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「嘘だろ!?」と驚いてほしい──目黒将司氏がアトラスを退社した1番の理由は「驚かせたい」というサービス精神だった。アトラス在籍時代から構想していたゲーム『ガンズ・アンダークネス』への想いとは

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 『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズのサウンドクリエイターとして知られる目黒将司氏が個人で開発しているゲーム『ガンズ・アンダークネス』のクラウドファンディングを9月13日に開始した。わずか1週間ほどで1000万円の資金を調達し、大きな注目を集めている。

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『ガンズ・アンダークネス』

 目黒氏は1996年にアトラスに入社すると、『真・女神転生』『ペルソナ』『キャサリン』など数々のタイトルで楽曲を生み出してきた。ところが2021年に同社を退社。どうやらアトラス在籍時代から構想していたゲームを個人で開発するための独立だという。

 アトラスを辞めてまで作りたいゲームとはいったい……?

 そのゲームが今回のクラウドファンディングで注目を浴びている『ガンズ・アンダークネス』だ。本作は『メタルギアソリッド』や『ペルソナ』にインスパイアされたターン制戦略RPG。作中の楽曲は目黒氏が手がけ、『ペルソナ』でお馴染みのLotus Juice氏と再びタッグを組むという、ファンにとっては目が離せない内容となっている。

 今回電ファミは、短い時間ではあったもののクラウドファンディング開始直後の目黒氏にお話をうかがう機会をいただいた。本稿では、資金調達の目標を達成した率直な気持ちやアトラスを退社した理由、そして『ガンズ・アンダークネス』の詳細をお届けする。

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目黒将司氏

聞き手/豊田恵吾
文・写真/柳本マリエ
編集/実存


アトラスを退社した理由は周りを驚かせたかったから

──まずは『ガンズ・アンダークネス』のクラウドファンディングにつきまして、目標達成おめでとうございます。改めて、クラウドファンディングを行った経緯やイニシャルゴールとひとつ目のストレッチゴール【※】を達成したお気持ちをお聞かせください。

※イニシャルゴールとストレッチゴール
イニシャルゴール: 最低目標金額($30,000 / 約420万円)
ストレッチゴール:「さらに○○円集まったら○○する」という追加の目標金額(取材後、ふたつ目のストレッチゴールも達成)

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(画像はGuns Undarkness by Shoji Meguro — Kickstarterより)※取材当時のもの

目黒将司氏(以下、目黒氏):
アトラスを退社してから基本的にひとりで開発をしていました。クラウドファンディングを行った理由は資金的な問題も多少あるのですが、1番の狙いは『ガンズ・アンダークネス』を世界中の皆さまに知っていただきたいと思ったからです。

 また、支援者の方々からフィードバックをいただいたりコミュニケーションを取ることで開発にプラスになると思いました。

 おかげさまで目標を達成いたしまして、いまはほっとしています。

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──『ガンズ・アンダークネス』の構想はアトラスに在籍をされていた時代からあたためていたと思いますが、いつごろからご自身で作りたいというお気持ちになっていたのでしょうか?

目黒氏:
 僕は新人時代から企画書をちょくちょく出すタイプだったんです。ぜんぜん通らなかったんですけど(笑)。

 2006年に企画した某スニーキングRPGで高評価をいただいて、ゲームとして話が進みました。そこからなんとか開発にこぎつけたんですけど、やはり新規IPというのは難しく……。開発が日の目を見ることはなかったんです。

 自分で最初から立てた企画だったので、中止になってもなんとか実現したい。そう思っていたところにちょうど「アンリアルエンジン4」が出始めました。触ってみると「これは僕ひとりで続きを作れるんじゃないか……?」と思ったんです。

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 会社のアセットなども使いつつ、1年半くらいかけて1/3ほど作ったところでプレゼンをしたのですが、残念ながら中止は覆りませんでした。そのゲームが、『ガンズ・アンダークネス』の前身となっています。

 ただ、熱意は買っていただいて「個人で稼がないのであれば」と、ゲーム作りは続けさせてもらいました。そこで講談社さん「ゲームクリエイターズラボ」に応募したところ、最終選考まで残していただいたんです。

 そのとき「これを機会に独立するのもありかな」と思って独立しました。

 いざ独立してみたものの、クラウドファンディングをやることになったんですけどね。でも独立してよかったと思っています。アトラスさんとは今度も一緒にお仕事をさせていただくので。
 ファンの皆さまも裏切らずに済みましたし、僕のやりたいゲームも作れているので、いまのところはハッピーです。

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──目黒さんのように業界で名前が売れていている方が会社を辞めてまでひとりでゲームを作る選択をされたことに対して「なんで?」と驚かれる方も多いと思います。たとえば僕がいまからゲーム作りをしようと思っても、「独立」という選択は選ばないと思うんですね。最後に目黒さんの背中を押したものはなんだったのでしょうか?

