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“一度失敗したゲーム”はなぜ復活するのか ― 『テクテクライフ』の裏にある執念を訊く

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『ドラゴンクエストウォーク』が発表されたことで、逆に迷いがなくなった

──サービス閉鎖の作業をしている中で、麻野さんは復活の宣言もされていましたよね。あれはどういう気持ちだったんですか?

麻野氏:
 雑誌でいう休載とか休刊みたいな感じですかね。復活を念頭にしているんだけど、「いったん止めます」という。当たり前の話ですけど、完全に復活できるかどうかの確約は、その時は何もなかったので。だから「がんばります」ぐらいの気持ちなんですけど。
 ただ僕も、Twitterで「復活する所存です」って書いちゃったんで(笑)。もう、やるしかないなって。

 それでまずは、先ほど田村が言っていましたがアンケートを取ったんです。復活した時に何を求められるかについて。

田村氏:
 自分たちだけで考えていても答えは出ないので、「お客さんの意見を聞く」という基本に立ち返ろうと。それでアンケートのフォームをゲームの中に仕込んで、ゲームから直接アンケートに答えられるようにしました。

麻野氏:
 そういうことができる時代なので。それをやったおかげで、RPGを求めているのは何割ぐらいなのか分かったのが、すごく大きかったですね。あのアンケートを取っていなかったら、新バージョンでRPG要素を抜くという決断はできなかった可能性があります。

田村氏:
 僕らの周りでも「えっ、なくすの?」って言われましたしね。

麻野氏:
 そうですね。「やっぱりモンスターと戦いたい」って。

田村氏:
 でも、僕らがそのアンケートを取った直後に『ドラゴンクエストウォーク』が発表されて、それでもう心が決まりました。

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──なるほど。

田村氏:
 『ドラゴンクエストウォーク』さんが出たことで、良くも悪くも「これでいいんだ。迷うな」って、踏ん切りがつきました。

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(画像はドラゴンクエストウォーク 公式プロモーションサイト | SQUARE ENIXより)

──ちなみに、麻野さんが「復活させる所存です」とツイートした時点では、川上さんや夏野さんにそういう話はしていたんですか?

田村氏:
 いや、全然(苦笑)。復活するにあたって、やっぱり交渉はちょっと時間がかかったんですよ。なにしろドワンゴさんとしてもお金がかかっていたので、そんな簡単にもいかない。

 ドワンゴの社長が新しく夏野さんに代わって。僕は夏野さんにそんなにお会いしたことがなかったので、どうなるんだろう?と不安なところもあった。でも、周りから「夏野さんは『テクテク』が好きだって言ってたよ」と聞いていたんです。
 それでお会いしに行ったら、「いいじゃん、やってよ」と僕らの話を聞いてくださって。それだけじゃなくて、「公式Twitterのアカウントも使っていいよ」と。「フォロワーが3万人もいるんですけど、いいんですか?」「いいよ!」みたいな。

一同:
 (笑)

田村氏:
 「べつに僕らが持ってたって、しょうがないじゃん」っていう。太っ腹な男気を見せていただいたのは、すごく嬉しかったですね。

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──そのへんは、僕ら電ファミも同じですね。「メディアとして残る方法を考えてくれたらいいよ」って夏野さんが言ってくれて、僕としても選択肢の幅が広がりましたから。

田村氏:
 夏野さんには、本当に感謝ですね。ストレートに「いいよ!」言ってくれたので。

“隣塗り”で連続タップすることに快感を覚える人は、予想していなかった

田村氏:
 これがさっきお話ししたアンケートの結果です。今回のクローズドベータで、改めてアンケートを採ったんですけど、年齢層はほぼそのままですね。40代と30代が多いっていう。

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 あとは、塗りが90%、バトルが8%っていう。これを見た時にもう、やることは決まりました。

──追加要素でほしいものは、「スタンプラリー」ですか。

田村氏:
 はい。『テクテクテクテク』でユーザーから喜ばれた要素は、RPGやドリップではなくて、やっぱり“塗り”だった。そして次にほしい要素は何かといったら、スタンプラリーだとか、地名の情報だとか、やっぱり地図や塗りに関連するものだったんです。

