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日本初『ブルーアーカイブ』独占インタビュー: キャラクターは人間であり、作家は組織であり、虚構は真実であること

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2024年2月にサービス開始3周年を迎えたNEXON Games(韓国)の『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』

2024年2月Sensor Towerによると世界総売上5億ドルを突破、4月にはTVアニメ『ブルーアーカイブ The Animation』の放送も開始され、ますますファン層を拡大しつつある。

『ブルアカ』の魅力としてファンの誰もが口をそろえて挙げるのは、良質な物語体験だろう。生き生きとしたキャラ描写、心に迫るストーリー、時としてクスッと笑わせるユーモアは国を越え、世界中のファンの心を掴んでいる。

このゲームを創造しているのは、どのような人々なのか? どういったプロセスや連携があの透き通るような世界を可能にしているのか? シナリオ、キャラクター、BGM、それぞれの魅力の由来とは?

こうした疑問を抱え続けていたある日、なんと、我々Indie Intelligence Network取材チームは、ソウルにある NEXON Games 本社にて、『ブルアカ』制作チームをもっとも知悉するひとりの人物に取材する許可をいただいた。

その人物とは『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』シナリオディレクターにして原案者、isakusan ことヤン・ジュヨン氏である。

実は、韓国最高のゲーム開発会社NEXON Gamesに取材できる機会は極めてまれ。中でも作品の最重要人物の1人であるヤン氏に対する取材は、ゲームメディアとして完全に日本初という、とてつもなく貴重なチャンスに恵まれたのだ。

彼の口から語られる、『ブルアカ』をド級のエンターテインメントにしている秘密とは──?

『ブルアカ』の内容ばかりではなく、ビデオゲームにおける物語について非常に知的で踏み込んだ話を聞くことができたため、どうか『ブルアカ』ファンだけでなく、あまねくゲームファンに最後まで読んでいただければ幸いである。

聞き手・編集・企画/Jini
聞き手/斉藤 大地
文/千葉 集
写真/伊豫田 旭彦

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左:斉藤大地(Indie Intelligence Network編集部)、右:ヤン・ジュヨン氏

本企画は『NEEDY GIRL OVERDOSE』『Touhou Luna Nights』などを手がけたインディーゲームレーベル「WSS playground」代表の斉藤大地が、noteで2000人の購読者を集めたゲーム批評媒体「ゲームゼミ」主宰のJiniと共に、インディーゲーム制作に役立つ知見=Intelligenceを獲得するべく100%自腹で世界各地を取材して回る、次世代のゲームジャーナリズム「Indie Intelligence Network」です。

記事はここ「電ファミニコゲーマー」のほか、英語、中国語、韓国語のメディアにも同時翻訳・掲載される予定です。

本稿は英語中国語韓国語に翻訳されています。

以下の内容は、『ブルーアーカイブ』「Final. あまねく奇跡の始発点編」までのネタバレを含みます。あらかじめご注意ください。

※本インタビューは2024年4月に実施しました。


ブルーアーカイブの大黒柱、ヤン氏の正体

──簡単に、自己紹介からお願いします。

ヤン氏:
NEXON Games のMXスタジオで『ブルーアーカイブ』(以下『ブルアカ』)のメインシナリオライターを務めます、ヤン・ジュヨン(isakusan)と申します。『ブルアカ』のシナリオ、世界観、設定などを主に担当しています。

肩書的には、IP室の室長も兼ねています。IP室とは文字通りIP関連を統括する部署です。全体を俯瞰する立場から、プロデューサーやアートディレクターやゲームディレクターといった各部署の長と相談を重ねつつ、シナリオやキャラクターの整合を図り、会社のポリシーとすりあわせていきます。

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──ゲーム業界に入るまでの来歴を教えてください。

ヤン氏:
幼少期は漫画家を志していました。ものごころついてから、ずっと漫画ばかり描いていたのを憶えています。ですが、15歳ごろで才能の限界に気づき、小説へ転向しました。20歳ごろで、ファンタジー小説で商業デビューする機会に恵まれました。

