『ドラゴンボール』と『ナルト』の元担当編集が語る「ジャンプ」の裏側 ― 絶対に敵わない『ワンピース』に勝つために『ナルト』が取った戦略とは【鳥嶋和彦×矢作康介×鵜之澤伸×松山洋】

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『ドラゴンボール』を魔人ブウ編の前に終了できなかったのは、今もって悔いている

松山氏:
 だけど私の感覚だと、『ドラゴンボール』の連載は延べ11年、少年編から最後の魔人ブウの戦いまでで、10年ちょっとなんですけども。
 『ドラゴンボール』がそれだけ長く続いたことが、その後の『ジャンプ』の漫画が長くなったきっかけになっている気がするんですよ。

 それ以降だと、『ONE PIECE』も『NARUTO-ナルト-』も10年以上やってるし、『銀魂』『BLEACH』もやってるじゃないですか。そういう長寿連載って、今は『ONE PIECE』以外はだいたい終わりましたけど。

鳥嶋氏:
 それはね、オレはもう卒業生だから言っちゃうけど、『ドラゴンボール』は止めたかったのに止めさせてもらえなかったんだよ。はっきり言うと、僕の前の編集長とその前の編集長の判断だよね。
 あの時、僕が『Vジャンプ』にいて、鳥山君を助けてあげられなかったのは、今もって悔いている。魔人ブウ編はやるべきじゃなかったよね。

 どういうことかと言うと、前の編集長と前の前の編集長は、雑誌の部数しか見ていない。誰が描いていて、誰が支持しているかを見ていない。
 お金を払ってるのは読者。描いているのは作家。会社のためじゃないんだよね、オレたちがやってるのは。読者のためなんだ。それを忘れちゃうと、ああいうことになる。

 それで『ジャンプ』の部数は、『ドラゴンボール』が終わってどんどん落ちた。結果、僕はそのために『Vジャンプ』から『少年ジャンプ』に戻された。

矢作氏:
 怒ってましたね、当時(笑)。「ふざけんな」って。その下につく人たちの気持ち、分かります?(笑)

鳥嶋氏:
 ハハハ(笑)。さっき矢作が言った、新人の新連載で表紙にするっていうのは、じつは僕が戻ってからなの。

矢作氏:
 そうでしたっけ。そうなんだ。

鳥嶋氏:
 それはどうしてかというと、やっぱり戻った時に「『ジャンプ』って何だろう?」って、もう一回問い直さざるを得ないわけ。ガタガタになっているわけだから。
 部数は一見すると、まだ600万部弱ぐらいあるんだけど、この先もう落ちていくのは見えてるし。編集部はみんな暗い顔をしてるし、会社の中はガタガタしてるし。

松山氏:
 それでも600万部ですけどね。

鳥嶋氏:
 そうやって問い直すと、さっき矢作が言ったように、『ジャンプ』には新人の新連載しかないわけ。なぜ新人の新連載をやるかというと、読者にいちばん近い感覚でモノを作っているから。空気感をつかんでいるから。
 ただ新人だから、絵がヘタじゃん。構成力もないじゃん。だからそれをちゃんとした形にするには、編集と打ち合わせをしなきゃいけない。それで形にするわけ。

 もう1つ、新人の新連載は何が良いかと言うと、さっき矢作が言った通り、作家と編集者が一緒に育っていくから、何かを掴んだ時の覚醒力、爆発力が違う。ホントに一気に伸びるから。
 まるで3歳馬がダービーに出たら一気にクラシックで勝てるようになった、あんな感じだよね。

矢作氏:
 編集も2回までは使えると思っていて。1本、新人と一緒に当てるじゃないですか。そうすると、次の作品までは使えるんですよ。
 その次のもう1本は、編集者が道理を知りすぎちゃって、自分の方向性に持って行こうとし過ぎちゃって、作家の良さが活かしきれない。だから編集もどんどん追い出したほうがいい。

鳥嶋氏:
 それはその通りで、作家にしても連載を続けて3回失敗したら、もう無理。その作家に関しては可能性がない。『ジャンプ』においてはね。
 僕が編集部に戻った時は、そういう作家が多かったの。「新連載」って言ってるけど、失敗した作家がまた違うものをやってるわけ。でも読者は見てるから。「これじゃあパチンコ屋の新装開店と一緒じゃないか」って(笑)。

矢作氏:
 いやでも新人の新連載は、やっぱりこの表紙じゃ売れないなと思ってましたよ(笑)。表紙を見て「これで売れるのかなぁ」と思ったら、やっぱり部数が落ちるんですよね、結局は。

松山氏:
 今でも思いますよ。

矢作氏:
 「この雑誌、欲しくねぇな」って思うじゃないですか。でもそういう作家が、将来的に売れてくる。

鳥嶋氏:
 『ジャンプ』の新人の新連載は、4色(カラーページ)の使い方を見てください。センスないですよ。あれだけカラーページがあるのに、何を描いているんだと思う。

矢作氏:
 4色はみんなヘタですよ、最初は。

鳥嶋氏:
 そんなにヘタな新人になぜ表紙を描かせるか、分かります? 会社の部数会議でも、ロクでもないことを言われるわけ。「絵がヘタだね、当たるのこれ?」って聞かれたら、どう答えるの? 編集長として。

松山氏:
 聞いている限りの理解で言うと、新人作家を生み出すことを一番に重きを置いているというのが『ジャンプ』の姿勢であって。
 1話の巻頭カラーと表紙に関してはある種、ご祝儀みたいなもんだという感覚ですよね?

