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『大神』『ベヨネッタ』の神谷英樹氏、再始動! 新会社「CLOVERS」が大切にする“4つのC”と、神谷氏がプラチナゲームズを退社するまでの経緯を聞いた

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会社ではなく特定の事業へ出資を受ける「プロジェクトファイナンス」で資金面での独立性を保ち、ゲーム作りへこだわり続ける

──CLOVERSを立ち上げるにあたって、第三者からの資金提供は受けたのでしょうか。

神谷氏:
現時点で詳しいことは言えないのですが、小山と会社を立ち上げるのとは別に、僕の方でも個人的に頼っていた伝手があるんです。そちらに対してCLOVERSのことを説明して、今では資金提供を受けて、一緒にプロジェクトに取り組んでいる状態です。
ただ、会社に対する出資という形ではなく、あくまで「プロジェクトファイナンス」という形でやらせていただくことを重要視しています。

──プロジェクトファイナンスということは、会社自体に外部の資本が入っているというわけではないんですね。そうした形にこだわる理由はあるのでしょうか。

神谷氏:
やはり、「独立性」というところがポイントです。我々が目指すようなユニークでクリエイティブな作品にこだわるためには、出資元からの干渉を受けにくい形にする必要があります。資本面での独立性も重要視しているということですね。

──スタジオの形としては、開発チームも抱えて、ゲーム制作を一気通貫で担うような形を目指しているのでしょうか?

小山氏:
開発チームを抱えるのはそうですが、今では例えばAAAタイトルになると、100人、200人規模の人数が必要ですよね。それらの全てを自社で賄うようなことは考えていませんが、ゲームの核となる部分に関しては、しっかりと自社で賄えるようなスタジオにしたいと思っています。

神谷氏:
現状ですでに20人ほどのメンバーが集まっていて、小さいレンタルオフィスですが、東京と大阪に拠点があります。徐々に手狭にもなってきたので、新しいオフィスに移行した後に人員拡充を図るつもりです。

いま小山が言ったように、開発の方針としては自分たちで全て賄うというよりも、外部と協力しながらゲームを作る形になると思います。ただ、「ゲームを作る上でのビジョンを示してディレクションしていく」という根幹の部分は、自分たちと信念を同じくしたスタッフで進めていきたいと思っています。

──手がけるタイトルの規模としては、一般的な指標としてAAA、AA、Aというところがありますが、どれくらいのものになるのでしょうか。

神谷氏:
個人的には、世間一般で言うところのAAAタイトルという巨大なものには興味がないですね。

カテゴリーでいうと、AAタイトルのような、すこし大規模なゲームもやりたいと思いますし、それ以下の小粒でピリっとしたタイトルもやりたいと思っています。

CLOVERSとしては、将来的には70人規模まで増員したいと考えていますが、すべてを70人で賄うのではなく、ゲームのコアを担う人選をしていきたいと思っています。まずは、今取りかかっているタイトルと同規模のものをもうひとつ。順調にいけば、インディーズタイトルくらいの規模のものもやりたいなというところです。

「ゲームのコアを作る」CLOVERSが掲げるゲーム作りへの姿勢

──「ゲームのコアを作る」というコンセプトが非常に印象的ですが、ゲーム制作の過程において、具体的にこだわっていくポイントや、重要視する点はどのようなものになるのでしょうか。

神谷氏:
まず第一に、先ほども申し上げた「資本的に独立している」というところです。ゲーム制作におけるこだわりを貫くために、第三者的な資本とは切り離された状態を守っていきたいと考えています。

ゲーム制作にあたっては、いたずらに人数を増やしてすべてを内製するわけではなく、情熱と信念を同じくする仲間たちで、ゲームの中心となるコアを担っていく。各セクションのリーダーとして、ゲーム全体のビジョンを示してディレクションしていく集団でありたいと思っています。

もうひとつ大切なのは、既存のものを請け負ってただ仕事をするのではなく、新しいものを発案してパブリッシャーに企画を提案できるということです。つまり「0から1を作り出せる集団である」ということですね。これはプラチナゲームズ時代にも大切にしていたことですが、これからも僕たちの一番の強みにしていきたい部分ですし、そういうことを実現できるメンバーが集まってきています。

──プラチナゲームズにいらっしゃるときは、神谷さんはスーパーバイザーのような立場が多かったと思います。CLOVERSでは、より現場に近いディレクターとして立たれるのでしょうか。

神谷氏:
現役としてのディレクションも続けていきますし、若手も積極的に取り上げて、その人が無駄な回り道をしなくて済むように、その人のやりたいことをブーストしていけるようなアドバイスや手助けもしていきたいですね。

──神谷さんのこだわりが如何なく詰め込まれた作品がどのようなものになるのか、今から楽しみです。

神谷氏:
そうですね。それで言えばもうひとつ、我々が会社として大事にしていきたいこととして、作り手の作家性を全面的に押し出して、ゲームの中に盛り込んでいきたいということがあります。これがまさに、僕がプラチナを離れて、自分のゲーム作りの道を歩こうと決めたポイントです。

