「限界まで挑戦して最高のものを作りたい」── 『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』開発者が語るシリーズ改革の背景

 「約束された“神”ゲー」、自らそう名乗りを挙げたのが2018年に発売された『ゴッド・オブ・ウォー』だ。もちろんタイトル名や、ゲーム内に「神々」が登場することを利用したユーモアあふれるプロモーションなのだが、作品自体も「“神”ゲー」の名に見劣りするものではなかった。

 2005年にプレイステーション2用ソフトとして発売された元祖『ゴッド・オブ・ウォー』は、北米を中心に大きな人気を獲得している。以降、プレイステーション系ハードウェアの代表的なアクションゲームとして栄華を誇ってきたが、2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』はその歴史に新たな輝きを刻んだ。それまで復讐鬼のように戦ってきた主人公「クレイトス」の、“父親”という面を強く打ち出したのだ。

 息子「アトレウス」が深く関わる重厚なストーリーはもちろんのこと、育成要素やフィールド探索といった新たなゲームプレイを採り入れた新生『ゴッド・オブ・ウォー』は高い評価を獲得する。「The Game Awards 2018」でゲーム・オブ・ザ・イヤーに選出されるなど数々のゲームアワードでの受賞が、その何よりの証と言えるだろう。

 そして11月9日(水)、ついにその続編『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』がPS4、PS5向けに発売された。海外メディアによるレビューの評価を集計し、平均化した「メタスコア」では100点中94点と非常に高い数値を叩き出しており、大きな注目を集めている。

 今回、電ファミニコゲーマーは開発元であるソニー・インタラクティブエンタテインメント サンタモニカスタジオより、本作のディレクターを務めるエリック・ウィリアムズ氏に話をうかがう機会をいただいた。シリーズの魅力を語り尽くすにはいささか足りない時間ではあったものの、高い前評判に対する想いや開発に関する貴重なエピソードなどをお聞きすることができたため、ぜひご一読いただければと思う。

エリック・ウィリアムズ氏
エリック・ウィリアムズ氏

聞き手・編集/豊田恵吾
文/久田晴


──本日はよろしくお願いいたします。

エリック・ウィリアムズ氏(以下、エリック氏):
 はい、よろしくお願いします。

──さっそくですが、先週「Metacritic」のスコアが公開されており、94という脅威的な高評価となっています。多くのメディアが『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を絶賛していますが、この反響を見て率直な感想はいかがでしょうか?

エリック氏:
 何よりも開発チームのメンバーに対する感謝の思いでいっぱいです。特に近年では新型コロナウイルスの感染が広がり、働く環境も在宅勤務を中心としたものに変化し、ただでさえ難しい「ゲーム制作」という仕事のハードルがさらに高くなってしまいました。そんな障害も乗り越え、無事に作品を仕上げてこのように高い評価をいただくというのは、チームメンバーの尽力なしには成し得なかったことだと思います。

──在宅勤務という環境の中で独自に工夫されたことはありましたか?

エリック氏:
 これといった工夫というほどのものはありませんが、変化した環境に順応していくプロセスは必要でしたね。スタッフどうしがオンラインで常につながっている状態も、それはそれでストレスにつながりかねないものですから。そういった面でのスタミナをつけるというのも重要なポイントだったかと思います。

──『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』のゲーム本編についてですが、グラフィック、ストーリー、ゲームプレイのいずれも、前作を凌駕していると感じました。「本作がアクションアドベンチャーゲームの新たな基準となる」という声も聞こえるほどです。本作の制作を進めるうえで、もっとも大切にしていたことをお聞かせください。

エリック氏:
 『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を高く評価していただいているようで非常に嬉しく思います。まだ「新たな基準となる」には至らないと考えていますが、私たちはつねにそのレベルを目指して制作を進めてきました。初代『ゴッド・オブ・ウォー』を作り始めたとき、トップを走るアクションアドベンチャーゲームはどれも日本の作品でした。その地位をひとつの目標として、当時からゲーム制作に取り組んでいたことを思い出します。

 2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』は「アクションアドベンチャーゲームとは何か?」という点をあらためて考え直し、再構築をはかった作品です。そのため、今回『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では前作を超えるというよりも、地続きで新たなストーリーを描く、という方向性で制作を進めてきました。「超える」という言葉を使うのであれば、超えるべきは前作ではなく「今までの自分たち」だと思っています。

「限界まで挑戦して最高のものを作りたい」── 『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』開発者が語るシリーズ改革の背景_001
(画像は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』プレイステーション公式ページより)

──前作での反省点や、本作で改善を心がけた部分はありますか?

