10年後には『ガンダム』を、マーベルや『スター・ウォーズ』に負けないIPにする
イシイ氏:
小形さんのこれからの仕事は『ハサウェイ』と『UC』の続編になるんですか?
小形氏:
そうですね、この間も福井晴敏さんと対談をしましたけど、福井さんとはもともと『UC』の続きをやろうという話をしてましたので。
今ざっくりと考えているのが、宇宙世紀100年にはジオン共和国の自治権放棄という設定があるので、その話になるのか。それとも『ハサウェイ』の後の話になるのか、というあたりで。
その辺りは福井さんがイスカンダルから帰ってきてからじゃないと分からない、という感じです。たぶんまだしばらくは、あっちの宇宙から帰ってこれないと思うので。
イシイ氏:
あっちも楽しみですけどね。
小形氏:
こちらも、『ハサウェイ』がまだぜんぜん終わらないので。
イシイ氏:
そうですね。だから『ハサウェイ』の次に小形さんが何を考えているのかっていうのは、まだ言えないでしょうけど、やっぱり気になりますね。
小形氏:
僕としては、今はどっちかというと単体の作品というよりは、『ガンダム』全体をどう整えるかという問題を考えています。
『ガンダム』の今後としては、レジェンダリーとやるハリウッド版が、ひとつの大きなきっかけになると思います。なので、その前後にどういった作品を配置してみなさんに楽しんでいただくか。
あとは日本国内ではもう、ある程度下地ができあがっていると思いますので、これを僕ら世代が上手く次の世代につなげていくということを、しっかりとやっていかなきゃいけないですよね。
『ハサウェイ』も、メインは僕らの世代に向けてやってはいるんです。でも主題歌を[Alexandros]にお願いしたのは、やっぱり僕らだけじゃなくて、その下の世代もちゃんと楽しんでくださいねというメッセージなんです。
今後の目標は、国内で言ったら「世代交代」。それは前の世代が引退するわけじゃなくて、次の世代に「自分たちのガンダムだ」と思えるものが、クリエイターも含めて出てきてもらいたい。そこに関しては後押ししたいと思っています。
海外に関してはまだまだこれからなので、ハリウッド版のガンダムを起点として、『ガンダム』というものの世界的な認知度を高めていく。
それは映像だけじゃなくて、プラモデルだったりゲームとかも含めて、バンダイグループ全体で取り組むプロジェクトになりますね。それをグローバルに広げていって、「5年後、10年後には『スター・ウォーズ』やマーベルに負けないIPにする」というのが、僕の一番の使命かなと思っています。
──そこでちょっと気になるのですが、今はまだ『ガンダム』がグローバルに行けていない理由って、何なのでしょうか? あるいは、『ガンダム』をグローバル化するにあたって、何が必要とされるんでしょうか。
小形氏:
もともとロボットアニメというもの自体が、世界的にはすごくニッチな存在なんですよね。「じゃあ『トランスフォーマー』はロボット物じゃないのか?」と言われるかもしれないですけど、アレって巨大ロボというよりはクルマの延長線上に近いと思うんです。
だから巨大ロボットものって『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』も含めて、日本プラスアジア地域でいきなりできあがった文化みたいなとこがあるんです。だから海外、特に欧米の人たちにとっては、少し異質に見えてるはずで。
──だからこそ、1970年代にヨーロッパの人たちが初めて『グレンダイザー』を見た時に、カルチャーショックに近いインパクトがあったわけですね。
小形氏:
そういう意味で欧米の人にとっては、あまり日常的に接するものではないという意識があったんです。でもここ数年の配信プラットフォームの普及で、今まで日常的に見ることのなかったロボットものを見る機会が、海外でもものすごく増えてきいて。
ハリウッド映画の『レディ・プレイヤー1』や『パシフィック・リム』も含めて、だいぶ風色が変わってきているという実感はあります。
もちろん、『ガンダム』をいきなりマーベルや『スター・ウォーズ』みたいに一気にマスに広げるような方策は取らないとは思いますが。ただ、それこそ昔の『スター・ウォーズ』がそうだったように、ニッチの世界の中でのナンバーワンを獲りたいなとは思います。
逆に言うと「巨大ロボットを映像化する技術」って、ディズニーですらやらないし、できないことだと思うんですよ。向こうも別にそこで勝負していないから、対抗してこないはずなんです。
だからこそ、そこの部分に関しては、勝負するだけの価値があると思っています。
──世界的に見れば、ロボットものだけじゃなくて、アニメもまだニッチな存在じゃないですか。だから、アニメ的なフォルムのロボットって、海外ではそれをストレートに良いと思う人がまだ少ないと思うんです。
でも、どこかで「スゴそう」「おもしろそう」というとっかかりを持たせないと、受け入れてもらえないじゃないですか。その意味で、レジェンダリー版『ガンダム』はいったいどのあたりを狙っているのでしょうか?
