化け物級の「小細工のなさ」──イラストに新しい文化を作った、米山舞のすごさとは
──ちょっと話が逸れてしまうのですが、望月さんと米山さんがお互いのイラストやスタイルをどのように見ているのかもお聞きできればと思います。
望月氏:
米山さんの絵からは「常に追求している」ことが見て取れるんですよ……その「ラクしなさ」を含めて、私は本当に尊敬していて。
やっぱり絵を見れば、その人がどういう気持ちで絵に向き合っているのかが結構わかるんです。米山さんの絵は、「この人は、本当に思考をサボっていないんだ」というのが伝わってきます。常に最善を目指していたり、「いいものを作ろう」という気概が、米山さんの絵はずっと走っているんです。
私も走っているつもりではあるんですけど、米山さんはもっと早く走っている。「私、結構いま頑張って走ってきたんじゃないの?」と思って米山さんの方を見てみたら、すごい遠くにいる……その「常に全速力で走って、思考している」ことが絵から伝わってくるんです。
それ以外にも、この業界のことを考えたり、新しいことを開拓していたり……同時にいろんなことを考えながら続けているのが、めちゃくちゃかっこいいなと思うんです。それが絵に現れているところが、米山さんの大好きなところで、ずっと尊敬しているところです。
──その「米山さんのすごさ」を絵的に分解すると、どういったところになるんでしょう?
望月氏:
さっき米山さんが、「新海さんにハマっていた時期に、被写界深度を取り入れたイラストを描いた」という話をされていたと思うんですが、米山さんはああいったカメラ的な演出や、アニメの表現をイラストに取り入れた第一人者だと思うんですよね。
米山氏:
「概念をちょっと持ち込んだ」みたいな感じですね。
望月氏:
その「絵の新しい文化を作った」というのも、すごいことだと思います。

望月氏:
あと、これもさきほど「強い色を使った方が、数字が伸びやすい」という話があったと思うんですが、米山さんはそういうことをされないんですよね。米山さんは、「真の絵力」で勝負をするから、本当に「絵が上手い」ということでめちゃくちゃ伸びてる人なんです。
米山氏:
私も使えたら使いたいですよ!
色が苦手なだけなんです!
一同:
(笑)。
望月氏:
でも、そういうことを凌駕する「絵の上手さ」と、アニメーター時代から培われてきた空間把握やデッサン力などで、直球で戦っている……ちょっと本当に化け物級の「小細工のなさ」というか。
そりゃあ、絵描きはみんな「自分の絵の上手さ」で勝負したいとは思うんですけど、それができないから、いろいろな戦略を考えたりします。でも、米山さんは戦略が必要ないくらい、とにかく絵が上手いんです。
米山氏:
「小細工のなさ」というのは、すごくうれしい言葉ですね。
逆に「小細工ができなかったからそうなった」とも言えるんですが、私としてはめちゃくちゃうれしいです(笑)。
望月氏:
あと、米山さんは自分の絵や表現を磨くことにプラスして、この業界のことを考えているのがすごいと思うんです。
私も、常々「イラストレーター業界がよい方に向かうといいなあ」とは思っていて、自分からいい文化や流行りを作ろうと思って、動いていたりはするんですけど……米山さんは、さらにイラストレーター界の骨組みから新しいものを作ったりしているんです。
たとえば、いまは定着している「イラストレーターの個展」も、米山さんが「イラストレーターってこういう個展を開いてもいいんだ」「印刷とこういう親和性があるんだ」といった道を切り拓いたんだと思うんです。
その骨組みの部分から、業界をいい方向に向けて引っ張っているのがすごく尊敬しているところです。そこがカッコいいなと思いますね。
米山氏:
なんか恐縮です……ありがとうございます。
──その「業界を引っ張る」ことを、米山さんはかなり意識されているのでしょうか?
米山氏:
どちらかというと、私は目の前の「課題」に対して毎回全力で当たるタイプなんです。
まず「いまはこういうのが多いよな」「じゃあ違うことをやろう」という課題を決めて、それを毎回アップデートしていくような感じでした。だから、ちゃんと「業界全体を盛り上げたい」と思ったのは、本当にここ2~3年くらいのことですね。
それこそ、最初に個展を開いたときは、「飾り方や売り方から考えた方がいいよね」と考えて、それを毎回毎回工夫していったようなだけで……初めから「業界を変えたい!」と思っていたわけではないですね。だから、まあ年齢的なものだとは思います(笑)。
でも、それをやっているのは私だけじゃなくて、けいさんがこうやって前に立って、お客さんやイラストレーターみんなの希望の星になること自体が、業界を盛り上げているんですよね。何回も言っちゃってますけど、けいさんはそこも含めて「戦友」という感じがします。


