『週刊少年ジャンプ』を有する集英社が、少人数ゲームクリエイターを支援する「集英社ゲームクリエイターズCAMP」と呼ばれる活動を開始したり、自らゲームパブリッシングを行う会社「集英社ゲームズ」を立ち上げたりといった話題は、電ファミニコゲーマーでこれまでにも何度かお伝えしてきた。
じつは「集英社ゲームクリエイターズCAMP」では、将来の人気ゲームとなり得るオリジナルゲーム企画を募集するコンテスト「GAME BBQ」を開催している。2021年の「GAME BBQ vol.1」に続いて、第2回となる「GAME BBQ vol.2」の開催が発表されており、2023年4月30日までエントリーを受け付け中だ。
「GAME BBQ」は数あるゲームコンテストの中でも際だった特徴がある。最大の特徴は、プレイアブルデモなどを開発する必要はなく、企画書だけでの応募が可能という点だろう(※vol.2ではデモ有り、デモ無しで部門が分かれており、デモ無し部門の応募は2022年10月31日締切)。
さらにオリジナルのゲーム企画であればプラットフォームやジャンルは問わず、デジタルゲーム以外のアナログゲームでも応募可能となっている。
しかも大賞受賞作は「CAMP支援タイトル」として、CAMP運営チームによる開発や宣伝のサポートが受けられるほか、副賞の100万円に加えて、企画に応じた開発資金の出資が上限設定なしで受けられるという。個人のゲームクリエイターや、ゲームクリエイターを志している人たちにとっては、まさに夢のようなコンテストだ。
今回は集英社ゲームズでゲーム事業を推進する森通治氏、集英社ゲームズで支援タイトルのプロデュースを手がける小島英士氏、集英社ゲームクリエイターズCAMPの運営ディレクターとしてサービスの改善やイベントの運営を行っている堀切舜哉氏の3名に、GAME BBQについてのインタビューを行った。
集英社ゲームズがこのようなゲーム企画のコンテストを開催する理由は何なのか。コンテストではいったいどんな企画を求めているのか。そして受賞者はどのような開発サポートが受けられるのか。GAME BBQに応募してみようと思っているゲームクリエイターはもちろんのこと、少人数開発のゲームに関心のある人、ゲーム業界の将来像が気になる人にとっても興味深い内容となっている。
企画書だけでも応募できるコンテストだからこそ、「企画書の書き方」のサポートを手厚くしたい
──今回はオリジナルゲームの企画コンテストである「GAME BBQ vol.2」についてのお話を伺いたいと思うのですが、本題に入る前に改めて確認しておきたいことがあります。
「集英社ゲームズ」があって、「集英社ゲームクリエイターズCAMP」というものがあり、ゲームコンテストの「GAME BBQ」があると。このあたりの関係性がちょっとわかりにくい構造になっているのかなと。そこで何も知らない人にも理解していただけるように、それぞれがどういったものなのか、具体的に教えてもらえればと思います。
森通治氏(以下、森氏):
たしかに、めちゃめちゃわかりづらいところがあるかとは思います(笑)。
「ゲームクリエイターズCAMP」は、集英社本体が2021年から運営しているコミュニティサービスです。個人や少人数のゲームクリエイターさんが集まって、日本のゲーム開発シーンを盛り上げていくコミュニティ活動として、いろいろなチャレンジをしていきたいというのがゲームクリエイターズCAMPの枠組みです。このゲームクリエイターズCAMPの運営母体は、「集英社」になります。
CAMPの活動は「クリエイター支援」というカテゴリーになりますので、現時点ではほぼ収益性のないサービスになっています。正直なところ、現状は年間でけっこうな金額が赤字で出ていっています(笑)。集英社本体が「ゲームのクリエイターを支援するよ」と、運営しているものになります。
そこから良いゲーム企画を発掘していこうということで、CAMPの活動の一部としてさまざまなコンテストを開催しています。2021年にはコナミデジタルエンタテインメントさんやバンダイナムコエンターテインメントさんにご協賛をいただきコンテストを開催しましたし、集英社本体でもコンテストを実施しました。
バンダイナムコさんのコンテストで受賞されたゲームはバンダイナムコさんから出ますし、コナミさんのコンテストで受賞されたタイトルはコナミさんから発売となります。当然、集英社が発掘して賞を提供したゲームタイトルは、集英社が出さなきゃいけないわけです。でも集英社には、ゲームパブリッシングの機能がないよね……ということで生まれたのが「集英社ゲームズ」です。
