いまこそ、イラストレーターが個展を開く必要がある──米山舞が個展にこめた「浄化」のテーマとは
──米山さんも、個展「YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”」を開催されるとのことですが、なにか個展のコンセプトやテーマなどはあるのでしょうか。
米山氏:
表面的なテーマは「時間の連続性」で内面的なテーマは、「変身」や「成長曲線」……もっと言えば、「変身を超えて、浄化」みたいな感じですね。
けいさんも近しいことを言っていましたけど、私も「止まるな」「変わり続けることが大事」という思いがあります。ただ、私の場合は後ろ向きな感情を絵にすることが多いのですが、今回はそれを肯定して、どんどん生まれ変わっていくようなテーマですね。
それを言語化すると「成長」だと思うのですが、もうちょっと言いたいことが多くて……でも、あんまり文字にはできないので、作品群や展示の構成自体で表現しようと思っています。だから、結果的に言うと、けいさんと言いたいことは似ているのかも?
望月氏:
アプローチは全然違うけど、言いたいことは似ていますよね。
米山氏:
やっぱり、日本のイラストレーターさんは「エンタメ性」があるんですよね。
たとえば、世の中を観察しているけいさんが「俗世」だと捉えて、「騒音」の空間の緊張感があり、開放する空間があって、ストーリー性があって……そういう、物事を順序立てて見せるための「楽しませ方」みたいなのは、私の個展のなかにもあるんです。
そこの「サービス精神」みたいなところは、結果的に私とけいさんは似ているなと思います。お客さんが楽しむための構成には、気をつけている展示かなと。あとは、彫刻とかを含めて、アナログな表現をやろうともしていますね。
米山氏:
全体としては、「どのくらい、人じゃないとダメか」というのを意識している展示ですね。
──ここまでのお話を聞いていると、米山さんは「人がやる」ことを大切にされているような印象があります。近年はAIの技術もあるかと思うのですが、そのあたりはどのように感じられていますか?
米山氏:
私は、「想像力のために使えばいいのにな」とは思います。
技術はもう消せないし、なくなるわけじゃない。
そして、絵の分野に限ったことではないですが、倫理観のない使い方によって、価値が落ちることは往々にしてあると思います。だから、私は個展をやります。直接人を介して、人が感じるものをフィードバックとしてもらう。それは人にしかできないし、だからこそ個展をやる必要があるんだろうなと。
でも、もちろん私もAIと一緒に歩みながらやっていて……補助として使って、展示を作ったりすることもあります。だから、AIで答えを出すんじゃなくて、AIを使って人間が答えを出すべきなんだと思うし、そういうことをしたいなと思っています。
望月氏:
私も、「どこまで行っても、人間があってほしい」とは思います。
米山氏:
すべて技術に任せてしまうと、それこそ考えなくなっちゃいますよね。
そのために、想像力や倫理観が問われる。そこに発信する側としてちゃんと向き合って、いま自分はなにができるのかを対応していきたいですね。
すべての絵描きは、どうあってもいい
──イラストに限らず、クリエイターやアーティストとして、おふたりが今後追求したいものや積み上げていきたいものなどはありますか?
望月氏:
私は、「いい絵とは、なにか」というのを追求することだけを、ずっとやっていきたいです。
個展でも書いていたのですが、自分のなかにある表現を出しきりたいんですよね。そして、知りたい。「自分は、なんで生きているんだろう?」と考えたら、私は知識欲で生きているんです。
自分が、完全に絵を描ききったときにどうなるのか、そこで見えるものはなんなのか、そのあとに描くものはなんなんだろう……それを知りたくて、描き続けているんです。とにかく、それを知りたいと思っています。
──望月さんは、もう武道のような精神ですよね。
米山氏:
絵描き剣豪です。侍すぎ。
一同:
(笑)。
望月氏:
そうなってから死にたいなあと。
その答えを知ってから、死にたいです。
米山さんはどうですか?