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麻野氏:
 現実の中で遊びたい、という感じが強かったですよね。「ここをラダトームとして」みたいな遊び方じゃなくて、現実の場所を巡って遊ぶことをしたいと。

田村氏:
 あとは“隣塗り”についても聞いたんですけど、これは25%が「好き」となっていて、50%が現地塗りと隣塗りの「両方をやってます」という結果だったんですね。だからこれは両方、ちゃんと残したほうがいいなと。

麻野氏:
 隣塗りが好きな人は、なるべく隣塗りだけをしたいっていう。あるいは何かの事情があって、外に出られない人だとか。なので、そこは要求しているものが分離している感じがありますね。逆に現地塗りが好きな人は、今回のアンケートでもここをこうしてほしい、というのがあんまりない感じですけど。

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田村氏:
 「いったん現地塗りしたところにもう1回行った時に、何かさせてほしい」というのはありますね。毎日の仕事で同じルートを往復していて、新しいところに行けない時もあるから、そこもなんとか拾ってほしい、というのは言われていたので。

麻野氏:
 そう。そこをどうするかなぁ。

田村氏:
 一方で、隣塗りが好きな方は、もう演出も全部カットして、とにかくずっと連打させてほしいと。

麻野氏:
 アクションゲームの一種だと捉えているんですかね? どっちかというと。

田村氏:
 そうですよね。それは麻野も予想してなかったところですね。地図をひたすら連続タップするっていう。

──どんどんと塗っていくこと、そのものが楽しいということですか?

麻野氏:
 たぶん、そうだと思います。

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田村氏:
 Twitterを見ていると、字が100%、100%、100%、チャンチャンチャンっていう、あれで「脳汁が出る」と言ってる方が、けっこう多くて(笑)。1UP! 2UP! 3UP!… みたいな感じなんでしょうかね。

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──でも、それは分かる気もします。結局、地図を塗るという行為自体に妙な快感があるんですよね。

田村氏:
 はいはい。隣塗りをされている方も、単にただ連打するだけじゃなくて、川は越えられないから、茨城県を周ってそこから船の航路を使って京都へ上陸するとか、ある種、地図を使ったシミュレーションみたいなことも含めて楽しんでくれていましたね。単純に何かを埋めていくアクションゲームというだけではなくて。
 これは『ドラゴンクエストウォーク』や『ポケモンGO』ではあり得なかった遊び方だと思います。

「失敗」と判断が下っているものに、投資を集める難しさ

──『テクテクテクテク』って、累計のダウンロード数やMAU(月間アクティブユーザー数)はどのぐらいだったんですか?

田村氏:
 最終的には35万くらいでしたね。MAUは14~5万で、DAUはいくつだったかな。閉じることを発表した後、3月から6月はずーっとMAU3.3万でしたね。同じ方がずーっと3.3万人、やってくれていましたね。

──サービス終了後のアクションって、すぐに動き出したんですか? それとも、ちょっと休憩期間があったんですか?

田村氏:
 いや、まったく休憩してないですね。むしろ並行していましたね。僕はプロデューサーとして運営も見ていたので、いろんなクローズ作業とかもやりながら、一方では麻野を中心に、企画会議をやっていました。

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──並行してやっている時には、投資のアテみたいなものってあったんですか?

田村氏:
 いや、まったくないです(笑)。

麻野氏:
 会社自体は7月に作ったんだよね?

田村氏:
 テクテクライフ株式会社は、7月24日に登記して作りました。僕と麻野は6月末までドワンゴに在籍していて。並行して登記をして、7月24日に会社ができた状態です。

麻野氏:
 だからまぁ、閉じる作業と、復活の作業を同時にやっている感じでしたね。

田村氏:
 6月ぐらいに、我々は場所を探さなきゃということで、麻野といろんなところを回って。もうボロボロの事務所とか、いろいろ見ましたよね。

麻野氏:
 うん。いろいろな不動産屋さんを回ったりして、非常にいい物件を見つけたのに、トイレが和式だと言ったら、スタッフから「それだけは勘弁してください」って言われたりだとか(苦笑)。

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一同:
 (笑)

──新会社に移った時は何人ぐらいだったんですか?