──いったん整理しますと、集英社ゲームクリエイターズCAMPの運営は集英社本体で、そこから生まれたゲームタイトルのパブリッシングを行うのが、集英社ゲームズということですね。
森氏:
そうなんですが……じつは私自身がこの関係を、さらにややこしくしているところがありまして(笑)。私はもともと集英社にいて、そこでゲームクリエイターズCAMPをやっていたのですが、私が集英社ゲームズに出向してしまったんです。そのため、集英社本体に、CAMPを運営できる人間がいなくなってしまって。そこで集英社ゲームズは集英社から委託を受けて、CAMPの運営を担っているという関係性にもなっています。
そういう状況がありつつも基本的には、ゲームクリエイターズCAMPはゲームクリエイターを「がんばっていこう!」と応援するもので、集英社ゲームズは「集英社のゲーム事業をパブリッシャーとしてがんばるよ」という切り分けになっています。
そして「GAME BBQ」というのはCAMPが主催するゲームコンテストです。今回が第2弾となるのですが、まさに今ここにいるメンバーが中心となって設計して動いています。
先ほど説明したように、コンテストの運営は「集英社」のゲームクリエイターズCAMPが行っているんですけども、GAME BBQから良いゲームが出てきたときに、パブリッシングは「集英社ゲームズ」がお手伝いします、という関係性になっています。ですので、組織体制として集英社と集英社ゲームズはかなり密接に動いています。
──GAME BBQで選ばれたものが、集英社ゲームクリエイターズCAMPで支援を受けるゲームタイトルになるわけですか?
森氏:
そういう意味で言うとGAME BBQだけではなく、あくまでもCAMPの活動から生まれたゲーム企画全般が、CAMPの支援タイトルになります。ですので、バンダイナムコさんやコナミさんから受賞された企画も支援タイトルになるということです。そのなかで集英社が賞を提供し、集英社ゲームズがパブリッシングを担当することになった場合には、CAMP支援タイトルとなり、かつ集英社ゲームズのパブリッシングタイトルになるということですね。
さらに補足をさせていただくと、じつはCAMP支援タイトルではない集英社ゲームズのタイトルもあったりします。集英社ゲームズ自身がCAMP以外のプロジェクトで開発を行っているゲームタイトルもありますから。
──なるほど。いまの説明でだいぶ理解できました。
さて、先日「GAME BBQ vol.2」の開催が発表されて、応募が開始されていますけれども、vol.2について伺う前に、まずはvol.1の反響を教えてください。
小島英士氏(以下、小島氏):
いろいろあるんですけど、まずは本当にたくさんの方にご応募いただいて、ありがたかったな、というのが最初に思うことですね。正直に言うと、こちらの予想を超えた数の応募がありまして、嬉しい悲鳴ではあるんですけれど、審査にかなり時間がかかってしまい……。
たとえば、審査する過程でひとりが好みで決めてしまうと、すごく魅力的なものであっても、その人の好みで落ちてしまうかもしれない。それを避けるべく、複数人でしっかり審査する体制を組んだのですが、そのぶん時間がかかってしまったんです。もともとお知らせしていた期日より結果発表が遅れてしまったことは、申し訳ないと思っております。
──ちなみに、vol.1の応募総数はどれぐらいだったのでしょうか?
小島氏:
応募数を目標値にしていないこともあり、具体的な数は発表していないのですが、数百といったところですね。
森氏:
ですのでvol.2は、4ケタに近い規模になっていくんじゃないかなと期待しています。
──それをすべて審査するというのは、本当に大変な作業ですよね。
小島氏:
単純に点数をつけて「何点以上は合格」ということではありませんから。「このゲームのここがいい」「ここは僕らの基準とは合わない」といったところを審査員全員で評価し合い、最終的に話し合いを行って決めています。このようなやり方は愚直で時間がかかるんですが、すごく尖っているけど可能性のある作品、みたいなものがこぼれ落ちることはなかったと思っています。
ですので審査方法や選定基準に関しては間違っていなかったかなと思っているのですが、審査にかかる時間を見誤ってしまったというのは反省点としてありますね。
──審査にはどれぐらいの人数が関わっていたのですか?
