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「勝者によって作られる歴史」ではなく、「信頼できる一次資料」を残していく──日本財団とドワンゴの提携により2025年4月に開学するオンライン大学「ZEN大学」は、なぜコンテンツ産業史の“オーラル・ヒストリー”を収集するのか? ゲーム、アニメーション、マンガ、IT、ネット文化を形作ってきた「語らなければ消えてしまう歴史」を語り継ぐために

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「インテル社から発売された世界で最初のCPUは、日本人が設計した」──今では知る人ぞ知る事実だが、当時はパソコンが好きな人であれば、誰もが知っていたことだという。

これは「語り継がれない歴史は忘れられる」ということを端的に表したエピソードだ。

そして、マンガやアニメ、ゲームといったコンテンツ産業のなかにも、いまだ語り継がれぬ歴史は山積している。そんなコンテンツ産業の歴史を、「オーラル・ヒストリー(口述歴史)」、つまり、当時の関係者の証言という形で記録していこうというプロジェクトがある。

旗振り役は、株式会社ドワンゴ顧問の川上量生(かわかみ のぶお)氏。2025年4月に開学するオンライン大学「ZEN大学」「コンテンツ産業史アーカイブ研究センター」を設立し、コンテンツ産業の当事者の証言を集め、映像としてアーカイブ化しようという試みだ。

コンテンツ産業の歴史を残す──。

それはコンテンツ産業の側からも、研究者の側からも、それらのコンテンツを享受してきた消費者の側からも、長く求められてきたことだ。しかし、実現には多額の資金や膨大な手間、なによりもコンテンツ産業への深い理解が求められ、どの側からも有効な手を打つことは難しかった。

そこに「我こそは」と手を挙げたのが川上氏だ。
とはいえ、なぜオーラル・ヒストリーなのか? またそれをなぜZEN大学でおこなうのか? など、疑問は尽きない。

そこでこの度、弊誌は本プロジェクトの中核メンバーを集めた座談会を開催し、プロジェクトの意義や重要性をお聞きすることにした。

語っていただくのは旗振り役たる川上氏、ZEN大学教授(就任予定)にしてコンテンツ産業史アーカイブ研究センター所長の細井浩一(ほそい こういち)氏、元「ファミ通」編集長でありコンテンツ産業史アーカイブ研究センター副所長の浜村弘一(はまむら ひろかず)氏

ZEN大学“オーラル・ヒストリー”インタビュー:「勝者によって作られる歴史」ではなく、「信頼できる一次資料」を残していく_001
左から川上量生氏、細井浩一氏、浜村弘一氏

まず気になるのは、「なぜオーラル・ヒストリーなのか?」だ。オーラル・ヒストリーは当事者の語りを集める都合上、勘違いや間違い、ときには誤魔化しまで紛れ込む可能性がある。しかし細井氏によれば、その間違いは「正さなくていい」という。

間違いも含め、「その人が語ったこと」の集積こそが重要であり、「誰が正しいか」「食い違いのなかになにが起こっていたか」ということは、後に研究者が一次資料を見ながら明らかにしていけばよいというのだ。

そして、オーラル・ヒストリーを単なる大規模なインタビューではなく、研究者の根拠たり得る一次資料にするためにこそ、本プロジェクトはZEN大学という研究機関でおこなわれる必要があるというのが、細井氏の言葉であった。すなわち、「なぜZEN大学でおこなうのか?」という問いへの答えだ。

ほかにも、アーカイブという言葉の語源とその“病”に関する学術的な話題や、N高等学校(N高)やS高等学校といった教育機関に携わりながらも「大学はやらない」と言い続けてきた川上氏が翻意した理由など、座談会で語られた内容はどれも非常に興味深いものだったので、最後までお読みいただければ幸いである。

ちなみに、弊誌では本プロジェクトで収集したオーラル・ヒストリーを活用したインタビュー記事も公開しているので、興味のある方はこちらもチェックして欲しい。

聞き手/TAITAI
編集/うきゅう実存
撮影/松本祐亮


世界初のCPUを作ったのは日本人だが、今ではそのことを知る人は少ない──「歴史は勝者によって作られる」川上氏が抱える危機感と、ZEN大学・コンテンツ産業史アーカイブ研究センター設立のモチベーション

