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1話目でザクの旧キットを作るTVドラマ『量産型リコ』を知っているか ― GT-Rやミニ四駆、BB戦士、南ことりなど様々なプラモが登場する異色ドラマは、プラモの素人が作ったから面白くなった?

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 テレビドラマの1話で、ガンプラ──しかも「量産型ザク」の“旧キット”を作るという驚きのドラマがある。『量産型リコ』だ。

 『量産型リコ』は2022年6月末からスタートしたテレビ東京系の深夜ドラマで、普通の女性がプラモデルを通じて成長していくという“ホビー・ヒューマンドラマ”だ。地上波のドラマでプラモデルが題材と言うだけでも驚きなのだが、登場するプラモデルのラインナップがまず凄い。

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 本作ではBANDAI SPIRITSが制作に協力しており、同社以外の商品も含めて、知在するさまざまなプラモデルが登場する。

 1話で旧キットのザクが登場し「まさかの旧キット!?」となったかと思えば、2話で「1/24 ニッサン R35 GT-R ピュアエディション’14」、3話では「RGエヴァンゲリオン初号機」が登場。

 4話では「1/1000 宇宙戦艦ヤマト2202(最終決戦仕様)」、5話では「ミニ四駆(しかもマグナム、アバンテ、エンペラー)」、6話では「SDガンダム BB戦士 LEGEND BB 武者頑駄無」、7話では「Figure-riseLABO 南ことり」と、なかなかのラインナップになっている。

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 ラインナップだけではなく、その描き方も凄い。プラモデルという題材がゆえに、深く深く熱が入っていき、良くも悪くもマニアックな方向に行ってしまいそうな気がするのだが、『量産型リコ』はそうなっておらず、プラモデルの経験に関係なく楽しむことができる。

 かといってライトすぎるわけではなく、「これ、プラモデルである必要ないよね」とか、「こんな扱い方はしてほしくなかった」といった感じもない。また、プラモデルを作る工程もリアリティがあり、そして「こうあるべきだ」という押しつけもない。だからこそ、安心して見ることができる。

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 何より、ホビー・ヒューマンドラマという言葉の通り、ホビーとヒューマンドラマが綺麗に融合しており、ヒューマンドラマがあるからこそ、プラモデルが持っている魅力や面白さをより強く感じることができ。そういった部分をしっかりと描いているのだ。だからドラマとしても面白い。

 さらっと書いたが、このような作風に仕上げることは、実は凄いことなのではないかと思う。なぜ『量産型リコ』は、ここまでプラモデルの解像度が高く、かつ安心して見ることができるのだろうか。

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 今回は、本作の企画・原案・脚本をつとめるdea/BABEL LABELの畑中翔太氏にインタビューを実施してきた。

 そこで見えてきたのは、実際に関係者でプラモデルを作り、そこで感じたことを作品に反映させていくという、プラモデルの専門家ではないからこそ実現できたドラマの作り方と、「プラモデルは自由だ」というガンプラ・川口名人の言葉の素晴らしさだった。

 ちなみに、『量産型リコ』の第1話が8月31日まで『ネットもテレ東』で無料配信されている。もし本稿から本作のことを知った方は、まずはそちらをご覧いただくのもいいだろう。

取材/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二


『量産型リコ』はプラモデルの素人だからこそ生まれた

──『量産型リコ』を見て驚いたのは、プラモデルの解像度が凄く高いというか、とにかく扱い方が上手く、マニアック過ぎずバランスがいい作品だなと思ったんです。

 そこで誰が作ってるんだろう? と思って調べてみると、畑中さんが企画・原案であり、脚本も手掛けられていると。しかも畑中さんはもともと広告業界畑の方で、ここ2年くらいでドラマも手掛けるようになったと。

 そこでまずは、畑中さんがドラマを手掛けられるようになったきっかけから伺って行ければと思います。

畑中氏:
 2020年にテレビ東京で『絶メシロード』という深夜のグルメドラマが放送されました。この原案となった『絶メシ』とは「絶えてしまうかもしれない絶品メシ」という意味でして、もともとは、町おこしの取り組みとして群馬県高崎市さんと始めたものなんです。

 その企画をテレビ東京さんに「ドラマ化してみませんか?」と持ち込んだのが出会いであり、始まりです。

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 そこでやったのが、PR発想×ドラマという掛け算でして、これが色々と話題になったことでテレ東さんとも「面白いね」となり、今後もやっていきましょうとタッグを組みました。

