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目指すのは独自性が強い、オンリーワンの魅力──「人」にフォーカスしたブランドメッセージを打ち出したスタジオの現在とこれからを名越稔洋氏に聞く

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作りたいことに誇りを。
描くことに愛を。

こだわりたいのは「人間」なんだ。
人が創る。人を描く。

MAKE/HUMAN

 これは9月16日に公開された名越スタジオの新たなブランドメッセージだ。

 PCから公式サイトを訪れるとムービーとともに流れるブランドメッセージ。スタジオに所属するスタッフたちの姿が映し出され、スタジオ代表を務める名越稔洋氏が映像の最後を飾る。

 ゲーム映像が流れるわけでもなく、ゲームの新情報が語られるわけでもない。開発スタジオとしては異例の試みと言えるだろう。

 「誇り」、「愛」、「人」──。

 スタジオが打ち出す惹句として使われるものとしてはめずらしい言葉が並ぶ。なぜこのような映像とブランドメッセージを公開したのか。弊誌は東京ゲームショウ2023会場を訪れていた名越氏を直撃し、その意図をうかがった。

「人」にフォーカスしたブランドメッセージを打ち出したスタジオの現在とこれからを名越稔洋氏に聞く_001

聞き手・文/豊田恵吾
カメラマン/松本祐亮


──よろしくお願いいたします。ゲームスタジオとしてはとても珍しいタイプの映像・ブランドメッセージを公式サイトで公開されていましたので、その意図をうかがいたく、本日はお時間をいただきました。本題をうかがう前に、まず名越スタジオの現状をお聞きしたいのですが……。

名越稔洋氏(以下、名越氏):
 スタジオの規模でいうとパートナー企業からの常駐スタッフやバックオフィスのスタッフを含め、60名が視野に入ってきた感じですね。まだまだ拡張の予定があるので、ゲームの開発とスタジオの組織拡充を両立して進行している、という状況です。

 おかげさまで多彩なメンバーが集まってきてくれていますし、ゲームの完成に向けて必要なスキルを持った人が入ってきてくれています。

──集まった方々は、名越スタジオのどのようなところに興味を引かれてジョインされたのでしょうか?

名越氏:
 いろいろな理由がありますが、名越スタジオのマインドに共感してくれた人がすごく多いですね。自分たちのマインドやポリシーを深く理解してもらえるビジュアルやコンテンツらしきものがあるとよりいいのではないかと考えて、ブランドメッセージを公開した、ということです。

 もちろんゲーム開発がメインですけども、いろんなことにチャレンジしようと思っていますので。

──なるほど。公開されたのがTGS開催直前のタイミングでしたが……。

名越氏:
 準備はずっとしていて、可及的速やかに公開しようと考えていました。本当はゲーム情報を出せるのがいいんでしょうけども、まだ事前のフェーズですから「こういう精神でがんばっています」とアピールするタイミングがいまだった、ということですね。

──メッセージの内容は名越さんが決められたのですか?

名越氏:
 もちろんそうです。客観的なアドバイスはもらいましたが、決めるのは私ですから。

 「人」を主語にしたうえで、私たちは一生懸命新しいものを作る。がんばるのは当たり前ですが、がんばるのはたいへんなので(笑)。そのたいへんさもスタジオのポリシーがあることで乗り越えていこう、という姿勢が少しでも伝わればと思っています。

──名越さんは以前から人を大事にしている印象があります。去年、弊誌のスペースに出演していただいたときも、ラジオを続けているのは「新しい人と出会いたい」と話されていました。ブランドメッセージで「人」にフォーカスされたのは、そういった考えからだったのでしょうか?

「名越スタジオ」にはどんな人材が集まっている? 制作中のゲームの内容は? 『龍が如く』新作の発表は100点満点で200点? 名越稔洋氏が語るスタジオのいまと未来

名越氏:
 ゲーム開発に関するテクノロジーの進化は目を見張るものがあるし、せちがらい話だけど一方では開発費も上がっていく。つまりモノ作りが複雑化していく。そうして出来上がったものは、たしかに過去から比べたらすばらしいコンテンツです。良質なコンテンツがたくさん出る時代になったわけですが、大規模になっていけばいくほど、ひとりひとりのスキルや考え方が「軽視されている」とまでは言わないけれども、少し脇に置かれる感じがある。

 そこに一抹の不安や寂しさを持っている人はクリエイターは多いと思っています。昔からそういう気配はあったんだけども、いま、そして未来に向かって、その感覚が強くなっていくと感じていて。