──ZEN大学の「コンテンツ産業史アーカイブ研究センター」は、ゲームやアニメーション、マンガ、それにITとネット文化に関して、当事者の証言を映像で保存するということで、大変興味深い取り組みだと思います。そもそもこのプロジェクトが立ち上がった経緯というのはどういったものだったのでしょうか。

川上氏:
プロジェクトの発足に際して、YouTubeにアップした動画がありまして、そちらを見て頂くのが早いと思います。

内容を紹介すると、インテル社の世界初のCPUを開発した、嶋正利(しま まさとし)さんという日本人の方の話なんです。「インテルの世界初のCPUは、日本人が作った」ということは、昔の人は誰でも知っていたんだけど、今の人は誰も知らないですよね。

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当時嶋さんが在籍していたビジコン社が、電卓用の汎用ICチップを作ろうと考えて設計をして、インテルに製造を委託したんです。これをインテルが「一般用にも売り出せるんじゃないか」と気づいて売り出し、「1個のチップにコンピュータの主要な部分を乗せる」という、CPUの概念が初めて誕生したんですよ。

最初のCPUは「4004」という型番で、その後、「8080」という伝説的なCPUが出るんですが、それもインテルにヘッドハントされた嶋さんが作ったものなんです。だから、そういう意味では「CPUを発明したのは日本人だ」ということになるんです。

──お恥ずかしながら、自分もこの動画を見るまで、このことについてほとんど知りませんでした。

川上氏:
「アスキー」などのパソコン雑誌を読んでいたら、何度もそういった記事が出るので、昔のパソコン少年はみんな知っていたことなんです。ただ、今ではほとんど知られていないですよね。

このことが知られなくなってしまった理由のひとつとして、「アスキー」という雑誌がなくなってしまったということも大きいと思います。要するに、「メディアが伝える」ということがされなくなってしまったんです。

それと、インテル自身が「嶋さんがCPUの設計をした」ということを、途中まで認めていなかったんです。インテルの社史に載るまでにも結構時間がかかったりして。

インテルが作った「CPUの博物館」みたいなところでも、嶋さんの表記が小さくなったり、消えてしまったりしていて。インテルにとってみたら、「世界初のCPUは日本人が作った」という歴史は広める価値がないんです。

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──たしかに。残念なことですが、インテルとしては、わざわざ喧伝するメリットは少ないでしょうね。

川上氏:
だからやっぱり、歴史というものは勝者によって作られる。外国が「実は世界初のCPUは日本人が作ったんだ」という歴史を守ろう、と努力はしてくれないので。日本の歴史は日本が守らないといけないんです。実際、現実にこうして忘れられているという問題があります。

そして、これと同じことがゲームやマンガ、アニメでも起こりうる、ということなんです。ビデオゲームの発祥で言うと、北米の『テニス・フォー・ツー』『コンピューター・スペース』ということになるんですが、世界的に広めたのは明らかに任天堂の「ファミコン」とかですよね。

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(画像はファミリーコンピュータ│任天堂より)

世界のマーケットをほとんど日本が持っていて、世界中の子どもが「日本のゲームで育った」と言ってもいい時代もあったんですが、日本企業の力というのは相対的に低下してきています。まだ残っているかもしれないけど、今のアメリカやヨーロッパの子どもたちは、日本のゲームで育っていないと思うんです。

そうした中でだんだん、日本がある種「ビデオゲームを作った」という時代は忘れ去られるようなことが起こるだろうし。アニメやマンガなんかも、中国や韓国、アジアから、結構レベルが高い作品が出てきているんですよ。

──マンガで言うと、韓国発の縦スクロールマンガ「ウェブトゥーン」などが流行していますよね。

川上氏:
そうすると今後、マンガやアニメにも、ゲームと同じようなことが起こってくるかもしれないし、それはやっぱり日本が守らなきゃいけない。

実際に、アメリカだったら映画産業、フランスだったらファッションなど、そういう自国の伝統産業については歴史なども大学で教えているし、研究の対象にもなっています。アカデミックも含めて、その国の伝統産業を受け継いでいくような仕組みが他の国にはあるんだけど、日本はそれが民間にまかせっきりで。

結果的に「会社に入ってから学ぶ」みたいなことになっている、というのが最初の問題意識だったんです。それを僕らが「なんとかできないか」と。たとえば、ゲーム業界の偉い人にインタビューするとなって、大学の先生が普通にアポを取ろうとしても、なかなか会えない。話を聞くのも難しいと思うんですよね。

