趣味は人間観察とネットストーキング。マックと病院のカフェがお気に入り
──さきほどから感情の話が出ていますが、物語や体験を考える際に、想定する感情というのは想像するものなのでしょうか。それとも自分の心の中にある実体験的なものなのでしょうか。
きだ氏:
私の場合は結構特殊だと思うんですけど、原体験7割であと3割は人間観察体験です。エンタメから刺激を受けてというのはあんまりなくて、普通に生きている中で感じたことを入れています。
例えば先ほど『沈みゆく豪華客船からの脱出』の話を聞いて思い出したんですが、あの作品で最初にやりたかったのは、冬の窓ガラスに「はあ~」って息を吹きかけて、白くなったところに「好き♡」とか書いて、好きな人と別れる……そういうキュンとする感情をやりたかったんですよ(笑)。
藤澤氏:
それが真ん中にあったんですね。
きだ氏:
システム的な制約を加味したうえで、どういうやり方であればゲームをやっていると思わずにコミュニケーションを設計できるかを考えたときに、「これだ~」ってなって。そういうパターンが多いですね。
藤澤氏:
天才すぎる(笑)。
きだ氏:
そんなことないですよ! でもそんな感じなので、人の落し物を拾うのはめっちゃ好きです。
──人間観察にはどういう発見があるんですか?
きだ氏:
今30代なんですけど、どうしても同年代の友達と話す内容って、年相応な話になってしまうんですね。でもマックに行くと、10代の子とかが今の私の知見を持ってすれば秒で解決できそうなことに悩んでいるんですよ。
藤澤氏:
わかる(笑)。
きだ氏:
「それさぁ、一言相手に聞けばいいんじゃないかな?」みたいなことで悩んでいるのとかを見て、とてもとても言いたいけど、言ったらわけわからん女が話しかけてきたみたいになっちゃうんで、ぐっと我慢したりして(笑)。
あとおじいちゃんおばあちゃんの話を聞くも好きで、病院のカフェとかも好きなんですよ。 去年、妊娠していたんですけど、毎週病院行かないといけないから、もうウキウキで病院のカフェに行って、入院中のおじいちゃんおばあちゃんの話とか聞いてて。「娘が帰って来ないのよ~」みたいな(笑)。
藤澤氏:
めちゃくちゃおもしろいな(笑)。
きだ氏:
で、その後、落差を味わうために駅前のマックに行という(笑)。
藤澤氏:
すると、だいたい各世代の話が聞けるわけですね。
きだ氏:
そうです。 あと『ポケモンカードゲーム』をやっている小学生を観察したりして。そういったことから得られるものをモノづくりに活かしたりしていますね。
藤澤氏:
そういうところで解像度を上げていくのは大切ですよね。なんか想像で作っちゃうと、すごくぼんやりしたものができちゃうけど、街角で聞く話って本当にリアルなので。
──そういう経験もあってか、きださんはリアル脱出ゲームに限らず、さまざまな体験型イベントを作られていますよね。リアル脱出ゲーム以外も作られるようになったきっかけとかはあるのでしょうか。
きだ氏:
実はずっと作ってはいました。
まあ……人間観察だけではなく、多少趣味でネットストーキングも嗜んでおりまして、まぁなんというか、そういうゲームを体験型イベントで作ったり……。
例えば『片想いからの脱出』ではリアルなキャストの女の子が目の前に来て落とし物をしていくのですが、その落とし物に書かれている文字を検索するとその子のSNSが出てきたり、そこから色々と個人情報を特定してLINEでやりとりして仲良くなっていくんです。実際にLINEで約束をして、デートをするシーンもあります。
当時はそういう作品にこれといったジャンルがなかったんですが、いま世の中に出すなら、きっとイマーシブ体験という名前が付くんだと思います。ずっと作っていたものが割と世の中的に名前がついていって、別の人に言われて「そういう名前もあるんだ!」と気がいたという経験もあります。
藤澤氏:
その感覚はよくわかります。僕も最初の『Project:;COLD』を作るとき、これがARGだなんて知らなかったんですよね。自分では発明だと思っていたんですけど、すでにやっている人がいたのか、みたいな。
なので、野生的にやっていたものがだんだん整理されて今になっている気がしますよね。
体験型エンタメに謎解きは必要なのか。戦いの末“なくてもいい”に
──きださんの作品には謎解きがないものもありますが、物語と謎解きの関係性や相性についてはどう思われていますか?
