若くても裁量を大きく持って働ける
──会社としての立ち位置が面白いですよね。決まったことだけをやられているわけではないですし、グループ内でのハブとしての役割もある。TGSの話であったようなスピード感もありますよね。
森氏:
ベテランの方々に対して僕が言うのもなんですが、みんな楽しく仕事をしていただいているかなとは思っています。正直、ひとり当たりの業務量は多いので、マネジメント側の僕や山本から「その業務量を回せますか? 大丈夫ですか?」というような会話をすることもよくあるのですが、「自分の裁量を大きく持って仕事ができるので楽しいです。やりたいです」と言っていただくことが多くて。今の時代、「働きすぎ」はダメですが、「働き甲斐」みたいなものを提供できているのは非常に良いんじゃないかなと思います。
社内の雰囲気も良くて、年末には全員で23年の計画をぶつけ合う合宿にも行ったんですね。夜遅くまで盛り上がり「みんなまだ寝ないのかな」って思いましたから(笑)。
──(笑)。裁量と働き甲斐というお話がありましたが、たとえばプロデューサーだと、どの程度までを任せているんでしょうか。
森氏:
企画次第なので、まずはプロデューサーに企画を出していただいて、予算を取りに行くか否かを山本が判断します。それに対する決裁が下りれば、基本的にはその後の開発についてはプロデューサーがクリエイティブや開発費の管理などすべての責務を負います。PRチームとも連携して過程の透明性の高さは担保したうえで、最終的にはプロデューサーが方針を決めるという感じですね。
アシスタントプロデューサーもいますが、若くてもバンバン活動できるような環境は整えているので、チャレンジできる事柄は多いかなと。とにかくキャリアに関わらず、「これをやりたい」と言い出せ、というカルチャーです。TGS2022も仕切ってくれたのはPRチームの若いメンバーなんです。裁量を渡して、任せて、仕切ってもらう部分はしっかりと仕切ってもらう、というやり方ですね。
動く金額が大きいので、ゲームの企画などは集英社の役員陣に持っていくわけですが、ゲームの内容で止められたことはほぼないんですよ。集英社カルチャーなんですが、「餅は餅屋」というように「ゲームのプロを採用したのだから、ゲームのプロに任せようよ」という感じで応援してもらっています。
ただ、面白いのが「キャラクターデザインのここを変えたほうがいいんじゃない?」、「ストーリーの展開を変えないとユーザーさんが序盤で離れちゃうと思うよ」といった“編集者的な視点のアドバイス”を貰うことはありますね(笑)。
──『キャプテン・ベルベット・メテオ ジャンプ+異世界の“小”冒険』、『ONI – 空と風の哀歌』が発売され、4月には『ハテナの塔 -The Tower of Children-』の発売も控えています。実際に販売までを手がけられてみて、いかがでしたか?
