これまでの『ガンダム』とは違う効果音だけど、質量のサイズがちゃんと合っている
イシイ氏:
富野さんもそうですし、宮崎駿さんや高畑勲さんもそうなんですけど、クリエイターって全部を独占しようとするじゃないですか。
一方で、マーベルではケヴィン・ファイギ【※】という豪腕プロデューサーが「お前はこっちでがんばるよりも、こっちのほうが向いてるよ」みたいな感じで、クリエイターやリソースを管理していて、それによってマーベル・シネマティック・ユニバースという巨大なものをコントロールしてますよね。
小形さんもケヴィン・ファイギのようなプロデュースを意識されたりはしているんですか?
小形氏:
ケヴィン・ファイギの良いところは、たぶん全部を握ってはいるんだろうけど、自分の色というより、ちゃんと作品ごとの色を出せている点だと思います。
それが『アベンジャーズ』で全部集まるとより強い色になるっていうのが素晴らしいなと。
『ガンダム』というかサンライズが目指すべき位置として、今のマーベル・スタジオのあり方はディズニーとの関係性も含めて、いちばん理想的な形だと思います。
そこは意識していますけど、じゃあ実際にマーベルは何をやっているのかは、自分も知りたいですけど、そこまでよくはわかっていないですね。
イシイ氏:
僕も本を書くので調べたんですけど、マーベルのやり方ってぜんぜん翻訳されていなくて、見つかんないんですよ。
小形氏:
2019年かな、サンディエゴ・コミコンでマーベルの発表会を見ましたけど、やっぱりあれは理想ですよね。本当は『ガンダム』でもああいうことをやれたらいいなと思ったりはしているんですけど、そこまでやっぱりまだまだ広がりがあるわけではないので。
マーベルみたいに、1年に何本も劇場映画を同時に走らせるほどのパワーはないんですけど、でもあれはコンテンツとしてのひとつの理想形になっていますね。
イシイ氏:
でもマーベルだって、11〜12年ぐらいであそこまでの規模になっていますから。そう考えると勇気づけられますよね。だってガンダムで言えば、『00[ダブルオー]』と『SEED』と宇宙世紀を毎年3本ぐらいやる、みたいなこと一社でやれているわけですから。
小形氏:
そこまでいけるかどうかは難しそうですけど、『ガンダム』もちゃんと1年に1本は劇場映画をやって、TVもやって、それがしっかりと毎年毎年楽しめるものにしたいな、という思いは確かにありますね。
ただサンライズって、もともとは劇場用アニメをそんなに作る会社じゃなかったんですよ。ウチってあくまでもTVシリーズが主体で、映画はあくまでTVシリーズの「劇場版」という考え方だったんです。
劇場用のアニメって、やっぱりマッドハウスだったりプロダクションIGだったり、ああいったところが作るものが本来の劇場アニメだという感覚が、作っている僕らの側にもあったんですね。
今までの『ガンダム』の劇場版って、『逆襲のシャア』が興行収入13億円を超えてますけど、平成に入ってからは『機動戦士ガンダム00』の9億円が最高なんです。
それは「劇場の館数を100館以上に広げなかったから」というのも理由なんですが、なぜそうしたかというと、「『ガンダム』の限界値ってだいたい25万人プラスアルファだよね」と言われていたからなんです。
でも今後はそれこそハリウッド版もあるし、これから『ガンダム』を海外に持っていくためには、まず日本国内で劇場版がちゃんとヒットしなくちゃいけない。まぁ『名探偵コナン』とか『シン・エヴァンゲリオン』とか、あそこまでのクラスに行くのはなかなか大変ですけどね……。
でも『ガンダム』の劇場版を毎回映画館でやるからには、年間のチャートに入るなり週間の1位になるなり、そういうことをしっかりやっていかなきゃいけないというのは、やっぱりあったので。
それで『UC』はイベント上映だったので、『ナラティブ』でちょっと実験したんです。実験といったらちょっとおかしいですけど、少し館数を広げて、一回ロードショーをやってみようということで。
