サイバーコネクトツーは、社名変更前の時代と合わせ、25年以上もゲーム業界の最前線で戦い続けてきた開発会社である。手がけた作品は数多く、その方向性も様々だが、ユーザー視点で見た場合、大別すると3つの認識に分かれることだろう。
まずひとつ目は、オンラインゲームを題材としたアクションRPG『.hack』を生み出した会社という認識だ。小説などでMMORPGを題材とした作品が出始めた黎明期に、ゲームという切り口でいち早くこのテーマに取りかかり、見事に表現した手腕や着眼点の鋭さは、当時のPS2ユーザーの記憶に色濃く残った。
その後『.hack』は、漫画やアニメなどのメディア展開に繋がったほか、ゲームとしても『.hack//G.U.』をリリース。さらにこの『.hack//G.U.』は、 2017年にHDリマスターされ『.hack//G.U. Last Recode』として蘇った。こうした展開の多彩さは、多くのユーザーに支持された何よりの証だ。
そしてふたつ目は、大人気作品を驚異的な再現度でゲーム化する会社という印象だ。『NARUTO-ナルト-』は様々な会社がゲーム化に着手してきたが、同社が手がけた作品群は『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズと呼ばれ、作品数も2桁に上っている。PS2から始まった本シリーズは、PS4やNintendo Switchにまで及んでおり、漫画を題材にしたゲームがこれだけ長く愛され続けている例は非常に少ない。
この他にも、『ジョジョの奇妙な冒険』や『ドラゴンボールZ』のゲーム化も手がけているほか、直近では『鬼滅の刃』のゲーム化にあたる『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』の発売が控えている。そのため、「人気作品を高い再現度でゲーム化する開発会社」として認識している方も多いことと思う。
そして3つ目は、「リトルテイルブロンクス」シリーズを掲げている会社、という点だ。『.hack』シリーズや人気作品のゲーム化による印象と比べると、このイメージを持つユーザーは少ないかもしれない。特に、若いゲームファンにとっては、「リトルテイルブロンクス」というワードは、あまり聞き慣れない単語だろう。
人間のような身体に進化した「イヌヒト」と「ネコヒト」たちが浮遊大陸で暮らす世界──それが「リトルテイルブロンクス」の世界だ。しかも、この世界観を持つ記念すべき1作目『テイルコンチェルト』(1998年)は、同社が手がけた初の作品にもなった。そのためゲーム歴の長いユーザーにとっては、この「リトルテイルブロンクス」を掲げる会社、という印象も根強い。
しかも「リトルテイルブロンクス」構想は、『テイルコンチェルト』だけに留まらず、10年以上の時を経て、2010年に『Solatorobo それからCODAへ』を生み出す。そして、再び10年の時を超え、2021年7月29日に『戦場のフーガ』が発売を迎えた。
サイバーコネクトツーが、長い年月を経てもなお、「リトルテイルブロンクス」作品を手がけ続けるのはなぜなのか。また、この『戦場のフーガ』は同社にとって初の自社パブリックタイトルでもある。
こうした新たな挑戦に挑んだ理由や、『戦場のフーガ』そのものが持つ魅力について、サイバーコネクトツー代表取締役社長であり、原作・原案を担当した松山洋氏と、本作の制作プロデューサーを務める新里裕人氏に直接伺ってみた。
「リトルテイルブロンクス」が歩んだ歴史や、いくつもの壁をサイバーコネクトツーがどのように乗り越えたのか。そして、『戦場のフーガ』にはどんな仕掛けとゲーム体験が用意されているのか。同社の狙いや意気込みなどが赤裸々すぎるほど語られたインタビューを通して、『戦場のフーガ』とサイバーコネクトツーの本質に迫ってみたい。
「ケモノ」「浮遊大陸」「ロボ」という3つの十字架
