『SOULVARS』のバトルはシンプルになった麻雀
──ここまで北尾さんが手がけたゲームのお話をいくつか伺ってきましたが、ジーノさんが『SOULVARS』を作る際に影響を受けた部分などあればお聞かせください。
ジーノ氏:
昔はいろいろなゲームで遊ぶことができなかったので、ひとつのゲームを長く遊びたいという欲求がありました。そのためにゲームのステータスとかを調べて、HPの最大値は999なのか9999なのか、みたいな情報まで見て、1レベル上がるたびにどのぐらい成長するかみたいな部分で判断してみたり(笑)。
なによりゲームを長く遊ぶためには、最も頻繁に発生する「バトル」の部分が楽しくないといけないんです。面白いバトルを作りたい、という点が私が受けた一番大きな影響と言えるかもしれません。
『SOULVARS』を作るにあたっても、バトルとキャラクタービルドの軸は最初からありました。キャラクタービルドの成果をバトルで実感する、という部分で勝負したいと思いました。それに加えて、繰り返し遊んで楽しんでもらいたいというのもあります。
私が思う「繰り返し遊んで楽しいゲーム」の代表例として、「麻雀」があります。組み合わせて役を作るのは楽しいですよね。
また、繰り返し遊んで楽しいという部分に重要なのは運の要素だと思います。一方で、運だけだとそれはそれで面白くない。攻める手が来てるときは攻める、守る手が来てるときは守るというようなことができないと勝てないようなデザインが重要です。
『SOULVARS』のバトルには麻雀のエッセンスを取り込むことで、何度も面白く遊べるようになるんじゃないかと考えました。だから、『SOULVARS』のバトルはある意味でシンプルになった麻雀だと言えると思います。
もうひとつは、「自分の描いた絵を動かしたい」という想いがありました。ゲーム画面を想像図として描いて、こういうゲームが作りたいなというような想いを募らせていました。
若いころ私はプログラマーとして就職先を探していたんですが、当時ゲーム業界は「天才」というか「才能」のある人しかなれないような印象があって。結局はゲームとは別の会社に入ることにしてしまったんです。
北尾氏:
ゲーム業界はひとりでゲームが作れる才能があるひとだけが集まっている環境ではないですね。実際のところ、僕がひとりでゲームを作ってたのは学生時代だけで、しかも当時はゲームメカニクスよりビジュアルへの興味が大きくて飽き性だったので演出重視のタイトル画面だけ作ってやめたりしてましたよ(笑)。就職してゲーム作りが仕事になると、今度は集団制作になりますし会社の中でひとりでゲームを作ることはほぼないです。
ジーノ氏:
今日のお話を聞いていると、けっこうおひとりでなんでもやられていたようですが。
北尾氏:
作業がひとりに集中するというのは確かにあって、プログラマーなのにドット打つとか、効果音もいれちゃったり、シナリオもちょっといじったり、敵の技名を勝手に考える、みたいな(笑)。そういう作業の種類でいったらいろいろやったんだけども、ゼロから全部自分で作って完成までもっていく、ということは今までやったことがないんです。
たぶん、僕はひとりでは自信がなくつくれない。不安になってしまうんですね。集団で作っていた『ヴァルキリープロファイル』とか『エンドオブエタニティ』ですら、世に出るまで恐ろしくてしょうがなかった。インディーの方がひとりでゲームを作って完成させてリリースまで持っていくというのは本当にすごいことだな、と思っています。
ジーノ氏:
私は別の業種に入ったあともずっと「ゲーム作り」という夢をあきらめた状態にわだかまりがあったんです。その想いが爆発したことで、ひとりでのゲーム作りをやりきれた面はあると思います。
先ほどちょっと『エンドオブエタニティ』の名前が出ましたが、ゲーム作りのなかで参考にした作品でもあるんです。アクション性がありながらターンベースという革新的なバトルシステムで、あれを考えるのは大変なんだろうなと思いました。
──確かに、『エンドオブエタニティ』を初めて触ったとき私はどう遊べば良いのかわからなくて、インテリジェンスをすごく要求されていると感じました。
北尾氏:
『エンドオブエタニティ』のディレクターを当時されてたのが勝呂さんという方で、元々『ベイグラントストーリー』や『ファイナルファンタジータクティクス』のバトル部分を担当されていた方なんです。
とはいえ、『エンドオブエタニティ』のバトルシステムは実際わかりにくくて(笑)。でもスルメ的というか、遊んでいるうちに味が出てくる部分もあります。だから作るのにも苦労しましたし、作ったり壊したりをメチャクチャ繰り返しましたね。
ジーノ氏:
スタイリッシュなバトルをしたい、という方向性は最初からあったんですか?
北尾氏:
はい。それは最初からありました。
ジーノ氏:
じゃあそのスタイリッシュさを、ターンベースでどう面白く表現できるかを練り込んでいったということなんですね。
北尾氏:
そうですね。くわえて、あのゲームって銃撃戦しながら移動するじゃないですか。移動すると、攻撃時の絵が動きもあってバンバン絵が変わっていくんですよね。そういうビジュアルの変化も面白いなと。
作った身としてうまくできたなと思うのは、コマンドっぽいのにコマンドじゃない。銃撃なのに銃撃じゃない。そしてなんとなくカッコ良い。だけれどもカスタマイズやストーリーが奇抜で、こういうバランスに落とし込めたのはある種奇跡というか……なんで出来たんだろう(笑)。
一同:
(笑)。
北尾氏:
私もなぜ出来たのか、ほんとにわからないですね。
ジーノ氏:
インディーゲームみたいな奇抜さ、新しさがあってすごくおもしろかったです。シナリオも好きだし、カスタマイズ性みたいなところも魅力的で、私にとっては間違いなく神ゲーでした。
今のお話にも出てきた、練られたバトルとかっこよさの追求という部分が『SOULVARS』を作る上でも指針としてあって、やっぱり北尾さんが関わられたゲームというものに強く影響を受けているなあと改めて思いました。
『FAIRY TAIL』のゲームを作る!?
