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イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか? 絵描きの最前線を走る、米山舞と望月けいに聞く「イラストレーター」という職業の生き様

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いま、イラストレーターはどう生きていけばいいのか?

──イラストレーターにも世代や歴史のような文脈があって、そこから作品が世に出ていると思うんです。おふたりはなにか絵を描くにあたって、そこまでの文脈やストーリー性などは考えられるのでしょうか? 音楽やプロレスなど、そこまでの文脈を伴ったうえで形作られているエンタメもありますよね。

米山氏:
私は、いま挙げていただいたジャンルに比べると、イラストレーターの歴史……主に現代の「デジタルキャラクターアート」の歴史は、まだまだ浅いと思っているんです。でも、そのなかで文脈を込めたり、ストーリー性を持ったナラティブを作っていくことは、大事だと思っています。

むしろ、「その文脈を作り始めないと」と思っているのが、けいさんや私で……「誰かがこれを語り継いでいかないと」という思いは、自分のなかにあります。ただ、私のなかにはあっても、現状それが熱狂の渦にあったり、誰もが言っているわけではないと思います。

なぜかというと、イラストレーターは歴史も事象も事件も、起こっていることが少ないんですよね。だから、これからなんじゃないかと思っています。

望月氏:
イラストって、ほかのコンテンツに比べて、情報量が比較的少ないんですよね。

だから、「いちコンテンツとしての強度が少し低いな」とは思っていて……アニメ、マンガ、音楽、アイドルといった、いろいろな世のコンテンツのなかで、イラストはひとつの作品の情報がすごく少ない。

その分、速度感が速いのはあるんですが……

米山氏:
そうですね。
目の情報が一番速いから、それだけ情報の消費も早いんです。

望月氏:
だから、イラストは「作品ひとつで、感情がすごく動く」みたいなことが、ほかのコンテンツに比べると薄い……その原因は、情報量の少なさだと思うんです。そう考えると、文脈などをもっと強めていかなきゃいけないなとは思います。

──ただ一方で、イラストの「消費の早さ」であったり、目でパッと情報が入ってくるところが、いまのSNSの環境にマッチしたことで盛り上がっている側面もありますよね。

望月氏:
私個人としては、「それに頼りすぎているかもしれないな」と思うんです。
私は、この世で自分自身を含めたイラストレーターが一番許せなくて……。

──ど、どういうことですか?

米山氏:
「俗世」っぽくなってきたぞ~!

一同:
(笑)。

望月氏:
私のなかでは、SNSでのイラストの瞬発力や、一撃が強くなりすぎている……同時に「SNSとマッチしすぎているな」という気持ちがあるんですよね。

私は描きたい絵が描ければ、あとは別になんでもいいとは思うのですが……SNSでの反響があればあるほど、仕事のクライアントさんには、その数字を献上することができる。それが多ければ多い方がいいとは思うけど、それは「仕事において」でしかない。でも、いち絵描きとしては、「反響の大きさ」がすべてではないと思うんです。

だから、この世の中として考えると、私は「楽をしない主義」の人間なので、なんかもっとイラストレーターの境遇はツラくてもいいんじゃないかなと思ったりは……。

米山氏:
なるほど、リターンが大きいぶん消費も早いから、いま瞬間風速でみんなはインセンティブを得られるけど、将来的には真っ暗なんじゃないか……ということですかね?

望月氏:
そう、そういうことです!

将来的なことを考えたら、もっと「地固め」をしっかりしなきゃいけないとは思うし、いまからその気持ちを持った方がいいとは思うんです。

ただ、別にそれを世に押し付けたいわけじゃないので、世の中の人は好きにしてもいいとは思うんですが……私個人としては、SNSとイラストの相性はいい面もありつつ、悪い面もあるなと思っています。

──ちなみに、望月さんはどういう形で「文脈」を考えられているのでしょう? なにか連続性やシリーズ性を持った作品だったりされるのでしょうか。

望月氏:
なにかシリーズや連続性のあるものを作ると、その表現のファンがつきますよね。ただ、それって私のファンではなくて、そこの「連続性」の部分にファンがつくだけで、そこから外れた絵を描いたときに、そっちの絵を見てくれないと思うんです。