アニメ的な絵作りの延長にあるのか、それとも、たとえば宇宙空間が舞台ということでSFの文脈に乗っかった絵作りになるのか。
小形氏:
先日ようやく監督が決まったところで、絵作りも含めてどういう方向性になるかというのはこれからなんですが。
監督のジョーダン(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ【※】)は、逆に僕が心配になるぐらい『ガンダム』シリーズを観ているんですよ(笑)。
ジョーダンは『ガンダム』以外の富野さんの作品もかなりリスペクトしていて。最近も『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』を全部観て、ヒューマン・デブリの回とか、このへんがすごい良かったみたいなことを言ってきて、「わかった、わかった」っていうぐらいのレベルなんで(笑)。
一同:
(笑)。
小形氏:
今回のハリウッド版『ガンダム』の魅力としては、やっぱり100億円くらいのバジェットの映像が作れる、というところになると思います。
それだけの規模であれば、今までアニメーションではできなかった表現もできるだろうし、良い意味でハリウッドの資金力で叩いてもらいたいですね。
もちろんレジェンダリー側としても、グローバルにやるというのは前提命題ですし。オリジナルの『ガンダム』の魅力をどれだけ引き出せられるかという勝負になるんじゃないかと思います。
レジェンダリー自体は日本の文化に対してものすごくリスペクトがあるところなので、お互いの良いところを上手く掛け合わせられるといいかなと思いますね。ただレジェンダリーのCaleというプロデューサーは、いかにもハリウッドのプロデューサーという感じの豪快なキャラクターなので、時々「大丈夫かな?」って思ったりしますけど(笑)。
一同:
(笑)。
小形氏:
でも実際、彼らの日本の文化やアニメ文化に対する愛情はかなり大きいんですよ。
世界的にもそういったアニメ文化っていうものが、最近のSNSだったりデジタルの普及によって、だいぶ昔よりは一般的に受け入れやすい土壌になりつつありますし、そういう利点を上手く活かしたいですね。
「スタッフを入れ替えてシリーズを活性化させる」というサイクルは、富野さんが作った
──どちらかと言えば、日本の『ガンダム』の良さをむしろちゃんと残して、グローバルニッチを取り切る、みたいなイメージですか?
小形氏:
イメージとしては、まさにその方向でしょうね。今度のハリウッド版『ガンダム』は人口比率で考えたら、かなり多くの人にとっての「ファーストガンダム」になるはずなんですよ。
なので、そこをしっかり意識した上で作りたいとは思っています。それが富野さん的なものなのか、ぜんぜん違うものなのかっていうのは、これからの話になりますが。
ただ、『ガンダム』をやる以上は意識しなくても富野さん的なものがどんどん出てきちゃうんですよね、やっぱり。そういった意味では、いろいろ怒ったりもしますけど、それでも半歩退いたプロデューサー視点で許容している富野さんが、やっぱりスゴイんだと思います。
富野さんとしては『ガンダム』は自分の作品だと思っている。それを他人が監督するのって、本当はすごく耐え難いことだと思うんですけど、でもそこを閉じちゃうと先に繋がらなくなってしまう。実際、そうやってダメになってしまったIPは、これまでにたくさんあったと思いますから。
イシイ氏:
『機動武闘伝Gガンダム』でぜんぜん違う世界に変わり、『機動戦士ガンダムSEED』でまた変わり、『機動戦士ガンダムUC』で宇宙世紀もやり、しかも今度の『ハサウェイ』では自分が書いた小説の映画化もOKするという……。そのへんの富野さんの懐の広さはスゴイですよね。
小形氏:
普通だったら、自分の書いたものなんて「なんだ、これは!」と言って絶対にやらせないでしょうから。まぁ、富野さんも「なんだ、これは!」とは言いますけど(笑)。
一同:
(笑)
イシイ氏:
富野さんは怒るのがデフォルトな人なんだけど、じつはすごく懐が広いという(笑)。
小形氏:
今の『ガンダム』の発展を考える上で、そこはすごく重要なところですね。
