MMORPGを手がける会社は、世界から年々、姿を消しつつある。
そんな逆風のなかで、NCは『AION2』に“昔ながらのMMORPG”の魅力を、まっすぐ託した。
しかもスマートフォン全盛のいま、あえてPCで。ガチャで射幸心を煽ることもなく、ゲームの中身だけで勝負する──いまの市場の常識からすれば、逆張りとも映る”賭け”だ。
だが、その賭けは、早くも報われつつある。先行してサービスを開始した韓国・台湾では、わずか1.5か月で1000億ウォン(約108億円)という、桁外れの売上を出しているのである。
もう一度言うが、ガチャに頼らず、である。
しかも、それだけの成功を収めながら、当の作り手たちは驚くほど慎重だ。開発PDのキム・ナムジュン氏は、期待を上回るヒットのさなかにあってなお、「まだ自信は持てない」と静かに語る。
2026年9月の日本上陸を前に、『AION2』の陣頭指揮を取る2人は何を見据えているのか。
NCの賭けの勝算を、じっくりと聞いた。

聞き手・文/kawasaki
「強さは売らない」のに、なぜ売れたのか。良心的モデルの正体
──NC本社のプレスリリースによれば、『AION2』の韓国・台湾版は、サービス開始からわずか1.5か月で1000億ウォンを売り上げたそうですね。にわかに信じがたい数字なのですが。
事業室長 ソ・インソップ氏(以下、ソ氏):
本当なんですよ、これが(笑)。正直、僕らがいちばん驚きました。
でも実を言うと……実際には、公式発表より少し高かったんですけどね。
──前回のG-STAR 2025のインタビューでは、「『AION2』はPay to Winではない」と明言されていました。にもかかわらず、ここまでの売上が出ている。そのマネタイズの仕組みを教えてください。
ソ氏:
やっぱり、ゲームそのものをしっかり面白く仕上げた。だからこそ、たくさんの人が遊んでくれた。そこに尽きると思います。
ただ、ここまでの売上になるとは、正直うちらも思っていませんでした。
お金を出しても強さが手に入るわけではないのに、はたしてちゃんと買ってくれるのか。そんな不安もあったんです。
でも、蓋を開けてみたら、その心配は杞憂でした。ちゃんと楽しんでもらえるゲームでさえあれば、ユーザーは自然と買ってくれる。そこは、僕らにとっても大きな学びでしたね。
開発PD キム・ナムジュン氏(以下、キム氏):
小手先で稼ごうとせず、ゲームの中身そのもので勝負する。その姿勢が、プレイヤーにもちゃんと伝わったんだと思います。
──プレイヤーは、どういった部分に「課金したい」と感じるのでしょうか。
ソ氏:
外見に関しては、それこそ文字どおり「かわいいから、つい買っちゃう」という方が本当に多い。さらに言えば、「『AION2』を応援したいから」という気持ちで買ってくださる方も多い印象で……これは本当に、ありがたいことだと思っています。
──韓国・台湾でのサーバー数は、最大でどれくらいまでいったんですか。
ソ氏:
正式サービスの開始時点で、計40のサーバーをオープンしました。そこからサーバーを減らしたり統合したりせずに、現在まで続いています。
──確か前作『AION』では、1サーバーあたりの最大同時接続数は約1万だったと聞いています。『AION2』はどれくらいなんですか?