そういう状況の中、KADOKAWAグループのドワンゴが設立した「ZEN大学」だったら、もっと産業界と密接に融合した研究ができるんじゃないか。それをZEN大学の社会的な存在意義のひとつとして掲げられるんじゃないのか、というところがモチベーションになっています。

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──なるほど、KADOKAWAグループの産業界との繋がりを、教育や研究分野に活用できるというわけですね。

川上氏:
幸いなことに、KADOKAWAグループには浜村さんという、ゲーム業界のメディアにおける「生き字引」のような人もいて。一方では「ニュータイプ」の創刊時から、日本のアニメに関わってきた井上(伸一郎)さん【※】もいます。

そうなると、普通の大学では話を聞けないようなところでもアプローチできるわけです。それで、浜村さんと井上さんに「協力してもらえないか」と話をしたのが出発点になっています。

その過程の中で、日本の既存の大学でそういうことを一番やられているのが立命館大学で。細井先生は、そこで任天堂と協力して研究をされていたんです。しかも、細井先生は孤軍奮闘、独力でされているという話を聞いたので。

じゃあ細井先生もお招きして、大学として組織的にサポートする仕組みを作ろう、となりました。

※井上伸一郎氏
「コンテンツ産業史アーカイブ研究センター」副所長。「月刊ニュータイプ」創刊に副編集長として携わる。KADOKAWAアニメ・声優アカデミーおよびKADOKAWAマンガアカデミー 名誉アカデミー長。

──最初にあった問題意識を、KADOKAWAグループがサポートするZEN大学なら解決できる、となったところに、既存の大学ではどうしても難しい、ゲームの研究や保存活動をされていた細井先生が合流されたんですね。細井先生は、本プロジェクトに対してどうお考えですか。

細井氏:
歴史プロジェクトの動画を見た時に、すごく感心したんですよ。「嶋さんを例に取り上げるのか」と。

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なぜかというと、「アーカイブ」という言葉の語源は、古代ギリシャ語の「アルケイオン」という言葉なんですが、「アルケー」というのは、「元々の、最初のもの」という意味なんです。それで、「イオン」というのが「永遠に続く」という意味なんですね。スーパーの「イオン」もここから取っているそうです。あちらはラテン語から取ったそうなんですが、ギリシャ語とラテン語は姉妹語なので、同じ意味です。

だから、「アーカイブ」というのは、「元々のものが永遠に続く」という意味なんですが、ここにジャック・デリダという学者が鋭い指摘をしていて。「ちょっとごまかしがある」と。

正確には「元々のものが永遠に続く」のではなく、「これが元々だ」と言える権力を持っている人たちが、それを永遠なものにしてしまう。これを「アーカイヴの病」と名付けているのですが、民主主義の根幹、西洋における権力がどうやって出来上がったか、という根幹にかかわる話なので、非常に面白い話です。元々のものが偉いわけじゃないんですよ。「元々だ」と言い張れる権力が偉いんです。

──なるほど、そのまま嶋さんのCPUの例に繋がりますね。

細井氏:
「アーカイブ」というのは、そういう意味で非常に屈折した言葉なので。私はなるべく早いうちに日本語に置き換えて、「くら」、つまり「倉・蔵・庫」や「府」にしたらいいんじゃないかと思っているんです。日本人としてやってきたアーカイブ活動は確かにありますから、それは日本語で表現した方がいいんじゃないかって思います。

そういうわけで、私はこの動画を見た時に「この問題の本質を言い当てているな」と、すごく感銘を受けました。曖昧な形で構築したアーカイブというのはだんだん忘れられていくし、日本のアニメやマンガについての最初の話というのも、それが永遠に続くんじゃなくて、「これが最初だ」と言い張れる力を持った人たちが現れると、置き換えられていくんですね。それがすごく怖いところです。

「そういうものじゃない」アーカイブというものをきちんと作ろうという思いがあるんだろうな、というところにすごく共感をして。「これはぜひ手伝わせていただきたい」と思っています。

川上氏:
細井先生がZEN大学に異動することは、すでに周知の事実になっていると思うのですが、周囲からはどういうことを言われますか。

細井氏:
いろいろな筋から、いろいろな関心を持たれていますよ。
歴史プロジェクトに関してはみんな「なるほどな」と納得しています。従来の大学では、こうした方向でやりきるのが難しいというのはわかっていますから。

