虚淵玄氏(ニトロプラス)が原案と脚本を手がける、NetEase Gamesの新作タイトル『Rusty Rabbit』。ふわふわの一見愛らしいうさぎはその実「中年」、しかも乗っているロボットの名前は「ポンコツ」と、キュートなうさぎとハードな世界観を融和させた世界が特徴だ。主人公で中年うさぎの「スタンプ」が、遺跡を掘り進みながら物別れした娘の手がかりを探すという、シビアな物語が描かれる。
本作の舞台となるのは人間が去ったポストアポカリプスの世界。「スタンプ」たちが遺跡として掘り進んでいるのは人間がかつて造った軌道エレベーターだ。
さらに、この世界では人間のことを探るのはタブー。そんな中で遺跡に飛び込んでお宝を発掘する彼らは、ふわふわの愛らしい姿とはまったく異なる「アウトロー」なのだ。
今回は先行して本作の実機プレイが披露。さらに虚淵玄氏と開発プロデューサーへの取材が叶ったため、その様子から本作の魅力をいち早くお伝えしようと思う。
取材・文/anymo
うさぎの住む「ポストアポカリプス」な世界
開発プロデューサー(以下、開発P):
本作はニトロプラスとNetEase Gamesの共同開発の新作ということで、虚淵玄さんを企画原案に迎えてスタートしました。
舞台はいわゆる「ポストアポカリプス」で、人類が捨て去った星で、うさぎたちは「遺跡」と呼んでいる、人間の遺した軌道エレベーターの中を探索しています。主人公の中年うさぎである「スタンプ」は遺跡を発掘している中で「ディータム」と呼ばれる情報端末を見つけ、その中にいなくなってしまった娘との絆が残されているかもしれないことに気づきます。そうして彼は娘の足跡を追うべく遺跡の奥へと進んでいく……というのが、大まかなストーリーです。
本作のコンセプトは「キュートなキャラクターとハードな世界観」です。荒廃した世界ながらも、その中に生きるうさぎたちは絶望することなくありのままに受け入れて、楽観的に日々を過ごしています。
ゲームシステムは2.5Dのベルトスクロールタイプのアクションで、ゲームサイクルはうさぎたちが住む拠点からダンジョン(遺跡)に潜っていって、中でパーツを集める、そして主人公「スタンプ」と彼が乗っているロボット「ポンコツ」を強化していくというものになります。
開発体制としては、虚淵さんが原案で参加していただいているのと、開発は有限会社チャイムさんが手がけています。キャラクターデザインは『ウサビッチ』のデザインを手掛けている「カナバングラフィックス」。同社は弊社のタイトル『第五人格』のショートアニメも担当していて、魅力的なキャラクターを創り出してくれる会社です。
さらに楽曲には、アニメ『ポプテピピック』の音楽などを手がけているBUSTED ROSEの吟さんを起用していて、コンシューマータイトルのサウンドとしてはじめて楽曲を担当しています。
開発P:
本作はサイドビュー、ベルトスクロールのアクションになっています。ドリル、ショットガン、ナタ、ハンマーをきりかえることによって、ブロックを砕きながら敵の中を掘り進めることができます。
今壊しているのは鉄クズというブロックなのでドリルが有効ですが、草やツタなどの場合はナタが有効だったりと、ダンジョンの状況によってウェポンを切り替えて進んでいくことになります。
途中にある「コンテナ」にはアイテムが入っているので、コンテナからアイテムをとってこのポンコツを強化し、より効率的にダンジョンを掘り進めていくというのがこのゲームの基本的な流れになっています。また、必殺技を使うことでブロックを一気に6個壊すこともできます。
虚淵玄氏(以下、虚淵氏):
「スタンプ」は人間の遺跡から遺物を拾い集めて生計を立てているというキャラクターなんです。
もともとはキャプションも何にもなくて、ひとりでUnityで作ったゲームなんです。「こんなゲームが作りたい」ってNetEase Gamesさんにお見せしたところ「クリーンナップして作ってみないか」と提案いただきました。
開発P:
最初はひとつくらいしかブロックが壊せないので、ダンジョンをどんどん進むにはキャラクターを強化していく必要があります。
「スタンプ」は中年のうさぎという設定なので、衰えていったカンを取り戻していくことで彼が強化されていって、やれることが広がっていきます。なので、レベルデザイン的にはしっかりとしたコントラストが出ていると思います。
『Rusty Rabbit』の原案は虚淵氏の趣味
虚淵氏:
もともとはこんなだったんです。これをコロナ禍の2020年くらいから、ちまちまひとりで作ってまして、Unityの開発に趣味でハマってしまいました。どれだけブラッシュアップされたかお分かりいただけると思います。
開発P:
虚淵さんが個人で進められていた中で、「ゲーム化をしっかりやってみませんか」と勧めさせてもらいました。
