イラストレーターって、どういう職業なんだろう?
アニメ、マンガ、ゲーム、映画、SNS……さまざまな場所やコンテンツで目にする、華やかなイラスト。それを描くイラストレーター。「イラスト」文化の盛り上がりや、時代を取り巻く環境の変化を含め、イラストレーターそのものが人気の職業となっている昨今。
そんななかで、業界の最前線を走るイラストレーターは何を考え、どういった生き方をしているのか? 現代において憧れの職業ともなっている「イラストレーター」の裏には、どんな試行錯誤や哲学があるのか? そう考え、今回の対談が動き始めた。
そこでお話をうかがったのは、米山舞氏と、望月けい氏。
SNSや個展などの活動、ゲーム・アニメなどの数々のコンテンツで名を馳せ、名実ともに「トップイラストレーター」と言えるこのおふたり。実は以前から親交があるらしく……さらにほぼ同時期に個展を開催しているという奇跡的なタイミングを含め、今回の対談の実施に至った次第である。
そして対談のなかで見えてきたのは、もはや「武士道」とも言えるような、「絵を描く」ということへの哲学や精神力……正直、「これはもはやイラストの話じゃないのでは?」と思えてくるほどの、「クリエイティブ」そのものへの情熱と執念だった。
だから、イラストが好きな方にも見てほしいけど、同時に「クリエイティブに関わるすべての人」に読んでほしい対談となった……と、思う。なんというか、「侍」なのだ。仕事や技術というより、「イラストレーターの生き様」に迫る対談になってしまった。
また、米山氏の個展「YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”」、望月氏の個展「俗世」の紹介も記事の随所で行っているため、こちらも要チェックしつつ……ぜひ、このふたりの「生き様」を見届けてほしい。
聞き手/TAITAI・ジスマロック
文/ジスマロック
編集/実存
「イラストレーターの世代」って何?
──本日はよろしくお願いします。まず、米山さんと望月さんは親交があるとお聞きしているのですが、おふたりはどういった出会いがあったのでしょうか?
望月けい氏:(以下、望月氏)
私は、直接お会いする前から、もともと米山さんのことを知っていたんです。
それこそpixivなども見ていましたし、米山さんの絵がすごく好きで、尊敬していました。そんな憧れていたところに、「pixiv ONE」というイベントで、米山さんとライブドローイングをする機会があったんです。
そこで「米山さんが出られるけど、けいさん一緒に出ますか?」と聞かれて、その時に「米山さんなら絶対出たい!」と思ったんですけど……いま考えると恐れ知らずすぎますよね(笑)。
それこそ当時の米山さんって、イラストレーターたちからしたら「なんか急にすごい人が現れたんだけど……」とざわざわしているような存在だったんですよ。
米山舞氏:(以下、米山氏)
ええっ、そうなんですか?
私がイラストレーターとして活動を始めたのは2016年くらいだったと思うんですが、なんでその時期にイラスト界隈の人たちに知られていたんだろう?
──当時の米山さんは、まだTwitterなどで活動はされていなかったんですか?
米山氏:
当時はまだアニメーターとして『キズナイーバー』などを作っていた時期だったから、あまりTwitterで活動はしていなかったんですよね。
望月氏:
でも、そのときにはpixivとかにイラストを投稿されていたんですよね。
だから、イラストレーターの人たちは、その時点で知っていたんだと思います。