──サイバーコネクトツーは『.hack』や『ASURA’S WRATH アスラズ ラース』といったオリジナルタイトルの開発も手掛けられており、その中でもいわゆるケモノキャラクターが登場する作品群は「リトルテイルブロンクス」と呼ばれていますよね。
過去にはPS1の『テイルコンチェルト』、ニンテンドーDSの『Solatorobo それからCODAへ』(以下、Solatorobo)がシリーズ作ですが、今回発売される『戦場のフーガ』は、そんな「リトルテイルブロンクス」の最新作であると。それにしても松山さんは、本当にケモノキャラクターがお好きですよね。
松山氏:
はい、大好きでございます。
──本題に入る前にお伺いしておきたいのですが、松山さんは本当にケモノキャラクターが好きで、それこそPS1の頃からそういうゲームを作られているわけじゃないですか。ただ、『テイルコンチェルト』にしろ『Solatorobo』にしろ、ケモノという部分で苦労があったと伺っています。
それを知ってる身からすると、またケモノでチャレンジするんですか!?と思う部分がありまして。今回は、そういったところから入っていければと思います。
松山氏:
なるほど(笑)。では、まずは『テイルコンチェルト』からお話しします。発売元は、当時のバンダイ(現 バンダイナムコエンターテインメント)さんです。『テイルコンチェルト』制作中や販売直前のバンダイさんの評価は、「これはいける、売れる!」といったもので、期待が高まっていました。
──当時は3Dゲームの黎明期でしたよね。
松山氏:
「まさかプレイステーションで、『スーパーマリオ64』のようなアクションADVが遊べるなんて!」と、大盛り上がりだったんです。そのため、バンダイさんも宣伝費を結構かけてくれて。体験版を作ってくれましたし、東京ゲームショウでも大きく打ち出してもらいましたね。
期待値が高かった『テイルコンチェルト』ですが、蓋を開けてみると……ざっくり言うと、ワールドワイドで15万本くらい。悪くはないですが、イメージでは「30万本くらいいくだろう」と思っていたため、「あれ、そんなもん?」とちょっと拍子抜けで。
そして、後にバンダイさんから、このゲームにはよくない要素が3つあると言われました。
──といいますと……?
松山氏:
まず、「そもそも、ケモノはハードル高いね」と(笑)。
さらに、「浮遊大陸だけど、地に足ついてないのはダメだよ」とも言われました。もちろん、あくまで当時のバンダイさんの意見ですけども、浮遊大陸モノで売れたものはひとつもないから、と。
そして最後のひとつが、ロボ。大きく言えば、メカも含みますが……これが出ている時点で、「男の子しかターゲットになっていない」と。もちろん、『テイルコンチェルト』はいろんな人に楽しんでもらえるように作りましたが、ロボを扱うならば、それくらいの覚悟が必要だと。
これらはいずれもハードルが高いから、「そこはちょっと反省だよね」「もうちょっと整理すべきだったね」みたいな話を言われまして。
──三重のハードルは重たい言葉ですね。
松山氏:
でも我々は、「いやいや、そこじゃねーだろ」と思っていましたね(笑)。
もちろん、開発の人数が少なく、練り込み不足だった点があるのは否めません。例えば、クリア後のオマケもなく、やり込み要素が足りていませんでした。そのため、もう一度勝負したいという思いが強くありました。
なので『テイルコンチェルト2』などの企画を、当時のバンダイさんにもかなり強く提案したんですが……「大ヒットしなかったゲームの続編はいらないよね」と先方から言われまして(笑)。
──これ以上ないほどの断言ですね(笑)。
松山氏:
その時は、「はっきり言うな、こいつ……」って思っていたんですが、その彼は今や、バンダイナムコスタジオの代表取締役社長になられています。
──内山大輔さん【※】ですね。
※内山大輔