キム氏:
1サーバーあたり、だいたい2万といったところですね。サーバー周りの技術面は、前作からかなり改善しています。
──グローバル版のビジネスモデルは、「基本プレイ無料+月額15ドルのサブスクリプション+アイテム課金」という形になっています。この判断に至った理由を教えてください。
ソ氏:
韓国版のサービス開始時は、サブスクリプションが複数の種類に分かれていたんです。それを、もっと多くのプレイヤーに受け入れてもらえるよう、シンプルに刷新しました。その延長線上で、グローバル版の価格も決まっていった、という流れですね。
──アイテム課金もPay to Winではないとのことですし、サブスクリプションの価格も含めて、かなり良心的な設定だと感じます。
ソ氏:
やっぱり、一人でも多くのプレイヤーに、長く遊んでもらいたい。それが最優先なんですよ。たくさんの人が遊んでくれて、その一人ひとりが少しずつ課金してくれれば、Pay to Winに頼らなくても、ちゃんとサービスを続けていける。
特に若いプレイヤー層が気軽に始められるように、ビジネスモデルだけでなく、いろんな面で配慮しているつもりです。
韓国で大成功。それでも作り手は「まだ自信は持てない」
──『AION2』は2025年11月に韓国・台湾で先行サービスを開始し、大きな反響を呼びました。そして2026年9月には、いよいよ日本を含むグローバルでの展開を迎えます。改めて、いまの率直な心境を聞かせてください。
キム氏:
そうですね……正直、こんなに多くの方に遊んでいただけるとは思っていませんでした。それがすごく励みになって、ここまでやってこられたんです。
ただ、遊んでくださる方が増えるほど、求められる基準もどんどん上がっていきます。その期待に応えたい一心で走ってきましたし、グローバル版でも、その気持ちは変わりません。
ソ氏:
いや、本当にありがたいですよ。韓国でも台湾でも、こんなにたくさんの方が遊んでくれて。
僕らがやりたいのは、ただ配信する国を広げることではありません。『AION2』の世界観や、「MMORPGってこんなに面白いんだ」ということを、改めて感じてほしい。そこを目指して作り込んでいる、という感じですね。
──以前、お二人は「『AION2』でMMORPGのパラダイムシフトを起こしたい」とおっしゃっていました。韓国での好調ぶりを見て、それが起こりつつある実感はありますか。
キム氏:
……自信が持てたら、いいんですけどね。
──えっ、そこは自信満々じゃないんですか? 韓国であれだけヒットしているのに。
キム氏:
やっぱり韓国のゲームですから、お膝元である韓国のユーザーは、温かい目で見てくださるところがあるんです。でもグローバルは、もっとシビアに見られると思っています。
そもそもMMORPGというジャンル自体、世界で見ればそこまで大きなパイを持っているわけではありません。僕らNCや『AION2』の知名度も、正直まだ高くはない。
だからこそ、ゲームそのものの面白さで勝負して、一人でも多くの人に知ってもらう。その努力がなにより大事だろうと考えています。
巨大企業を傾けかねない博打。それでも上層部は「好きにやっていい」と言った
──ガチャ依存から脱却するタイトルは、今後も韓国から続々と登場すると思いますか?
ソ氏:
出てくると思いますよ。というのも、ユーザー側のトレンドが変わってきている気がするんです。市場が変わったというより、ユーザーが変わった。
だから他のメーカーからも、その変化に応える方向のタイトルが登場するようになるんじゃないかな、と。
それに、いまの韓国のゲーム業界は、正直に言えば、以前ほどの成長の勢いを保てているとは言いがたい状況なんです。だから国内市場だけを見ていては、なかなか厳しいはず。どのメーカーも「グローバルに打って出たい」という思いは、強く持っているでしょう。
ただ、いざ本気で世界に挑もうとすると、これがなかなか難しい。
その意味で、『AION2』のグローバル展開がどう受け止められるのか──韓国の他のメーカーさんたちも、かなり注目していると感じています。僕らは、その先陣を切る立場でもある。責任は、感じていますね。
キム氏:
そこに加えて、そもそもの話をすると──『AION2』のようなタイトルを作ること自体が、簡単ではないんです。ガチャに頼らない良心的なビジネスモデルで、これだけのボリュームとクオリティを担保する。資本も、開発のスピードも、相当なものが要ります。
だから「『AION2』に続くタイトルを」と思っても、そう簡単には出てこないでしょうね。
