きっかけは“天啓”だった。「自分が生きた証をどう残すのか」というテーマを支える、壮大でエモーショナルな設定が生まれた理由
──本作では「33」という死の数字が、プレイヤーを引き込むフックとして用意されていますが、物語全体のストーリーテリングにおいて、どのような点を意識して作られているのでしょうか?
ギヨーム氏:
ストーリーの着想についてですが、じつは4年前に会社を立ち上げると決めた時点で、それまで作っていたストーリーをすべてリブートしたんです。それまでの話は少し説明しづらい内容だったので、「いっそ新しく作り直そう」となって、そこから3ヵ月ほどかけてチームと話し合いを進めました。
「33」という数字については……正直、これはもう天啓としか言いようがないですね。ある日、ふと目が覚めたときに、「このアイデア、おもしろいかも?」と思ったんです。呪いのカウントダウンが進んでいって、数字が減るごとにその年齢の人々が死んでいく……そんな仕組みがあったらおもしろいんじゃないかって。
ただ、最初にフランソワにこのアイデアを話したときは、返ってきた返事は「ふーん」くらいの淡白なものでした(笑)。

田畑氏:
相当いいアイデアだと思うけどなぁ。
ギヨーム氏:
自分では発明だと思っていたんですけどね(笑)。
でも、ただ「呪いのカウントダウンが起こる」のではなく、理由付けが必要だと考えました。その核となるアイデアのひとつが、フランスの小説『La Horde du Contrevent』【※】です。未知の領域に踏み込む遠征隊が、過去の遠征隊の軌跡を辿りながら冒険を進めていくという、すごく複雑で奥深い物語なんです。
※La Horde du Contrevent
独特な文体や哲学的テーマが特徴的な、フランスの作家アラン・ダマジオ(Alain Damasio)によるSF小説。常時吹きつける“風”に支配された世界を舞台に、主人公たちが34代目の遠征隊として、風の源である「Extrême-Amont」を追い求める姿を描く。
自分は、“過去の先人たちが残した軌跡”というテーマがすごく好きで、それをゲームのストーリーにも活かせないかと考えました。
たとえば、クライマーが踏破のが難しい山を登るとき、道中でこれまでその山に挑んだ登山家たちの足跡や痕跡を見つけることがあるわけですよね。打ち込まれたボルトやロープを見て「このルートを登ったんだな」とか、「ここで諦めた人がいたんだな」と感じられる。
そういった「過去に挑戦した者たちの足跡」が、物語に深みを与えるんじゃないかと考えたわけです。
これを先ほどの「33」という呪いの数字のカウントダウンと組み合わせることで、単なるギミックではなく、ストーリーとしてメッセージ性のあるものにできるんじゃないかと思ったんですね。
田畑氏:
カウントダウンは「33」が始まりではなく、別の数字からスタートしているのですか?
ギヨーム氏:
最初は「100」からですね。呪いの数字のカウントダウンは1年に1進みます。
もう少し説明すると、呪いの数字が刻まれたその瞬間から1年の猶予期間が与えられます。「33」という呪いの数字が描かれてから1年が経過したタイミングで、33歳以上の人が全員死んでいく……というか、この世から消えてしまうんです。
『Expedition 33』の遠征隊は、「1年間だけ生き残れる最後の世代」、基本的には「33歳の者たち」で構成されています。
田畑氏:
RPGの物語は時の流れの中のどこかから始まるけれど、その流れ自体が冒険をするうえでのベースになっていくというのは、おもしろいですよね。
ストーリーとしてはもちろん、ゲームデザインや世界観の構築としても、すごくよくできていると思います。単なる設定じゃなくて、きちんとゲーム全体に組み込まれていて、しっかりミックスされているというか。
ギヨーム氏:
ありがとうございます。
田畑氏:
この発想が、「自分の作りたいターンベースのゲームを作る」っていうところから始まったのが本当にすごいと思います。
ギヨーム氏:
ストーリーを作るうえでとくに大切にしているのは、「自分が生きた証をどう残すのか」、「未来の世代に何を伝えたいのか」というテーマです。
それを、ゲームの中でもしっかりと表現し、キャラクターたちにもそういった想いを持たせることを重視して作っています。
田畑氏:
何を大切にしているのか、すごく伝わってきますよ。
どの要素も表層的な作り方ではなく、すべてがしっかりと組み込まれていて、日本的な要素を含みつつ、リアリズムを丁寧に作り込んでいるのが印象的ですね。話を聞いているだけでも、ゲームの全体像が想像できる気がします。
ギヨーム氏:
では、逆に質問なんですが……。実際にこのゲームの中で、今後どんなことが起こると思いますか(笑)?
