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死生観の違い? 価値観の違い? 『ファイナルファンタジーⅩⅤ』で知られる田畑端氏と、日本のRPG へ強いリスペクトを抱くフランス人クリエイターが語る、東西のRPGの違い

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『Expedition 33』はまるで「日本人好みのフレンチ料理」。大手スタジオを飛び出したからこそ追求できた、クリエイターの独自性と作家性

──『Expedition 33』では、JRPGの具体的にどのような要素に影響を受け、それをどのように表現しようと考えたのでしょうか?

ギヨーム氏:
表面的な部分で言えば、まずゲームプレイですね。ターン制バトルのゲームは、西洋と日本でまったく雰囲気が異なります。西洋の代表的なタイトルとしては近年では『バルダーズ・ゲート』が有名ですが、それ以外のターン制RPGとなると、多くの方がJRPGを思い浮かべるのではないでしょうか。

『Expedition 33』も最初にタイトルを発表した際、ユーザーのコメントなどから「これはJRPGだね」とひと目で認識されるような、典型的なコマンドベースのバトルシステムになっていることが特徴です。

もちろん、表面的な要素だけではなく、「ゲームの作り方」という部分でも大きな影響を受けています。たとえば、日本のゲームは世界観、ゲームプレイ、音楽が同時に設計され、それらが調和して一体感のある作品が作られます。

私がUbisoftにいたころにも感じていたのは、西洋のゲーム開発では、まずゲームプレイを設計する独立したチームがあり、そのあとに世界観を作り込み、最後に音楽を加える、という流れが一般的なんですね。

そういった制作手法の違いに関しても、『Expedition 33』はまさにJRPGの影響を強く受けていると言えると思います。

田畑氏:
たしかに、作り方の違いはありますね。なるほど。

ギヨーム氏:
ゲームの基盤として、『Expedition 33』はダークで悲しい世界観とストーリーを持っています。しかし、そこにJRPG特有の要素として、コミカルなキャラクターが登場したり、軽妙なやり取りや笑えるシーンを取り入れているんです。『Expedition 33』には、そういったJRPGで学んだ喜怒哀楽のすべてが詰め込まれています。

『ファイナルファンタジーⅩⅤ』田畑端氏と『Clair Obscur: Expedition 33』ギヨーム・ブロッシュ氏が対談_006
『Expedition 33』ゲーム画面

田畑氏:
さきほどプレイを見せていただいたときに、「もしここにユニークなキャラクターが加わったら、『FF』のセッティングに近い雰囲気になるな」と思っていたところでした。

ギヨーム氏:
そういった点も含めて、『Expedition 33』からはJRPGらしい感情表現も体験していただけると思います。実際にプレイしてもらえれば、「これはJRPGらしいな」と思ってもらえるはずです。

私自身、『ファイナルファンタジーⅩⅤ』が大好きなんですが、どこがいちばん好きかと聞かれると、主人公グループの4人が会話しているシーンなんです。とくに、クルマの中で男どうしがふざけ合っている場面が大好きで……。

そうしたやり取りを見ていると、キャラクターに親近感が湧いてきます。そういった何気ないシーンが、キャラクターとの思い出になっていくんですよね。

──田畑さんにお聞きしたいのですが、いまのギヨームさんのお話も含め、『Expedition 33』にどのような印象を抱かれましたか?

田畑氏:
率直に言うと、「彼にしか作れないゲームだな」と感じました。すごくユニークで、作り手と作品が強く結びついている印象を受けましたね。

小規模制作のビデオゲームの魅力はやはりその点にあると思うのですが、『Expedition 33』は、まるで開発者であるギヨームさんのDNAそのものがゲーム化されているように感じられました。

だからこそ「なぜこんなにも独自性があるんだろう?」と不思議に思いながらゲームプレイを見ていたのですが、いまのギヨームさんの説明を聞いて納得できました。

『Expedition 33』は、日本のRPGの特徴や遊びやすさを取り入れているだけではなく、ベースには日本人とは異なる文化や価値観がしっかりと息づいている。

それが、まるで「日本人好みのフレンチ料理」のように感じられました。フレンチのスペシャリストが日本人の好む味付けをした料理。それは日本のことをしっかりと理解していないとできない、表面的なことを真似するだけでは絶対にできないものですよね。

本作が“表層的でない理由”は、まさにギヨームさんというクリエイター自身のなかにあるのだと実感しました。

──独立スタジオだからこその強みといいますか、大きなメーカーではなかなか難しい”作家性”を感じられたということでしょうか?

