自分のソフトがあればその場で返却する「名前入りカセット展」に元の持ち主は現れたのか? ニューヨーク近代美術館に展示の野望を抱く主催者に聞いてみた

 11月16日から秋葉原・フライハイカフェで開催されていた「名前入りカセット展2019」は、終了予定日だった12月8日を12月22日にまで延長するほど、好評なまま幕を閉じた。

 高価なものなので無くさないように、あるいは友達の家に持ち寄ったときに混ざらないように、ゲームカセットに名前を記した経験がある人は少なくないだろう。ファミコンソフトに刻まれた署名は生活の知恵。そしていま見返せば、つたない文字で「たなか」や「さとう」などと記されたファミコンソフトには、どのような経緯かはわからないが、たしかに持ち主が当時いたのだと感じ入ることができる。

 そんな名前入りゲームカセットを収集し、無料で展示、さらに持ち主がいればその場で返却してしまうというのが、「名前入りカセット展」だ。

 この催しを主催していたのは、名前入りカセット博物館運営委員会、そしてこの委員会の創設者であり館長の関純治氏。関氏はゲームクリエイターでもあり、現在は「ミステリー案内」シリーズ第2弾『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』を開発しているほか、ドット絵だけで表現するサスペンスドラマ企画「テレ東 × 偽りの黒真珠企画!ドット絵だけのサスペンスドラマDVDを作りたい!」クラウドファンディングも実施しいてる。

業界歴25年、5社目にして独立を果たした男が作ったアドベンチャーゲーム『偽りの黒真珠』は、ファミコンテイストが溢れていた。「8ビットの表現で、新しいものを作り続けたい」

 実は「名前入りカセット展」は以前からたびたび開催されているが、今回の開催を報じた弊誌の記事が高アクセスを記録。2万5000回を超えるリツイートで大変注目を集めることとなった。

 今回は、そんな「名前入りカセット展2019」のキーパーソンである関氏と、「ミステリー案内」シリーズの作品をパブリッシングしているフライハイワークスの代表取締役であり、イベントの舞台となった秋葉原・フライハイカフェを運営する黄政凱氏に、イベント閉幕後の感想を伺ってみた。

取材・文・撮影/福山幸司
編集/ishigenn


ニュースが拡散され取材が殺到

──ファミコン展が終わりましたね。開催期間が延長するほど好評だったようですが、感触はいかがでしょうか。

関純治氏(以下、関氏)
 率直な感想としては、なぜ今回これほど注目を集めたのかな?と。けっこう前から開催していて、そのたびにニュースにはなっていたんですよね。ある程度は、そこで興味を持った人から拡散したのかなと思っていたんですが、そうでもなかったんだという(笑)

 タイミングとか場所とか、一番きっかけになったのが電ファミさんの記事がバズったからだと思います。逆にいうと、まだまだ知らない人がいると思うんで、また開催したいですね。

黄政凱氏(以下、黄氏)
 別件で打ち合わせを関さんとしたときに、「ここでやっちゃいません?」というひょんとしたことから今回のイベントは始まりました。その上で電ファミさんの記事のツイートがすごくバズった。フライハイワークスとしては8年、9年くらい活動してますけど、これが一番話題を集めた気がします(笑)。今度は地上波のテレビが取材に来てくれるくらい、有名になってやりたいですね。

──今回、メディアがたくさん取材に来られたみたいですね。

黄氏
 Abema TVとかラジオの取材とか、いろいろありました。

 僕自身は、関さんとは世代がひとつ違いますけど、ファミコン直撃世代なんで、カセットのタイトルはほとんど知ってますし、こういう展示ができたのは嬉しいというか、友達や昔の自分に自慢したいですね。どこで何がバズるかわからないから、日々がんばろうと思いました(笑)

──編集部ではプレスリリースのときに送られてきた写真が良かったからバズったんじゃないかという意見がありましたが。

関氏
 前回やったときの写真だったんです。その前は写真がなかったんですよね。

黄氏
 あの写真は確かに良かったですね。

ファミコンソフトに名前が書かれたカセットを展示する「名前入りカセット展」が秋葉原で開催。自分のソフトがあれば、その場で返却

実際にファミコンソフトを手に入れた人は?

