今後を見据えた数々の布石と、グローバル戦略
──ゲームパッドで操作できることで考えられる展開が、もうひとつあります。2023年にNCSOFTはSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)と戦略的パートナーシップを締結しています。つまり、『AION2』をPlayStation 5でも展開する計画があるのでは?
ソ氏:
ご名答です(笑)。
──両社の提携が『Horizon』のMMORPGだけのはずがありませんからね。ですが、『AION2』のPS5版に関しては、昨日(※G-STAR 2025が開幕した11月13日)の発表会で言及されていませんでした。なぜでしょう?
ソ氏:
我々は現在、韓国と台湾での正式サービスを間近に控えている状態です。まだ先の話になるPS5版について言及するのは、時期尚早だと判断しました。
──現在、SIEとのあいだで、どこまで話が進んでいるのでしょうか?
ソ氏:
SIEとは逐次情報を共有していますが、テスト版のビルドが出せるくらいまで進まないと、向こう側としても判断しかねる部分があります。弊社的には、まずは11月19日の韓国・台湾における正式リリース、そしてグローバルでのリリースを経て、その後にコンソール対応を進めようと考えています。
──ということは、けっこう先の話になるのでしょうか。
ソ氏:
でも、既にそれに向けた布石をいくつも打っていますよ。たとえば、先ほどスキルスロットの数を減らしている話をしましたが、これはスマホ版への対応のためだと多くのユーザーさんが誤解されています。ですが実際には、コンソールへの対応を見据えていたからです。
──2021年の段階で、再始動後の『AION2』の姿をそこまで明確に思い描いていたわけですか。
ソ氏:
それに、まだ今は詳細を言えませんが、『Horizon』や『AION2』のほかにも、いろいろなプロジェクトが動いています。『AION2』だけでなく、これからグローバル展開を行うNCSOFTに、ぜひ注目してください。

天族と魔族の人数格差にも大胆なメスが
──前作『AION』では、天族と魔族のプレイヤー人数差が各方面へ悪影響を及ぼしていました。この点に関して、『AION2』では対策を行っていますか?
キム氏:
大きく分けて、2つの対策を行っています。
ひとつは、両種族の外見のカスタマイズにおける違いを減らしていることです。
前作では天族は「天使」、魔族は「悪魔」といった印象を与えがちで、その時点で魔族に対しネガティブイメージを抱いてしまう人が少なからずいました。そうした外見上の「差」を極力排除しており、魔族でも外見がすごくキレイなキャラクターも作れるようにしています。
──前作『AION』でもかなり改善されていますからね。では、もうひとつの対策は?
キム氏:
『AION2』ではひとつのサーバー(※ワールド)内に存在している、天族と魔族のキャラデータを丸ごと分断できる仕様にしています。そして、全サーバーをひっくるめて天族と魔族の人数バランスが同じになるように、定期的にマッチングを行います。
その都度、PvPやRvRに関連したすべてのコンテンツのバランス再調整のほか、種族内のランキングもリセットされます。これは多くのゲームで見られる「シーズン」に近い考え方ですね。
──それは大胆な仕組みですね。マッチングを行うタイミングは?
キム氏:
最初は、正式サービス開始から2か月後を予定しています。そのあとはゲーム内の動向を見ながら判断する予定です。
──RvRで全然勝てなくて萎える、というケースはだいぶ減りそうですね。
キム氏:
そのほかの部分でも、かなり工夫していますよ。たとえばアビス(※全域で飛行可能なRvRエリア)に関しては、基本的に1週間あたり最長で7時間という時間制限があります。
ちなみに、アビスでドロップするアイテムのなかに、この時間を延長できる消耗品があります。「今晩は仲間と一緒にアビスでPvPを行いたいな」というときも、それを手に入れて続行できるわけです。また、このアイテムは取引も可能なので、金策にも利用できます。
──前作では、敵対種族の活動エリアに「時空の亀裂」を通じて潜入してPKが可能でしたが、これは『AION2』でもありますか?