そうやって『ガンダム』の今の母数を確認して、じゃあ次は『ハサウェイ』でこういう宣伝展開をやっていって、今回で興収10億円を超えようというのを目標にしていたところがあったんです。
イシイ氏:
そうやって準備をしてきて作られた『ハサウェイ』が、良い意味でとんでもなく跳ねた作品になったわけですよね。
小形氏:
それでも『ハサウェイ』がこうなったのは、タイミングとクリエイターがカチッとハマってくれたことがやっぱり大きいですね。
とはいえ完成するまでは不安でしたよ。自信はあったんだけど、画面は暗いし、大丈夫なのかなって(笑)。あとは、さっきイシイさんもおっしゃられていた通り、富野さん的な手法を使っているようで、じつは使っていないんですよ。
映画の前半をわざと重くして会話劇にしているのは、ハサウェイの心情をずっと積んで積んで、最後のシーンでΞ(クスィー)に乗る時に、いちばんピークに持っていくようにしているからなんです。そのために前半の、ダンスシーンからのメッサーの襲撃までは、けっこう重く作っていて。
そこの作りがどういうふうに受け取られるのかなというのは、じつはすごく不安だったんです。富野さんも同じスタジオだから、チラチラと絵コンテを見ているんですけど、そこに関しては「なんで立ってずっとしゃべってるんだ」みたいなことを言っていて(笑)。
──それは怖いですね(笑)。
小形氏:
まぁたしかに、富野さんだったらここはカメラを動かすなりして、場面をパッパと転換していくよな、とは僕も思うんです。でもそこで「あっ、村瀬さんはこういう設計をしていたんだ」と僕も気づいたのは、今回のもうひとりのキーマンとして笠松広司さんの音響が入ってからなんです。
音響演出の笠松さんは、『∀ガンダム』の劇場版で音響効果を担当されたりしていた方で。あとは『機動戦士ガンダム劇場版 特別編』でサウンドデザインを担当したのも、笠松さんなんです。
イシイ氏:
あぁ、あの5.1ch音声になって効果音がまるっきり変わっちゃったヤツですね。
小形氏:
笠松さんは1本目だけを担当して、その後はジブリ作品に参加されて『風立ちぬ』で、飛行機のプロペラ音とかを全部、人間の口で効果を作ったとかが有名ですよね。
イシイ氏:
伝説の方ですね。
小形氏:
『UC』以降の音響効果は、西村睦弘さんというもともとフィズ【※】に在籍していた方で、ファースト『ガンダム』の音ネタを元にして、現代風にしてもらっていたんです。 でも村瀬さんが今回はこれまでの音じゃなくて、立体的な空間の音響をやりたいと。
※フィズ
アニメーションなどの音響効果制作を行う老舗企業、フィズサウンドクリエイションのこと。フィズは旧社名の石田サウンドプロ時代から、『秘密戦隊ゴレンジャー』などの実写ヒーロー番組や、『機動戦士ガンダム』をはじめとするロボットアニメの音響効果を担当しており、モビルスーツの歩行音やビームライフルの発射音といった、アニメファンにはおなじみの効果音の数々がこの会社から生み出されている。
じゃあ音響の設計から変えていかなきゃいけないですね、という話になって。『UC』や『Gレコ』は木村絵理子さんに音響監督をずっとお願いしていたんですけど、じつは笠松さんの参加したジブリ作品は木村さんのコンビなんですよ。
アフレコのほうを木村さんが担当して、その音声をもらった笠松さんが、映画全体の音響を全部組み立てていくという。木村さんは僕らとしてもいちばん信頼できる音響監督なので、ではその組み合わせでお願いしましょう、という流れだったんです。
今回の作品はアニメ的な芝居というよりは人物がその場にいるような方向性で、セリフで状況を説明する代わりに、環境音等で説明している箇所がかなり多いんです。
特に前半シーンの会話劇だったりとか、ダバオ市街のシーンだとか、いちばんスゴイのは空襲のところですけど、村瀬さんが考えていた「間」の部分を、笠松さんにすごく丁寧に表現いただいて。
イシイ氏:
なるほど。たしかに今回、2機のモビルスーツが同一フレームに入るシーンがすごく少なかったりするじゃないですか。あのビームサーベルで斬り結ぶところだけ、急に「昔のガンダムだ!」みたいなカットが入るんですけど、それ以外にはそういう場面がほとんどないし。それに効果音も今までとは全部違うじゃないですか。
そうすると、ふだんの『ガンダム』だったら「これは違う」とか思うんだろうけど、今回の『ハサウェイ』はなんだろう、「現在はこうだよね」と思って聞けましたね。
それで今、お話を聞いて思ったのが、笠松さんは『機動戦士ガンダム劇場版 特別編』で効果音の変更しましたけど、ファンからの評判は悪かったじゃないですか。
それってなぜかというと、リアルな音を追求した結果、モビルスーツ同士がぶつかったら自動車がぶつかったような音がしたりして、逆にスケールダウンしちゃったように思えたことだと思うんですよ。「たしかにリアルだけど、これは違う」みたいな。
でも今回は、「あっ、これが納得できる音なんだ」と思いましたね。本当に『特別編』のあの音を思い出したんです。
あのガシャーン! っていうリアルな音を出された時に「違う」と思ったのに対して、今回はリアルな音なんだけど、質量のサイズがちゃんと合っているんです。
小形氏:
そうなんですよ。
イシイ氏:
たぶんそれは、「笠松さんがやりたかったことに、デジタルの進歩がやっと追いついた」ということなんだろうなと思って。『F91』で村瀬さんがやりきれなかったという思いを抱えたのと同じように、音響の笠松さんも自分のやりたかったことに20年ぐらいかけて蓄積していって、今回ようやくたどり着いたんだろうなと。
小形氏:
そうですね、結果そうなったという感じですね。
イシイ氏:
クリエイターって、自分が上手くできなかったことをずっと後悔しているんですよね。それを今回、タイミングよく再現できたのは素晴らしいなと思います。
小形氏:
今回は効果音を変えたのも、不安要素ではあったんですよ。僕としてもやっぱり、あのビーム音が鳴ってほしいとか、あの起動音が鳴ってほしいとか思うほうなので。
でも今回は「違う」という思いよりは、「良かった」とか「カッコイイ」っていう思いのほうが強かった。
それはたぶん笠松さんなりの積み重ねと、村瀬さんの音への考え方がちゃんとリンクした結果なんだと思います。
笠松さんは、絵コンテを見ながら村瀬さんの世界に「潜る」って言い方をするんですよ。2人の作り方は、「そこの空間にいたらどう聞こえるか」というところですべてが成り立っている。それが今回の『ハサウェイ』の作りのベースになっているんじゃないかと思います。
富野さんの原作小説と村瀬さんの作風をちょっとずつ寄せ合うことで、いいバランスになった
イシイ氏:
小形さんって、『ガンダム』のTVシリーズはリアルタイムでは見ていないですよね?
小形氏:
僕は1974年生まれなので、幼稚園の時にリアルタイムで見ているかもしれないけど、でも記憶にあるのは再放送という、ガンプラ世代です。
イシイ氏:
ファースト『ガンダム』を最初に見た時に、僕の記憶にあるのって大気圏に突入するときの、あの摩擦熱なんですよ。正確には圧縮熱なんですけど。
「大気圏突入時には高熱が発生する」という、『宇宙戦艦ヤマト』では表現しなかったことをちゃんとやったというのと、あとは第1話のサイド7に出てくる有線ミサイルですよね。その2つが僕にとっては、とんでもなく新しいSFに見えたんです。
そこにはやっぱり「今まで見たことのない新しい表現が『ガンダム』である」っていう気持ちがあって。
その中で「富野さんならここまでやってくれる」という想定で、『F91』まではどんどんと表現を更新していったんだけど、今回の『ハサウェイ』はそれと同じように、ちゃんと更新してくれた喜びがあるんです。富野由悠季の生まれ変わりというか、今までの蓄積ではない富野由悠季が出てきたらこれだよね、と。
小形氏:
そうですね。みんなが求めていた富野さんの未来図のひとつになれたのかなと。でも富野さん本人には「お前は原理主義者だ」って言われてますが(笑)。
イシイ氏:
この映画を観て、原理主義者だと言われたんですか?