だから、私は「望月けい」というものに、ファンや世の中がついてほしくて……望月けいという存在についてくれれば、仕事の絵を描いても、趣味の絵を描いても、みんな「望月けいが描いた絵が好きだ」と思ってくれる。私が形作る「望月けい」という存在にファンがついてほしいですね。

──望月さんが描いているキャラや作品ではなく、「望月けい」そのものにファンを集中させたいんですね。

望月氏:
そうなんですよね……私が最終的にやりたいことは、「望月けい」という名前と存在がどんどん世に出ていって、私が理想とする「望月けい」が世に確立していくことなんです。

もちろん、「自分の好きな絵を描きたい」という思いはありながらも、最終的にはその「カッコいい絵を描いた、望月けい」が存在していることが最終目標なんですよね。

──なるほど……割と独特な考え方なんじゃないかと感じたんですが、米山さんはどう思われますか?

米山氏:
でも、最近はイラストレーターを含めて、少しタレント性を持ち出すというか……その人の一挙手一投足であったり、その人自身にフォーカスする動きはすごく増えたと思うんです。それこそVTuberをされる絵描きさんもいれば、ご自分が前に出られる方もいますよね。

やっぱり、どの職業も母数が増えると「ポップ化」「アイコン化」していくんですよね。
イラストレーターになりたい人が増えて、そこから見える個人の人柄などにフォーカスされていくのは、割と自然な流れで……実際に最近増えていますよね。

たとえば、昔のイラストレーターはいまともうちょっと意味合いが違ってて……本の装画や、ラノベに添える絵などの、「IPの内容を伝えるもの」が多かったと思うんです。

それがどんどん形態変化をして、いまは自己表現としてのイラストレーターが増えていますよね。けいさんは、最初からそういう志があったタイプのイラストレーターな気がします。

この話を先輩方に聞くと、「昔は表現するものが、アニメーションやマンガが中心だった」とおっしゃられていて。でも、いまは自分で発信もできるから、自然とその自己表現がイラスト単体でもなんとか成立するようになったんじゃないかと思います。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_023

米山氏:
だから、私の認識としては「どっちもある」感じですね。

要は、「人に頼まれて、なにかのために存在する絵」と「自己表現の絵」のどちらも成立できちゃう世の中だから、どっちもありますよね。だけど、いまは「絵のみ」でも商品価値を出せる部分があります。もちろん誰が何を描いているかは重要ですが。

それこそ昔にも、「絵単体で商売を成立させるのは厳しい」「IPやナラティブ(物語)が必要だ」と言われたことがあるんです。私は「たしかに」と思いつつ、「でも、面白そうだからやってみてもいいかな」と(笑)。

自分の場合、もちろんアーティスト性などもありますが、そこにデザインやプロダクトを織り交ぜてみたり、アニメの技術を取り入れてみたり……そうやってみたら、意外と絵のみでも商品価値が出たり、成立するんじゃないかなと思っていました。

つまり、ここまでの「絵のみでは成立しないかもしれない」「でも、そうじゃないかもしれない」という思考錯誤に、私のナラティブやドラマがあるじゃないですか。そこに、注目いただいていると思うんです。けいさんと同じく、私のやることなすことにドラマがついてきて、そのファンがいる……という構図が、いまは成立しますよね。

──それはやっぱり、SNSの発信力などが伴って成立する、新時代のイラストレーターのあり方ですよね。

米山氏:
もちろんです。

それこそ、昔から活動されているイラストレーターさんに話を聞くと、そもそも「出版社に電話をして仕事をもらう」「紹介してもらう」「たまたま知り合いで」といったことが普通だったみたいなんです。どうやって仕事をもらうかも、横の繋がりでしかない。