きだ氏:
謎解きの素晴らしいところは、そこに謎が置かれるだけで自然と前のめりに、自分ごとになれるってことですね。なのでとても便利ではあるんですが、でも諸刃の剣でもあって。謎解きで脳のキャパシティーが吸い取られることによって、物語の理解力が下がる、ということが起きるんですよ。
なので、先ほども少し話しましたが、状況や作りたい体験によっては謎解きがないほうがよいこともあります。
──第四境界的な考え方はどうなんでしょうか。
藤澤氏:
僕はご飯とおかずみたいに理解しているんですけど。物語がご飯だとしたら、米だけ食えって言われても食べづらいじゃないですか。 だけど時々ご飯に合うおかずがあると食べやすくなる。だから謎が適度に旨いおかずとして存在していると、バランスよく食べられるんだと思います。
あとはさっきのきださんの話と似ているんですが、謎がないって言われると、遊ぶ動機が薄まってしまうと思うんですよ。だけど「謎があります」となれば、大勢の人に見てもらえる。 なので、体験型コンテンツで謎がないというのは勇気がいりますね。
なので謎解きはどこかしらにあったほうがよい、というのが今の考えですが、来年には変わっているかもしれません。
きだ氏:
今私が作っているものは、半分くらいは謎がないですね。
藤澤氏:
すごいですよね。
きだ氏:
いろいろやってきて、ようやくたどり着いた感じですね。
藤澤氏:
だいぶ先を行かれてるなと思いますよ。
きだ氏:
めちゃくちゃ大変でしたから。戦いの歴史ですよ。(笑)
──「謎はなくてもいい」というのは、結構確信めいたものなんですか?
きだ氏:
出すものに対して「謎ないじゃん」と言われることもあるんですけど、それって多分、謎があるよりも面白いものが作れていないから言われるのかなって思っていて。
藤澤氏:
ストロングスタイルだ(笑)。
きだ氏:
もちろん骨太の謎解きを求めている方からすればミスマッチかもしれないですけど、私は普通に街を歩いている人たちにも遊んでほしくて。そういう人たちって、歩きながら謎解きをしているわけではないけど、別の楽しみを知っていたりもする。
そうなったときに、双方が満足するものを作ろうと思ったら、“謎はないけどめちゃくちゃ面白い体験だった”という作品を作るしかない。そんなことを思いながら、ボコボコにされながら作り続けた結果、謎解きではない体験でも受け入れていただけるようになってきましたね。
藤澤氏:
その話はすごく共感するんですけど……この前『小田原謎解き街歩き』をやったんですよ。 そうしたら、これまでで一番くらい謎解きそのものに感動してしまって。
きだ氏:
あれは本当に素晴らしいですよね。
藤澤氏:
鳥肌が立ちましたね。その結果、僕らが作っているものは体験だから、謎解きはほどほどでよくて、物語を体験として正しく落とし込めていればいいんだと思っていたのが、ちょっと価値観が変わるぐらいやられました。
だから、謎解きの有り無しは、どっちも捨てがたいなって思っています。
第四境界がきださおりに与えた影響――「謎解きってまだまだ面白いんだ」
きだ氏:
その気持ちは凄くわかります。実は、私は似たようなことを第四境界さんから感じていて。
謎解きでいくか、謎解きじゃない体験でいくか、その分岐点が来た時に、『Project:;COLD 2.0』『人の財布』『かがみの特殊少年更生施設』が立て続けに出てきて、頭の中はイマーシブシアター一色だった私に「謎解きってまだまだ面白いんだ」と思わせてくれたんです。
藤澤氏:
そうだったんだ(笑)。
きだ氏:
ですです。まぁ『人の財布』は最初は藤澤さんたちだと知らずに入って、あとから「やられたー!」ってなった口なんですけど(笑)。パルコで売るというストイックさも面白かったし、電ファミさんの記事タイトルもめちゃくちゃ素晴らしくて。
それまでは「謎解きでやりたいことはけっこう形にしてきたな」と思っていたんですが、「全然やりきってなかった。まだまだいろいろ考えられるじゃん!」と覆してくれたんです。なので謎解きも全然作っていきます。