虚淵氏:
半ば趣味から始まった企画だったんです。本当にすごいですね、Unityというのは。ド素人なのに、いきなりこういうのが作れちゃったんです。
多少遊べるくらいまで作って、誰かに見せたらちゃんとした作品にしてくれないかなという期待感はあって、そこにNetEase Gamesさんがノってくださったという経緯になります。
元を正せば、X(旧Twitter)でmightyさんという原型師の方が8年くらい前にシルバニアファミリーの人形とジャンクパーツを組み合わせてロボットに乗った人形の作品を作っていたんです。僕はそれをすごく気に入って、携帯の待ち受け画面とかにしていて。
そのうちに「これにストーリーをつけて、ゲームにしたいな」という思いが芽生えてきたのが始まりですね。
開発P:
虚淵さんがいままで脚本書かれていたり、ニトロプラスさんで作られたゲームというのはアドベンチャーゲームが多いじゃないですか。なのでそれをもとに、あえてこの時代にこの見せ方をするみたいなところが、ちょっとレトロで逆に新しく映るんじゃないかなと思います。
──その画像を気に入って「じゃあゲーム作っちゃおうかな」というのはすごい行動力ですね。
虚淵氏:
そのへんはお手軽にモノがつくれるツールとしてのすごさ、Unityさまさまですよね。モデルとかはフリーのアセットを使ってるだけですし。おかげで企画書も何にも作らずに「こんなのがいいです」というご相談だけですべてが進んでいきました。
そのうち、「子どもが夏休みの課題とかでゲームを作れちゃうんじゃないか」とビビりました。おっさんがこんな付け焼き刃で作れるようになってしまっているわけですからね。
開発P:
物語の描き方の部分では、アドベンチャーゲーム的な演出やカットシーンなどを使って、一般的なベルトタイプのアクションゲームとは異なる見せ方にすごくこだわっています。製品版ではUnreal Engine 5を使って製作を進めているので、表現の部分でなにかおもしろいことができないかなと模索しています。
虚淵氏:
見違えるかのような作品にしていただけて、感動です。
──かわいいうさぎに「中年」という要素を取り入れたのはなぜですか?
虚淵氏:
僕自身が年を食っちゃった部分もありまして、若者向けのコンテンツの勘所がズレていくだろうな、という直感はあったんです。だったらいっそ、歳食ったキャラクターってことにしちゃえばいいんじゃないかという発想の転換でした。
──先ほどの虚淵さんが制作されたバージョンではブロックを崩していくことが主眼に置かれたゲームのように見えました。どのようなゲームを目指して作り始めたんですか?
虚淵氏:
「掘って掘って、お宝を探して」という遊びが好きだったんです。掘り当てたお宝の組み合わせで、どんどんキャラクターを強化していくという要素を最初に盛り込んでいました。そのあたりはすこし簡略化されて、パワーアップシステムになっています。
ステージもぜんぶランダム生成でした。元々は自分で遊ぶために作ったゲームだったんです、だから「ひたすら自分のためのおもちゃをUnityでつくる」という。結果的にこうしてブラッシュアップして商品にしていただけました。
──製品版でもステージはランダム生成になっているんでしょうか?
開発P:
「ストーリーダンジョン」と「ランダムダンジョン」の2軸を用意しています。
「スタンプ」がダンジョンから持ち帰ってきてしまったパーツによって時空が乱れてしまって、「ストーリーダンジョン」で登場しているマップがランダムに組み合わせられて生成されるというのが「ランダムダンジョン」になります。「ストーリーダンジョン」は掘ったら掘りっぱなしなので、資材を集めたり、キャラクターを鍛えたりといったやりこみができるようになっています。
遺跡探索は命がけ、彼らは「アウトロー」な存在
──カットシーンでかわいいうさぎたちが「仇だー!」みたいなセリフを言っていましたが、シビアな物語が描かれるのでしょうか?
虚淵氏:
世界設定としては、人間の文化を探るのがタブー視されている世界なんです。にも関わらず、人間たちの遺跡を掘り進めている彼らはアウトローなんです。だから「任侠もの」っぽいやり取りというのが見られます。そもそも、遺跡の中には自動警備の機械などが生きているので、そもそも入ること自体がリスキーな行為なんです。
採掘を趣味にしているうさぎたちというのは、すごくリスキーなことを仕事にしている、つまりトレジャーハンターに近いですね。命懸けでガラクタを掘り集めて、部品を組み合わせてロボットを作ったりしています。
開発P:
やっぱり、虚淵さんらしい「クセ」は入れたいなと思っちゃいますね。
──「ランダムダンジョン」以外のやりこみ要素はありますか?