田村氏:
 役員としては僕と麻野と、あと2人。社員としては、それとあと1人のみですね。

麻野氏:
 それ以外に、外部で動いてもらっている方が何人かいます。

田村氏:
 『テクテクテクテク』の時に、非常に腕の良い人たちがフリーランスで何人か手伝ってくれたんですけど、その人達が引き続きやってくれていますね。その人たちにひとりずつ声をかけて「やりませんか?」と言ったら、「やるよ」と言ってくれたのが大きかったですね。

──じゃあ基本的にはフリーの人たちを中心に?

麻野氏:
 そうですね。週1の打ち合わせぐらいで、あとは自宅でやってもらうっていう。

──それが去年の7月ぐらいからずっと続いていると?

麻野氏:
 そうですね。

──ゲーム内のアンケート結果が出た去年7月~8月ぐらいの段階で、こういう方向で行くみたいな方針は決定していたんですか?

麻野氏:
 バトルを削るのって、いつ決めたんだっけ?

田村氏:
 その段階で決めていました。投資を集めないといけないので、それでプレゼンしてましたから。

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──逆に言うと、投資を集めたりプレゼンしたりする時に、RPG要素は削った上でやります、という話になるわけですよね。

麻野氏:
 そうですね。

──それはそれで、説明が難しそうな気がするんですが……。大丈夫だったんでしょうか。

麻野氏:
 まぁ実際、難しかったですね。それはRPGをどうするとかいう細かい話じゃなくて、そもそもプロジェクト自体が1回失敗しているものなので、「本当にうまくいくの?」みたいな感じで根本的に信用がなかったんです。
 バトルを外すことに関しては「選択と集中ですね。いいですね」と言うんだけど、じゃあ出資してくれるかっていうと、してくれない。そういう状況がしばらく続きました。

田村氏:
 サービス終了の話題が大きかったぶん、悪い印象も根強かったんです。投資を持ちかけた現場の方から「面白そうだから話を上げてみる」と言ってくれる会社もあったんですけど、上に行くとやっぱり落ちちゃう。「これ、前に失敗してるんでしょう?」って。

──以前、内々にお話を聞いた時に、今回はコストも抑えて、リクープラインを下げて戦うんだといったお話をされていましたよね?

田村氏:
 大きい会社ではなくなって、スタートアップ企業に戻したので、コストは本当に抑えています。会社が小さいぶん、コストも抑えられるので、刺激的な売り上げがなくても維持できるようにはしたいなと思っています。

 あとは今回、スタンプラリーを入れているのは、要望が高かったからというのもあるんですけど、じつはドワンゴ以前から、スタンプラリー的なもので、いろいろな企業さんと組めるなと思っていたんですね。もちろん、すぐにというわけにはいかないので、ある程度広まってくれれば、ですけど。

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 ドワンゴの時は「それはいずれ」という感じだったので。だから今回は、もともと僕がやりたかった方向に戻す感じですね。麻野がやりたかった塗りと、僕がやりたかった「O2O」(オンラインtoオフライン)的なところは、やれるなと思っています。

──スタンプラリー機能があって、現地のお店に行くとカードがもらえたり、特典があったりするのは、たしかに悪くないなと思いますね。

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田村氏:
 それ自体がすぐにマネタイズになるとは思っていないですけど、何かいい形になればと思っています。コロナの状況はありますけど、観光とかそういったものと上手く連動できればいいですね。

 マネタイズに関しても迷ったので、「どういう形ならお金を払いたいと思いますか?」というアンケートを採ったんです。その結果、賛否両論はあるんですけど、やっぱり“塗り”でお金を取るしかないな、と思いました。塗りをより便利にする、より楽しく塗る、ラクに塗るということに対してお金を払っていただこう、というのが正統かなと。

バッターボックスに立った実感がないままで終わってしまうと、悔いが残る

──しかし、お話を聞けば聞くほど、よく復活まで漕ぎ着けられましたよね……。途中、精神的なプレッシャーはなかったのですか?