藤澤氏:
そう言ってもらえると嬉しいな。
きだ氏:
あと「Project:;COLD」も本当にすごいと思っていて、ああいった体験を作りたいと口で言う人はこれまでにもいましたけど、それを実現させたのは私が知る限りでは藤澤さんが初めてなんじゃないかと思っています。
なにより、「Project:;COLD」シリーズは純粋なクリエイティブだけでは多分実現できなくて、いろんなクリエイターを集めてチーム化して、ARGとして運営もしていく必要があるじゃないですか。その上でちゃんと面白いものを作ったというところに、私はめちゃくちゃ勇気を貰いました。
なので夕暮れのメンバーには、藤澤さんを見習っていこうと言っています。
藤澤氏:
僕の想いが一方通行じゃなくてよかったです(笑)。
きだ氏:
もう事あるごとに「藤澤さんたちはさぁ!絶対ここからこうやってやってるんだよ!」みたいな感じで話しています(笑)。なのでめちゃくちゃ尊敬しているんですよ。
あと、どうしてもモノづくりって、体力がないと最後の詰めが追いつかないことってあるじゃないですか。私、それをずっと恐れていて。でも藤澤さんを見ていると、最後の詰めの詰めまでやるから、なんか勇気をもらえるというか。
藤澤氏:
それでいうと、最近も1本新作の発売時期を後ろ倒しにしたんですよね。このレベルで発売しちゃダメだって停めちゃって。
きだ氏:
やばい。
藤澤氏:
『人の給与明細』も、最後の謎に関しては深夜までブレストしたりしていましたよ。
そういう意味では体力はあるほうなのかもしれませんね。
きだ氏:
いやー、すごくうらやましいですね。実際、私の周りからも藤澤さんの稼働量はすごいって聞きますね。
──そういう意味では藤澤さんはずっと若々しいですよね。
藤澤氏:
いやまあ、肉体的な衰えは現実的に訪れているとは思いますけどね。だけど、この記事を読んでいる若い方の中には、年をとると思考も老いてしまうんじゃないかと不安に思っている方もいるかもしれませんが、ちゃんと高い意識を持ってクリエイティブに臨んでいれば、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃないかと思いますよ。
──実際、第四境界やその周辺の界隈には若いクリエイターが沢山いらっしゃいますが、そのなかで切磋琢磨されていますもんね。
藤澤氏:
そうですね。梨さん、背筋さん、雨穴さんをはじめ、若いクリエイターの力は本当にすごいなと思います。そして彼らと同じ舞台で作品を作れていることが、すごく楽しいし誇らしいですね。
きだ氏:
しかと受け取りました。
藤澤氏:
とはいえ、最近働き過ぎかなぁと思っていますが(笑)。きださんはどれぐらい働いているんですか?
きだ氏:
私も結構働いているほうだと思いますね。
藤澤氏:
じゃなかったら、あれだけの作業量できないはずですよね。
きだ氏:
今は子供もいるんで、ミルクをあげながら脚本書いたりしていますよね。まぁPCかスマホがあれば働けてしまうので、時間がある限り働いています。謎解きもそうじゃない体験も作るって決めたんで、人の2倍動かないとそもそも追いつきません。
藤澤氏:
これを強調しすぎると時代に逆行している感じでよくないかもしれないですが、僕もきださんも、仕事とプライベートの垣根がないというか、仕事をしているときが人生で一番楽しい瞬間じゃないですか。
きだ氏:
間違いないですね。
藤澤氏:
多分そこに至っちゃった人間って強くて、「わぁ、今日休みだシナリオ書こう!」みたいになるわけじゃないですか。
きだ氏:
なりますなります。 ミーティングも重要ですが、作業時間が取れないと良いものは作れないので、深く潜って自分の作業をするためにお休みを入れたりしています。
藤澤氏:
休みの日はシナリオを書く日。
きだ氏:
そう。ミーティングは入れてほしくはないけど、シナリオは書きたいみたいな。
藤澤氏:
でも、そういう人ってなかなかいないと思うんですよ。
きだ氏:
ですかね?
