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『アークナイツ』のアニメ化って、絶対難しくない……? あの圧倒的テキスト量の原作をどうやって映像化してるのか、アニメ製作スタッフに聞いてみた

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 『アークナイツ』のアニメ化って、絶対難しい気がする。

 『アークナイツ』……Hypergryph(ハイパーグリフ)が開発し、日本語版はYostarが運営・配信を行っているスマートフォン向けタワーディフェンスゲーム。その魅力は、圧倒的に分厚い世界観と、気が遠くなるようなテキスト量。イベントだけで、椅子から転げ落ちそうになる文量が飛び出してきたりする。

 そして基本的なゲームは、キャラが立ち絵で会話するアドベンチャーパートと、SDチックにデフォルメされたキャラが戦うシミュレーションパートにわかれている。私が「アークナイツがアニメ化される」という話を聞いた時、真っ先に感じたのは「映像化、難しそう!」ということだった。

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 まず、あのテキスト量のアドベンチャーパートを映像化しなければならない。元々のテキストが多いからボリューム的な問題はないけれど、そこに対して「映像の補完」を行う必要がある。そして戦闘シーンに関しても、あの「デフォルメされたタワーディフェンス」の画面から、等身大でキャラが戦うバトルシーンを引き出さなければいけない。

 ところが、1期の『アークナイツ [黎明前奏/Prelude to Dawn]』では、そこを成功させている印象があった。『アークナイツ』の空気が映像上にしっかりと存在しており、原作のやや難解だったシーンが映像化によって噛みくだきやすくなっている。バトルシーンも、結構いい感じ。

 ………アニメ化、できているじゃないか!!

 な、なんかエラそうですいません……。でも、それくらい1期は「上手くアークナイツをアニメ化できている」印象があったのです。そこで2期『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』に合わせて、今作の監督と副監督を務める渡邉祐記さん、西川将貴さんにお話をうかがってきました。

 そもそもアニメ版は、どうやって原作の情報を補完しているのか?
 デフォルメされた戦闘画面を、どのように等身大の映像に落とし込むのか?
 あの分厚い世界観と情報量を、いかに「アニメ」として形作っていくのか?

 1期を見ていた方も、きっと「アニメ版アークナイツの作り方」がよくわかる記事になっているのではないかと思います。ぜひ、最後までご覧ください。

 ちなみに、今回の監督・副監督インタビューに合わせて、アーミヤ役の黒沢ともよさんへのインタビューも掲載されています。こちらも、合わせてご覧ください。

聞き手・文/ジスマロック
編集/実存

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左から西川氏、渡邉氏、黒沢氏。

「アークナイツの解像度」を上げる必要がある?

──本日はよろしくお願いします。1期『アークナイツ [黎明前奏/Prelude to Dawn]』のラストにて、今回の2期『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』の制作が発表されていました。2期の制作は、企画段階から決まっていたものなのでしょうか?

渡邉氏:
 そうですね、当初の企画段階から2クール目がある前提で作っていました。視聴者のみなさまが1クール目をご覧いただいている最中に、スタッフ側は2クール目の準備を始めていました。

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──2期を制作している中で、特に印象的だったことがあればお聞かせください。
 アニメ制作的な観点からのお話をいただけると、ありがたいです。

渡邉氏:
 やはり「シリーズ構成」に苦労しましたね。「どの話数で、どの内容を見せていくか」という点において、かなり議論を重ねました。

 特に『アークナイツ』の場合は、原作の時点でストーリーの時系列シャッフルなどを行っていたりするので、そこの構成が難しかったです。そして我々アニメ制作陣の前提として、「映像でお話を完結」させなければいけません。つまり、「続きはWEBで!」といったことはできない。

 その上で、アニメから入ってきてくれたお客様が、アニメだけで内容を理解できるようにする必要もあります。『アークナイツ』はそもそもの情報量が多い作品なので、「アニメ化にあたって、何をどこまで見せていくのか」という点には、かなり気を遣っています。この「シリーズ構成」が、制作初期は大変でしたね。

 その構成したストーリーを映像として落とし込むにあたって、「構成段階で削った部分」も感じさせるような作りにする必要があります。要は、「映像として出力されるものに、どれだけ情報を押し込めるか」という点でも勝負しています。構成上では削っていたとしても、「情報」としては仕込まなければいけません。