こうした新しい枠組みでいけば「突破できるところが多いな」という意見をいただくことも多いですし。

あとは、このプロジェクトとは直接関係ないですが、ZEN大学全体の文理融合とか学際とかではなくストレートに文理総合を狙ったカリキュラムや、学生たちのリアルな学習動機に繋がる地域振興系の取り組みだったり、N高との関係みたいなところです。ここしばらくの中高生の変化の問題というのは、大学人にとって共通の課題ですから。そのあたりについて、話を聞きたいという人が多いですね。

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──奇しくもというか、嶋さんの例は「アーカイブ」という言葉の本質を言い当てていたんですね。そういった川上さんの問題意識が、「ZEN大学を作ろう」という行動につながったんでしょうか?

川上氏:
この問題に限らず、大学を作ることの意味合い、というのは僕のなかでは重要でしたね。普通に新設大学を作っても、世間に「なんか出来の悪い大学が増えたな」と思われるだけだったら、作る意味がないと思っていて。

ビジネス的に言えば、N高の卒業生が入学すれば、経営としては成り立つ大学が作れるというのは、かなり初期の段階からわかっていました。N高がうまくいったときから、大学も作ったら「ビジネス的には儲かるよね」という。でもそれって「社会的にはなんの意味があるの?」と。

その意味が見出せなくて、僕は対外的にもずっと「大学は作りません」「作る予定はないです」と言い続けていたんです。

それが変わったのは、この「歴史プロジェクト」も含めた複数の理由から、ZEN大学を作ること自体が、社会的にプラスだと思ったからなんです。
今の大学が実現できていない、いろいろな「空いているピース」をZEN大学が埋めることができる。このプロジェクトはその中のひとつなんです。

ゲームやマンガ・アニメーションなどの「ポップカルチャー」のアカデミックな研究が発展しなかった理由は、研究機関の持つ“大衆文化への偏見”にある?

──アメリカだったら映画、フランスだったらファッションなどが、大学でアカデミックな研究対象になっているというお話がありました。日本でも、ゲームやマンガをアカデミックなものにしていこう、という取り組み自体はあったものの、なかなかうまくいかなかったという歴史があると思います。

ゲームに関する研究を続けられてきた細井先生の立場から、どういったところにネックがあったり、どういう難しさがあったのかというのをお聞かせ願えますでしょうか。

細井氏:
ゲームやマンガ、アニメを大学で取り上げること自体は、1970~1980年代から動きがあったんです。ただ、その多くが「制作」の話なんです。コンピューターグラフィックスであるとか、コンピューターの演算の問題であるとか、そうした技術的なところに焦点をあてた研究ですね。

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それで、その後に出てきたのが、2種類あって。それが「文化や産業としての特徴をもうちょっと考えよう」というものだったら良かったんですけど、必ずしもそうではなかった。

ひとつは、いわば「文学研究」です。文学部や社会学系の学部において、文学の新しい形としてのマンガやアニメ、ゲームみたいなものを考えようという取り上げ方が出てきました。これは当然ですよね。

もうひとつは、最近ではかなり忘れられているものなんですが、教育系の学部での「マンガやゲームは子どもに対して悪影響だ」という研究です。当時、そういう言説は結構ありました。それに反論する研究ももちろんあるんですが。

そういうような形で、文学や教育学的なところに位置付ける展開は少しあったんですが、川上さんのおっしゃった通り、単なるサブカルチャーではなく「文化としてどのような起源や経緯を持つものなのか」とか、「産業としてどう発展してきたか」というのを位置付ける研究はほとんど出てこなかったんです。

──従来の枠組みの延長として扱われるケースはあったものの、ゲームや産業そのものを真正面から取り扱うような形ではなかったわけですね。

細井氏:
世界中の人がコンピューターのキーボードの押し方がわかりますよね。コントローラーの十字キーの押し方も知っています。私はこういったものを「コモンカルチャー」と呼んでいるのですが、これは本当にすごいことだと思っています。ゲームやマンガは、そのコモンカルチャーとして成立している文化です。

