先日、セガ・オブ・アメリカによって世界中から約30ものメディアがハワイに招待され、美しい海が目の前に広がるオーシャンビューのホテルにて『ソニックフロンティア』を朝から晩まで試遊するイベント「Sonic Frontiers Preview Event」が開催された。
電ファミ編集部も6時間ほど試遊させていただいたのち、ソニックチームの代表を務める飯塚隆氏に現地・ハワイで直接お話をうかがう機会をいただいた。氏とは2022年9月に開催された東京ゲームショウ(以下、TGS)から約1カ月ぶりの再会となる。
実際に『ソニックフロンティア』を第1島から第3島まで試遊したことで、前回のインタビューでうかがった「ソニックらしさ」の意味を改めて理解することができた。
本稿では、いまだ謎に包まれているストーリーとプレイテストを繰り返し行ったことで大きな改善が見られたバトルについて詳しくお伝えする。
文・写真/柳本マリエ
自分の祖国で大きく扱ってもらえることはうれしい
──『ソニックフロンティア』の「日本ゲーム大賞2022」フューチャー部門受賞おめでとうございます。改めてTGSでの反響はいかがでしたか? 試遊された方々からのご意見で印象的なものはありますか?
飯塚隆氏(以下、飯塚氏):
私はソニックを30年作っていますが、今回のTGSがいちばん嬉しかったです。岸本【※】とも「今年のTGSは本当によかったね」と話していました。フューチャー賞もいただきましたし、セガ/アトラスブース内でもソニックをすごく大きく扱ってくれて。
※岸本守央氏
『ソニックフロンティア』にてディレクターを務める。
試遊台も30台以上ご用意させていただきました。これは、セガのこれまでのゲームショウの中でもいちばんの数なんです。それでも入場規制で並べないお客様が外で待ってくださっている状態でした。
いままでソニックは新作を出しても試遊台が4台とかで「気づかなかった」とファンの方から言われるくらい、目立ちにくいところに置かれていましたから(笑)。それだけセガとしても今回の『ソニックフロンティア』に力を入れてくれているということなので、開発が長かったこともあり感動も大きかったです。
──TGS会場でソニックは本当に目立っていました。
飯塚氏:
E3など海外のゲームショウでソニックを大きく扱っていただくことは経験があるんですけど、TGSという自分の祖国で大きく扱ってもらえることはうれしいです。ただでさえ並ぶだけで2時間や3時間くらいかかるじゃないですか。それなのに「もう6回遊びました」と言ってくださる方もいらっしゃったりしていて。
あれだけ並んでいただいたにも関わらず「おもしろい」、「よかった」、「買う」というような高評価のご意見が多かったので、本当によかったです。
ドイツで開催された「gamescom」でも一般日は3時間待ちでしたが、TGSはそれ以上の熱量でした。
──前回のインタビューでは日本・アジアと欧米で異なるプロモーションを行っているとうかがいました。キービジュアルやシナリオの台詞を変える試みは初めてとのことですが、そこにいたるまでどのような議論があったのでしょうか?
飯塚氏:
ソニックタイトルの場合は通常であれば欧米のほうが圧倒的に販売規模も大きいので、大抵のプロモーション計画はまず欧米が立てるんです。そのため、これまでは欧米が立てた計画に日本が準ずる形で行ってきました。
しかしながら今回はセガとしても『ソニックフロンティア』で大々的なプロモーションを行いたいということで「日本・アジアの市場で受けるためにはどうすればいいか」という検討をしています。開発チームとしても日本やアジアで勝負がしたいという思いが強く、次第に「欧米のやりたいこと」と「日本・アジアでやりたいこと」の相違が生まれてきました。
いままでは、そもそも相違すら生まれなかったんです。なぜかというと「欧米で売るために作っているソニックタイトル」だったので。
しかし今回は相違が生じたことによって、日本・アジアと欧米でそれぞれの文化に合わせたプロモーションを行う方針となりました。最初は折衷案でまとめるという話も挙がりましたが、中間を取ってしまうと両方が満足しないんです。
──どちらにも刺さらなくなってしまいますね。
飯塚氏:
どちらも満足するように日本・アジアと欧米でそれぞれキービジュアルやシナリオの台詞を変えるなどの試みをしています。
──実際に変えたときの欧米側の反応はいかがでしたか?