 キャストの方々ともいろいろなやり取りを重ねたり、構成や情報を絵作りに落とし込んだり……。そういった「アークナイツの情報量」を画面に定着させる、という点がすごく大変でしたね。

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西川氏:
 1期との最大の違いは、やはり「登場人物が増える」ところだと思います。2期はもう冒頭から新たなオペレーターがたくさん登場しますし、敵側のキャラも含めるとさらに多くのキャラが出てきます。要は、「集団が映る」シーンも比例して増えるんです。そして、「描く人数」も必然的に増えます。

 物理的な作業量も増えますし、描写する人数が増えれば増えるほど、描くストーリーもどんどん散っていってしまうんですよね。そこが伝わりやすいように、全体の情報を整理整頓する必要がありました。「どうやったらちゃんと伝わるかな」と、悩みながら作り上げていきましたね。

渡邉氏:
 そう、ちゃんと伝えなきゃいけないんですよね。

 もちろん状況説明をすることは大切なんですが、「ただ見せて、終わり」にしたり、「説明して、ここの描写は終わり」だけにすると、視聴者に情報が伝わらなくなってしまいます。ここの「やって終わりにしない」ことは、すごく意識していました。

 前後の時系列にちゃんと繋がる描写を用意したり、シーンごとにフックを用意することで、情報に引っかかってもらえるように制作していました。

西川氏:
 原作をプレイされている方がアニメを見ることもあれば、アニメから『アークナイツ』に入る方もいらっしゃると思います。その両方のお客様に届けると考えた時、やはり共通するのは「解像度が上がるようにする」ということです。

 たとえば原作をプレイしている人からすると、シナリオを読んでいる時に「なんとなく流し目に見ていた部分」などもあったりすると思います。アニメは、そこをより伝わりやすくする必要があるんです。テキスト上だけでは一瞬理解が遅れてしまう箇所も、映像では音・キャラの表情・声などを情報として付与できる。そして見る側は、「実際にはこういうことが起きていた」と脳内で補完することができます。

 原作では難しかったシーンも、アニメによって「あ、そういうシーンだったんだ」と思えるような作りを意識していますね。一度アニメの映像を見てもらえれば、今後テキストで見返した時も脳内で映像をイメージして楽しめるような作りを目指しています。

 だけど、原作はもうテキスト量が膨大なので……見返す方も大変になってきましたよね(笑)。

渡邉氏:
 かなり大変になってきていますよね。
 2期で描かれている範囲は、まだ読み返しやすいテキスト量だったとは思うんですけど(笑)。

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テキスト量の多い原作に、どうやって映像で「情報量」を持たせるのか

──ちょうど「情報量」のお話が出たので、そこをもう少し詳しくお聞きしてみたいです。いち視聴者として、今作は1期の頃から「原作に上手く情報量を追加している」ような印象がありました。チェン隊長が車を運転しているシーンだったり、ロドスや龍門の詳細なロケーションが描かれていたり。まさに「あ、こういうシーンだったんだ」と理解が深まるようなアニメ化だったと感じています。
 この「情報量の増やし方」において、なにか明確に実践していることはあるのでしょうか?

西川氏:
 ぶっちゃけると………「元のテキストをちゃんと読む」ことだと思います。

渡邉氏:
 まぁまぁ、たしかにそれは前提としてそうですね!(笑)

一同:
 (笑)。

西川氏:
 元のテキストを読みつつ、「そのシーン同士が繋がってるんだ」という箇所を発見したら、そこを上手く映像で補完するようなイメージですね。それこそ、1期の「ミーシャがスカルシュレッダーになる」くだりは、かなり原作から補完をしている部分です。

渡邉氏:
 やはり情報を増やすにしても、取捨選択はする必要があると思っています。引かなきゃいけないところもあれば、足さなきゃいけないところもある。そして最終的には、「お客様がパッと見た時に、端的に内容を理解できるか」を重視しています。もう少し具体的に言うと、「体感してもらう」ことを大切にしているんです。

 これは1期から変わらずに続けていることなのですが、アニメ版は「没入感」を意識して作っています。最も「端的に理解する」ためには、お客様が実際にあの世界にいて、『アークナイツ』のお話を体感してもらう必要があるんです。じゃあ、作っている我々も「その場」にいなきゃいけない。実際に『アークナイツ』の世界に立ち、その空間で何かを見た時に見えてくるものが、たくさんあるはずなんです。

 言葉にするとすごくシンプルですが、「その世界に入り込んだ上で、作る」ことはかなり重視していますね。

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──少し野暮ったい言い方になってしまいますが、「リアル感」的なところを重視しているということでしょうか?

