「人生を狂わされたゲーム」が、アナタにはあるだろうか。
多分、これは人によって全く違うタイトルが挙げられるだろう。RPGに人生を狂わされた者、格闘ゲームに人生を狂わされた者、恋愛アドベンチャーに人生を狂わされた者……。もうそれぞれのゲームジャンルに、「人の人生を狂わせた」タイトルがあると思われる。
そして今回の対談に登場する方も、「あるゲーム」に人生を狂わされている。
その名も、『ドラッグ オン ドラグーン』(以下、『DOD』)。
2003年にスクウェア・エニックスより発売されたこのタイトル。一見王道ファンタジー風な世界観に見せかけつつも、実際に描かれるのは異常に強烈なキャラクターや、常軌を逸した凄惨な展開。当時のプレイヤーに、あまりにも絶大なインパクトを与えたタイトルだ。人によっては「奇作」とも呼ばれ、「名作」とも呼ばれ、また「怪作」とも呼ばれる。
そしてあの有名な「新宿ED」と共に、ゲームクリエイター「ヨコオタロウ」の名を初めて世に知らしめたタイトルでもある。そんな『DOD』に人生を狂わされたのが、フリューの林風肖氏。
若くして『CRYSTAR -クライスタ-』や『クライマキナ/CRYMACHINA』などを世に送り出した彼は、どうやら中学生の頃に『DOD』と出会い、ゲーム業界を志したらしい。うん、そりゃ暗いゲーム作るわ。
今回は、そんな『DOD』で人生がおかしく(?)なってしまった林氏と、ヨコオタロウ氏の対談をお届けする。ある意味、「憧れのゲームクリエイター」との対談でもある。
林氏が『CRYSTAR -クライスタ-』を制作するにあたって、ヨコオ氏から教えてもらった「ディレクター論」とは? 若手とベテランの対談から見えてくる、「ゲームクリエイターの世代の違い」とは? 掴めそうで掴めない「ヨコオタロウの作家性」とは、どこにあるのか?
そして記事タイトルにもなっている「新宿EDは、浜崎あゆみと歌合戦する予定だった」とは、一体なんなのか? 本当になんなんでしょうね。
記事タイトル通り、ヨコオ節全開のかなりカオスな対談となっている。
ぜひ最後まで読んで、「本当に、本当にありがとうございました。」で締めくくろう。
※この記事内には『ドラッグ オン ドラグーン』と『ニーア レプリカント』のネタバレが含まれています。もしネタバレを見たくない方は、お気をつけください。
聞き手/TAITAI・ジスマロック
撮影/和田貴光
DODがきっかけでゲーム業界に入り、ヨコオタロウに出会う
──近年のゲーム業界では、若手がディレクターを任されることが少なくなってきましたよね。そんな中にあって、20代からディレクターを任されている林さんが、ゲームを作るにあたって「ヨコオさんからゲーム制作の技術をいろいろとお聞きした」という話を聞いたんです。
いったい、どんなやり取り&アドバイスがなされたんだろう?というのが気になって。今日は、そのあたりのお話をお聞きできればと思っているんです。
ヨコオタロウ氏(以下、ヨコオ氏):
あぁ、実際の林さんはもうとっくに権力者になっているにも関わらず、相変わらず「チャレンジャー」的なルックで売っていこうとしている部分の話をすればいいんですね。今のところ、ちゃんと文章にしてください。大事な部分なので。
一同:
(笑)。
林 風肖氏(以下、林氏):
……僕はもともと、ゲーム業界に入る以前からヨコオさんの厄介ファンだったんです(笑)。
そもそも、僕は学生時代に遊んだ初代『DOD』がきっかけで、ゲーム業界に入りました。なので、ゲーム業界に入ったからには「いつかヨコオさんとお仕事をしてみたい」「いつかヨコオさんとお話をしてみたい」と思っていました。
だから、『CRYSTAR -クライスタ-』【※1】を制作する時に、共通の知人を通してヨコオさんに「監修という形で入ってもらえないか」というご相談をしたんです。そこで初めてヨコオさんとお会いしました。
※1「CRYSTAR -クライスタ-」
2018年にフリューより発売されたアクションRPG。「泣いて戦うアクションRPG」というジャンルになっている通り、少女たちの繊細な感情が克明に描かれた作品。『クライマキナ/CRYMACHINA』の精神的系譜作にあたる。
──ある意味、林さんにとっては「憧れのヨコオさん」でもあったのですね。
初めてお会いした時、どんなお話をされたのでしょうか?