そのあたりから、次第に純文学の方面へのめりこんでいきました。韓国には、日本の芥川賞にあたる李箱文学賞というのがありまして、その受賞者であるキム・ヨンス(金衍洙)さんキム・フン(金薫)さんといった現代韓国作家たちが私のあこがれでした。実際、進学先もソウル芸術大学の文芸創作学科を選び、純文学に挑戦しました。

しかし、そこでまた己の才能の限界を覚え、20代後半にゲーム開発の道を選びました。しばらくはビジュアルノベル分野で同人活動にいそしみ『CROCINTHUS(クロセンイダス)』などを開発しました──当初の作品を知られるのは少し恥ずかしいのですが(笑)。その後、2013年には『魔法図書館キュラレ』を任され、それが運営型ゲームの初仕事になりました。

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──漫画、小説、ビデオゲームとさまざまな媒体に挑戦されてきたのですね。

ヤン氏:
純粋に、物語を作ることが好きなのでしょう。

もっとも、文学をやっていたころは、物語を通してなにか意味あることを伝えたい気持ちも強かった。20代初めごろの私は数多くの実存的危機に晒され、世界と自分の関係について苦悩していました。

この世界は、解釈されえない謎で満ちています。その謎に触れてみたかった。理解したかった。そんなときに、私の傍らにあった手段が「文字を書くこと」でした。文学へと向かったのは、自然な流れといえるでしょう。

しかし、小説を書けば書くほど、ますます袋小路に入りこんでいきました。やがて、この桎梏から一生抜け出せなくなってしまうと気づき、文学のキャリアを断念したのです。

振り返ってみれば、私の選択は正しかったのでしょう。ですが、文学から離れても、あのときの悩みが霧消したわけではありません。今でも自分なりに問い続け、答えを模索しつづけています。

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──『ブルアカ』のストーリーでも哲学的な問いかけが節々で見られますが、それはヤン氏が文学を執筆していた経験が反映されているのでしょうか?

ヤン氏:
私は会社に属している立場です。会社の所有物を私個人の哲学的思索のために利用しませんし、すべきではありません。
テーマめいたものが見受けられるとするなら、それは私という創作者が、ある作品を作るときに不可抗力的に刻まれてしまう指紋のようなものだと思ってください。

前提として、『ブルアカ』はオタクカルチャー的なエンターテインメント作品です。しかし、人間の創りだしたものである以上、商品としての楽しみ以外の領域で、ある程度の痕跡が残るのはしかたのないことなのでしょう。

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──商品としての楽しみ以外の部分、とは?

ヤン氏:
楽しみ以外の感情で残るもの。すなわち、人生に対する問いです。

ただ、そうした「深い」部分も、エンターテインメント性があってこそ成り立つものです。まずなにより楽しいものでなければ、込められた問いかけも意味をなさない。私はそう信じていますし、職業倫理としてもそうあるべきだと考えています。

──公式アートブックである『ブルーアーカイブ オフィシャルアートワークス』で、ご自身が受けた影響作品として日本のラノベや漫画を挙げておられてました。これらの作品とはいつ、どのように接触されていたのですか?

ヤン氏:
初めて読んだライトノベルは『フルメタル・パニック』(賀東招二)でした。ちょうど、韓国で正式にライトノベルが輸入され始めたのは2002年ごろ。当時、とても斬新に感じたのをおぼえています。

今読んでもすばらしい作品です。特に文章がいい。賀東先生の文章は簡潔で明瞭でありながら、物事の核心を的確に捉えています。

2004年ごろには講談社と契約を結んだ鶴山文化社を通して『メフィスト』『ファウスト』、そしてそれらの系列の作品が韓国に入ってきて、舞城王太郎乙一西尾維新といった作家たちの作品を読みあさりました。

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──なるほど、エンターテインメント性を維持しながらその奥底に文学性も秘める、というのはまさに当時のライトノベルや『メフィスト』辺りの2000年代文芸誌の潮流という印象を受けました。

ブルーアーカイブは「プロット」のゲームである

──ここからはヤンさんがどのようにNEXON Gamesのチームとともに『ブルアカ』を作り上げていくのか……特に本作の真骨頂ともいえる物語体験の作り方を、お聞きしたく思います。

まず、本作は膨大なテキストから構成されていますが、本作のようなアドベンチャーゲームは最大で数十文字しか表示できないテキストボックスで出力されます。
これはダイレクトに文字が出力される小説を執筆されていたヤンさんにとって大きな変化だと思いますが、『ブルアカ』はどのようにテキストボックスの表現を活用していますか?