でも、インターネットやSNSには横も縦もないから、いいものがあったらすぐに声がかかる。連絡したい人がいたら、上下関係なくお願いできる。そういう時代感は、めちゃくちゃ後押していると思いますね。

──雑誌などからネットの時代にかけて、そこの力関係が変わってきたんですね。

米山氏:
あと、「キャラクター」の存在もすごく強いですね。

日本は、そのキャラクターにみんなが魂を乗せる……「偶像を崇拝する」ということ自体が、お国柄として得意な国だと思うんです。それに対してお客さんが熱狂したり、価値がついてきたりすることのすごさは、この仕事で実感しています。

だから、イラスト文化がどこまで行くかはわからないんですけど……同じモチーフや絵柄を描き続けていくと、そこにファンがつくことはあると思いますね。その「答えの出し方」や「一貫性」に価値があって、歌の「歌い方」にファンがつくように、絵だったら「描き方」や「表現の仕方」にもファンがつく。

けいさんはそこがずっと一貫しているから、その一貫性にファンがつくんだろうなと。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_024

──クリエイターのなかには、「自分じゃなくて作品を見てほしい」と考えている方もいらっしゃるとは思うんです。米山さんと望月さんは、そことはちょっと感覚が違うんでしょうか?

米山氏:
周りは、そういう方がすごく多いですよ。
いや……でも、けいさんはどっちもやれているイメージですね。

望月氏:
私は、偶像性というより……望月けいは自分であって自分ではないので、厳密に言うと「私を見てくれ」みたいなことではないんです。

私自身は、「望月けい」がこの世に顕現するために、裏でずっと走り続けている黒子みたいな存在なんですよね。私は、その「望月けい」という偶像がこの世に出て、絵を見ている人たちが崇拝してくれればそれでいいと思っています。だから、私自身がチヤホヤされたいわけではないんですよね。

──「望月けい」という偶像そのものが、ひとつの作品のようなイメージでしょうか?

望月氏:
まさにそうだと思います。
私は「望月けい」という作品を作っているから、見ている人はそれを見てくれたら……という気持ちですね。

絵で、人を恐れさせたい

──さきほど、「イラストは情報量が少ない」というお話があったと思うのですが、そんな情報量が少ないなかで「絵で人の心を動かす」ためには、なにが必要なのでしょうか?

望月氏:
それで言うと、今回の個展「俗世」は、人の気持ちを動かすつもりで描いたんです。

そして、絵で人の心を動かすには、「自分には描けない」と思わせることかなと思ったんですよね。他人にやれないことをやろう。私にしかできないことをやろう。そう思って、個展の絵を描いていました。

私は、常々「これはもう私にしかできないだろう」と思えることをやろうと思っていて……最初に話していた、米山さんとライブドローイングでご一緒したときにも、「米山さんの隣に立つのはすごく勇気がいることだけど、いまの若手だと無鉄砲に飛び込めるのは自分だけでは」と思っていました。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_025
望月氏の個展「俗世」の一部。

望月氏:
だから、今回の個展も、莫大な量を描き殺したんですが……「自分にはそれしか武器がない」と思っていたこともあるけど、同時に「ほかの人は、なかなかこの量は描けないかも」とも思っていたから、この量を描いたんです。

それをひとが見たときに、「こんな量を描きおろせるのは、もう望月けいくらいだろう……」と思ってくれたら、たぶんそこで心が動いてくれるだろうなと。だから、今回の個展で心を動かすために、私はそこを選んだんですよね。

米山さんは、どうされてるんですか?

米山氏:
うーん、どうなんですかね?