──今回、名前入りのファミコンソフトを返却できた人は出てきたんでしょうか。

関氏
 実は、持ち主が見つかったんですけど、最終的に返せなかったんですよ。

 ちょっと今後の課題になるかもしれないですね。以前から返却していいかどうかのルールを決めていたんですが、その中でソフトに纏わる思い出を聞かせて欲しいというところで、それによって名前が公表される点について持ち主の方がちょっと警戒されたみたいで。

──それは残念ですね。今後そのルールはどうされるつもりですか。

関氏
 公表しているルールを途中を変えてしまうのはどうなのかなと思って、本当は返してあげたかったんですけど、断念しました。次回開催したら、返すことを注意しながら、持ち主の負担を軽くして返すレギュレーションを作りたいですね。

──次の開催もすでに構想があるんですね。

関氏
 ファミコン展は展示すること自体が目標で、今回はおおよそ1300本から1400くらい、すべてのソフトを展示することができたんです。

 「じゃあ次の大きな目標は?」というのがなかったんですが、そこで次回は日本だけでなく世界的な展開にしていきたいと思っています。2020年に東京オリンピックのときに、外国の方がたくさん来日すると思うので、黄さんとも話してるんですけど、ここのフライハイカフェでふたたび開催しようと。

 そうすれば、2020年の展示を海外メディアが拾ってくれるかもしれない。いずれはニューヨーク近代美術館で展示をやりたいですね。

黄氏
 ロンドンにもテート・モダンという美術館があって、イギリスはよく日本の漫画展とかやるんで、むしろ海外の方がレトロゲームを大切にしてくれるんですよね。

北米版ファミリーコンピュータであるNESの名前入りカセット

──ということは、これから海外版の名前入りカセットを充実させるということですか。すでに海外のカセットが展示しているようですが。

関氏
 たとえば、これは海外のNES(※Nintendo Entertainment System、北米版ファミコン)の名前入りカセットですね。英語版の名前入りをどう集められるかというのか、今後の課題でもあります。

──海外版を重点に置いたとき、どのように広がるのか楽しみですね。

関氏
 実はそもそも、それが原点なんですよ。これは海外版『リンクの冒険』です。日本ではディスクシステムで発売されましたけど、海外にはシステムがないんでアメリカではROM版が出ているんですね。

 これをアメリカに行ったときに、たまたま中古屋で見つけて、金色のカセットが格好いいなと思って「よし買おう」と思ったら、名前が書いてあったんですよ。「なんで名前なんて書きやがったんだ」と当時は思ったんだけど、海外にも外国人が名前を書く文化があるんだと気付いて、「これは面白い」と。むしろこういう名前入りカセットを集めたらと思いました。

海外版『リンクの冒険』。なお「定礎 昭和58年8月」というのは、雰囲気作りのものでまったく関係ないという。

──この隣にあるのはゲームボーイのソフトですか?

関氏
 これはドバイで買った『ポケットモンスター金』ですね。1万円以上しました。

ドバイで買った『ポケットモンスター金』。

──それは高価ですね。

関氏
 日本国内のファミコンソフト自体が高騰していますよね。

 安いやつは今でも安いですし、当時の高いソフトでもせいぜい1万円とか2万円でしたけど、それが今ではプレミアとかが付いて10万円くらいになってますよね。だから集める状況はどんどん悪くなっているんですよね。名前入りだろうと値段は高くなっています。

 あと販売店が名前をクリーニングして消しているんです。シールの上は消せないけど、プラスティック部分は除光液で消せるんで、いい状態にして売っていて、だんだん名前入りカセットが絶滅しているんですよ。

──それは寂しいですね。ところで重複していて一番多いソフトはあるんですか。

黄氏
 やっぱり『燃えろ!!プロ野球』とか『ゴルフ』じゃないですか。

関氏
 あと『麻雀』『ベースボール』かもしれない。自分のおこづかいから買っていたので、安いやつを集めているので、選別したので『ゴルフ』とかが一番多くなっちゃっている。

──ファミコン展の今後の野望は「海外進出」とお聞きしましたが、最後に黄さんから、フライハイカフェの野望をお聞きしたいんですが。

黄氏
 フライハイカフェは、東京ゲームショウのカフェの代わりとしてやり始めたんですよ。東京ゲームショウはインディーゲームを主に扱うパブリッシャーとしては費用が高いので、自分でスペースを作りました。

──志しが高いですね(笑)。

黄氏
 そうですね(笑)。ただ、この展示はあったから良かったものの、今のところ客足とかイメージに達していないので。カフェをしつつ、フライハイワークスがパブリッシングしているゲームがプレイし放題ですよ、だけじゃなくて、もっといろいろなことができたらなと思っています。

 たとえばもっと他社さんとコラボができたらいいなと思っていて、インディーゲームの開発者の人たちは、自分のゲームの展示場所がなくて困っていると思うんですよ。お金もかかりますからね。フライハイカフェから「ここがあるんで使えますよ」と、二の足を踏んでる人に提案することもできるかもしれません。

 一番理想的なのは、ファミコン展が終わったあとは、これが始まりますと決まってればいいんですけどね。そうやって異なるイベントのサイクルが続くカフェにしていければなと思っています。

──それはインディーゲーム開発者の皆さんも喜ぶかもしれませんね。今回はありがとうございました。

黄政凱氏(左)、関純治氏(右)
ライター
福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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