『ドラゴンボール』と『ナルト』の元担当編集が語る「ジャンプ」の裏側 ― 絶対に敵わない『ワンピース』に勝つために『ナルト』が取った戦略とは【鳥嶋和彦×矢作康介×鵜之澤伸×松山洋】

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今の子どもたちはコミックの単行本は読むが、雑誌の『ジャンプ』を読んでいない

松山氏:
 今、僕が不思議なのが、『鬼滅の刃』だと“十二鬼月”って12人の敵がいて、その中に上弦と下弦が6人ずついるという、数の楽しみがあるんですけど。
 でも『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』だと、今どこに向かっているのか、なかなか見えないところがあるじゃないですか。敵の数も決まっていないし。

(画像は呪術廻戦 1 (ジャンプコミックス) | 芥見 下々 | Amazonより)

矢作氏:
 僕だったら「それはちゃんと見せようね」って言いますね。とりあえずのゴールは見せておかないと。

鳥嶋氏:
 今の話を聞くと、その2つの漫画は年齢層が上だと思う。矢作が今言ったような形で、下の年齢層を取り入れる努力をやるべきだね。今の『少年ジャンプ』の漫画は難し過ぎる。漫画は誰にでも分かるという、分かりやすさがなければダメ。

 何回か苦言を呈しているんだけど、今は『少年ジャンプ』の“少年”が意味を成してないよね。少年っていうのは、小学生の低学年から中学生までよ。
 このターゲットを今、『ジャンプ』が押さえられているのか。

松山氏:
 アンケートの平均が20代後半って聞いてますから。

矢作氏:
 下の子も読んでるんですけど、上の人もついてきているので。ただ、今はもう……僕と松山さんって、同じぐらいの歳じゃないですか。今は子どもの数が、僕らの頃の6割ちょっとだって、知ってます?

松山氏:
 いや、半分以下ですよ。我々が生まれた時は、1年間で生まれた子どもの数が250万人ですよ。今はそれが80万人ですよ。100万人を切ってるんですよ。

矢作氏:
 中学生はもうちょっと多いですよね。この前調べて、ビックリしたんです。そんなに減ってたら、たしかに子どもに売れないよな、って。

鳥嶋氏:
 いや矢作ね、『コロコロコミック』は今でも、毎月50~60万部刷ってるわけだよ。それで言うと、『ジャンプ』ももっと数字を出してもいいじゃないかと、僕は思うね。

 任天堂もそうだし、バンダイが扱っている『アンパンマン』を見ていて思うんだけど、進化しないスゴさね。定番キャラクター。
 常にここを間口として押さえるというキャラクタービジネスや作品の作り方って、忘れてはいけないと思うんだ。

矢作氏:
 『ジャンプ』って昔から、小学4年生ぐらいから中学生が主だったと思うんですよ。今は中学生の7割ぐらいがスマホを持ってるじゃないですか。そういう意味で言うと、多少逃げちゃうんですよ。
 そこが『コロコロ』とは少しだけ違うと思うんです。『コロコロ』はまだスマホを持っていない世代なので。その『コロコロ』を読んでる子たちが、次にどこに行くのかを考えないといけないですね。

鳥嶋氏:
 『ジャンプ』には上がっていないよね。

矢作氏:
 でも、同じ小学館の『サンデー』にも上がってはいないでしょ。

松山氏:
 いきなりスマホになってるんですよ。みんなYouTubeになっちゃってる。

鳥嶋氏:
 それはYouTubeやスマホがあるからなのか。それとも、そこまでして読みたい漫画がないからなのか。そのへんはキチッと考えるべき問題だと思う。

矢作氏:
 YouTubeを見るより面白い漫画があれば、読むと思いますよ。

松山氏:
 うちのスタッフの子どもを見てると、『コロコロ』はやっぱりみんな読んでるんです。でも小学校高学年になって、「『ジャンプ』は読まないの?」って何度聞いても、読まないんですよ。
 読まないんですけど、ある時、その子が『斉木楠雄のΨ難』の単行本を持っていたんです。

(画像は斉木楠雄のΨ難 1 (ジャンプコミックス) | 麻生 周一 | Amazonより)

 「おっ! ついに『ジャンプ』読んでるじゃん!」と思ったら、『ジャンプ』の雑誌は読んでないんですよ。『斉木楠雄』の単行本だけを読んでるんです。
 「なんで『ジャンプ』を読んでないのに『斉木楠雄』を知ったの?」と聞くと、「アニメ」だと。アニメきっかけで作品を知っているのに、『ジャンプ』を通ってはいないんです。
 「『斉木楠雄』が載ってるんだから『ジャンプ』を読みたくならない?」と聞いても、単行本で十分らしくて。

矢作氏:
 うちの子どもも『ジャンプ』は読んでないですよ、雑誌はね。

松山氏:
 えー!?

鳥嶋氏:
 それは何年生?

矢作氏:
 中1の男の子と、高2の女の子なんですけど。

鳥嶋氏:
 中1が読んでないのはイヤだな。

矢作氏:
 ただ、『ヒロアカ』とかは大好きですね。『ハイキュー!!』とか。

(画像はハイキュー!! 1 (ジャンプコミックス) | 古舘 春一 | Amazonより)

松山氏:
 それは単行本で読んでるんだ。あとアニメとか。

──単行本は読むけど、雑誌は読まないというのは、なんでだと思います?

矢作氏:
 雑誌を買えないというのは、あると思いますね。

松山氏:
 1週飛ばすと買えないじゃないですか、簡単に心が折れて。単行本はいつ本屋さんに行っても、1個前の巻が売ってるんですけど。

鳥嶋氏:
 それは違うと思う。1週飛ばしても、買わなくても平気だから、買わないんだよ。

松山氏:
 そもそも熱量が足りないということですか?