私はどちらかというと、結果としてお客さんに「感動しました」と言ってもらえていることが多いですね。一応、私としては、絵のなかで感情を循環させているというか……まず、「1枚の絵だと連続性や前後がないから、感動しない」という考え方を、一旦やめたんです。

ひとつの絵のなかで、そのすべての前後を予期できるような絵にしたいし、実際にしているから、感動が生まれているんじゃないかなと。だから、「前後を予感させるように誘導する」というのが、1枚絵でのやり方ですね。

そして、「実際に1枚の絵で感動できるかどうか」で言うと、できます。今回の展示は連続性を表現するためのものになってますので、大量にありますが……(笑)。

望月氏:
すばらしいですね……いまの米山さんの話を聞いていたら、「私は人を感動させたいわけじゃないのかも?」と思いました。

今回の個展で感じてほしかったのは、「畏怖」
つまり、望月けいという存在に畏怖の感情を持ってもらいたくて……。

米山氏:
恐れられたいんだ(笑)。

望月氏:
恐れられたいんですよね、私。

心を動かすという点で、「どう心を動かしたいか」と言うと、「恐れさせたい」んです。だから、感動させるというより……私は絵で恐れさせたいんですよね。それを米山さんは「感動させる」という形で描かれていて、それもめちゃくちゃ難しいと思います。

だから、たぶん「心の動かし方」が人によって違いますよね。

米山氏:
絵に限らず、なんでも「意図や想いによって作られたもの」だとわかるから、それが伝わった瞬間に人の心は動くんだと思います。クリエイターが考えるのをやめなかったり、そこに向き合い続けることで、自然とそれが絵に出るんですよね。きっと、その試行回数が絵に表れているんじゃないですかね?

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──逆に、おふたりが見て「心が動いた絵」はありますか?

米山氏:
自分はありますよ。
(歌川)国芳の滝行や雷とか……なんか「これが進んでいくとマンガでアニメでラノベだ」と感動したことがあって(笑)。ちゃんと物語の情報量を詰めたうえで、デフォルメ表現的を生み出しているんですよね。。

あと、速水御舟さんの『炎舞』という絵が好きです。
「たき火の上で、蛾が渦を巻いて飛んでいる」絵なんですが、なんかもう……完全に「アニメーション」なんですよ。

あれは掛け軸の絵だったと思うんですが、その縦長を活かして視線誘導をしながら、「動きのブレ」の概念もあるんです。それを見て、すごく感動しました。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_027
米山氏が言及している、速水御舟の『炎舞』。1977年に、国の重要文化財に指定されている。(画像は作品紹介 – 山種美術館より)

望月氏:
私の心が動いた絵は、葛飾北斎の『八方睨み鳳凰図』ですね。

お寺の天井に描かれた鳳凰図で、鳳凰の羽の丸い部分がこっちを見ているように見える絵で……絵の迫力がヤバいんですよね。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_028
望月氏が言及している、葛飾北斎の『八方睨み鳳凰図』。長野県の岩松院にて、天井画として現存している。(画像は八方睨み鳳凰図 – 曹洞宗梅洞山 岩松院|信州小布施より)

米山氏:
あの絵は、今回のけいさんの個展に影響を与えてるんですよね。

望月氏:
そうなんです!
めちゃくちゃインスピレーションを受けていますね。

私は、初めて『八方睨み鳳凰図』を見たときに「恐ろしさ」を感じて……あの丸い目のような部分が怖くて、まさに「畏怖」という感じだったんです。でも、何回も見ちゃうんですよね。動悸がするくらいに怖いけど、「絵のすごさ」で見てしまう。

だから、『八方睨み鳳凰図』はちょっと別格に好きな絵です。
あれは心が動きましたね。

米山氏:
やっぱり、作品がまとっているエネルギーやオーラとかって、その物に執着している当時の情勢であったり、信仰や宗教にどのくらい歴史が乗っているかだと思うんです。

そして、私たちがいま描いているキャラクターも、「なにが乗っかっているか」が大事だと思うんです。いまの自分たちが、情報や信念、歴史や文脈をどのくらい乗っけて、どのくらいの手を入れて強度を残せるか。それができたら、作品に「オーラ」が残せるのかな、とか最近考えたりしてます。

米山舞×望月けい対談:「イラストレーター」という職業の生き様とは。イラストレーターは、どう生きて、どう死んでいくのか?_029
『八方睨み鳳凰図』に影響を受けたという、望月氏の個展のイラスト。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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