麻野氏:
 いやもう、精神的なプレッシャーはめちゃくちゃ大きかったですね。一時期はもう、打ちのめされてどうしようもない時期もありました。
 閉じると決まった当初はそうでもなかったんですけど、やっぱり後からボディブローみたいに効いてきて。去年の8月頃とかは、本当に辛かったですね。

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田村氏:
 でも、復活プロジェクトに参画するって言ってくれたメンバーが、優秀な人たちだったんです。本当に手練の人たちが集まっていて、これでお金が集まらなかったら、「何してきたんだろう、この6年間は」ということになってしまう。プレッシャーは、ものすごくありましたね。

──ふむふむ。

田村氏:
 だからもう、麻野と一喜一憂がすごくて。担当の方が「ウチは金あるから1億円出せるよ!」って言って、「やったー!!」って。

麻野氏:
 それで結局ダメっていう。

田村氏:
 他の役員から「ちょっとなんか、マネタイズがあれじゃない?」って言われて、ダメになった時は、本当に落ち込みましたね。ちっちゃい祝杯をあげようって、麻野と串カツを食いながら祝杯あげたんだけど、翌週ダメって言われて。

麻野氏:
 大小合わせても、10社以上回ったかな?

田村氏:
 10社どころじゃない、数十社ですね。細かいのも含めると。

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 アフタードワンゴのほうが、ビフォードワンゴよりもキツかったですね。いったん世の中に出て判断が下っているものをもう一回やることの難しさっていうのは、今でもそうですけど、感じていますね。

 ビフォードワンゴは、まだ『ポケモンGO』が出る前だったので、いろんな会社が「面白そうだね」と言ってくれて。もちろん出資してもらうのは大変だったんですけど、でも実際に出資してもらったり、あと少しで出資が決まった会社も多かったんですね。
 それに比べて今回は本当に、精神的にキツかったので。やっと1年かけて落ち着いてきましたね。

麻野氏:
 結局、今年の3月ぐらい? そこまではまだ決まりきっていなかったので。いろんなことが。

──それまでは完全に自己資金なんですか?

田村氏:
 いや、途中で一部出していただいた会社があって。

麻野氏:
 2社から出資をいただいていて。そのうちの1社が去年の間になんとかなって。でも、それだけだとできないので。
 もう1社がギリギリ今年の春になんとかなって、まあ行けるかなという算段が立った状態ですね。もう本当にギリギリですね。

田村氏:
 まあ今でも、お金を節約しながら。僕としてはチームの編成を絞ったり、戻したりしながら、裏でお金の計算をしながらやっています。

──それでも「やり切ろう」という思いというか、執念って、何がそうさせるのですか? 諦めて別のプロジェクトに移るという選択肢もあるわけじゃないですか、仕事の仕方としては。

麻野氏:
 僕よりも田村君の執念がスゴいので(笑)。

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 田村君の「粘り」があるから、僕はなんとかついていけたみたいなところはあるけど。うん、そうですね。それが大きいかな。だから僕よりも、田村君が答えたほうがいいと思う。

田村氏:
 なんでしょうね。僕もゲーム会社をいくつか渡り歩いて、やりたいことをやれてるのかな?っていうのは、もう本当に40代後半になるまで、ずーーーーーっと思っていて。社内調整をやったり、会社間の調整だったり、プロデューサーをやったり宣伝をやったり、本当に「何をしたかったのかな?」という思いがずっとあって。

 麻野のほうは『かまいたち』を作ったり、ちゃんと新しいものを作って、残してということをできたと思うんですけど、僕自身は何もできてなかったんですよ。そこの会社に入って上手くやろう、ということしかできなくて。