キム氏:
『AION』を代表するシステムのひとつですからね。もちろん可能ですよ。 ちなみに潜入時は1時間の時間制限を設けています。昔のようにキスク(※死亡時の復活拠点)を立てて延々と居座られると、餌食にされる側がかわいそうなので、少し調整しています。
──潜入PKをずっと続けていると悪名が敵対種族に広まって、その位置が全プレイヤーの広域マップ上でドクロマークでバラされるところも最高でした。
キム氏:
『AION2』でもそのようにするつもりです(笑)。
MMORPGの未来を懸けた、グローバルでの挑戦
──続いては、サービススケジュールに関する質問です。『AION2』は11月19日に韓国と台湾でリリースされますが、その後は特定の国を優先してローカライズを行うのか、それとも「グローバル版」として同時にリリースするのでしょうか。
ソ氏:
今のところ、グローバル版を2026年の下半期目標でリリースする予定です。実際にはそのなかでも北米、ヨーロッパ、そしてアジアの3つのエリアに注力します。もちろん、日本も「アジア」に含まれますよ。
──『AION2』が成功すれば、今後のワールドワイドにおけるMMORPGのトレンドが大きく変わると思うんです。ですが逆に、万が一失敗したら、MMORPGというジャンルは、未来永劫ライトなゲームがメインになりそうな気すらしています。
ソ氏:
我々も、それくらいの覚悟を持って『AION2』を開発しています。
グローバル市場でMMORPGを開発している会社も、近年はどんどん少なくなってきていますよね。そうした状況で、もし我々がうまくいかなければ、MMORPGというジャンル自体がなくなってしまうのではないか、という強い危機感があります。だからこそ、なんとしても成功させねばなりません。
キム氏:
数年後に振り返ったとき、今回のG-STAR 2025が「自動操作から手動操作へとトレンドが変わった転換期」として認識してもらえるといいですよね。
……いや、「いいですよね」ではダメです。我々がやらなければならないんです。
ソ氏:
人々の生活にスマホが浸透して、このデバイスが進化するにつれ、自動操作で遊べるMMORPGが増えていくのは、時代の流れとして仕方がない面があります。自動操作でMMORPGを遊びたい人はたくさんいますし、そういった人の意識を無理やり変えるのは、おこがましいことだと思います。
ただ、手動で遊ぶMMORPGを望む人も必ずいます。グローバルでは特に。そうした人にとっての選択肢を残すためにも、『AION2』のようなMMORPGが無ければなりません。
「AION2 VISION」
──今回の取材に向けて下調べを行っていた際、とても興味深いものを見つけました。前作『AION』が2009年に公開したコンセプト映像の、「AION VISION」をご存じですか? コレなんですけど(※と言って、ノートパソコンで以下のYouTubeを見せる)
キム氏:
うわ! 懐かしいですね。その動画が公開された当時、僕も開発チームにいましたよ。
──私は2009年のG-STAR会場でこの映像を見て、驚くのと同時に、疑ってもいました。「いくら『AION』だからって、こんなすごいことはできないでしょ」って。NCSOFT本社の懇意にしている担当者にも、そう伝えました。彼も頭を抱えていましたけど。
キム氏:
私もよく覚えていますよ。当時、この動画を見ながら開発チーム内で、「は? これを俺たちが作るの? 無理無理!」とか言い合っていましたから(笑)。
──でも、あれから16年が経ったいまは、あの映像で描かれていたことの大半が実現しているんです。水中での冒険も、ハウジングも、グラフィックスのリファインも。あのときのNCSOFTは、本気で言ってたんだなと。
キム氏:
そうですね。あれを実現するために、みんな必死になっていました。
技術的な壁を乗り越えられずに、諦めざるを得なかった部分もありましたが、年月が経って技術が発展し、繰り返しチャレンジし続けることで実現できたものもあります。
いま振り返ると、あの動画のお陰で頑張ってこれた部分も大きかったのかもしれません。あの動画で描かれていたビジョンは、我々にとっての羅針盤のような存在だったんですよね。
──私はその経験があるから、NCSOFTが強く思い描くビジョンは、いつかきっと現実になると信じています。そして昨日の発表会に参加しながら、皆さんが「AION VISION」を公開したときと同じ気概を持っているんだろうなと感じていました。そのことだけは、どうしても今回のインタビューで直接お伝えしたかったんですよ。
ソ氏:
……まさか日本から来られた記者さんから、そのようなお話を聞けるとは思いませんでした。ありがとうございます。

──それでは、最後の質問です。いよいよ『AION2』の正式サービスを開始するにあたり、「AION2 VISION」を聞かせていただけますか。
キム氏:
……その質問は「重い」ですね。
最も強く考えているのは、グローバルのMMORPG市場において、パラダイムシフトを起こすことです。
たとえば、映画『アバター』には「パンドラ」という世界が存在します。人間は、あのパンドラにいるキャラクターを通じて、もうひとつの人生を過ごすことができる。 『AION2』にも「アトレイア」という世界が存在しますが、我々はその世界を絶えず拡大させたい。皆さんが本当にそこで「生きる」感覚を得て、心から住むに値すると感じてもらえるような世界を作りたいと考えています。
かつてのMMORPGジャンルの醍醐味は、単なる娯楽ではなく、「もうひとつの自分の人生」を楽しめる部分にあると私は思っています。『AION2』が、多くの人にとってそれだけの価値を持つ世界となれば、それ以上の喜びはありません。
ソ氏:
先ほども話しましたが、『AION2』は、まずは韓国・台湾でリリースします。ですが、日本のことも忘れてはいません。
前作『AION』はいまも日本でも人気ですし、このインタビュー記事を見て、多くのファンが日本でのリリースを楽しみにくれることも重々承知しています。
近いうちに、日本の皆さんとお会いできる機会を作れればいいなと考えていいるので、ぜひ期待して待っていてください。よろしくお願いします。
インタビュー中、ソ・インソップ氏の口から出た「もし我々がうまくいかなければ、MMORPGというジャンル自体がなくなってしまうのではないか」という言葉は、冗談めいた表現のなかに、開発陣が背負う途方もない覚悟の重さを示していた。
スマホ向けMMORPGの成功法則が確立された今、「オートバトルなし」「ガチャなし」という道を選ぶことは、ビジネスの安定を捨てるに等しい。彼らの挑戦は、単に新しいゲームを出すというレベルではなく、グローバル市場におけるMMORPGの遊び方、そしてビジネスモデルそのもののパラダイムシフトを目指すものだ。
そして、その挑戦の裏付けが、16年前に掲げた前作『AION』の「AION VISION」という開発チームの「羅針盤」にあったという事実は、その決意の強さを裏付けている。あの壮大な目標を諦めず追求し続けてきたNCSOFTだからこそ、『AION2』で語られた「もう一つの人生」としてのMMORPGというビジョンは、単なる希望的観測ではなく、現実となり得る目標だと信じることができる。
『AION2』の挑戦が、今後のゲーム業界の大きなターニングポイントとなるのかどうか。その答えが出るのは数年後になるだろう。だが、彼らが勇気を持って手動操作とコアな遊び方を追求した事実は、「ゲーム本来の面白さ」を求めるすべてのプレイヤーにとって、重要な選択肢の一つとなるはずである。