鳥嶋氏:
 松山さんが今言ったように、『ジャンプ』の覚悟を見せるわけ。そのことをちゃんと重みに感じて描いてほしい。でも3週目のアンケートの結果によってはもう、終了候補になってしまう(笑)。

矢作氏:
 そうなんですよ。『ジャンプ』で新連載が始まる時に、表紙をやるというのが当たり前のことになっている。読者も編集者も。
 だけど結局、それが売れるか売れないかというのを、どこまで考えるかということが大切で。

 それを考えている人って、わりと残っていくなと。「そうか、新しいものを『ジャンプ』で始めようと思っているんだな」という雰囲気を出してくる人は、やっぱり漫画も新しいものを描いてくる。

新しいものを世に出すのは勇気がいるが、新しいものしか起爆力を持たない

鳥嶋氏:
 でも昨日ね、『ルパン三世』のアニメは最初の放送ではぜんぜん当たらなくて、再放送でブレイクしたっていう話を、BSの番組で見たの。アニメーションで言えば『ガンダム』もそうだし、『エヴァンゲリオン』もそうだし。
 新しいものが最初に出てきた時には、なかなか見ている人に対して刺さらない。そのへんはどうですか?

鵜之澤氏:
 狙ったターゲットとは違うところで当たるもののほうが、残りますよね。だって『ガンダム』なんかね、最初は子どもに超合金みたいなものを売るためにやってるわけですよ。要するに幼稚園から小学校低学年向け。
 それであの内容はないよね、あり得ないよね(笑)。あれは完全にスタッフがスポンサーを騙したよね。最初のスポンサーはバンダイじゃないんだけど。

矢作氏:
 でもアニメってけっこう、そういう歴史ですよね。

松山氏:
 『進撃の巨人』もある意味、そうじゃないですか。

(画像は進撃の巨人(1) (少年マガジンKC) | 諫山 創 | Amazonより)

鳥嶋氏:
 だからやっぱり、新しいものを世に出すのには勇気がいるけど、新しいものしか起爆力を持たないんですよ。時代を変えてきたのはみんな、そういうものなんです。

松山氏:
 その新しいものを作り続けるためにも、冒頭の話に戻るかもしれないですけど、10年はサイクルが長すぎだと思うんです。私は5年でいいと思うんですよ。どれだけ長くても5年。
 だって、私が大好きだった『リングにかけろ』『北斗の拳』『聖闘士星矢』も、どれも連載期間は5年ぐらいじゃないですか。それぞれが。

矢作氏:
 全部好き(笑)。

松山氏:
 ですよね(笑)。たった5年の連載がそれぞれ、一財産稼げる伝説の作品になってるわけじゃないですか。『スラムダンク』だってそうだったわけですから。

(画像はSLAM DUNK 1 (ジャンプコミックス) | 井上 雄彦 | Amazonより)

矢作氏:
 『スラムダンク』の連載期間は?

松山氏:
 5年半ぐらいですね。

鳥嶋氏:
 『スラムダンク』は作家がね、あそこでね。

松山氏:
 いやいやいやいや(笑)。

矢作氏:
 危ない、危ない(笑)。僕なんて、どんだけ読んだか分かんないですよ。

鳥嶋氏:
 でも松山さんが言ったように、昔は『ジャンプ』でも連載が1年を超えるたびに表彰式をやって、5年を過ぎるとハワイ旅行に行けるっていうご褒美があったの。

松山氏:
 作家先生に対して?

鳥嶋氏:
 奥さんとどうぞとか、アシスタントとどうぞとか。それで6年目からは、好きなところに行っていいの。

矢作氏:
 しかも、誰も行ってないんですよね(笑)。

松山氏:
 あっ、そうなの!?

鳥嶋氏:
 それは逆に言うと、連載が5年を超えるのが、いかに難しいかということ。ところが今や、いとも簡単だもん。

 なぜある時期から『ジャンプ』の連載が長期化したか。
 『ONE PIECE』が出てきた時は、『ジャンプ』の部数がどんどん落ちてる最中なんですよ。雑誌の力がない時の1位なの、イヤな言い方をすると。だから長く続いたっていう見え方もある。

矢作氏:
 コメントしづらい(笑)。

一同:
 (苦笑)

鳥嶋氏:
 だからこれは『ONE PIECE』の責任とか、他の漫画の責任どうこうよりも、『ジャンプ』という雑誌自体の持っている生命力とか、市場性の問題が片方にあるんじゃないかと。

鳥嶋氏が明かす『少年ジャンプ』連載会議の茶封筒システム

──でも『ジャンプ』って、一線級の場にド新人がいきなり乗り込んでくるという、めちゃくちゃ珍しい場じゃないですか。広くエンタメを見渡しても、そんな場って世界中であります?
 Steamとかで、新興のデベロッパーのゲームがたまたま売れたとかいうことはあっても、『ジャンプ』って本当に、新人を強制的にスターダムに乗っけるシステムになっていて。
 じつは以前、鳥嶋さんに、『ジャンプ』の編集の仕組みの話を伺ったことがあって。

松山氏:
 それは連載会議を取材したんですか?

──直接取材したわけではなくて、『ジャンプ』がどういうシステムで動いているのか、鳥嶋さんが知っている時代の話を聞いたんです。その時に感じたのが、属人性がないところで。

 有名なアンケートシステムにしたって、連載が始まるかどうかは編集長が気に入ったら採用とかじゃなくて、あくまで「仕組み」なんですよね。とにかくシステマチックに回っていく形で。
 一方で、他の漫画雑誌の話を聞くと、やっぱり属人的な裁量の部分に比重があるように感じるんです。

松山氏:
 私が知る限り、アンケートはじつは結果だけの話であって。『ジャンプ』でいちばんスゴいのは、新連載を始めるかどうかを決める連載会議なんです。
 さっきから出ている話だと、『ジャンプ』って名もなき新人がポッと出てくるみたいに聞こえるから、簡単に載りそうに感じるかもしれないですけど。

 『鬼滅の刃』の吾峠先生の話を伺ったんですけども、あの人は1年以上に渡って編集部にネームを持ち込んで、描き直して、描き直して、持ち込み続けて1年以上たって、ようやく連載会議にかかったと。
 それで載ったのが『鬼滅の刃』ですから。その間は、複数人で判断をしているわけじゃないですか。3話分の連載ネームを見て。

鳥嶋氏:
 担当に力がなかったんじゃない?