鳥嶋氏:
 というか、1話19ページを、ちゃんと次週も読みたくなるような引きで作っていないから。もっと言うと、雑誌にライブ感がない。

矢作氏:
 ライブ感がないというのはそうですね。読者がそういう読み方になっていないと思います。コミックスを読む楽しみ方になっている。要するに、週刊で楽しむやり方ができていないんじゃないかと思います。

鳥嶋氏:
 たとえばさっき『コロコロ』の話が出たけど、『コロコロ』はYouTubeとかそういうものについての情報も、ちゃんと雑誌の中に取り入れていると思うよ。
 子どもたちの身近にあるそういう情報や、そうした見え方あり方を、『少年ジャンプ』が漫画の中に、要素として取り込めているのか。

 それで言うと、『ジャンプ』についてある種の既成概念、「『ジャンプ』ってこんなもの」「『ジャンプ』ってこうだよね」で作られているんじゃないか。
 さっきから話に出てきたように、これまでにない新しいもの、「これ何?」というものが『ジャンプ』だったはずなのに、今は「これ何?」がないんじゃないの。

矢作氏:
 そうですね。でも、それを僕らが作るのは無理なので。
 今の子って、育ちも生活も人生観も友達も人付き合いも、僕らとは全部違うんですね。放課後に集まったりもしないし。
 おじいちゃんやおばあちゃんと死に別れたりとか、そういう経験がなかったりもするし。

 それで言えば、本当は鳥嶋さんの時代と僕の時代も違うはずなんですよ、厳密に言うと。貧しさに対する感覚も違うし。
 でも今の子の貧しさは「オレはスマホを持っていないけど、アイツは持っている」とかなので、そこは隔絶してると思うんです。
 逆に言うと、中学生の7割がスマホを持っていて、3割が持っていないというのなら、それはとんでもない差だと思うんです。僕らの頃は、そこまでの差はなかったので。

鳥嶋氏:
 資本格差があるってこと?

矢作氏:
 ご飯が食べられないとか、そういうことではないんですけど。
 僕らの頃はたとえば、児童館で手塚治虫先生の漫画を読んでいたり、学級文庫で『はだしのゲン』を読んだりしていたんですけど。
 今の子はそういう経験がないし、場もないし。ぜんぜん違うんですよね。

(画像ははだしのゲン(1) (中公文庫コミック版) | 中沢啓治 | Kindleストア | Amazonより)

 今の子どもたちが何で遊ぶかというと、スマホで一緒に『フォートナイト』をやってたりするんですよ(笑)。そういう子たちが読む漫画を作れるのは、それは僕らじゃなくて、今の子ですよ。

 今の子たちが感じていることとか、人生の課題だとか、そういうことを考えて作らないと、今の漫画って新しくないわけで。僕らみたいなおじさんが集まって、「どんな漫画を作ろうか」と言ってること自体が、愚の骨頂だと思うんです(笑)。

(画像はフォートナイト 公式サイト | Epic Gamesより)

鳥嶋氏:
 でも矢作ね、ツッコミを入れるようで申し訳ないけど、今の子供の置かれているメディア状況は、それは我々とは違うでしょうと。だけど子どもひとりひとりが大人に比べて、親の管理下に置かれて自由ではなくて。
 なかなか友達と遊べない孤独な状況だとか、その中で時間を合わせて『フォートナイト』をするだとか、子どもが不自由な状況に置かれているということに関しては、昔も今も一緒じゃない。ただその周りで、関わるものが違うだけで。

矢作氏:
 そうですね。

鳥嶋氏:
 逆に言うと、そういう子どもたちを僕らは、漫画は、どうやって救えるかということをちゃんと見るべきで。

矢作氏:
 そうなんですよ。だから僕は、今入ってくる若い編集者に、それを期待しているところがあって。
 君らのほうが分かっているでしょと。「課題は何だ?」って。みんなやっぱり、悩みや苦しみといった課題があるからこそ、漫画を読んでそれが解消されるわけで。
 「貧しい」とか「お金がない」とか、僕らの時の課題と今の課題は違うと思うので。だからそれを解消できるのは、どういう漫画なのか見せてほしいと。

 『ジャンプ』って唯一、それができる雑誌なんですよ。新入社員が必ず2人ぐらい入ってきて、その新入社員と同じぐらいの年齢や、それ以下の10代の新人作家が持ち込みにやってくる。
 その子たちはちょっと前の『ジャンプ』作品、『鬼滅の刃』や『約束のネバーランド』を見て、「これは面白い!」と持ち込みにやってくる。
 この編集者と漫画家の組み合わせで作られるものを見たいというのが、すごくあるんですよね。

(画像は約束のネバーランド 1 (ジャンプコミックス) | 出水 ぽすか, 白井 カイウ | Amazonより)

“少年”が見ることのできない漫画アプリは、はたして『少年ジャンプ』なのか

鳥嶋氏:
 そういうさ、新しく入ってきた社員たちを見ていて、彼らに作れると思う?

矢作氏:
 それはまだ分からないです。僕だって「会社やめろ」って何回も言われましたからね(笑)。鳥嶋さんには言われてないですよ。鳥嶋さんは優しかったです。直接関係なかったから(笑)。

鳥嶋氏:
 矢作に聞いてみたいのはね、漫画を読んで入ってきたヤツに、はたして漫画が作れるのか? っていうこと。集英社には『ジャンプ』っていうブランドがあるじゃない。

 鵜之澤さんにも聞きたいんだけど。バンダイナムコもそうだけど、昔、それぞれの会社が大して知名度もなかった頃に入ってきた人たちと、知名度ができてから入ってきた人たちとでは、やっぱり違うよね、資質が。
 だから今、会社のブランドを知って入ってくる人たちに、はたしてモノが作れるの? って思いますね。

鵜之澤氏:
 僕は今、62歳になるんだけど、僕が入った当時のバンダイなんて、まだ上場もしてないし。
 僕は大学時代、おもちゃ屋でバイトしてたんですよ。だからおもちゃは詳しいんだけど、おもちゃ会社のことは知らなくて。