藤澤氏:
だからこそそういう人は強くて、「仕事より楽しいことない」って言ってる人間に、そうじゃない人がどうやって勝つんだろうって思うんです。
きだ氏:
たしかにそうですね。
藤澤氏:
ずっとそんなやり方でやってきて、仕事は今が一番楽しいって感じてますからね。
夕暮れ設立の経緯。全ては前例のないゼロイチを実現させるために
──ここからはきださんの今後について伺っていければと思います。
藤澤氏:
なぜ会社を設立したのかは皆さん気にしていると思いますよ。
──SCRAPには引き続き所属されるとのことですが……。
きだ氏:
一番大きかったのは、「Project:;COLD」もそうですが、個人で週刊少年ジャンプの体験する読み切りだったり、イマーシブシアターの脚本・演出のお仕事などをやらせていただいていたのですが、だんだんとご相談をいただくお仕事の規模が大きくなってきてしまって。一人でやるよりもチームでやったほうが安心していただき、かつ良いものを作っていけるなと思ったことです。
──たしかに一理ある気がします。
きだ氏:
そして今後やりたいことって、前例がないものが多いんですよ。だから制作ハードルがとても高いんですよね。 で、そういう時に、まさにさっき話していたような趣味イコール仕事という方だったり、誰にも負けないくらいこれが好き! というものを持っている人たちでチームを組むために、組織があった方がいろんなことがハッピーなんじゃないかなって思っていて。
というのも、自分が作りたいもののためにゼロイチの制作に誰かを巻き込むことは、はたしてお互いにとって良いことなのか、とずっと悩んで来ていまして。
ゼロイチってなると、何もないとこからカンカン! って耕していかないといけないんですけど、型も前例もない仕事ってかなり大変じゃないですか。
そうなったときに、ゼロイチをやりたくて生きている訳ではない人たちを巻き込んでしまうのは、申し訳ないと思ったんです。だから、自分がやりたいことや、趣味全開の作品を作るとなったときは、自分で全責任を取れる体制を取った方がより高くジャンプできるんじゃないかと思って会社を立ち上げました。
藤澤氏:
SCRAPさんは会社の設立を許してくれたんですか?
きだ氏:
はい、めちゃくちゃ円満です。ドキドキしながら相談に行ったんですが、逆に応援のコメントもいただいて。とても感謝しています。
藤澤氏:
それはすごく良いですね。
きだ氏:
なのでSCRAPでは変わらず面白い謎解きを作っていきますし、いまも新作を絶賛制作中です。今年は新たにマネージャーとしてコンテンツの監修や管理などもはじめたのですが、会社を立ち上げたからこそ、SCRAPの仕事も緩めずに一生懸命やっていきたいと思っています。
藤澤氏:
仕事の領域をちゃんと分けてくれればいいよってことなんですね。
きだ氏:
あと昔、100人入れば満員になるくらいの規模のお店をやっていたんですけど、当時そのお店を埋めるためにすごく必死だったんですよ。
お店を埋めるためには何か面白いことをしなくちゃいけないからと、毎日ゼロから企画した違うイベントをやっていて。制作期間1ヶ月とかで作るイベントもあったので、今思うと気が狂っていましたね(笑)。そこで培ったゼロイチの力みたいなものが自分の礎になっているんですが、今はお店を持っていないですし、会社も大きくなっていって、良い意味で1つの作品にかけられる時間とコストが大きくなっていったんです。
そうなったときに、毎日新しい企画を考えないとと切迫するあの頃の自分のパンク魂はどこかに残しておかないといけないと思い、夕暮れを作ったという面もあります。
藤澤氏:
きださんって”まだ誰もやったことのない体験を作るんだ“っていうコンセプトをお持ちだと思うんですけど、それって第四境界と完全に一緒なんですよ。つまり、「光の第四境界」なんですよね。
そして僕ら本家は「闇の第四境界」(笑)。
──それでいいますと、第四境界さんの作品ってまぁなんというか…よく人が死んでいたりするじゃないですか。それをジャンルにするとミステリーだったりホラーだったりすると思うんですけど、それらってやっぱり引きがあるんですよね。なのでSNSでもよく拡散したりして。
でもきださんのジャンルって青春じゃないですか。これって言い方は悪いですけど、引きとしては弱いと思うんですよ。それなのに、そこを突き通しているのが本当にすごいと思っていまして。
藤澤氏:
青春はホラーに比べると、どうしても薄味ですよね。でもその引きの弱さを支えているのが作家性だと思うんですよ。
もちろんホラーも作家性は大切ですが、ホラーってそういうことを抜きにして興味を惹けるジャンルじゃないですか。でも感動とか青春とかって、作家に対する信頼性がないと成立しない。だから、きださんのすごさはそこかなと思いますね。
きだ氏:
ありがとうございます。
第四境界×きださおりコラボが決定!はたして人は死ぬのか
──第四境界さんは感動系や青春モノはやらないんですか?