矢作氏:
 いやいやいや!(笑)

松山氏:
 こら!(笑)

矢作氏:
 でも『ONE PIECE』だってそうですよ。連載が決まるまでに1年ぐらいかかったんですよ。

松山氏:
 1年かかったんですか! 『ONE PIECE』が!?

鵜之澤氏:
 そうなんだ!

鳥嶋氏:
 かかったね。連載会議で通ったのは、3回目だから。

松山氏:
 3回テーブルに上がって、2回落ちてるんですか!?

矢作氏:
 僕はその時の連載会議には出てないんですよ、まだ若かったから。だから下で見ていて「こんなに面白い漫画がなんで通らないんだろう?」って、ずっと思ってました。

──その時の編集長が鳥嶋さんですよね。

鳥嶋氏:
 なぜ通らなかったのか簡単に言うと、構成がメチャメチャだったから。

矢作氏:
 今、そう言われると分かるんです。でも当時は「こんなに面白いものが通らないってどうなの?」って思ってました。

鳥嶋氏:
 持ち込みから連載に至るまで、どういうふうに進むかっていう話を簡単にすると。

 まず投稿なり持ち込みで、その作家に編集者がつきますよね。そうすると編集者は編集部に対して、この作家がどういう作品を描いて、どのぐらいの力があるヤツなのかというのを、アピールしないといけない。
 そのためには増刊に載っけたり、副編集長が「本誌に読み切り枠があるから出して」って言って、そこからセレクションされて載ったりするわけ。その中でアンケートの票とか、他の連載との票の兼ね合いで、こいつは可能性がある、こいつはない、というのを見ていく。

 そうすると、3~4名の編集スタッフの前にデスクがいるんだけど、このデスクが「そろそろ連載でもやってみたら」と声をかけるの。
 それで作家と編集スタッフが、3回分の連載ネームを作るわけ。デスクが無能で一向にそういうことを言わなかったら、勝手に作って出したりするんだろうけど(笑)。
 それで、デスクが「これは可能性があるな」って思ったら、副編集長のところに上げられる。そこでようやく、連載会議にかかるかどうかが決まるの。

松山氏:
 連載会議にかかるかどうかは、副編集長が判断するんですか?

鳥嶋氏:
 デスクの判断です。それで連載会議にかけて、3本終わったら3本始めるわけ。4本始めるんだったら、4本終わる。

松山氏:
 それはどっちなんですか? 連載が終わるから新連載を始めるのか、新連載を始めるから終わるのか。

鳥嶋氏:
 新しく起こす漫画と、やめる漫画の兼ね合いで見ている。バランスを。

松山氏:
 3つ始まるから3つやめましょう、ではないんですか?

鳥嶋氏:
 違う。何を始めたいかで、終わるものを決める。たとえば年少向けの漫画が3本始まるんだったら、年齢が上に向けたものを残すとか、そういうバランスを見るの。

 大事なことは、その過程を全部オープンにするんですよ。
 「上書き」って言って、茶封筒に担当がタイトル・作家名・1話何ページ・2話何ページって書いて、担当が自分で推薦する言葉を書いて、その茶封筒に3回分の連載ネームとキャラ表を入れて回すわけ。

 するとデスクがそれに対して「これは今回いけると思う、こういう問題点はあるけど」と、茶封筒にコメントを書く。
 それでデスクを通って連載会議に出ることになったら、他の班のデスクも副編も、同じようにコメントを書くんですよ。

松山氏:
 『バクマン。』に載ってた通りや!

矢作氏:
 その通り。

鳥嶋氏:
 その茶封筒が、副編の机の上に重ねて置かれるわけ。するとそれを編集部全員が見る。

松山氏:
 誰がどういうコメントを書いたか、丸見えなんですね。

鳥嶋氏:
 知恵が回る担当だと、「この3話目は弱いな」って、茶封筒の中身のネームをこっそり差し替えたりするの。ギリギリで。

松山氏:
 途中で!? それアリなの?

鳥嶋氏:
 ありあり。差し替えもあり。

矢作氏:
 良くなるんだったらアリですよ。

鳥嶋氏:
 他の担当から出てきたものを見て、「これだと負けそうだから露出を多くしよう」とかね。そういうことも含めてやります。

松山氏:
 リアルタイムに変えてるんだ!

鳥嶋氏:
 それで連載会議にかけて、1本1本落としていくわけ。ディスカッションしていく。だいたい2時間か3時間ぐらいでね。

 そこで、自分のデスクがちゃんと自分の作品を推してくれないとか、返ってきたコメントが中途半端だったりすると大変だよ。もうね、火を吹くから。「何なんですか、あなたは!?」って。

鵜之澤氏:
 それ、言えるんだ。

鳥嶋氏:
 言える。僕なんか、茶封筒にお手紙を貼られたことがありますよ、編集スタッフから。

松山氏:
 それはなんて書いてあるんですか?

鳥嶋氏:
 「納得がいかない」とか、直訴状が(笑)。イヤだなぁ、これ読みたくないなぁって。みんなニコニコして見てるんだけど。

松山氏:
 その作品が落ちたのも、会議の中で明確な理由があって落ちてるわけじゃないですか。

鳥嶋氏:
 それをちゃんと伝えてるんだよ。でも納得がいかないと。

松山氏:
 それでも納得いかないんですか!?

鳥嶋氏:
 だから、ここで大事なのはね、常にオープンに作品論を、その競争原理の中でやっているから、ちゃんとした作品評価軸を持たない人間は、幹部としてやっていけないし、信用がないんですよ。
 だから作品をヒットさせてないヤツは副編集長になれない。そこは『ジャンプ』のね、明快なところです。

矢作氏:
 「お前に言われたくねぇよ」ってなるから。

松山氏:
 あぁ、なるほど。その目利き集団が『ジャンプ』編集部の強みということですね。

鳥嶋氏:
 そう。あと、新入社員を優先的に2人とか3人、『ジャンプ』編集部に入れるわけですよ。その代わりに3人を必ず外に出すわけ。それは編集長に指名権がある。

 他の編集部は『ジャンプ』で揉まれた人なら誰でも欲しいいのよ。即戦力だから。
 『少年ジャンプ』にいるということは、それだけ鍛えられている。梶原一騎さんの虎の穴みたいなところはあるよね(笑)。

松山氏:
 だけど、そのまんま『バクマン。』の、あのシステムの通りなんですね。今もそうなんですか?

