オリジナル楽曲作家とは相思相愛のような関係が築けている
──それぞれのユニットの「セカイ」に、イベントのたびに新しいバーチャル・シンガーが現れていますが、こうした展開には何か理由があるのでしょうか?
桝井氏:
やはりキャラクターたちの成長によって新たな出会いが生まれるっていう展開をやりたかったというのはあります。ユーザーさんたちの中にも、現実にミクさん達に出会ったことで考え方や価値観が広がった経験をされている方も多いと思うんです。
そうした変化ってユニットによってスピードは違っていて、たとえばニーゴはちょっとゆっくりだったりするんですけど、心の成長に従ってだんだん受け入れられていくというか、繫がりが増えていくというのはやりたかった部分ですね。
近藤氏:
成長に限らず、心のゆらぎといったそれ自体はポジティブとは言えない変化も、新しいバーチャル・シンガーが現れるきっかけになっています。
──ここ最近まで、女性キャラクターだけで構成されたユニットのセカイにいるのは女性のバーチャル・シンガーのみでしたけど、「ハッピー・ラブリー・エブリデイ!」ではモモジャンのセカイに鏡音レンが登場して、「おっ」と思いました。
桝井氏:
それは楽曲的な事情なんですよね。女性だけのユニットに男性キャラクターを加えるための模索をセガさんと相談しながら続けていたものが、ようやくこのタイミングで、という感じです。
近藤氏:
女性的な声と男性的な声を馴染むように混ぜ合わせるのが、技術的に大変というのがあったんですよ。クリプトンさんとセガさんのサウンドチームの方々による試行錯誤で、もう問題ないだろうという話になりました。
もともと、すべてのセカイにすべてのバーチャル・シンガーが登場することは決まっていたのですが、いまはもうあと少しというところです。
──オリジナル楽曲についてのお話もお聞きしたいと思います。イベントごとに公開される新曲はイベントのストーリーと非常に噛み合ったものになっているように感じるのですが、シナリオチームと楽曲制作者の方とではどういったやりとりを行っているのでしょうか。
桝井氏:
楽曲を決める過程では私たちとセガさんでやり取りをして進めていて、作家さんと直接的に綿密な打ち合わせをする、といった感じではありません。あくまで我々がお渡しするのは誰がメインで、どんなことが起きて、こういった心情変化があるといったイベントの屋台骨になる部分なんです。
あとはその中で表現したいキーワードですとか、「こういった曲調だとありがたい」というイメージ、それらをまとめてお送りしているっていう形になります。そこから割と自由に作家さんに膨らませていただいて、こちらで最後に確認させていただくという手順ですね。
ごく稀に「すみません」とお返しさせていただくこともあるんですけど、すごくしっかり解釈を練ってくれるクリエイターさんばかりなので、そういうことは滅多にないですね。
そこにご自身の色も加えて「こんな感じでどうでしょう?」と持ってきてくださるので、我々は毎回「すごいなぁ、完璧だな!」と感じています。なので、こちらからガチガチに指定するようなことはないです。
近藤氏:
ボーカロイドシーンのクリエイターさんたちって、基本的に自分が作りたいものを追求している人が多いというか、ほかの商業作家さんとは生まれが違いますよね。だからこそ作れるものがあると思いますし。
その作家さんをお招きするとなったときに、ユーザーさんが求めるものはその方の作家性であるはずなので、細かいオーダーはしないほうが良いだろうというのは最初から決めていたことでした。
我々がお渡しするのは概要やキーワードだけで、あとは意図的におまかせしていると言いますか。どちらかというと我々が考えなければいけないのは、次の楽曲を作ろうというときに「このキャラクターにこういった心情の変化がある。じゃあどの作家さんに依頼するのがいちばんいいのか?」というところですよね。そこでほぼ決まってしまうので、いちばん大事にしているところです。
──作家さんの選定はやはり過去の作品などをチェックして、「このストーリーにはこの人の作家性がドンピシャ」というような話し合いが行われているのでしょうか?
近藤氏:
こちらも「ここはこの人が良いな」と思う方にお願いしているのですが、ありがたいことに向こう側からも「これだったらぜひやりたい」と応えていただける、そうした相思相愛みたいな関係ができたおかげで、現在のような形になっています。
中には我々が「このユニットの曲をお願いしたいんですけど」とお願いしたところ、「こっちのユニットの曲が書きたいです」と別のユニットを指名していただけることもあったりして、そういうときは作家さんの意志を尊重しています。
やっぱり気持ちが乗らないと良いものは作れないと思うので。とくに『プロセカ』はボーカロイドシーンから派生した延長線上にありますから、クリエイターさんをギシギシに締め付けるというのは違うだろうと。
クリエイターの方々が羽根を伸ばしてのびのび作ってくれることを最優先に考えています。
──逆に楽曲からインスピレーションを受けてシナリオを変えるようなこともあるんでしょうか?
