元プロゲーマーが語る「ロールの光と陰」。開発スタッフは今、熱いゲーマーになった
──ゲームプレイの部分に戻って「ロールの概念がない」という部分について、元競技シーンにおられた穂垣さんにお聞きしたいなと。各機体の個性を出しつつも、ゲームシステムとしてロールを撤廃しているのにはどのような理由があるのでしょう。
穂垣氏:
ロール感が強ければ強いほど、“全員で肩を組んで大縄跳び”をしているような状況になるじゃないですか。例えとしてロール感がしっかりあるタイトルとして僕がガッツリやっていたのは『オーバーウォッチ』ですが、タンクが落ちるとDPSもダメージが出しにくく、ヒールも回らないし、サポートが落ちるとヒール量が足りなくなりタンクが落ちるし、DPSのダメージが足らないとジリ貧になってタンクが落ちるという(笑)。もちろん色んな構成があるので一概にそうなるとは思ってないですが基本的な流れとして大縄跳び状態になるかなと。
こんなふうに、ロール色の強いゲームでは転んだ奴から「お前のせいだ」となる厳しさがあるんですが、それが面白さでもあり……。ただ、ロール色の強いゲームのいちばんの弱点は、ガチな人もカジュアルな人も構わず“強制大縄跳び”になってしまうことだと思うんですよ。
──“強制大縄跳び”は確かに言い得て妙ですね……。
穂垣氏:
「このキャラをピックしたんなら、この仕事はするよね」という暗黙の了解が確約されたようなものなので、それができない時点で「はいおつかれーはいもう君だめー」みたいな感じで暴言が飛んでくるわけです。
僕はそういうゲームが大好物なので(笑)、自分が失敗するのもチームメンバーが失敗するのも受け入れることができますが、プレイヤー層全体にそれが受け入れられるかという点では厳しいと思うんですね。
──穂垣さんの口調が一気にゲーマーのそれになった(笑)。分かります。ランクマッチにキューを入れた瞬間、大縄跳びに参加するのは確定ですよね。
穂垣氏:
そうです。それこそロール枠がなかった時代とかは、ロードが少し遅いだけで「はい君D.Va確定ね」みたいな。枠が決まっちゃってるんですよね。「これピックしないってことは負けるけどいいの?」的な雰囲気で、「好きなピックかレートを選べ」という、ゲームの面白さよりも勝ちを求める日々になる。
たまたま暗黙のDPS枠が空いていて、「じゃあ、空いているロールやろ」みたいな感じで楽しく遊べればいいんですけど、レートが上がれば上がるほど「負けたくない」になっちゃうので、得意でもないヒーローで大縄跳びさせられて引っかかって「はいお前のせいで負けた」「もともと得意じゃねーから!」みたいなやりとりが起こる(笑)。
『GUNDAM EVOLUTION』を様々な層の方に楽しんでいただく作品にするにあたって、こういうシチュエーションは避けたほうがいい要素だなと考えていました。
──説得力が強い。
穂垣氏:
それこそ、開発チームには元“TOP500”の人も結構いるので。競技シーンに出てた人とかも多くて、開発の段階でも「こう使えば強いよね」という草案も簡単に出せるので、そういう意味では周囲にゲーマーが多くて助かっています。
──「入り口はカジュアルに、でもFPSとしてのゲーム性も高めたい」という相反する要素のバランスはどのように取っているのでしょう。
穂垣氏:
一例を挙げると「操作難易度」ですかね。使いこなすことによって得られる期待値が高い機体は高いレートでの活躍を見込めるように、比較的難易度が低い機体は低めのレートでの活躍を期待できるように設計を行っています。
実際にガンダムエクシア、ガンダム、ジム・スナイパーⅡは期待値が高く、高レート帯で特に存在感を発揮しています。
レートが上がれば上がるほど「マップによるピック」もありますが、それらも含めた調整ですね……。ただ、トップ層だけを狙った操作難易度によって、トップ以外の層ではピックしただけで「はいお前のせいで負け確定」となることはダメなんです。
「どの層に向けたものなのか」という調整の意図を明確にしつつ、日頃からバランスを模索しています。想定を下回る、上回る場合もありますが、プレイしていただいている以上、しっかりと修正を行っていく必要があると。プレイヤーの方、とくにコアな層の方たちには「もっと早く修正入れろよ」と感じられているかなとは思うんですが。
──とはいいつつ、結構な頻度でバフ、ナーフ含む調整が入っている気もしますが。
穂垣氏:
現在は基本的に1カ月に1回のペースで行っていますが、今後どうするかという点ですね。
──これ以上のペースで調整を行う可能性があるということですか。
丸山氏:
検討すべき事項の一つと考えています。
穂垣氏:
アップデートに強弱をつける方が、より多くの方にとって遊びやすくなるのかなと。たとえばですが、2カ月に1回大きなアップデートを入れて、1カ月や2週間に1回、小規模なアップデートで突出しているものを軽くナーフするとかですね。
ただ、バランス調整は「プレイヤーの方のレートが上がったり下がったりする」一方的な天秤に掛けることへも繋がりかねないですし、「そのタイミングは一体いつならいいのか」という点も非常に難しいです。「今まで使ってきたピック、構成がシーズン終盤や大会前に突然使えなくなる」というのはモチベーションに直接関わってくる要素なので。
──確かに。間違いないです。
穂垣氏:
ですので、タイミング、頻度を含めて開発チーム内で議論を行っている状況です。
──逆に「これくらいの期間でメタが回るだろう」などの想定はあるんでしょうか。
穂垣氏:
想定のメタはあります。ただ、ロールがないので「〇〇構成」みたいなものは少ないかなと。何かが主軸となってチーム全体で合わせるというよりは、より個の部分が重要になってくるバランスですね。