藤澤氏:
実はきださんと作りたいんですよね。
きだ氏:
…おお!? え、それってコラボってことですか?
藤澤氏:
イヤじゃなければですけど。
きだ氏:
全然イヤじゃないです! むしろこっちからお願いしたいくらいです。
──なんと、まさかのコラボ決定ですか。
きだ氏:
え、でも、ということは……私、人を殺さなきゃダメですか…?
一同 :
(笑)
藤澤氏:
いや、殺さなくて大丈夫(笑)。きださんの持ち味でやってもらえればと。
きだ氏:
よかった(笑)。冒頭に出てきた『沈みゆく豪華客船からの脱出』あたりから「人を殺してはいけない」と心に誓っていまして……(笑)。
藤澤氏:
それで涙した娘の父親は、人を殺しまくってますけどね……(笑)。
きだ氏:
『沈みゆく豪華客船からの脱出』は藤澤さんの娘さんのような状態になった方が結構いらして、例えば高校生から「めちゃくちゃ楽しかったけど、もう行きません」みたいなお手紙を貰ったこともあって。だから本当に反省しているんです。
藤澤氏:
やりすぎるとトラウマになっちゃいますもんね。
きだ氏:
若気の至りでしたね……。
藤澤氏:
でもそういうことも含めて、あの作品はきださんにとっての分岐点であり、決定的な作品だったのかなと思いますね。
きだ氏:
そうですね。
──コラボ作品はどういう感じにしたいなどありますか?
きだ氏:
そうですね……たとえば……(このあときだ氏よりアイデアが語られるが、以下の事情につきカット)
藤澤氏:
え、ストップストップ! それ今度第四境界でやる企画なんで!……ちょっと本当に勘弁してください(笑)。
一同 :
(笑)
きだ氏:
あれ~(笑)。
藤澤氏:
危ない危ない。でも実はコラボしたい理由はここにあって、たぶん作りたいものに対する解像度が完全に同じなんですよ。
きだ氏:
確かに。だったら喧嘩するより手を組んだ方がいいですよね。
藤澤氏:
こういうのが面白いよねっていう“こういうの”って、人によって全然違うじゃないですか。 何を面白いと思うかとか、何を美しいと思うかなんて人によって違って当たり前だけど、きださんはすごく同じ景色が見えている人なんだなっていつも思います。 だからこそ、きださんが作る第四境界の作品を見てみたいんですよ。
きだ氏:
ありがとうございます。頑張ります!
体験型エンタメをアーカイブ化する大切さ――「100作品以上作っているけど、何も残ってない」
──その第四境界さんの次回作って何か情報をいただけたりしますか……?
藤澤氏:
「人の」シリーズの最新作を作っていますよ。そして過去最高に物語性で勝負しようとしている。これくらいで勘弁してください(笑)。
──おお、それは楽しみです。「人の」シリーズでいうと、ARGでありながらもパッケージとして売られているじゃないですか。一方できださんは基本的にはイベント型で作られていて。今回のコラボはどちらにするなどイメージはあったりしますか?