 そして、2021年にアプリゲーム『八月のシンデレラナイン』を題材としたドラマ『八月は夜のバッティングセンターで。』や、ポッドキャストとチェン飯(チェーン店グルメ)をテーマにした『お耳に合いましたら。』というドラマも作っていきました。

──たしかに、題材や掛け合わせ方がPRの発想ですよね。

畑中氏:
 僕は、最初にお題があったほうが作りやすいタイプなんです。何か素材やテーマがあって、それをどうドラマにするのか、というのは広告の発想に似ています。

 まったくゼロのキャンパスに描くのではなくて、描くべきお題が先にあって、それをストーリーにすることが自分でも得意だなというのが分かってきたんですね。

 いままでは15秒とか30秒とか、テレビCMだとそれが限界だったんですが、もっと長いものに挑戦していきたいなという想いから、ドラマをテレビ東京さんと作らせていただいています。

 『量産型リコ』では、プラモデルでドラマを作れないかという話が1年前くらいにあって、話を聞いたときに「なんか面白そうだな!」とビビビッと来て、やりましょう! と。

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──では「プラモデル×ドラマ」という部分は、テレビ東京さんから出てきたアイデアなんですね。

畑中氏:
 正確には、BANDAI SPIRITSさんですね。僕らがこういう活動をしていることを知ってくださり、「プラモデルでドラマを作れないか」というご相談が来ました。

 その時点では、いわゆる企画書的なものはなくて、ただたんに「プラモデルでドラマを作れないか」だったんです。

──その話を受けて、まず考えたことは何でしょうか。

畑中氏:
 プラモデルって凄く奥深いホビーじゃないですか。なので、掘ろうと思えば深く深くいけるんです。ただ、これはテレビドラマなので、見た方が「よくわからない」と思わないことが凄く重要で。

 プラモデルのドラマなんですけど、人間の部分をちゃんと描いて、それがプラモデルと合わさるようにしたいなと思ったんですね。

 だから“ホビー・ヒューマンドラマ”って謳っているんですけど。そういうコアとなるテーマを最初に決めました。

 『八月は夜のバッティングセンターで。』でもベースボール・ヒューマンドラマと言ってたんですが、カルチャーにヒューマンドラマをかけるのが、僕らのチームの得意技だなと思っています。

──題材があって掛け合わせるとなると、時には自分の専門ではない分野の題材が来ることもあると思うんですよ。そういう場合はどうされるんですか?

畑中氏:
 そういう意味では、僕らはプラモデルの専門家ではありません。

 もちろん、制作チームにはプラモデルに詳しい人間もいるんですが、チーム全体で言えば、子供のころは作っていたけど、今は全然ってメンバーが多いんです。

 なので、玄人か素人かでいうと、わりと素人なんですよ。そこからの挑戦でした。

 さきほどバランスがいいと仰っていただきましたけど、一個良かったなと思うのは、ドラマチームはもの凄くプラモデルを詳しいわけではなくて、でも逆に、プラモデルはこうあるべきだと言う人もいなかった。

 だから僕ら自身でプラモデルを学び、みんなが思ったことを脚本にすることができました。

 それこそ、どのプラモデルにしようであるとか、実際に買ってきて、開けて、パーツ数多くない? から始まって……。

──詳しくお願いします。

畑中氏:
 たとえば2話目でGT-Rのプラモデルを作っているときに、内部のパーツが凄く細かいのに、最後に外装のパーツをかぶせると内部が見えなくなるって話がありまして。

 これ、実際にチームでGT-Rのプラモデルを作りながら話していた時に出たことなんですよ。「これ見えなくなっちゃうじゃないですか(笑)」って。

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右が矢島一ことやっさん

 それは主人公の感覚と一緒だから、それをそのままストーリーに書いたほうがいいんじゃないかと。

 でもプラモデルを知っている人の視点も入れたいから、田中要次さん演じるやっさん(作中に登場するプラモ屋の店長)が「見えない部分にも魂を吹き込むのがプラモデルだ」と言ってくれるみたいな。