開発P:
別のモードを用意しています。「ランダムダンジョン」にしか出ないボスがいたりという要素もあります。
ただ、現時点でゲームボリューム自体がかなり膨らんでしまっているので、調整にお時間をいただいている状況です。やりこみ要素については、今後DLCなどで少しずつ拡張していければいいなと構想しています。
──2020年くらいから開発されていたとのことですが、大変でしたか?
虚淵氏:
そもそも仕事と思ってやっていなかったです。「Unityたのしい!」という勢いで手探りでいろんな機能を試しながら作ったこともあったので、僕としてはあまり苦労とは感じませんでした。学校にも通わずに手探りでやっていれば大変なものだったんですけれども、その大変さを楽しんでいました。Unityの機能を理解することに費やした時間は、非常に楽しいものでしたね。
開発P:
「かわいらしいうさぎがロボに乗っているビジュアル」という、虚淵さんが着眼された「答え」があった状態だったんです。でもその答えじゃない新しい答えを見つけましょうということで、このスタイルに行き着くまでの変遷がいろいろありました。
開発サイドからですと、アートがしっかり揃っているプロジェクトではなかったので、そこからの絵作りというのは大変でしたね。
虚淵氏:
バトンタッチしてからが大変な始まりでしたね。
──キャラクタービルドは基本的に能力を「プラス」していくものですが、本作では「カンを取り戻していく」というニュアンスでお話しされていましたよね。中年だからこそ、ということでしょうか?
虚淵氏:
そうですね。ゲームシステムとしては強くなっていかないとダメなので、そのへんは言い訳をつけて(笑)。
開発P:
僕らの方の解釈では、遺伝子と組み合わせて「DNAスキル」というアイディアでやろうと思ったんですけども、世界観の部分で「遺伝子」と直球で言うのは少し違いました。なので、ダンジョンの中をもぐっていって、カンを取り戻して強化していくというところが成長システムとしては納得感のある形だと思います。スキルツリーに関しても、このような設定に基づいてUIを模索しています。
虚淵氏:
「スタンプ」は、最初どん底にいるんです。娘に家出されて、意気消沈して落ち込んで、その状態でスローライフを送っているところから始まるんです。散策の最中に娘の手がかりを掴んで、そこからどんどん意欲的に奥に突き進んでいくという。
冒険が進むにしたがってスタンプ自身のテンションも上がっていくし、より危険な冒険を娘の手がかり目当てに踏み込んでいってしまう。
そんな中で、若かりし頃のカンを取り戻して、中年のトレジャーハンターとして突き進んでいく。
──スキルツリーなどがありますが、プレイスタイルごとにビルドできるんですか?
虚淵氏:
スキルツリーでは手に入れた経験値をどのツリーに広げていくのか、という選択肢があります。
開発P:
「スタンプ」と、彼が乗っているロボットの「ポンコツ」はそれぞれ別に強化することができます。「ポンコツ」はチップを入れ替えたり、アームを取り替えることによって強化後に調整ができますが、「スタンプ」は強化したらそのままです。
「スタンプ」に攻撃力を振って、「ポンコツ」を防御力高めに強化したり、逆にどちらかに全振りしたり。ステージギミックへの耐性を高めたり、スタミナを伸ばしてより高い壁を登れるようにしたり、飛行距離を伸ばしたりといったこともできます。
──最後に、『Rusty Rabbit』を楽しみにしているユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。
開発P:
今の段階ではお話しできることが限られているのですが、いい意味でクセの強いタイトルとして、クセの強いクリエイターたちが新しいタイトルを作っています。
これから先も、もっと掘り下げたキャラクターの話やシステムなど、期待していただいて問題ないようなタイトルにすべくがんばっています。引き続きご注目いただけますとありがたいです。(了)
9月21日(木)に発表されたばかりの本作。メインとなるダンジョン部分の実機プレイでは、ロボに乗った「スタンプ」がブロックをガリガリと削って前へ突き進む。本作のテーマである「キュートなキャラとハードな世界観の融和」のコアとなる部分を目の当たりにすることができた。
開発プロデューサーの言う通り、解禁前の情報なども多くまだまだこれから多くの要素が明らかとなっていく本作。これからに期待しながら、続報を待ちたい。