米山氏:
私は、そのライブドローイングに誘われたときは、もう全然自覚なく「あの望月けいさんとやれる!」みたいな気持ちでお受けしていました。もう、断る理由がないですよね。
望月氏:
うれしいですね……でも、いま思い返しても、「あの時、米山さんの隣に先陣を切って出られる若手は何も考えてなかった自分くらいじゃないか?」と思いますね。かなり馬鹿みたいに怖いもの知らずな感じで、手を挙げさせていただきました。
米山氏:
私は、年齢はけいさんより年上なんですが、イラストレーターとしてSNSで活動を始めた時期が近いんですよね。
だから、私とけいさんは勝手に同期だと思ってます(笑)。
望月氏:
そうですね。
私は高校生のころに仕事を始めたので、イラストレーター歴で言うと長いのかもしれないのですが……ちょうど「イラストレーターとして有名になり始めた時期」が、このふたりは近いんですよね。だから、「同期」みたいな認識があります。
──プライベートなどで、おふたりでお話をされたりすることはあるのでしょうか?
望月氏:
それこそ、私はかなり我が強いから、なんか間違った方向に走っちゃいそうになったりして……それを米山さんが「落ち着いて」となだめてくださるんですよね。
米山氏:
一昨年くらいに、ここで「お互いが思っていることを聞く会」みたいなことがあったんですよね。
お互いのイラストレーターとしての「私はこう行く」という方針を話し合えて、最終的に「全員、村田蓮爾さん【※】にならなきゃいけないから頑張ろ!」という話で決着したんですよね。
一同:
(笑)。
米山氏:
とにかく、けいさんは「戦友」のような感じですね。
お互いの心中をさらけ出して嘘なく話せる相手は、やっぱり同業でもあんまりいないんですよね。でも、けいさんはそこを話せる相手だと思います。

イラストレーター、デザイナー。『青の6号』『LAST EXILE』『豪血寺一族』など、数々の作品にてキャラクターデザインを担当している。(画像はfuturelog -standard edition- (WANIMAGAZINE COMICS) | 村田蓮爾 |本 | 通販 | Amazonより)
──おふたりに「同世代」のような認識があるとのことですが、なにか「イラストレーターの世代感」のようなものはあったりされるのでしょうか? たとえば、米山さんと望月さんの前後の世代では誰がいらっしゃるでしょうか。
米山氏:
私たちの2世代上くらいが村田蓮爾さん、その上の世代で言うと、天野喜孝さん【※】くらいの人たちになってくるのかなと。
望月氏:
私のすぐ上は、三輪士郎先生【※】とかになるんじゃないかと思います。
ただ、私はあまり世代とかを意識したことがないので、そのへんはよくわからないですね……あえて区切るとしたら、そういう感じになるとは思うんですが。
※「天野喜孝」
画家、キャラクターデザイナー、イラストレーター。『ファイナルファンタジー』シリーズのキャラクターデザインを、1作目から務めていることでおなじみ。
※「三輪士郎」
漫画家、イラストレーター。漫画家として活動しながら、『セブンスドラゴン2020』、『ソウルハッカーズ2』、『Fate/Grand Order』の一部サーヴァントのキャラクターデザインなども担当。
米山氏:
これは私の個人的なDNA解析なんですが、『サイコ』の田島昭宇さん【※】やアメコミの影響があったのがDOGSの三輪士郎さんで、その三輪さんのDNAが入っているのが私と望月さんみたいな感じですよね。スミの入れ方的な部分など。
※「田島昭宇」
漫画家、イラストレーター。代表作は『魍魎戦記MADARA』シリーズ、『多重人格探偵サイコ』など。近年では、『Fate/Grand Order』のテスカトリポカのキャラクターデザインを担当している。
望月氏:
そうかも!
それはめちゃくちゃわかります!
米山氏:
田島さんと、小畑(健)さんと、浅田(弘幸)さんが組んでた「水瓶3」というグループがあったのですが、そこの方々もすごく好きで。ちょうど私は「Comickers」などを読んでそのへんの人たちを知っていたのですが……けいさんはもうちょっと後の世代ですよね? 季刊「エス」は読んでました?
望月氏:
私は、その世代の人たちは直接見てないんですよね。
「エス」も当時はそんなに読んでなかったし、あとから知ったような感じでした。
だから、私の場合は中学生くらいのころにTwitterができて、そこでほかのイラストレーターさんたちを見ていきましたね。
米山氏:
私はそこが直撃世代だったんですよね。
中学生くらいのころに、「エス」を読んだりしてました。
あとの世代の人たちは、けいさんが言ってくれたように、pixivとX(Twitter)になるんじゃないかなと。だから、おおまかに言うと、私たちは「pixiv・Twitter世代」だと思います。SNSを戦場にしてきた世代ですよね。