矢作氏:
 今もそうです。だって結局、みんな『ジャンプ』に集まってるんですから、『ジャンプ』を読んで育って漫画家になりましたという子は、みんな『ジャンプ』に持ち込んでくるんです。
 いちばん売れている雑誌で、いちばんたくさん母数がいるわけですから。それは集まってくるじゃないですか。

スポーツ漫画の概念を変える『キャプテン翼』が突然出てくるのが、『ジャンプ』の怖さ

矢作氏:
 終わらせる、終わらせないで言うと、さっき言ったように始まる本数と同じだけ、絶対に終わらせないといけないので。

松山氏:
 連載の本数が決まっている以上は、入らないですからね。

矢作氏:
 僕が『ジャンプ』にいた時に、編集者でいちばん大切だと思っていたのは、何を終わらせるかというジャッジなんですよ。始めるのはけっこう簡単なんです。

鳥嶋氏:
 そう。

矢作氏:
 新連載の候補になる作品はだいたい面白いですし。

鳥嶋氏:
 新しいからね。

矢作氏:
 でもじゃあ、さっき鳥嶋さんが言ったように、他のどれと引き換えにするのかというのを含めて、考えないといけないから。終わらせる漫画を考えないといけない。

 でもこれが漫画アプリで配信する形式だったら、どうなるのか。とりあえず全部続けておいて、さらに新しいものも始めようという、そんなジャッジになってくる。
 今こんなにいろんな漫画のアプリが出ていて、でもそこからメガヒットが出ないのは、こういうところに問題があるのかなと、ちょっと思ってます。

 それぐらい、終わらせるのがいちばん難しいんです。才能のある作家が「ちょっとこれは違ったかな」というものを描いたら、本当は早く終わらせて、次の作品を描かせてあげたほうがいいですよね。
 それは読者も分かるじゃないですか。

鳥嶋氏:
 それは『BLEACH』の前の『ZOMBIE POWDER.』のことかな?

(画像はZOMBIE POWDER. 1 (ジャンプコミックス) | 久保 帯人 | Amazonより)

松山氏:
 いやいやいや!(笑)

矢作氏:
 その時はリアルにいちばん下の現場だったので、そんなのは思ったことないですけど(笑)。

 それはともかく、そうやって早く終わらせてあげることが、その作家の次につながってきますから。『ジャンプ』でも10週で終わって、その次の作品が当たったりする人もいるんですよ。
 でも「3本続けて外れたらダメ」と鳥嶋さんがおっしゃいましたけど、たしかにその通りで。

松山氏:
 『ジョジョ』も3本目ですからね。

(画像はジョジョの奇妙な冒険 1 (ジャンプコミックス) | 荒木 飛呂彦 | Amazonより)

鳥嶋氏:
 それで言うと、井上雄彦さんも『カメレオンジェイル』があったし、『テニスの王子様』の許斐剛さんも2本目なんですよ。1本目は2人とも、ハードボイルドの探偵モノを描いてダメだった。

(画像はテニスの王子様 1 (ジャンプコミックス) | 許斐 剛 | Amazonより)

 じゃあ、井上さんがなんで『スラムダンク』は良かったかというと、バスケが好きだから。そういう単純なこと。
 許斐さんはテニスのインストラクターだったから。そういう理由で描いてもらったのが良かったわけ。

 だから描きたいものは当たらないんですよ。その作家が描きたいものじゃなくて、その作家が描けるものじゃないといけない。

松山氏:
 なるほど! バスケとテニスは描けるものだったから、あれだけ続いたわけですか。

鳥嶋氏:
 今やスポーツ漫画は、そのスポーツをプレイしている人じゃないと描けない。それはなぜかというと、どんなに写真集を持ってきて模写しても、それって第三者視点ですよね。プレイヤーの視点で描けるのは、そのスポーツを経験した人だけだから。
 それが漫画の主人公視点の素晴らしさだから。これはね、プレイしていた人じゃないと描けない。

松山氏:
 なるほど。

矢作氏:
 本当にスポーツ漫画はそうですね。

鳥嶋氏:
 僕がそれを実感したのは『キャプテン翼』。
 『キャプテン翼』のアンケートが良くて、矢作がさっき言ったとおり、たしか1位になって。その時に見たのかな。正直に言うとね、「なんでこの絵で1位になれるの?」と(笑)。どこが面白いんだと。

(画像はキャプテン翼 1 (ジャンプコミックスDIGITAL) | 高橋陽一 | Kindleストア | Amazonより)

松山氏:
 いやいや(笑)。

鳥嶋氏:
 それで、何週か見て分かりました。それまでのサッカー漫画とはぜんぜん違うと。どこだと思う? 画期的に違ったのよ『キャプテン翼』が。

松山氏:
 そんなに違いましたっけ?

鳥嶋氏:
 『キャプテン翼』以前にはなくて、『キャプテン翼』から始まったもの。それはつまりね、“カメラが人じゃなくてボールにフォーカスされている”ってことなんですよ。

松山氏:
 たしかにカメラ低いわ!