山下氏:
それもありますね。シナリオを書くよりも楽曲のデモが先にできていることも多いので、そのときは曲を聴いて少し変えてみようとか。楽曲に関連付いたアクセントを加えることはあります。
ボイスドラマ、レオニの日常、ビビバスアーカイブ──ゲームの世界を飛び越えた展開について
──『プロセカ』はMVが話題になることも多いと思いますが、このあたりはシナリオチームで監修したりといったことはあるんでしょうか?
近藤氏:
そこはセガさんにおまかせしています。
桝井氏:
キャラクターたちの詳細な設定は初期のころに説明させてもらったりはしたんですけど、「そこからどう作るか?」というのはセガさんのお力があってこそです。いつもありがとうございます。
──ゲームの世界を飛び出して、YouTubeやTwitterでも各ユニットの展開は活発に行われていますが、これらの展開についてはいかがでしょうか。
山下氏:
モモジャンのYouTubeで配信されているボイスドラマなどは、実際にメンバーが配信しているっぽいものを投稿しようといったコンセプトだったんですけど、コメント欄がおもしろくて。
本当に作中のファンのようにコメントされている方がすごく多くて。そういった意味でも「実際に彼女たちが存在している」というのを表現できたのかなという実感はあります。
──ユニットによってアプローチが違いますが、これも作品世界での「彼/彼女たちならこういうことをする」みたいなことを考えてのことですか?
近藤氏:
ユニットらしさを担保するのはもちろんですが、どうすれば楽しんでもらえるかというのは常に考えています。全ユニットで同じことをしても仕方がないので。そのあたりはプロモーションチームのおかげという部分も大きいんですけど。
──「ビビバスアーカイブ」には歌の前後にキャラクター同士の掛け合いがありますが、あそこはシナリオチームで手掛けている部分ですか?
桝井氏:
はい、シナリオチームで書いています。モモジャンのボイスドラマや「レオニの日常」などもそうですけど、そこに居そうな感じが出ると応援し甲斐があるかなと思うので、そういう意識で書いています。「女子高生っぽい投稿とは?」みたいなことを考えながら(笑)。
#レオニの日常📱✨
— プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク【プロセカ】 (@pj_sekai) September 20, 2021
初めてのライブを終えて、
円陣をするLeo/need。
バンドとしての第一歩を
踏みだした4人です🌟#初音ミク #プロセカ pic.twitter.com/8884GsylMs
──公式Twitterアカウントの4コママンガはいかがですか?
桝井氏:
ゲーム内でのシナリオの内容をお伝えして、基本的には作家さんにおまかせしています。
「プロジェクトセカイ」の日常を描いた
— プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク【プロセカ】 (@pj_sekai) September 29, 2021
4コママンガを公開✨
第68話「病人がもう一人」💊#初音ミク #プロセカ #セカイの4コマ pic.twitter.com/aRFZ6CkbeM
近藤氏:
監修として、描いていただいたもののチェックはこちらで行っていますね。
桝井氏:
いつも「良い着眼点だなぁ」と思いながら「オッケーです!」と返しています。
「等身大の10代」を描く上での世代間の溝
──『プロセカ』は10代などの若いユーザーさんにも広く支持されています。それは登場人物たちが若い人たちの等身大の気持ちに寄り添った描かれ方をしているからだと思うのですが、彼らを描く上で大切にしていることはありますか?
桝井氏:
SNSでもテレビ番組でも、若い方が観ているものを広くチェックするようにはしています。ただ、人間が抱える悩みとか乗り越えたい壁とか、そういう感情に関しては我々の年代から大きくは変わっていないと思うんです。「この子たちが悩んでいる、悲しんでいることは何なんだろう?」と考えるのをいちばん大切にしています。
──やはり流行などをチェックしていても、抱えている悩みや問題には普遍性を感じますか?
桝井氏:
そうですね。流行をチェックしていて「これは何がいいんだろう?」と感じることもなくはないんですけど(笑)。大人になってなくしてしまった繊細な部分もあると思って、過去の、自分や周囲の人々の悩みを思い出したりしながらストーリーに反映していきました。
近藤氏:
個人的には例えばTikTokなどの楽しさを僕たちもギリギリ理解できているのが大きいなと思っていて。そこに年齢の壁はあまりないですし、逆にオンラインゲームをやっているときに若い方が参加してくることも全然あるじゃないですか。
「いまこの時代の高校生像」を考えるのであれば、インターネットという文化で繋がっている現代は、以前よりも世代間の溝みたいなものはあまりなくなってきているのかなと思っています。
──それはボーカロイドとの接し方という部分も同様ですか?