──米山さんから見た、望月さんの絵の印象もお聞きできればと思います。
米山氏:
いまでこそ、「キャラクターイラスト」ってすごく多いんですが……ちょっと前までは、背景で世界観を表現するような「背景主体」の絵が多かったところを、けいさんは高校生のころから「キャラクター主体」の絵を描いているんです。
つまりキャラクター自体が被写体で、ちゃんとそれを平面構成している。
いまの感覚からすると「それが何?」と思われるかもしれないんですが、けいさんは結構最初にそれをやり出した方だと思います。モチーフが変わったりはしているけど、それが一貫してブレていないんですよね。
そのうえで、キャラクターを彩るモチーフなども、すべて平面構成の中で描いている。それが、実に「日本画っぽい」というか……ひとつの「望月けいを、望月けいたらしめるもの」になっているし、そうなれているのがすごいなと思います。
望月氏:
わぁ~……うれしい……!
米山氏:
もっと簡単な話で言うと、「引き算」がめちゃくちゃ上手いのかなと思います。
粗密のバランス……「すっごい物がゴチャゴチャしているのに、下は履いていない」とか。けいさんは、そういうフェチがあると思うんです。「キャラクターアートの真骨頂を、嫌でもやる」ということをすごく突き詰めて、それが上手くいっているように感じますね。
つまり、「フェチい」というところですね。
望月氏:
以前、米山さんとPALOW.さんと話してるときに言われて、すごく覚えていることがあって……「オタク絵を初めてかっこよく描いたのが望月けいだ」といったことを言ってもらえて。それがすごくうれしくて、ずっと覚えているんですよね。
米山氏:
この人たち分析厨なので……(笑)。
でも、本当にそうなんですよね。
昔の絵にも、「ニワトリ」や「花」といったモチーフがあったと思うんですが、現代の絵のモチーフはやっぱり「キャラクター」になっている……けいさんは、そのキャラクターの身体や線を魅力的に見せることを突き詰めている感じがします。そして、線や粗密も、そこに集約している。
「こういう線取りをしたら、キャラクターはこう魅力的に見えるだろう」ということを突き詰めたうえで取捨選択をして、けいさんにとって「美しい」と思うもの……自分の思う「美しさの最適解」を出すことにすごく誇りを持っていそうだなと。それがいまでも変わっていないのが、すごいなと思います。
キャラクターイラストに絶対欠かせないのは、「〇〇ない」こと
米山氏:
私は、勝手に「けいさんの絵は、90年代初期アニメのキャラデザっぽい」と思っているんですよね。もしかしたら、けいさんはそんなに意識してないかもしれないんですが……私はもう、ずっと初期から「ことぶきつかささん【※】や石田敦子さん【※】の香りがする」と思ってます(笑)。
※「ことぶきつかさ」
漫画家、キャラクターデザイナー、アニメーター。『セイバーマリオネットJ』や『アキハバラ電脳組』などのキャラクターデザインを務め、近年では『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のキャラクターデザイン・作画監督なども担当している。
※「石田敦子」
漫画家、アニメーター、イラストレーター。『勇者特急マイトガイン』や『魔法騎士レイアース』のキャラクターデザイン・作画監督を務め、近年は漫画家としても活動している。
望月氏:
でも、私もアニメの『レイアース』とかの再放送を見て育っていたので、たぶん無意識下で影響されているんだと思います。
米山氏:
なるほど〜。
キャラクターイラストにおいては、頬や手の輪郭線を強調して太くするような……一見なんでもないと思えるところでも、「線のコントロール」がすごく大事だったりするんです。けいさんは、そこの記号化と「カッコよくする仕方」を突き詰めていて、それが好きな人にもちゃんと刺さっているんですよね。
それが、上條さんや田島さんや三輪さんの提示してきた「かっこいいロックな雰囲気のイラスト」とすごく近いなと思うんですよ。以前、けいさんから「ロックバンドが好き」という話を聞いたことがあるんですが、そういう意味では、本当に「ブレないものを提示するアーティスト」なんだなという感じがします。
望月氏:
私は、「イラストレーターだけど、イラストレーターという枠でのアーティストでありたい」と思っているんです。
だから、そう言っていただけて、めちゃめちゃうれしいです……!
米山氏:
新しい絵を見ていても、どんどん「引き算」が上手くなってる感じがしますよね。
やっぱり、絵が上手くなると足しやすくなるんですよ。で、足したあとにゲシュタルト崩壊するパターンが多いんですが、けいさんは「まだ引くか」と思うくらいに引きますよね(笑)。
でも、それって同時に「誰よりも足しているから」だと思うんです。
つまり、「足した先に引ける」というか……そのうえで、「ここはちょっと描かずに驚かせちゃおう」「顔の色を変にしちゃおう」といった工夫を入れて、見てる人も楽しませようとしてるんじゃないかなと思います。
どちらかというと、けいさんは「自分が気に入るか気に入らないか」を大事にしていて、自分の一番のお客さんが自分なタイプだとは思うんですが、結果的にお客さんも「あ、こう来るか」みたいな発見をしているんじゃないかなと。