エリック氏:
 2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』も自信をもって送り出した作品ですが、開発の中では「もっとたくさんの敵を入れたい」、「もっとボスを増やしたい」という想いはありました。もちろん、どこかで区切りをつけてファンの方にお届けしなければならないので、最終的にはああいった形で発売へいたりました。

 そんな背景もあったので『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では、まず何よりも敵の数を増やしました。また前作ではゲームをある程度進めないと使えなかった武器「ブレイズ・オブ・カオス」が初期から使用できたり、防具の選択肢の幅が広がっていたりと、プレイヤーがそれぞれのスタイルを自由に表現することをより重視しています。装備選択やスキルツリーの育成を通し、さらに多様なカスタマイズが可能になったと言えるでしょう。

──『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズは、これまでハードの円熟期に発売されることが多く、ハード性能の限界に挑まれていた印象があります。本作はPS4とPS5のマルチ展開ですが、「いまだからこそ使える技術を活かした表現や体験の提供」という点を意識されているのでしょうか?

エリック氏:
 仰る通り、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』はPS4の集大成のようなイメージで制作に取り組んできた作品です。PS4の最終局面を飾る、最高のゲームを作ろうという意気込みで準備してきました。PS4における最後の代表作、といった扱いをしていただけるのは本当に光栄なことです。

 そのうえで、どのコンソールでプレイしても最高の体験ができるよう、細かな部分にいたるまで手作業で調整してきました。PS4の「DUALSHOCK 4」コントローラーに慣れた方はごく自然に操作できると思いますし、PS5の「DualSense」ならばハプティックフィードバックやアダプティブトリガーといった新技術も体験することができます。PS5版では120fpsでのプレイも楽しめますしね。

 ゲーム内には豊富なオプションを用意してありますので、PS4にせよ、PS5にせよ、またモニタの種類にせよ、どんな組み合わせでも楽しんでいただけるかと思います。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのファーストパーティの一員として、コンソール機における表現力を限界までゲーム中で活かすことも重要な使命のひとつだと考えています。

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(画像は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』プレイステーション公式ページより)

──『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズは歴史あるタイトルのひとつですが、2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』では見事に改革が成し遂げられていました。長く続いているシリーズ作品ですと大きな変化をくわえることも難しいと思うのですが、この思い切った変化を果たした要因はどこにあったのでしょうか?

エリック氏:
 一番の要因は、私たちスタッフ自身の経験と成長だと思います。初代『ゴッド・オブ・ウォー』を作ったときメインのスタッフ層は20代中盤で若く、子どももいない人が大半でした。しかし、2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』を作り始めたときには私たち自身が成長し、結婚したり、子どもを持ったりと大きく変化していたわけですね。そのため「クレイトスをもう一度父親として見たらどうなるのか?」「クレイトスがひとりではない物語を描いたらどうだろうか」といったアイデアが浮かんできたのです。

 本作では成長した「アトレウス」の姿も見られますが、クレイトスがちゃんと子育てをできたのか、正しく息子を導くことができるのか、という点もストーリー上で重要なポイントとなってきます。ですので『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、まさに私たちスタッフ自身の人生が反映されたような作品と言えるでしょう。

──本作を「サンタモニカスタジオの20年間の集大成」と評する声も聞こえます。サンタモニカスタジオの特徴、ほかのスタジオにはない優れた部分はどういったところなのでしょうか?

エリック氏:
 これは難しい質問ですね。どのスタジオもそれぞれの文化を持っていると思うんですが、私たちのチームには本当に個性的なメンバーがそろっています。時には衝突することもありますが、それは決してネガティブなものではありません。お互いが最善を尽くそうと挑戦する過程で生まれるものですから。

 私たちのチームで共通していることは、全員が「限界まで挑戦して最高のものを作りたい」という想いを抱いている点です。自分たちの身を削ってでも、中途半端な作品は世に出したくない、という熱意を持ってくれていると思いますね。また、神話をベースにしたストーリーをゲームで描くスタジオとしてはトップ層に立てているのではないか、という自負もあるので、その点もひとつのトレードマークと言えるかもしれません。

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(画像は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』プレイステーション公式ページより)

──「本作の見どころ」や「こう遊んでほしい」といった点をぜひエリックさんの言葉でお聞かせください。

エリック氏:
 “全部”です(笑)。あらゆるパートが才能あるメンバーたちの全力をもって作り出されたものなので、すべて堪能して欲しいです。スタッフ全員がゲームの全体に携われるわけではないので、ひとつ残らず味わってほしいというのが正直なところです。プレイスタイルの意味で言うのであれば、ゆっくり時間を取って楽しんでいただきたいですね。私自身ものめり込んでしまうほど良いゲームなので(笑)。

──少し抽象的な質問になってしまうのですが、エリックさんが考える「『ゴッド・オブ・ウォー』らしさ」とはどのような部分でしょうか?