「環境の中で〇〇が強いから、対抗として△△の使用率が上がる」というような、他のタイトルと比較すると、メタとしての思想自体に弱い部分があります。ゲーム性としてロールを強制していない以上、使用率や勝率といった部分に強く現れているかと捉えています。
「出したくても出せない機体」がある?そして『GUNDAM EVOLUTION』の未来
──話が変わりますが、「能力から逆算して機体をセレクトしていることが多い」と先ほど伺いました。逆に「この機体は出したいけど出せない」というようなものはあるんでしょうか。
丸山氏:
機体のサイズなどをゲーム内にも反映しているので、「このサイズ以上は入れられない」みたいなものも出てきています。贅沢な悩みなのですが。
──大きい機体。……たとえばゼク・ツヴァイとかナイチンゲールとかでしょうか。
丸山氏:
端的に言えば「マップの通路に挟まってしまう機体は出せない」ということになりますね。
穂垣氏:
個人的にはヒルドルブを出したいんですけど(笑)。
──性能面は面白そうですけど、通路に引っ掛かる気もします(笑)。でも、なんか嫌ですもん。異様に小さいゼク・ツヴァイが通路の向こう側から出てきたり、やたら肩幅狭いナイチンゲールがニュッと出てくるの。
丸山氏:
ですよね(笑)。縮尺とイメージって大事なんですよ。いろんな要素で成り立っているんです。
──プレイヤーから「この機体を出してくれ」みたいな意見で多く名が上がる機体はありますか。
丸山氏:
いろいろとご要望は頂くんですが、中でも多いのはグフカスタム、ケンプファーとかですかね。ゲームの性質上、なかなかお応えできない部分でもあるのですが……。
──ちなみに丸山さんと穂垣さんがお好きなガンダム作品であったり機体とかは。
丸山氏:
僕自身はリアルタイムで『機動戦士ガンダム』を見ていた世代なので、やはり一番記憶に残っている作品です。劇中でグフが初登場するシーンが本当に印象的で、今も一番好きな機体はグフですね。残念ながら『GUNDAM EVOLUTION』には出てないんですが(笑)。
穂垣氏:
そろそろ丸山さんのパワーで出るんで(笑)。
丸山氏:
よく勘違いされるんですけど、僕は「〇〇を出そう!」みたいな一存で実装してないんです。そこを強調させてください(笑)。
穂垣氏:
僕は『機動戦士ガンダムSEED』から入ったんです。当時からゲームは好きでしたが、初めて遊んだガンダムゲームは『機動戦士ガンダムSEED DESTINY 連合vs.Z.A.F.T.II PLUS』でしたね。
これが本当に面白くて、友達と一緒にやり込みました。ビジュアル的にカッコいいといいますか、好きなのはフリーダムとかストライクフリーダムなんですが、ゲームでお気に入りの機体はコストと性能込みでグフイグナイテッド(イザーク機)でした。
──その時点でゲーマーとしての芽が出ていますよね。使用基準は「これ使いたい!」じゃなくて「コストと性能」っていう(笑)。
穂垣氏:
本当に強い機体だったのかは分からないですが、当時の自分の中で敵の射撃をガードしつつ、カウンターで引っ張れるの強い!ってなって気に入ってました(笑)。
──私(筆者)も『連邦vsジオン』から『ギレンの野望』シリーズなど、歴代のガンダムゲーム作品は様々と遊ばせていただいているんですが、「作り方からして違う」という作品が出てきたことには感慨深いものがあります。職業柄というのもありますが、それ以上に一人のファンとして嬉しいです。
丸山氏:
『GUNDAM EVOLUTION』に限らず、他のタイトルやグループ全体で「ガンダムゲーム」のコミュニティを広げていければと考えておりますので、ぜひご期待いただければ幸いです。
──今後の更なる発展に期待しています。本日はありがとうございました(了)。
いかがだっただろうか。正直、筆者としては完全に“モヤモヤ”が晴れたわけではない。それは「ユーザー層やゲーム性を尊重しつつ、もっとガンダム要素(ガンダムを知らない方でも興味を持ってくれるような要素)を増やしてくれてもいいんだぞ」という、心の底にある無茶な要望によるものだ。
一つ例を挙げるなら「カットインはなくてもいいから、歴代パイロットのボイス実装してくれ」というものだが、同時に「このタイトルはリリースされたばっかりやん!そんなすぐに何でもかんでも実装されるわけないやろ!」とツッコミを入れる自分もどこかにいる。そう、本作は正式にリリースされてから半年も経っていないのだ。
先行してサービスが開始されたPC版に続き、CS版のサービスが開始されるなど、開発状況もかなり慌ただしかったことは予想に難くない。そして開発リソースは有限である。これはゲームに限らず言えることだが、人、物、金、時間は決して無限ではない。限られた中で“より良い環境、モノ作り”を行わなければならない。
本作はオンラインサービス型のタイトルであり、いつまでも現状維持でサービス継続ということは絶対にないだろうが(それは本インタビューからも十分に察してもらえると思う)、それを踏まえても、今は「ゲームとしての基礎を作る段階」なのだろう。彩りを加える段階(プレイヤーがそれを見る段階)はまだ先……ということだ。しかし、公式ブログにもあるように、プレイヤーからの声は間違いなく届いている。
ガンダムゲームの新たな境界線を切り開く作品としても、そして世界に打って出る国産FPSとしても、『GUNDAM EVOLUTION』の道のりは決して平坦なものではないだろう。ただ、それを踏まえた上でも「もしかしたら“やってくれる”んじゃないか?」と思わせる、極めて真摯な開発体制がそこにはあった。だからこそ待ちたい。一FPSゲーマーとしても、そして一ガンダムファンとしても、今後の展開を楽しみにしていこうと思う。