 その中でいい加減そうな、何でもやらせてくれる会社だと思って、バンダイに入ったの(笑)。3年いたら会社を辞めて、その後は自分で仕事を始めようと思って。それぐらい、いい加減でね。

 ちょうどアニメやゲームが始まるぐらいの年なんですよ。1981年。
 ファミコンもまだ出てない。アニメと呼ばれるようになったのは『ヤマト』『ガンダム』『うる星やつら』といった作品で、ちょうど僕がバンダイに入った頃に、アニメという文化ができるんだよね。

 ビデオデッキが出たのもその頃。僕はその後で、ビデオカセット用のアニメを作る仕事【※】を、バンダイの中で新規事業としてやらせてもらうんだけどさ。
 そのぐらい誰もやっていなくて、だからチャンスだったんですね。

※ビデオカセット用のアニメを作る仕事……鵜之澤氏は1983年より、当時の株式会社バンダイで映像ソフト事業を手がける、フロンティア事業部に異動。同事業部は、世界初のオリジナルビデオアニメ(OVA)となる『ダロス』を企画・製作している。
(画像はAmazon | ダロス [DVD]より)

 なにしろ新入社員の時に、富野由悠季監督と会ってるからね。『ガンダム』が当たったから、次の番組をどうしましょうか? という打ち合わせに僕と、今、バンダイナムコエンターテインメントの社長をやってる宮河恭夫っていう、同期の新入社員が2人、参加していて。

 急に『ガンダム』ブームが来たから、会社の先輩たちはアニメという言葉も知らないんだよね。そりゃ知らないでしょ、先輩たちはアニメなんて、子どもの見るものだと思ってるんだから。
 でも僕らは新入社員で、感性がまだ若かったから。学生時代に『ガンダム』なんか見てなかったけど、いざ見たらやっぱり面白いと分かるんだよね。

 それで今から考えると恐ろしいけど、新入社員が富野監督に向かって、「次の『ザブングル』ではこういうメカを出してほしいです」と打ち合わせしているっていうね(笑)。
 若いから怖いものも知らないし、逆に言うとスポンサーのバンダイからしても、そういうことを言うようなヤツがまだ誰もいなかった。
 誰もいないところの開拓者だったんだよね、新規事業の。

(画像はAmazon | 戦闘メカ ザブングル DVD-BOX PART1 より)

 そういう意味じゃ、僕らの上には誰もいなかったから、全部自分でやるしかなかった。今の20代、30代のみなさんは、必ず会社の先輩がいるわけですよ。
 自分がやる仕事のことをよく知っている、ゲームも漫画もアニメもなんでも知っている、先輩がいるようになっちゃったんだよね。

鳥嶋氏:
 鵜之澤さんの話を聞いてるとね、僕も漫画を読んでなかったし、『ジャンプ』を知らなかった。だから漫画というものを「なんで面白いんだろう?」と自分で考えながらやったから、漫画が作れた。それまでの編集者とは違った作り方ができたんだけど。

 さっき矢作が『ONE PIECE』を解体したって言ってたけど、もう1回ね、漫画を解体して考えてもいいんじゃないかなと。どこかで『ジャンプ』とか漫画ってこういうものだと、みんな思い込み過ぎてるんじゃないか。

 矢作に意見を聞いてみたいんだけど、『少年ジャンプ+』ってネットで始めて、ついに年齢制限がついた【※】じゃん。もはや“少年”じゃないよね。
 でも“少年”って名前がついてるよね。ああいう状況って、現場からどう見える?

※『少年ジャンプ+』の年齢制限
『少年ジャンプ+』のiOS版アプリは、17歳以上が対象となっている。ちなみにAndroid版アプリでは12歳以上が推奨されており、ブラウザ版の利用には特に年齢制限はない。

矢作氏:
 そうですね……。『ジャンプ+』に関してはいろいろと難しいところがあるとは思うんですけど。今、Webも含めてですけど、売れるものってどういうものかを考えると、こういうものを扱わないといけない」というのも出てくるし、やっぱり制限がついちゃってもしょうがないと。そこで何をするのかってことだとは思うんですけど。

松山氏:
 そもそも『ジャンプ+』自体が、ぜんぜん少年向けにはなってないんですよ、最初から。エロもバイオレンスも含めてですけど。

矢作氏:
 ていうか、本当に幅広いんですよ。だから逆に言うと、これとこの作品が競っているとか、この作品のほうが人気あるだとかいった、競っているものがない。
 これだけ読まれていればまあいいだろうってところでやっちゃうと、編集も作家も、原稿料が入って、自分が担当している本数があって、仕事している気になってくるじゃないですか。
 だから年齢制限とかが問題なんじゃなくて、面白いものとか売れるものがちゃんと作れているのか、というのがいちばんの問題で。

 年齢制限はついてもいいんですよ、別に。
 さっき言いましたけど中学生の3割はスマホを持っていないから、漫画アプリを読めないんですよ。その3割が読めない漫画アプリに作っているわけですよ、漫画を。
 そういうことも考えると、じゃあどこに出していくのかと。

鳥嶋氏:
 そういうことだよな。

 だからね、今ちょっと意地悪な質問を投げかけて。結局、何をもって雑誌を作り続けるのか。
 雑誌のテーマとか哲学がどこにあるのかにこだわる一方で、「漫画って何? 誰のためのものなのか?」ということを考え続けてやってかないと、仕事がブレてくるんだよね。

新人漫画家に対しては、才能を磨くための編集者が絶対に必要だ

鳥嶋氏:
 じつはこのまえコミティアに行って、同人誌を僕、30年ぶりに見たのね。持ち込みを見たんですよ。

 新人はやっぱり常に、自分がどこでデビューできるのか、どこで描けばいいのか、っていうのをちゃんと見ている。だから、そこのところも一方で見ておかないと。
 常に僕らは、読者がどこにいて、作家がどこにいるか、この2つをどうつなぐかということを考えなきゃいけない。

 僕が30年ぶりに見に行った理由は、今持ち込みをする人たちはどんなマインドで、どんな人たちなのか、見てみたかったの。実質ね、30年前とあんまり変わらない。
 すごく真面目。むしろちょっと真面目過ぎるぐらい。「いっちょ当てたろ!」っていう野心も、もう少し出してほしかったね。

松山氏:
 白泉社自身は、持ち込みってやっぱりあるんですか?