 だから与田祐希さん演じる璃子(本作の主人公)の発想とか言葉は、僕らが実際に体験したものが元になっていたりします。作り手は璃子側のタイプなんですよ。

──つまり、実際に自分の手で作ってみるのが大切であると。

畑中氏:
 その通りです。だから脚本家、監督、プロデューサー……みんなでプラモを学ぶという感じでしたね。

 毎回打ち合わせは会議室に集まって、机にプラモデルが山積みになってるという(笑)。それを見ながらあーだこーだ言ってましたね。

 何を登場させるかが決まった後は、助監督がプラモデルを趣味にされている方なんですが、まずはその方に作ってもらって。

 さらに各脚本家は、自分が担当する話に出てくるプラモデルを実際に作ってみました。やっぱり、どんなパーツがあって、どこで何をどう思うのかを知る必要があるんですよ。

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 4話の脚本は僕が書いたんですが、僕も実際にヤマトを作りました。すぐ離脱しそうになるくらい辛かったですけど(笑)。

 璃子が最初、「もうだめだ」となったり、「大砲ってこんなにいる?」というセリフも、実際に作ってみて素直に思ったことなんです。

 あとアドバイザーの方やBANDAI SPIRITSさんからいろいろと助言を受ける中で、璃子がやっさんたちと協力して、どのレベルまでできるのかのリアリティは結構考えましたね。

――そこは重要な部分ですね。

畑中氏:
 1話目だったら筆で色を塗るのはやれるよねとか、でも2話目でいきなり璃子が本気の塗装をやりだしたら、それって飛びすぎだよね、だから塗装はやっさんがやるようにしようとか。

 そして4話目では森下能幸さん演じる雉村さん(璃子が働く部署の部長代理)が助けてくれたりとか、段階を徐々に追って成長していくのにあまり嘘がないようにしたいなと。

 あとこれは難しいところなんですが、時間軸がですね……。プラモデルって1日ではできないことが沢山あって、ちょっと璃子は早いというか、上手く出来すぎているなっていう指摘があるんです。

 けど、かといって何日にもできないので、そこは上手く、朝までかかりましたとか、途中までやりましたとか、そういう感じでリアリティを極力出すようにしています。

──そこのリアリティがないと、ドラマの見え方も変わってしまいそうですよね。

畑中氏:
 だからプラモデルのパートは、実際に本人が作って撮っているので、過程が飛ばないようにしていて。

 それがいきなり「はい、できました!」と飛んでしまうと、プラモデルにとって一番よくない気がしているのと、「それ作ってないだろ」って指摘が一番危ないなと思っていて。

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川口名人の「プラモデルは自由なんです」という言葉に救われた

──制作にBANDAI SPIRITSが関わっていますが、先方からはどういうオーダーやアドバイスがあったんですか?

畑中氏:
 「プラモデルを作る人の裾野を広げたい」という大きな意向をもらいました。

 だから売ってくれとかもなかったですし、「プラモデルがより広くカッコイイものに見えてほしい。実際そうだし、そういう流れをドラマで見せられたらと思っています」という話があって。

 だったらあえて玄人ではなく、素人の女の子がプラモデルにハマるストーリーにしようと考えました。

 とはいえ都度チェックはしていただいていて、脚本家はモデラ―ではないので、やっぱり悩んでしまうんですよね。この工程のあとはこれであっているのか……? とか。そういうチェックは凄くしてもらっています。

──そういった専門的なアドバイスが受けられる環境の中で、描きたいものを描いていったと。

畑中氏:
 そうですね。あとそれでいうと、川口名人にも監修していただいていて。

 矢島模型店に飾ってあるラストシューティングのプラモデルも名人に作ってもらったんですよ。

 でも今思えば、そこから始まりましたね。

──おお、川口名人ですか。

畑中氏:
 BANDAI SPIRITSさんに「名人みたいな人っていませんか?」と聞いたら、「弊社に川口名人という者がおります」と。

 それで、「ぜひプラモデルの楽しさについて指南を受けたいです」とお願いしたんです。それで実際にお会いしまして。

 最初は細かいことを言われるのかな? と思っていたんですが、そうではなくて、「プラモデルは自由なんです」と言われたんですよ。それでいいんですと。

 僕らはそれに感銘を受けて、すごくいい言葉だなと……。やっさんも「プラモデルはどこまでも自由だ」と言うんですが、それは川口名人から来ていて、それがやっさんの考えなんですね。

――そんな繋がりが……!

