レオン・S・ケネディ、クリス・レッドフィールド、クレア・レッドフィールド、レベッカ・チェンバース、そして、ジル・バレンタイン……。
圧倒的戦闘力と圧倒的生存力を兼ね備え、ゲーム『バイオハザード』シリーズを知るものであれば、誰もが恐怖し、敵であるゾンビに同情すら感じるであろう、 “バイオハザードアベンジャーズ” とでも言うべき5人のキャラクター。
このメンバーが一堂に会するおまつりのような作品が、7月7日公開予定のCG長編映画『バイオハザード:デスアイランド』(以下、『デスアイランド』)だ。
本作は、そのメインビジュアルが公開されるや、「ゾンビたちに勝ち目がなさすぎる」「戦う前から決着が着いている」「誰も死なないという信頼感がすごい」と、SNS上で一躍話題となった。
7月7日という織姫と彦星が巡り逢う裏で繰り広げられるおまつり騒ぎ。電ファミでは『デスアイランド』の中枢を担う制作スタッフ3名へインタビューをする機会をいただいた。
インタビューを受けてくださったのは『海猿』シリーズなどの監督として知られ、Netflixにて独占配信された連続CGドラマ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』に引き続き、本作の監督を務める羽住英一郎氏。
そして、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のシリーズ構成に携わり、前作『バイオハザード:ヴェンデッタ』(以下、『ヴェンデッタ』)から映画シリーズに参加している脚本家の深見真氏。
さらに、カプコンの社員として本作のプロジェクトに参加し、『バイオハザード』シリーズを俯瞰した視点で映画監修を行ったゲームプロデューサーの川田将央氏。
今回はこのキーマン3名に『デスアイランド』に込められた思いや見どころ、映像作品やゲームを含めた『バイオハザード』シリーズ全体の展開について、話をうかがった。
聞き手/豊田恵吾
撮影/和田貴光
この5人が死ぬなんて誰も思っていない
──レオン、クリス、ジル、クレア、レベッカが映し出されたメインビジュアルが公開された際、SNSでは「相手のゾンビたちがかわいそう」「最強チームすぎる」といった声があがり話題となりました。この “最強の5人” が登場する脚本を書くうえで、いちばん気をつけていたのはどういうところだったのでしょうか?
深見真氏(以下、深見氏):
「この5人が集まったら強すぎる」とSNSでも話題にしていただいたように、この5人を相手にしたら普通に数で抑え込もうとしてもまったく歯が立ちません(笑)。ですので、彼らを精神的に攻め立てて追い詰めることのできる悪役が必要でした。でもその悪役が小者だと、5人と対峙したときに何を言っても釣り合わなくなってしまうので、そのセリフ回しにはとても気を遣いましたね。
──なるほど。カプコンさんとしてはこの5人が登場する映画を作ることに対して、特に抵抗はなかったのでしょうか?
川田将央氏(以下、川田氏):
僕は素直に「おもしろそう」と思いました(笑)。
特に、新たなキャラクターとしてジル・バレンタインが映画に加わることは、非常にポジティブに捉えています。今回の『デスアイランド』は『バイオハザード』のCG映画としては5作目にあたるため、そろそろ誰かを新規加入させてもう一段盛り上がりを作りたいタイミングだったので、彼女の登場はシリーズにとって非常に大きいものだと思います。
ただ、「ジルを映画で扱うのは難しい」というのも、正直な気持ちとしてありまして……。ファンの方々が納得するようなジル・バレンタインを描くために、監督と脚本のおふたりはものすごくご苦労をされたんじゃないかと思います。
──監督としてはこの5人に焦点を当てた映画を作るにあたり、どのような意気込みで制作をされたのでしょうか?
羽住英一郎氏(以下、羽住氏):
『アベンジャーズ』のような “おまつり感” がこの映画に必要だと感じたので、ファンのみなさんに楽しんでもらえるイベントムービーにできたらと考え、本作を制作しました。
──予告映像ではなぎ払いをしてきた巨大な触手に対して、5人がそれぞれの“らしい”動きで触手を避けて反撃していた場面がありました。このシーンはまさにそういったおまつり感が凝縮された場面というわけですね。
羽住氏:
はい。最初に映画のお話をいただいたときから、ああいったシーンは絶対に必要だろうと思っていました。
──主人公の5人があまりにも強すぎるところに目がいってしまう本作ですが、とはいえ『バイオハザード』シリーズはホラーというジャンルを看板に掲げています。“強すぎる主人公” と “ホラー” という相反する要素のバランスは、どのようにとっていこうと考えていたのでしょうか?