林氏:
『CRYSTAR -クライスタ-』は、僕が初めてのディレクション・プロデュースをしたコンシューマゲームでした。だから、当時はもう「何をどこまで自分で決めていいのか」すらわからないような弱腰のマインドだったんです。
その時にヨコオさんとお話をしたのですが、そこで学んだのはヨコオさんの「ディレクターとしての心構え」でしたね。ディレクターは自分で作品のすべてを決める仕事だし、自分で舵を握らなければいけません。そんな「人に甘えるマインドは、まず捨てるべし」という心構えを学んだのが、ヨコオさんとのファーストインプレッションでした。
ヨコオ氏:
え、そんなディレクター論みたいな話しましたっけ?(笑)
林氏:
具体的には語られてはいなかったかもですが、言葉の端々から感じ取っていました(笑)。
たとえば「シナリオをどうすべきか悩んでるんです」という相談をさせていただいた時に、「たしかにシナリオライターの考えも大事だけど、この作品のディレクターは林さんなんですよね?」ということを、事あるごとにおっしゃってくださいました。
そこで、「そうか。決めるのはディレクターである僕の仕事だもんな」と決意を新たにしましたね。たしか、これが25歳くらいの頃の話だったと思います。
──逆に、ヨコオさんから見た林さんの印象はいかがでしたか? 「25歳でゲームのディレクターをする」というのも、中々に珍しいことだと思います。
ヨコオ氏:
それくらいの若さでディレクターをする方は、当時も珍しかったと思います。
林さんの初対面の印象は、まず「賢い人なんだろうな」とは思いました。スクエニとかに入ったらすぐにディレクターにはなれないけど、フリューみたいなベンチャー感のある企業にいれば、パッとディレクターになれるんだろうなと。そして、そこに「狙って入ってる」感じがしました。
だから、「最近はゲーム業界も頭いい人が増えたな」と……(笑)。
林氏:
僕がフリューを選んだ理由はまさにその通りですね(笑)。
僕は元々同人でゲームを作っていたところから、フリューに入社しました。だからこそ、「荒波に揉まれてでも、最初から自由にできる会社で頑張った方がやりがいや実りがあるだろう」と思っていました。まぁ、思ってたより荒波がすごくて、振り返ってみれば苦しさの方が多かったような気もしますが……(苦笑)。
「FF憎し」の思いを抱えていた中、カイムに救われた
林氏:
『DOD』の話に戻ってしまうのですが、あの作品に学生時代の僕はすごく感動しました。何より、主人公の「カイム」にすごく救われたんですよね。
『DOD』で描かれる世界はものすごく理不尽な世界ですし、「そのエンディングに救いがあるのか」という部分すらプレイヤーの考え方次第だと思います。でも、「結果がどうあれ、あがき続ける」カイムの姿を見て、学生時代の僕はすごく救われました。あれだけ理不尽な世界でも抗い続けるカイムが、とてもカッコよかったんです。
そんな『DOD』のシナリオや世界観を、ヨコオさんがどういうプロセスやロジックを経た上で作られたのか聞いてみたい……と思ったのが僕とヨコオさんの関係の始まりでもあります。ちなみにこの「カイムに救われた」話をヨコオさんにした時の返答は、「変わってますね」の一言でした(笑)。
ヨコオ氏:
変わってますよ!