鳥嶋氏:
 カメラがいつも追わなきゃいけないものは、主人公じゃなくてボールなの。だからボールは友達なんだよ(笑)。

一同:
 (笑)

鳥嶋氏:
 この時に高橋陽一さんの運動神経というか、漫画家としてのスゴさにビックリしたね。読者がこれにそのまま反応してるんだと。これから後のスポーツ漫画は大変だなと。

松山氏:
 だってあれ、誰も真似できないですよ。コマを縦と横に割ってなかったんですよ。
 線が入っていないのに、見開きの中に5コマぐらいあるの。でも、ちゃんと目線の誘導ができていて。それはたしかに、カメラがボールに向いているんですよね。

鳥嶋氏:
 あれからスポーツ漫画がガラッと変わったの。じつは『キャプテン翼』より前は、漫画業界でヒットしたサッカー漫画ってないんだよ。

松山氏:
 ないですね。全部野球漫画ですよね。

鳥嶋氏:
 だから矢作が言ったように、新人が描くことの『ジャンプ』の怖さはそこにあるね。それまでの視点を持ってないヤツが出てくるからね。

『ドラゴンボール』は読んだ後に何も残らない漫画を目指した

──先ほど、『ジャンプ』では編集部員どうしがライバル関係で争っているというお話があったんですが。ライバル関係にありながらも、それぞれの担当者が別の担当者に対してアドバイスしたりはするんですか?

鳥嶋氏:
 デスクになると、せざるを得ないね。同じポジションだったらしないだろうけど。

矢作氏:
 その人のキャラにもよると思うんですよ。僕はしない派でした(笑)。

一同:
 (笑)

鳥嶋氏:
 僕も基本的には矢作と一緒で、やらないかな。なぜなら漫画に対する考え方が違うから。
 『北斗の拳』の担当だった堀江(信彦氏)【※】は、泥臭い漫画が好きなんです。僕はそういうのが嫌いで、邪魔だったんですね。

 だって好きな方向が違うから、同じことを言っても伝わらないの。『ドラゴンボール』は読んだ後に何も残らない漫画を目指したから。

※堀江信彦
『週刊少年ジャンプ』の編集者として『北斗の拳』などを担当。『ジャンプ』5代目の編集長を務めた。集英社を退社後、株式会社コアミックスの代表取締役社長に就任し、『週刊コミックバンチ』の編集長を務めた。同誌の休刊後、コアミックスは『月刊コミックゼノン』の編集を行っている。

松山氏:
 両方あっていいと思うんですよ。たしかに『ドラゴンボール』には説教がないので。

鳥嶋氏:
 僕が『ドラゴンボール』でいちばん好きなシーンは、悟空がつまづいて「なんで身体が軽いんだろう? あっ、シッポがついてないからか! まぁいいか」っていう。それが『ドラゴンボール』ですよ。

松山氏:
 クソ明るいんですよね。あれは作れないですね。作家さんはみんな「オレはそんなに明るくない」って言うんですよ。

鳥嶋氏:
 作家の中にない感情を、キャラクターは外に出せないんです。それを人工的に作ろうとすると、すぐバレるの。

松山氏:
 『ドラゴンボール』って、鳥山先生ご自身も言われてますけど、登場人物が変人しかいないんです。言われてみるとそうなんですけど。みんなどこかズレてるんですよ。
 あれは全部、鳥山先生の中にある感情というか、キャラクターなんですか?

鳥嶋氏:
 まあ基本的に鳥山明は、亀仙人と則巻千兵衛であることはたしかですね(笑)。

松山氏:
 あぁ、そこがベースなんだ。

海外では『ONE PIECE』よりも『NARUTO-ナルト-』のほうが人気が高い理由とは?

鳥嶋氏:
 松山さんは『ジャンプ』が好きだから1つ質問を出しますね。国内であれだけヒットしている『ONE PIECE』が、海外では『NARUTO-ナルト-』に及ばないのはなぜだと思う?

 よく海外で聞かれたの。「なぜ『ONE PIECE』は海外で『NARUTO-ナルト-』ほどヒットしないのか?」って。
 海外の人もみんな、『ONE PIECE』が日本でスゴイのは知ってるんです。でもなぜ海外でヒットしないのか。その理由は分かる?

松山氏:
 私の感覚ですけども、『ONE PIECE』がやっていることって、歌舞伎というとヘンですけども、任侠道ですよね。昔のヤクザ映画とかの。
 そういう、日本人はグッとくるお涙頂戴の部分も含めて、演劇というか舞台劇っぽいものになっているんで。
 『NARUTO-ナルト-』はある意味、展開も含めてハリウッド志向というか。だから世界で売れる性質が違うんだろうなって感じてますね。

鳥嶋氏:
 鵜之澤さんは両方扱ってるけど、どうなの?

鵜之澤氏:
 そうなんだよね。聞くとみんな「海賊は人気がない」とか言うんだけど。でもきっとそういうことじゃないよね、たぶん。不思議なんだよね。

松山氏:
 面白さのベクトルが違うんだと、私は思うんですけど。

鵜之澤氏:
 逆に言うと、『NARUTO-ナルト-』はなんで海外であそこまでウケるんだろうと。

矢作氏:
 ナルトが金髪で青い目ですから。

松山氏:
 そんな単純な(笑)。

鵜之澤氏:
 でもそれは大きいよね。僕らもそうだよね。

矢作氏:
 海外の人から見てもカッコ良いんですよ。

 『ONE PIECE』はドラマがすごく面白いんですよ。それに対して『NARUTO-ナルト-』はドラマの部分よりも、やっぱりアクションとか、そのへんが分かりやすいというのがありますね。
 僕は子どもがいるんですけど、子どもに見せるといちばん分からないのが、ドラマなんです。

 子どもって、気持ちのいい絵を見ただけで「気持ちいい」って思うんです。たとえばパースが効いていたり、空がきちんと見えてる絵だと、「これ好き」って言うんですよ。
 だから、パッと見で面白いかどうか。

 僕らはずっと漫画を読んで来ているから、漫画の面白さを深読みしていくじゃないですか。でも海外の人の多くは、日本の漫画って分かんないですよね。
 それはたぶん、リテラシーとか読解力がないから、分からないと思うんです。だからつまるところ、『NARUTO-ナルト-』はそういう読解力がいらないんじゃないかと思うんです。