田畑氏:
ギヨームさんはもともとUbisoftにいらっしゃったんですよね? 『Expedition 33』には大手スタジオが作るゲームでは感じられない、独自の要素が詰まっていると思います。

独立系のスタジオだからこそ、個人のクリエイティビティが存分に発揮でき、新しいことに挑戦しやすい環境がある。それがそのままゲームに表れているんじゃないでしょうか。

チームの熱量もすごく伝わってきますよね。スタッフ全員が「同じ船に乗っている」という感覚が伝わりますし、いっしょに作り上げている雰囲気がある。この手のゲームは規模が大きくなると、どうしてもプロダクションが分散してしまって、その一体感が薄れてしまうことが多いのですが、『Expedition 33』にはそういった違和感がありませんから。

さらに、ここに個性的なキャラクターが加わってくるとなると、ちょっと驚きですね。いや、本当に「わかってるな」という感じです(笑)。

『ファイナルファンタジーⅩⅤ』田畑端氏と『Clair Obscur: Expedition 33』ギヨーム・ブロッシュ氏が対談_007

ギヨーム氏:
ありがとうございます(笑)。

──田畑さんとしても、ユニークなキャラクターが登場するというのは、日本のゲームらしさにつながるとお考えでしょうか?

田畑氏:
もちろん、そう思います。ビデオゲームは特定の哲学に寄りすぎず、誰でも楽しめることが非常に重要だと考えています。RPGにおいては、さまざまなキャラクターがいることで、どんなプレイヤーでも自分にあったキャラクターが見つかり、そのキャラクターを通じて世界とより深くつながることができる。

その幅の広さは、私が『FF』を作っていたときにも意識していたポイントでした。だからこそ、本作がその点をしっかり理解して作られていることに驚きましたね。

また、日本のRPGはマンガやアニメがそのままゲーム化されたような、いい意味で敷居が低く、間口の広い作品が多い印象があります。一方、西洋のRPGは、小説をゲーム化したようなイメージで高級感があり、大人向けの作品が多いんですよね。たとえば『ウィザードリィ』や『バルダーズ・ゲート』もそうですが、どちらかというと文学的なアプローチが強い。

でも、ギヨームさんのゲームには、しっかりコミック的な要素が入っている。それがすごくユニークだなと感じました。すごく作り手目線の話になってしまって申し訳ないんですけど(笑)。

日本のRPGは誰でも遊びやすいように作られているのに対して、ヨーロッパのRPGはよりコアで、大人向けな印象があります。本作は、その両方の要素がうまく融合しているんですよね。話をしているうちに、自分の中でも整理されてきました(笑)。

ギヨーム氏:
本作は、メインストーリーだけで30時間、サイドコンテンツも含めるとさらに30時間と、かなりのボリュームがあります。だからこそ、ずっとシリアスな展開が続いてしまうと、プレイヤーとキャラクターの距離がどんどん離れてしまうと考えました。

そこで、しっかりとした日常シーンや、キャラクターどうしがふざけ合う場面を取り入れたり、それぞれの個性を際立たせたりすることで、プレイヤーがキャラクターに親しみを感じられるようにしています。そういった要素が、プレイヤーに寄り添う役割を果たしているのだと考えています。

田畑氏:
とても納得できる考え方ですね。

──ギヨームさんにお聞きしたいのですが、RPGにおけるターン制バトルは「日本的なもの」と捉えていらっしゃるのでしょうか?

ギヨーム氏:
ターン制バトルの中でも、『Expedition 33』のようなスタイルのゲームは、日本らしさが強いと思います。西洋のプレイヤーが見ると、すぐに「これはJRPGだ」とわかる要素があるんです。

さきほどお話したように、実際に本作のトレーラーを初めて公開したときは、ストーリー紹介のあとにバトルシステムの映像が流れた瞬間、オーディエンスの反応がガラッと変わり、一気にのめり込む様子が見えたほどでした。

西洋のターン制RPGについては、『バルダーズ・ゲート』や初期の『フォールアウト』をイメージするとわかりやすいのですが、どちらも基本的にひとりのキャラクターが広大な世界を自由に動き回りながら、そのキャラクター単体でコマンドを選択していく戦闘システムが多いんです。

それに対して、JRPGでは3人以上のキャラクターが横並びになり、まるでひとつのカットシーンのようにコマンドを選びながら戦うスタイルが主流です。この点は、まさにJRPG固有の特徴と言えます。

幼いころからゲームを遊び続けて学んだ音楽の大切さが、制作体制にも生きている。ゲームの見方が変わっても「音楽だけは絶対に色あせない」

──ギヨームさんがスタジオを立ち上げられた際、自分たちが作るゲームの選択肢はいろいろあったと思います。極論をいうと必ずしもRPGを作る必要はなかったと思うのですが、あえてRPGというジャンルを選んだのにはどんな理由があったのでしょうか?