──『ガンダム』って、ずっと更新されてはいるけど原点は40年以上前に生まれたという意味である種古いものじゃないですか。でも、『ハサウェイ』はそこに今風の映像表現や作りを乗っけたことで、ちゃんと新しいものになっている。なぜそんなことができたのか、もうちょっと詳しくお聞きしたいです。
小形氏:
『ガンダム』の作り方というか、僕が富野さんのそばにいてみていたのは「新しい作品をやる時に、前の作品を壊す」ということなんですよ。
『Zガンダム』は本気で『ガンダム』を潰そうと思って作っているし、『ZZ』もそういうところがあると思うんですね。『逆シャア』も『ガンダム』を終わらせようとしているし。富野さんはいつも、自分がやったことを一回忘れて、ぜんぜん違うところから始めようとするんです。最終的には戻ってきちゃうこともよくあるんですけど。
もうひとつ、その作り方の利点としては、毎回スタッフが入れ替えるということですね。富野さんは変わらないんだけど、その時々の旬のスタッフを集めてくる。
安彦良和さん【※】がずっとやってくれなかったというのも根底にあるとは思うんですけど、結果的にスタッフを入れ替えることで作品自体の寿命がどんどん伸びていくという作り方になった。じつはこれって、富野さんが発明したサイクルだと思います。
※安彦良和
『機動戦士ガンダム』でキャラクターデザインと総作画監督を担当したアニメーター。『ガンダム』以前にも、『勇者ライディーン』や『無敵超人ザンボット3』で富野監督とタッグを組んでいる。『ガンダム』以降、安彦氏は自身の監督作や漫画の執筆に力を注ぐようになり、『機動戦士Zガンダム』でメインキャラクターのデザインを担当した以外、富野監督と本格的にタッグを組んだことはない。
コンテンツって一回売れると、最初のクリエイターの人たちがずーっと作り続けるんですけど、やっぱり血の入れ替えや循環がないと、作るものがどうしても固まっていっちゃうんです。
仮に富野さんと安彦さんと大河原邦男が今、一緒に作品を作ったとしても、『めぐりあい宇宙』みたいな作品ができるかといったら、分からないと思います。
その時その時でスタッフを入れ替えていって、たまたまクリエイターと時代のタイミングの掛け算がうまくいったときに跳ねる、みたいな循環が『ガンダム』というIP全体でできあがっているんです。
新しい血が入ってくる土壌としても『ガンダム』は熟成されていて、言ってしまえばもうネット全体というか、日本全体に「オレは『ガンダム』はこうだと思うんだ」っていうような人たちがたくさんいて。クリエイターにしても、カトキハジメさん【※】のような人たちが入ってきて、また作品に循環しているっていう。
だから『ガンダム』って、そうしたファンコミュニティを含めた巨大なクラウドになっているんですね。その中でサンライズが、カトキさんみたいに美味しいところをピックアップする、みたいな。
※カトキハジメ
雑誌連載企画『ガンダム・センチネル』のメカデザインで注目されて、OVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』から、モビルスーツのデザインを手がけるようになる。以後、『ガンダム』シリーズや『機動警察パトレイバー』シリーズなど、多数のアニメでメカデザインを担当するほか、『電脳戦機バーチャロン』をはじめとするゲームでのメカデザイン、ガンプラのデザイン監修など、その活動は多岐に渡っている。
一同:
(笑)。
小形氏:
今後はそれを日本だけじゃなくて、海外まで含めたところでやれればなと。
今回ハリウッドでやることでひとつ面白いなと思うのは、今後は全世界の人たちやスタッフが『ガンダム』クラウドに参入してくることですよ。その人たちが考えるガンダムは、デザインや方向性もまたひとつ違ったものになってくると思います。
そういう形でコンテンツとして、どんどんどん大きくなっていけたら、いちばん良いかなとは思っています。
『ガンダム』という基本のフレームが強固だから、その上で新しいことがなんでもできる
