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SRPGへの愛と熱を詰め込んだ果てに、10年かかった。『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史

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「10年」。

それは、小学生が社会人になっていてもおかしくない期間。
生まれたての犬が老いていてもおかしくない時間。
すべてのゲーム機がガラっと一新されてもおかしくない年月。

とにかく、「10年」はそのくらい時代が変わるような期間だと思う。そして今回紹介するのは、なんとその「10年」の年月をかけて制作されたゲームである。

『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史_001
公式サイトより

そう、アトラス×ヴァニラウェアが制作した『ユニコーンオーバーロード』

2024年の今に「王道のSRPG」に挑戦したタイトルとして発売前から話題を呼んでいる今作だが、なんとその開発期間はピッタリ「10年」に及ぶらしい。

『ドラゴンズクラウン』や『十三機兵防衛圏』などの過去タイトルでも、なんだか常軌を逸した作りこみをしていることでもお馴染みのヴァニラウェアだが……今作はとうとう「行くところまで行ってしまった」ようだ。

そんな情報を聞きつけた編集部は、今作の開発チームへとインタビューを実施。
今作のディレクターを務めた野間崇史氏、メインプランナーを務めた中西渉氏、アトラス側でプロデューサーを務めた山本晃康氏に、いろいろとお話を伺った。というか、単刀直入に「なにがどうなって10年もかかったのか」を聞いてきてしまった。

これから語られるのは、いろいろな意味で普通じゃありえない「ヴァニラ流のゲーム作り」

会社の勤怠システムとディレクターを兼任したり、一度用意したモデルを全部作り直したり、キャラのパーツ数がひとりあたり100個を越えていたり、一度書いたシナリオを全部捨てたり……そのゲーム作りに対する「熱意」に圧倒されると同時に、一部の人は悶絶してしまうような内容かもしれない。

だけど、それ以上に『ユニコーンオーバーロード』がどれだけの愛と研鑽を持って作られたゲームなのかも、よくわかるはず。10年かけて作り上げられた「夢」が、ここにはある。ヴァニラファンの方も、今作がちょっと気になっている方も、ぜひこの「10年分の重み」を、とくと味わってほしい。

聞き手/TAITAIジスマロック
編集/実存


ディレクターとヴァニラウェアの勤怠システムを兼任しています

──本日はよろしくお願いします。今回のインタビューは10年かけて作り込んだ『ユニコーンオーバーロード』の開発中に、どんなドラマや試行錯誤があったのかをお聞きできればと思います。まず今作における、お三方の役割をお聞かせください。

山本晃康氏(以下、山本氏):
『ユニコーンオーバーロード』では、アトラスからプロデューサーという肩書でお仕事させていただいております。簡単に仕事内容を説明すると、ヴァニラウェア社とアトラス社をつなぐ窓口の業務を担当させていただきました。

そして今作は、もしかしたらみなさん「ヴァニラウェアの新規タイトル」ということでポスト『十三機兵防衛圏』のタイトルを期待されているかもしれません。ですが、当初からコンセプトとしてはポスト『ドラゴンズクラウン』のタイトルでした。

つまり、ベルトスクロールアクションにネットワーク要素を噛み合わせた『ドラゴンズクラウン』のように、「SRPGにネットワーク要素を足したら、他にないものができるんじゃないか?」というコンセプトで作られたのが、『ユニコーンオーバーロード』です。

そして、なぜここに至ったのかを……ぜひ10年前まで遡り、野間さんと中西さんに語っていただければと思います(笑)。

野間崇史氏(以下、野間氏):
元々はプログラマーでしたが、今作ではディレクションやキャラクターデザインを担当しつつ、ストーリーやプログラムの監修なども担当しています。ヴァニラウェアの過去タイトルで言うと、『朧村正』の敵プログラムや『グランナイツヒストリー』のシステム周りとサーバー設計などを担当していました。

『ドラゴンズクラウン』の開発が終わり、ちょうど『朧村正』のDLCを作っていたのと同時期に『ユニコーンオーバーロード』の企画が立ちあがりました。

あの時、神谷(盛治)さん【※】が「プロジェクトを2ライン動かしたい」と言われていて(笑)。そこで「SRPG作りたいって言ってたじゃん。絵が描けるんだからやりなよ」という鶴の一声で『ユニコーンオーバーロード』の企画が始まりましたね。

