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18年間にわたり続いた宇宙MMO『EVE Online』の今後の目標は「永遠のものとなること」。開発CCP GamesのCEOに聞く緻密で巨大な世界の運営理念

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 ひとつのゲームを完成させることと、18年間にわたってオンラインゲームを更新し続けることは、似ているようで異なる。前者が一編の小説の脱稿であるとすれば、後者は百科事典の絶え間なき編纂と更新であろう。

 くわえてオンラインゲームは、「読者を楽しませる」ことを、事典よりもはるかに多く要求する。この必要に答えられずサービスを終えていったMMOは、数え上げればきりがない。

 しかし、全世界のプレイヤーが単一のサーバーに接続して交歓するSF-MMO『EVE Online』は、過日の十代の少年であった筆者を30に至るまで楽しませ、今なおその喜びは尽きる気配がない。

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 先だって弊誌は、『EVE Online転生』インタビュー連載といった記事を掲載した。その調整のさなかに、本作の開発元であり、日本から遠く離れた島国アイスランドに本社を置くCCP GamesのCEO、ヒルマー・ベルガー・ピェトルソン(Hilmar Veigar Pétursson)氏に、かんたんなメール・インタビューを行う機会を得た。

 その内容を本稿にまとめて掲載する。読者は、世界でもほとんど例のない、「単一MMOタイトルを20年間保全し続ける」技術を得るにいたった、職人たちの長の証言を聞くことができるだろう。

取材・文/藤田祥平
編集/ishigenn


『EVE Online』の本質は、星空にむけて船旅をはじめること

※同作18年間の継続を称えて製作されたトレイラー、『Celebrating 18 Years of EVE』。

──本日はよろしくお願いいたします。

ヒルマ―・ピェトルソン氏(以下、ヒルマ―氏)
 よろしくお願いします。

──なによりもまず、このインタビューの機会をいただけたことに、ひとりのプレイヤーとして感謝しております。『EVE Online』の世界の外にも時折聞こえてくる大戦争や経済システムのお話は、それ自体も大変魅力的ではありますが、すでにたくさんの紹介が日本でも行われていますから、あらためて社長のお時間を頂くまでもないでしょう。むしろ、ここでしか聞くことのできない話……開発秘話といったものをお聞かせ願えれば、と思います。

ヒルマ―氏
 なるほど、わかりました。

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ヒルマ―・ピェトルソン氏

──まずお聞きしたい。この作品は、いったいどのように着想されたのでしょうか。というのも、2004年のアイスランドの状況、とくにIT関連のものは、日本人にはいささか想像しにくいものがあります。総人口たった36万の北方の島国から、いきなり壮大なSF-MMOが出てくるというのは……ほんとうの話だとは信じられないようなところがあって。

ヒルマ―氏
 わたしも当時の日本のインターネットの状況を知りませんので、比較もできませんが、こちらはそれなりにちゃんとした企業がいくつかありました。CCP Gamesの創立メンバーは、OZ Interactiveというアイスランドの企業のメンバーです。これは「VRLM」というプログラミング言語で書かれたウェブサイトのビューワー、OZ Virtualを作っていた会社です。……VRLMって、ご存知ですか。

──「Virtual Reality Modeling Language」……仮想現実モデリング言語、でしたか。ワールド・ワイド・ウェブ上で動作する、三次元オブジェクトの情報を簡略に記述するための言語ですよね。

ヒルマ―氏
 そうです。いまではまったくレガシー言語になってしまいましたが、それによって記述できる世界……3Dで表現された仮想現実というものに、われわれは強い興味を持っていたのです。

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──なるほど、興味と技術はあったわけですね。しかし、そこからいきなり宇宙を舞台にしたSF-MMOというのは、かなりの発想の飛躍があるように思います。この作品のコンセプトは、そもそもどんなふうにして生まれたのでしょうか。

ヒルマ―氏
 ほとんど自然に生まれてきたアイデアでした。というのも、世界中のすべての人が単一のシェードに接続して世界を共有するようなゲームを想像していましたから、銀河系というスケールは、じつにあつらえ向きだったのです。

──そこに、アイスランドの国民性が含まれているような気がいたします。絶海の孤島だから、繋がりを求めたというか。

ヒルマ―氏
 『EVE Online』の本質は、星空にむけて船旅をはじめることです。星の海をこえてノルウェイからやってきたヴァイキングたちによって、わたしたちの国は興りました。わたしも当時は若かったですから、その血が騒いだのかもしれません。『EVE Online』には凪の宇宙の美しさもふんだんにありますが、荒れ狂う沖合のような波乱に満ちていることも、よくご存知でしょう。

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──わたしも何度も難破してきましたが、現実でゲームを作るような航海は、まだやったことがありません。導きの星には、どんなものがあったのでしょう?