深見氏:
『バイオハザード』のファンは「ゲーム本編で活躍してるキャラが映画の中で死ぬわけがない」と思っているはずなんです。
メインキャラクターが生存して映画が終わるということが共通認識としてあるなかで「脇役を感染させる」といったホラー要素を持ち込むのは限界があると思いました。だったら、最初からそういう方向性はいらないんじゃないかなと。脚本を書くときは5人のキャラクターのアクションを描くことを念頭に、ホラーであることにこだわりすぎないようにしました。
でも、オープニングにはホラーの雰囲気がしっかりとあります。
──ジルが単身でサンフランシスコに赴くシーンはまさにホラーでした。
羽住氏:
はい。ホラー要素がゼロでは『バイオハザード』らしさがなくなってしまうので、ホラーであることを意識して作っている場面もあります。
CG映画初登場となるジル・バレンタイン
──キャラクターどうしの掛け合いや関係性も大事になってくるかと思います。これまでのCG映画作品ではレオンとクリスの関係性を意識されていたように感じたのですが、本作ではどういったところを意識されたのでしょうか。
深見氏:
本作を作るうえでいちばんの課題は、ジルとレオンの関係性でした。
ふたりが完全に初対面ということにすると、どうしても違和感が出て不自然になってしまう。絶対にお互いに名前は知っているはずなので(笑)。
少なくとも名前は認識している状態で、どの程度の距離感にするかが重要でした。「このふたりのあいだになにがあったのか」というところは、ぜひともファンのみなさんに想像を膨らませていただきたい部分です。
もしかしたらカプコンさんがその話をゲームで描かれるかもしれませんので(笑)。
川田氏:
ジルとレオンが過去に会っている設定の、ということですね。
深見氏:
『バイオハザード RE:3』と『バイオハザード RE:4』のあいだのような。
川田氏:
『バイオハザード5』ではゲーム本編にレオンは登場しませんが、実は「レオン・レポート」という形で関連性を示唆しています。直接ゲーム内では描かれていないけれどそれぞれのキャラクターがどこかで会っている可能性はあるわけです。
同様に本作では関連性を詳細には描いていませんが、お互いに相手が誰なのかはわかってストーリーが展開していくのがよかったと思っています。
──完全に初対面ではないというところの塩梅が、自然に描かれているということですね。先ほど川田さんからジルの描き方についてのお話がありましたが、ジルはCG映画では初登場となります。どのようにジルの魅力を映画本編へ落とし込んでいったのでしょうか?
深見氏:
私が最初にジルを見て思ったのは、映像が綺麗なことと、モーションキャプチャーのアクション俳優さんのお芝居がいいということでした。
羽住氏:
5人のメインキャラクターのうち誰を主役にするべきかとなったときに、それがジルだということはカプコンさんから言われていました。もちろん、全員の個性が立っていないといけないんですけど、本作ではジルをいちばん大事に作っています。
深見さんがジルの立ち直っていく姿を書いていたので、そのことを考えながら撮っていきました。そのなかで「ジルって全然ブレていない」と感じたんです。ジルの周りが心配しているだけで、彼女自身は最初から変わっていなかったんだなと。そういった気づきもあって、映画制作を進めていくうちにどんどんと彼女の魅力が増していきました。
川田氏:
ジルとしては、ただ元の自分に戻っていく、ということなんです。狙撃シーンとかも、まるでブルペンでピッチャーが練習しているような感じでした。「以前の自分に戻らなければならない」というような気持ちを彼女は持っているのかもしれません。
深見氏:
ジルに関しては、周囲の認識と自分の認識にギャップを抱えている感じですよね。
羽住氏:
はい。たとえば心配して声をかけるクリスに対して、ジルがうっとうしく感じているような反応をするシーンがあるんです。ジルはクリスが言っていることをわかっているんだけども、「クリスはジルが理解しているように見えていない」という事実にいら立っているという描写です。
川田氏:
自分自身にいら立っている感じですよね。
ジルを主軸にすると考えたときに「ジルに対してあたふたしてしまうクリス」や「ジルに対してもジョークを言ってしまうレオン」といった感じで、キャラクターの特徴がジルを中心に個性的に描かれているのがすごくよかったと思っています。
深見氏:
ただ、レオンがジルに対してナチュラルに接することができるのは、単純にジルのことをよく知らないからなんですよね(笑)。
羽住氏:
はい(笑)。ほかのメンバーはレベッカもクリスも気を遣って心配していますから。
深見氏:
レオンからすると、「腕のいいすごやつがいる」くらいの印象で「敵に洗脳されていたなんて、大丈夫かよソイツ」といったノリ。逆にあれくらいの温度感のほうがジルとしては助かったんだと思います。
アルカトラズ島というミニマムな舞台
──本作『デスアイランド』は、時系列で見ると前作『ヴェンデッタ』と地繋ぎになっています。『ヴェンデッタ』では多彩なロケーションや広大なスケールで描かれていましたが、『デスアイランド』の舞台は「島」ということで、あえて対照的となるミニマムな舞台を選んだのではないかと感じました。アルカトラズ島を舞台にした狙いや、島を舞台としたことでの苦労話などがあればお聞かせください。
深見氏:
『ヴェンデッタ』のときと比べると、求められているCGの質が少し違う気がします。『デスアイランド』は『ヴェンデッタ』よりもさらにCGのクオリティが上がっていますから。
『デスアイランド』のようなCGクオリティを維持するならば、ロケーションをあまり変えないほうが作りやすかったところもあるかとは思います。
ただ本作に関しては、前半からなるべく舞台を動かさないでほしいと言われていました。少ないロケーションに絞り、その分きっちりと映像を作っていきましょう、と。
羽住氏:
『デスアイランド』のロケーションについては、もしかしたらメインキャラクターが多いからかもしれないです。メインキャラクターが5人いるとなると、かなり予算も膨らんでくるので。
深見氏:
メインキャラクターが多いのとモブキャラが多いのとでは、かかるお金がぜんぜん違いますからね。
羽住氏:
CG作品だとぜんぜん違うんですよね(苦笑)。
川田氏:
少なくともロケーションが変わらなかったおかげで、『デスアイランド』はストーリーが追いやすいことはたしかです。
羽住氏:
同じ場所で話が進んでいくので、映像としてはライティングを変えていくといった工夫を凝らして画替わりを意識しました。
──舞台であるアルカトラズは、現在は人気の観光地ですが、実際に訪れてロケーションをされたのでしょうか?
羽住氏:
残念ながら実際に行くことはできなかったんです。
とはいえ、アルカトラズの映像はYouTubeなどに大量にありますので、そういったものをたくさん見ています。また、島の正確な大きさがわかっているので、そのデータをもとにCGに落とし込んでいます。
──島での5人の行動を、どのように描かれたのでしょうか。
深見氏:
『デスアイランド』を作るにあたって「メンバーを分けよう」という話になったんです。5人のうち誰と誰を行動させるかという組み合わせについては、脚本会議で話し合いの末に決まりました。
──では、論理的に組み合わせを決めていったという感じなのでしょうか?
深見氏:
「やっぱりジルとレオンの初絡みはみんな見たいんじゃないか」「クリスとクレアのレッドフィールド兄妹で行動してるところってあんまり見たことないよね」という具合に、みんなが見たいであろう組み合わせを意識して決めていきました。こういう要素こそが、この映画でやるべきことなのではないかと思っていたところです。
──舞台が海に囲まれた島ということで、予告映像でも船の下に巨大なサメの影が見えたり、海中でクリーチャーが解き放たれるシーンがあったり、サメ映画的な緊張感もあるように感じました。水中であるからこそ描けたシーンなどがあれば教えてください。
羽住氏:
CG作品で水中を表現するのは本当に大変なんです(笑)。水のシーンがあればあるほど予算も膨れ上がっていくんですけども、今回はサメも出てきますし、後半のクライマックスでは水を使ったシーンもありますので、そういった意味では水に関していまできることのすべてが詰まった映画になっていると思います。
──脚本において、水を使ったシーンを意識して描かれたところはあったんですか?
深見氏:
僕としてはせっかく島が舞台なので海を使ったバトルをたくさん入れていきたかったんですけど、じつは脚本を書いた段階で「これをCGで表現するのは厳しい」とCGスタッフから言われてしまって……。
そのため「この流れはCGで表現できないので、こう変えることはできませんか?」といった感じで脚本の段階でシーンの調整をしていきました。流石にサメ映画にする気はなかったですけども(笑)。
──(笑)。映像化できるかできないか、ギリギリのラインを攻めたということですね。
深見氏:
そうですね。逆にカプコンさんがサメゲームを出してくれたら、サメ映画を作れるのに(笑)。
川田氏:
ゲームでも水中表現はけっこう難しいんですよ(笑)。
深見氏:
ということは、水中ではなく『バイオハザード』の新作でサメゾンビが出てきてくれたら、映画でもサメゾンビが出せるっていうことですよね。フライングサメゾンビが出てくる『バイオハザード』はいかがですか?(笑)
川田氏:
映画のためにも前向きに検討させていただきます(笑)。