きだ氏:
断然パッケージ型ですね。
藤澤氏:
僕もそのほうがいいと思います。
きだ氏:
私って100作品以上作っているんですけど、何も残ってないんですよ!
藤澤氏:
いや、それは本当によくない。絶対残したほうがいいですよ。
きだ氏:
そうなんですよ…それに気づいたのが最近で。それこそ第四境界さんの作品って、リアルタイムの「Project:;COLD」ですら、アーカイブ版として残っていくじゃないですか。これが本当に素晴らしいな思っていて、たとえ物語や体験の質が変わったとしても、残すって大事なんだなと今にして思いました。
だから今回のコラボでは、残すって視点も含めて、どういうものが作れるかっていうのを勉強させてもらいながら、これまでの第四境界さんの作品を超えられるような作品を作りたいですね。
藤澤氏:
まぁそう簡単には超えさせないですけどね!
きだ氏:
ふふふ……
──いちファンとしてとても楽しみです。
藤澤氏:
でも「残す」ということは本当に大事で、もしも僕が明日無職になったら、きださんの過去作品をラスベガスで常駐化させる仕事をしたいと思っているくらい、きださんは作品を残したほうがいいと思っていますよ。
きだ氏:
ありがとうございます(笑)。でも本当にやらないと…。 というのも、ずっと作っては次、作っては次、って感じでここまで来てしまったんですよね。
藤澤氏:
僕らも『Project:;COLD 1.8』まではそうだったんですが、第四境界になったときに、ちゃんと作品を残していくことは意識的にやるようになったんですよね。
きだ氏:
素晴らしいです。 夕暮れでもその辺りはやっていきたいんですよね。やっぱり自分たちがいいと思っている体験をより多くの人に届けるっていうところは、やるべきなのかなと。
藤澤氏:
そうですね。さっきも話した通り、きださんの作品は作家性が求められる運命にあると思うので、夕暮れさんは、きださおりという作家を売っていく会社であるべきだと思いますね。
きだ氏:
分かりました(笑)。
夕暮れでは仕事を募集中。ときめきや胸キュン体験に特化したチーム
──まだ会社は立ち上がったばかりですが、「広く仕事を募集しています」なのか、それとも「一旦は作りたいものを作って自分たちの色を出していきます」なのかでいうと、どちらなんでしょうか。
きだ氏:
そこは広く募集していますね。
藤澤氏:
もう開発までできるんですか?
きだ氏:
もちろんです。
藤澤氏:
すごい。
きだ氏:
本当に広く募集していて。というのも、過去に、私は何も知らないのに、自分の名前が載った企画書があちこちに出回ったってことがあったんですよ。
──特に確約があるわけではないけど、座組のイメージとして名前が勝手に書かれるやつですね。
きだ氏:
ですです。それも知人から「都市開発のデベロッパーからこんな企画書が回ってきたんだけど参加するんですか?」って連絡が来ることもあって、「何それ全然知らない! 街×物語って書いているけどなにこれ!?」みたいな(笑)。
それで詳しく聞いてみると、とりあえず企画書には書いてみるんだけど、謎解きの会社に所属しているが故に、依頼していいのかわからず結局依頼しなかった、みたいなパターンが多かったみたいで。
なかには「それ提案してくれたらぜったいやったのに!」みたいなのもあって、今回夕暮れを立ち上げたことで、そこのハードルが下がったり、より分かりやすくなるといいなと思っています。だから広く募集中です!友達作りくらいの気持ちで来てください!
藤澤氏:
でも設立して間もないのに、そんなにたくさん受けられるんですか?