西川氏:
 そうですね。その上で気をつけているのが、「感情の流れ」です。渡邉さんが先ほどおっしゃっていた「シーン同士にフックを用意して、繋げなきゃいけない」ということも、この感情の流れを重視しているからこそです。

 アニメ化にあたって元のテキストを分析していく中で、「おそらくこういうことを書きたいのだろう」という原作側の意図や描きたいものは、やはり明確に見えてくるんです。その「原作の意図」をどう感情的に伝えやすくするかという点において、映像上でも「感情の流れ」を意識する必要があります。いわゆる、「文脈」というものですかね。

 やはり自分たちはアニメを制作する上で、年がら年中原作のテキストを読んで、ストーリーを分析しているのですが……流石にゲームを遊ばれている方の中でも、ここまで読み込んでいるのは一握りなんじゃないか?と思うくらいには読み込んでいる自信があります(笑)。

 だからこそ、「自分たちが誰よりもやり込んだ上で、よりアークナイツの世界観が伝わりやすい形でお届けしよう」と考えながら制作していますね。

──ある種、「アークナイツのストーリーを解釈する」といった作り方なのですね。

渡邉氏:
 実際、アニメ版の『アークナイツ』は、まず最初に「このアニメで描かれるドクターは、みなさんのドクターとは違うんですよ」ということを提示しています。アニメで描かれている世界は、あくまで「アニメのアークナイツ」でしかありません。

 やはりプレイヤーのみなさんの中には、各々の『アークナイツ』の解釈があると思います。だからこそ、アニメの内容が絶対的に正しいわけではありません。みなさんが読んでいるものと同じシナリオを読んだ上で、我々が「これがアニメ版の解釈です」ということを提示しているような形です。

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──1期の「ミーシャが重い武器を持ってよろける」シーンなんかは、まさにその解釈の一部ということでしょうか。

渡邉氏:
 あそこは、「死にかけている人がグレネードランチャーを持ったらどうなるか」というリアルさを重視した描写ですね。

 そもそもグレネードランチャーは、「撃つ」こと自体にエネルギーが必要ですよね。それを自分に置き換えてみると、もう制作が立て込んできて、身体がガタガタの時に「もう水を飲むコップを持つのもしんどい!!」みたいな(笑)。

西川氏:
 「早く点滴打ってくれー!」みたいな感じで……(笑)。

渡邉氏:
 プレイヤーのみなさまは「ドクター」としてプレイされていると思うのですが、作っている我々はどのキャラクターにも「なりきる」必要があるんですよね。言葉にするとチープに聞こえてしまうかもしれませんが……やはりここの「なりきる」「入り込む」ことは、アニメの制作においてかなり意識しています。

西川氏:
 すごくおこがましい言い方かもしれませんが、やはり我々は「プレイヤーの中から自分たちが代表してこの物語に触れ、作品として仕上げる」という立場になってしまいます。だからこそ、我々はより高い解像度で作品を見つめて、責任を持って作る必要があります。

 そして「なりきる」と一口に言っても、本気で深くなりきってしまったら、ちょっと別の話になってきますよね(笑)。だから、真正面から基礎的に「なりきる」という……一番しんどいことをしなきゃいけないんです。なので『アークナイツ』のアニメ化のお話が来た時は、「あぁ、これは大変だな……」と。

渡邉氏:
 そう考えてみると、今作のちょっと特殊なところは、限りなく「キャラの実情」を見せようとしているところかもしれないですね。

 たとえば、通常のアニメ化だとある程度「これはみんな嬉しいでしょ?」というサービスカットや原作再現のシーンを盛り込んだりするのですが、今作はどちらかというと「リアルな世界」を描こうとしています。まぁ、多少はサービスを入れつつ……基本的には「キャラの実情」を描写することに寄せていますね。

 だから、「このキャラクターは人気だから、重点的に描いちゃおう」といったことは、ほとんどしていません。その辺りは、かなり意識して作っていますね。

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元はSDのシミュレーション。等身大のバトルシーンってどう作る?