米山氏:
そして、キャラクターイラストに絶対に欠かせないのは、「一貫してブレない」。つまり、「顔が崩れない」ことです。
私も、そこは実はめちゃくちゃ大事にしているんですが……キレイな顔やカッコいい顔を描き続けるのってすごく難しいことなんです。それを連発できるのは、けいさんの純粋にすごいところですよ。
──「カッコいい顔を描き続ける」のは、具体的にはどういう難しさがあるんでしょうか?
望月氏:
顔は、本当に1ピクセルで印象が変わったりするから、そこを常にコントロールしたうえで一番いい状態に持っていくのは……かなり難しいですよね。
米山氏:
あと、自分の絵が最高だって信じきってないと、結構難しいです。
なぜ、私がカッコいい顔を描くのが難しいかというと、アニメーターとしていろんな人の絵柄を描き分けてきたからなんですよ。つまり、「カッコよさ」ひとつ取っても、自分のなかに「価値観」が多いんですよね。
もちろん、いろんな絵のDNAが入っているのはいいことでもあるんですが、平均的になりやすかったり、まとまりやすかったりしちゃう……実は悪い方にも転ぶんです。カッコよさを描くためには、「自分がこの絵柄が大好きなんだ」といったブレないものがないと、たぶん嘘になっちゃうじゃないですか。
だから、私は「カッコいい」とか「かわいい」を描き続けられるのがすごいなと思うんです。けいさんは、その「好き」を信じて、ひたすら描き続けていますよね。自分の絵柄がちゃんと好きなのは、めっちゃ大事。
望月氏:
なんとなく自分のなかで「黄金比」みたいなのがあって、それに沿って描くのは大事にしていますね。
米山氏:
顔のバランスで、「一番影響を受けた黄金比」とかってあるんですか?
望月氏:
色々あるけど……やっぱり錦織(敦史)監督【※】かな……。
『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』や『THE IDOLM@STER』などが描かれている錦織監督の画集があるんですが、その画集をめちゃくちゃ見ていたんです。だから、錦織監督の描く「顔のバランス」にはすごく影響を受けていると思います。
斜め顔がすごくかわいかったり、「こんなに目をズレさせてもいいんだ」とか……。

アニメーター、キャラクターデザイナー、アニメ監督。『天元突破グレンラガン』や『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』などでキャラクターデザインを担当し、『THE IDOLM@STER』では監督を務めた。(画像はAmazon.co.jp: 錦織敦史 アニメーションワークス Telegenic! : 錦織 敦史: 本より)
米山氏:
錦織さんは、キャラが45度を向いているとすると、「奥の目は縦に伸びるけど、手前の目は横に伸びる」というバランスなんですよね。
まさに、画集の表紙のパンティがわかりやすいですよね。普通の人はもっと右側に目がつくはずなんですが、奥の目が縦に伸びている。ちゃんと後頭部が圧縮されて、目が耳に近い。
望月氏:
アニメーションのデフォルメですよね。
それにすごくカルチャーショックを受けて……アニメの絵のバランス感みたいなのにハマったんです。
それこそ、米山さんの絵も、斜め顔の目の位置……あの「顔の立体に目がしっかりついていってる感じ」を見たときに、ちょっともうカルチャーショックを受けたんですよね。
横にも斜めで、上にも斜めの「二重斜めの顔」って本当に難しいんですけど……米山さんがひとつの正解を出してきたときに、「うわあー!!」と思って。あれも黄金比だなと思います。
米山氏:
それこそ錦織さんの前は貞本(義行)さん【※】ですし、アニメーションが出してきた「デフォルメの記号の正解」というのが、私たちイラストレーターにも大きな影響を与えていると思います。
※「貞本義行」
漫画家、アニメーター、キャラクターデザイナー。『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『フリクリ』などのキャラクターデザインを務めている。『エヴァ』を筆頭に、現代のキャラクターデザインに大きな影響を与えたと言われている。
絵描きは、生きてきた環境で「好きな色」が変わる?
米山氏:
あと、けいさんの絵は「色」もカッコいいですよね。
けいさんの色使いは、「キャラクターの肌は、肌色で塗るべき」みたいな、変な神話を崩そうという気概を感じるんです。「別に、灰色とか白でもいいじゃん!」みたいな。
望月氏:
昔、ほかのイラストレーターの方に、「(当時は)黄色めの肌色を塗る絵が多かったところに、けいさんはピンク色の肌色で塗ってきたのが驚きだった」と言われたことがあるんです。自分としては、何気なく「ピンクの肌がいいな」と思って塗っていたんですが、それが当時は新しかったと思ってくれたそうで。