きだ氏:
どこまでやるかなんですけど、例えば来年3月にやるホリプロさんとのイマーシブシアターは、ホリプロさんと夕暮れで共同で主催・企画制作をしているのですが、主にクリエイティブ部分の制作は夕暮れですべてやります。なので自主興行とほぼ変わらない感じです。
もちろん企画だけ、脚本だけ、というパターンも全然あります。
──めちゃくちゃ忙しくなりそうですね。
きだ氏:
実は謎解きは元々得意ではなかったので制作するのにすごく時間がかかっていたんですが、イマーシブ系は本当にすぐできるんですよ。 なので企画やディレクション、脚本だけであれば、時間はあまりかからないと思います。
あとは外部の素晴らしいクリエイターさんとの繋がりもあるので、没入体験であれば日本有数のチームを作れると思います。
藤澤氏:
すごすぎる(笑)。
きだ氏:
そこは地道にやってきた強みなので、今後も強化していきたいなと思います。
藤澤氏:
うーん。人生最大の失策は、きださんが起業を思いついた時にうちの会社に巻き込まなかったことですね。
一同:
(笑)。
藤澤氏:
まぁでも今回コラボできるとのことでよかったです。
きだ氏:
よろしくお願いします!
──夕暮れさんの公式サイトには、「こういう仕事ができます」というのが書かれていますが、あえて共通点があるとすれば、どういった部分なんでしょうか。
きだ氏:
心がときめく物語体験ですかね。ときめく方面のクリエイターってあんまりいない気がしていて。
藤澤氏:
いないいない。
きだ氏:
例えばすごく面白いミステリーの推理イベントだったり、ものすごくドキドキするタイムトラベルのストーリーとかを作れる方はいらっしゃると思うんですが、ときめきは今のとこ、任せてください…!という(笑)。
藤澤氏:
この世界には、少女漫画の文脈の人ってきださん一人なんですよね。
きだ氏:
そうなんですかね!?でも可愛いとかときめきとかは大好物です (笑)。
私がイマーシブの脚本を作ったりすると、だいたいギャルみたいな子がいるんですけど、そういう世界観だったり、なんかキュンってなる感じの体験を作りたいなと思っています。
藤澤氏:
ミーティングで「不安で心を占めるんだよ!」とか言っている第四境界とは大違いですね(笑)。
きだ氏:
違うんですよ、花束もらってキュンなんです。
藤澤氏:
俺もそっちの方がいいな。
一同:
(笑)。
きだ氏:
こちとら専売でやらせていただいてますんで!(笑)。なので胸キュン体験とかですかね。
藤澤氏:
それは作れないから頼りにしています(笑)。
──それって例えばどんな体験ですか?
きだ氏:
例えば隠し部屋みたいなものをプロデュースしてグッズを作るとなったら、バレンタインに届くチョコレートから始まる物語にしようとか、そういうふうに考えますね。
藤澤氏:
入口が天才だなあ。
きだ氏:
でも別の人のチョコレートが届いちゃうとか。
──そういうグッズ開発もされるんですか?
きだ氏:
そうですね。結構、家で体験できるものを作りたい欲が強くて。もともと家に居られない人間というか、ずっと外に出てイベントに行ったりする人間だったので、家で出来る娯楽を全然体験してこなかったんですよ。それが産休で家にいる時間が増えて、ついに家で出来る娯楽……それこそテレビゲームとかをようやく触り始めたんです。
──YouTubeとかも見てなかったんですか?
きだ氏:
見てなかったですね。Netflixとかもそこまで。でもついに家でやるものの面白さをめちゃくちゃ感じて、作ってみたいなと今更ながら思っています(笑)。
藤澤氏:
こんなに感受性は近いのに、習性は真逆なんですね(笑)。僕は本当に家から出ない完全なる引きこもりですよ。
きだ氏:
でもゲームができる人ってすごいなとずっと尊敬していたんです。丸3日くらいかけてやったりするじゃないですか。
藤澤氏:
もっとですよ(笑)。
きだ氏:
あれ~?(笑)。
一同
(笑)
──ちなみにどういったゲームを遊ばれたんですか?