飯塚氏:
ソニックタイトルの場合は前例がないので、正直なところ最初は少し反発もありました。でもそこはちゃんと彼らに日本・アジアでやりたいことをしっかり伝えた結果、納得してもらえましたね。
第4島や第5島へとつづくにつれてストーリー要素が強くなる
──『ソニックフロンティア』はミステリアスで物悲しい雰囲気に “意味がある” とおっしゃっていましたが、これまでのソニックとは異なる印象かと思います。従来のイメージを変えることに対して抵抗や葛藤はありましたか?
飯塚氏:
そこは企画書の段階からいまのスタイルなんです。そのため、イメージを変えることに対する抵抗はありませんでした。アメリカのスタッフもその点には同意してくれていたので。
ここ最近はソニックタイトルも数が増えて、いろんな年代の方々に対してアプローチが取れるラインナップになってきました。今回の『ソニックフロンティア』に関しては低年齢層ではなくその上を狙う目的で立てられた企画なので、シリアスな雰囲気を出すことは初めからの狙い通りです。
──そういったシリアスな雰囲気も含め、シナリオを担当されたイアンさん【※】には執筆においてどのようなご依頼をされたのでしょうか?
飯塚氏:
イアンを起用したいというのはずっと前から思っていました。前回のインタビューでもお話させていただいたように「次世代の新しいソニックを作る」という意気込みのうえ、従来のシナリオライターからイアンに切り替えようと、彼にアプローチしたんです。
※イアン・フリン氏
コミック、ビデオゲーム、テレビ、ストリーミングメディアのライターとして活躍。飯塚氏から「世界で5本の指に入るソニックマニア」と評される。
ただゲーム内容については、ゲームデザイン上もう決められてるんですね。そこは作家が自由に書けるところではないので、ある程度ゲームの流れに沿いながら「謎の少女がいて」とか「こういう島があって」とか「ソニックは仲間を助ける」というような、ゲーム上必要な要素はイアンに提供しました。
──実際にイアンさんが執筆されたシナリオをご覧になったときはどういった印象でしたか?
飯塚氏:
じつは、すごく時間がかかったんです。骨子は固まっている状態でイアンに依頼してるのでそんなにブレはないんですけど、キャラクターの性格づけやその島でのイベントは決めるまでに時間がかかりました。半年くらいはかかっているかと思います。イアンには苦労をさせてしまいました。
「セージ」というキャラクターの名前もイアンがつけてくれたんです。
こちらとしてはゲーム上で必要な道筋と「最後はこんな感じで終わらせたい」という大枠をイアンに提供して書いてもらいました。
──6時間ほど試遊させていただいた中でも、ソニックとセージのやり取りで響く部分がありました。
飯塚氏:
いままでのソニックシリーズでは結末が見えていたんです。悪いことをしたエッグマンをやっつければクリアになりますから。そのため結末はあらすじから読めてしまうんですけど、今回の『ソニックフロンティア』に関してはあらすじを読んだだけではまったく結末がわからないんです。
ストーリーの行方については、第3島ぐらいまで行くとだんだん少しずつ見えてくるかもしれません。でもそれでもまだ全容はわからない状態だと思います。これから第4島や第5島へとつづくにつれてストーリー要素が強くなっていくので楽しみにしていてください。
ソニックのアクションが凝縮された「SQUID」とのバトル
──私が今回の試遊でいちばん興奮したのは「SQUID」【※】という敵です。ダイナミックな動きも印象的なんですが、高い位置で浮遊しているので「どうやって近づいたらいいんだろう」としばらく考えてしまいました。高台から飛び降りてやっと乗れたときはうれしくて。さらに乗ったあともソニックらしい螺旋の動きをするんですよね。あの敵ひとりにソニックの要素がふんだんに詰まっていて驚きました。
※SQUID
第1島「クロノス島」にいるボスのひとり。イカのような形状で、帯状の光を放ちながら上空を浮遊している。
飯塚氏:
いまご指摘いただいたとおりで、すべてが狙いどおりですね。
一同:
(笑)。
飯塚氏:
TGSのときにもお話をしたように『ソニックフロンティア』はプレイテストを何回も行いました。「NINJA」や「TOWER」など島にいるボスたちはソニックの新技「サイループ」を活かす観点から考えられていたため、主にサイループを使って倒す場合が多かったんです。
そしたらプレイテストで「バトルに魅力がない」というご意見が多く、ソニックらしくないと判断されてしまいました。そこで生み出されたのが、先ほどの「SQUID」なんです。
──ということは、プレイテストがなければ「SQUID」は生み出されなかったということですか?