鳥嶋氏:
 白泉社は「マンガラボ!」って形で。コミティアも、白泉社はギリギリ第3位ぐらいだったね。

矢作氏:
 「鳥嶋さんがいたから増えた」って言ってましたよ。

鳥嶋氏:
 僕はあんまり聞いてないから(笑)。

矢作氏:
 でも、デジタルに集まるのは分かりやすい。デビューしやすいって皆、思っていると思います。

鳥嶋氏:
 これは平君(電ファミニコゲーマー編集長)からの宿題なんだけど、「編集者って必要?」という議論がずーっとあるじゃん、ここしばらくネットで。矢作はどう思う?

矢作氏:
 たとえば作品があって、それをより良くできないんだったら、編集者なんていらないだろうし。あと、作家と作品をプロデュースできないんだったら、いらないでしょうね。
 だけど、こと新人に至ってはですよ、これは僕の持論なんですけど、編集者は必要ですよ。

 僕も何人も見たことありますけど、ベテラン作家で本当にスゴイ人たちはたくさんいて。鳥嶋さんももちろんご存じだと思いますけど、もうこの人は1人でいいじゃん、毎回「面白いです、ありがとうございます」って言うだけの作家もいるんですよ。

鳥嶋氏:
 そんな作家、いないと思うよ。

矢作氏:
 いるんですよ、名前は言わないですけど(笑)。

 でも新人作家にとっては、編集者は絶対に必要だと思うので。
 「編集がいたら自分の描きたいもの描けないんじゃないか」とか、「自分1人で描いて連載ができたらいいから連載しやすいところに行こう」、というふうになると、やっぱりそれはかわいそうというか、残念だと思っていて。

 ピッチャーとキャッチャーってよく言うじゃないですか。ピッチャーはもちろん作家で、キャッチャーが編集者なんですけど。
 球を受けているほうは、ピッチャーが今どういう球を投げてきているかとか、今日は調子悪いとかが分かるんですよ。今週は調子悪いからこれぐらいにしとこうかとか。

 さっき鳥嶋さんが言ってましたけど、漫画って毎回面白くなくても、キャラクターが良ければアンケートの票を取れるんで。1週、2週だったら我慢してもらえるし。
 それなら「マックスを3週目に持っていこう」でいいんですよ。その判断をするのがキャッチャーで。ここは点数を取られても大丈夫。ここはヒットを打たせても大丈夫、とかね。そういうのをやるのが編集で、編集の力がないと、作家って伸びないんですよ。

 編集者がいないと、誰もイヤなことを言ってくれない。「お前これ、クソだろう」って言ってくれる編集がいないと、周りがファンだけだと、ピッチャーが壁当てしてるのと一緒ですよね。
 たとえ良くなくても、「今日もスゴい球を投げてました」ってなっちゃう。

 スポーツ選手でも、トレーナーのいない人って絶対にいないと思いますよ。だって、客観的に見て「ここがダメだ」とか「今ここがイイよ」とか言ってくれる人がいないと、やりがいもないし、どこを修正したらいいかも分からないから。

 そういう意味で、使えない編集はいらないと思います。それだったら自分1人で描いたほうがいい。
 自信があるなら1人で描いてもいいし、それで当たる人も絶対いると思うんです。でも編集者は、その作家の才能を信じて愛しているからこそ、何を言ってくれるかっていうのがすごく大切で。

 もう1つ、作家って絶対に作れないんですよね。才能って作れないんです。
 そこにあるんですよ。だから編集の仕事は、その才能をどう磨くかなので。それができるかどうかだと思うんですよね。ダメな人もたまにいますけど(笑)。集英社の編集に限って言うと、これは宣伝ですけど、できると思います。

鳥嶋氏:
 いま矢作が言ってることに突っかかるとね、最初にどれだけ的確に「NO」を言えるかなんだよね。
 さっきの話だけど、ベテランであればあるほど、自分で簡単に作れちゃうわけですよ。でもそれが本当に面白いかどうか疑問に思ったら、夜も眠れないはずで。それをいかに的確に、評価として言ってくれるかなの。

 作家が表現をしたい、伝えたいということは「売りたい」だよ、たくさんの人に。だったら編集はそれを伝えるために、どこに読者がいて、どういうふうに表現すれば伝わるかを知っているべき人間なの。
 それが編集の役割なの。さっき矢作が言ったように、才能そのものは作れない。だけど、才能を形作ったり、どこかに運ぶことはできるから。編集の役割はそこなんだよね。

矢作氏:
 僕は話が長いから打ち合わせに4時間かかるんです(笑)。これだとたしかに、鳥嶋さんは30分で終わる。僕は作家の時間を無駄にしてますね(笑)。

一同:
 (笑)

他人の話を聞いて直しをできる人間性が、作家の才能

──編集者がヘボくても、作家さんだけの力でヒットするということは、『ジャンプ』ではあるんですか?

矢作氏:
 それは絶対ありますよ。

鳥嶋氏:
 逆に、低迷していた漫画が編集の力で盛り返した、というのはあったけどね。『キン肉マン』がつらかった時に、僕の後輩が担当になって。そいつが格闘技に詳しいヤツだったので、『キン肉マン』をプロレス路線にしたら、一気に火がついた。
 だから、そういうこともある。どの編集がつくかによって、作家の運命は変わるね。

(画像はキン肉マン 3 (ジャンプコミックス) | ゆでたまご | Amazonより)

矢作氏:
 相性もありますしね。すごい才能があっても、担当によっては潰されちゃうというか、それは違うんじゃないか、みたいなことになる場合もあるでしょうし。

──作家さんの才能というのは、具体的にどんなところで感じ取るんですか?