──たとえばビームライフルの音だとか、今まで「ガンダムってこういうものだよね」というお作法があったわけじゃないですか。それって有効で魅力的であるがゆえに受け継がれていたものだとは思うんですが、一方で呪縛にもなりうると思うんですよ。たぶん、『ハサウェイ』の映像でビームライフルの音が昔のままだったら、古臭く感じてしまったはずで。
でも、今回の『ハサウェイ』ってそういう呪縛を断ち切れていますよね。断ち切れているがゆえに、新しい人が何も知らずに観ても違和感がないし、本来であれば「違うじゃん!」と怒るであろう古参のファンも、作品の力で黙らせたわけで。
口で言うのは簡単ですけど、伝統のお作法を断ち切って新しく作りきるって、これって並大抵のことではないはずなんですよ。
小形氏:
じつはその呪縛は断ち切れていなくてですね(笑)。僕らはやっぱりゼロから新しく作ってはいないんです。音にしても、ファースト『ガンダム』の音があったからこそ、今回の音になっているんですね。
たしかに新しい音に聞こえると思うんですけど、じつは根っこは一緒なんです。音響の笠松さんにしろ僕らにしろ、作る側の頭の中ではやっぱり、あのビームライフルの音が鳴っているんです。
今回提示できたのは、「それが現代の音として再現されるとこういう表現ですよ」ということなんだと思います。まあ、この呪縛は難しいですね(笑)。
イシイ氏:
そういう意味では『ガンダム』って、一作一作いろんな球を打っているんですよ。
たとえば『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』なんて、すごくクラシックなことをやっているんですけど、アレがもしすごく受け入れられていたとしたら、そっちの方向に舵を切っていたかもしれない。
そんな感じで、『ガンダム』は毎回「ここはあまりウケなかったから、じゃあこれを残してここを新しくしよう」みたいな実験を積み重ねてるんですね。
その中で今回の『ハサウェイ』は、最適解がポーンと出てきた感じなんですよ。
──なるほど、そういうことですか。
イシイ氏:
『THE ORIGIN』や『Gレコ』、アナザーガンダムや宇宙世紀シリーズといった、たくさんの実験があった中で、『ハサウェイ』がようやくここにたどり着いたんです。ここだけを狙って打つというのは、さすがにリスクが高すぎるし、すごく難しいと思いますよ。
小形氏:
それで言うと『ガンダム』の面白いところっていうのは、『THE ORIGIN』も、『Gレコ』も『ハサウェイ』もそれが全部『ガンダム』の括りでできちゃうところなんですよね。
それは『ガンダム』という一番最初のフレームが、すごくしっかりしているからこそできることなんです。『ガンダム』という土台のフレームだけは、何をしてもブレない。
逆に言うと、そこにどんな新しいものをぶち込もうと何をしようと、結局は『ガンダム』になっちゃうということでもあるんですが。日本のロボットものやメカものが、「最終的にはみんな『ガンダム』になっちゃう」と言われるのも、そのフレームの強さがあるからなんじゃないかと思います。
──なるほど。これから『ガンダム』をグローバルに展開していくにあたって、『ハサウェイ』ってそれこそベンチマークになりそうだな、という思いましたので。
小形氏:
そういう意味で『ハサウェイ』は、進化の系統樹の枝のひとつなんです。こっちの系統樹には『SEED』もあれば『00』もあって、向こうの枝には『THE ORIGIN』もある、みたいな。
その枝の良い・悪いは人によってぜんぜん変わってくるとは思うんですけど、系統樹のいちばん根っこの部分には、ファーストの劇場版三部作があるという。
イシイ氏:
『ハサウェイ』は進化の系統樹の中で、急に突然変異の枝が生えてきた感じはしますけどね(笑)。いろんな進化をしていくうちに、いきなり恐竜みたいな太い枝がボンッと出てきたぞ、って。
あと、今のお話を聞いてたしかに、『ガンダム』が日本のロボットアニメを殺したと、今になってみれば思いますよね。残ったのは『エヴァ』だけで(笑)。
小形氏:
『ガンダム』って『マクロス』的な要素も吸収したりしてますからね。それはクリエイターもそうで。