鳥嶋氏:
 答えは出てると思うけど。まず1つは、海賊じゃなくて忍者だから。忍者が大好きなんですよ、海外の人は。それに対して、海賊の概念は日本以外にもあるから。

 次に松山さんや矢作が言ったように、『ONE PIECE』は泣きのドラマだよね。泣きのドラマは日本人にしか通用しない。海外では泣きのドラマは嫌われる。ウェットだから。
 もう1つは画面構成やキャラクターの見せ方が、残念だけれども、岸本斉史さんのほうが上手い。

矢作氏:
 どっちを取るかということだと思うんですけども。

鳥嶋氏:
 見やすいんだよね。その結果どうなるかというと、アニメにした時に映えるのは『NARUTO-ナルト-』なんですよ。アニメは動くからね。そういう意味でいうと、海外に伝わりやすい漫画の作り方は『NARUTO-ナルト-』のほうなんです。

 そのへんは鵜之澤さんがいろんなコンテンツを扱っていても、海外に通じるものと通じないものがあると思うんだけど。

鵜之澤氏:
 そうなんだよね、それが分かれば苦労しないよね(笑)。

 たしかにある時点から、漫画家の先生もそうだし、アニメのスタッフもゲームを作るスタッフも、海外を意識するんですよね。イベントに出たりして。
 それで「海外に向けて作るには、こういうふうにやるんだ」って。でも一発じゃ無理だよね。続けるうちにだんだん分かってきて。

 『NARUTO-ナルト-』も最初は日本だけで。それが『疾風伝』【※】になった頃に、海外で爆発的に売れて。こんなに売れるんだと正直ビックリしたよね、国内では『ONE PIECE』のほうがパワーがあったからさ。
 海賊をアメリカ人が分かるかどうかはともかく、『ONE PIECE』はキャラが外国人っぽいじゃないですか。だからいけるのかなと思ったけど、海外ではダメでしたね。

 たしかにね、さっき矢作さんが言われたように、金髪と青い目っていうのも大きいんじゃないかな。金髪ってすごく大事で、分かりやすいよね。

※『疾風伝』……『NARUTO-ナルト-』のTVアニメは原作の第1部でいったん終了し、原作の第2部からは『NARUTO -ナルト- 疾風伝』として新たにスタートしている。
(画像はAmazon | NARUTO -ナルト- 疾風伝 風影奪還の章 一 [DVD]より)

 外国の人はたぶん、悟空やナルトのことを日本人だと思ってないよね。アニメは現地の言葉で吹き替えられてるんで、日本人が芝居してるように見えないじゃないですか。それもやっぱり大きいんだろうなと。

鳥嶋氏:
 漫画やアニメの持っている無国籍性だね。

『NARUTO-ナルト-』を始めるにあたって、『ONE PIECE』を徹底的に分析した

矢作氏:
 そもそも『NARUTO-ナルト-』よりも『ONE PIECE』のほうが、先に連載が始まってるんですよね。作家も「『ONE PIECE』には絶対に敵わない」と言っていて。「『ONE PIECE』は面白すぎる」と。
 僕も面白すぎると思いつつも、「そんなこと言っちゃダメだ」と(笑)。

鵜之澤氏:
 そりゃそうだよね。

矢作氏:
 1位にならないとダメですから、『ジャンプ』では。そう思っていたので、一応そういうふうに話をして。「まぁ、10巻ぐらい続くといいね」ぐらいの感じで『NARUTO-ナルト-』を始めたんです。

鵜之澤氏:
 それぐらいで一区切りなんですか?

鳥嶋氏:
 10巻ということは2年ね。

矢作氏:
 それぐらい続けば、ある程度のお金が作家さんに入るだろうから、次の作品に対して準備ができるんじゃないかと。

鳥嶋氏:
 たしかにそれは考えるよね、編集者としてはね。

矢作氏:
 それで『NARUTO-ナルト-』を始めるにあたって、「『ONE PIECE』はどこがスゴいのか?」というのを分解して、分析したんです。

鳥嶋氏:
 分析したんだ。

矢作氏:
 めちゃくちゃ分析しました。“イーストブルー”や“アラバスタ”、“空島”と沢山舞台があるわけですが、それらはRPGで言うマップなんですよ。
 で、『ONE PIECE』がスゴいのは、新たなマップに入ると、出だしでそのマップでの目的が提示されて、それをクリアすると主人公は成長し、さらそれが次のマップでの目的に繋がっていく。
 つまり、最初に振りがあって、オチがあるというのを繰り返していくんですよ。しかも次のマップで全然違う世界観を提示してくるので、否が応でも盛り上がる。

 さらにスゴいのは、周りのキャラのことを描いていながら、主人公が前に進む話を描いているんですね。ルフィが人を集めるということが、ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)につながっていく。
 そもそも漫画は主人公のことしか描いちゃダメなので。主人公以外のことを描くと面白くないんですよ。

 だからこれは、研究すればするほどスゴい漫画だと。これは敵わない。
 これに対抗するとしたら、やっぱりアクションで驚かせようと。それは意識してやってます。作家本人も「『ONE PIECE』より感動的な話は描けない」と言ってるから、だったら他のところで勝負しようと。
 同じ雑誌で、同じベクトルで勝負してもしょうがないじゃないですか。だから『NARUTO-ナルト-』はそういう方向に行って。しかも作家の絵の力がスゴかったんですね。

鳥嶋氏:
 矢作が『NARUTO-ナルト-』を始めるにあたって『ONE PIECE』を研究した。ナンバーワンを研究したって聞いて、さすがだと思ったの。
 じつは僕も『ドラゴンボール』が中だるみというか、人気が落ち始めてマズいなと思った時に、自分が好きじゃない『北斗の拳』を初めて研究したんですよ(笑)。編集部で読むのが癪(しゃく)だから、コミックスを家で読んで(笑)。

 ナンバーワン漫画だから、読者がいちばん好きな要素がそこにあるわけですよ。だからナンバーワンを分析するのは、読者の趣味嗜好を分析するということ。そこに意味がある。

 『北斗の拳』を研究している時に思ったのは、「うわっ、この1話目は良くできてるな」と感心したんだよね。原哲夫さんの持っている絵の良さを上手く使っている。
 逆に言うと、原さんが持っているダメさを表さないように作っている。