望月氏:
肌色は、キャラクターの絵においても「主」になる色……そして、みんな共通認識がある色だと思っているんです。青色や赤色は、「自分が思い描く赤はこれだ」と思っていても、ほかの人はちょっと違う赤を描いていたりするんですが……肌色と白と黒は、みんな結構共通の色味なんですよね。
つまり、逆にその共通認識の色をブレさせることで、なにか面白い表現ができるんじゃないかと思っていたんです。だから、「肌色と白と黒にこだわる」というのは昔から続けていますね。
──望月さんの絵は、全体的に灰色っぽかったり、「淡い彩色」のイメージもあるのですが、あれはどういった意図があるのでしょうか?
望月氏:
最近わかったことなんですが……たぶん、幼少期の影響があります。
これは私の持論なんですが、「絵描きは自分が生きてきた環境で、好きな色や絵に使う色が変わる」と思うんです。たとえば、幼少期に窓からすごく緑が見える家に住んでいたマンガ家の方が、いまでも緑の絵を描くのが好き……といったことをおっしゃられていて。
それで、私も実家の周りや風景を思い出すと、すごく「灰色」を思い出すんですよね。なんか灰色っぽい家が多かった。
米山氏:
家はコンクリートだったんですか?
望月氏:
そうなんです。
私の実家も灰色の壁だったし、地面も黒っぽいコンクリートばっかりだったので……実家のことを思い出すと、すごいモノクロ感がある。おそらく、私が灰色が好きなのはその影響があるんです。感覚として、世界をちょっと灰色だと思っているんですよね。

──どちらかというと、彩色が派手めなイラストが流行っていた時期もあったと思うんですが、望月さんはその時期に淡い色で登場してきたような印象がありました。
米山氏:
けいさんの高校生時代の絵を見ても、黄色にちょっと灰色を足すような、ちょっとこっくりした色使いで……それが続いて、いまに至る感じですよね。いまは、その同系色や無彩色のなかに、バーンと強いバイオレットやレッドが入ったりもしますけど。
だから、昔から「一番鮮やかな色からは、少し彩度を下げたりする」のが、けいさんのイメージなんですよね。そこにも、すごく「和の心」みたいなものを感じます。
望月氏:
そういう色が好きだったんですよね。
あと、「鮮やかな黄色って、この世になくない?」と思ってしまうんです。
──それはどういう感覚なんでしょう?
望月氏:
あまり自分の目で見たことがないというか……「鮮やかな黄色で作られても、この現実というフィルターを通すと、ちょっと色が下がるじゃん」と思っていたのかもしれないです。
真っ黄色に印刷されたものも、現実の空気や自分の目を通すと、色味が落ちてしまう。スマホなどの画面で見る「真っ黄色」がそのまま現実に出てくることはないな、という感覚が昔からあったんです。だから、そういう色を使ってたんですよね。現実主義なのかも?
米山氏:
色彩感覚バツグンで、羨ましいですよ(笑)。
一同:
(笑)。
望月氏:
米山さんは、色の感覚はどうですか?
米山氏:
やっぱり苦手なんですよね、色って。
私が得意としているのは、どちらかというとコントラストや陰影のバランスで……色選びの調和は本当にその人の好みやセンスだと思うから、そんなに培っていない部分なんです。だから、わかりやすく光と闇の影の色(コントラスト)で色を作っていますね。
あとは、視線誘導で色を使ったりするくらいで……逆に「デジタルっぽい色」を使っちゃうかも。
望月氏:
最近の米山さんの絵で、ピンクを使った制服の女の子のものがあったと思うんですが……あれを見たときには「あ、すごい珍しい色を使われてる」と思ったんです。