──ジーノさんとしては今回、集英社ゲームズがサポートしてくれた状態というのは実感としてどうでしたか。
ジーノ氏:
心強かったですね。ゲーム業界のことは右も左もわからない人間なので、百戦錬磨の皆さんにご教示いただけるというのはすごく楽しかったです。
それだけでなく、私自身集英社さんのコンテンツで育ってきた人間でもあるので、願ったりかなったりというか、是非お願いしますという感じでした。
──それで言うと、宇佐崎しろさんのイラスト描き下ろしは嬉しかったんじゃないでしょうか。
ジーノ氏:
そうですよ! 夢のようです。「生きててこんなことがあるのか…」って、まだ夢の中にいるような感覚ですね。
『SOULVARS』キャラクター紹介②
— 集英社ゲームズ (@ShueishaGamesJP) June 15, 2023
ヤクモ#SOULVARS #ソウルヴァース pic.twitter.com/FBLStu4evu
北尾氏:
コンテンツという話で行くと、集英社さんの中でこれを聞くのは大変申し訳ないんですけどジーノさん今度『FAIRY TAIL』のゲームを作るらしいじゃないですか。あれはどういう経緯でというか、なんでやろうと思ったんですか?
ジーノ氏:
あれは順序としては逆で、元々『FAIRY TAIL』のゲーム化プロジェクトに私が応募していたんです。その結果を待っている間に、集英社ゲームズさんの方から『SOULVARS』に声をかけていただいて、ふたを開けてみたらそちらも選んでいただけて。
流石に「どうしたら良いですか?」とお伺いしたところ、「両方お願いします」と言ってくださったので、集英社ゲームズさんでも講談社ゲームクリエイターズラボさんでもどっちもやることになりました。
北尾氏:
インディーでゲーム作ってる方って、けっこう「私のオリジナル作品を見て欲しい」っていう感じの方が多い印象だったので、『FAIRY TAIL』みたいな既存のコンテンツに応募して作る、というのはけっこう意外に思えたんですよね。
ジーノ氏:
そういう意味で言うと、まず私が『FAIRY TAIL』の原作が大好きなことと、「面白いバトルシステムがあるRPG」を作りたいというのがあって、、逆に世界観とかシナリオとかを作るのは苦手なんです。だから逆に、大好きな原作がベースとしてあるのはありがたいですね。全部を自分で作ることがベストとは思っていないので。
北尾氏:
なるほど、インディーのゲーム開発者さんにもそういう方もいらっしゃるんだなと、ちょっと安心しました(笑)。
「プログラマーと経営者には共通点がある」
──「バトルシステムが大切だ」というジーノさんのお言葉に関連して、「バトルシステム」の魅力について、おふたりがどういう風に考えているのか聞かせてください。
北尾氏:
バトルシステムの表現として、これまで大体アクション要素を含んでいるものに沢山関わってきましたが、必ずしもアクションである必要はないと考えています。RPGというのは総合芸術的な存在で、いろいろなものがくっついて出来てますよね。ゲームを楽しくするため、ゲームを攻略していくためにいろいろなものが付随していて、その要素ひとつひとつの組み合わせ結果の”遊び”としてバトルが生まれるというのが面白いんだと思います。
アクションが良いとか、ターンが良いとかそういう発想では作ってません。ゲームとしても、お話とシステムがくっついている方が美しいなとは思うけれども、そうである必要はないんじゃないかなと。
ジーノ氏:
今の北尾さんのお話を聞いて、今まで以上に「一緒にゲームを作りたいな」と思いました。好きなゲームの制作者というだけでなく、作りたいゲームや良いゲームへの考え方も近い。赤の他人とは思えないです。
北尾氏:
僕もジーノさんもエンジニアを経由しているので、「仕組みを作って動かしてナンボ」という思考になっているんだと思います。やっぱり、仕組みを作って試すのが楽しいんですよね。
僕は今は経営者になったけれど、経営者は経営者で楽しいです。働いている人たちの動きを見ながら、クリエイティブに傾倒しやすい仕組みを作るとか、プログラムを最適化していた代わりにお金やリソースの使い方を最適化するとか。ある意味で、やっていることはゲームプログラマーに近いように思います。
ジーノ氏:
ゲームを作っているエンジニアがゲーム会社の経営者になっている、というのは私自身も目標としている部分でもあります。面白いバトルを作れる人が作るゲーム、コンテンツ、というのは面白くなるだろうなと感じているので、強く注目しています。
北尾氏:
歳を取ってくると、今後作れるゲームの本数を逆算し始めるんですよね。1本作るのに5年かかるとすると、僕はあと何本作れるんだ? と。御本人へ聞いたこともお会いしたこともないですが、桜井政博さんや小島秀夫さんも同じような境地にあるんじゃないかな、と勝手に妄想しています(笑)。
とはいえ、「数さえ出せば良い」というものでもないですから。量と質をどう両立させてゲームを作っていくかというのが今の焦点ですね。