※「神谷盛治」
ヴァニラウェア有限会社の代表取締役。『オーディンスフィア』や『十三機兵防衛圏』など、数多くのヴァニラタイトルに携わる。ディレクター、シナリオライター、キャラクターデザイナーなど、開発における多くの役割を担当していることでもお馴染み。

──そういった経緯があったんですね。

野間氏:
企画当初は『グランナイツヒストリー』にかなり近かったのですが、その要素は制作過程で変化していきました。『グランナイツヒストリー』は自社でサーバーを持たないと実現できないようなシステムでオンライン対戦を実装していたのですが、今作は少し違います。

各プラットフォームで用意されている「ランキングシステム」を使用させていただき、通信対戦の遊びとして落とし込むような形にしました。

『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史_002

中西渉氏(以下、中西氏):
自分はヴァニラウェアに入社したての頃は『くまたんち』のデバッグを手伝ったり、『朧村正』のステージ設計や敵の配置、刀の名前をつけたりしていました。

そこから『ドラゴンズクラウン』や『グランナイツヒストリー』に携わったのち、野間さんと同じように『朧村正』のDLCを制作しつつ、『ユニコーンオーバーロード』の企画書を書きつつ、『オーディンスフィア レイヴスラシル』の仕様書を書きつつ……時期、三重生活みたいになっている時期がありましたね(笑)。

『朧村正』のDLCを終わらせたあと『オーディンスフィア レイヴスラシル』のメインプランナーを担当し、その裏で『ユニコーンオーバーロード』のことを少しずつ考えていました。今作の企画が本格的に動き始めたのは、その2作が終わってからでしたね。

──やはりヴァニラウェアは、スタッフのみなさんひとりひとりが多くの役職を担当していますよね。プログラマーやプランナーよりもデザイナーが多い中で、それぞれのプロジェクトが回っているのは能力の高い方が集まっているんだろうなと。

野間氏:
中西くんは会社の会計もやっているし、僕はなぜか勤怠のシステムを作って保守しています。それ以外にも、みんながリモートワークできるように自腹でドメイン名を取得して……「何してんの俺?」と(笑)。ちなみに、今はきちんとドメイン代は会社に請求しています!

中西氏:
はい、なぜか会社の事務的なことも兼任していますね。

一同:
(笑)。

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──神谷さんの方から「ヴァニラウェア内でプロジェクトを2ライン動かしたい」との話が出ていたそうですが、片方で『十三機兵防衛圏』を作り、もう片方で『ユニコーンオーバーロード』を進めているような状況だったのでしょうか。

野間氏:
全体の人数としては3分の2が『十三機兵防衛圏』に参加していて、『ユニコーンオーバーロード』は3分の1もいないくらいでしたね。

中西氏:
当初の『ユニコーンオーバーロード』は、ディレクターが1人、企画が2人、プログラマーが2人、デザイナーが3人、背景デザイナーが2人の合計10人ぐらいで制作を進めていたと思います。そこから新卒の人が少し入ってくれたりしつつ、『十三機兵防衛圏』が終わったあとは全社体制になりました。

本当に初期の頃は、背景担当の前田さん・野間さん・自分の3人で企画書を書いたり、試作物を作っていた時期もありましたね。

野間氏:
本格的に開発がスタートしたのは『オーディンスフィア レイヴスラシル』が完成してからで、そこから1年くらい経った2016~2017年あたりにはバトル周りが動く形にはなっていたのですが……そういう「目に見える範囲の仕組み」ができているように見えるまでは割と早いんですよね。

つまり、そこからリソースを揃えたり、シナリオを詰めていく部分に時間がかかります。ゲーム開発は「一見、なんとなくできている」状態からが一番長いです(笑)。

『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史_004
公式サイトより

「企画書の絵がそのまま動いたらいいのに」が、命運を分けた

──『ユニコーンオーバーロード』の企画が立ちあがったのが2014年くらいだとはお聞きしているのですが、当初の企画から現在に至るまでの間に、ゲームの形などは変わっているのでしょうか?