矢作氏:
 いちばん分かりやすいのは、人の話が聞けるかどうかですね。

鳥嶋氏:
 その通り。つまり、直しができるかどうか

矢作氏:
 逆に、それしかないかもしれない。だって、いくら言っても直してくれないのなら、面白くなりようがないですからね。

──それは解釈力ということ?

矢作氏:
 解釈というよりは、本当に聞く耳を持っているかどうかですね。

鳥嶋氏:
 人間性かな?

矢作氏:
 人間性ですね。聞こうという意志があれば、10時間かけて話しても聞いてくれますから。

──言うことを聞かないんだけど、アウトプットはスゴイなぁ、みたいなパターンはないんですか?

鳥嶋氏:
 ない。

矢作氏:
 スマッシュヒットはあると思うんですよ。作家のいいところだけを、他はいいからそこだけを描くことにすれば。『ジャンプ』だったら10万部ぐらいはいけるかもしれないけれど、でも100万部は決していかないですね。

鳥嶋氏:
 そうだね。100万部いくか、いかないかは大きな違いだね。100万部を超える作家と、そうでない作家はぜんぜん違う。

矢作氏:
 聞く耳は本当に大きいですね。

──10万部の作家と100万部の作家の違いが分かる肌感覚って、たぶん『ジャンプ』編集部ぐらいしかない気がしていて。この手の話って、正直、僕も含めて“その肌感のない普通の人”が何を聞いても、本当の意味ではピンと来づらいんですよね。

矢作氏:
 画力が大きいと思いますよ、説得力のある絵が描けるとか。できる人は大勢いるんですけど。その中でも特にできる人。
 あとは打ち合わせがちゃんとできる人。そういう人は「いけるんじゃないか」って雰囲気が出るんです。

──漫画の絵って、イラストレーターとはぜんぜん違うじゃないですか。ちょっと前に三浦建太郎さんを取材させていただいたんですけど、その時にすごく興味深いと思ったのが、“絵の身体性”みたいなお話で。

【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

 ガッツが剣を振った時に、どういう角度で当たると、どういうふうに吹っ飛ぶか。そういう言葉では説明できない、絵を見た時の気持ち良さみたいなものを追求しているってお話だったんですけど。
 その気持ち良さをどこで学んだかというと、『北斗の拳』で拳が読者に向かって飛んでくる表現だというんですね。

 あれは横から見るパンチと違って、身体性があると。もっと具体的にいうと読者に対して向かってくるみたいな描き方だって話をされていて。
 それを見た時に「あっ」ていう感じがあったんだと。そういった身体の感覚みたいなところまで踏み込んだ「動きの表現」をしているのが、漫画とそれ以外のイラストの決定的な違いだと思うんです。

鳥嶋氏:
 もっと言うと、表情を描けるかどうかだね。イラストレーターに表情は描けない。漫画家は顔を描くだけじゃなくて、たとえば手の指を描いても、そこに表情をつけられるんだね。

少年漫画は主人公の成長“しか”描いてはいけない

──漫画の説得力って、お話とかプロットとかの構成だけではなくて、コマの描写1つだとか、いま言われたような絵の描写における情報量が、ぜんぜん違うと思うんです。

鳥嶋氏:
 あとはキャラクターだね。そういえば、『NARUTO-ナルト-』の主人公はなんでナルトって名前で、ハチマキをつけさせたの?

矢作氏:
 ハチマキは、忍者ってもともと鉢金をつけてるじゃないですか。
 ナルトは普通に、最初から出てきましたね。主人公の名前が「うずまきナルト」っていうのは、いかにも『ジャンプ』っぽいし、少年漫画っぽいじゃないですか。そんなふうに何も考えずにつけてます。「NO」は1つも出なかったですね。

鳥嶋氏:
 このネーミングのセンスと、鉢金のところの渦巻き模様ね。パッとキャラ表を見た時に、「こいつ上手いな」って。センスあるわって思うよね。

矢作氏:
 天然なんですよ。岸本先生はいろんな作家の影響を受けているんですけど、描いていて気持ちいい絵じゃないですか。

鳥嶋氏:
 キャラクターっていう話をもっと深めていくと、さっき矢作が言ったように、主人公を描けない作家はダメなの。100万部を超えられないよね。主人公が出てきた時に、こいつが主人公だ、と見えないといけない。

矢作氏:
 ナルトは明らかに主人公ですからね。

鳥嶋氏:
 あれが少年漫画の主人公だね。それをスッと描けるのがセンスなんだよ。サスケじゃ主人公じゃないんだよね。

矢作氏:
 僕もじつは、ナルトはそんなに好きじゃないというか、共感できるキャラクターが最初はいなかったんですよ。どっちかというとサスケのほうが共感できる。

 でも、だからこそナルトみたいな主人公をスッと描けるのは、才能だなと。この才能の原石をどう磨くのかはけっこう簡単で。
 自分みたいな普通の人がどういうものを求めているのか、という話をしていくだけなので。

鳥嶋氏:
 もっと言うと、サスケは隙間が少ないんですよ。キャラとしての手足の本数が少ない。だから逆に、出てきた時にはキャラが立ってて分かりやすいわけ。

 それに対して、主人公には隙間が必要。キャラとしての手足をたくさん持っていれば、いろんな人間と手を握り合ったり、どうのこうのができるわけ。
 そういう隙間を持っているキャラクターを設計できるかどうか。それがセンスなの。