──その「pixiv世代」と「Twitter世代」では、なにか違いなどがあるのでしょうか?
米山氏:
絵の構成の傾向やリーチできる層に少し違いがあると感じます。
もちろん、けいさんはpixivでもご活躍をされていましたけど、どちらかというと私はTwitterの方が反響の実数などが目に見えて増えていった方だと思います。けいさんはどうだったんですか?
望月氏:
私は、先にpixivの方に投稿してたんですよね。そこからTwitterができて、両方にアップするような感じになっていきました。1年くらいpixivをメインに活動していたので、私としては「pixivもガッツリやったな」という感触があります。
米山氏:
けいさんが高校生のころにpixivに投稿してるイラストとか、もう望月けいでしかないですよ。当時からスタイルが一貫しているんです。
望月氏:
そのときに描いた『まどマギ』のイラストなどをキッカケに、いまでも一緒にお仕事をしている人に声をかけてもらったりしたので……自分としては、「pixivで認知されるようになったな」という感覚はありますね。

「慣れ」は、創作の敵になる──望月けいの中にある、「媚びたくない」というロック精神
──ちなみにpixivからTwitterに移るにあたって、なにかおふたりはイラストの見せ方や戦い方などを変えられたりしていたのでしょうか?
米山氏:
先輩、教えてください!
望月氏:
先輩(笑)
私は全然変えてないですね。
どちらも、基本同じ絵をあげています。
私は「描きたいものを載せたい時に載せる」というタイプだったので、「絵を載せる」ということに対してのプロデュースみたいなのも、そこまで考えていなかったかもしれないです。
米山氏:
アーティスト気質だ……。
私の場合、実はpixivで「米山舞」という名前ではない、別のアカウントでネタ絵師みたいなことをやっていた時期があったんです。そのときは、ちゃんと面白いネタを書いてランキングに載せていたりした……要するに、自分の表現したいことや絵柄がない時期にやっていたんですよね。
そのあと、アニメーターの動画をやっていた時代に「米山舞」としてのアカウントを作りました。そのころは新海(誠)さんや今(敏)さんに影響を受けていたので、レンズ感や被写界深度のある絵を描いたんです。それが結構イラストとして反響があって、「意外とこういったアプローチもいいのかも」という手応えがあったんですよね。

米山氏:
そんな感じでpixivをちょっとやってて、Twitterに移行していったので……うーん、私も変わらないと言えば変わらないんですけど。
望月氏:
変わらないですよね!
米山氏:
ただ、Twitterは「いいね」や「ブックマーク」などの実数を見て、「こういう傾向の絵が人気」と把握できる。私はどちらかというとTwitterの方が、感覚的に掴みやすかったですね。
──その「こういう絵が伸びる」という感覚は、なにか言語化されたりしているのでしょうか。
米山氏:
明確にあるのは、「顔の大きさ」「認識のしやすさ」「明暗差」ですね。
絵のトリミングに対する顔の大きさが、「認識できるくらいの大きさ」……だいたい1/8くらいですかね。そこより小さくしない。ただ、これは私がそういう構図が好きなのもあるんですが(笑)。
そこまで「Twitterだから」「人気が出るから」と意識しているわけじゃないんですが、元々アニメの認識しやすい絵柄なのもありキャラクターにフォーカスが集まるような作品を描きましたね。