望月氏:
それがキャンディーっぽい色合いで、すごくかわいかったんですよね。私は全然使わない色だったので、「米山さんはこういうピンクを使われるんだな」と思ったりしました。
米山氏:
言ってしまえば、私は結構ブレやすい方なんですよね。
「自分の絵」というより、そのときに思っていることや、テーマに対して最適なものを選んでしまう。それこそピンクの絵は、「自動描画に対する人間の絵作りにおける代替性」という主題をシリーズ3作品で違う素材、違う色、塗り方で作っていました。だから、絵の内容自体の「押しの強さ」みたいなのが弱い方なんです。
そこは、やっぱりけいさんがいつも羨ましくて……どの案件ですら、「望月色」にしてしまうというか。仕事においてもそういうスタンスなのが、羨ましいですよね。
もちろん、クライアントもお客さんもそれを目当てに来てるわけだから、「なんかめちゃくちゃ美味い肉がある店と聞いて来たんだけど、本当に美味い肉があった!」みたいな感じじゃないですか。そして、毎回同じおいしさの肉を届けてくれる。そこがすごいなと思います。
望月氏:
「美味い肉があると聞いてきました」と来てくれたなら、さらにそういう人たちを驚かせるくらいには美味い肉を出そうと思って、いつも頑張っていますね。
米山氏:
本当に、ずっと「美味い肉屋」をやり続けてるのがけいさんのすごさなんですよ。
パンツを履いてしまうと、「履いている」ことに目が行ってしまうから、「履かせない」ことでなにもなくする
──さきほど、「望月さんは引き算が上手い」という話題が出ていましたが、絵の足し引きや情報量の観点だと、おふたりはどういったところを気にされているのでしょうか。
米山氏:
私は、「足していっちゃうタイプ」の典型例なんですよね。
「あればあるほどいいよな」と思ってしまいます。
ただ、私の絵の情報量の出し方は、映画やアニメ由来のものでもありまして……なにかストーリーがあったとして、そのストーリーを一番適切に伝えられる画角と情報量を算出して描くような感覚なんですよ。だから、狙いはすごくつけて描くけど、描くときは冷静さを失って、手癖で描くんです。
たとえば、「右側にキャラを描く」という狙いがあったとして、そこをクリアしたあとに情報量を足していく感じです。全体の印象は絶対に変えない……そこが変わってしまうと、視線の誘導や計画が狂ってしまうから、そこを変えずに足せるところは足す。自分が気持ちいいところまで描いてみたりする。
それに対して大雑把なところもあるので、描かずに省略しちゃうところもあります。
要するに、「なんかいい感じだぞ、この絵」と思えるところまで描くだけですね(笑)。

望月氏:
米山さんと、最初の入りはちょっと近いんですけど……私は、最初に「描きたいもの」があるんです。私、描きたいものをとにかく見せたいんですよ。
昔、クライアントさんに「けいさんの絵って、顔と手がデカいよね」「等身が低めだよね」と言われたことがあるのですが、それはたぶん私が顔と手を描くのが好きだからなんです。だから、無意識下で大きくしちゃう。
その顔や手を含めて、描きたいものを、「見て!」と伝えるくらいとにかく描いて、それ以外のものはなくてもいいくらいの気持ちで減らしていくんです。
だから、さっき話題に出ていた「パンツを履かせない」とかも、どんどん情報量を減らしていく過程で「そこは見なくていいです」と思っている部分なんですよね。私としては、もう必要のないもの・見なくていいものなので、描いていないんです。
米山氏:
じゃあ、履いてないのが好きなわけじゃなくて、そこは見なくていいから描いていないんですね。
望月氏:
いや、履いてないのも好きなんですよ!
一同:
(笑)。
望月氏:
もちろん履いていないのも好きなんですけど、同時に情報量としてのマイナスでもあるんです。
パンツを履いてしまうと、「履いている」ことに目が行ってしまうから、履かせないことで、なにもなくする。そして、なにかある部分に目が行くように誘導しているんです。下はないけど、上はかっちりしたものを着ているところに目が行くような……。
だから、私は「背景」に関しても、ガッツリキャラを描いたら、背景はなにも描かない絵があったりするんですよね。あれは、キャラ以外はなにも必要がないから、背景も描いていないんです。それ以外は、とにかく描かない。極限まで減らしています。

望月氏:
キャラに関しても全体的に灰色っぽい絵のときは、「これはもう線画だけを描きたいから、色は見なくていいです」と思って、色を増やしていなかったり、影をつけていなかったり……いろんな方向からどんどん情報を減らして、自分が見せたい部分が際立つように、それ以外を削っていきます。
だから、情報量のコントロールとしては、「見せたいものだけを描く」のが好きですね。