小島氏:
第1弾の時は集英社ゲームクリエイターズCAMPのアドバイザリーである山本正美さんと、クラウディッドレパードエンタテインメントの伊東章成【※】さん以外に、当時の集英社ゲームクリエーターズCAMPに所属したプロデューサーのメンバーが5人ぐらい加わった体制ですね。
※伊東章成氏
2002年よりSCE(現・SIE)で、ゲームのプロモーションやパブリッシャーリレーションに携わる。なかでもPlayStationファミリーに個人ディベロッパーやインディーゲームを誘致することに尽力。2017年に設立されたUNTIESを経て、2019年よりクラウディッドレパードエンタテインメントで事業戦略統括を担当している。
森氏:
たぶん10人ぐらいいたんじゃないですか。お弁当を頼んだときの数がそのぐらいだった気がする(笑)。
──(笑)。お弁当の話が出ましたが、合宿などで集中して審査をしないと終わらない感じですよね。
小島氏:
最初の書類審査は、スプレッドシートやSlackを使ってオンラインでやりとりしていていました。2次審査は面接がありましたので、できればお越しいただきたいっていうのがあったんですけども、コロナの状況もありオンラインで実施させていただいて。
最終審査では我々、集英社ゲームクリエイターズCAMP側が審査を行ったのですが、そのときは合宿のような形で議論をして、最後は紙を張り出して投票していくということをやっていました。
森氏:
コロナ禍だったので、審査員どうしのやり取りは基本的にオンラインでやらないといけなかったんですけど、最後は「もう集まってやんないと、これはまとまらないよね」となりまして。ちょっと広めの場所に集まり、コロナ対策もしながらリアルで顔を合わせて審査を行いました。最後は本当に、朝から夜までかかった感じですね。
──なるほど。
小島氏:
vol.2に通じるところの反省点で言いますと、vol.1は本当に「企画書でもプレイアブルでも動画でも、なんでも送ってきてください」という、かなり自由なスタイルだったんです。でもやはり企画書だけで送られてくるものと、プレイアブルがあるものと、しっかり動画を作っていただいているものを、同じ土俵というか同じ基準で審査するのは、なかなか難しいところがありました。
「企画書はめちゃくちゃ面白いけど、本当に作れるのかな?」とすごく気になるものもあれば、逆に「企画書で見ても面白くないけど、実際にプレイしたら面白いんじゃないか?」という応募作もあるわけです。
どちらもゲームの企画としては、すごく魅力的だと思うんですね。でもそれを同じ審査基準で比べるのは、なかなか難しいところがあって。なのでvol.2に関しては、そこを分けたほうがいいんじゃないか、という判断になりました。
──そうなんですね。堀切さんはvol.1を振り返ってみて、いかがですか?
