翔:
 ですよね!? それだとだいぶ皆生きやすいというか。

動く城のフィオ:
 これは自分のことなんでよく言うんですけど、Vチューバー活動をする前は鬱だったんですよね。病気でベッドから出られない日々が続いたんですが、ねこますさんの動画を見てバーチャルの可能性に気が付いて、「VRやってみたい!」と、この世界に飛び込んだんです。

 それでこの姿を自分で作って手に入れて、一回社会から断絶されたんですがVRChatの中で友達ができて、HIKKYの皆と出会って、Vケットというのを作って……。
 そうしてたら「これって凄いよね」とか「これって人の役に立っているよね」って言われるようになって。毎日死ぬことばかりを考えていた自分が、今ではこのバーチャルの中で生きていける社会を作りたいって思うようになったんです。

 自分みたいにバーチャルで救われる人って、今後どんどん増えていくんじゃないかなと思っていて、Vケットを今後も続けていくことで「VRで生きていくっていう選択肢があるんだ!」というところまで持って行きたいと考えています。

一翔:
 もうほんとにそれはいろんな人に知ってほしいですよね。知るだけで凄く救いになると思いますよ。というのも、見田宗介という社会学者の先生がいらっしゃるんですが、『現代社会の理論 情報化・消費化社会の現在と未来』という先生の本を20年前に読んで、人生で一番影響を受けたんですが、その本は三部作であると一冊目で明言されていて、やっとその三作目が『現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと』という名前で去年出たんですよ。

 そこで何が言われているかというと、地球という環境の容量はもうそろそろ限界で、限界を迎えた地球環境に人類が適応するためにはどうすればいいのかそれには、情報化しかないんじゃないかと。先生曰く、その適応がついに始まったそうなんですが、それがまさに、VRなんですよ。つまりは情報化の極み。もうこっち行くしかないじゃないですか。

動く城のフィオ:
 人類がその限界を突破するには、バーチャルに行くか宇宙に行くか、みたいな話ですよね。わかります。

一翔:
 ただその一方で、バーチャルというのは複数ある可能性の一つであり、人類がバーチャルに生きる時代がいつ来るかはまだ分からない。産業的な未来予測でいうと、例えばVRの市場は10年後には10%しか伸びてないかもしれないし、200倍になっているかもしれないという、未来予測のブレが一番大きい分野だと言われていて。
 それでも皆さんはバーチャルで行くとほぼほぼ決めているわけですよね。そこに対して不安はあります?

動く城のフィオ:
 不安はあんまりないですね。大きくて重いHMDとハイスペックなパソコンを数十万円掛けて用意する今のスタイルはメインストリームにはならないと思いますけど、もっと安くて軽いデバイスは今後どんどん出てくるでしょうし、感覚も触覚や嗅覚で感じられるようになるはずです。

 そして今以上にバーチャルに没入できるようになったとき、あるいはバーチャルグラスなんかで常時バーチャルに接続できるようになったとき、このバーチャルという世界はインターネットと同じように、そばにあって当たり前の存在になると思うんです。インターネットがスマホの普及により、なくてはならない存在になったように。

 そうなると、みんな自分の好きな場所で、好きな姿で、なんなら相手の姿を自分の好きな姿に変えたりしてコミュニケーションを取るような社会が訪れるんじゃないかなと。

──そう考えると、Vケットがやっていることはそこに向けた準備にもなっていますよね。

動く城のフィオ:
 まさにそうで、VRだろうがARだろうが、いずれにせよ必要になってくるのは、アバターや服やアクセサリーといった、バーチャルなプロダクトなんですよ。だってバーチャル空間ってなにもなくて地面から作りますからね。

 だから今物理で売っているものは、ほぼほぼバーチャルでも必要になると思うんですよ。それと同時に、物理の職業は全てバーチャルで成立するとも思います。

 例えば「ネオ渋谷」を設計した番匠カンナちゃんという子は、もともと建築家だったんですけど、ある時バーチャル空間に出会ったんです。バーチャル空間なら、既存の建築の価値観や慣習にとらわれずに自由に建築をデザインできるとして「バーチャル建築事務所」を立ち上げたんですよ。

 アバターに似合う服を創る人はファッションデザイナーと同じですし、アバターの髪型を作ることに特化している人もいて、そういう人はいわばバーチャル美容師ですよね。そして僕らみたいにイベントを主催する人もいたりして。

一翔:
 ですよね!?  だから僕は物理だけではなく、バーチャルでも司会者が必要だと思って、この活動を始めたんです。

動く城のフィオ:
 うんうん。だからいろんなバーチャルな職業が今後考えられると思いますし、それゆえに大切なのはプロダクトと人なんですよ。
 だからVケットの意義って先ほども言いましたけど、機会であり、人と人とをつなげる場所であり、お金を回す経済であることで、Vケットが開催されるたびにすごい数のモデルが生まれ、バーチャル世界がどんどん豊かになっていっているんです。

