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日本初『ブルーアーカイブ』独占インタビュー: キャラクターは人間であり、作家は組織であり、虚構は真実であること

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チームで作りあげたブルーアーカイブ

──テキストボックスを用いた会話劇を盛り上げるのが、スチルや立ち絵といったアートワークです。『ブルアカ』の魅力的な物語体験を作り上げるうえで、誰が、どのような順序で仕上げているのでしょうか?

ヤン氏:
基本的には、基本となるシナリオから作ります。まず、私の方からこういう物語にしたいという大まかなプロットをチームで共有し、そのうえで必要な素材を各チームに要請します。

ただ時折、アートディレクターのキム・インさんから、「このシーンにはもっと絵を追加する必要があるのでは」と、逆に提案されることもあります。特に最終編ではアートディレクターがテキストを読み込んだうえで追加してくださったものも多かったです。いつも助けられてばかりで、感謝の念にたえません。

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──キャラクターデザインの制作プロセスについてはどうでしょう? 『ブルアカ』には多彩なデザインのキャラクターが出演します。ああした細密なデザインを施すにあたって、どのようにデザインチームとコミュニケーションを図っているのか、ぜひお教え願いたいです。

ヤン氏:
キャラデザについては、キャラクターごとに作り方が全く異なるため、定められたプロセスというのはありません。私たちのチームでは、基本的に領域ごとのオタク……つまり、絵を描くオタク、文章を書くオタク、もろもろのオタクが集まって侃々諤々、論議を重ねます。

イラストレーターがまずデザインしてこのキャラクターに必要なコンセプトはなにかと意見を仰ぐこともあるし、さきに私がコンセプトを決めてからイラストに必要なデザインを伝えることもある。

たとえば、便利屋68のキャラクターたちはまずDoReMiさんがデザインをして、その後のキャラを私が設定しました。DoReMiさんとは、そういうふうに仕事をすることが多いですね。

プロット上の味方や敵の必要性からキャラクターが作られることもあります。Mx2Jさんとはそうやって作っていますね。黒服は私がプロット上の必要性からお願いして出来上がったケースです。ネルやツルギもですね。

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上がってきたキャラクターデザインによって根本からプロットが変わることもあります。

これはあるキャラのケースなのですが、デザイナーさんからとても魅力的なキャラクターデザインが提出され、それに魅了された私が「この子たちを出す話にしたい!」とプロットを変え、さらに触発された3Dアニメーターさんが「この子たちの動く姿を作ってみせる!」と奮起し、戦闘担当の方が「ならば自分もこの子たちに合う戦闘シーンを創りだしてみせる」と戦闘部分を作り込む。そんな熱意のリレーが自然発生的に沸いたこともありました。

キャラクターの魅力の由来を特定することは不可能です。「この子をこんなに魅力的にしてくれた功労者は誰ですか?」と訊かれても、関わったスタッフが多すぎるために特定できないのです。
その魅力自体、あるときは意図されて生み出されたものであるし、あるときはほんとうに不意にできた偶然の産物でもあります。

結局、良いコンテンツづくりのためにもっとも重要なのは、方法論ではなく、どのような人々が集まって作るかなのでしょう。これはすべてのコンテンツ、すべてのプロダクトにあてはまります。クリエイションはシステム化することで効率的にできはするのですが、クオリティだけはシステムに還元できません。

強いて言えば、私たちのチームはみな互いの専門領域をリスペクトしあっていることで、魅力的なキャラクターを作り出せているのでしょう。繰り返しになりますが、ほんとうにすばらしいスタッフたちに恵まれたと感じています。

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──もうひとつ、魅力的なのがBGMです。こちらはどのように作っているのでしょうか?

ヤン氏:
まず、BGMは総括プロデューサーのキム・ヨンハさんが Kawaii Bass や Kawaii Future Baseでいこうと大枠を決めました。その後は私がミュージックディレクターであるミツキヨ(Mitsukiyo)さんとともに詳細を詰めていきました。ミツキヨさんは自身でも作曲したり、他の作曲家に発注したりするポジションです。

私はシナリオにおけるBGMの役割をとても重要視しています。BGMは物語のなかで感情を喚起するからです。たとえば〈エデン条約編〉で流れるタイトルミュージック、最終編で流れる「Aoharu」のアレンジバージョンなどは私の意図した形で作ったものを継続して使用してきました。シロコとシロコ*テラーが覆面を渡すときに流れる《Welcome School》などもそうです。

なかでも個人的にもっとも印象深いのは最終編で流れる「優しさの記憶」です。プレイヤーが絶対スキップしないエンドクレジットを作ってやろうと、思いがけないタイミングで曲とクレジットを流しました。これにより、プレイヤーに物語の完成形を示せたと思います。

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──BGMといえば《Unwelcome School》はアルの登場ソングとして出囃子みたいになっていておもしろいですよね。あれはどういった意図のもと作られた曲だったんですか?