田畑氏:
そこは言わないほうがいいんじゃないかなぁ。 外したらカッコ悪いし(笑)。
最近はゲームを遊ぶ時間が減ってしまっていたのですが、「このゲームは遊んでみたい」と強く思いましたね。というのも、すごく新しいんですよ。ただ表面的に新しいんじゃなくて、メカニクスや世界観も含めて、日本のRPGを再構築している感じがするんです。
それに、日本のRPG的な「楽しい体験」がしっかり詰まっていそうですよね。シリアスなだけじゃなく、遊びの部分もちゃんとある。
「『FF』を作る」ことの難しさ。過去の模倣ではなく「新しい風」を期待される一方で、同時に“『FF』らしさ”も求められる繊細なバランス取り
ギヨーム氏:
JRPGの再評価とともに、「西洋で作られたJRPG風のゲーム」が増えているように感じます。そういったゲームの中には「JRPGを真似したい」、「できる限りJRPGに近づけたい」という意図で作られているものが多い気がしますが、私はそういう方向にはしたくなかったんです。
JRPGをただ模倣するのではなく、自分が持っている価値観や生まれ育ったフランスの文化、アートディレクション、といった要素をベースにして、そのうえでJRPGのエッセンスを融合させる。そういうアプローチをすごく意識していました。
田畑氏:
それはすごく伝わってきましたね。単に「ルールブック通り」に作っているわけじゃないのが、よくわかりますよ。
自分も最初に『FF』を作るとき、教科書通りにやろうとしたら、結構怒られましたから。
ギヨーム氏:
なぜ怒られたのですか?
田畑氏:
「そういうものじゃない」と、それまでのオリジナルを作った人たちに言われましたね。
自分がスクウェア・エニックスに入ったときは、初期の『ファイナルファンタジー』を制作されていた方たちが在籍していたので、直接見てもらえていたんですよ。でも逆に、「あとから入ってきた自分に『FF』を作らせるってことは、新しい風を期待してるはずなのに、なんで過去のものを模倣するんだ」と、よくお説教されました(笑)。
『FF15』以外にも、さまざまな『FF』タイトルを作ってきましたが、最初のころからずっと言われていたのは、「形式的にやるな」、「模倣するな」ということでした。
だから、ギヨームさんがおっしゃっていた「『FF』はつねに新しいゲームだ」という捉え方は、その通りなんですよね。でも一方で「じゃあ何を守ればいいの?」と尋ねると、「自分で考えろ」って言われるんです。
ガイドラインは一切ないのに、出来上がったものには苦言を呈される、と言いますか……。でも、あれは本当に貴重な経験でしたね。

ギヨーム氏:
いまのお話を聞いていて、本当に羨ましいなと思いました。
というのも、自分がUbisoftにいたころは、シリーズものの続編を作る際のガイドラインやルールブックがしっかり決まっていて、「リスクを取らずに、シリーズの枠を守っていこう」という考え方があったんです。
もちろん、それは商業的には正しいアプローチかもしれません。でも、自分はそれを物足りなく感じてしまったんですよね。
田畑氏:
自分が最初に『FF』を担当したころとは、まさに真逆なんですね。
ただ、その当時は、いまみたいにSNSが発達していて、ファンの声が可視化される時代じゃなかった。ネットはあったけれど、ファンの意見を直接知る手段が少なかったわけです。
だからこそ、「模倣するな」とは言われるんだけど、一方で「『FF』ファンがちゃんとついてこないとダメだ」とも言われる。そのバランスを取る必要がありました。
ファンにしっかりと向き合いながら、新しい『FF』を提示する必要があった。でも、社内に明確なガイドラインなんてないので、例えば「チョコボを出すかどうか」みたいなことも、新しい『FF』を作る上の本質的な部分ではなかったりしました。
「チョコボの扱い方でのチャレンジ」。伝統に新しさを加える革新性が、新たな伝統へ変わっていく
田畑氏:
ただ、あるゲームでチョコボが死んでしまうシーンを入れたことがあって……。そのときも先輩に呼び出されたんですよね。『FF』でチョコボを生み出した方です。
めちゃくちゃ質問されました。「どうしてそうしようと思った?」と(笑)。
一同:
(笑)。
ギヨーム氏:
『ファイナルファンタジー零式』制作時のエピソードですか? あのシーンはすごく印象に残っています。そんな裏話があったんですね。

田畑氏:
あのころ、その先輩はすでに独立されていたんですが、チョコボが死んでしまうシーンを見た社内の人間が彼に連絡したんですよ。「一度、話し合え」と言われました(笑)。
それで、直接うかがって……。「あの……チョコボが死んでしまうシーンがあるのですが、大丈夫ですか?」と。
「え!? 見せろ」とすぐ言われました(笑)。
一同:
(笑)。
田畑氏:
「なぜこのシーンが必要なんだ?」といろいろ質問をいただいたのですが、私の考えや意図を説明したら最後に「わかった、OK」と言ってもらえました。
ギヨーム氏:
繰り返しますが、あのシーンはすごく衝撃的だったのでよく覚えています。プレイから15年近くが経ったいまでも、こうしてすぐに感想を伝えられる、心に残るシーンだったわけで……。
田畑氏:
『FF』シリーズを作り続けてきた方々が驚くようなことを取り入れることで、伝統にちょっと新しさを加えていけるんじゃないかと思うんです。
伝統を作った人たちにも受け入れられる新しさが足されることで、それが革新になり、やがてまた新たな伝統になっていく。そうやってIPとしての広がりが生まれるんじゃないですか、と当時も提案した気がします。
……ただ、どうしても最初は「生意気なこと言ってるんじゃねぇ」と言われちゃうので、あきらめない努力は必要でした(笑)。
ギヨーム氏:
当時は「これが新しい『FF』なんだ」と思っていましたよ。
田畑氏:
そう感じていただけたならよかったです。今後、ギヨームさんの作ったゲームを見て「自分もゲームを作りたい」と思う人が出てきたら、同じようなシチュエーションに直面することになりますよね。
自分が作った伝統を、どう守っていくのか、あるいはどう変えていくのか。そのあたり、ギヨームさんはどう考えていますか?
ギヨーム氏:
もう全部壊してほしいですね。フランスは歴史的にもデモと反乱で知られていますから(笑)。
田畑氏:
自由と反乱、たしかに(笑)。
一同:
(笑)。
ギヨーム氏:
いまお話いただいたエピソードをひとつ取っても、日本人の精神がそこに表れていると感じました。
架空のキャラクターの生死に対しても、さまざまな議論を行う。西洋では気にかけない機微だと思います。細かなところまで気にかける姿勢には、日本の文化がすごく出ていて、とても素敵だなと感じました。
田畑氏:
そのときは正直、「なぜそこまで…」って思ってたんですけどね(笑)。
でも、実際にチョコボの生みの親とその話をしたときには「話してよかったな」って思いましたし、結局のところ、みんなが「ルールだから守る」という頑迷さでやっているわけじゃないということがよくわかりました。
こういった経験を重ねるうちに、自分も自然とそういうことができるようになっていきましたね。
ただ、私が作るRPGは人も動物もちゃんと“生きている”し、そして“死ぬ”んです。そのあたりは、西洋の影響を受けている気がします。
『ウィザードリィ』では、蘇生に失敗するとキャラクターが灰になって、さらに失敗すると完全にロストするシステムがあるじゃないですか。キャラクターが消えるのを体験したときは本当に衝撃的でした。でも、そのシステムがあることで「命」を強く感じたし、ビデオゲームの世界にリアリズムが生まれるんですよね。
だから、自分はそういうところにすごく影響を受けているような気がします。
ギヨーム氏:
じつは『フィナルファンタジー零式』を遊んだときに、まさに「『FF』がちょっと西洋寄りの方向に進んできたのかな?」と感じたんですよ。そう思った経験があったので、いまのお話を聞いて、すべてが繋がりました。
田畑氏:
別に意識して寄せたわけじゃないんですけどね。たぶんギヨームさんと同じで、自分が影響を受けたものを、そのまま表現しただけなんです。
自分が影響を受けたものを取り入れながら、それを“自分の『FF』”にしないといけなかった。
『ファイナルファンタジーXV』制作時の、いまだから言える話
──最後に、ギヨームさんから田畑さんへ聞いてみたいことはありますか?
ギヨーム氏:
いまだから言える話をうかがってみたいです。
田畑氏:
……なにかあるかな。『FF』関連ですよね?
