11月8日に発売を予定しているソニックシリーズ最新作『ソニックフロンティア』はこれまでのシナリオと大きく異なる。従来は、「悪いことをしたエッグマンをやっつければクリア」というようなあらすじさえ読めば結末が見えてしまうものだった。
ところが本作は「中盤になってもストーリーの全容はわからない」とのこと。そう語るのはソニックチーム代表を務める飯塚隆氏である。
本作のシナリオはアメコミなどで活躍する人気ライターのイアン・フリン氏が担当。飯塚氏から「世界で5本の指に入るくらいのソニックマニア」と評される彼はどのような人物なのだろうか。
今回電ファミは、ハワイで開催されたセガ・オブ・アメリカ主催のイベント「Sonic Frontiers Preview Event」の会場からイアン氏にオンラインで合同インタビューを実施する機会をいただいた。本稿では日本の開発陣とのやり取りを含めた制作面や氏のソニック愛にいたるまでお届けしていく。
文/柳本マリエ
──イアンさんはソニックのどういうところがお好きなのでしょうか?大好きなキャラクターをご自身で描くうえで守っている部分はありますか?イアンさんの考えるソニック像を教えてください。
イアン・フリン氏(以下、イアン氏):
ソニックに限らず、すべてのキャラクターにおいてそのキャラクター自身が持つ “おもしろい部分” を探すように心がけています。ソニックについては、勇敢な姿やかっこいいところが読者やプレイヤーに伝わってほしい。エッグマンについては卑怯で意地悪なところがおもしろく伝わってほしいと思っています。
ソニックの親しみやすさは大事にしたいと思っていますが、ソニックはほかのゲームと違い必ずしも正義の味方というわけではありません。いたずら好きで皮肉っぽいところも彼の魅力だと思っています。
──『ソニックフロンティア』は自由に遊べるオープンゾーンが特徴です。どのように攻略していくかはプレイヤーに委ねられているためプレイヤーごとに体験が異なるかと思います。シナリオ執筆においてそういった差異を整えるような工夫はあるのでしょうか? またこのような側面から本作のストーリーはどのように構想されたのでしょうか?
イアン氏:
ストーリーと探索の調整はとても大変でした。ディレクターの岸本さんと細かいところまで話し合いを重ねています。
たとえばエミーが囚われている状態のときにソニックが「すぐ戻る」と言って去ったあと寄り道をしてしまうとゲームとストーリーが合わなくなってしまうので、そのバランスの調整を行いました。自由に探索をしながらもプレイヤーがストーリーにおいての大事な部分を逃さないよう意識しています。
構想については、各島に出てくる仲間たちとソニックの関係性や個人の成長を描くようにしました。加えて、古代ミステリーを解き明かす要素も含まれています。ひとつひとつはとてもシンプルなものになっていますが、それらを組み合わせていくことによって壮大な背景が見えてくるように心がけました。
──ストーリーに対する数多くの推測がありますが「古代文明が眠っている未知の島・スターフォール諸島を探検する」ということ以外には知らされた情報があまりありません。既存のソニックシリーズとは関係があるのでしょうか?もしかして『ソニック・フォース』から続く部分があるのでしょうか?
イアン氏:
「はい」と「いいえ」の両方です(笑)。「はい」の部分に関しては、ストーリーがソニックのつぎの章であることを感じさせるように作っているからです。また、過去の作品に基づいて仲間との関係も繋がっています。「いいえ」の部分に関しては、『ソニックフロンティア』はひとつの独立した物語として理解できるようになっているので過去との繋がりがわからなくても問題ありません。
──開発側からゲームの主な設定を聞いてからシナリオに着手されたと聞いていますが、開発側とのやり取りで印象的なエピソードなどはありますか?
イアン氏:
非常に忍耐強いチームでした。たとえば、私が10個くらいストーリーを書いて飯塚さんに選んでもらいます。そこからさらにキャラクターの成長や展開のアイディアを出し、その中から細かい調整をかけていくという作業をずっと行っていました。時間もかけています。
振り返るととても大変な作業ではありましたが、長い間ソニックの大ファンだった私にとってこの仕事の依頼をいただいたときは夢が叶ったと思いました。
──ゲームのシナリオには、漫画や映画作品などと比較してどのような特徴があると思いますか?