森氏:
「ゲームを売るのって本当にたいへんなんだな」と実感しました。正直、言い方は悪いですが「出せばある程度は売れるんじゃないかな」と思っていた部分はあったのですが、企画、設計、クオリティコントロール、宣伝といった“売れるための仕組みづくり”を構築しないと売れないんだな、と改めて感じています。漫画にも共通することですが、集英社から出たからといって、何でも売れるかといったらそうではないので。
ただ、手応えがないわけではありません。今、出ているゲームは、現在の集英社ゲームズとしての体制で生まれた企画ではなく、私が素人ながらに立ち上げた企画の名残が残っていますが、これから出てくるモノはゲームのプロが入ったことによって、しっかりとブラッシュアップされていますのでかなり自信が持ててきました。
たいへんですし、やりきれてはいませんし、100%の自信があるというわけではないですが、「やれそうだな」という独特の手応えはありますね。数十人のメンバーを良い方向に持っていく会社作りには光が見えているかなと。
──なるほど。会社作りという点を、もう少し詳しく聞きたいのですが。
森氏:
先ほどの話に繋がる内容なんですが、当初は「個人や小規模なゲーム開発者たちにフォーカスする」という立ち上げのビジョンしかなかったので、そこにこだわっていたんです。それが良い悪いという話ではないのですが、同時に、小規模開発も大規模開発も、プロデュースワークとして掛けなければならない労力にはあまり変わりはない、ということに改めて気付いたんですね。小規模開発だからといって楽にタイトル数を稼げるわけでも、プロジェクトを進められるわけでもないわけです。となると、ビジネスを考えて、全体のポートフォリオとして起案するタイトルの規模感はバランスを考える必要があります。
併せて1年を通してわかったことは、とにかくゲーム市場にはまだまだ多くの可能性があるということ。もちろんクリエイターは国内だけではなく海外にもいますし、先ほどの規模感も多種多様なものがある。そうした幅が見えた段階で、我々の“行えること・行いたいこと”が大きく広がったんです。
世界のゲーム市場は22兆円と言われていますが、そこの0.1%のシェアを取るだけでも200億円くらいになります。集英社グループの企業としての資本力、ゲームに特化した優秀な人材、『週刊少年ジャンプ』に代表されるメディアの総合的なコンテンツ制作力を合わせれば、漠然とした自信ではありますが、「まずはその0.1%は取りに行けるはずだし、取りにいきたい」と考えています。
集英社ゲームズが求める人材とは?
──優秀な人材が集まっているという部分ですが、まだまだリクルートされているとうかがっています。どのような人材を求めているのでしょうか。
森氏:
やはり“仕掛けを作れる人”だと思っています。プロデュースの言語化は難しいですが、欲しいプロデューサーの資質として共通して言えるのは「インプット量が多くて、どんどん仕掛けを作っていける。しっかりとした方向性や意思を示せる」ことが重要ではないかなと。
アシスタントプロデューサーは、実績よりも伸びしろだと考えています。我々はAPをサポートメンバーではなく「未来のプロデューサー候補」として採用しているので、30代前後の野心を持ったメンバーが多く入って来てくれている状況です。あと重視しているのは「自分で企画を立ち上げたい」という意欲があることや、勉強熱心であること。そうしたメンバーを求めていますし、今年採用した人もそういった熱意を持って入ってきてくれているのは非常にうれしいです。
PRチームも変わらないですね。僕はよく“言語化”という表現をするのですが、「自分たちの目指していること・実際にやること」をしっかりと分析して、順序立てて、自分の言葉にして説明できる人を求めています。その能力の高さは「ユーザーさんにどうやって情報を届けるか」という部分に直結してくるので。
──若手にチャンスがあるというのは独自の強みですね。
森氏:
ほかの会社さんのゲーム業界の方と話したりすると、「若手にチャンスを与えてあげたいけど、与えてあげられない。20代、30代で自分のゲームのディレクターをやったことのある人間があまりに少ない」という話題がよくあがるんです。集英社ゲームズはプロデューサーという立場で企画の規模、アナログやデジタルを問わず、さまざまな形態のコンテンツを立ち上げる機会が常にあるので、チャレンジできる可能性が高い。「チャンス」が非常に多い会社だと思っています。
先ほども話したように、海外展開も積極的に行う予定なので、グローバルな人材も広く募集したいですね。
──今後の会社規模をどうイメージされているのですか?