ゲームタイトルの規模の話がありましたが、特にAAAタイトルにもなると、商業的に失敗できないという側面が強くなってきて、属人化といったところからは一線を画すようになっていると思うんです。

そうしたゲームももちろん大事ですが、僕個人として「好きなゲーム」を考えた時に、作った人たちの個性が出ているものを遊ぶのが好きなんです。それにはディレクターの意向も、現場で仕事をしている人たちの尖ったクリエイティブの要素も含まれます。作る側としても、そうした作品を作っていくことが楽しさの要因だと思いますね。

その上で、我々の作りたいゲーム像にリンクしたユーザーに対して「濃いゲーム」を届けたいという思いがありますし、それを大切にしていく会社でありたいと思っています。「4つめのC」はそれぞれの意思で考えて胸に掲げる、という話をしましたが、そうした個を大切にする、自分自身のプライドをかけてゲーム作りができる仲間と一緒に仕事をしたいと思っていますし、実際にそうしたメンバーを集めているところです。

しがらみのないゲーム作りをしていくCLOVERSと、怖がられがちだけど「お茶の間のクリエイター」でありたい神谷氏

──例えばですが、ゆくゆくはCLOVERSとプラチナゲームズが一緒に仕事をする可能性もあるのでしょうか。

神谷氏:
我々としては、そのようなことがあっても全くおかしくないと思います。CLOVERSの強みは「ゲームのコアを作ること」であったり、「企画をゼロイチで発案していくこと」だと思うので、そこを面白そうだと思ってくれるのであれば、当然ありうる話だと思います。

──それを聞くと、プラチナゲームズのファンとしても、神谷さんのファンとしても一安心ですし、期待が持てますね。

神谷氏:
僕がプラチナゲームズにいた時も、例えば『メタルギア ライジング リベンジェンス』のように、他社さんのIPをプラチナ流に料理するようなプロジェクトがありました。ああいった仕事は、我々としても楽しかったですし、ユーザーさんも楽しかったところだったと思いますから、これからも積極的に行っていきたいと思います。

『大神』『ベヨネッタ』の神谷英樹氏インタビュー。新たな会社「CLOVERS」設立に際して_008
(画像は『METAL GEAR RISING: REVENGEANCE』Steamストアページより)

もしもの話ですが、プラチナさんが保有しているIPをCLOVERSに料理させてもらえる機会があるとすれば、我々としても「是非!」という話になると思いますね。

──言いづらいことですが、退社や独立の話題になると、変に対立を煽るような憶測が飛び交ってしまいがちです。いわゆる「喧嘩別れ」という形というよりは、純粋な方向性の違いによる退社ということなんですね。

神谷氏:
そうですね。本当に、ただただ僕が自分のクリエイティブに関してわがままを言わせてもらったということですから、しがらみはないです。

もし何かあるとすれば、僕がSNSで好き放題毒を吐きまくっているので。僕の事を良く思っていないパブリッシャーさんが商談のテーブルについてくれない、ということはあるかもしれません。そこは本当にごめんなさい(笑)。あれは「いちユーザー」としての神谷英樹が言っていることなので、ビジネスはまた別で考えていただけると嬉しいですね。

──SNSでは怖がられがちな神谷さんですが、実際に会ってお話をすれば絶対に印象は変わると思います(笑)。

神谷氏:
初めて会ってお話をした人から「神谷さんってちゃんとした人なんですね」とよく言われます(笑)。

プラチナゲームズを辞めてから個人のYouTubeチャンネルも始めたのですが、「神谷さんって笑顔で話す人なんですね」というコメントもあって。その反応が結構新鮮でした。Xのテキストだけだと、言葉の調子や表情が伝わりませんからね。「動画を見て印象が変わった」というコメントもあって、嬉しかったです。

僕自身は、「孤高のカリスマクリエイター」というよりは、「お茶の間のクリエイター」でありたいという気持ちがあります。最近、YouTube動画の再生数が右肩下がりで悲しいのですが……(笑)。ラフに自分の事を知ってもらえる場として、X同様、今後も続けていきたいと思っています。

ひとりひとりにクリエイティブの「濃さ」があるCLOVERSメンバーと、今後開発していくゲームの方向性に関して

──CLOVERSには現在20名程のメンバーが在籍しているということですが、やはり過去のキャリアで関係があった方が中心になっているのでしょうか。

神谷氏:
僕と小山がプラチナゲームズにいたというのもあって、そこでの縁がある仲間もいますし、それ以外にも、小山のキャリアの中での繋がりがある人も在籍しています。その中でも「こいつはイケてるな」といいうメンバーが、若手やベテランを問わず集まってきているので、CLOVERSとしてのクリエイティブの濃さを実現できていると思いますね。

小山氏:
今集まっているのは、当然神谷を慕っているメンバーが中心ですが、同時にみんな「CLOVERSなら、自分たちの作りたいゲームを楽しく作れそうだ」という思いも持っています。ひとりひとりが企画を持っていたりして、中には企画書化や仕様書化までしているメンバーもいるんです。中にはそれこそ、どこからも出資されていないからこそ出せるようなタイトルもありますし、そういう意味での「弾」はたくさんありますね。