飯塚氏:
ええ。そうなんです。プレイテストでご意見をいただいた結果、「そういえばソニックらしく作ることを忘れていた」と気がつきました(笑)。
最初は島のオープンゾーンをどうやって活かそうか、サイループという新技をどうやって活かそうか、そればかりにフォーカスしていたので、そこを楽しませる敵やギミックを考えていたんです。
そしたらいちばん重要な「ソニックらしさ」を忘れてしまっていました。電脳空間は従来のステージクリア型なのでもちろん初めからソニックらしいですが、バトルにおいての「ソニックらしさがすっかり頭から抜けてしまって。
そこから「ソニックらしいボスってなんだろう」と検討した結果、「SQUID」が誕生しました。
──最初から企画されていたものではなく、プレイテストを経て「SQUID」が生まれたということなんですね。
飯塚氏:
再びテストをしたとき「SQUID」がすごく人気だったんです。これで島にいるボスたちのコンセプトが「これなんだ」と定まった。方向が決まったきっかけです。
──「SQUID」は体が長いので最後尾に飛び乗ってしまうと本体までたどり着くのも大変でした(笑)。
飯塚氏:
先ほどすべて狙いどおりと端的に言ってしまいましたけど、そのアプローチの仕方も我々が目指していたところなんです。いままでのソニックのボスはボスステージに行って、すでにボスとの戦いが用意されていました。あとは倒すだけなんです。
ところが『ソニックフロンティア』に関してはボスにアプローチするために「どうすればいいんだろう」とカメラを回す。すると、「あの橋の上から飛び乗れるんじゃない?」と思いつくんです。地形などを見ながら自分でそれを見つけたときってうれしいじゃないですか。
──めちゃくちゃうれしかったです。
飯塚氏:
岸本とも『ソニックフロンティア』を作るうえで序盤のほうから話していたんですけど、いままでのソニックタイトルはユーザーに「わからない」と思わせてしまったら、その答えをチュートリアルのような形で提供していたんです。
だけどもうこのインターネットの時代、そもそもわからなかったら検索しますよね。「あのボスの倒し方がわからない」となったらいくらでも調べることができますから。すべてをお膳立てする必要はなく、自分でそれを探す楽しみを『ソニックフロンティア』にはあえて入れました。それは今回のコンセプトのひとつでもあります。
──前回のインタビューで岸本さんが「ソニックらしいオリジナルのバトルが生まれた」とおっしゃっていましたが、本日お話をうかがってその意味を改めて理解することができました。発売後にまた「SQUID」と戦いたいです(笑)。ありがとうございました。
飯塚氏:
前回は具体的な部分までお話しできませんでしたからね。伝わってよかったです。ありがとうございました。(了)
プレイテストの中で出たユーザーからの意見を反映させたことで生まれたという敵「SQUID」。フィールドで初めて出会ったときはアプローチの仕方がわからず、しばらく考えさせられてしまう敵だった。『ソニックフロンティア』にはそういう敵がほかにもたくさん登場する。
6時間の試遊で確認できたことはほんの一部に過ぎないだろう。製品版ではストーリーも含めてその全容をたしかめたい。
『ソニックフロンティア』は11月8日にNintendo Switch、PS4、PS5、Xbox One、Xbox Series X|S、PCにて世界同時発売予定となっている。
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