堀切舜哉氏(以下、堀切氏):
僕はvol.1には参加していなかったので、vol.1の反省などをヒアリングしてvol.2の設計を行っています。
審査に関してはあまり効率化できる話でもないので、良いところは今後も変わらないと思います。その代わり、部門を分けることで審査期間を分散させる……というのが、部門を分けた理由のひとつではあります。
vol.1で応募いただいた作品を見て感じたのが、個人や少人数でゲーム制作をされている方って、ゲーム会社で働いた経験がある方ばかりでもないですし、プランナーみたいに企画書をバリバリ書いたことがある方ばかりでもないのかな、ということでした。すごいゲームを作れるんだけど、企画書を書くことには慣れていなくて、ゲームの内容をなかなかうまく伝えられない、という方もけっこういらっしゃったのかなと思ったんです。
ですので今回は企画書の書き方であるとか、そういった部分のノウハウの共有やサポートを、手厚めにしています。noteで連載していた「ゲーム企画 BOOT CAMP!!」では、企画書の書き方をサポートをさせていただいたり。そういったところもvol.2で改善された点かなと思っています。
──インディークリエイターの才能や役割を考えると、クリエイティブの時間を企画書の作成に費やしてしまうのはもったいないですからね。「ゲーム企画 BOOT CAMP!!」の連載は個人クリエイターに寄り添って、すごく丁寧な対応をされているなと思いました。
小島氏:
vol.1のときは「こういう「型」で応募してください」っていう、一般的なゲーム企画書の型をオススメしていました。「この型に合わせてもらえれば、とりあえずゲームの企画書としては完成しますよ」と。でも、実際に応募資料を見たときに「この人は何がやりたいんだろう」とか、「このゲームってどういうゲームなんだろう」と感じるものがいくつかあったんです。
なぜそう感じたのかを分析したら、堀切が大事にしている「コンセプト」が足りないことに気づいたんですね。「このゲームはこういったコンセプトで作られていて、そのコンセプトを実現するために、こういうシステムであったり、ビジュアルであったり、音楽だったりが必要になります」と、ちゃんと組み立てる必要があるわけです。それによってゲームの魅力だったり、クリエイターがやりたい表現だったりがしっかり伝わる。「ゲーム企画 BOOT CAMP!!」の連載で「伝え方も大事ですよ」とまとめてくれているので、あの連載は企画を作る人にとっては非常に「ためになる」ものになっていると思います。同じチームメイトながら感心しました。
堀切氏:
ありがとうございます。
森氏:
そもそも、CAMP運営やGAME BBQ vol.2の運営ディレクターを堀切に任せているのが、ポイントなんです。堀切自身もじつは個人ゲームクリエイターですから。ゲームクリエイターとしての目線で、コンテストの運営も、CAMPの機能も考えてくれている。同じ目線で設計することが重要なんだなと思いますね。
GAME BBQから生まれたタイトルがヒットすれば、「自分たちの審美眼は正しかった」と自信を持って言えるようになる
──ちなみにGAME BBQ vol.1で、大賞や優秀賞で選ばれたもの以外で、企画内容が尖っているなど、印象に残ったものはありましたか?
小島氏:
けっこうぶっ飛んだ企画が最終審査まで残っていたことが印象に残っていますね。「これを残すんだ、この人たち」と(笑)。
審査員をやらせてもらうことはこれまでにもあったんですけど、他の企業のゲーム審査だと「かなり尖っているけど、これ大丈夫なの?」という企画は、わりと早々に落ちるんですね。たとえば、審査員の中で声の大きい人が「こんなの何が面白いの?」とか「売れるわけないじゃん」的なことを言ったとしたら、そういう企画ってもうその場で落ちてしまって。
ところがGAME BBQの審査をしている人たちには、そういう人がひとりもいなかった。自分もチームの一員ながら、感動しましたね。「この企画が面白そう」とか「このクリエイターはイケてるなあ」という基準だけではなく、「尖り」に対してもちゃんと評価するんだ、っていうところを自分はすごく感じました。
審査に集まっているメンバーは、応募してくれた方たちの感性というか、人の可能性に賭けるという意味では、すごく心が広い人たちだなと思いますね。
──「いままでのコンテストでは、“尖り”のあるものは落ちる傾向が強かった」と言われたように、そうした審美眼を組織として持つのは、なかなか難しいと思うんです。GAME BBQではなぜそれが実現できていると思われますか?