ヤン氏:
《Unwelcome School》は最初、ギャグシーンに必要なBGMとして作りました。ところが、あまりにもアルというキャラクターと相性が良かったため、もはやアルのためのBGMのようになってしまいました。

──なるほど。ここまでの話を聞く限り、各部門との綿密な意思疎通と連携の上に『ブルアカ』というひとつの作品ができあがっているわけですね。

ヤン氏:
そうですね。最後に、私の役割について話しましょう。シナリオライターとしての私ができる最大の貢献は「ビジョンを提示すること」です。
つまり、今後のシナリオ展開に関するビジョン……今ある物語が今後、どのように展開していき、どのような結末を迎えるのか。そうしたビジョンを示すことでIPの未来をスタッフやファンと共有できる。これが私の役割です。

パートに応じて、私自身がテキストを書く場合もあります。しかし、私もシナリオディレクターとしてさまざまな会議に出席したり、スタッフとの意思の調整もはからなければいけません。そうなると、テキストを書く量も落ちてくる。

以前は休日出勤してでも生産量を増やそうとがんばっていたのですが、無理をしても疲労が重なるだけで、今度は平日にろくに執筆できなくなる。本末転倒ですよね。なので、私が直接作るのではなく、なるべくチームのためにビジョンを提示し、間接的に作品に関わるようになりました。

運営型サービスである以上、私たちは自らの環境や生産量の限界と折り合っていかねばなりません。
ユーザーたちの興味を持続させるためにメインストーリーのアップデートが必要だとわかっていても、アップデートに割く労力を捻出できなければ実現不可能です。そうした現実を織り込んだうえでどれだけ自分たちの理想に近づけられるか……それもまたゲーム作りの一部です。

〈エデン条約編〉は一度作り直されたものだった!?

──さて、さっそくなのですが『ブルアカ』のシナリオについてお聞きしたいと思います。とはいえ『ブルアカ』には魅力的なシーン、物語が多数あり、それらを一つずつ取り上げるお時間もないと思いますから、一つ核心的な部分から取り上げさせてください。

まず、『ブルアカ』人気を確たるものとして決定づけたのが〈エデン条約編〉です。この〈エデン条約編〉はいつごろ着想されたものなのでしょうか?

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ヤン氏:
〈エデン条約編〉の構想自体はサービス開始前から存在していました。ただ、現在ユーザーが読めるものとは全く別の形です。
最初は、トリニティとゲヘナの描写をほぼ同じ分量でやろうとしていました。そうした上で、このふたつの勢力が衝突し、アリウスが出てくる。美食研究会が、今の形よりもっと重要な役割を担っていたこともありましたね。

しかし、サービスがスタートしていろいろ進行していくうちに、どうみても不可能だとわかったんです。あまりに労働量が膨大で、社のリソースではまかないきれませんでしたから。なので、全面的な修整を加え、トリニティを中心に据えた物語として作ることにしました。

リソースはその時点でほぼすべて出揃っていて、そのなかですべて作り直していくのは難しかったのですが、おかげで、物語がコンパクトかつ鮮やかになりました。結局、自分のやりたかったお話は現在の形ですべて達成できたといえます。

──〈エデン条約編〉は全部で4章立てになっていて、1~3章でヒフミたち「補習授業部」の物語が描かれ、いったん決着します。しかし、4章では1~3章で敵対していたサオリとミカが中心となる物語が展開される。この転換は多くのファンの胸を打ちました。第4章を挿れようと思ったきっかけは?

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ヤン氏:
当初、ミカの救済についての話は最終編の序盤に仕込む計画でした。しかし、最終編のシナリオを作っていくなかで、こんなシリアスな話は最終編の序盤にはふさわしくないと考えるようになったんです。

最終編はあくまでシロコ*テラーとプレナパテスに焦点を当てるべきであり、最終編の序盤はライトな雰囲気で始まるからこそクライマックスへの盛り上がりを作れます。そのなかにミカの物語をさしはさむ余地がなかった。

最初はアリウス攻防戦が構想されていました。シャーレとベアトリーチェが戦う構図の中で、アリウス自治区を攻略する戦いです。それを大幅に取捨選択し、ミカとサオリの物語に焦点を当てました。

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──中でも印象に残ったキャラクターが聖園ミカです。彼女は敵対していながら、あるきっかけで自分の生き方を悔やみ、そして「誰かのために祈る」ことを成し遂げる。彼女の人格や成長を考えるにあたって、何を意識しましたか?

ヤン氏:
ミカのもっとも際立った個性──それは自分が何を求めているのか明確に直視することを知らないまま、あるいは拒否したまま、破滅へ向かっていくことです。

これは実は、通常のキャラクタークリエイションの作法から外れています。

すべての敵対者(アンタゴニスト)たちは主人公(プロタゴニスト)たちと衝突しなければなりません。なので彼らの目的と意図、計画、思想などはプレイヤーの目にもはっきりわかるように提示されておかなければいけない。そうでないと、衝突の目的や意味を見失ってしまいます。

ですが、私はナギサなどをサブアンタゴニストとして加えるなどの多層的構造を作り上げ、シナリオを通じてミカの行動原理をミステリとして残しました。これにより、ミカは見た目よりも複雑な内面を見せることができたのです。

キリエにつきましては、第3章のあとでミカをどんな形で救済できるのかを悩んだすえ、もともと私の好きな曲だったキリエを導入しました。

私は無神論者であるため、慈悲を乞うことも、罪を赦すことも、どちらも人間の行為であるべきだと信じています。人間を救済するのは、人間であるべきです。
しかし同時に我々は誰かを赦し、誰かを救う瞬間、われわれはわれわれの内部に宿る可能態として存在する“神聖”に触れられます。

けっきょくのところ、われわれは“公平な苦痛”という情念を捨て去ることができれば、もっと良い存在になるではないか。そうした願いを込めつつ、作り上げたシナリオです。

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編集部
「Indie Intelligence Network」とは『NEEDY GIRL OVERDOSE』『Touhou Luna Nights』などを手がけたインディーゲームレーベル「WSS playground」代表の斉藤大地が、noteで2000人の購読者を集めたゲーム批評媒体「ゲームゼミ」主宰のJiniと共に、インディーゲーム制作に役立つ知見=Intelligenceを獲得するべく100%自腹で世界各地を取材して回る、次世代のゲームジャーナリズムです。

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