畑中氏:
 だから、璃子がザクの肩をピンクに塗ろうと、何しようと、プラモデルは自由だという言葉に全て帰着していて。ドラマが始まって実際に見ると、あれがすごく大事というか、楔になっているなと思ったんです。

 実際プラモデルでも、あれはしちゃいけな、これはしちゃいけないってことはあると思うんです。

 でもやっさんのあの一言で、プラモデルは自由であり、それぞれがどう楽しむかであるってことを言ってくれていた。これが本当にありがたく、そして救われましたね。

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──やっさんのキャラはとてもいいですよね。プラモデルについてちゃんと説明してくれたり、押しつけもせず見守ってくれたり。彼がいることで、プラモ経験者の目線を入れることができますし。

畑中氏:
 璃子のキャラを作った次に作ったのがやっさんだったんですが、璃子がいて、やっさんがいる。そこからこのドラマの構成が始まっていて。

 やっさんは扉を開いてくれるおじさんなんだけど、プラモになると話が止まらなくて、一瞬堅物に見えるけど優しい。そこに田中要次さんがもっとキャラを乗っけてくれて。

 田中さん自身がとてもキュートな方なので、役を演じるにつれてキャラとしてもどんどん可愛くなってますよね。

登場するプラモデルの決め方は原体験。ミニ四駆はどうしても出したかった

──登場するプラモデルはどうやって決めていったんでしょうか。

畑中氏:
 まず、このプラモデルを描かなくてはいけないという選び方の制限はなかったんですね。

 なので、あまたある数の中から10話分のプラモデルを選ぶという、僕ら素人からすると、何を取っていいか分からない状態からのスタートでした。

 でも逆にいうと、そこにとてつもない拘りがあったわけでもないので、基本的には感覚的に楽しく選んでいきました。

 ただ、1話の量産型ザクに関しては、最初から決めてて……。

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──あれはビックリしました。

畑中氏:
 僕が個人的に人生で初めて買ったプラモデルがザクの旧キットだったんですよ。

 自分の頭の中にその思い出が凄くあって、璃子もそこから始めるのがいいんじゃないかと勝手に思ってて。

 それで話がいろいろと展開していく中で、量産型という名前が、このドラマや主人公のテーマになっているよね、という話になって、『量産型リコ』というタイトルになったんです。

──あ、じゃ最初は『量産型リコ』じゃなかったんですね。

畑中氏:
 そうなんです。やっぱり、プラモデルをただ作るだけじゃなくて、その真ん中にちゃんと人の話が合って、それが乗っかったプラモデルの話にしたかったんですよ。

 そうすると、プラモデルを作るシーンがよりエモく感じると思ったんです。

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 プラモデルを作る後半パートだけだと、ただのプラモドラマになっちゃうんですが、そこに前半パートのヒューマンストーリーが乗っかることで、プラモデルがより映えるような構造にしたいなという想いがスタート時からありました。

──そこの掛け合わせで良くなるというのは、経験から来ていたものなんですか?

畑中氏:
 そうですね。ドラマ『お耳に合いましたら。』でも主人公のお母さんとの思い出に、松屋の牛丼が出てくるんですね。お母さんが仕事で遅くなると、松屋の牛丼を買ってきてくれると。

 でも、もっと帰りが遅いと、ごめんねという気持ちと共にカレギュウ(カレー牛丼)にしてくれるから、もっとお母さんの帰りが遅くなれって思っていた、という主人公のエピソードがあります。

 これが単純に「松屋のカレギュウっておいしいですよね」だけだったら「そうですね」で終わっちゃうんですが、そこに個人的な話が乗っかってくることで、カレギュウが特別に思えて凄く美味しそうに感じるじゃないですか。

 そういう学びが昨年あって、ドラマの中で何かをテーマに描くときは、ただ物性ではなくて、個人的なメモリーを掛け合わせることを大事にしています。

──5話にミニ四駆が出てくるのも驚きました。

畑中氏:
 最初からミニ四駆を出したいというのはチーム全員の思いで、もちろんガンプラもみんな通っているんですけど、ミニ四駆はそれ以上に通っていて、思い入れがありまして。