小島氏:
CAMPが掲げる思想や目指すビジョンに共感してくれている方たちが、ゲームクリエイターズCAMPメンバーとして集まっている、というのがいちばん大きいのかなと。
ゲームクリエイターズCAMPはもともと、私と森を含めた4人くらいで「クリエイター支援を立ち上げましょう」というところから始まっていて。ただ、当然その人数ではできないので、いろんなメンバーに声をかけて参加してもらっています。いま言ったような審美眼であったり、チームメンバーとして同じ方向性を向ける人だけに声をかけていったというのも大きいと思います。
──なるほど。そういう意味では集英社や森さんの懐が深いのでしょうね。
小島氏:
深いですね。
森氏:
私というよりは、集英社がずっとそれをやっているんです。僕は集英社に7年以上いますけど、「エンタメ作りに対して懐の深い会社だな」と思います。それは社員に対してはもちろん、クリエイターに対してもそうです。
漫画の編集部員は全員、本当に漫画家に対してリスペクトを持って仕事をしているんですね。「新人だから会わない」みたいなスタンスでやってるような編集者はひとりもいなくて。むしろ「初めて描いたの? すごいじゃないですか、持ってきてくださいよ」っていうようなモチベーションで、本当に新しい才能に出会えるのを楽しみにしている話をずっと聞いていたので。
僕らはまだ数百とか数千の規模でクリエイターさんと向き合っているからこそ、こまめなコミュニケーションが取れているので、優しく、温かく、懐が深く見えているのかもしれません。集英社本体はその何十倍の規模感で日々対応している。
でも、集英社も集英社ゲームズもやっていることの本質は変わらないと信じています。僕らもこの先「ちょっと全部は対応しきれないな」っていう問題が出てきてからが、たぶん本番になるんだろうなという覚悟は持っています。
──GAME BBQに関わっておられるメンバーを見ると、山本正美さん以外はゲームファンにそれほど名前が知られている方ではないと思うんです。でも組織として見たときに、尖ったものでも逃さない、力のある方のひと言で「なし」になることがない「審美眼」を持っているというのは、いまの時代に求められているところだと思いますし、それが実現できているのがGAME BBQ、ゲームクリエイターズCAMP、そして集英社ゲームズの強みなのかなと感じました。
小島氏:
いまのところは審美眼というか、審査方針はイケてるとは思っています。ただ、まだ実績があるわけではないので。数年後に支援タイトルが世の中に出て、それがヒットしたら「俺たちの審美眼は正しかったぜ」と、もうちょっと自信を持って言えるんですが(笑)。
コンテストで発掘されたものがヒットしたり人気が出て、「集英社ゲームクリエイターズCAMPや集英社ゲームズってどうやって審査してるんだろう」「どういうメンバーがやってるんだろう」というところがちゃんとノウハウになるのが理想ですね。他のチームだったり団体でも、その基準でやれば素晴らしい企画をピックアップできて、CAMPのパートナー企業にもノウハウを支援して、我々以外のところでも尖ったゲーム、新しいゲームが生まれていくようになれば良いなと思っています。クリエイターさんはめちゃくちゃたくさんいて、僕らだけでは対応しきれませんから。
その先駆者というか先駆けとして、「こういった基準で」「こういうゲームで」と示せるようなものが出せたらいいなと。
──そういう意味では『ONI – 空と風の哀歌』や『都市伝説解体センター』などは、SNSでの反響が非常に大きいタイトルですよね。支援タイトルが注目を浴びることで、ゲームクリエイターズCAMPやGAME BBQがさらに広がっていく可能性は十分にあるのかな、と感じています。
小島氏:
『都市伝説解体センター』に関しては、厳密に言うとGAME BBQの応募作品ではなく、開発チームの「墓場文庫」さんはすでに『和階堂真の事件簿』というヒット作を出されている方々です。Google Play Indie Games Festivalで『和階堂真の事件簿』に「集英社ゲームクリエイターズCAMP賞」を贈らせてもらったんです。
墓場文庫さんと「新しい企画をやりましょう」と進めていく中で、集英社ゲームズの林(真理氏)がプロデューサーとなり、すごく時間をかけていっしょに企画を作り上げたんですね。そういう意味では企画ありきというより、クリエイターありきのプロジェクトでした。このクリエイターさんの良いところ、次にやりたいことは何だっていうのを丁寧にサポートして『都市伝説解体センター』が生まれたというのは、前例としてはめちゃくちゃ良いものになるかなと思います。
鋭く尖った「個性」という角と同時に、それを支えるゲームとしての立派な身体を持つユニコーンのような企画を選定する
──いま支援されているタイトルの話を伺いたいのですが、ゲームクリエイターズCAMP支援タイトルの特徴として、どういった作品をサポートされているのかというのを、改めてお聞きしたいなと。