──使用するゲームエンジンは、UnityやUnreal Engineのような、汎用的なものになるのでしょうか。

小山氏:
そうですね。今のところ自社エンジンの必要性は感じていないので、汎用的なエンジンを使う事になると思います。

神谷氏:
そこにリソースを割く余裕もないですしね。我々の制作スタイルとしても、外部の方々と協力してゲームを作ることになりますので、そういった意味でも、汎用エンジンの方がお互いにやりやすいと思います。

──神谷さんのこれまでの作品は、オフラインのシングルプレイゲームが多いですが、今後制作されるタイトルも、そうしたものが中心になるのでしょうか。

神谷氏:
いえ、そこにこだわりはありませんね。コンシューマーゲームが主戦場にはなると思いますが、面白いと思ったものであればオンライン・オフライン問わず、適した企画があればモバイルに挑戦する可能性も十分にあると思います。

──最後に読者の方へ向けて、これからの方向性やメッセージなどがあればお聞かせください。

神谷氏:
それでは僕からは、クリエイティブの事を主軸に。

まずは、いま制作が決まっているものに対して全力を尽くしたいと思います。ですが、CLOVERSはその作品を作るためだけの会社というわけではありません。

少ない人数ではありますが、「コアを担う」という形で、面白そうなことには積極的にトライしていきたいですし、「0から1を生む」という我々の強みや、その上に作家性を乗せて生み出されるユニークなタイトルたちは、他にはない、我々にしかないものになると思います。そうした作品たちをぜひ楽しみにしていただきたいなと思います。

小山氏:
僕からは会社観点からの話をしようと思います。さきほどお話したように、会社のメンバーは現在20人を超えるくらいなのですが、まだまだ大きくしていこうという思いがあります。

その中でも、「どういう人と仕事をするか」というのはすごく大事にしていることです。今日の話を通してシンパシーを感じていただいて、「ここだったら面白い仕事ができそうだな」と思ってくれた方がいたら、決して広くはない門戸ですが、ぜひお声がけください。

神谷もよく話すことですが、CLOVERSは「濃いメンバー」が集まっている会社です。20人全員が尊敬できて、「こいつら、ほんまにすげえな!」と思うメンバーになっているので、きっと皆さんにも面白いものが届けられるんじゃないかと思います。

──ありがとうございます。ちなみに、現在はどういった部門のメンバーを募集しているのでしょうか。外部と協力されるという話でしたが、音楽やデザインなどは外注という形になるのでしょうか。

神谷氏:
いえ、そういう風に決めてはいませんね。どのセクションも、積極的に募集しているところです。まだ人員は足りていないので、サウンドにしろ、デザインにしろ、開発の中心に立ってリードできる人材を必要としています。

小山氏:
技術もそうですが、僕たちはマインドを大切にしています。実際の選考となると、多少のスキルが伴わなければ難しいところはありますが、若くて経験の浅い方でもマインドがあれば伸びしろがついてくる、というのは、僕自身の経験からも言えることです。

「ゲームのコアを担うメンバー」という話をしましたが、「2、3年後にコアを担えるメンバー」も欲しいと思っています。

神谷氏:
実際僕も、今集まってきているメンバーにものすごく助けられていて、まさに「こいつら、すげえな!」と思っています。ただそれは、個々人のスキルやマインドもそうですが、0からスタートして、強力な資本もない中で手探りで会社作りをしているところに、それを不安がらずに「面白そうだね」と入ってくる気持ちの部分が大きいんです。

若さゆえの情熱で入ってくる人もいれば、そこそこのキャリアがあるにもかかわらず、CLOVERSに参画したいという方もいます。そういう気持ちで集まってきてくれているからこそ、我々が掲げている理念にものすごくマッチしていて、これから同じ方向を向いて仕事がしていけると思うんです。

今日のインタビューを通して、「面白そうだな」と思ってくれた人がいたら、ぜひドアを叩いてみてほしいですね。(了)

『大神』『ベヨネッタ』の神谷英樹氏インタビュー。新たな会社「CLOVERS」設立に際して_009


古巣を離れ、新たなゲーム作りの道を歩み始めた神谷氏。同氏のクリエイティブにかける思いというものは、これまでの作品をプレイしたことのあるファンなら、その端々から感じ取れるものがあったと思う。

そうしたゲーム制作への姿勢というものを間近で見ていたからこそ、小山氏は神谷氏を誘ったのであろうし、彼らの掲げる「4つのC」の旗印の元にあつまった開発メンバーたちも、きっとそれに共感した個性あふれるクリエイターたちなのだろうと思う。

「神谷英樹の新スタジオ」としてもそうだが、「ゲームのコアを作るクリエイター集団」としてのCLOVERSがどのような作品を送り出していくのか、今後も注目していきたい。

2024年12月13日(日本時間)に開催された「The Game Awards 2024」にて、『大神』シリーズの続編が発表された。

ディレクターを務めるのは神谷英樹氏。公式X(旧Twitter)では神谷氏のメッセージも公開されている。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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