森氏:
現在は20人弱ですが、まだまだ枠があります。経営陣とは「現在のペースだと50人くらいまではすぐにいきそうだね」という話をしていますし、オフィスの拡張も予定しています。大手のパブリッシャーさんと比較すると、規模としてはまだまだ小さいのですが、グローバルで見ても、この手のことをやっているパブリッシャーさんの中では比較的充実した体制で取り組めるようになるんじゃないかなと。
現状の課題はありますし、これからも解決すべき課題は確実に出てきますが、ゲーム事業を始めたてのころから比べると、大幅に「やりたいことがやれる」ようになってきました。集英社ゲームズのリクルートページも適宜更新していますので、ぜひチェックいただければと思います。
「集英社グループだからこそできる」付加価値を目指す
──集英社という強力なグループにいるのは、やはり圧倒的なアドバンテージですよね。
森氏:
『週刊少年ジャンプ』、『Vジャンプ』『少年ジャンプ+』はありがたいことに集英社ゲームズを積極的に応援してくれていまして、記事や特集を組んでいただいたり、告知などでも融通を利かせていただいています。そのうえで「集英社グループだからこそできるプロモーションをしたいよね」という話が生まれて。
じつは『ONI – 空と風の哀歌』の物語には、前日譚に重要な設定があるんですが、ゲーム内ではあまり語られていないんですね。その話をしたときに、「折角ですし、PRの観点でコミカライズしませんか?」と提案し、『少年ジャンプ+』で漫画を掲載してもらえることになったんです。高橋ヒデキ先生という才能ある若手の漫画家さんと、『週刊少年ジャンプ』編集部出身の山中という後輩ががんばってくれました。『少年ジャンプ+』での掲載のほか、英語版が集英社の『MANGA Plus』というサイトにも掲載されています。
──上辺だけの連携ではなく「グループだからこそできること」をしっかりと実現していますよね。
森氏:
漫画で見せつつ「続きはゲームで」という、やりたかったことがひとつ達成できました(笑)。実際のプロモーション効果はまだ検証中ですが、ほかの会社さんではできないようなことを行えるというのは、付加価値にしていきたいですね。
『SOULVARS』というタイトルも近日発売予定ですが、こちらはキービジュアルを宇佐崎しろ先生に書いていただきました。これも「単なるコンソール版への移植ではなく、集英社ならではの付加価値が欲しいよね」という部分から始まったものなんですね。編集部と相談・協議した結果、宇佐崎先生に打診させていただき、幸いにもご快諾いただいて、コラボレーションが実現しています。社内でも「外にいたら集英社の作家さんにアプローチするなんてなかなかできないけど、中にいるからスムーズに打診できる。これはメチャクチャ強い」とよく話が出るのですが、それが実現した形ですね。
ただ、「集英社がこうだから」というやり方の押しつけをする気はありません。クリエイターさんの悩みであったり、やりたいことがあったときに、「こういうことができますし、こういうこと“も”できます」という選択肢をゲーム開発のチーム側に提案できることが強みだと思っています。ゲーム業界のクリエイティブ、出版業界のクリエイティブ、それぞれが融合している感じですね。
──それこそが集英社ゲームズの強さですよね。……以前から思っていたのですが、森さんはいつも楽しそうに話されているなぁ、と。今回お話を聞いていても、いまの仕事が「楽しい」ということがよくわかりました。
森氏:
楽しく働ける、働こうというのは大事にしています。僕ではなくプロデューサー陣をまとめる山本正美のビジョンのひとつなのですが、「エンタメ業界にいる以上、まずは自分たちが楽しまなくてはダメだ」と。もちろんたいへんなことはありますし、多忙な時もありますが、「楽しく仕事をする」はとても重要視している部分ですね。
小さな組織としての密度の高さ・大企業のグループとしてのパワーの共存
──なるほど。少し話を戻しますが、集英社ゲームズとしてゲームの支援を行う中で、森さんだけではなくほかのプロデューサーもいる中、ゲームに対する“目利き”の部分は共有化されているんでしょうか。
森氏:
社のロゴにもなっていますが、“ユニコーンバリュー”という価値観をメンバー全員で共有しています。ユニコーンの、尖った角はクリエイターの才能や個性、馬としての体がゲームとしての品質を表しています。我々のコンテンツはただの馬ではなく、しっかりとしたユニコーンであるべきだ、と。詳細はお話できませんが、これらの目標を達成するための基準も作っていまして、さまざまな項目からプロデューサーが迅速に評価できるシステムがあります。企画や試作、テストといった、それぞれの段階で実施が行われるものですね。