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(画像はかまいたちの夜 | Wii U | 任天堂より)

 それで前の会社にいた時に、「何か自分のやりたいことをやりたい」と思ったんですけど、とはいえ何をすればいいのか、ぜんぜん分かんなかったんです。

 そんな時にスクエニの三宅陽一郎さんが、「麻野さんって、田村さんの先輩ですよね?」と声をかけてくれて。「麻野さんが『Ingress』のイベントに出るから、行きましょうよ」と誘ってくださったんです。でも麻野とは、じつはあんまり会ってなかったんですよね。

麻野氏:
 うん。ぜんぜん会ってなかった。

田村氏:
 ぜんぜん会ってなかったんですけど。でも、会場で麻野の話を聞いた時に「あっ、これだ!」と思って。僕がやりたいと思っていたボンヤリしたものが、その瞬間に「ビッ!」ってつながったんですよ。位置だとか、お店だとか。で、ナイアンティックの川島さんがゲストで出てきて、「『Ingress』のAPIを公開します」と言った瞬間に、もう僕は「これをやろう」って思ったんです。

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麻野氏:
 まぁ、結果的に『Ingress』のAPIを使うことはなかったけど。

田村氏:
 ナイアンティックさんといろいろ話をして、僕らがやろうとしている塗りとかまではできないなと思ったので、僕らで独自にやろうと判断したんですけど。
 あの時の衝動だけですね、今も。何かを残したいというか。残す? 違うな。なんだろう……。

麻野氏:
 やりきらないと悔いが残る、って感じだろうな。

田村氏:
 そうですね。ただなんだろう。ドワンゴの時に、これは面白いかどうかということに、あの時はもっと悩んでいたんですね。「これを本当に世の中に出す意味はあるのかな?」って。ドワンゴさんの人たちがみんなで盛り上がっている時も、そういうところで悩んでいたんです。

 でも世の中に出してみて、麻野が言ったとおり“塗り”が受け入れられて面白いとなった時に、「これはもうやめてはダメだ」と思いました。だから、そこからはまた違うモチベーションに切り替わったんです。「お客さんが喜んでいる」っていう。

麻野氏:
 あとはやっぱり、『テクテクテクテク』を出した時に「こうすればいいんじゃないか」っていう個人的な思いと、さっき言ったドワンゴさん側の「こういうふうに見せていきたい」というのがズレていたところがあって。僕らが思うベストな状態で失敗したんだったら諦められるけど。そこをやらないで「なんか変わったゲームが出たよね」になってしまうと、ちょっと寂しい。そこだけはもう一回トライしないと、悔いが残るところはありますよね、やっぱり。

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田村氏:
 ちゃんとバッターボックスに立ててないな、という感じですね。ストレートに言っちゃうと。
 ワーーーッて言われて試合には出たんだけど、まだバットも振っていない感じが、じつはまだ残っていて。実際には振っていて、「空振りじゃん」って言われたんですけど。去年お金集めしているあいだも、それは言われていて。

麻野氏:
 時間が短すぎて、やりたいと思うことができない間に終わってしまった感覚なんですね。本当は、バグを取るとか、バックグラウンドで動かすとか、そういう本来の機能を満足させることをやりたかったんだけど、でも時間がかかるから後回しにしていたら、次から次へといろんなキャンペーンとかをやんなきゃいけなくて。

 こっちはバットを振ろうと思ってるのに、その前にややこしいサインをいっぱい出されて、どうしていいか、まったく分からなくなったというか(苦笑)。

田村氏:
 「やりきった」感じがまるでなかったんですね。失敗するにしても、ちゃんとバットを振ってない感じがね。自分で始めたからには、自分でバットを振ったと思えるところまではやりきりたいんです。

──なるほど……。

田村氏:
 こればっかりだとドワンゴさんでのことが否定的になっちゃうかもしれないんですけど、夏野さんからは本当に気持ちよく送り出してもらっているので、繰り返しますが、本当に感謝しています。Twitterのアカウントもね、ものすごく大きいじゃないですか。以前のユーザー3万人にそのままお知らせできるなんて、こんなにありがたいことはないので。