矢作氏:
 岸本先生自身は、サスケがいちばん描きづらいって言いますけどね。あんな分かりやすいキャラを。ずっと「理解できない」って言ってましたから。

松山氏:
 結局、サスケの気持ちは最後まで分かんなかったからですね。

鳥嶋氏:
 あれは1回殺すべきだったね、早めに(笑)。

矢作氏:
 それは分かってるんですよ。僕が担当を離れる時に「サスケをなんとかしてね」と言って別れたので。だから申し訳ないなと。最後は逃げましたから。もっと早く片付けるべきでしたね。

鳥嶋氏:
 キャラクターに関して言うと、敵キャラって人気が出やすいんだよ。だけど主人公はちゃんと毎回出して、真ん中に置かなきゃいけない。そうじゃないと少年漫画じゃなくなるから。そこが厄介なの。

松山氏:
 主人公の成長はちゃんと描くべきだと、私も思うんですけれども。敵の成長をダラダラと描くのは、絶対に要らなくて。

鳥嶋氏:
 僕もね、敵の成長は要らない。

矢作氏:
 主人公しか描いちゃダメなんですよ。他のキャラクターが可愛くなって描いちゃうのは、作家のエゴだと思います。だって読者は、主人公を見たくて読んでいるはずなんです。

鳥嶋氏:
 全面的に賛成だな。

矢作氏:
 作家はついつい、「この敵キャラをもっと描きたい」って可愛がりそうになるんですよ。それで1回、エピソードを作ろうとするんで、「それは主人公と関係あるの?」って聞くんです。
 そのエピソードは主人公が伸びていくのに関係があるのかどうかを聞いて、「関係ない」って言ったらやらせない。「じゃあ、むりやりにでも関係づけて」って(笑)。このキャラが成長することで主人公も成長するんだったらイイよと。

 『ドラゴンボール』のスゴイところはそこなんですよね。主人公だけを描いている。
 最後まで悟空で終わっているという。誰もセルの気持ちになんか、なっていないわけですからね(笑)。

松山氏:
 なろうとも思わないし(笑)。

「ゲームの画面写真に映っているナルトの足の指が、カッコ良くないから描き直せ!」

──昔と今では、編集者の役割が変わっているのかどうかをお聞きしたいんです。『ジャンプ』ひとつとっても、昔は600万部を超えていたのが、今は200万部を切ったぐらいですか。
 昔だったら『ジャンプ』で人気になれば自動的に売れるっていう道が見えていたけれども、今は必ずしもそうではない世界が来つつある。これからもっとそうなっていった時に、編集者がカバーすべき領域や、果たす役割はどうなると思います?

矢作氏:
 僕は『ジャンプ』にずっといたので、だから正直分かんないです。『ジャンプ』とそれ以外というのが、すごくあるんですよ。

 『ジャンプ』以外の雑誌って、作家と作品をどうプロデュースするかっていう能力を持っている編集者も必要なので。ヘタすると才能があるのに売れない作家もいて、それをどうプロデュースをするかという能力のほうが必要なのかもしれないと思いますね。
 特に今こういうご時世だと。

松山氏:
 実際、面白い漫画を作って売るのって、じつは漫画ビジネスとしては入口で。ある時から、おそらく鳥嶋さんぐらいからだと思うんですけど、漫画を作るということと、ビッグIPを作るという意味合いがイコールになっていて。
 どのタイミングでアニメ化して、映画化して、ゲーム化してというふうに、漫画以外の商品を作っていくか。あとはそれをどれだけ持続できるかっていうところまでが、編集者の担当なので。

 最初は漫画家さんと向き合う編集担当だと思うんですけど、途中から完全に、やってることはほぼプロデュースという状態に、こちら側からすると見えていますけどね。

鳥嶋氏:
 あのね、見え方はそうかもしれないけど、順番を間違えちゃいけない。やっぱり作家と一対一で対面して、その作品を磨かないことには、その後は全部ない。

松山氏:
 なるほど、たしかにそうですね。

矢作氏:
 僕はプロデュースするのが苦手だったので、そういう意味で、仕事をしたっていう記憶はひとつもないんです(笑)。邪魔しかしてないんじゃないかって(笑)。

松山氏:
 いやいやいや(笑)。

鳥嶋氏:
 今の矢作の発言を聞くと、松山さんの本に出てくるエピソードがね、いかにも矢作らしい、『ジャンプ』の編集らしいエピソードだと思うよ。「足がちゃんと作れてないじゃん」と本に書いてあるわけ。

矢作氏:
 足の指ですよ(笑)。

鳥嶋氏:
 「ナルトの足の指がちゃんと描かれてない」ってさ。それはゲームの中ではどうでもいいことだよね。

松山氏:
 なにしろPS2のゲームですからね(笑)。

(画像はAmazon | NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー | プレイステーション2より)

鳥嶋氏:
 だけど、そこに目がいって、こだわってしまうところが漫画編集だから。

矢作氏:
 それは違うんですよ。ゲームの中で動いてるのは別にいいんですけど、画面を撮影して誌面に載っける時に、「カッコ良くしてくれ」って言ったんです。
 動いてるのを止めて、ちょっと変なのは当たり前じゃないですか。いいアニメでも、動いてるのを途中で止めたら、とんでもない絵になってるじゃないですか。でも誌面に載せる時は、めっちゃカッコ良くしてくれないと困る。だから描き直してくれって(笑)。

松山氏:
 我々からすると、画面のスクリーンショットを撮った後に、そこに手を入れるというのは、お客様にバレたらどうすんだっていう(笑)。

鳥嶋氏:
 結局、足を全部描き直したの?

松山氏:
 描き直しましたね。『ジャンプ』に載るってこういうことなんだと、現場のスタッフに説明して。「描き直していいんですか?」「じゃないと載らないから」って(笑)。

矢作氏:
 ウソをついているわけじゃないんですよ。動いているのを見たらカッコ良いと思うんですから。でも止めるとカッコ悪いから、それをカッコ良く描き直してほしいと(笑)。
 だってカッコ良い絵じゃないと、そのゲームを欲しくならないじゃないですか。ゲームの中ではカッコ良いんだから。それがダメなんですか?