小形氏:
そうです。でも、言われてみればたしかにその通りかもしれない(笑)。
イシイ氏:
富野さん特有の逆張りかもしれないですね。
小形氏:
富野さんからは「もっと構成を映画的にしろ」と言われていたんです。富野さん自身も指摘していましたけど、今回のお話ではハサウェイが自分の組織に近づいていくというけっこう難しいことをやっているので。
その分かりにくい部分についてはじつは別案があったんですけど、それだとハサウェイにあまり感情移入できない感じになってしまい、小説に近い方向に戻したという経緯があるんです。
むとうさんからあがってきた脚本は富野節をかなり中和していたんですけど、それを村瀬さんが絵コンテの段階でけっこう直して、また元に戻したということもあったりして。
結局、どれが正解だったのかは分かんないですね。難しいです。
イシイ氏:
『イデオン』の劇場版と、ファースト『ガンダム』の劇場版三部作って、富野さんがまだ絵を信じていた時代だと思うんですね。その後って、絵を100パーセントは信じられなくて、自分の演出とセリフでなんとかしようと思っているじゃないですか。
小形氏:
そうですね。
──「絵を信じられない」というのは、映像だけでは伝わりきらないと思って、説明のセリフを加えたりするという意味ですか?
イシイ氏:
そういうことです。でも今回の『ハサウェイ』は、本来の富野さんのセリフの省き方に戻っている感じがしたんです。
原作の小説だと、もうちょっとセリフが多いじゃないですか。でも富野さんは絵を信じていたら、これぐらいセリフを省いてくるよなって。
小形氏:
村瀬さんは逆に「自分のセリフ回しだったらもっと間を取っている」と言ってるんですよ。これの前に村瀬さんが監督した『虐殺器官』と比べるとよく分かると思うんですけど、『虐殺器官』の場合はもっと間を取っていて、実写に近い方向性だったんです。
今回は、それと富野さんのちょうど中間に近いですね。みんながちょっとずつ寄せているところで、いいバランスになったのかなというのはありますね。
イシイ氏:
奇跡的ですね。
小形氏:
村瀬さん的にも、もっとピーキーに振ることはいくらでもできたはずなんです。色味につていもかなり暗いと言われていますけど、村瀬さんはまだまだもっと攻めたかったと言っていて。
本当に自分が暗いところに置かれた時に、いったいどう見えるかってことを再現したかったから、ああいうフィルムになっていると思うんです。本来だったらそれをもっと突き詰めるところを、「これは『ガンダム』だから」っていう枕詞をひとつ置くことによって、もうちょっとマス寄りというか、分かりやすさもちゃんと出せている。そのバランスが今回、すごくいいところにハマっているなとは思います。
イシイ氏:
そういう組み合わせってありますよね。『君の名は。』と『言の葉の庭』の違いというか。
──ある意味マイナー志向な作風だった新海誠監督に対して、東宝の川村元気プロデューサーがいろんなダメ出しをしていった結果、超メジャーな大ヒット作である『君の名は。』が生まれたという話ですね。
イシイ氏:
やっぱり新海さんといえば『言の葉の庭』でしょ! って(笑)。
たしかに凝縮されているよねとは思うんだけど、『君の名は。』を観ると「これは純粋な新海さんと違う」と思いつつ、でもキャラクターの気持ちとかがめっちゃ伝わってくるという。あの感覚が、今回も生まれていると思いますよ。
富野さんは『ハサウェイ』を観て「なにくそ!」と思いながら『Gレコ』を作っている
イシイ氏:
あと小形さんの戦略としてもう一点、ここに至るまでに『サンダーボルト』を通ってきたじゃないですか。あれも、すごく冒険した作品でしたよね。
小形氏:
『サンダーボルト』はですね、『UC』の後に『ハサウェイ』をやることが決まっていたんですよ。ただ、その時点では村瀬さんが『虐殺器官』をまだ終わっていなかったというのもあって、まだしばらく時間がかかりそうで。
じゃあその間に、せっかく『UC』で熟成されたスタッフが何をすればいいんだろうと。『UC』って、「手描きのメカアニメでいちばん良いものを作ろう」と思って作った作品だったので、そのリソースがある中で、じゃあ何をすればいいのか。
その時にメカスタッフのほうから逆に、「『サンダーボルト』をやりたい」という声が出てきたんです。そこで、「こんな大変なものをやりたいと言うのならやりましょう」と。その代わり、言ったからには責任を取ってねと。