望月氏:
それで言うと、私は「pixivとTwitterでわける」というよりかは、もう「SNSすべて」で考えているかもしれないです。「SNSに載せる絵」と「それ以外」で、やり方をわけている感じですね。
だから、SNSはトリミングを大事にしているのですが、それ以外の仕事や個展などに関しては、自由にやっています。
──やはりトリミングをすると、「パッと認識しやすい」「印象に残りやすい」といった効果があるのでしょうか。
望月氏:
そうですね。
SNSで目が止まりやすかったり、視線誘導をしやすかったり……スマホなどの小さい画面で見ても目が止まるように、色使いなどは結構気をつけていましたね。
米山氏:
けいさんの場合、「単色」の面積が多いじゃないですか。
その鮮烈さみたいなものは意識しているんですか?
望月氏:
それは意識するときと、そうじゃないときがあって……私は、「常に伸びたい」わけじゃないんですよ。望月けいのなかに、「媚びたくない」という気持ちがあるんです。
「詫び」というか、「奥ゆかしさこそ、美しさ」みたいな気持ちがあって。私としては「SNSのウケを狙いに行かないことがカッコいい」みたいな意識があるんですよ。
米山氏:
おっ、望月けいが出てきた!
一同:
(笑)。
望月氏:
たとえば、「最近派手な絵ばかり描いていたから、ちょっとクールダウンして侘び寂びの入った絵を描こう」と思うときがあって。自分のなかで「なんかテンション上がりすぎかも?」と感じると、絵のテンションを下げたくなるんです。
だから、ずっと派手な色を描いていたら、一旦すごくモノクロトーンのような灰色がかった絵を描きたくなったりします。そんな感じで、自分のなかで「ちょっといま調子乗りすぎだぞ」みたいな気持ちになる瞬間があるんです。

米山氏:
じゃあ、けいさんは常に「自分との戦い」であって、お客さんの動向を分析しているわけじゃないんですね。
望月氏:
結局は「自分がなにを描きたいか」「トータルでどういう絵描きでありたいか」という部分を重視しているので、それによって戦略がどうこう……みたいなところは、結構二の次ですね。自分が「良い」と思う絵描きでいることが最優先なので、SNS運用もそうでしかないというか。
米山氏:
最近のけいさんはそう感じるけど、高校生のころからそんな感じなんですか?
望月氏:
結構そうかもですね。
昔は「数字が伸びたらいいな」みたいな感覚もあったりしたんですが、やっぱり「カッコよくありたい」という気持ちは一番最初から隣り合わせだったんです。私はロックバンドが好きなので、「ロックでありたい」という気持ちがあって……その「ロック感」を常に持っていたいんですよね。
だから、「これをやるのはロックじゃないな」と思っちゃうんですよ。
常に数字を追い求めて、自分が描きたいものから外れるのはロックじゃないよな……と。結局SNSの運用も、「客観的に自分のアカウントを見て、かっこいいと思うかどうか」なんです。

──望月さんの、その「ロック精神」みたいなものは、もうちょっと詳しくお聞きしてみたいです。どういうときに「ロックじゃない」と思われたりするのでしょうか。
望月氏:
自分の絵に対してだけですが、「人が流行らせたものに安易に乗っかるのが好きじゃない」というのはありますね。
あと、「パターン化したくない」というのもあります。
自分がそれを作り出していたとしても、「これを描いておけば伸びる」というのはやりたくない。そういう方程式が自分のなかで浮かんだら、その逆をやりたくなるんです。だったら、その方程式に頼らない方法での「伸び」をやりたくなるんですよね。
「慣れ」って、やっぱり「創作の敵」だと思っているんです。
手慣れで書き始めたら、どんどん楽をしちゃう。私、この世で「楽」が一番嫌いなんですよ。楽をしたくないんです。「茨の道に自分から向かっていきたい」という気持ちがあるから、楽じゃない道を選びたいんですよね。
米山氏:
そういう話は、けいさんと常々しますよね。
それが「楽」かどうかは置いといて、なにかしらの「狙い」があるのも良さだと思うし……いろいろな考え方を含め、みんながちゃんとそれに向き合っているのはいいことですよね。
考えるのをやめたら、死ぬ……創作においては終わりになってしまうから、常にそこを考えましょうねという話は、けいさんとよくします。私自身、業界の未来のこととかを考えるのも好きなので。
望月氏:
「思考」をしたいんですよね、常に。
米山氏:
けいさんはそこがブレないですよね。