 ──今のお話と近いところがあるかもしれないのですが、アニメ版は「バトルシーンの描き方」が面白いと感じています。具体的には「あのSDのシミュレーション画面を、等身大のバトルシーンに落とし込んでいる」技術がすごいと思います。
 たとえば元が3Dのアクションゲームなどの場合は、「実際にバトルしているところ」のイメージが掴みやすいと思うのです。でも、実際のゲーム画面はデフォルメされたものですよね。この「アークナイツのゲーム画面を戦闘シーンに起こす」にあたって、なにか明確な手法や技術があるのでしょうか?

西川氏:
 具体的なところを説明するのは難しいのですが……やはり「愚直に映像化するしかない」ところはあると思います。

 強いて挙げるとすれば、劇中の「アーツ」の描写はゲーム版を意識しています。基本的に『アークナイツ』は現実的なテーマを扱っている作品なので、アニメの芝居の方向性や音響なども「リアルさ」を意識しています。

 ですが、「アーツ」と「鉱石病」のふたつの要素は、割とリアルではなくファンタジーな要素なんですよね。あのふたつの要素は、割と独立した存在感のあるものだと思います。なので、アーツの描写に関しては、音響さんと「生音を使わない」方向で作り上げています。アーツのSEだけは、完全にデジタルで作ってるんですよね。

渡邉氏:
 他がリアルで統一されているから、アーツの描写は「逆にちょっと浮く」くらいの温度感を狙っています。

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実際の『アークナイツ』のゲーム画面。バトルキャラはデフォルメされた形で描かれている。

渡邉氏:
 やはり元々が「タワーディフェンス」「シミュレーション」というゲームジャンルではあるため、「戦場に指揮官がいて、指導している」……そういう「バトルに戦術があること」は狙って描写していますね。

 1期のレユニオン兵と白兵戦を繰り広げているシーンなんかは、まさにその例だと思います。ただ、レユニオンはどちらかというとテロ組織なので、そこまで強い武器を持った軍隊が出てくるわけではないというか……。

 要はレユニオン兵って、すご腕の部隊が戦っているというよりかは、寄せ集めの兵士たちが戦っているチームなんです。そこの「烏合の衆が頑張ったところで……?」という戦いのリアルさも、意識している部分ですね。

 そして、その戦闘シーンに「アーツ」などのファンタジックなエフェクトが重なることで、やや歪な雰囲気が描けていると思います。この「リアルな描写」と「ファンタジーな描写」の融合による歪さが、上手く他の作品との差別化になっているような気がします。

西川氏:
 レユニオン兵は、いわゆる「雑魚敵」である理由がちゃんとあるんですよね。1期で登場した彼らはその場で声を上げ始めた寄せ集めの部隊なので、特別な戦闘訓練を受けているわけではありません。

 弓の扱いが上手いわけではないし、剣に重心を乗せる方法も学べていない。もしかしたら一部にエリート兵がいるかもしれないけれど、大半は「一般人が暴力を振るっている」ような描写にしています。

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渡邉氏:
 ただ、2期では12話のブレイズのような「オペレーターの個人技」が光っていたりもします。

 そして、アニメ版の戦闘シーンでもうひとつ意識していることがあって……基本的に「戦闘のための戦闘」を避けているんです。ここも、「盛り上がる戦闘シーンですよ!」というサービス的な描写はあまりしていません。

 もちろん戦う時には戦うのですが、そこには命がけで戦っている人たちがいます。戦う必要がある状況だから、戦っている。そもそもロドス自体が、「戦わなくていいのなら、戦わない」ことを徹底している組織ですからね。

──戦闘シーンにおいても、サービスというよりかは必然性を意識しているのですね。

渡邉氏:
 「この辺のシーンが派手じゃないから、ちょっとドンパチ増やそう」といったことは、かなり避けていますね。「お客様に刺激を与えるためだけに作る戦闘シーン」は、避けている形です。もちろんそこも、ロドスの方針などの原作の描写を読み込んだ上で、描いている部分ですね。