松山氏:
 結果的に正解でしたけど(笑)。

鳥嶋氏:
 これね、すっごくよく分かる。僕も『ドラゴンボール』の監修を上がってきた時、見た瞬間に……。

鵜之澤氏:
 「捨ててくれ」って(笑)【※】。似てないからってだけだからね。「似てないから全部捨てろ」と。

※『ドラゴンボール』のゲームを「捨ててくれ」
この「事件」については、2019年10月26日に「Unite Tokyo 2019」で行われた講演「出版社とゲーム会社はなぜすれ違う? ドラゴンボールのゲーム化で酷い目にあった…もとい勉強させて頂いた話」で、鳥嶋氏や鵜之澤氏のコメントも交えて、詳しく紹介されている。

鳥嶋氏:
 3億円近くかかったヤツを「全部捨てて」って(笑)。それも矢作が言ってるのと同じだよ。

鵜之澤氏:
 絵しか見てないんですよ。「似てる」「似てない」しかない。でも、それが基本だよね。たしかにそう。ましてや『ジャンプ』本誌や『Vジャンプ』に載る絵が似てないって、編集部としては絶対に認められないじゃないですか。

矢作氏:
 だから僕は毎回、赤ボールペンで「こうやって直してくれ」って、レタッチの指示を出して。

松山氏:
 指の爪まで描いてましたからね(笑)。

矢作氏:
 そしたら松山さんが不思議な顔してるから、なんだろうと思って(笑)。

鳥嶋氏:
 衝撃だった?

松山氏:
 衝撃でしたね(笑)。

鳥嶋氏:
 それはね、担当編集は絵コンテから、原稿チェックから、入稿から、本になったものも含めて、そのビジュアルをどのぐらいの時間、見てるかなんですよ。だから見た瞬間「違う」っていうのが分かる。
 これは、さっき矢作が言った一言に尽きるんだよね。「読者にカッコ良く見せたい」。それだけの時間を作家が費やしているんだから、そのベストを見せたい。

矢作氏:
 あと、ゲーム自体もカッコ良いんですよ、動いているのを見ると。でも、止めてこんなにカッコ悪いのはマズいだろうと(笑)。損じゃんっていう。

鳥嶋氏:
 止めるかな?

松山氏:
 止めないと写真が撮れないですから(笑)。

矢作氏:
 その止めた画面をそのまま載せるっていうから、「それは損でしょう」と。

松山氏:
 だから、PVとかで動画で見せるぶんには、何もおっしゃらないんですよ。ただ、『ジャンプ』に載せるのは写真だから、これは全部描き直してって(笑)。それで足の指を全部描き直しました。ちなみに手の指も描き直しましたね。

矢作氏:
 こんなナルトを雑誌に出せないって思いましたから。あまり知らないからですけどね、ゲームを。

松山氏:
 当時のPS2のゲームって、五本指を表現できなかったんですよ。指とかも3本くらいしか関節がないから。
 ナルトの指っていっても、影分身の印もまともに結べない状態なので。少なくともこれなら印を結んでるように見えるだろうということでポリゴンを当てたんです。でも「これは印が違う」って(笑)。そりゃ違いますけど(笑)。

矢作氏:
 動いてれば、そう見えてるのに(笑)。

松山氏:
 「どこに関節があるか分からない」とか言って(笑)。

矢作氏:
 そうですね、すいませんでした(笑)。

松山氏:
 いえいえ、とんでもないです(笑)。

鳥嶋氏:
 いい話だわ、いい話だ(笑)。でも、それが結果的にね、読者に伝わるんですよ。なぜかというと、ゲームを待っている読者はジーッと、その画面を見ているんだよね。

矢作氏:
 それしか情報がないですからね。

松山氏:
 『ジャンプ』は動かないんで。

矢作氏:
 買うか買わないかって迷ってる子に、カッコ良いと思ってもらいたいなと。当時は他のゲームも『ジャンプ』に載ってて、そっちはカッコ良かったんですよ、わりと。顔だけカッコ良いとか。

松山氏:
 他のゲームはみんな拳を握ってるんですよ。関節がいらないんです。グーの状態でパンチを前に出しているだけなんで、ぜんぜん問題ないんです。『NARUTO-ナルト-』はとにかく指の演技がすごく多かったんですよ。印を結ぶから。

鳥嶋氏:
 たしかに『ドラゴンボール』は印を結ばないからなぁ(笑)。

漫画の未来は、明るいと思いますよ

鳥嶋氏:
 「残り時間、あとわずかです」だって。

松山氏:
 どうまとめますか?(笑)

──僕はさっきの漫画アプリの話を、すごく興味深いと思いました。アプリの話をすると、ダウンロード数がどうのこうのとか、マーケット寄りの話になることがすごく多いんですけど、矢作さんからは、作り手の視点でのアプリの話がすごく出てきて。
 漫画アプリには入れ替える判断がないから本当にいい作品が磨かれる土壌がないというのは、ものすごく本質的というか、あまり語られていない部分のお話ですよね。

矢作氏:
 漫画アプリからは、すごく才能のある人が出てきていると思いますよ。ただ、その密度は薄いんじゃないですか。そんなには出てこない。

──ネットメディアから本当のヒット作がなかなか出ないのはなぜだろうと、僕はずっと疑問に思っていて。ネットメディアって、見る人の数だけで言えば膨大なんですよ。
 それなのに本当のヒット作が出てこないのは、何か原因があると思っていて。それはマーケットとかそういう話じゃなくて、おそらく作る側の仕組みだとか作り手の空気みたいなものが、1つの原因じゃないかと思うんです。

松山氏:
 作家さんが今、ネットで自分で発信するだけで、読者の反応があるじゃないですか。「編集者なんかいなくたって、自分は読者から“いいね”をいっぱいもらってる」という、そういった勘違いが起きているだけだと思うんです。