だから僕としては、本当はそのまま『ハサウェイ』のほうに持っていきたかったんです。でも結果としては、村瀬さんはぜんぜん違う作り方にいったんですけどね。
イシイ氏:
でも『サンダーボルト』のルートがないと、『ハサウェイ』にはたどり着かないんですよ。
小形氏:
それはそうですね。たどり着かないですね。
イシイ氏:
『UC』から直で『ハサウェイ』って、僕の中ではちょっとつながらなかったんですよ。それで『サンダーボルト』では、富野さんのものではないリアリティみたいなものを立ち上げているじゃないですか。
僕も『サンダーボルト』を観たことで、富野さんじゃない宇宙世紀のリアルというものがいったん自分の中に入っているので、『ハサウェイ』にもスッと入り込めたというか。
だから本当に『ハサウェイ』に向けて、いろんなものを育てているなって感覚がありましたね。
小形氏:
そうですね。スタッフも年齢を重ねるし、参加する人たちも変わってくるので、スタジオワークとしても同じ作り方をずっとは続けられないわけです。その中で、どういうふうにフィルムとして進化していくかを目指していかなきゃならない。
だから、イシイさんのおっしゃるとおり『UC』をやって、その後に『サンダーボルト』をやった意味は、『ハサウェイ』にしっかりつながっているとは思いますね。
しかもその途中には『Gレコ』があって、富野さんがそのつながりを否定する、ということもあるし(笑)。
イシイ氏:
『Gレコ』がないと、富野さんが乱入してくるじゃないですか(笑)。実際はそうじゃないのかもしれないですけど。
小形氏:
いや、そうだったかもしれません(笑)。
イシイ氏:
小形さんが『ハサウェイ』を作りたいとしたら、富野さんは『Gレコ』をやっていてもらわないといけない。そして村瀬さんが来るまでは、スタジオを維持していかなくちゃならない。
小形氏:
そうです。それはスタジオワークとしてやっています。
イシイ氏:
いやもう、小形さんは『ガンダム』の諸葛孔明ですよ(笑)。全部計算づくじゃないですか。
小形氏:
いやいや、計算づくじゃないですよ、富野さんにも怒られてますし。計算づくであんなに怒られる孔明なんて、いないですよ(笑)。
でも富野さんは富野さんで、「なにくそ!」と思って、『Gレコ』の制作を毎日必死にやってますから。
イシイ氏:
小形さんはいわゆる「富野番」なんですよね?
小形氏:
そうですね。最近ずっと怒られ続けてはいるんですが、僕自身は多分富野原理主義者、『ガンダム』原理主義者なんですけど、一方で自分がプロデュースする時はバランスを考えちゃうんですよね。『ハサウェイ』の時はこういう振り切り方をしようとか、『UC』だとこうだよね、富野さんとやる時はこうだよね、っていう感じの仕事の仕方ですね。
その時の仕事によってけっこうスタンスを変えるというか、ジェネラリストの極致みたいな役回りですね。『シティハンター』からここまで、いろんな振り幅がありました。
イシイ氏:
あぁ、そうか。このあいだの『シティハンター』劇場版も……
小形氏:
アレも僕ですね。
イシイ氏:
もし小形さんが富野さん若い頃からそばにいたとしたら、宮崎駿に対抗できていたんじゃないかと思いますよ(笑)。
小形氏:
いやぁ、鈴木敏夫さんが担っている役割って、僕とはぜんぜん比べ物にならないと思いますよ(笑)。
富野さん的には本当はそういう人が欲しかっただろうし、1980年代前半のあの頃に、鈴木敏夫さんは宮崎さんを選んだっていうのもあると思うんですけど。
でも富野さん自身が、プロデュースする部分も自分で担いたいと思う派なので、正直なかなか並び立たないとは思いますね。
イシイ氏:
でも『ハサウェイ』が富野さんの次の作品を刺激してくれたら、めちゃくちゃ嬉しいですけどね。小形さんは大変かもしれないですけど(笑)。
小形氏:
まぁ、大変ですね(笑)。
イシイ氏:
「『ハサウェイ』ぐらいのリソースを寄こせ」って言い出したら大変ですよね。
小形氏:
でもたぶん、そのとき言い出すのはリソースじゃないとは思います。富野さんは、こういう方向性とは真逆のものをやりたいと思っているからです。
キャラクターひとつとっても、富野さん的には今、宮崎駿さんというよりは高畑勲さんを追いかけている感じがすごくしますね。