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実は2期のメインテーマって、「〇〇と〇」

──少し話が変わるのですが、2期からは「フロストノヴァ」が登場していますよね。彼女は原作でも人気のキャラクターですし、描くのも難しいポジションのキャラだと思います。実際にアニメでフロストノヴァを描くにあたって、なにか演出上の意図などがあればお聞かせください。

西川氏:
 10話の時点だと、やはり「傍から見たフロストノヴァ」……要は、「関係者以外から見たフロストノヴァ」の姿を描く必要がありました。たとえば、10話ではフロストノヴァ以外のスノーデビル小隊のキャラは顔が見えないようになっているんです。
 
 他にも、フロストノヴァを含めたスノーデビル小隊は全員「攻撃する時のかけ声」や「走っている時の息遣い」などを、音響上すべて失くす形で演出しています。だから、ロドスのメンバーにとって、「本当に人間なのかわからない存在」「理解のできない対象」として描写しています。

 完全に敵というか……「これはもう殺し合うしかない対象なんじゃないか」と感じさせるような演出になっています。でもまぁ、ここはまだ仕込みの部分ですので(笑)。

渡邉氏:
 実は2期には、「組織と個」というテーマがあるんです。アーミヤ、フロストノヴァ、ウェイ、チェン……中間管理職のキャラも含めて、「組織のリーダー」が主軸になって描かれるエピソードが多くなっています。

 そしてフロストノヴァも、「組織のリーダーとして戦っている」ことを描写する必要がありました。最初に敵対した時点では「強い敵」としか描かれていないフロストノヴァですが、その実どうなのかということを2期では………って、これ以上はネタバレになっちゃいそうですね(笑)。

西川氏:
 10話の最中にも少し「匂わせ」的な描写は入れているのですが、あくまでフロストノヴァとのファーストインプレッションとしてああいう演出になっていますね。2期の前半は、フロストノヴァ以外にも全体的にそういう演出を入れています。

渡邉氏:
 もちろん我々の中で「このキャラがどんな意図で・どういう心持ちで戦っているのか」ということは把握していますが、10話のフロストノヴァは意図的にそこを隠しているような形です。そこの「ズレ」を、残りの話数で埋めていくような形になります。

 むしろ、その「ズレ」をより感じていただけた方が、後半戦を楽しめると思います。

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──おふたりはゲームPVの頃から『アークナイツ』に関わられていましたよね。
 テレビアニメ版も含めると、もう3~4年ほど関わられているのでしょうか?

渡邉氏:
 あぁ、もうそれくらいになりますよね……。

西川氏:
 おそらく3年半以上は関わっていると思います。

──やはりそのくらい長く携われているのですね。おふたりが監督・副監督のポジションとしてアニメシリーズを制作されるのは今作が初めてだとお聞きしたのですが、実際に監督としてお仕事をする以前と以降では、なにか明確に視点などが変わったりするのでしょうか?

渡邉氏:
 そこはそれこそ2期の「組織と個」のテーマに直結してくる話というか……これまでのアニメ制作は、やはり誰かしらのディレクションに従っていることが多かったんです。ところが、監督のポジションになると、もう制作する物のすべてに自分で責任を持たなきゃいけません。もう、私がやらかすとみんながエラい目に遭うという……(苦笑)。

 だからこそ、制作における作業内容の解像度が飛躍的に上がっているような感覚があります。このプレッシャーがあるからこそ、逆に「やれること」の幅が広がってきています。「責任感」と「解像度」の2点に関して、監督というポジションは全く次元の違うところにいるんだろうな、というのは本当に感じています。
 
西川氏:
 監督のポジションになると、他のスタッフにも「あと1日で片付けてほしい」と言わなきゃいけなくて……(笑)。

渡邉氏:
 そう! そういうこと言わなきゃいけないんですよ!(笑)

一同:
 (笑)。

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渡邉氏が脚本・絵コンテ、西川氏が作画監督を務めた1周年記念アニメ「Holy Knight Light」。YouTubeより