 原さんは一枚絵はスゴいんだけど、アクションを描けないんです。あの全身のあの劇画タッチで描くから、アクションを描いちゃいけないんです。
 どういうことかというと、止め絵の連続で描くから、秘孔を突いて前後で見せるしかない。

松山氏:
 あぁ、なるほど。

鳥嶋氏:
 だから原さんの絵の持っている良さだけを抽出した形が、秘孔を突くという形なんです。おまけにそれを、『マッドマックス』ブルース・リーから持ってきてるから、そのへんのイメージの取り方も上手いわけ。

 『ドラゴンボール』でこれを抜くにはどうしたらいいか。あぁ、簡単だなと。
 鳥山さんは自由自在にアングルが取れる。原さんは一定方向からしか描けない。だったら『ドラゴンボール』は上下左右、前から奥と、自由自在にアクションが出来る形にしようと。
 天下一武道会の展開はまさにそういうこと。だから、当初の『ドラゴンボール』の元になったジャッキー・チェンのアクションを、もっと徹底的に、意図的に、漫画の中で再現しようと。

 それと、『北斗の拳』はドラマを見せていくものだから、展開がやっぱり長いんですよ。セリフで決めていくやり方ですから。
 僕らはもっと下の年齢層を狙って、4週単位で展開を変えていく、スピーディーな見せ方をした。

 何回かインタビューで答えてるけど、修行編を長くやったらもっと人気が落ちちゃうから、修行を短くして。亀仙人とクリリン以外のサブキャラは全部落としちゃって、その修行の成果を天下一武道会で見せた。
 天下一武道会はトーナメント制なので、1つの戦いはみんな1週か2週で終わるんです。

 あと、トーナメントが面白いのは、どこで誰と会うかというのを読者が予測してくれるから。その予測をどう裏切るかで、読者の興味を引きつけていった。

 そうしたら、このへんで『北斗の拳』を抜けたらいいなと考えていた半分ぐらいのところで、大したキャラでもないバクテリアンとの対戦の回で、『北斗の拳』を抜いちゃってね(笑)。

松山氏:
 そこからなんだ。へぇ~。

鳥嶋氏:
 だからそういう意味で言うと、『NARUTO-ナルト-』が『ONE PIECE』を研究したのはよく分かる。

矢作氏:
 僕らは『ONE PIECE』を抜けなかったですけどね(笑)。

『ONE PIECE』の連載を開始するかどうかだけで、会議に2時間かかった

──さっきの連載会議の話に戻りますけど、会議の時間がいちばん長かった漫画は?

鳥嶋氏:
 やっぱり『ONE PIECE』じゃないの。『ONE PIECE』は2時間かかったから。

矢作氏:
 連載会議にかけるネームって、全部で3話あるんですけど、確か『ONE PIECE』は、2〜3回めくらいのネームだったかな?
結果的に連載会議に通らなかったヤツなんですけど、そのネームで島で宝を守ってるキャラクターが出ていて。その話がかなり面白かったんです。めっちゃ泣けるし。

──でも、会議では通らなかった?

矢作氏:
 そう。こんなに面白いのに、なんで通らないんだろうと、当時は不思議で。

鳥嶋氏:
 なぜ連載会議の際に、3話までのネームを用意するかというと、基本が10週だから、3話までで1/3のストーリーを展開するわけでしょ。そうすると、主人公は誰でどういう話なのかっていうのを、その3話の間に見せてほしいの。
 それが見せられない漫画は、構成が悪いということ。それで言うと『ONE PIECE』は、構成が悪かったんですよ。

矢作氏:
 ええ。いま考えたら、なぜ通らなかったのか分かるんです。というのも、そのネームの話は主人公が成長したり、物語が先に進む話ではなかった。漫画において、主人公って絶対に、少しずつでもいいから前に進まないといけないんです。たとえば主人公を出さない回があってもいいんですけど、その代わり、主人公が何かやっているぞというのは読者に常に意識させておく。

──なるほど。

矢作氏:
 その視点で考えると、あのときのネームって、話は確かに面白いんだけど、主人公が先に進んでいなかった。だから通らなかったんだなと。そうね、今そのことを考えたら、分かるんです。でも、あのときは、こんな面白いもの、なんで連載を始めないんだろう?
余裕あるなぁ、みたいな感じで見てましたね(笑)。

鳥嶋氏:
 余裕なかったよ。編集長だったけど(笑)。

松山氏:
 『NARUTO-ナルト-』でカカシを3話まで出さなかったのも、そういう理由なんでしょ。

矢作氏:
 いや、そういうことじゃないんですけど。でも『NARUTO-ナルト-』の時は他の漫画をすごく研究して。

 1話目は、周りの大人たちはナルトをどう見るか、2話目は子どもたちがナルトを認めるのかという話にしたんですよ。なぜかというと、『北斗の拳』は1話目でそういう形になって、2話目でおじいさんを助けるんですね。

 結局、いろんな人がナルトをどう見るか、認めるかっていう。主人公って他の人に認められると、成長したと見えるんですよ。
 だからいろんな人に認められる話にしようというのが、そもそものコンセプトだったんです。そうすると、2話目はゲストキャラの話なのに、話が進んでいるように見えるんですよ。

 でも『ONE PIECE』の場合は、あの2話目だと主人公がまったく先に進まないんですよ。救われた男の話だけなんですよ。それは今ならすごく分かります。

鳥嶋氏:
 連載会議で『NARUTO-ナルト-』について議論したのは、たぶん5分ぐらい。『ワンピース』は2時間。この差だよね。

矢作氏:
 『HUNTER×HUNTER』も5分ぐらい。5分もかからなかったですね。

(画像はHUNTER X HUNTER 1 (ジャンプコミックス) | 冨樫 義博 | Amazonより)