鳥嶋氏:
 そういう良い評判を持っている人が、中途半端なところで妥協してしまうと、もっとたくさんのものを持っているはずなのに、埋蔵量が見えていないんだよね。それを僕はもったいないと思うわけ。

 さっき矢作が言ったけど、やっぱりキャッチャーがいることで、単に球速が何キロってだけじゃなくて、受けた時の球のキレとかね、そういうものも含めた資質を見ることができる。

鵜之澤氏:
 ネットにこれだけいろんなものがあって、たとえばYouTubeにしても、その場さえ面白ければいいわけじゃないですか。
 それに対してお金を払う価値のあるものは、漫画の単行本もそうだし、ゲームもそうだけど、いわゆる作家性、作品性みたいなものを持っている。それに感動して、作っている人のためにお金を払おうって、みんな頭では分かってるんだよね、子どもでも。これを買ってあげると連載が続くとか、アニメが続くとかってことを。

 1円でもいいからお金を払うかどうか。やっぱりそこがアマチュアとプロの差じゃないかと思う。
 でもアマチュアが今、お金を稼げるようになっちゃった。e-Sportsにしても、YouTuberにしても。ゲームを作った人よりも、そのゲームを遊んで実況する人のほうがお金を稼いでる。それはちょっと悔しいよね、モノを作ってきた人間としては。

松山氏:
 でもそれはホントに、一握りの例外の話じゃないですか?

鵜之澤氏:
 『ジャンプ』ってね、ソシャゲとかと同じようにアンケートを基準にしているけれど、決してそれだけじゃない。
 ネットの場合はそれだけだから。フォロワー数、ビューワー数で今日はいくら入りました、というところで。そこからは本物は出てこないですよね。絶対に残らない。

矢作氏:
 僕もそう思うんですよね。そう思うんですけど、その一方で今は、e-Sportsの選手に憧れる子どもたちもいるし。ウチの娘はインスタばっかり見ているし、息子も動画ばっかり見てます。『FORTNITE』の動画も見てますよ。
 僕はけっこうスマホで漫画を読むんです。縦読みの漫画も読みますし。だけど娘は「面倒くさい」って言うんです。

 そういう子たちがどういうものを作っていくのか。そういう子たちが次は何を楽しいと思うのかは、その子たちにしか分からないですから。

 そういう意味で言うと、次の子たちが出てきた時にどう育ててあげられるかは、ここにいるみなさんの使命というか。松山さんも、いつまでもディレクターではダメなので(笑)。
 若い子に「何がいいの?」って、聞いてあげたほうがいいし。

松山氏:
 もちろん、もちろん! 若い人間にはドンドンやらせてますよ。

矢作氏:
 僕は編集作業を38歳で外れちゃって。『ジャンプ』って早いんですよ。だからよけいに、そう思うんです。

鳥嶋氏:
 オレも38で離れたな。

鵜之澤氏:
 やっぱり40過ぎちゃダメだよね。

矢作氏:
 だから鳥嶋さんが今、コミティアで新人の作品を見ているって聞いて、スゴいなと思ったんですけど。

 僕も若い作家の連載ネームを見て、自分の意見を言うんだけれども、「今の若い子がこう言うのなら、そっちが正しいのかな?」って気持ちもあるし。これは別に老いとか老化でもなく。

 だから逆に言うと、若い子が作ってきたものを感じ取れるというのは、僕らの力だと思うんですよ。だって僕の親が今の若い子の漫画を見て、それを面白いとは絶対に言わないですから(笑)。
 だから僕はそれを「今はこうなんだ」って感じられるようになりたいですね。

 でも漫画の未来は、明るいと思いますよ。

鳥嶋氏:
 なぜ?

矢作氏:
 だって今現在も、漫画がいちばんIPを生んでいますから。他で出てくることって、ほとんどないので。しかも紙がまだ優勢です。それは僕が紙の雑誌をやっているからなんですけど(笑)。
 でもさっき言った理由で、紙の雑誌はページ数が決まっている以上、始めるぶんだけ終わらないといけないので、そのぶん平等で、自浄作用がありますから。

──今日はこんなところで。いろいろ興味深い話が聞けたと思います。けっこう本音の話も出たのかなと。お疲れさまでした! (了)


 ここで語られているように、『ドラゴンボール』や『NARUTO-ナルト-』『ONE PIECE』といった『ジャンプ』の人気タイトルは、連載当初から大ヒットが約束されていたわけでは、決してない。
 読者アンケートによる他の連載漫画との人気争いに勝ち残るため、時には他の漫画を徹底的に分析して、より多くの読者に“届く”作品となるように磨きをかけていく。そうした不断の努力によって、世界的な大ヒット作へと成長していったことが、鳥嶋氏や矢作氏のコメントからよく分かる。

 なかでも驚きなのが、『週刊少年ジャンプ』における新人発掘のシステムだ。読者に感性がより近い、新人漫画家と新人編集者のタッグを意識的に作り上げて、そうした若い才能が活躍する場を、属人性を廃したシステムとして提供しているという。
 このシステムこそがまさに、革新的なヒット作がどの時代でも次々と生まれてくる、『ジャンプ』の“強さ”の秘密なのだ。

 だが現在、『ジャンプ』だけでなく漫画業界は大きな岐路に立っている。対談の中で矢作氏が投げかけていたように、WEBでの漫画アプリをはじめとする新しいメディアにおいて、『ジャンプ』のような新人発掘のシステムを作り上げることができるかどうかは、今後の漫画を左右する重要な鍵となるのではないだろうか。

 もちろんこれは、漫画業界に限った話ではない。ゲームから小説、音楽、映像といったあらゆるエンターテインメント、ひいてはあらゆる産業において、若い才能をどのようにして発掘し、その若い才能が活躍する場を“システムとして”どう整えるのか。
 未来へのビジョンを考える上で、これは非常に重要な課題だと言えるだろう。

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インタビュアー
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
編集
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai

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