イアン氏:
それぞれプロセスがまったく異なります。漫画の場合は自分でアイディアを出したあとはスクリプトを起こし、それを編集者へ渡したのちに作家が制作に入るというプロセスのため、比較的まっすぐなラインになっています。作家から質問をいただくことはありますが、やり取りはさほど多くはありません。
対してゲームの場合はストーリーがゲームに基づいて作られていくため、ゲームの進行によってどのような影響をもたらすのか、やり取りを重ねる作業が必要になってきます。何回もアイディアを変更するところがゲーム独特の作業だと感じました。
──ストーリーを構築するうえで、影響を受けた過去のソニックシリーズのタイトルはありますか? 特に影響は受けていないという場合は過去タイトルとの差別化を意識した点があれば教えてください。
イアン氏:
最初にソニックチーム代表の飯塚さんとディレクターの岸本さんから「これまでよりもシリアスな雰囲気にしたい」と聞いていたので、『ソニックアドベンチャー』や『ソニックアドベンチャー2』のようなキャラクターを考えていました。
特に意識した点は「各キャラクターに見どころを作ること」と「起承転結を持たせる」という点です。ひとりひとりのキャラクターが成長する姿を描きたいと思いました。
──ソニックには幅広いファン層がいますが、年齢・性別・趣味趣向などどのあたりの層を意識されて執筆されたのでしょうか?
ソニックは「一般受け」するシリーズだと考えています。もちろん、ティーンエイジャーや若い男の子寄りではあると思いますが、しっかりとしたものを作れば自然とその層を超えていくでしょう。逆に言えば、ターゲットを絞ってしまうと視野が狭くなると思っています。
魅力的なストーリーやキャラクターを作れば、コアなファンのみならずさらに多くの人を惹きつけることができます。40代の私が8歳の息子と同じようにソニックを楽しみにしていますから(笑)。
──イアンさんは「世界で5本の指に入るくらいのソニックマニア」と飯塚さんから評されるほどもともとソニックシリーズの大ファンだったとおうかがいしております。ソニックとの出会いや好きになった理由、好きなタイトルやキャラクターについて教えてください。また、ソニックはアメリカではゲームにとどまらず漫画やアニメや映画もあると思いますが、どれがお好きなのでしょうか?
イアン氏:
きっかけは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』が同梱されているジェネシス(メガドライブ)を父が買ってくれたことでした。そのころちょうど漫画も出てきたので、ファンになるのは運命だったと思います。
キャラクターはナックルズが特に好きですが、エッグマンも好きです。また、ビーン・ザ・ダイナマイトというキャラクターも好きだったのでいつの日かまた戻ってきてほしい(笑)。どのメディアのソニックも大好きで、それぞれ仲間たちがどのように描かれるのか、どういうアプローチをするのかを知ることがとても楽しいです。
──日本・アジア版ではディレクターの岸本さんが台詞を日本向けに書き直していると聞いていますが、その点についてはイアンさんも問題なく受け入れられたのでしょうか? 修正後の台詞についてはご覧になられたのですか?
イアン氏:
日本・アジア版の台詞は見たことがないので、その違いを見るのも面白いと思います。インターネットでは簡単に共有や比較ができるので、特にファンの皆さまが両者をどのように受け止めるのかが興味深いところです。いずれにせよ、岸本さんが私の作品を尊重しつつ、日本・アジアに合うように調整してくれていると私は信じています。(了)
合同インタビューという短い時間ではあったものの、イアン氏のソニック愛が伝わってくる内容だった。かねてよりソニックの大ファンだった氏がシナリオ担当に抜てきされ、「夢が叶った」と語る姿は多くの人に希望を与えるのではないだろうか。
残念ながら本人の希望により実際の姿をお届けすることはできないが、その熱量が伝われば幸いだ。
【あわせて読みたい】
「バトルに魅力がない」と言われて生み出された “ソニックらしいボス” とは? プレイテストで再評価を得た『ソニックフロンティア』のバトルについてソニックチーム代表の飯塚氏に聞いてみたソニックチームの代表を務める飯塚隆氏に現地・ハワイで直接お話をうかがう機会をいただいた。いまだ謎に包まれているストーリーとプレイテストを繰り返し行ったことで大きな改善が見られたバトルについて詳しくお伝えする。