バンダイナムコエンターテインメントにて、コンシューマゲームのプロデューサーとして「ドラゴンボール」や「NARUTO -ナルト-」などといったキャラクターゲームほか、様々なゲームに参画。過去には、「.hack」シリーズの初代担当プロデューサーとして、クロスメディア・プロジェクトも立ち上げた。現在は、バンダイナムコスタジオ代表取締役社長。
松山氏:
「サラリーマンから社長になれるんだ、あいつスゲーな!」って思いました。
で、ずっと企画が通らなかったので、『テイルコンチェルト2』や続編はさすがに無理だろうと考えました。ですが、我々としては、たとえ三重のハードル……いや、3つの十字架を背負おうとも、作りたかった。
そこで、「リトルテイルブロンクス」の世界で、装いも新たに『Solatorobo』という企画を10年かけて作り、当時のバンダイナムコさんに再提案して、2010年にニンテンドーDS向けソフトとして発売されるに至りました。
──『Solatorobo』には、さきほど伺った3つの十字架がしっかりと入っていますが、どういった経緯でOKが出たのでしょうか。
松山氏:
まぁ……執念ですよ。当時、バンダイナムコの副社長は鵜之澤【※】さんだったんですけど、この鵜さんに企画を持っていったところ、「いらない」という反応だったんです。
※鵜之澤伸
バンダイナムコゲームス(現:バンダイナムコエンターテインメント)元社長。1981年にバンダイに入社し、ホビー部で「ガンプラ」や「ザブングル」といった玩具の営業・企画に関わった。1983年からはフロンティア事業部で映画やアニメのプロデュースを開始。以降、『機動警察パトレイバー』(TVシリーズ、OVA)など多数の作品をプロデュースする。現在は、バンダイナムコホールディングスIP戦略本部のアドバイザー。
それでも諦めず、ずっと「やらせてください」と言ってたんですけど、鵜さんは「ダメだ」と。だからしょうがないので、任天堂さんに直談判しに行きました。
──えっ?
松山氏:
「これバンナムさんで進めているんですよね? 大丈夫ですよね? 設定資料とかめちゃめちゃありますけど」「いやなんかね……ダメって言われるからさ……」と言って。「だから、どう?」って(笑)。
──(笑)。ものすごい変化球……いえ、むしろ剛速球ですね。
松山氏:
そうしたら、おそらく任天堂さん側が心配したのだと思いますけど、私が帰った後、鵜さんに連絡がいったらしいんですよ。で、鵜さんはビックリして。「任天堂さんに行ったの?」と(笑)。
それで翌日鵜さんに呼び出されて、注意されました。
──それは注意されても仕方ない気がします(笑)。
松山氏:
で、ついにOKをいただけました。
──執念の末にもぎ取られたんですね。
松山氏:
ただそのとき、鵜さんには「ケモノだけじゃ、やっぱりダメだと思うよ。人間出せないの? ケモノは感情移入しにくい人もいる」みたいなことも言われましたね。
ロボに関しては、まあバンダイナムコさんなので「いいよ」と(笑)。浮遊大陸も、「ファンタジー世界と考えたらいいか」みたいな話になりましたが、でも「ケモノは厳しいよ」「人間いないの? ひとりも出てこないの?」って。
──その質問には、どんなお答えを?
松山氏:
「…………いるよ」って(笑)。
──(笑)。
松山氏:
嘘はついてないんですよ! ただ、人間というか……ケモノが人間化するというか……。まあ、それが条件だったので、そのあと設定を練り直して、「ハイブリット」と呼ばれる“人間化”を盛り込む形になりました。
これで落ち着いたかなと思いましたが、一部のケモノ好きの方からは、「違うんだよ!」「人間になるとか、そーじゃなくて!」と言われまして。
──反響があったわけですね(笑)。
松山氏:
「ケモノはケモノのままでいてくれ」「分かってねーなー!」と、だいぶお叱りを受けました。なので、はっきりお伝えしておきますが……皆様、ご安心ください。『戦場のフーガ』は、人間の姿にはなりません!!!