ヒルマ―氏
 わたしたちの最初の目標は、『Elite』のような、広大で自由な宇宙空間をかけめぐるSFゲームを、21世紀水準のグラフィックスで作ること──なおかつ、そこに資本主義のゲーム性を備えたプレイヤードリヴンな市場と、ストラテジックな戦闘コンテンツとを加えることでした。

 『スター・ウォーズ』のテクノロジーの描写や、『マトリックス』が提示したシミュレーション仮説、『ブレードランナー』が持っていた退廃的な雰囲気などを参考にしながら、いずれ『EVE Online』となっていった、さまざまなアートワークやアイデアを積み重ねていきました。

 世界的には小国であるアイスランドの出身者であるからなのでしょうが、それ自体で動作する経済システムをつくるというアイデアに、わたしたちは魅力を感じていました。
 銀河系という舞台を選んだのは、スケールのこともあるけれど、宇宙、すなわちエコシステムをまるごとひとつ作るのに都合がよかったから。また、グラフィックを映画と同レベルの品質に高めたいとも思っていたので、宇宙空間という設定は、非常に都合がよかったんです。

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──たしかにゼロ年代ごろの、いまよりもいくらか暗い色調のアートワークは、あの当時は最先端でしたね。一般に膾炙していたコンピュータのスペックを考えても、宇宙空間だから、背景はベタの星雲にしておけば描画するオブジェクトの数も少ないし、そのぶん戦艦や構造物といったモデルを精緻に描き込める。

理想のキャラクターを数ヶ月かけて育てるからこそ魂が宿るゲームバランス

──しかし、あれだけのアセットを完成させておきながら、ゲーム性は当時としては独特な、ノンリニアなものに仕上げた。やはり、VRLMで開発していたころの〈仮想現実〉の感覚に憧れてのことでしょうか。

ヒルマ―氏
 ええ。そもそものはじめから、わたしたちはプレイヤーのみなさんに、この銀河系でいちばんの大金持ち、インフルエンサー、信頼された将──あるいは、それらすべてにいっぺんになる機会を与えられるよう、努力してきました。

 これらの目標は、戦場で堂々と戦い、商機を見極め、企業との信頼関係を結ぶことで達成できる。単純なプレイ時間がものを言うようなゲームにはしたくなかったのです。

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ヒルマ―氏
 プレイヤーにとってのいちばんの財産が、宇宙船ではなく、彼らの魂が宿るキャラクターであるようなゲームバランス。これを作るために、わたしたちは心を砕いてきました。理想のキャラクターを育てるには、いくつかの失敗を含む、数ヶ月の時間が必要になるでしょう。

 スキルトレーニングによって操船や技術は身につきますが、そもそもどのスキルを育てるかといったプランニングや、方向性の決定権はすべてプレイヤーに委ねられています。この時期を乗り越えることで、プレイヤーは自分のキャラクターとの信頼関係を育み、それはゲーム世界内における社会的な責任に繋がっていきます。

※各勢力の名だたる艦隊司令官の生音声を用いて製作されたトレイラー、『This is EVE – Uncensored』。懐かしい声が聞こえてきて泣ける。

──お話を伺っていると、この作品が持っているサンドボックス性にますます感心します。仮想の世界であれども、そこでさまざまな困難を乗り越えることで、ひとりの人格が育ってくる。そうしたプレイヤーたちが責任をもって行動し、交流すれば、無数の体験が自然と生まれてくる。ときにはそうした交流が、銀河系全体を動かしていき、20年にわたる歴史が編まれていく……しかし、ほんとうに開発当初から、このすばらしい状況を狙っていましたか?

ヒルマ―氏
 このゲームをサンドボックスにするという目標は当初からありましたが、正直に申し上げると、ここまで長く続くとは夢にも思いませんでした。開発をはじめたころ、ゼロ年代初頭は、どんなゲームも5年も保てば偉業を果たしたことになるような時代でした

 わたしたちもそれくらい保てばいいなと思っていたんですが、いざサービスをはじめてプレイヤーが入ってくると、わたしたち自身も想像もしていなかったような可能性を本作が秘めていることに気づきました。

 たくさんのプレイヤーのクリエイティヴィティと情熱の助けを借りて、わたしたちはこのゲームを運営しつづけることができています。この場を借りて、みなさんに御礼を申し上げたいと思います。

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18年にわたり続いてきた『EVE Online』という緻密で極大な世界を維持する努力

──こちらこそ、すばらしいゲームをありがとうございます。さて、CEOにしか聞けない質問を、別の角度から。本作が発表された2003年のメインストリームのOSは、Windows XPでした。それから20年が経ったいまも、コンピュータをめぐる状況は目まぐるしく変化しつづけています。そんななかで、御社はこれほど巨大で複雑なゲームを保全し、更新し、快適に遊べるようにしなければならない。その現場の努力は、いったいどのようなものですか。

ヒルマ―氏
 仰るとおり、『EVE Online』は巨大で複雑なゲームです。もしかすると、いままで作られたビデオゲームのうち、いちばん複雑かもしれません!