目黒氏:
 日の目を見ることがなくなってしまった自分のゲームを「世に出したい」という気持ちはもちろんあるんですけど、最終的に背中を押した1番の理由は、周りを驚かせたかったからです。「びっくりしたでしょ!?」って(笑)。

──ええっ(笑)。

目黒氏:
 「嘘だろ!?」と驚いてほしい。そこが根本です(笑)。

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──根っこがエンターテイナーで、サービス精神旺盛なんですね。では、決していま世に出ているゲームに不満があるというわけではない?

目黒氏:
 はい。不満はないです。

──ご家族に独立の話をされたときの反応はいかがでしたか?

目黒氏:
 妻に独立の話をするために、じつはなんとなく1年くらいかけて下準備をしていたんです。いよいよってときにプレゼンをしたら、静かに「いいんじゃないの」と言ってもらえました。僕もそこはびっくりして。ありがたいですね。

──ご家族のお墨付きといいますか、応援してくださっているんですね。

目黒氏:
 アトラスを退社したときに僕自身も思っていたことなんですけど、妻から「『ペルソナ』や音楽を好きでいてくれるファンの方々がいるから、スパっと切るのはやめてほしい」と言われました。いまでもアトラスさんとは良好な関係を続けさせていただいております。

──目黒さんの人となりがそういう結果を導いているのでしょうね。

目黒氏:
 本当にありがたい限りです。

音楽の道に進みたいけど、ゲーム作りも捨てがたい

──現在は基本的におひとりで開発をされているとのことですが、チームで制作をされていたときと比べて、おひとりで制作をするうえでの楽しさや難しさ、違いみたいなところはありますか?

目黒氏:
 超楽しいです(笑)。

──(笑)。

目黒氏:
 外注でオリジナルの装備を作ってもらったり、モデリングもアセットを使ったり、ひとりではできない作業はたしかにあります。それでも、やりたいことを飽きずにやれることがすごく楽しい。ストーリーを書いて、プログラムを組んで、レベルデザインをして、バトルの方程式を書いて、それを1カ月から2カ月くらいのスパンで回している感じです。

──もともと音楽だけでなくそういったプログラムやレベルデザインなど、ゲーム作りにおけるいろいろなジャンルにご興味があったのでしょうか?

目黒氏:
 僕は1971年生まれの51歳なんですけど、中学生くらいで8bitパソコンブームがあり、プログラムをかじり、自分の作ったゲームを友だちに見せる……ということを大学くらいまでやっていたんです。音楽の道に進みたいけど、ゲーム作りも捨てがたい。そこで、音楽もゲームも作れるゲーム業界に入りました。

 アトラスに入社してからは音楽にコミットしていましたが、いつか「僕が考えた最強のゲーム」を作りたいと思っていました(笑)。

──その情熱を持ち続けられるのがすごいと思います。

目黒氏:
 いやいや。変な企画書ばかり出していたんですよ(笑)。

──おひとりで開発をしていると、壁にぶち当たったときにキャッチボールができるような相手がほしいと思うことはないですか?

目黒氏:
 じつは講談社さんの「ゲームクリエイターズラボ」で最終選考に残していただいてから、担当編集さんがついてくださっていて。いろいろ相談させていただいております。
 また、クラウドファンディングの支援者の方々に意見を求めたりアドバイスをいただくこともできるので、そういう場があることは心強いですね。

 いままで投げても返ってこなかったものが返ってくるようになりました。とてもありがたいです。

──『ペルソナ』シリーズでタッグを組んでいた歌手のLotus Juice【※】さんと再びタッグ組むということも話題になっているかと思います。どのような経緯でお話が進んだのでしょうか?

Lotus Juice氏:
歌手・作詞家。『ペルソナ』シリーズではBGMの歌を担当し、『ソウルイーター』や『ジョジョの奇妙な冒険』などのアニメ作品にも携わっている。

目黒氏:
 アトラスさんで『ガンズ・アンダークネス』の前身となるゲームを作っていたとき、オープニングテーマをLotusさんにお願いしていたんです。歌詞まで書いてもらっていたんですけど、開発が中止になってしまって。そのときのオープニングテーマを僕自身がすごく気に入っていたので曲の権利を買い取らせてもらいました。

 現在の『ガンズ・アンダークネス』は、前身となったゲームとは内容が変わっている部分もあるので、Lotusさんに歌詞をリライトしてほしいと思ったんです。そこで改めてお願いしたのがきっかけです。

──買い取るのはすごいですね。

目黒氏:
 世に出ないのであれば売ってほしいと思いました。

──それだけで情熱が伝わりますね。

目黒氏:
 ゼロから作り上げたものなので、愛着や思い入れがあります。

イリヤ・クブシノブ氏による海外に向けたキャラクターデザイン

──キービジュアルは『攻殻機動隊 SAC_2045』で有名なイリヤ・クブシノブ【※】さんを起用されていますね。キャラクター設定についてもお聞かせください。

※イリヤ・クブシノブ:
ロシア出身・日本在住のイラストレーター。Netflix配信アニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインを担当している。

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『ガンズ・アンダークネス』

目黒氏:
 キャラクターデザインをどなたにお願いしようか悩んでいたときに、Twitterでイリヤさんを見つけました。しかもどうやらペルソナが好きだったようで。そこで僕から講談社さんを通じて依頼をしました。