ナルトの修行では、子どもたちが自分で試してみたくなるものを考えた

矢作氏:
 『ONE PIECE』だけじゃなくて、『ドラゴンボール』もすごく研究しましたよ。修行シーンがなんでこんなに上手いんだろうと。

 修行って、やってるというのを見せないと、強くなる理由が描けないんですよ。でも『ドラゴンボール』は、修行を楽しく描けるんです。重力何倍とかズルすぎません?(笑)

 ナルトも強くなるために修行をしないといけないんだけど、修行が長くなるんですよ。修行が長いってイヤじゃないですか。
 さっき鳥嶋さんが言ったように、アンケートの票が落ちちゃいますからね。でも「修行してきたぞ」って、急に帰ってくるのもイヤじゃないですか。それはズルいってなるので。

松山氏:
 『BLEACH』が多かったですね、そのパターンは(笑)。

矢作氏:
 それは僕、知らないですよ(笑)。もっと他の漫画で、そういうのがたくさんあって。洞窟から出てきたら強くなってるとか、これは絶対にやっちゃダメだと。子どもも分かってるから。
 何の努力をして、どこを鍛えたから強くなったっていう、やっぱりそれはほしいんです。

 それで、『ドラゴンボール』はあんな感じで楽しくやったけど、『NARUTO-ナルト-』の雰囲気で同じようにやるのは無理だと。それでいろんな漫画を見て、修行が上手い漫画ってどうしたらいいのかなと。

 子どもが実際に試してみたい授業というのも考えて。螺旋丸の、祭の水風船やボールの中で水を動かすというのは、子どももちょっと試してみたいと思うだろうとか、そういうのをいろいろ考えて、考えて、ああいう結論に落ち着くんですけど。
 ただ長いし、成功だったかどうか分かんないんですけどね。

松山氏:
 ナルトが螺旋丸を習得する時に、四代目火影は片手で螺旋丸を作っていたのを、『NARUTO-ナルト-』はチャクラのコントロールがヘタだから両手でやるってなって、結局、手が足りないのを分身で補うっていうのは、あれは修行を始める前から……。

矢作氏:
 決まってないですよ!

松山氏:
 ウソ~!?(笑) めちゃめちゃスゲェって思ったんですけど! あの答えの出し方!

矢作氏:
 岸本先生の中では決まってたかもしれないです。僕の中ではぜんぜん(笑)。

 「こういうのどう?」って提案するじゃないですか。たとえば風船を置いて、この中でチャクラを動かしてっていうのは言うんです。
 でもその後どうなるのかは、やっぱり先生の中で……。

松山氏:
 そうなんだ!

矢作氏:
 そうなんです。そういうのはたくさんあって。

鳥嶋氏:
 松山さんね、打ち合わせをし過ぎるとつまんないんですよ。
 僕らは漫画家から上がってきた絵コンテを、読者の視点で最初に見るわけですよ。その時に僕らが感じる驚きは、読者の驚きだから。そこで先のストーリーを知っていたら……。

松山氏:
 ああ、そういうこと!

鳥嶋氏:
 だから大きな流れは作っておくけど、細かい打ち合わせは逆に、あえてしないの。

矢作氏:
 鳥嶋さんは本当に「長い打ち合わせはするな」って言いますよね。僕はけっこう長いんです。

松山氏:
 ガッツリやられてたって聞いてますよ。

矢作氏:
 ファミレスに4、5時間ぐらいいたりして、全部決めて帰ってきたりするんですけど。そうすると鳥嶋さんから「それは作家に迷惑だから止めなさい」と怒られて(笑)。

鳥嶋氏:
 僕は打ち合わせ、30分で終わり。

松山氏:
 30分!?

鳥嶋氏:
 絵コンテを2回見て終わり。

矢作氏:
 何もできないです。

松山氏:
 その原稿の話だけで終わるんですね。だけど、不安じゃないですか?

矢作氏:
 大枠は決まってるんですよね? ここまでは行くっていう。そこでどういう決着があるかと。

鳥嶋氏:
 そうだね。昔、『スパルタンX』【※】ってゲームがあったじゃん。あれが出た時に「これはいいな!」と思ったの。でも横にするとバレちゃうから縦にしようと。それが『ドラゴンボール』のマッスルタワーだよ。

※『スパルタンX』……1984年にアイレムが開発してリリースしたアーケードゲーム。1985年に任天堂がファミコン用ソフトに移植して発売した。ジャッキー・チェン主演の同名映画が題材となっているが、ゲームの展開は映画とまったく異なり、むしろブルース・リー主演映画『死亡遊戯』のクライマックスに登場する、五重塔での戦いを彷彿とさせるものになっている。
(画像はKung-Fu Master for Amstrad CPC (1987) – MobyGamesより。Screenshot via Mobygames

松山氏:
 あぁ!

矢作氏:
 必ず終わりが見えてないと、読者はやっぱりイヤなんですよ。ドラマでも「あと何回って分かっていれば見るけど」というのがあるじゃないですか。
 だから、終わりがどこなのかはあらかじめ見せておきたい。五重塔システムは、それが便利なんです。

鳥嶋氏:
 だよね。

松山氏:
 天下一武道会もそうですよね。

矢作氏:
 そうです。ここまで行けば勝ち、とか。

鳥嶋氏:
 上に行けば行くほど強いヤツが出てくるとあらかじめ言っておけば、次はどんなのが出てくるんだと、予想してくれるじゃないですか。その想像力がプラスになる。

矢作氏:
 十二宮もそうですよ。『聖闘士星矢』の。

松山氏:
 12はさすがに多いなと思いましたけどね(笑)。だから始まった瞬間まず、牡羊座のムウが聖衣を修理するところから始まって、実質2つ目からバトルでしたからね。

鳥嶋氏:
 子どもは数を数えたり、集めたりするのが大好きなんですよ。

松山氏:
 それはそうですよね。

矢作氏:
 そういう方法論がいくつかあって。でも、これからの漫画はまた新しい方法論というか、今の子はこれが好きだからこう、と変わってくるから、それが楽しみですよね。

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