──そういう意味では『テクテク』って、終わった時にドワンゴの社内も「終わって当然」みたいな空気ではなかったじゃないですか。「惜しいな」みたいな空気が少なからずあって。そのへんが1つのベースになっているというか。

田村氏:
 そうですね。僕や麻野だけじゃなくて、「もったいないね」と言ってくれた人たちが、いろんなところにいたのが大きかったですね。

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自分たち2人で始めたものだから、止めるのも続けるのも自分たちしかいない

──今やっぱりお2人の、特に田村さんの執念を感じますよね。普通は終わってしまうものを、そこまでの執念で続けようとするのは、スゴいことだなストレートに思います。

麻野氏:
 あんまり聞いたことないと思うんですけどね。他にあるかな? いったん終わったものが復活するのって。

──最近だと、ソーシャルゲームをスタンドアローンのアプリにして、少なくともシナリオだけは残しましょうというのがありましたけど、サービスとしてちゃんと復活する事例はほとんど聞かないですよね。

田村氏:
 ファイナンスを手伝っていただいた方から「田村さん、普通は復活しないから」って言われましたね。

麻野氏:
 日本では敗者復活がすごくしづらいと、よく言われるんです。アメリカだと「失敗を知っている経営者のほうが信用できる」というので、もう1回お金を出すという人がいるんだけど。

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田村氏:
 あぁ、そうか。

麻野氏:
 アメリカにはニューヨークがあり、サンフランシスコがあり、シアトルがあり、どこかで失敗しても別の街に行けばもう一回再起できるんだけど、日本には東京しかないからできない、っていう言い方をする人もいる(苦笑)。

田村氏:
 特に投資寄りの方々は、ゲームというと警戒しちゃって。一時期、ゲームへの投資って多かったんですけど、ことごとく失敗したっていう印象が残っているみたいで。「これ、ゲームですよね?」っていう。
 
──そうなんですか。
 
田村氏:
 「AIは?」「5Gは?」「IoTは?」とか言われたこともあるんですけど、僕としては「すいません。これはそういうやつじゃないんです」っていうしかない。
 一方で、ゲーム寄りのところに行くと、今度は「IPは?」「ガチャは?」って言われるわけです。

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──な、なるほど……。

田村氏:
 正直な話、諦めかけて途中でちょっと腐った時期もありました。だって「5G」とか「AI」とか、流行りのものを織り込んでいくようなスキルが、自分にはないから。

麻野氏:
 お金集めというのはまた、別の才能なんだよね。

──なんでもそうですけど、プロジェクトや仕事の終わらせ方というか、駄目だった仕事にどう向き合うのかって、すごく難しい話だと思うんです。
 普通なら、心の整理をつけて次に進むことすら難しいのに、今回のお話は、改めて真正面から向かい直すってお話じゃないですか。

麻野氏:
 そうですね。

田村氏:
 やっぱりその、辛い思いをしながらも、なんでやってるのかっていうのは、さっきお話したようないろいろな思いが混ざっていて、言葉では言い表せない感じがあるんですよね。心の中の衝動というか、その燻(くすぶ)りみたいなものがそうさせるんです。

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──話は少しそれちゃいますが、麻野さんと田村さんって、仕事で組んだのは初めてなんですか?

麻野氏:
 そうですね。『かまいたちの夜2』の時は、僕は監修っていってもほとんど何もしてなかったんですよ。出てきたものをちょっと見て、助言するぐらいで。田村君がもうちゃんと、プロデューサーとしてガシガシに動いていたので。その後に僕がチュンソフトを辞めて、田村君も辞めて、それからは1回なんかで会ったぐらいだね。

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(画像はかまいたちの夜2 特別篇 | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