 そこから「強化スーツ」や「2045年」というような世界設定の説明をさせていただいたんですが、最終的には「イリヤさんの好きなようにやってほしい」とお願いしました。

 僕はてっきりシュッとした感じのものが出てくるのかと思っていたんです。そしたら、海外の方に向けたセンスを持ったイリヤさんが『メトロイド』っぽいごつめのデザインをされて「なるほど」と思いました。

──うまくマッチしたんですね。

目黒氏:
 ただ、「僕が作るフィールドに合うかどうか」はまた別問題でして。荒廃した屋外のフィールドだと、なかなかうまく馴染まないんです。そんな中で、イリヤさんがすごく熱心に対応してくださいました。

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 たとえばイリヤさんの描いたバストアップの絵をフィールド画面に乗せてみたときに、イリヤさんのほうから「ちょっとこのフィールドだと色味が……」と各フィールドごとに色彩を調整してくれたりして。イリヤさんの熱意を感じました。

──仲間との絆を深めるシステムがあるとのことですが、キャラクターの好感度を上げていくようなシステムなのでしょうか?

目黒氏:
 まず大前提として僕みたいなゲーム作り1年生の素人がすべてのシステムを考えることは無謀だと思いました。そこは手堅く、いままで僕が作ってきた『ペルソナ』のシステムを参考にさせていただいております。そこは隠すことなく、正直にお伝えしたくて。

 キャラクター同士の絆のコミュニティが上がることで連携技が使えるようになったり、ダメージを受けるたびに溜まるゲージによって連携技が使えるようになったり、そういうことを考えております。

──目黒さんはいままでプレイヤーとしてはどのようなゲームをされてきたのでしょうか。印象に残っているゲームはありますか?

目黒氏:
 僕の原体験は『ザ・ブラックオニキス』【※】です。高校のときはかっこつけてあまりゲームはやらなかったんですけど、中学や大学ではパソコンのゲームをよくやっていました。世間がスーファミをやっているときも僕はパソコンのゲームばかりで。

※『ザ・ブラックオニキス』
1984年に発売されたロールプレイングゲーム。ゲーム誌『ログイン』のソフトウェア大賞を受賞している。

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 僕はアクションゲームが苦手であまり多くはやってこなかったんですが、『ストリートファイター2』はやっていましたね。
 あとは大きいところだと『ウルティマオンライン』【※】も影響を受けています。ネットで世の中が繋がったときにどう革新していくのか興味がありました。

※『ウルティマオンライン』:
1997年に発売された多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム。

──僕も『ウルティマオンライン』を最初に遊んだときは本当に衝撃を受けました。たとえば吟遊詩人で歌うためだけにログインしたりなんかもできて、「そんなことだけでも遊べちゃうんだ」と。「魔王を倒しに行く」とか「世界を救う」とかそういうことをしなくても許されて、ひとりひとりのドラマが生まれることに驚きました。

目黒氏:
 ただ、最近は自分のゲームのシステムに参考になりそうなものを基準に遊んでしまって、もっと純粋にゲーマーとして楽しみたいと思っています。たとえばセガさんが日本語にローカライズしてくださった『サバイビング・ジ・アフターマス -滅亡惑星-』は遊んでみたいですね。

──あのゲームはすごく評判がいいですね。

目黒氏:
 やりたいと思っているんですけど、いまはクラウドファンディングの期間中ですし、10月はペルソナライブ「PERSONA SUPER LIVE P-SOUND WISH 2022 ~交差する旅路~」【※】も控えているので、落ち着いたら遊びます。

※「PERSONA SUPER LIVE P-SOUND WISH 2022 ~交差する旅路~」:
10月8日・9日に幕張メッセで開催されるライブ。チケットは両日すでに完売済み。目黒氏はギタリストとして毎回出演している。

──最後に本作を期待されてる方々にメッセージをお願いいたします。

目黒氏:
 皆さまのおかげでクラウドファンディングは成功しつつあります。本当にありがとうございます。

 今後は皆さまからのフィードバックをいただけるのをすごく楽しみにしています。いろんな方からご意見をいただけたらうれしいです。みんなで繋がり合ってこのゲームを磨き上げられたらと思ってますので、どうぞよろしくお願いいたします。(了)


 目黒氏の「アトラス退社」は、氏の思惑通り多くの人を驚かせただろう。しかしお話をうかがうと、そこにはおよそ15年も前からあたためていた企画に対する熱意があった。

 サウンドクリエイターとして数々の実績を残したうえで「いつか“僕が考えた最強のゲーム”を作りたいと思っていた」と夢に向かう姿はアトラスに対しても、ファンの方々に対しても、ご家族に対しても、誠実に思えた。

 また、独立後もペルソナライブに出演するなど、これまでと変わらない活動にいちペルソナファンとして安心している。

 『ガンズ・アンダークネス』はクラウドファンディング開始からおよそ1週間で1000万円の資金を調達している。期間は10月15日まで。目黒氏の夢を支援できるチャンスとなっている。

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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