一翔:
 その“バーチャル空間でもモノが必要になる”という考え方ってとても大事だと思っていて、人間だけがバーチャル世界に行くのではなく、人間とモノという関係性を含めてちゃんと変換しないと、自然に生きていけないし、理解できないと思うんですよ。

 想像力がある人はCUI(すべてのやり取りを文字によって行うインターフェイスのこと)でもいいかもしれないですが、それを全員に求めるのは無理じゃないですか。

水菜:
 その想像力のヒントになっているのがフィクションだと思うんですよ。フィクションって人類が考える「あったらいいな」じゃないですか。このハンガーとかまさにそうで、現実には存在しないから創造で作っている。
 だけども、例えば中央にある操作パネルは特に説明しなくても何となく使い方が分かるんですよ。それはフィクションという下地があるからで、特に日本人はフィクションが大好きなんで、未来を具現化しやすいし、理解しやすいんじゃないかと。

 つまり、フィクションがヒントになってノンフィクションという未来に繋がっているんです。そして現実世界とフィクションが合致して面白いことができるのが、このバーチャル空間だと思います。

一翔:
 今年か去年にイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が書いた『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来』という本が話題になったんですが、彼が言うには、なぜ人間がここまで進化できたかというと、フィクションを信じる力があったからだと。

水菜:
 まさにそうだと思います。

動く城のフィオ:
 「人間が想像できることは実現できる」という言葉があると思うんですけど、うぃたちがやっていることってまさにそういうことで、『レディ・プレイヤー1』とか『ソードアート・オンライン』とか、みんなが想像してきたものを作り出しているところがあるんですよね。

 もっというと、バーチャルで生活するということの想像はうぃの中ではできているので、それを少しずつできることから実現させているんです。

一翔:
 そういう想像する力や信じる力って凄く大切ですし、意味のあることですよね。例えば国家なんて形としてはないけれど、自分が信じているからこそ存在しているわけじゃないですか。むしろ、そういうのがないと人間って生活できないと思うんですよ。国とかお金とか極論を言えばバーチャルですからね。

水菜:
 それでいうと、一番バーチャルだと思うのが人権でして。だって人権って目には見えないけど、みんな信じているじゃないですか。だからバーチャル空間で「自分はこの体を持っているんだ」と信じれば、それは本当のことになるんですよ。

 そしてそれを信じる人が沢山いるからこそ、そこに価値が生まれるんです。アバターの価値もVRChatに沢山人がいるからこそ生まれるものですよね。つまりは人あっての価値であり、それが経済になっていくんだと思います。

一翔:
 いやー、今VRChatやVケットって、ギークが楽しく遊んでると見られていて、実際そうだと思うんですけど、でもこれって楽しく遊んでいるうちに、全人類が救われる道になる可能性がありますよね。

動く城のフィオ:
 ありまーす!

水菜:
 パイオニアはいつもギークですから(笑)。

一翔:
 間違いなく(笑)。

──ずいぶん深い話になりましたね(笑)。

動く城のフィオ:
 うぃたちが喋っているのは宇宙人語なので、分かりにくくてすみません……

──宇宙人語……?

動く城のフィオ:
 「あいつら未来いっちゃってんな」というのがうぃたちで、もうこの体でしか生きていけない……というか、この体で生きていこうと思っているほどバーチャルにどっぷり浸かっているんで、普通にしゃべると宇宙語になっちゃうんですよ(笑)。

 そこのバランスを取ってくれているのがHIKKYのメンバーで、彼らはうぃたちのバーチャルに暮らす意味や未来性に価値を見出してくれて、現実世界のそれを知らない人たちに発信するよ、ということをやってくれているんです。

 それってうぃたちバーチャルに生きている人にはなかなかできなくて、うぃたちが話す宇宙語を人間の言葉に──現代の言葉に変換して伝えてくれているんですよ。

 だから「これは今やろう」とか「これはまだ早いからまた後で」といった中長期的な目標をしっかり立てることができていて、とても感謝しています。

──なるほど、それはとてもいい関係ですね。

動く城のフィオ:
 本当に。だからこそ皆で、生きるということの選択肢をどんどん示せていければいいなと。生きる選択肢が広がることは、幸せなことだと思いますので。

──本日はありがとうございました。(了)


 「Vケット3」が開催されているVRChatは、VRデバイスがなくても接続することができる。「Vケット3」の規模はあまりに膨大なため本稿ではその一部しかご紹介できなかったが、バーチャルに住む人々が想像する未来や、アバター即売会「バーチャルマーケット」という可能性に興味があれば、ぜひ一度訪れてみていただきたい。

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新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
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