中西氏:
企画としては、1990年代の名作SRPGをイメージしたリアルタイム進行と、何人かのユニットでパーティーを組むスタイルがベースとなっていました。その土台の部分は当初から変わっていません。

野間氏:
それこそ当初のキャラクターデザインはすべてデフォルメで描いていましたし、戦闘画面も「斜め上から見た」画面でしたね。

ただ、企画書の表紙には頭身の高い絵を描いていたのですが、それを見た神谷さんが「この絵をそのまま動かしたらいいんじゃない?」と仰られて……。こちらはもう「え?すごい工数かかりますけど、いいんですか?」と半信半疑な状態でした。

そして実際に頭身を上げて制作を進めていた頃に、なぜか当の神谷さんから「野間くんが頭身を上げたからみんな苦労しているよ」とか言われました。

一同:
(笑)。

中西氏:
ただ、結果的に現在の横並びでインパクトのある絵面が実現できましたね。

──ちなみに、「企画書の表紙に描いた絵」とはどういったものなのでしょう?

野間氏:
今作のタイトル画面で使っているイラストですね。
企画書の表紙に描いた絵が、ほぼそのままタイトル画面に使われています。
本当に初期の企画書ではもう少し違うキャラも描いてあったのですが、ゲーム内容に合わせて少しずつ直していきました。

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こちらが今作のタイトル画面。このイラストが、『ユニコーンオーバーロード』の企画書の冒頭に使われていたという。My Nintendo Storeより
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こちらは、『ユニコーンオーバーロード』制作初期の企画書に書かれていた「デフォルメを想定していた頃のキャラ」となっている。この後の話題に深く関わっているため、ぜひじっくりと見ていただきたい。

──ヴァニラウェアの企画書は、「絵」の時点で既に面白そうですよね。ちなみに、このイラストは野間さんが描かれたものなのでしょうか?

野間氏:
そうですね。「デザイナーの気持ちを理解したい」という一心から、通勤時間の間に絵を練習していた時期があり、イラストも描けます。

ヴァニラウェアに入る前は毎日4時間くらいかけて通勤していたので、電車の中がかなり暇だったこともあり……。そして絵を描き始めて2年くらい経ち、カードゲームのイラストの仕事を受けたりもしました。

中西氏:
ちなみに、初期のキャラの等身はこんな感じ(上記画像)でした。

──このデフォルメのグラフィックは、一度作ってから捨ててしまったのでしょうか?

野間氏:
「ソルジャー」だけは実験的に一度アニメーションを作ってもらったのですが、その時点でやめました。個人的には結構気に入ってはいたのですが、あとでお話するように全体的な絵作りを決める際に「まぁ、まだ初期だし……」と思い、捨てることにしました。

中西氏:
たしかこのグラフィックですと、背景的な都合もあまり合わなかったんですよね。

基本的に見下ろすような形になるので、多重スクロールがやりにくかったり、画面のほとんどを地面が占めてしまい、絵作りとしても良さを出しにくかったりします。なので、開発内でも「横向きにした方が空も描けるし、絵作りの幅も広がるのでは?」という意見が出ていました。

──つまり、現在の等身大のグラフィックを作る時は「デフォルメ時代から縦に伸ばす」ようなイメージだったのでしょうか。

野間氏:
そうですね。「デフォルメから頭身を上げる」ことにしたのはいいのですが、そのせいでディティールが足りなくて……。等身大用に一度デザインをリファインする必要が出てきて、悶絶しました。

初期案は元々デフォルメだから許されていたデザインでもあったので、パーツの描き込みなどが足りておらず、いくつかパーツを増やさないとデザインとして成り立たなくなってしまったんですよね。

──「元々等身大のキャラクターをデフォルメする」ケースはよくありますが、その逆の「デフォルメから等身大にする」パターンは中々ないですよね。

野間氏:
ちなみに、いま広報で展開しているキャラの立ち絵は一番最後に描いたものなんです。「順番真逆でしょ!?」という(笑)。

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公式サイトより

──しかし、作り方がイレギュラーだらけですね。さきほど見せていただいたデフォルメ時代のキャラは、等身大にする前に一式作られていたということなのでしょうか?