自分が『FF』を作っていたころのスクウェア・エニックスは、「こいつに任せる」と決めたら、本当に任せてくれる会社だったんですよね。
たとえば、『FF15』のときも、「この年までに発売してね」という大枠の期限は、当然決まってるんですけど、それ以外の細かい発売時期──どの月に出すかとか、スケジュールの調整は、かなり自由に任されていました。
──それはとても珍しいことですよね。
田畑氏:
もちろん、社内のさまざまな部署と調整は行うのですが、それでも基本的には任されていました。
で、自分としては開発状況も考えて、競合タイトルの状況もちゃんと把握したうえで、最初は9月に発売日を決めたんですよ。でも、決めてから1ヵ月くらい経ったころには、頭を抱えてました。「失敗したなぁ……」って(笑)。
そこから悩みに悩んで「やっぱり発売日をずらしたいな……」と思い始めたんです。
最終的には、無理に発売するよりも、より良い状態で出したほうが絶対にいいと考え、発売日を変更する決断をしたんです。
……で、その変更した先の発売日を見てみたら、思いっきり別のゲームと被ってたんですよね。それが、いま同じ会社にいる五十峯【※】が関わっていた『GRAVITY DAZE 2(グラビティデイズ2)』だったんです。

※五十峯誠氏
『グラビティ デイズ』シリーズをはじめとしたさまざまな作品でディレクターやプロデューサーを務める。現在はチーフオペレーティングオフィサー/チーフプロデューサーとしてJP GAMESに所属。
『FF15』ほどの大作の発売日をずらすとなると本当にいろいろなところへ迷惑をかけちゃうんですよね。もう、本当に最大の失敗でした(笑)。
ギヨーム氏:
いまのお話を聞いて思ったのは、やはり西洋のゲーム会社とはぜんぜん違うということですね。西洋ではマーケティングチームやプロデューサーが権限を握っていて、そこまで現場の判断に委ねてもらえないですから。
田畑氏:
『FF15』ではディレクターとプロデューサーを兼任していたので、販売戦略も立てたうえで「ここで出すのがベストだ」と考え、会社と相談して決めたわけです。
でも、あれほどの規模のゲームを作ったのは初めてだったので、ちょっとしたミスが本当に大きな影響を与えることがわかっていなかった。
開発の進め方を少しでも誤る、たとえば「曲がる道を一本間違えちゃった」となると、開発スケジュールが数ヶ月吹っ飛んでしまうんですね。それで「あれ? 計算が合わないぞ?」となってしまって……。
ただ、それほど重みのある経験って、なかなかできるものじゃないですか。たしかに失敗ではあったんですけども、すごく貴重な経験でしたね。
『Expedition 33』【※】は4月発売ということで、もうゲームとしては完成していると思いますが、状況はどうなっていますか?
※編集部注:対談は2025年2月末に実施。
ギヨーム氏:
最終調整の段階ですね。本当に細部までこだわっています。いまもゲームバランスの調整を続けていて、UIも少しでも良くしたり、プレイヤーがより気持ちよく遊べるようにするための改善を最後までやり続けるつもりです。
発売後、田畑さんにもぜひ手にとっていただいて、プレイ後のご意見などが聞けたらうれしいですね。
田畑氏:
わかりました。遊び尽くすのに、どれくらい時間がかかるんでしょう?
ギヨーム氏:
メインストーリーが約30時間、サイドコンテンツも含めるとプラス30時間くらいですね。
田畑氏:
クリアするのに10年くらいかかっちゃうかもしれませんが、大丈夫ですか?
ギヨーム氏:
(笑)。
田畑氏:
うそです、うそです(笑)。 今年中に必ず遊ばせてもらいます。(了)
フランス人であるギヨーム氏が抱く、JRPGへのリスペクト。そして、田畑氏のこれまでのRPG制作経験から見えたJRPGの特色。
「日本のRPGには戦う理由がある」という田畑氏の発言に共感を覚えた人は多いのではないだろうか。「プレイヤーが試行錯誤しながら進めていくことで、最終的に「自分なりの思い出」としてのストーリーが生まれる」という田畑氏の指摘は、まさにRPGの醍醐味を表しているように感じる。
・西洋のRPGはプレイヤーがストーリーを作っていく。
・JRPGはキャラクターの選択を“見る”側として体験できる。
対談の中で語られた上記の違いは非常に興味深いものだが、どちらが正しいというものではない。この違いは無理をして「海外向けに作る」と意識することはナンセンスであり、「自分たちがおもしろいものを作る」ということこそ、ゲーム制作者たちに必要なことなのだと強く感じる対談であった。