小島氏:
選定基準というか評価基準の細かいところは、システム化したらみなさんにもいずれ公開できればと思っているのですが、僕らとしては「ユニコーンバリュー」という基準を作っています。
ユニコーンというのは、みなさんよくご存じの幻獣ですが、角と体の両方があるからこそユニコーンと呼ばれるわけですよね。角がなければただの馬だし、角だけあってもユニコーンとはならない。つまり、大きくて尖った角があると同時に、それを支えるしっかりした体もあるというようなところを大事にしているんですね。
だから我々の支援タイトルで不可欠なのは、まず角である「尖り」。ほかにはない個性ですね。ユニークさであったり、クリエイターの想いであったり、いろいろな方向性があると思うんですけど、まずほかにはない魅力というところ。その魅力があったうえで、しっかりしたゲームサイクルであったり、プレイ時間をある程度担保できたり、継続性とか商品性というところがしっかりしているものを目指しています。一発ネタで終わったり、ネタゲーで終わるのはもったいないですし、それはヒットしないと思っています。
「体」は商品価値としての品質面を意味しています。体は小さくても、我々の支援を通してある程度の補足はできるのですが、角がなかったら、ただの馬ですから、あとからどうしようもユニコーンにできないですよね(笑)。ですので、いまはまず大きな角がある企画を選んでいます。そこに可能性を感じたら、「体」の部分は我々がサポートを行う。
たとえば必要なプログラマーをアサインしたり、イラストレーターを紹介したり、資金面で援助したり。そのクリエイターの持っている尖った「角」を残しつつ、商品として出すときに必要なクオリティ面の「体」づくりのサポートを僕らがやるという前提で評価しているわけです。それができそうな企画を、支援タイトルとして最終的に選ぶというやり方をしています。
──これまでのゲームクリエイターズCAMPの活動で、クリエイターさん側から「ここまでサポートしてくれるの!?」と驚かれた事例はありますか?
小島氏:
「企画に対して真摯に意見をくれる」とか、「週に1回打ち合わせをしてくれるのがありがたい」といった声は聞いていますね。
──いまサラッとおっしゃいましたが、週に1回、打ち合わせをされるというのは、すごく真摯な対応だと思います。
小島氏:
基本は週1でミーティングしつつ、予算を確保する際や開発が進んでいったときには、もっと密にやり取りを行っています。
たとえば、GAME BBQ vol.1で大賞を受賞した『シュレディンガーズ・コール』のビルドのチェックバックを、山本正美さんにも参加していただいています。しかも、「なんか手触りが違う」とかではなくて、「ここの手触りが気になるから、もっとこういうふうにしたほうがいいんじゃないか」と具体的なアドバイスも含めて、Wordファイル数枚分に渡ってフィードバックが返ってくるという(笑)。本当に良いものを作っていこうという視線でサポートを行っています。
その一方で「エンジニアが足りない」とか「グラフィックを描ける人がいない」といった問題を抱える企画もあるのですが、そういったことに関しては、そのチームの特性であったり、どういった人と一緒に仕事をしたいのか、その相性とかも見たうえで、フリーランスのクリエイターをご紹介したり、「この企画をサポートしていただけませんか」という形で領域に特化した法人さんをご紹介することもあります。集英社ゲームチームのメンバーはいろんな業界の方とつながりがあるので、個人的に声をかけたり、会社さんにお声がけして参加していただいたり、フレキシブルに対応を行っています。
ありがたいことに、大人数を抱えていらっしゃる会社さんでも、小規模開発のクリエイターや勢いのある方をサポートしたいと強く考えていらっしゃるところが多くて。値段もディスカウントしていただいたりもしつつ、実力のある方々に支援していただいているので、本当に助かっていますね。
──そこまでサポートされているとは知りませんでした。話を聞けば聞くほど、集英社ゲームズさんといっしょにやるのが最適解なのでは、と感じてしまう内容ですよね(笑)。
森氏:
お金もほぼ全部出していますしね。
小島氏:
そうなんですよ。じつは、けっこうな金額を出させていただいています。ですけど「お金をもらってありがたいです」みたいなことは、クリエイターさん側からは話しにくいようで(笑)。「GAME BBQで受賞すると、こういったサポートを受けられるんだ」というのは、応募する側のモチベーションにすごく有効じゃないですか。次に応募してくださる方の指標にもなりますし。でもみなさん、インタビューとかでお金のことは、あまり言ってくれないんですよね(笑)。
──GAME BBQでも、大賞を受賞したゲーム企画に対する出資は「上限設定なし」ということになっていますよね。支援タイトルに対する出資金額やその使い方に関しては、クリエイターさんとの話し合いで決まっていくのでしょうか?