ヤン氏:
私が思うに、小説の最大の長所であり、同時に弱点でもあるのは、文章の美しさです。

たとえば、川端康成の小説。語られる内容そのものはなんら複雑でないのに、文章は陶然とするほど美しい。

私はそうした文章の美しさを競う世界で落ちこぼれた人間だという気持ちがあります。そうして、ゲーム産業へ、プロットの世界へ亡命してきた。キャラクターたちが動いて、事件が起き、エンディングへと至る。映画や漫画といった媒体に近い世界です。

一方、小説の弱点は「翻訳」してしまうと、その美しさが失われることです。
仮に韓国語の小説を日本人に届けたいと考え、いかに美しい翻訳を行なったとしても、日本人に伝えられる原文の美しさは全体の三割か四割程度でしょう。昨今のエンターテインメントはグローバルに輸出することを前提に作られますが、「翻訳」という点で文学は大きく不利です。

こうした長所、弱点を鑑み、韓国だけでなく世界のプレイヤーに届けることを企図した『ブルーアーカイブ』では、文章自体の美しさよりプロットの効率性に気を払いました。三人称的な説明をできるだけ排除し、動きと掛け合いだけで見せていく。このノウハウは、前作にあたる『魔法図書館キュラレ』で培ったものを、継承しています。

テキスト量を切り詰めるのは簡単ではありません。できるかぎり、一度にテキストボックスに表示する文字数を最小限に抑えるのが理想です。もちろん、物語を語るには一定の分量を必要とするわけですが。

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斉藤:
『ブルアカ』チームのシナリオを読んでいると、プロットの推進力が大きいことに驚かされます。

プロット以外のこと、たとえばヘイローなどの設定や世界観の説明は、暗示されるに留まったり、後に回されたりしていますよね。それは優先順位をつけているんですか?

ヤン氏:
おっしゃるとおり、『ブルアカ』のシナリオはプロット以外のすべてを排除しています。
設定などの説明をあえて飛ばしたことで、ユーザーがひっかかりを覚えることもあったでしょうけれど、それでもなお私はプロットに注力しました。設定にしろ物語にしろ、キャラクターたちがすべてを動かしていくべきなのです。

作劇の作法に則るのであれば、「制服の美少女キャラクターが銃を携行している」という明らかに特殊な世界についての説明を最初に行うべきだったのでしょう。

しかし私はそれを省く方向へ舵を切りました。そのさいに参考となったのが『ガールズ&パンツァー』です。あれも女子高生が戦車道というスポーツを嗜むという物語を成立させるため、実は戦車には特殊なカーボンコーティングが施されているのだといった細かな設定が存在するのですが、それらは物語の中で断片的にしか語られません。

設定は物語の核心を説明するためではなく、物語全体をつなぎあわせる縫い糸のようにあるべきです。

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──言われてみれば、『ブルアカ』のシナリオはほぼキャラ同士の会話によって進行します。この会話を面白く、ドラマチックなものとするため、チームで何を心掛けていますか?

ヤン氏:
私自身はクエンティン・タランティーノの映画のような会話を理想としています。彼の書く会話はプロットや情報を観客に伝えるためでなく、キャラクターを伝えるために使われますよね。会話とは、本来そうあるべきです。

しかし、『ブルアカ』は文学でも、タランティーノ映画でもありません。最終的には情報量を優先せねばなりません。なるべくなら会話で情報だけを伝えるのを避けたいところですが、ある程度は仕方ないとわりきっています。

これも結局はコストの問題ですね。アドベンチャーゲームは、アクションの連続で進行していく映画とは異なるロジックでできています。

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