──林さんの中で「具体的にDODのどこが刺さったのか」は、もう少し詳しくお聞きしてみたいです。
林氏:
昔話になってしまうのですが……当時の僕は、結構学校で嫌な思いをすることが多かったんです。で、嫌な思いをさせてくる子たちが、同じスクエニでもどちらかというと『FF』シリーズが好きだったんですよね。だから「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」じゃないですけど、あんまりFFにいい印象がなかったんです。
ここはもし、フリューとして問題があったらカットしてください(笑)。
ヨコオ氏:
いや、それは書きましょう!
一同:
(笑)。
林氏:
そんな「FF憎し」の思いを抱えていた時に、僕と同じ日陰者の友達が「同じスクエニでもこういうタイトルがあるよ」と言って、『DOD』をオススメしてくれました。それが14歳の時でした。
そして遊んでみたら、「こ……これがFFと同じスクエニの作品!?」と衝撃を受けて(笑)。
当時の僕の中で「FFはみんなのもの」という勝手な偏見があったのですが……そこに対して同じスクエニ作品でありながら、誰もが受け入れられるわけではない理不尽で狂った世界を描かれている『DOD』が出てきたのはすさまじいインパクトでした。ヨコオさんを前にしてこういう話をしちゃうのもよくないかもしれませんが……。
ヨコオ氏:
全然いいですよ(笑)。
林氏:
『DOD』を遊んだ時、「こうだよな!」って思ったんです。
「こういうもの!こういうもの!!」って。
だって、世の中はハッピーエンドばかりじゃないし、いま辛くて苦しい思いをしている自分もたしかに存在しています。だからこそ、『DOD』には「こういう世界もあるよね。世の中キツイよね」と共感できたんです。
そんな狂った世界の中でカイムのがむしゃらに頑張っている姿、生きる強さ、生き意地みたいなものがすごく僕の琴線に触れました。
そのカイムの姿を見て、僕も「ヤケでもいいから、一生懸命あがいてみたい」と思いました。これが「カイムに救われた」ということです。そこから「このゲームはヨコオタロウという人が作っているらしい」と、ヨコオさんの存在を認識しました。
そこから僕がゲーム業界に入った時、「18禁ゲームの道に進むか、コンシューマーの道に進むか」で迷っていました。でも、ヨコオさんがずっとコンシューマーで活躍されている姿を見て、「ヨコオさんのように、コンシューマーで僕のような陰日向な人間でも共感できる作品を作りたい」と考えました。つまり、そこでも『DOD』の存在が道を決めてくれたんです。
「新宿ED」って、本当は銀タイツの浜崎あゆみと歌合戦する予定だった……?
──ヨコオさんはよく、「お客様のことを第一に考える」とおっしゃられていますよね。ただ、『DOD』はどちらかというとすごく尖っていて、林さんのように「刺さったファン」を生み出す作品だと思います。ヨコオさんの中で、なにか明確に「エッジを効かせる」「お客様を考える」ことのバランス感覚などがあったりするのでしょうか?