エリック氏:
 これもまた非常に難しい質問ですね(笑)。全員が違う意見を持つとは思いますが……私があえて言葉にするのであれば「be better」(≒より良くなる)でしょうか。あらゆる面において以前の自分を超えることを意識しています。これは人生の中でもそうですし、ゲームの中でもまた同様です。もっと楽しく、もっと良いレベルデザインに、もっと壮大なストーリーへ、と向上心を持ち続けるといったイメージです。

──その「be better」という信念はエリックさんが『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズに携わる中で持ち続けてきたものなのでしょうか。

エリック氏:
 はい、つねにあった考えだと思います。もっとも、若いころはこんなに綺麗に言語化することはできませんでしたが……周囲の人から刺激を受け、より高みを目指してチャレンジし続けられてきたのかな、と。そうして私自身も成長し、今ではスマートに言葉にできるようにもなりました。

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(画像は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』プレイステーション公式ページより)

──本シリーズの主人公「クレイトス」についても少しうかがいたいと思います。日本では彼のような筋骨隆々の男性キャラクターは少し受け入れられにくい傾向がありますが、クレイトスは多くの日本人ゲーマーにも親しまれています。クレイトスという人物を描くにあたり、気をつけていらっしゃるのはどういった点ですか?

エリック氏:
 特別なにかに気を使っているというわけではありませんが、全体を通してキャラクター像がブレないように描いていますね。あと彼は口数の少ないキャラクターなんですが、まれに話すときには人の心に響く言葉が出てくる点も魅力のひとつだと思っています。

 あとはそうですね、ローカライズが完全に行われている点も大きいのではないでしょうか。私自身もメイキングビデオでクレイトス役を演じる三宅健太さん【※】の演技を見せていただきましたが、本当に素晴らしかったです。ほかの言語の声優さんにも言えることでしたが、どなたもクレイトスになりきって演じてくださっていてとても嬉しく思いました。

※『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では2018年版『ゴッド・オブ・ウォー』から引き続き、クレイトス役を声優の三宅健太さんが演じている。

──最後に、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を楽しみにしている日本のゲーマーたちへメッセージをお願いします。

エリック氏:
 みなさん、ぜひゆっくり噛み締めるようにゲームをプレイしてください。たくさんの魅力的なキャラクター、ワクワクするようなストーリー、豊富なサイドコンテンツがみなさんを待っています。ゲームの中に迷い込んでしまうくらい没入して、心の底から楽しんで頂けたら、と思います。

 あと日本のファンの方に向けては非常にユニークなプロモーション映像をお届けしているので、こちらもぜひ楽しんでみてください(笑)。

──(笑)。本日は貴重なお話をありがとうございました。

エリック氏:
 ありがとうございました。(了)

エリック・ウィリアムズ氏

 今回のインタビューを通して見えてきたのは、エリック・ウィリアムズ氏のストイックな謙虚さだった。上述したように『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は発売前からメディアを中心に非常に高い評価を獲得しているが、その評価におごることなく、さらなる高みを目指す姿勢には長きにわたってシリーズを支えてきたクリエイターらしい凄みを感じた。

 氏の言葉にあった「be better」──。つねに向上心を失わず、昨日の自分を超え続ける。言うだけならば簡単だが、実際に仕事上でその信念を貫き続ける難しさは計り知れない。シリーズの改革にはスタッフ自身の成長もあったと語られた背景には、エリック氏だけでなく、スタジオ全体がこうした高い意識を持ち続けていることもあるのではないだろうか。

 「親子」という普遍的なテーマを前面に打ち出し、新しい道を歩み始めた『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズ。クレイトスとアトレウスの旅路はもちろん、シリーズの今後の歩みにも引き続き注目していきたいところだ。待望の最新作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は11月9日(水)より、PS4、PS5向けに発売中である。

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。
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