 もちろん新しいコンテンツ、すばらしいものを作ろうと、ゲーム作りそのものはこれからも形を変え続けていくわけです。ただ、どんなものを目指すのか、どうよろこんでもらうのかという基準は、人が考えて作る。ここは不変なんですよ。

 プログラマーであれ、プランナーであれ、デザイナーであれ、それぞれの立場で、どう進むのかをひとりひとりが切磋琢磨して考える。それがあってこその技術。「そこを私たちは忘れていませんよ」、「大事にしていますよ」と、当たり前のことなんだけども、いまこのタイミングだからこそ、そういうところを大事にしているとアピールしたわけです。

 新しいものを目指す前向きな気持ちと、自分を大事にしてくれるのだろうかという不安。その両方を抱える人にとっては、期待を感じてくれるものになるんじゃないかと思って「人」にフォーカスしたというのはあります。

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──「誇り」という言葉も、名越さんがこれまで大事にされてきたことだと思うのですが、「誇り」が持てる仕事とは、どのようなことだと捉えていらっしゃいますか?

名越氏:
「誇りとはなんぞや」ということよりも、自分自身が自分の仕事に納得しているか。そして、納得している仕事が人によろこばれているかこのワンセットが「誇り」だと思っています。自分が納得していても人によろこばれなかったら、誇らしいとは思えないわけで。その両面がマッチしていなければ健全ではない。自分が、自分たちが求めるものを追求する、がんばる、深掘りしていく。自分たちが思ったものを形にして世の中に送り出し、それが伝わってよろこんでもらえる。そのワンセットを実現しよう、というのが私の思う「誇り」です。そこはつねづね大事にしたいと思っています。

──ムービーにはスタッフの方々の姿も写っています。引き抜きなどがある時代に、あれだけ多くのスタッフの顔を出されるのは珍しいな、と思ったのですが……。

名越氏:
 最初にお話したように、いろいろな経歴を持つ人が入社してくれていますが、名越スタジオよりも魅力的なところがあればどこかに羽ばたいていくかも知れませんし、そこはお互い様だと思っています。

──オフィスの所在地は恵比寿ですが、スタッフの方々の反応はいかがですか?

名越氏:
 便利なところに居を構えたので、昼食時などは楽しみに過ごしているようです(笑)。交通の便も悪くありませんし、私としては、オフィスのあるエリアにはこだわったつもりなので、結果として喜んでくれているのを伝え聞くと、恵比寿を選んでよかったと感じています。

 クリエイティブという仕事をするうえでも、渋谷ほどヤンチャでもないし、品川ほどシックではない。「どこに行こうか」という選択が取りやすい場所ですよね。渋谷や新宿のような大きな駅の近くに拠点があるのもエキサイティングだと思いますが、クリエイティブは集中して作業したい。静かな郊外に拠点を構えるというのもひとつの考え方ではありますが、うちのカラーとは違うかなと。そういう意味では、都会でありながら落ち着きもある程度感じられる街として、いい選択だったのかなと思っています。

──改めていま集まっているスタッフの方々の話をお聞かせください。人数が60名に近づいているということですが、ジョインされた方々はどういった部分に惹かれて門戸を叩かれたのでしょうか?

名越氏:
 スタジオを立ち上げてすぐに発信した「風通しがいいところにしたい」という宣言をあげる人が割と多いですね。あとは、「新しいことができる」という魅力。そのほかだと、私も業界歴が長く、おかげさまでみんな知ってくれているので、私と濃い関係でいっしょに仕事ができることをおもしろそうと思ってくれている人もいます。

──たしかにそこは魅力的ですね。まだまだ人材は募集されているのですか?

名越氏:
 募集は続けています。いま作っているゲームのディティールはまだ言えませんが、大きい規模のものを目指しているので、優秀な人材がいれば、まだまだ引き受けられる余裕はあります。

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──どのような人材を求めているのでしょうか。

名越氏:
 基本的には、ハイエンドコンシューマ経験のあるスキルの高い人ですね。ただ、近しい職種のプロフェッショナルであれば、ゲーム業界未経験者でも活躍の場はあると思います。実際、ゲームを土台にはしていないけど、映像の仕事に長く携わっていたという方も入ってきていますし、そういう人たちが活躍できるフェーズになっています。ゲームが進化している様相を見定めつつ、自分のスキルが役立つのではないかという、チャレンジ精神のある人材も増えていますね。