田村氏:
 ただ、いま麻野さんは「『かまいたちの夜2』はほとんどやってないよ」と言ってましたけど、最後の最後で僕ら開発現場がグチャグチャになっている時に「ここはこうしなきゃダメだよ」っていう感じで、バサッとハサミを入れてくれたのは、すごく感謝しているんです。やっぱりオリジネーターは違うなぁ、っていう。
 麻野さんからしたら、別にもう今までやってたことと同じだったのかもしれないですけど、当時若手だった自分としては「そうか、始祖の人はこういう考えなんだな」って、グッと心に刺さったんです。
 だから、麻野さんと仕事をしたいと考えたとき、やっぱりオリジナルを作りたいなって思いはありましたよね。

──田村さんは、フリーのプロデューサーみたいな立ち回りをしたのは今回初めてだったんですか?

田村氏:
 初めてですね。これしかやってないです。

──世の中では、形にならなかったプロジェクトって山ほどあると思うんです。でも、そういうものって本当の意味での当事者(自分ごととして真剣に考える)がいないことが多いようにも思うんです。

 でも、『テクテクライフ』の場合は、いろいろ紆余曲折がありますが、少なくとも田村さんと麻野さんが当事者としてちゃんといるプロジェクトなんだ、だから今回みたいな復活があり得たんだな、というのはすごく感じますね。

田村氏:
 なるほど。確かにそうかもしれません。

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──これが会社から命令されたプロジェクトだったり、会社員として始めたプロジェクトだったら、たぶん終わらせてますよね?

田村氏:
 当然ですね。やる意味は何もないです。
 自分で始めたことだから、止めるのも続けるのも自分しかいないですから。この2人で「やめよう」って言ったら、この企画はすぐ終わりですよ。

麻野氏:
 まあでも、僕が「止める」って言っても、田村君は最後までやるよね(苦笑)。でも僕は田村君が「止める」って言ったら、できなかった。
 今回、もし何かあった時に、僕は止めようと思う日が来るかもしれないけど、田村君は続けると思う。その逆は無理がある。田村君が止めるとなったら、僕は続けられないと思う。

お互いが面白いと思うことをぶつけ合う“チュンソフトイズム”が、このゲームにはある

田村氏:
 あとやっぱり僕が感じるのは、チュンソフトっていう会社に学んだ“イズム”みたいなものが、すごく大きいなと思っていて。全員がフラットに、お互いに意見をぶつけるっていうスタンスなんですけど。誰が上だとかではなくて、エンジニアだから企画の話しちゃいけないとかっていうのもなくて。みんながお互いに面白いと思うことをぶつけ合う、っていうところがすごくありました。
 今のテクテクライフのチームには、そういう雰囲気? 熱気みたいなものがあって。それもプロジェクトを続けられた大きな要因の一つですね。

──へえ。

田村氏:
 言ってしまえば、麻野なんて50代後半のディレクターですよ。でも20代のスタッフが意見を言ったら麻野もちゃんと聞くし、僕らもそうだし。そこはすごく大きいですね。今まで僕が会社にいた時は、さすがにそこまではないですから。

麻野氏:
 そうですね。今はまたちょっとチームを小さくして、3~4人ぐらいでやってるんですけど。さっき言ったフリーランスでやってくれる人も含めて、みんなものすごくモチベーションが高くて。去年の7月からやってるんですけど、それはありがたかったですね。

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田村氏:
 例えばですけど、本当はスタンプラリーの実装をあきらめるつもりだったんですよ。お金もないし工数もかけられないから、「やりたかったけどしょうがないよ、止めよう。塗りだけでいいよ」って言って。そうしたら、スタッフの一人が勝手に作っちゃったんです。

麻野氏:
 モチベーション高いよね、みんな。

──麻野さんや田村さんのモチベーションが高いのは分かるんですけど、他の方々のモチベーションが高いのはなぜなんですか?