 ミニ四駆が出る地上波のドラマって見たことがないなって。だから実現したいという想いはありましたね。

──しかもマグナム、アバンテ、エンペラーと。

畑中氏:
 制作チームもみんなミニ四駆は通ってるんだけど、その中でも世代がバラバラだったんですよ。

 そこでミニ四駆は何を出そうかと話し合ったところ、もう全世代を出しちゃえと(笑)。

──主にそういう会議場で決め行くんですね。

畑中氏:
 全部そうですね。僕は原案を考えて、全話のストーリーラインを考えて、キャラクターの骨子を決めます。

 その上で、各話でそれぞれどんなことが起きるとかは、みんなで話しながら作っていきます。

 プラモデルはこういう順番がいいんじゃないか、いやこことこことは入れ替えようとか、望月歩さん演じる真司君(璃子の後輩)は1話目から出ないようにしようとか。

 それぞれの人物チャートを作って、どこで花開くのかっていうのもみんなで作りました。

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──基本的にはプラモデル×人物という構図になっていますが、その組み合わせはどのように決まっていったんでしょうか。

畑中氏:
 同時並行ですね。人物は人物で設定を決めて、プラモデルはプラモデルで出したいものをあげていって、さぁどうするって感じですかね。

 宇宙戦艦ヤマトみたいな艦隊モノは出したいよねとか、ミニ四駆は出したいよねとか。ヤマトの場合は、登場人物の中でも一番年長者のキャラクター(雉村さん)だったら合うかな……みたいな。

──プラモデルと人物がなかなか結び付かないなんてこともあったんでしょうか。

畑中氏:
 結構当てはめはしやすかったですね。

 真司君はキャラクターを作った最初から「真司」という名前で、口は達者だけど自信のない若手社員の設定だったんです。

 そこでいざプラモデルをどうしようかとなったときに、「真司……エヴァじゃん!」って(笑)。しかもOKが出て「うわ、やったー! OKでたー!」ってなりましたね(笑)。

 もちろん、エヴァを出したいから真司にしたわけでもないですし、エヴァのキャラを演じてもらったわけではないのですが、そこは面白い偶然だなと思いました。 

──なるほど。ちなみに、プラモデルを当てはめるときは、ドラマのターゲットとなる世代感みたいなものは意識されるんでしょうか? それとも作り手側の原体験がベースなんでしょうか。

畑中氏:
 そういう意味では後者ですね。

 僕自身はスケールモデルは通っていないんですけど、スケールモデルはやっぱりプラモデルの醍醐味の一つだと思うので、テーマとしてやりたいと思いましたし、ミニ四駆も戦艦も、あとはBB戦士もそうですが、子供の頃に通った僕らの原体験がベースです。

プラモデルパートは変な演出を入れるところだった。むしろ、ただ見てるだけで面白い

──ドラマパートの透明感みたいなものであったり、プラモデルパートの気持ちよさが凄く好きなんですが、プラモデル×ドラマを描くにあたって、監督はどのように選ばれたんでしょうか?

畑中氏:
 ヒューマンドラマにしたいという想いがあったので、プラモデルが好きな監督ということではなく、ちゃんと人間の人物像をしっかり描ける人にお願いしたいと思いました。

 今回監督をお願いしたアベラヒデノブさんは過去にも広告の仕事でご一緒したことがあったので信頼していました。

 あとはアベラさんって凄く現場を盛り上げてくれる監督でして。こういう深夜ドラマだと撮影も1ヵ月半くらいでギュギュッと撮るんで、現場は結構余裕もなくなって大変なんですよね。

 だから現場を楽しくできる方がいいなと当初から思っていました。

──エンディングとかを見ていても、現場の楽しそう感は伝わってきます。

畑中氏:
 現場が楽しくていい空気だと、それが作品に滲み出てくるというか、伝わってくると思うんですよ。

 関係者がSNSとかで告知をするときも、いい現場だと自主的に「やったよ!」とか「面白いよ!」って前向きに宣伝するようになりますし、反響があると倍嬉しい!ってなりますし。

──後半のプラモパートでは、たとえばカメラのアングルであったり、ランナーを切るパチパチの音であったり、とにかく気持ちのいい映像になっているかと思います。そこのセンスもアベラさんなんでしょうか?