野間氏:
全てではないですが、ソルジャーやナイトといった基本的なクラスは一通り描いていました。

ただ、当初は斜め見下ろし型にする予定だったので、デフォルメキャラでも「奥向き」と「手前向き」の2パターンを用意する必要があり、それがデザイナーさんへの負荷にもなるんですよね。単純に2倍のアニメーションを作らないといけなくなるので……。ですが、横向きの画面にすることで「左右反転させるだけ」で済みました。

──そのデフォルメ時代のモデルは再利用などはされていないのでしょうか? フィールド上で動いているキャラは、少し頭身が低めになっていましたよね。

野間氏:
いえ、フィールドで動いているものはさらにもう一度デザインし直されています。
僕自身、海外のTRPGで用いるようなメタルフィギュアが好きなので、フィールドでのちびキャラはメタルフィギュア風にしてみました。ですが、「色が地味」だとか「なんで色がついていないんですか?」とかたまに言われたりもして……。

一同:
(笑)。

野間氏:
もしかしたら最初のデフォルメモデルをちびキャラとして使えばよかったのかもしれませんが、カラフルになると敵味方の区別も付きにくくなるので、これで良かったと思っています。最終的にはデザイナーさんの頑張りもあって、ステージやフィールドで生き生きと動く賑やかな感じになりましたね。メタルとは一体……?(笑)

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現在のキャラの等身はデフォルメではなく、リアルな頭身となっている。

──今作はキャラクターの総数もすごいことになっているとお聞きしたのですが、実際にはどのくらいの人数になっているのでしょうか?

中西氏:
仲間になるキャラですと、60人以上は用意されています。

最初からそこまで多く用意しようとしていたのではなく、最初は20~30人くらいの想定でした。ですが、開発を進めるうちに登場するクラスが増えたり、敵として倒す予定だったキャラが仲間になったりと、徐々に数が膨らんでいきました。ある意味、「10年」という期間があったからこそだと思います。

野間氏:
途中まで天使もいませんでしたね。「天使……作れるから作るか……」みたいなノリでしたが、『十三機兵防衛圏』の開発を終えたスタッフにお願いして、なんとか作ることができました。

──今作のネームドキャラはほぼ全員ボイス付きとのことですが、これほどキャラクター数が多くなると、そもそもの「アフレコ」もすごく大変だったのではないでしょうか?

中西氏:
それはもう本当に……!
本作はキャラクターの数もさることながら、雇用したキャラや汎用の敵キャラ用のバリエーション(6性格×3種×男女の36パターン)もあるので、1ヶ月半東京に住み込みで収録に臨みました。

怒涛の1ヶ月半で何もかもが大変でしたが、終わってみれば一瞬の出来事だったようで、もうすでに楽しかった思い出みたいになっています……(笑)。収録に携わったスタジオマウスの方々やベイシスケイプさん、そして声優の皆さんにはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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公式サイトより

自分が好きなデザインは、自分で作るしかない

──ここで、『ユニコーンオーバーロード』の10年にわたる開発を改めて時系列順にお聞きしていければと思います。企画が立ち上がって最初の1~2年は、具体的に何をされていたのでしょうか?

野間氏:
さきほども少し触れた通り、並行で別のゲームの作業も進めていたので、最初の1~2年は合間に作業をするような感じでした。デザインを描いては少し見せたり、誰かに相談したり……。

中西氏:
試しで作っていた最初期は「Unity」を使っていましたよね。

野間氏:
そうそう、前田くんが用意してくれたそれっぽいステージ画面を、僕が適当にUnityで試作版的にスマホに出力してみんなに見せていたりしました。時間によって流れる雲を配置して「時間経過」が正常に動作するのかを試したり、シェーダーを作ったり……最初期の試作版から、いろいろなテストをしていました。

見た目の実験をUnityで行い、実際に本番の開発に入る時には自社のフレームワークで作り直した形ですね。一応Unityでも3Dでオブジェクトを配置したりしたのですが、結局どれも使わなかったです。

中西氏:
あの頃のものは、何ひとつ残っていないですね……(笑)。

『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史_010

──これまでのお話を聞いていて、『ドラゴンズクラウン』に「あの時のベルトスクロールアクションを今の技術で作る」というコンセプトがあったように、今作にも「あの時のSRPGを今の技術で作り込んだらどうなるのか」という狙いがあるように感じます。そのアイデアを形にしていくにあたり、自分たちならではのコンセプトやビジョンはどのように盛り込んでいったのでしょうか。