──それは朗報かもしれませんね(笑)。それにしても改めてお伺いすると、『Solatorobo』は本当に大変な道のりを経たリリースだったんですね。
松山氏:
構想10年、開発3年でした。ニンテンドーDSのゲームで3年かけるって、なかなかですよ。この作品で、新たに勝負をさせていただきました。『Solatorobo』の時も、ケモノで、浮遊大陸で、ロボで、と。
──3つの十字架にも真っ向から挑んだと。
松山氏:
もうね、我々からすると十字架じゃないんですよ。柱なんです。ご馳走なんです。美味しいもの×美味しいもの×美味しいものなんです。だから我々は、この3本柱を変えませんでした。『テイルコンチェルト』で踏み込みが甘かったことを反省し、お客さんの目線で信頼を得られるように尽力しました。やり込み要素やボリューム、通信プレイなど、やれること全部を入れ込んで、ゲーム的には死角がない状態にして。
──『テイルコンチェルト』の反省点は、バンダイさんに言われた3つの十字架ではなく、ゲームの完成度と見て、そこをひたすら磨いたんですね。
松山氏:
その代わり、「1年で作ると言ったけど、すまんあれは嘘だ」でしたね(笑)。結局3年かかってしまったので。当時のバンナムさんには「ごめんなさい」って。
で、『Solatorobo』は、ワールドワイドで大体10万本くらいでしたね。ただ、その出来の良さから、欧州の任天堂さんが「これ、任天堂で売りますよ」と言ってくれまして。なので、欧州版の発売元は任天堂さんだったんですよ。
──任天堂に認められた作品だったんですね。
松山氏:
任天堂さんに認めていただけたというのは、すごく嬉しかったですね。そういったこともあり、『Solatorobo』は非常に高い評価をいただきました。
ケモノは絶対メジャーになる
──『Solatorobo』の開発にこぎつけるまでも一苦労でしたし、条件として受け入れた人間要素を盛り込み、お叱りも受けました。それでも、「リトルテイルブロンクス」を続けることを選び、今回初のパブリッシングタイトルとして『戦場のフーガ』を生み出したのはなぜなのでしょうか。
松山氏:
我々は、「リトルテイルブロンクス」の世界を諦めることはありません。仮に『戦場のフーガ』がどういう結果になっても。それこそ手を変え品を変え、また新たなケモノゲームを作ります。
そもそもとして、濃いファンの方からのニーズはあると思っています。そして、濃いファンの方々は大事にしたいし、ケモノ好きの方々も一定層います。我々自身もそうです。そこを信じているのは前提ですが、さらに「ケモノ」というのが単なるニッチな世界ではなく、どこかのタイミングでメジャーに広がるきっかけが絶対あると私は思っているんですよ。
私が幼少期の頃、TVアニメの「名探偵ホームズ」を見た時、「これこそが王道だ!」と感じた直感を、今も信じて疑っていません。
ただ、今の世の中全体を見た時、ケモノ作品で大きく売れたものって、まだそんなになくて。だからこそ我々は、会社設立から25年間が経ちましたが、ケモノの王道を貫き通す会社として立ち向かい続けてきましたし、その道のりの最先端が『戦場のフーガ』になります。
──ケモノが持つ魅力やポテンシャルを信じ続け、『戦場のフーガ』に至ったわけですね。
松山氏:
はい。ただ、『Solatorobo』までは、先ほどの3本柱はまったく変わっていませんが、今回はスマッシュヒットを狙う短期間開発です。まあすでに3年掛かっているんですが、短期間開発と最初は言ってました(笑)。
期間はともあれ、「一個のトンガリで勝負をする」という、いわゆる天元突破でやっていく以上、3本柱のままではなく絞りましょう、となりました。もちろん、どの要素も内包はされているんですが。
──「ケモノ」「浮遊大陸」「ロボ」の3つを、『戦場のフーガ』はどのように絞ったのでしょうか。
松山氏:
『戦場のフーガ』は、「ケモノ」に絞りました。ケモノへの取り組み方は変わっていませんし、それはビジュアルからも分かると思います。
残りの2つについては……一応、設定上は浮遊大陸です。しかし、浮遊大陸ならではの要素は一切掘り下げていません。仮に「浮遊大陸ではありません」と言われても、お客さんは気づかないでしょう。浮島とかは見えるので、よく見ると「浮遊大陸なのかな」というレベルです。
そして「ロボ」ですが、これも今回は出てきません。これは、設定上の意味合いもありますが、その代わり今回は“奇妙で不思議な戦車”が出る。どちらかと言うと、ミリタリーな方向ですね。
このような形になっているので、「浮遊大陸」と「ロボ」は、あまり表には出ない感じですね。「ケモノ」と「戦車」、そして「ソウルキャノン」と「12人の子どもたち」というのが、本作のキーワードです。