きだ氏:
『未解決事件は終わらせないといけないから』『NEEDY GIRL OVERDOSE』『8番出口』『パラノマサイト』『ファミレスを享受せよ』とかその辺ですね。
──おお、いいチョイスですね。
藤澤氏:
いよいよゲームにも興味が湧いたんですね。
きだ氏:
湧きました! なので今めちゃくちゃグッズとかゲームをやりたいと思っています。はい。
藤澤氏:
第四境界でもグッズ作ってほしい……。
インターン×体験型エンタメが採用活動の在り方を変える
──そのほかにも、夕暮れさんでは企業向けのインターンプログラムも展開されていくんですよね。11月に実施されたシークレットイベントが、そのテスト版みたいな感じだとか。
きだ氏:
そうですね。インターンに体験型イベントの要素を取り入れて、自社の会社をより深く理解してもらおうという。例えばスタートアップの企業ですと、社長面接までの工数を減らしたいみたいな悩みがあると思うんですが、そこを解決できると思います。
──といいますと?
きだ氏:
なかなか会社説明会で自社の面白さを知ってもらったり、逆にインターン生のことを知るのって難しいんですね。そこで私たちは、どんな会社にも適応できるインターン×体験型イベントのパッケージを作りまして、お互いの魅力がより伝わりやすくなる形を提案できればと思っています。
またこのパッケージであれば、1週間で500人くらいには体験してもらえるので、普通に採用活動をするよりも工数が低くなるイメージです。
藤澤氏:
それってただの体験型イベントじゃなくて、ちゃんと企業に対してフィットさせて実現できるよってことですよね。
きだ氏:
そうですね。
藤澤氏:
本当にその入社前のインターンで適用できるものだってこと?
きだ氏:
そうですね。
藤澤氏:
流石すぎるなぁ。
きだ氏:
いやーでもやっぱり考えていることは同じなので、芸風が違って本当に良かったです。
「5・7・5の俳句じゃないと会話してくれない」先輩など、個性豊かすぎる先輩社員しかいない部署を巡って社長面談を目指す──。株式会社夕暮れの設立パーティーは、一味違った。リアル脱出ゲームなど手がけるきださおり氏が設立
──では不穏は第四境界さんで、キュンは夕暮れさんということで。
きだ氏:
はい、それで!夕暮れは不穏なしなんで(笑)。
──気の早い話ですが、コラボはどのように進んでいきそうですか?
藤澤氏:
第四境界側は来年4月が一つの山場で、それまでは新しいプロジェクトを増やすのが大変なんですけど、そこを超えれば多少は余裕が出てくると思いますね。
きだ氏:
夕暮れも3月末にホリプロさんとのイマーシブ現劇『RE:PLAY AFTER SCHOOL』があるので忙しいんですが、2月か3月くらいから少しずつ始めていけるとよさそうですね。
藤澤氏:
そうですね。ということで皆さんお楽しみに。
──ありがとうございます。最後にきださんから何かありますか?
きだ氏:
はい。私は人との出会いを凄く大切にしていて、 今のミニマムチームだからこそできることをどんどんやっていきます。ですので、めちゃくちゃ気さくに、仲間になりに来てほしいなと思っています。
このインタビュー読んで少しでも興味を持ってくださった方も仲良くしてください! ご連絡お待ちしております!
──本日はありがとうございました!(了)
両者の視点は異なるアプローチを取っているように見えるが、どちらも「人々の感情を動かし、心に残る体験を作り出す」という本質的な共通点を持つ。きだ氏が語る「謎解きは必須ではなく、物語自体が楽しさを提供できる」という挑戦的な姿勢や、藤澤氏が提唱する「物語と謎解きのバランス」が示す創作哲学には、互いへの尊敬と刺激が込められていた。
それゆえに、両者のコラボレーションは楽しみでならない。藤澤氏の「第四境界」が持つ“日常を浸蝕する体験”と、きだ氏の「夕暮れ」が紡ぐ“優しく心に響く物語”。はたして、この融合がどのような作品を生み出すのだろうか。
また、今回のコラボに限らず、きだ氏は「夕暮れ」を通してさまざまな活躍をしていくことだろう。対談の中で語られた「ゼロイチを実現するための挑戦」「心がときめく体験を広めたい」という彼女の情熱には、クリエイターとしての確固たる信念が感じられる。その活動がさらに多くの人々を魅了し、業界に新しい風を吹き込むことを期待せずにはいられない。