森氏:
条件面でもいろいろ変わりますので、本当にもう千差万別ですね。基本、開発期間中に開発に専念するための生活費を保証できる金額はもちろん払っていますけど、僕らはボランティアじゃなくて商業としてやっているわけですから、それを説明したうえでプロジェクトごとに条件を提案し、決めています。
我々側にリスクが傾けば傾くほど、あとでみなさんのインセンティブが減るっていうのも全部説明をしています。逆にこちらのリスクを減らせばリターンも多く返せますよ、という試算を何パターンも用意して、「どれがいいですか?」と説明したり。
「2年間くらい他の仕事もせず、このプロジェクトに専念できますよ」というお金の払い方をさせていただいているチームもあります。それぞれの条件がぜんぜん違うっていうのも、面白いポイントなのかと思いますね。基本的なリスクは集英社と集英社ゲームズが負うので、安心して開発できる環境を用意します。
──いちばん重要なのは、集英社ゲームズさんから「この金額で」と一方的に言われることはないってことですよね。クリエイターさんに全部説明をして、納得してもらったうえでお支払いをされていると。
小島氏:
私は複数タイトルに関わらせてもらっていますけど、基本的にはクリエイターさんのほうから「何がしたくて」、「いくらかかるか」っていうのを見積もっていただくんですね。それが見積もりどおりにいくのか、甘いところがあるのかっていうのは、我々は何本もゲームを作ってきたプロデューサーなので、だいたいわかりますから。
といっても、金額が多すぎるケースはあまりなくて。どちらかというと少なく見積もってくるケースが多いんですけど。
──遠慮してそうなってしまうのはわかります。
小島氏:
少ない見積もりのときは、「この期間でこれはできないでしょう」とか、「もっとここに時間やお金をかけないと、見栄えが良くならないですよ」ということをまずはお伝えします。いただいた見積もりをもとにして、「もうちょっとこの部分をサポートするので、総開発費としてはこれぐらいになります」といったやり取りをさせてもらう形ですね。
あと、大事なのはリクープラインです。お金をかければかけるほどリスクが増えて、採算ラインが上がっていきますよね。そこは納得していただいたうえで、「これはあなたのプロジェクトですけど、どれぐらいお金をかけたいですか」と。
企業にいると何千万、何億っていうのがちょっと麻痺してくるんですけど、個人のクリエイターさんからしてみたら、100万円もらえるだけでもスゴイことじゃないですか。同時に、「こんなにお金を投資されても……」というプレッシャーもスゴイと思うのですが。
それに対して「この企画は素晴らしいもので、これだけのお金をかける価値、人をかける価値があるから、我々はそこに投資しますし、一緒に良いものを作りましょう」と提案して、納得してもらうという形ですね。
──堀切さんは個人クリエイターでもあるわけですが、ここまでの話を聞いて、どう思われますか?
堀切氏:
僕はゲームのプロデューサーではないので、直接クリエイターさんと関わって支援をしているわけではないんですけど、ゲームクリエイターズCAMP支援タイトル以外の方に向けて、先ほどの「ゲーム企画 BOOT CAMP!!」のようなノウハウを共有させていただいています。あとはセミナーですね。去年はGoogleさんと協力してセミナーを行い、「Google Play やYouTubeでどうやって自分のゲームをアピールしていくか」という講演をしていただきました。
そんなふうに、パブリッシャー的な支援を行う以外のところでも、CAMPに登録していただいている方に対して、広く支援をしていきたいと思っています。そうやってクリエイターさん全体のレベルが上がっていくことで、GAME BBQに応募してくださる方のレベルも上がり、採用できるタイトルがより増えていくでしょうし。全体がレベルアップしていくところを最終的に目指したいというのが、CAMPとしての思想だと思っています。