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畑中氏:
 アベラさんの演出は大きいと思いますね。

 実際、みんなで組み立ててた時に、集中し過ぎて黙ってしまって。

 それでパチパチやってたときに、「この音って凄くいいですね」となって、意外と細かな演出はなくてもいいんじゃないか、ということにたどり着いたんです。

 最初はプラモを作っているだけでドラマになるのか不安で(笑)。だから初期の案では、主人公がプラモデルを作りながら集中すると、砂漠や宇宙にワープするみたいな演出案があったんですよ。

 そういうことをしないと面白くないんじゃないかって勝手に思ってる時期があって。

──危ない危ない!

畑中氏:
 でも実際にプラモデルを作ってみて、「これ、ただ見てるだけで面白いね」ってなって。監督たちがカメラアングルのテストとかも何度もしてくれて、作ってるときにカメラを突っ込んでみて「ランナーに寄るだけでめっちゃ面白!」って。

 むしろこっちの絵が見たいとなって、プラモをシンプルに作ることをみせる後半シーンになったんです。

──与田祐希さん(主演・璃子役。)の演技もいいですよね。すごく集中されて作っているというか。

畑中氏:
 与田さんが良かったなと思ったのが、与田さんって入り込む人なんですよね。

 プラモデルが嫌いとかもなくて、初めてだったらしいんですけど、作り始めると没頭しちゃって、ほっとくとずっと作ってるんですよ。

 これがあまり好きじゃない人だと、「もういいですか?」ってなっちゃう。

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──そこのキャスティングってある種の偶然なんですか?

畑中氏:
 そうですね。もともと量産型ってタイトルになったときに、温度が平熱な子がいいなと思っていて、その平熱の子がプラモデルに出会って、ちょっとだけ熱を帯びたり、周りと繋がったりするといいなと思っていたので、テンションが高い子ではないなと。

 あとは、プラモデルっていう世界と真逆にいる子が良いなと思っていたんですね。

──キャスティングの……特に主演に関しては、プラモデルを作っていそうな感じを出すのがいいのか、それとも璃子のように真逆のほうがいいのか、いろいろと考え方があると思います。そこはなぜ真逆に行ったんでしょうか?

畑中氏:
 これがたとえば、プラモをやりそうな男の子がやっちゃうと、「まぁそういうことだよね」ってなるんですけど、「プラモデルってこういう子がやってもいいんだよ」ってメッセージにしたくて。

 イメージの逆にいる子ってどんな子だろう? と考えたときに、アイドルなんじゃないか? と。

 そこから主人公の璃子のキャラクター像に一番合っていると思った、乃木坂46の与田さんに主演をお願いしました。

 プラモデルファンとアイドルファンはそれぞれ別の場所にいると思うのですが、それぞれのファンがこのドラマを通じて一つになったら、ドラマを盛り上げてくれる凄いパワーになるんじゃないかという想いがありました。

深夜ドラマは心のサプリ。悪がいないほうがいい

──『量産型リコ』の気持ちよさというか、安心して見れるあの感じをもう少し言語化したいなと思っています。

畑中氏:
 過去に手掛けた作品でもそうだったんですが、単純ですけど、「悪」を作らないということを大切にしていて。

 ドラマを見て、嫌な人がいない世界を作ろうとしています。

 だからこのドラマを見た後に、「自分もイベント3部(璃子が配属している部署)で働いてみたいな」とか「このドラマの世界にいきたいな」と思ってもらえると嬉しいです。

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  きっと現代社会にはない「幸せの世界線」を描きたいんだと思います。

 現実はもっと嫌な人はいるかもしれないし、もっと周りもドライかもしれないけど、これはドラマなんでそんなリアルは描かなくたっていい。

 僕らが作っているものは深夜ドラマなんで、心の「サプリ」みたいなものを作りたいなと思っています。

──サプリですか?

畑中氏:
 見るサプリと言うか。

 たとえば、『量産型リコ』と同じ木曜日にやってる『六本木クラス』というドラマは、しっかり正義と悪の存在がいて、観ていると喜怒哀楽の色々な感情にさせられるストーリーですし、それがドラマだと思うんです。

 けど、僕らが作る深夜ドラマは、ハラハラドキドキする必要はないというか、常にその世界を見ていると安心できる、ほっこりできる、みんなが好き、みんないい奴。

 で、大したことは起こってないんだけど、なんか大事なこと言ってる、みたいな。

 だから見終わった後に、なんかちょっと背中を押されたな、と思えるようなドラマ作りを常に目指しています。

──その考えは、ドラマを作られてきて徐々にそう考えるようになって行ったんですか?