山下氏:
ボカロの楽曲って歌詞が繊細ですよね。自分の心情を代弁してくれるものが多いというか。多分普段は抱え込んでいる、言葉にならない想いをボーカロイドたちが代弁してくれるといった形で愛着を持っている方は多いのではないかと思います。
近藤氏:
「ボカロの音楽」としての紐付きで考えると、『プロセカ』はけっこう難しいところがあって。もちろんミクさんたちがいて、あの世界でもボカロPと呼ばれる人たちは活動している世界設定なんですけど、そこでボカロP本人とか、そのPが作った楽曲などが出てきてしまうと現実世界とのメタ的な要素が濃くなっちゃうんですよ。
そのため、意図的に詳しい説明はしていないんです。もちろんボカロ文化について我々が知っているに越したことはないですし、ストーリーを書く上での勉強はシナリオチームでしているんですけど。
──改めてボーカロイドの文化を調べたりする中で、驚いたことなどはありますか?
桝井氏:
個人的には作り手さんによってミクさんに対する態度に大きな違いがあるのが興味深かったですね。本当に自分の曲を歌う歌手として考えている人もいれば、あくまで音声合成ソフトとしての側面に注目している人もいて。一緒に歌ってくれる友達みたいな感覚の人もいらっしゃいますし。
「趣味で作ったらめちゃくちゃバズっちゃった」みたいなクリエイターさんもいて、いい意味でラフというか、楽しんで音楽をつくっている方が多いのもおもしろいなぁと思いました。
山下氏:
私も実はボーカロイドで作曲してみたことがあって……。
桝井氏:
そんな気配は感じていました(笑)。
山下氏:
でも自分ひとりで全部作るのは難しかったので、「piapro(ピアプロ)」というサイトで複数人でコラボしてひとつの作品を作っていくというのをやっていました。ボーカロイドを介してユーザー同士が繋がっていくっていうのが楽しかったんです。
たくさんの人と繋がって曲作りができるだけじゃなくて、作った曲を台本化して朗読劇を作ろうとか。クリエイティブが派生していくみたいな部分にも当時新しさを感じました。
そういった経験は、ここ最近のレオニが曲作りを行うストーリーに反映されているかもしれません。
苦しくなる展開もあるけれど、不安になりすぎずに見守ってほしい
──それでは最後に、今後の展望や期待してほしいことなどがありましたらお願いいたします。
桝井氏:
それぞれのユニットのストーリーが思いがけない展開を見せることもあると思うので、楽しみにしてほしいですね。
あと『プロセカ』というゲームは、リアリティのある困難が描かれたり、苦しくなる展開って多々あるんですけど、ちゃんとみんな最後には前を向けるように、というのは個人的に守っていきたいところです。だから不安になりすぎずに見守っていただけたらと思っています。
山下氏:
桝井さんが完璧なコメントを言ってくれましたけど(笑)。ちょうど1周年前後くらいでまた新しい出会いや、ユニットにも大きな変化があると思うので、そこがまず期待していただきたいところです。
近藤氏:
1年を掛けていろいろ描いてきたんですけど、これからも各キャラクター、各ユニットの物語はもっと楽しく、おもしろく。いろいろな出会いや成長もありつつ進んでいくと思いますので今後も見守っていただければと思います。(了)
インタビューを通して改めて感じられたのは、本作のシナリオチームがキャラクターたちをいかに大切に考えているかということだった。
キャラクターの心情を考えた結果としてイベントストーリーをすべて書き直したというエピソードはその最たる例だが、常にそれくらいの意識を持って物語を紡いでいるからこそ、『プロセカ』のキャラクターは全員がユーザーから愛され、応援したくなるような輝きを放っているのだと思う。
すべてのキャラクターが持つ想いに耳を傾けることで形作られているこのゲームの作品世界は、まさに誰かの想いによって生まれる、作中に登場する“セカイ”を想起させるもののように感じられる。
“セカイ”が人々の想いの移ろいによって変化し、新たな出会いを運んだように──『プロセカ』はこれからも、シナリオチームの皆さんはもちろん、我々ユーザーの想いや願いにも共鳴しながら、変化し続けていくのかもしれない。
これからも『プロセカ』が描く5つのユニット、そしてバーチャル・シンガーをはじめとした、彼らを取り巻くキャラクターたちの物語を見守っていきたいと思う。
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