ヤン氏が好きなゲームは「意外なアレ」
──若いチームということは、チーム内の平均年齢はかなり若いのでしょうか?
ヤン氏:
平均年齢は30代くらいですね。幅も若干広くて、私は40代ですが、一番若いメンバーで2000年以降に生まれた方もいます。幅広い年齢層のチームですね。
──チームの若い方からのアイデアでハッとさせられることがあったり、年齢の違いが新しい発想に繋がることも多かったのではないのでしょうか?
ヤン氏:
チーム全員がオープンマインドで考えることが大事だと思っています。質問の例で言えば、2000年以降生まれのメンバーが、クエスト中に変化を出したいと要望を出したときに、ネット世界に繋がっているという世界観から非常に多くのアイデアを出してくれたことがありました。こちらの想像をはるかに超えるものもあり、若者の想像力の可能性は無限だなと実感しましたね。
──ヤンさんはこれまで『レインボーシックス シージ』のリードレベルデザイナー、『バットマン アーカム・ビギンズ』、『バットマン アーカム・ナイト』のシニアデザイナー、『ファークライ5』ではレベルデザインディレクターを務めるなど、名だたるタイトルに関わっていらっしゃいます。すさまじい経歴ですが、好きなシューターゲームや影響を受けたゲーム、好きな日本のゲームはありますか?
ヤン氏:
(日本語で)『電車でGO!!』です(笑)。
──(笑)。
ヤン氏:
『電車でGO!!』がすごく好きで、今日、この取材場所にくるまでの道のりでも、「ここが〇〇駅で~」と、『電車でGO!!』で学んだ知識を通訳の方にアピールしていました(笑)。
──『電車でGO!!』のどういったところに惹かれましたのですか?
ヤン氏:
まず、画面にリアリティがあるところが好きです。それと、電車を運転するのが意外と難しいところも好きですね。ブレーキをかけるときにいかにぴったりと止まるか。どのタイミングで、どの強さで踏むのかという技術が必要とされるところが好きです。
──アーケード版をプレイされていたのですか? それとも家庭用?
ヤン氏:
最初にやったのはアーケードで、最終的にはPC版を含めて全部のバージョンをやりました。今も実家に専用のコントローラーが置いてありますよ(笑)。
──メチャクチャはまっていますね(笑)。
ヤン氏:
一番ハマってたときは、新幹線バージョンの『電車でGO!!』で東京から博多までずっと運転するほどのハマり具合でした。実時間で5時間ぐらいかかるんですよ。
──いやー、意外な回答でヤンさんに一気に親近感が沸きました(笑)。
ヤン氏:
(笑)。シュータージャンルに関して言えば、私は戦略を考えるタイプのゲームが好きです。欧米のシュータージャンルはこの点がものすごく完成されていて、『レインボーシックス』など、爽快感だけではなく戦略性があるゲームは大好きですね。
「そういったゲームを作りたい」と、これまでの開発経験などを通してずっと考えていました。『SYNCED』では戦略性を深堀りしていて、「ユーザーがどういう遊びを発掘するだろうか」と考えながら制作しています。
シュータージャンルで『SYNCED』はどう輝く?
──『レインボーシックス』に限らず『CS:GO』や『VALORANT』、『フォートナイト』など、シューターは世界的に人気なジャンルです。レッドオーシャンのシューターで新作を作るにあたって、どのように市場を分析し、どのような勝ち筋を見ているのでしょうか?
ヤン氏:
シューティングゲームの進化についてはずっと注目してきました。『PUBG』が最初にバトロワゲームを定義して、そこから『フォートナイト』がクラフト要素とビジュアルのポップ化を取り入れました。つぎに『Apex』などがヒーローの概念を入れて進化していますよね。そして『SYNCED』では、敵をコンパニオン(プレイヤーの力とする)にして戦うという進化を遂げています。その点に関して一番であれば、つまり「コンパニオンと一緒に戦うシューターと言えば『SYNCED』」ということになれば、ユーザーも自然に集まると思いますし、ゲーム自体も長く続いていくと考えています。
──なるほど。日本はある種、独特の好みがある国だと思うのですが、日本での展開に関して特別に意識している部分はありますか?