畑中氏:
 そうですね。『絶メシロード』もそうでしたけど、ただの中年おじさんが週末に一人旅に出かけて、車中泊しながら美味しいものを食べて帰るという、何にも悪いことがない。

 しかも手の届く範囲でちょっとやってみたいと思える、ちょっとだけ幸せが貰える。こと深夜ドラマはそうあるべきだと思っていて。

 これが21時帯のドラマとかなら、もっと大味にしないと何だこれ? ってなると思います。だからドラマ放送の時間帯は凄く気にしていますね。

 そのくらいに食べる料理なので、それくらいの味にしたい。

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──サブスクによって、いつでもドラマが見れるようになりましたが、それでも時間というか、リアルタイム性みたいなものを気にされるんですか?

畑中氏:
 配信での視聴も多いんですけど、リアルタイム視聴には拘っていて、僕が作るドラマにはいつも、視聴者さんがドラマを一緒に共有体験できるキーワードを入れてるんですよ。

 『量産型リコ』で言えば、「ご開帳―!」(プラモデルの箱を空けるときの合言葉)と「ギブバース!」(プラモデルが完成したときの言葉)ですね。

 あれは狙って作ってて、『絶メシロード』のときに、主人公が絶メシを食べた後に「絶メシ、フォーエバー!」ってつぶやくんですが、ドラマが進むにつれて視聴者さんがTwitterで一緒に「#絶メシフォーエバー」ってつぶやくようになってくれたんです。

 そのとき、「ああ、みんなテレビを観ながらバルスをやりたいんだな」という学びになりました。

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 この「ご開帳―!」と「ギブバース!」は脚本家のチーフのマンボウやしろさんが考えてくれて。僕じゃ思いつかないです。

 プラモデルの箱を開けることを「ご開帳―!」って言うのは素晴らしいなと(笑)。「めっちゃいいですね、毎回の話で使いましょう!」となりました。

──聞けば聞くほど面白いドラマだと感じました。そして、ある意味でテレビ東京さんらしいなと思ったんですが、テレビ東京さんとお仕事されてみてどういった印象を持っていますか?

畑中氏:
 自由ですね……本当に。これをテーマにしてはいけないとか、ドラマはこうあるべきだ、とか一度も言われたことないです。

 一緒にやっているプロデューサーチームが、毎回それを壊していこう!という気概なので、あえてセオリーの逆張りをいこうというか。

 だから毎回型にハマらないようなドラマ作りをしています。

 今回の『量産型リコ』も、僕らにとっては丁度いいチャレンジでした。

──最後にオススメの話数をお伺いできればと思います。

畑中氏:
 これは手前味噌にはなるんですが、脚本を担当した4話はオススメです。

 自分も去年まで会社勤めだったので、「早期退職」というのをテーマにしたんですが、会社の持っている悲哀とか、チームの楽しさとか、若い人とか、日陰にいる人とか、そういうもの全部を放り込みたくて、自分が思う会社という世界をいろいろと入れてみました。

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  あとは9話に出てくる浅井君(璃子の同期)の回ですね。

 「量産型リコ」というのは、浅井君が璃子に対して「いつの間に量産型の人間になってるんだよ」と言い放ったことから始まっていて、そんな仕事人間である彼に光が当たり、彼に相応しいプラモデルが出てくる回です。

 僕の中では4話を超えてベストな話なのでそれはぜひ観てほしいです。社会で働いている方であればきっとグッとくるものがあると思います。

──本日はありがとうございました。


 『量産型リコ』はプラモデルの玄人ではなく、素人によって生み出された作品だ。それがマイナスに働いておらず、素晴らしい化学反応を起こしている。本作のユニークな点はそこにある。

 素人だからこそ、その視点を作品に入れることができ、かつ専門家の意見も取り入れることができる。結果、あの絶妙なバランスが実現したのだ。

 だからこそ、それをやってのけた畑中氏という人物が大変興味深い。“PR発想×ドラマ”という掛け算もそうだが、“深夜ドラマは心のサプリ”など、今までにない発想に触れることができたように思える。

 『量産型リコ』もそうだが、畑中氏が今後手掛けていく作品にも注目だ。

(C)「量産型リコ」製作委員会
(C)創通・サンライズ
(C)TAMIYA
(C)2013 プロジェクトラブライブ!

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