田畑氏:
私もけっこう気になってたんですよね。最初に「RPGを作ろう」って決めてスタートしたのか、それとも別のアイデアから発展してRPGになったのか。そのあたり、どういう流れだったのかなって。

ギヨーム氏:
『Expedition 33』は、Ubisoftで働いていたころに自分の情熱を注いだソロプロジェクトとしてスタートしました。「自分が遊びたいターン制バトルのゲームを作ってみたい」というシンプルな想いから始まったんです。

その後、『Expedition 33』でリードメインプログラマーを務めているトム【※】が加わり、ふたりで1年半ほどかけてデモを作っていきました。その過程で、「これをちゃんとしたRPGとして成立させよう」となり、そうなると音楽も必要になるわけですよね。だったら作曲家を先に雇ってしまおう……と、少しずつチームが拡大していきました。

※トム・ギレルミン氏
Sandfall InteractiveのCTO。『Expedition 33』ではリードメインプログラマーを務める。

──最初は個人のプロジェクトだったんですね。

ギヨーム氏:
そうなんです。それから6〜7人くらいのチームでプロトタイプを作り、スタジオを設立したのが2020年。ちょうどそのタイミングでフランソワ【※】を呼び、「本格的にビジネスとしてやっていく」という形でオペレーションを見てもらうようになりました。

※フランソワ・ムーリス氏
Sandfall InteractiveのCOO。『Expedition 33』ではプロダクションディレクターを務める。

……すごくお金がかかってしまいましたけど(笑)、自分が本当に遊びたいゲームを自分で作れたので、後悔はありません。

『ファイナルファンタジーⅩⅤ』田畑端氏と『Clair Obscur: Expedition 33』ギヨーム・ブロッシュ氏が対談_008

田畑氏:
すごくいい話ですね。

──独立された際、最初から作曲家の方をチームに入れるというのは、かなり珍しい判断だと思います。思い描かれていたRPGにとって、音楽が重要な要素だと感じたからなのでしょうか?

ギヨーム氏:
JRPGの特徴として音楽が重要だと断言することはできませんが、子どものころから日本のゲームで遊んできた自分は、ゲームにおける音楽の大切さは身にしみて感じています。実際、日常的にゲームのサウンドトラックを聴きながら過ごしているくらいなんです。

ある意味、ゲームをもう一度プレイしなくても、そのときの思い出やシーンは音楽と結びついていますから、音楽は記憶を呼び起こす最適なもののひとつだと思うんです。たとえば、自分は『FF8』のバラムガーデンの音楽を聴くだけで、その場面の記憶が鮮明によみがえり、思わず目がウルッとしてしまうことがあるんですよね。

だからこそ、自分が作るゲームでも音楽には徹底的にこだわりたかった。みんなの心に残るゲームを作りたいという想いから、最初の段階で作曲家をチームに加えました。

時間が経つにつれ、昔遊んだゲームについて「思い出補正だったのかも?」とか、「そこまでおもしろくなかったかも?」と感じることがあったとしても、音楽だけは絶対に色あせないんです。

田畑氏:
音楽を作る人が、ゲームの内容を開発の序盤からしっかり理解してくれることを前提に仕事をしているわけですよね。それって、すごく日本的な考え方だと思います。

ギヨーム氏:
作曲の担当者は、脚本家と同じくらい、あるいはそれに次ぐレベルで、ストーリーやキャラクターを理解しています。初期の段階からゲームの方向性を共有し、クリエイティブをいっしょに生み出してきた仲間ですね。

彼はほかの仕事をいったん手放し、いまは専属の作曲家としてこのプロジェクトに全力を注いでくれています。『Expedition 33』の音楽は、彼にとってただの仕事ではなく、心のこもった「人生の作品」のひとつとして捉えてくれているんです。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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