アークナイツは、「暗い引き出し」を全部引っ張り出すことができる

──最後に、おふたりにとって「アークナイツがどんな存在なのか」をお聞かせください。

西川氏:
 いわゆる「ポストアポカリプス」系の作品は多くあると思うのですが……その中で『アークナイツ』の特殊なところは、「先を描くこと」だと思います。

 そこまで現実と変わらない状況下で生きている人たちが、過酷な運命に遭ったり、ひどい目に遭ったりする……。そういったことは、他の作品でもよく描かれますよね。ただ、『アークナイツ』は「その運命に対して、どう立ち向かうのか」「その環境に対して、どう結論を出すのか」という、先の部分まで描いているんです。

 そこの「作品内のキャラクターに対する解像度」が、すごく高い作品だと思います。

 そして自分は『アークナイツ』を始めるまで、そこまで小説などを読まなかったのですが……そもそもゲーム自体がかなりテキストを読み込む必要があるので、この作品に触れてから「テキストを読み込む」習慣がついたような感覚がありますね(笑)。「文字を読むこと」に対して、解像度を上げてくれるきっかけになった作品です。

渡邊氏:
 作品に「演出の引き出し」があったとして、明るい引き出しが多い作品もあれば、暗い引き出しが多い作品もあると思います。そして『アークナイツ』は、そこの「暗い引き出し」を全部引っ張り出してもいい作品なんです。

 まぁ、若干やりすぎて原作(Hypergryph)の方々から「やりすぎです!」って怒られたこともあるんですけど……(笑)。

一同:
 (笑)。

渡邉氏:
 要は、それぐらいのことをやってもちゃんと受け止めてくれる「懐の深さ」がある作品なんです。世界観や設定の奥深さが、演出をするにあたっての大きな受け皿になってくれていると言いますか。

 だからこそ、アニメスタッフも全力をぶつけることができる。こちらの全力をぶつけてもしっかり反応が返ってくるし、やればやっただけ返してくれる「大きさ」のある作品だと思います。

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──たしかに『アークナイツ』は、世界観が分厚いからこそ「掘れるだけ掘れる」ところはありそうです。

渡邉氏:
 どこまで掘っていっても、細かいところを考える余地があるんですよね。
 逆を言えば、制作中に「あれ?ここはちょっと薄いかも……?」と思うことがないんです。

西川氏:
 世界観が分厚すぎるがゆえに、「アニメの尺だと出しきれない部分」なんかもあったりしますよね。逆に「もうちょいここやりたかったなぁ……」みたいな(笑)。

渡邉氏:
 そうそう、ちょっとスタッフ的には「ぐぬぬ……!」となっているポイントが……(笑)。

 それこそ本当に細かい部分までやり出してしまうと、アニメの風呂敷の中には収まらなくなってしまうんですよね。あくまで「レユニオン編」というひとつの枠組みに留める必要があります。

西川氏:
 本当に全部を拾い始めると、ストーリーが散りすぎてしまいますからね。「今はちょっとこれは忘れよう!」と渋々カットしているところもあります。そのくらい世界観も深いですし、こちらが「やっちゃえやっちゃえ!」と作ってしまっても許される懐の広さがあると思います。

渡邉氏:
 とにかく、「作品の強度」がすごく高い作品ですよね。
 アニメを制作する側としても、心強い原作です。(了)


 インタビュー中に語られた中で個人的に驚いたのは、「キャラクターになりきる」ということ。1期の頃から感じていた「ゲームの中では立ち絵でしか描かれていなかったキャラが、映像になっている」というあの感覚は、その方法で描かれていたのか! ……と、純粋にいちファンとして驚きました。

 そして、何よりもおふたり(アニメ制作陣)が「アークナイツのテキストを読み込んでいる」ことも、インタビュー中ひしひしと伝わってきました。テキストを映像化するにあたって、徹底的に原作を読み込む。そこまで解像度を高めたうえで、『アークナイツ』という巨大な作品を解釈する。

 取材全体を通して「あぁ、この解像度の高さで作られたアニメだから、あの精度で映像化できていたのだな」と、1期を視聴していた頃の感覚に納得しました。これからも楽しみです。

 そして……第2期『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』は現在好評放送中! ここから後半戦にかけて、よりストーリーは盛り上がりを見せます。これほどの解像度で作られたアニメ版、ぜひ最後までご覧ください!

 同時に掲載されている黒沢ともよさんのインタビューでも、「1期を経たアーミヤの変化」「アーミヤから見たフロストノヴァ」などについて語られています。こちらも合わせて、ご覧ください。
 

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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