ヨコオ氏:
それはバランス感覚というより「市場の問題」に集約されると思います。
スクエニの看板タイトルと言えば、やはりドラクエとFFですよね。そして『ドラッグオンドラグーン』はスクエニから発売されることが決まっていたので、「じゃあこのゲームの比較対象は何か」と言われると、それはやはりドラクエとFFになるわけです。
そこで市場的に考えると、「ドラクエとFFが欲しい人」は、当然ドラクエとFFを買いますよね。つまり、そこを狙う意味はありません。
お客様にとって不要なものを作ることには、意味がありません。「じゃあ、不要じゃないものはなんだろう?」と考えた時に、その当時の「必要とされるもの」のフィールドとして残っていたのが『ドラッグオンドラグーン』……つまり、「暗い作品」だったんです。
そして、僕がディレクターとして入る以前から『ドラッグオンドラグーン』が「中世が舞台のバトルアクション」であることは決まっていました。それをスクエニで出すと考えた時、当時の市場などを鑑みて「じゃあ暗いゲームにしようかな」と考えました。だからあれ、スクエニじゃなかったら暗いゲームにしてない気がしてますけど(笑)。
一同:
(笑)。
ヨコオ氏:
林さんは人間的な内面から出てくる何かが「暗い作品」を表現しているのだと思いますけど、僕はどっちかっていうと外圧や状況を見てから作品を作ります。最近はなんかこう……ふわーっと明るいものを作っているつもりではいます。
林氏:
ある意味、スクエニさんに感謝ですね(笑)。
ヨコオ氏:
たまたまその時に「必要とされるもの」が、暗い作品だったという。でも今はスクエニもダークな雰囲気のタイトルが増えていますし、もし今『ドラッグオンドラグーン』をイチから作るのだとしたら、また違う雰囲気のものになる気はします。
そして、それこそ林さんのように「ドラッグオンドラグーンやニーアに救われた」といったことをDMで送ってくる方って、すごく多かったりするんです。僕自身は全然そんなつもりで作ってないから、いつも「そうなんだ?」と思うんですけど。
でも結局それって、「ゲームを通して、ゲームから何かを得た」というよりかは、あくまでゲームが「鏡」としての機能を果たして、その人の中にある何かを反射したのだと思います。『ドラッグオンドラグーン』がそういう役割を果たせたのであれば、そこは良かったのかな、と。
林氏:
ステキな鏡をありがとうございます……!
──『DOD』は、ある意味ファンの熱量も他のタイトルとは違うものがあったと感じています。それこそみんなで「最後までやった!?」と言い合うような。
ヨコオ氏:
『ドラッグオンドラグーン』の最後【※2】は、そうですね……(笑)。
「新宿ED」に関しては、当時の開発スケジュールがすごくギリギリだったので、開発中盤で「これはもしかしたら新宿ステージは作れなくなりそうだ」ということがなんとなくわかりました。その瞬間に、いきなり最後のステージだけ作り始めました。
要は、開発途中で最後まで作れないことが確定した場合、まず真っ先に「新宿をカットしろ」と言われるだろうなと(笑)。そこで新宿のステージだけを先に作ったんです。この「先に新宿を作った」ことは今でも覚えています。
※2「DODの新宿ED」
一応、説明しよう。初代『DOD』には5種類のエンディングが用意されており、その内の最後に解禁されるのが「Eエンド(新宿ED)」となっている。いろいろなことがあり中世から新宿へと移動してしまった主人公が、巨大な相手とリズムゲームを繰り広げる衝撃的な展開から、今もなおファンの間で語り継がれて(?)いる。
──衝撃の事実ですね(笑)。
ちなみに、「新宿で音ゲーをする」という具体的なゲーム内容も最初から決めていたのでしょうか?
ヨコオ氏:
「新宿で音ゲーをする」ことも最初から決めてました。
正しく言うと、『ドラッグオンドラグーン』のエンディングの初期案は「ラスボスとして銀タイツを着た浜崎あゆみが出てきて、そのラスボスの浜崎あゆみと歌合戦を繰り広げる」というものだったんです。
それがチーム内でもいっさい通らなくて、渋々作ったのが新宿EDなんです。
だから、僕の中であれはだいぶマイルドなエンディングです。
一同:
(爆笑)。
ヨコオ氏:
いまでも浜崎あゆみのエンディングはやりたいんですけどね……。
当時は「想像を絶する敵とは、何か?」ということをずっと考えていて……「浜崎あゆみが出てきて、これまでやってた戦いの技術がいっさい通じなかったとしたら、オタクはどう思うんだろう?」と(笑)。
つまり、「オタクの対極にいる陽キャのアイコン」というイメージから浜崎あゆみを引っ張ってきました。「真の意味で恐ろしい敵と対峙する者の気持ちを、味わうがいい!」みたいな。
……というのを当時は思っていたんですが、今になってみると通るわけがないですよね。でも、実際に言った僕は偉かったと思います(笑)。
ヨコオ氏:
そんなこんなで、「たまたま新宿音ゲーをすることになった」という感じでしたね。だから、真の意味で「闇のクリエイティブ」をしている林さんに比べると、「僕はそんなに闇じゃないんじゃないかな?」と思います。もうちょっとふざけ倒してるのがベースにあるので(笑)。
もしかしたら、僕と林さんはだいぶ違うのでは……?