──ゲーム業界以外から入られた方々といっしょに仕事をするのは、新鮮さがありそうですね。

名越氏:
 それはありますね。ゲーム業界歴が長いと、もちろんいい部分はたくさんあります。でも同時に「ゲームはこう作るものだ」というこだわりも強くなるんですね。「新しいものを作ろう」となったときに、過去の知識は必要なんだけれども、固定観念をどこまで捨てられるか、超えられるかというのがテーマになっていくわけです。

 一方で、クリエイティブの根っこがゲームにない人は「かっこいいんだからこっちでいいじゃん」とか、「こうすれば綺麗に見えるのになぜこの方法をとらないのか」みたいな発想を自由にしやすい。それは長所だと思うので大事にしたいところですね。

──そういった考え方が名越スタジオの特徴、ほかのスタジオにはない特色になっていくのでしょうね。

名越氏:
 いまは技術的に優れた作品が世に出ていますが、日本であれ海外であれ、当然その中で売れ筋、トレンドがある。でも、私たちは老若男女すべての人たちにまんべんなく売れるようなものを目指しているわけではありません。努力してゲームを作る以上、より多くの人に届けたいというのは変わりませんが、私たちが目指すのは独自性が強いものであり、オンリーワンの魅力。

 極端な言い方をすると、名越スタジオにしか作れないものというのがアイデンティティになっていくべきだと思っています。どんなものが売れて、どんなものが受け入れられるのかというのは、気にはなりますし、調査もしますし、勉強もする。でも、結果として目指すものはオンリーワンなんです。

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──ちょっと話が逸れるかもしれませんが、先日名越さんはマ・ドンソクとのツーショットをX(旧Twitter)でポストされていましたよね。あの投稿を見たときに、「何が起こるんだろう」と、すごくワクワクしたんです。そう感じるのって、限られたスタジオ、限られたクリエイターだと思って。「何かやってるんだろうな」という期待感と言いますか。

名越氏:
 ありがとうございます。つねにそういう存在でありたいとは思いますね。

──ところで、TGSは会場を回られたと思いますが、気になるブースやタイトルはありましたか? NetEase Gamesが大々的な出展をされていましたが……。

名越氏:
 ひと昔前は、中国企業のブースを全部足してもそれほどのコマ数でもなかったものが、いまは大きなブースを構える企業がいくつも出る時代になっています。過去を知っている人たちからすると、いろいろと感じるところがあるでしょうね。

 レギュラーで出展しているブランドもありますが、全体の印象としてはシリーズものなどの手堅い出展が多くて、エッジの強い、チャレンジ精神の目立つものがあまりなかった。クリエイターとしては「負けてられないな」と刺激をもらうのがTGSを訪れる理由のひとつだと思うので、「なんじゃこりゃ」というものをもっと見たかったというのが正直なところですね。ゲームファンもそういうものが見たいと思うんですよね。

──海外メディアの取材陣がより増えているという印象があったのですが、海外での日本のゲームへの注目度の高さなどは、どう分析されているのでしょうか?

名越氏:
 海外メディア、なかでもアジアメディアが増えているというのは同感です。海外メディアがTGSをどう見たのか詳細は聞いていないけども……所感は近いものがあるんじゃないかな。新ハードがあったわけでもなく、「あれすごかったね」という会話が今年は限定的だったんじゃないかと思います。前向きに言えば、時が来て、名越スタジオのタイトルを出展したときに「なんじゃこりゃ!」と会話してもらえればうれしいですね。

──TGSで名越さんのタイトルが見れる日を心待ちにしたいと思います。最後に、名越スタジオの今後の展望についてお聞かせください。

名越氏:
 もちろんバリバリとゲームを作っていますし、徐々に油も乗ってきた感じです。人材を募集しているということは、もっともっと内容を充実させたい、もっともっとレベルを高めていきたいという現れなわけです。

 ゲームが完成するまで採用を続ける。名越スタジオは人に投資をすることにかけていますので、採用をやめることはありません。「予算がこうだ」と変にキャップをかけず、人への投資は惜しまずに続けて、とにかくいいものを作る。シンプルにそう考えています。

 海外からの大きな資本を受けてやっている身としては、人や開発環境への投資を惜しむ気はありませんし、集まった人たちの能力をすばらしいコンテンツに変える役目を担っているわけです。いまはまだゲームの発表はできませんが、この結果が出る日をみなさん楽しみに待っていてください。

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ライター
2019年11月に電ファミへ加入。小学生の時に『ラグナロクオンライン』に出会ったことがきっかけでオンラインゲームにのめり込む。コミュニケーション手段としてのゲームを追い続けている。好きなゲームは『アクトレイザー』『モンスターファームアドバンス2』『新・世界樹の迷宮2』など。
Twitter:@fuyunoyozakura

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