ヤン氏:
やはりさっき話していたブラッシュアップの部分ですね。日本のユーザーが何を求めているのかをしっかりとヒアリングして、日本の方が好きな形に作っていきたいと思っています。ただ、日本独自の市場についてはあまり意識していません。ヨーロッパやアメリカもその地域ならではの市場となっていますが、むしろそういった市場を越えて伝わるおもしろさが重要だと考えています。
共通のおもしろさがいろいろな国に受け入れられることが発展につながるので、そこを大事にしたいと考えています。日本のユーザーのために特別なものを提供すること自体はしたいですし、共通的なおもしろさも作りたい、そういう想いです。
──『SYNCED』というタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか? 採用されなかった候補なども含めてお聞かせください。
ヤン氏:
これはすごくおもしろい話ですね。2019年に正式なタイトルを考えたんですけど、私の中では4つのポイントを押さえたかったんです。
①まず、できるだけシンプルな一単語であること
②過去に使われていないタイトルであること
③できるだけ覚えやすい言葉であること
④ゲームのコアの体験を表せること
この4つを意識して、敵を味方にする機能があるということで「SYNCED(同調)」はしっくりくる単語でした。また、「誰でも巨大なインターネットでつながる」という世界観設定もあり、そういった意味での「同期」も含まれています。他の候補は当時大量に出たのでもう覚えていないです(笑)。
課題を乗り越える「クリエイティブ」
──ヤンさんはこれまでさまざまなAAAタイトルを手がけてきました。そうしたキャリアの中において、ゲーム制作で一番大事にしていたことは何ですか? また、『SYNCED』制作で一番大事にしていたことは何でしょうか?
ヤン氏:
開発経験の中で大事にしていたのは「クリエイティブ」であることです。ただ、「クリエイティブ」という言葉だけでは語弊があって、私にとって「クリエイティブ」とは課題を解決できたとき初めて有効になるものなんです。
課題を発見したとしても、私ひとりの「クリエイティブ」で解決できるわけではありませんし、ほかの人よりも特別に賢いわけでもありません。そうするとやはり、みんなで課題にどう取り組むかを検討し、議論してこそ、やっといろいろな道が見えるようになってくると思うんです。
この課題を解決する「クリエイティブ」こそ、私のゲーム作りでは重要で、この精神を本作でも重視しています。スタッフのみんなで課題に取り組むことが何より大事ですから、ときにはスタッフに、まず好きにやらせてみることもあります。
──その取り組み方での具体的なエピソードがあれば教えてください。
ヤン氏:
「ナノリープ」(仮称)、いわゆるスーパージャンプ的な機能がその一例だと思います。「クリエイティブ」には課題があることがまず前提となります。その点で、このシステムが生まれた背景にはβテスト時の課題がありました。ユーザーからの意見で「戦闘時のリズム感が遅い」という話があったんですね。「マップが広いのでずっと走りっぱなしなことがあるのがつまらない」という意見もありました。
このふたつの課題に取り組む際、普通であればゲーム全体の速さを変えるとか、乗り物を提供するとか、まずそういうことを考えますよね。けれど、ここでは「クリエイティブ」で改善策を考えたかったので、チームで検討を重ねて「ナノリープ」が出来上がったんです。
当初、私がアナログで描いた絵でイメージを共有し、そこからモーション班が「こういうジャンプにすべき」とか、プランナーが「戦闘時とそうじゃないときのバランスはこうしたほうがいい」とか、それぞれのスタッフが意見を出し合ってくれました。これこそ「クリエイティブ」が発揮されたいい例ですね。
日本のファンへ向けてのメッセージ
──本日は興味深い話をありがとうございました。最後に、『SYNCED』の発売を楽しみにしている日本のゲーマーに対してメッセージをお願いします。
ヤン氏:
『SYNCED』は日本のユーザーのために、過去のタイトルにはないおもしろさを提供したいという強い想いを持って作っています。
『SYNCED』の開発チームはまだまだ成長途中です。新しいものを作るということは挑戦であり、当然すぐにはパーフェクトにならない部分もあります。そういった部分については、つねにユーザーの方たちとコミュニケーションを取りながらブラッシュアップし、日本のユーザーとともに成長していきたいという強い意志があります。
単なる「開発者が作ったゲーム」ではなく、「ユーザーとともにゲームを作っていきたい」。そんな意志を持ってがんばっていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
『VALORANT』や『Apex Legends』など、日本でも絶大な人気を獲得しているシュータージャンルだが、果たして『SYNCED』はそこに新たな風を吹かせることができるだろうか。その結果は今夏をひとまず待つとして、今回のインタビューで、本作は非常にユーザーファーストが徹底されているという印象を受けた。
私の経験則で言えば、こういった姿勢を持ったオンラインゲームはとにかく「強い」。もっとも、これは爆発的に流行るというような意味合いではない。
アップデートが柔軟であるとか、ユーザーの声に柔軟であるというのは、言い換えればゲームがいかようにも変化していける可能性を秘めているということである。数年後には、初期の姿とはまったくの別ゲーになっていることも珍しくない。そのような無限の可能性を秘めているという点で、『SYNCED』は「強い」のである。
その点において、まさに『SYNCED』を開発するチームの姿勢や、ヤン氏の「クリエイティブ」に関する話からは、本作を凡百のゲームにしまいとする強い想いをひしひしと感じた。日本でもすでに一定のファンを獲得している『SYNCED』がこれからどのような展開を見せるか注目したい。