中西氏:
たしかに、「自分たちならではのSRPGを作りたかった」ということは今作の根幹にあります。当時遊んだ名作の数々の良さを活かしつつ、ひとつひとつの要素やシステムをどうすれば今の時代にも通用し楽しんでもらえるのかというのを考えるのは、大変でしたがやりがいもあり設計していて楽しかったです(笑)。

野間氏:
デザイン方面でいうと、1990年代の当時好きだった「ベタなファンタジー」を目指そうと思ったんです。具体的には、「日本風ファンタジーとシックな雰囲気の間」が好みなのですが、自分が好きなデザインは自分で作るしかないので、とにかく好きなものを詰め込もうとデザインしていきましたね。

ただ実際にやってみて思ったのは、「世界観を作るのが一番大変」ということです。真似事から始まってはいますが、それでもゼロイチで世界観を起こすのは本当に大変でした。

当初はモンスターも構想していたのですが、戦記物として世界観が固まっていったこともあり、「過去に魔物はいたけど、現在はいない」という設定にしました。エルフや天使も「なんとなく存在している」のではなく、「実はこんな理由があって存在している」という理屈を用意してみたかったんです。

こういう世界観をゼロイチで作り上げていく作業をもう一回やれるかと言われると、正直できないなと思います。自分がやりたいものを一度作ったからこそ、どうしても「これを捨てるのはもったいないな……」と思ってしまいますね。

山本氏:
あと、当初からあった「シミュレーションRPG×ネットワーク要素」という核のアイデアは、まったくブレていないですよね。

その結果として、カードゲームの「デッキを組むような楽しさ」を提供するシミュレーションRPGという、かなりユニークな作品が完成したと思います。それがこのボリュームと完成度でまとまったのは、野間さんと中西さんの人生を懸けた意地があったからこそだと思います。

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2021年、一度完成したシナリオを全部捨てるに至るまで

──それほどの長い期間『ユニコーンオーバーロード』を制作する中で、大きな方向転換などはあったりしたのでしょうか?

中西氏:
かなり後になってから、大きめの方向転換がありましたね……。
現在の『ユニコーンオーバーロード』はプレイヤーが自由にルートやステージを選択できるのですが、実は2021年くらいまでは1本道のシナリオだったんです。自由に動けるフィールドもあるけど、あくまで「幕間」として用意している感じでした。

野間氏:
あの頃のフィールドは「ステージとステージの間を繋ぐだけの場所」でした。制限がかかっているから自由に移動もできないし、当然行く場所も決まっています。単なる編成パート・セットアップ休憩みたいな感じでした。

そして、僕がシナリオを書く兼ね合いでその辺はすごく苦労していて……1年くらいかけてシナリオを最後まで書いていたんですが、結局全部捨ててしまったんです。

──「シナリオとフィールドのシステムが上手くかみ合わなかった」ということでしょうか?

野間氏:
要は、シナリオで「次に戦うための理由付け」ばかり話している状態だったんです。

次に向かうステージが決まっているので、シナリオでも「なぜここに行くのか」「誰と戦わないといけないのか」といったことばかり話していました。だから、自分でプレイしていても、「2ルートあるのになんで北側の安全な方に行かないの?」と思ってしまったんですよ。

たとえば、ゲーム的には「次は砂漠のステージへ行く」というのが決まっていても、プレイヤー的にはわざわざその砂漠に行く必要はないんですよね。なので、キャラクターが「その場所へ行く理由や、他の道を選べない理由」を説明し続けているようなシナリオになってしまいました。

中西氏:
一通り最後まで作り切ったものの、「こりゃダメだ」とナシにして……(苦笑)。

野間氏:
そこで「これなら全部自由にした方が面白くない?」と思い立ちました。

ただ、一度ナシにしつつも、再利用可能なシナリオはリサイクルしています。
たとえば、「この場所に王子がいて、助ける必要がある」といったシチュエーション自体はフィールドに残しつつ、その出来事をいつどうするかはプレイヤー次第……という形にしました。無視してもいいし、気になるならやってもいい。そうした方が、ゲーム的なテンポもいいし、シナリオも言い訳がましくないです。