ロボットアニメで良い作品を作った人は、その後に『ガンダム』をやったりするじゃないですか。そういう受け皿にもなれるというのは、本当にスゴイですよね。
イシイ氏:
でもやっぱり、富野さんがあれだけ現役でありながら、属人性を超えているっていうのは、富野さんの才能でもあり、サンライズという組織の面白さでもある、というところはありますよね。
普通は多様性のある展開をやろうと思っても、作家本人が「ダメ」と言うのがほとんどで。作家さんの才能は起爆剤である一方で、ブレーキにもなっちゃうわけですよ。でも『ガンダム』は現時点でそこから抜け出して、これだけの多様性を持てている。ほんとに奇跡的だと思いますよ。
小形氏:
でも、富野さんには「お前はオレが死んだと思っているだろう」と言われましたよ(笑)。
一同:
(爆笑)。
小形氏:
もちろん思ってません(笑)。
──いまのお話を聞くと、それこそマーベルよりも『ガンダム』のほうが多様性が大きそうですよね。
イシイ氏:
『ガンダム』はとっくの昔にマルチバース化してますからね。宇宙世紀っていうのは『ガンダム』ユニバースのひとつでしかなくて、他に『SEED』も『00』も『オルフェンズ』も、あらゆるものがありますよと。それを『∀ガンダム』で黒歴史という名のマルチバースとして統合しましたし。
もともと日本では『仮面ライダー』とかも含めてマルチバースの考え方自体はだいぶ前から浸透していて。そこは日本のオタクとして誇らしいですよ(笑)。
小形氏:
あとはアニメーションという媒体の持つ力ですよね。そこは富野さんもよく言っているんですけど、「何かのメッセージを発信するのに、これだけいろんなものをその中にくるんで、みんなのもとに届けられるシステムはない」と。 アニメーションの持っている機能というか役割として、実写よりもそういった部分が伝わりやすい。だからそこの部分では、実写よりも優位性があるのかなと思います。(了)
『機動戦士ガンダム』をはじめ、人気アニメを多数制作しているサンライズだが、同社に所属しているプロデューサーはこれまで、「作品のプロデュース」という点で注目されることはあまり多くなかったように思う。
というのも、サンライズではTVシリーズを手がける総監督が、作品のシリーズ展開からプロモーションまで直接指揮するプロデューサー的な役割を担っていることが多く、本来のプロデューサーは作品の制作を支える縁の下の力持ち的な役割に徹して、あまり表に出てきたがらないという事情があるからだ。
今回の対談で繰り返し話題に出た富野由悠季監督はその代表的な例だが、『装甲機兵ボトムズ』の高橋良輔監督や、『コードギアス』シリーズの谷口悟朗監督なども、そうしたセルフプロデュースに長けている印象が強い。
特に『ガンダム』に関しては、単にアニメ業界に留まらないその存在感の大きさにも関わらず、近年は「ガンプラ」をはじめとする周辺ビジネスの話題ばかりが先行しがちで、作品やシリーズそのものの戦略や方針を、受け手であるファンの側が具体的に知ることは少なかったように思う。
それだけに今回、小形プロデューサーがイシイジロウ氏との対談の中で、劇場版『ハサウェイ』の狙いや制作上のポイントを自ら説明してくれただけでなく、ハリウッド版『ガンダム』を軸とした今後のグローバル展開について、これほど明瞭に分かりやすく語ってくれたのは意外な驚きだった。
40年以上の歴史がある『ガンダム』がさらに次のステップに進むためには、いったい何が必要なのか。現状をしっかりと分析した上で、その先に向かう方向を示してみせる小形プロデューサーの言葉は、非常に信頼感のあるものだ。
小形氏を直接知るイシイ氏も、その手腕を高く評価しており、今回の対談相手に小形氏を指名したのも、実際に行われた対談の内容を見れば納得だった。
今後予定されている劇場版『ハサウェイ』の第2部や第3部、そしてさらにその先の作品と、小形氏がプロデュースする『ガンダム』の世界はいったいどこまで広がるのか、大いに期待したい。
また、冒頭でも触れたイシイ氏が設定考証で参加している実写ドラマ『ガンダムビルドリアル』(全6話)は現在バンダイチャンネルにて無料配信中だ。この機会にぜひご覧になってはいかがだろうか。