林氏:
僕はヨコオさんが作られたものから影響を受けてますが、その結果としてアウトプットされるものが少し違うなら、むしろ嬉しいところだと思います。「僕の存在意義がある」と言いますか。
ヨコオ氏:
まぁ、最終的にそれを決めるのはお客様なので僕らにはよくわからないですけど……。なんとなく、林さんの根っこにあるのはやっぱり「鬱屈した気持ちや思い」だと思います。
だけど、僕の場合は一番の根源にあるのが「モテないことへのストレス」なんですよ。でも、林さんは見るからにシュッとしてるから、そのストレスが多分ないんです。そこが僕と林さんの最大の違いです。だから、「モテないことへのストレス」によって出てくるものの汚さ具合が違うんじゃないかなと僕は思ってますけどね。
林氏:
いや、僕もモテないですよ?
ヨコオ氏:
いやいや。見てください、僕が今日着てきてるこの服とか。
いくら洗濯しても毛玉が取れないんですよ。
びっくりしますよ。「どうしてこんなに毛玉が取れないのか。なんでオレは服を買い替えないんだろう」と……朝も妻に「みっともない!」って言われながら……でも取りきれないんですよ、毛玉だらけで……。
でも、いまの林さんはシュッとされてるじゃないですか。
だからいまモテてるってことは、もう「僕の敵」ということで(笑)。
一同:
(笑)。
ダメな企画書は、最初から「○○が不在」になっている
──先ほど林さんは「ヨコオさんにシナリオの相談をした」とおっしゃっていましたが、その時シナリオに関してどんなことを教えてもらったのでしょうか?
林氏:
僕がまず最初にお聞きしたのは、「シナリオのまとめ方」についてです。当時の僕は、普通にパワーポイントやExcelでまとめていたのですが、その時にヨコオさんに言われたのは「構造エディタをダウンロードしてください!」ということでした。
より具体的に言えば、「アウトラインエディタ」【※3】ですね。これを入れることによって、さまざまな物事を「階層構造」にして確認することができます。「コンセプト」「シナリオ」「演出」などを階層構造にすることで、よりわかりやすくゲーム全体の構造を把握できるんです。
※3「アウトラインエディタ?階層構造?」
「アウトライン」「階層構造」について、正直「どういうこと?」と感じる人も多いかもしれない。主にテキストツールに採用されている機能で、端的に言えば「文章を階層化して管理する機能」である。下記の桜井政博氏のYouTubeチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」の「階層アウトラインでまとめる」にて動画付きで解説されているため、気になった方はチェックしてみよう。
林氏:
「アウトライン化された構造を正しく配置すると、他の関係者にもゲームの概要がわかりやすく説明できる」といった話をしていただきました。やはり、ゲームはひとりで作るものではありませんから。
他には「序盤のシナリオ展開」について、「自分だったら序盤はこうする」というヨコオさんver.のジャストプロットみたいなものをその場で作っていただいたりもしました。そのプロットは直接『CRYSTAR -クライスタ-』に入ってはいないのですが、僕はそこで「自分とヨコオさんとでは頭の回転の速さが違う」と感じました。
当時の僕とヨコオさんの間にある「圧倒的な能力値の差」に驚愕したと言いますか……「あ、これが““上””か。」と思いました(笑)。
すごく大きな学びになりましたね。
ヨコオ氏:
……だそうです(笑)。
一同:
(笑)。
ヨコオ氏:
「暗い話の書き方」や「どうやってキャラの内面に迫るのか」といった心情的な部分ではなく、もっとテクニカルな話をしていましたよね。まず、「林さんがどんなことをしたいのか」をヒアリングして、そこから「その“やりたいこと”の段取りにどういう順序をつけ、どう出力するべきか」という……要は「工程」の話をずっとしていました。
──「工程」ですか?