ただ、この評価は絶対ではなく、あくまで参考値なんです。最終的な判断は山本が決めます。編集部でいうところの“編集長”的な役割ですね。完全な合議制にすると尖っている部分が丸くなっていくと思いますし、エンタメって合議で決まるものではないと考えているので。「山本が決めたことはみんなで支える」というスタンスです。
──山本さんをはじめとするプロデューサーに対して、森さんからNOを出すということはあるんでしょうか。
森氏:
ほとんどありません。唯一、口を出すのであれば、PRや資金面のことです。僕自身はビジネス側を管理する人間なので、ゲームの外側の部分に関してお願いすることはありますが、ゲームの内側に口を出すことはあまりしないようにしています。もちろん、ひとりのプレイヤーとしての意見は積極的に述べますが(笑)。
また、プロデューサーチームだけでなく、PRチームにもレビューに参加してもらい、宣伝・販売の観点からの意見を出してもらっています。そうした場にもちろんアシスタントプロデューサーも参加してもらっていますので、勉強という観点からもいい機会になっているのかなと。いずれにせよ、編集権みたいなものを、長である山本がしっかり持っているというのは特色かもしれません。小さな組織であるからこそ、実現できることでもあります。
──小さな組織としての密度の高さと、グループ会社としてのパワーや繋がりが共存しているのは、集英社ゲームズだからこその大きな特徴ですよね。
森氏:
集英社のグループ会社にProject8という会社がありまして、ファッション通販のIT部分を支えているのですが、漫画アプリの運用を行うチームもあるんです。このチームが日々の更新・管理を行っていて。例を挙げると「ページ数は合っているか」とか、「バナーは正しいか」といった丁寧かつ確実な作業を行っていて、業務内容上、ゲーム業界を含めたデバッカー出身の方が多いチームなんですよ。
そこのチームに昔からの知り合いがいて、「ゲームのデバッグをやりたいんだけど、予算もあまりなくて……頼めないかな?」とお願いしたら「できます!」と即答してくれて(笑)。広報業務などを集英社から支援してもらうことはあるんですが、まさかのデバッグチームがグループ内で見つかるという(笑)。
ほかにも集英社の制作部の人に「イベントのパンフレットを作りたい」と相談をしたら、翌日に印刷会社の十数社から一気に見積もりが来たなんてこともありました(笑)。
──グループ会社のパワーがありすぎです(笑)。単純に、その環境はとてもうらやましいです。
森氏:
どうしても作品にフィーチャーされるので、集英社グループとしての組織力みたいなものにスポットが当たることってあまりないんですね。じつは、集英社グループには税務からシステムの管理、リース仲介まで、本当にいろいろな機能をもった会社があるんです。本体である集英社の業績がおかげさまで好調なので、ゲームに限らず「新しいチャレンジを認めてくれる」というのはいい土壌だと思います。
全体的に「変なことをやるな」ではなく、「新しいことにチャレンジしていこうよ」という流れがありますので、相談に行けば親身にサポートしてくれますね。いろいろな方々に支えていただいていますし、期待していただいていることを実感しています。いち早くゲーム会社として独り立ち出来るよう、2年目も引き続き頑張って参ります!(了)
「世界のゲーム市場は22兆円と言われていますが、そこの0.1%のシェアを取るだけでも200億円。「まずはその0.1%は取りに行けるはずだし、取りにいきたい」と考えています」。森氏のこの発言は、誇張であっても虚構ではない。
裁量がある。資金力がある。集英社IPと連携した展開ができる。クリエイターを尊重してくれる。新しいチャレンジができる。マンガとの連携もできる。インディーも、規模の大きいゲームも、アナログゲームも手がけるチャンスがある。
今回のインタビューでわかった集英社ゲームズの“強み”をざっくりと述べるだけでも、これだけの特徴がある。これほどのチャレンジの可能性がある会社というのは、かなり稀な存在だ。
「200億円を取りに行く」。この言葉の実現が決して不可能ではないと感じさせるのが「集英社ゲームズ」という会社なのだと腑に落ちたインタビューだった。人材採用にも力を入れているとのことなので、気になった方は門を叩いてみるといいだろう。
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