米山氏:
もちろん、第一に絵が上手くなりたいです。
ただ、自分が想像する「あるべき形」「想像している現れ方」といったイメージを含めて、描いた絵がどんな風になるのか。どういう扱われ方をするのかを想像したときに、実際にそれが実現できる技術力があって、かつ自分が最高級に気に入る形になっていたら、最高だなと。それを突き詰めたいですね。
たとえば、宇宙に対応したデザインや絵があったとしてそれはどういう形で、どんな絵になるんだろう? そこを追求し続けたいんですよね。だから、私は絵の現れ方であったり、その絵がどういう見られ方をするのかという式みたいなものを気にしているのかもしれないです。
その状況に最適な絵こそが、そのときの自分が出せる一番のものじゃないですか。それがどういう絵なのかを、模索しながらも追求していきたいですね。
──最後に、なにかお互いに伝えたいことや送りたいエールなどがあれば、お聞きできればと思います。
望月氏:
もう、米山さんはおひとりですべて力を自家発電できてしまう方なので、私からエールを送れることなんてないのですが……本当に、私は米山さんのことをこれ以上ないくらい尊敬しているし、この世で一番大事なんです。
本当に、この世に存在してる人間のなかで、私は米山さんが一番大事だから……
米山氏:
え、プロポーズ?
一同:
(笑)。
望月氏:
もしも崖からこの世と米山さんが落ちそうになっていたら、米山さんを助けるくらい大事なんです。そのくらい、私目線でのこの世における米山さんの価値は高いと思っています。
今日のお話を聞いて、さらに米山さんが好きになったし……私はもう「ちょっと大好きすぎるな」ということしか言えないですね。だから、私からエールを送って、米山さんになにか言えることはないです。米山さんはすべてをひとりで頑張れる方なので、私はそれを見届けたいなと思っています。個展、楽しみにしてます!
米山氏:
ひいい……ありがとうございます。
めっちゃうれしい(笑)。
でも、けいさんも私がなにかを言うまでもないというか……本当にかっこいいし、まずブレないじゃないですか。もう、誰が何を言ってもブレない。だから、そのままで最強になっていってください。
けいさんは誰がなんと言おうと、「望月けい」であり続けるから、私はそれを見ると安心するんですよね。「ここは任せられる」みたいな。
望月氏:
もう、米山さんの背中は任せてほしいです。
米山氏:
けいさんはみんなの希望の星になっているし、これからもなる。というか、もうすでにカルチャーを作っている人だと思うので、これからも走り続けていってほしいし、たまに助けてもらえればと。かっこよくいてくださいね。
望月氏:
めちゃくちゃ助けますよ!
米山さんが安心して走れるように、私が隣を走ってますので……
──本日はありがとうございました。おふたりの精神性まで含めて、すごく刺激的なお話でした。
望月氏:
一応、最後に言っておきたいのですが、私は基本的にはすべてを許容しているんです。「すべての絵描きはどうあってもいい」と思っています。
人に迷惑をかけていなければ、この世の絵描きのあり方として、ダメなことはないと思います。どんな人がいてもいい! 全部正解。
米山氏:
けいさんの思想の強さは、「否定の強さ」じゃないですからね。
だから、※とかで注釈を入れておいてもらえれば……(笑)。
※すべての絵描きは、どうあってもいい。
望月氏:
そう、否定ではないんです。
私の主観として「こうあるべき」という気持ちがあるだけで、世の中の人たちはどうあってもいい。だから、「全然否定はしてないですよ」という補足を入れて、終わりにさせていただければと思います。
米山氏:
武士がそう言ってるだけですからね!
望月氏:
そうそう、武士がそう言ってるだけなので(笑)。
率直に、「かっこよすぎる」と思いました。
イラストレーターって、こんなにかっこいいんだ。
新たな道を切り拓きながら、業界を引っ張っていく米山氏。求道者のように、己の道を追求し続ける望月氏。根底は似ているようで、対極的にも感じる両者のスタンス。しかし、どちらも最前線を走り続けている。このふたりは、果たしてどこへと辿り着くのか──この先の「イラストレーター」の未来が、楽しみで仕方がない。
本当に、ひとりの人間として、すごく刺激を受ける内容だった。
それこそ哲学の本や武道書のように、定期的に読み返して、自分の人生を見つめ直したくなるような対談になった……と、ライティングを担当した人間としては思っている。とにかく、米山舞と望月けいがかっこよすぎる。
そんな、かっこよすぎるおふたりの個展は、ちょうど現在開催中。
米山氏の個展「YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”」は12月28日まで、望月氏の個展「俗世」は、12月15日まで開催されている。
ふたりの生き様がにじみ出る作品を、一度この目で見てみたい。
そう思った方は、ぜひ個展へと足を運んでみてほしい。