でも、だからこそです。ガチャ依存から脱却した『AION2』が、こうして評価を受け、グローバルに打って出る。その事実が持つ影響は、確実にあるんじゃないでしょうか。
──いちど「良心的にやる」と打ち出した以上、それを守り続けるのは、並大抵のことではないと思うんです。目先の売上を考えれば、途中で方針を変えたくなる誘惑だってあるはずで。そのプレッシャーは、感じませんか。
キム氏:
プレッシャーは感じています。でも、そこは僕らが韓国と台湾でのサービスを通じて、身をもって証明してきた部分でもあるんです。
約束したことは、ちゃんと守る。その姿勢を、韓国・台湾のユーザーはみんな信じてくれている。G-STAR 2025でも同じことをお話ししましたが、これからのグローバルでも、まったく同じようにやるだけです。
ソ氏:
まあ、約束を破ったりしたら、うちら2人はもう韓国で暮らせなくなりますからね(笑)。
──もう心配ないので、あえて聞いてしまうのですが……万が一、『AION2』がここまで好評でなかったら、今頃は従来のビジネスモデルに逆戻りしていた可能性もあったんでしょうか。
ソ氏:
もし『AION2』が不振だった場合は、おそらくビジネスモデルではなく、ゲームのシステムを変えていたと思います。
ビジネスモデルだけをいじって売上を狙いにいったら、結局は課金を煽る方向──つまりPay to Winに向かってしまう。そうはしたくなかったんです。
キム氏:
それに僕らは、最初はうまくいかなかったゲームが、努力を続けているうちに、あるときユーザーにチャンスをもらって認められる──そういうケースを、韓国でもグローバルでも、たくさん見てきたんです。
だから、仮にそういう状況だったとしても、安易な方向には走らず、いつか受け入れられる日を信じて、改善を続けていたと思います。
──Pay to Winを退けるのは、傍から見ればNCという巨大企業が傾きかねない、とてつもない博打だったのでは。
キム氏:
それがですね、実は社内の上層部は、拍子抜けするくらいすんなり理解してくれたんですよ(笑)。説得に苦労したどころか、逆に「好きにやっていい」と背中を押してくれましたし。
NCとしても、これからグローバル市場に打って出なければいけない。
そのためには、『AION2』を世界で成功させて、NCの名前をもっと知ってもらう必要がある。
そして、それを実現するには、僕らのこのやり方がいちばんだ──上層部も、そう考えていたんだと思います。
ソ氏:
どちらかというと、上を説得することよりも、僕ら2人が自分で腹をくくるほうが何倍も大変でしたよ。毎晩のように「これ、本当に大丈夫なのか……」って。しまいには「そもそも俺たち、これでゲーム開発者として生き残れるのか?」なんて話まで(笑)。
キム氏:
そうそう(笑)。
ソ氏とは、それこそ数えきれないくらい話し合いました。
……でも、不思議と「やめよう」という結論にだけは、一度もならなかったんですよ。散々悩んで、不安を吐き出して、それでも最後は「やっぱり、これでいくしかないよね」と。
──上層部が信じてくれたのは、きっとNCというメーカーの成り立ちと関係しているのかな、と感じました。大昔の『リネージュ』の頃から、ずっとMMORPGにこだわり続けてきた会社ですから。だから上の方々にも、このジャンルへの揺るぎない信頼が根づいている──そういうことなのではないか、と。
キム氏:
まさに、そうだと思います。NCは、MMORPGというジャンルそのものを信じ続けてきた会社ですから。
そのうえで、もうひとつ付け加えるなら──やっぱり、みんなの『AION』というIPへの愛情。それが本当に、驚くほど強かった。ジャンルへの信頼と、『AION』への愛。その両方が、僕らの背中を押してくれたんだと思います。
──『AION2』には、「PC向けのコアなMMORPGの魅力を、いまの若い世代に届ける」というミッションがあったと思います。韓国と台湾で半年間サービスしてみて、予想外だったことはありましたか。
キム氏:
もっとも意外だったのは、若い世代のプレイヤーが多かったことですね。もちろん僕らも、その層を狙って開拓しようとはしていました。でも、想定以上に若い方、それから女性の方がたくさん遊んでくださった。
というのも『AION2』はアクションが激しいので、女性のプレイヤーはそこまで来ないのかなと、勝手に思い込んでいたんです。
でも実際は、すごく若い方から、かなりのベテランの方まで、本当に幅広い層に遊んでいただけた。そのプレイヤー層の広さには、正直かなり驚かされました。