 開発と保全に関しては、20年ものあいだ仕事を続けてきましたから、そのぶん力もついてきました。とはいえ、このゲームの開発を極めるのは、すべてのアートと同様に終わりのない道です。運営については、メタや技術的なことも含めて、いつもプレイヤーのフィードバックに助けられてきました。

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──ある時期から積極的にプレイヤーのフィードバックを求めるようになりましたよね。

ヒルマ―氏
 ええ。サイクルの円滑化のために、CSM──星間管理評議会【※】──などに代表される、プレイヤー主体のコミュニティを公式化することも行ってきました。

※星間管理評議会 – Council of Stellar Management(筆者拙訳):
 開発元のCCP Gamesと密に連携し、ゲーム全体の方向性やバランス調整などの提言を行う、プレイヤー主体の第三者評議会。すべてのEVE Onlineプレイヤーが議員への立候補の権利と投票権をもつ、直接選挙制によって運営される議会で、議員の任期は一年。毎年選挙活動が活発になる時期があり、インゲームで選挙広告が流れたりして、おっ、もうそんな季節か……と(季節のない)EVE宇宙で時節を知らせてくれる。

──とはいえ、これだけすべての要素が有機的に絡み合っているゲームですから、あるひとつの細かのパラメーターの変更がとんでもない影響を生むかもしれないという恐怖は、つねにありますよね。このバタフライ・エフェクトのことを考えながらバランス調整をするというのは、たいへんな仕事であるように思うのですが。

ヒルマ―氏
 『EVE Online』はなんといってもゲームですから、市場経済の変動それ自体も、純粋なナラティヴとして楽しむことができます。その意味でわたしたちは、バタフライ・エフェクトがより起こりやすくなるような環境を目指しています。

──もしも現実の政策だったらば首をかしげますが、ゲームならいいと(笑)。

ヒルマ―氏
 バタフライ・エフェクトを称えるトレイラーを作ったこともあるくらいです!

 また、数年前にアップデートのサイクルを一ヶ月ごとに設定しましたから、何らかの要因でゲームバランスが完全に崩壊するような事象が起きた場合にも、すぐに修正できる体制は整っています。

※2009年に発表されたトレーラー、『EVE Online : The Butterfly Effect』。このゲームのおもしろさをうまく伝えてくれる名作。字幕をオンにしてどうぞ。

──なるほど。これは技術的な質問ですが、現実世界のコンピュータの環境の更新にあわせてゲームを更新していくのは、たいへんな仕事だと思います。今現在は、どのような更新を行っていますか?

ヒルマ―氏
 『EVE Online』を新しく保つのは、難しいけれど、誇りを感じさせてくれる仕事です。最近は32-bitアプリケーションから撤退することを決めましたし、DirectX 9のサポートをそろそろ停止して、DirectX 12へ完全に移行する準備を進めています。

 また、Mac OSで動作する公式クライアントも開発中です。サーバーサイドの増強も水面下で行っていて、最新のバックエンド技術をすこしずつゲームになじませているところです。こうした地道な仕事が、この作品を永遠のものにするのだと信じています。

──このあいだ、わたしの出生地であるMinmatarの領土を旅していたときのことです。生まれ故郷にほど近いステーションに、2008年ごろに購入した巡洋戦艦が眠っていたのですが、その船名は、当時にわたしが付けたもののままでした。

ヒルマ―氏
 実地で学んださまざまな経験──それは開発としても、プレイヤーとしても──が、いまのゲームを形作っているのだと思います。

 もちろん黎明期には、この巨大なタスクを動作させるという難題に頭を抱えたこともありました。現在も、数千名規模の大戦闘におけるゲーム動作の最適化を試みていますが、これに関しては──願わくば来年には、いくつかの改善策を実装できると思っています。

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「永遠に続く宇宙MMO」を目指す

──これだけの保全と更新の技術があるなら、20年を越えて30年、40年とゲームが続いていくことも、十分に想像できます。

ヒルマ―氏
 そうなるように、力を尽くしたいです。

──期待しています。しかし、そうなると、プレイヤーのほうがどんどん歳を取っていくことになりますよね。わたしたちはあの宇宙のキャラクターたちと違って、不老不死ではない。だとしたら、こんなアイデアはどうでしょう。あるプレイヤーの子供なり孫なりが『EVE Online』に出会ったとき、その祖先の遺産を引き継ぐことを推奨するシステム。

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ヒルマ―氏
 われわれの子供たちが、ゲーム内のアセットを遺産相続するシステムですね。おもしろいアイデアだと思います。祖父母の遺産のエレバス【※】に乗って戦場に出る──といったイメージには、わくわくさせるものがありますね。覚えておきますよ。

※エレバス:
 Erebus. ガレンテ連邦のタイタン級。全長14.7キロメートル、時価総額は日本円換算で八万円(兵器類を除く)。

──最後に、現在のあなたの目標を教えてください。

ヒルマ―氏
 わたしの目標は、『EVE Online』を永遠のものとすることです

──ありがとうございました。

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 電ファミニコゲーマーは『EVE Online』でのプレイングレポート「EVE Online転生」と、インタビューシリーズを掲載している。18年にわたる長き宇宙史の一端を垣間見たいプレイヤーは、ぜひこちらもご一読いただきたい。

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1991年大阪府生まれ、文筆家。
Twitter : @rollstone
Website : http://shoheifujita.smvi.co/
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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