というか、プレイヤーの目線からすると「一定のシチュエーションがある」という事実があるだけで、それに立ち向かうかどうかは自分が決めたいはずですよね。むしろ、それこそが「ゲーム性」だよなと思いました。ただ、それに気づいたのがちょっと遅かったという……。

一同:
(笑)。

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現在の『ユニコーンオーバーロード』のフィールドは、プレイヤーが自由に進むルートなどを選択することができるシステムとなっている。

──ちょうど3年くらい前にフィールドに関する大きな方向転換があったんですね。

野間氏:
「フィールドを作り込んだがゆえ」に気づいた部分もあります。シナリオ的な問題もあるのですが、単純にもったいない使い方をしているなと思いました。

既にあの頃の時点でフィールドは「世界地図」として繋がっていたので、余計に矛盾が目立つんですよ。フィールド上では明らかに突破できるルートがいくつか見えているのに、シナリオでは「○○平原に20万の軍隊がいるから行けない」と言われるんです。作っている側も「嘘やん!」と思うんですよ(笑)。

つまり、「フィールドを作り込みすぎてしまったせいで、シナリオ上の嘘がバレる」という状態になっていたんです。そこで、改めて「嘘をつくのはやめよう」と思いました。

中西氏:
なので、「せっかく広大なフィールドがあるんだから、これをちゃんと活かそう」という話になったんです。この方向転換が、現在の形にかなり影響を与えています。

ただ、この方針に切り替える前に「本当に変えて大丈夫なのか」という実験を1ヶ月ほど行いました。一部の国だけを現在の「自由に探索できる」形にして試してみたところ……こっちの方が面白かったんですよね。開発的にも「自由にやれた方が絶対面白い」ことが判明し、「もういい、全部捨てよう」と。

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──「フィールド」に関連するのですが、今作はバトルやドラマ中に映っている「背景」にもこだわりを感じました。

野間氏:
最初はそこまで背景のバリエーションは多くなかったのですが、フィールドができあがってくるにつれ、「これだと地域差が絶対必要だよね」という話になりました。たとえばテントが張っている「駐屯地」は、同じ駐屯地でも「雪国なのか砂漠なのか」で、その背景は全く変わってきますよね。

他にも町などといった施設は国によって建築様式が違っていたり……それぞれの土地柄に合わせた結果として、背景のバリエーションもかなり増えました。

中西氏:
種類だけで言うと、色違いやバリエーション含めて180種類ぐらいになっています。

ちなみに、歩き回っている時のフィールドグラフィックも、背景の前田さんがほぼひとりで描いています。「90年代のSRPGのグラフィックを現代に蘇らせた」ような表現を目指し、ノスタルジックでありながらも今風なグラフィックに作り上げられました。

野間氏:
あと、町の背景が出来たタイミングで「支配されている世界なのに、こんなに明るくていいのか?」という疑問が指摘され、最終的に各地の町がボロボロになりました。前田くんに「これから町をボロボロにしたい」と伝えたら、「えっ、町を全部壊すんですか!?」と困惑していましたね(笑)。それが後の「復興」システムに繋がりました。

──それほど背景が多くなると、「ここの地域に対してはこの背景」といった設定もすごく緻密に作られていそうです。

中西氏:
フィールドのコリジョンを作ることもかなり大変で……ドットを描くように手作業で塗っていきました。

野間氏:
結果として、戦闘中に飽きが来ない感じにはなっているかなと思います。今作の世界観は「国」がハッキリとわかれていて、国が変わると背景も音楽も変わります。だから、実は音楽的にもベイシスケイプさんにはすごい数を担当していただいて……結果的に90曲くらいになっています。

──たしかに、SRPGにおいて「戦闘に飽きがこない」のは大切ですよね。

野間氏:
ただ、慣れてきた人のために「戦闘アニメのスキップ」も用意しています。最初は「スキップさせない方がいいんじゃないか」という話も出ていたのですが、「スキップのないシミュレーションゲームは流石にマズいでしょ!?」と判断しました。

ですが、スキップし続けていると、部隊が負け始めた時に「勝敗の理由」がわからなくなります。どんなバトルが繰り広げられているのかを把握しておくことも重要です。ここの「強制で見せれば勝ち方がわかるけど、バトルスキップも用意しておきたい」という点は、かなり悩みましたね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
転生したらスポンジだった件
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デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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