ヨコオ氏:
ゲームのシナリオを作る工程では、「ステージがこのくらいあるとしたら、どこでシナリオを切っていくか」「このぐらいのボスがいて、どこで何が起きるのか」という大枠の構造を決めてから、その先のディテールを作っていきます。
その大枠の構造に対して「シナリオがどれくらいのボリュームで乗るのか」といった目測があった上で、初めてゲームのシナリオは書けるんです。
林氏:
精神的な話というより、ヨコオさんが講演で話されている構造論や方法論を直接マンツーマンで教えていただくようなお時間でしたね。贅沢な時間でした(笑)。
──ヨコオさんはそういった構造論などを誰かに教える機会は多かったりするのでしょうか?
ヨコオ氏:
講演以外だと、スクエニのシナリオ班の人たちに教えたりすることはありますね。
ただ、「教えたらできるか」と言うと、そういうわけではないです。
……きっと、自分は教えるのが下手なんだと思います(笑)。
だから、林さんがいまゲーム制作を上手くできているとしたら僕のおかげじゃなくて、林さん自身が上手くやったんだろうなと。
林氏:
いやいや、ヨコオさんほど言語能力が卓越された方はいらっしゃらないと思います。
──普通のゲームの専門学校などで教えられていることと、ヨコオさんが実際にレクチャーされるのではやはり全く違うのではないかと思います。その本質の差などは、どういったところにあるのでしょうか?
ヨコオ氏:
さっきもチラッと話題に出ましたが、僕が学校で一番教えてあげてほしいのは「お客様をもっと大事にすること」ですね。
やはり「クリエイター=自分を表現すること」というイメージが最初にあって、そこから企画書などを作ってしまう方がすごく多いんです。つまり、企画段階から「お客様が不在のもの」になっている。それが企画において、いろいろな「癌」になったりします。
その「まずお客様がいて、それをどう思われるのか」ということを専門学校で叩いて教えてほしいですね。それさえ理解できれば、あとは「そのお客様に、何を届けるか」というだけの話です。
やはり学校だと「先生」「学生の自分」「友だち」だけがいて、そこに「お客様」が存在しません。ただ、「そんなお客様不在の楽園のような世界で、お客様の存在をどう意識すればいいのか?」というのは難しい問題だと思っています。
だから、最近学生の人に「卒業までに何をしたらいいですか?」と聞かれたら、「接客業のアルバイトをしたらいいと思います」という話をすごくしていて(笑)。
接客業のバイトをすると「世の中には頭のおかしい人がいっぱいいる」ことがよくわかりますし、同時に「そういう人たちを相手にビジネスをする」ということに対しても意識ができます。
林氏:
なるほど……。接客業ではないですが、僕の場合はゲームを作るたびに、徐々に他者と自分の境界線が如実にわかってきたような感覚があります。お客様の反応を受けて、ようやく市場のニーズを学んでいくというか……。
僕が初めて世に出したゲームは無料のフリーゲームでした。そしてやはり無料であるがゆえに、結構な数の方が遊んでくれました。そこで褒めてくださる方もいれば、何万文字ものレビューでビックリするくらい叩かれることもありました。
でも、そういうお客様の声を聞きながら「どうすれば、より世間との摩擦が減るだろうか」ということを学んでいます。
それをゲームを出すたびに千鳥足で学んでいるというか……なんだか「傷を負いながら学んでいる」ような感じがします。
ヨコオ氏:
タダで遊べるフリーゲームなのに叩かれるとか……もう意味がわからないですよね!
だから、接客業をすると「お客様の中にはそういう人がいる」という学びがあります。前にどこかで書いたんですけど、僕は「お客様は神様です」という言葉がすごく好きで……。
要は、「お客様は神様みたいにワケがわかんない」という(笑)。
そういう意味で、「お客様は神様」だなぁと。加えて、「こちらも神様を選ぶ自由はあるよ」という意味でも、「お客様は神様です」がすごく好きなんですよね。