麻野氏:
 やっぱり、企画が変わってるんで、「面白そう」「面白くなりそうだ」というのが、いちばん大きかったみたいですね。
 スタッフの1人は、一時期シンガポールで位置ゲーみたいなのを作ろうとして、でもあんまり上手くいかなかったんだけど……ということをやってたらしいんですけど。その人も塗っていくのが非常に面白いと、「これはワンチャンありそうだから関わりたい」と言ってくれて。さっきも言ったように、「もう作っちゃいました」ってスタンプラリーを作ってくれたりして。それはやっぱり、中身に対して期待があるからだと思います。

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田村氏:
 今回はビジュアルをあまり変えていないので、エンジニアがメインなんですけど。みんな面白いことをやりたがっていた。新しいものを作っていきたいという人が多いですね。それで自前で独立して、フリーランスだったり、会社をやってますっていう人が参加したので、どちらかというと「面白そうだから」に尽きるんですよ。
 だからやっぱり、お金出してくれた方も参画してくれた人たちも、「可能性を感じました」ということしかないですね。

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──分かりました。個人的には、お二人の執念みたいなところをお聞きできたのが、すごく良かったと思います。では最後に、ローンチに向けての抱負を聞かせてください。

麻野氏:
 そうですね。やっぱり期待しています……というと、なんだか他人事みたいですけど、実際にフタを開けた時にどれぐらいの人がやってくれるかというのは、わからないところが大きいので、すごく期待していますね。
 それで、とにかく長く続けたい。今度こそは本当に一生遊べるようにしたい。前は「セミの一生」と言われたんだけど(笑)。

田村氏:
 『テクテクテクテク』の「一生歩ける」というキャッチコピーは、麻野が考えたんですけどね。「一生歩ける」と言いながら、2カ月で判断が下るっていう。

麻野氏:
 セミかよって(泣)。

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田村氏:
 出オチ感がすごかった。

 だから今回は、なんとか途切れないようにしたいと思っています。みなさんのお声をしっかり聞いた上で、やれることに落として、最大限やれる範囲でやろうと思っています。Twitter上で応援の声が多いので……まあ人数はそんなに多くないのかもしれないけど。でも、まずはとにかく、その人たちの応援にしっかり応えたいですね。
(了)

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 紆余曲折ありながらも、新たなスタートを切ろうとしている『テクテクライフ』。今回の取材では、ゲーム制作という巨大なプロジェクトを進めていく難しさや、またそれに従事する “中の人”たちの苦悩や執念、あるいは情熱といったものを、多少なりともお伝えできたのではないかと思う。

 取材をするにあたって、個人的に興味があったのは、決して楽ではないであろう“復活”という茨の道を、彼らがなぜ、どんな覚悟でやろうとしているか?であった。
 インタビュー中でも語られていたように、一度、失敗のレッテルを貼られたプロジェクトを復活させることは容易なことではない。いろいろな批判に耐えながらも協力者を探し資金を集め、チームを鼓舞し、さらには自分自身をも奮い立たせながら、仕事を進めていかなければならないからだ。

 それでもやり切ろうとするのは、責任感やプライドはもちろんだが、なにより「これは良いもののはずだ」と、信じる情熱があってこそなのだろう。
 世の中、成功するよりも失敗するプロジェクトの方が多い。であれば、失敗したプロジェクトにどう向き合うかが、仕事人としてとても大切なことなのではないか。そんなことを考えされた取材であった。

 10月1日にローンチを控えた本作。その成功を期待したい限りだ。

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『テクテクライフ』開発者インタビュー。約半年でサービスが終了した前作からの復活劇と、新作での変更点、サブスクなどの新要素に迫る – ファミ通.com

 本記事では、そんな『テクテクライフ』の開発に携わる、麻野一哉氏と田村寛人氏に、改めて前作のサービスが終了した経緯や変更点のほか、クローズドベータテストの反響などついて伺った。

インタビュアー
“一度失敗したゲーム”はなぜ復活するのか ― 『テクテクライフ』の裏にある執念を訊く_055
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
ライター
“一度失敗したゲーム”はなぜ復活するのか ― 『テクテクライフ』の裏にある執念を訊く_056
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
編集
“一度失敗したゲーム”はなぜ復活するのか ― 『テクテクライフ』の裏にある執念を訊く_057
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai

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