そういう意味では、ポップカルチャーの研究、日本のコンテンツ研究の王道のようなところは、まだ日本では芽が出ていない。どこの大学でも形になっていないんです。

80年代に出てきた、技術的な問題とか、「どうつくるか」といった実学研究的な流れと、文学的に「新しい文学表現としてどうとらえるか」という流れ。あとは、社会学的なところも少しありますが、正面からこの文化を取り上げて「どういうものなのか」というのを考えたり、教育、研究したりするようなことは、本当に今現在でも芽が出ていないというのが実態だと思います。

川上氏:
それってなぜなんでしょうね。

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細井氏:
これって、ファッションでも同じことが言えるんですよ。日本でファッションを専門的に扱う大学って、杉野服飾大学【※】などごく少数です。あとは大体、専門学校さんがとても多く伝統的にも強いし、就職に関しても非常に強い構造ですけど、大学はなかなか正面からできない。なぜなんでしょうかね。

※杉野服飾大学……東京都にある私立大学。ファッションデザイナーの杉野芳子が設立した学校法人杉野学園が母体で、服飾学部が設置されている。

川上氏:
ひとつの理由として思ったのは、日本の高等教育の特徴として、研究大学が実質的にサラリーマン養成大学になっている部分があるじゃないですか。また、職業訓練学校が専門学校として社会的に低い位置に据えられてもいます。こういった構造とも、なにかの関係があるんじゃないかっていう。

細井氏:
うん、そこがポイントなんでしょうね。恐らく、そういった構造を補正しようという考えで出てきたのが専門職大学。

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川上氏:
うんうん。

細井氏:
専門職大学についてはこれからのチャレンジなので、成功、失敗を論じるのは拙速ですが、大学はそもそも何らかの専門的な知識や知見を教育研究して、専門的な仕事を担えるような人材を育成する機関です。そういう意味ではそもそも名称に「専門職」を付けなければならない理由は特にないように思えます。そこが「ねじれている」んですね。ほとんどの大学は、東大や京大のような研究大学のミニチュアみたいなモデルになっていますから。

その中で、ファッションだったり、マンガやアニメ、ゲームなどのコンテンツのようなテーマ、人々の日常生活の機微に触れるようなところを、正面から取り上げるというのは、なかなかできない。さっき言った、文学とか技術、教育の枠くらいでしかできないという。やっぱりそこがポイントでしょうね。

川上氏:
ある種、「大学の研究対象じゃない」という意識がありますよね。やっぱり大衆文化に関しては、若干蔑視しているような空気を感じます。

細井氏:
「若干」じゃないと思いますね。本当に、かなり強い偏見があると思います。

川上氏:
きっと、本当にあるんでしょうね。たぶん、シェイクスピアは大事だけど週刊少年ジャンプの作家は研究する価値がないとか思っているんでしょう(笑)。

細井氏:
先ほど川上さんが私のことを「孤軍奮闘している」とおっしゃいましたが、幸いなことに立命館大学では学部や研究所も作ることができて、後継者もなんとか頑張ってくれていますから、そういう意味では立命館大学は非常に理解があったと思います。

ただ、コンテンツを主題とする学部を作るときに最初に私が提案した名称は「コンテンツ学部」だったのですが、それはいろいろな人たちからダメだしされました。

哲学・史学・文学や法学・医学、あるいは経済学・理工学のように、対象となるものをより普遍的な言葉にすると「漢字1文字か2文字がいいんじゃないか」ということで、最終的には「映像学部」という名前になったんです。

川上氏:
「映像学部」だと、ずいぶん違いますよね(笑)。

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細井氏:
主に取り扱うものは「映画」や「マンガ・アニメ・ゲーム」、特に映画とゲームなので、映像といえば映像なんですけどね(笑)。

そもそも、こうしたものを正面から考える学部を、大学に作りたいという意図で「コンテンツ学部」を提案し、その後に妥協して「映像コンテンツ学部」というのを出したんですけど、これもダメで。結局「映像学部」になりました。こうした例からも示唆できるかもしれませんが、川上さんがおっしゃるような偏見というのは、ちょっとじゃなくてかなり強いです。

川上氏:
そうですね。実際の法律に絡んでくるところも、例えばゲームの著作権も、映像の著作権の文脈で長い間語られていた時代がありましたよね。

今はそんなことも言われなくなりましたけど、20年前は映像、映画と同じように考える意見が中心だったような気がしますね。

細井氏:
「公衆送信」の話も、結局「映画と同じように」ということになりましたもんね。

川上氏:
うん、なりましたよね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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