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「小説の大部分はAIに書かせてます」――AI時代のストーリー創作術を、『428』イシイジロウ×『刀剣乱舞-ONLINE-』芝村裕吏が語り合った!

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 ゲームの歴史の中で「ストーリー」をどう扱うかは、いつも問題になってきた。
 プログラムで記述されたキャラに生命を与えてくれる一方、小説や映画のように作り込むと「一本道」として批難される。プレイヤーの入力に反応を返すデジタルゲームの表現で、実は大変な難しさがあるのだ。

 この問題を実作で考えてきたクリエイターが、今回対談するイシイジロウ氏芝村裕吏氏だ。
 イシイ氏は、チュンソフトで企画をはじめ、ディレクターやプロデューサーとして活躍。プロデューサーを務めた428 〜封鎖された渋谷で〜』などの、選択肢によってどんどんシナリオが分岐していくサウンドノベルの名作に携わってきた。現在はフリーランスとして『文豪とアルケミスト』などのヒット作を手がけている。一方で芝村氏は「エンジニア」の視点から、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』で当時としては画期的なAIを使い、自由度の高い物語をプレイヤーに提供。現在は『刀剣乱舞-ONLINE-』の世界観・脚本・監修としても大いに活躍している。

 そんな二人が対談で今回語った”お題”は「世界観」。プレイヤーに自由度を与えつつ、設定に魂を吹き込むストーリーを構築する上で欠かせない概念だが、はてさて――。議論は芝村氏の「小説は最近AIに書かせている」という発言とともに、とんでもない方向にすっ飛んでいったようだ。
 ゲーム業界を代表する理論家肌の二人が語り合った、ストーリーの未来とは。

聞き手/稲葉ほたて
文/恩田雄多

※本記事は『幻想交流』プロジェクトのPR記事となります。


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イシイジロウ氏(画像左)と芝村裕吏氏(画像右)

“芝村AI”が自動生成する物語

――お二人は面識があるとのことですが、出会われたのはいつ頃なんですか?

イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
 めちゃくちゃ昔ですよ。『高機動幻想ガンパレード・マーチ』(以下、『ガンパレ』)【※1】発売後で『3B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(以下、『金八』)【※2】が発売される前かな。正直、『金八』が『ガンパレ』になれなかったという悲しい記憶しか……【※3】

※1 高機動幻想ガンパレード・マーチ
2000年に発売されたPlayStation向けに発売されたシミュレーションゲーム。謎の生命体「幻獣」との戦いで生き残ることが目的だが、生き残りさえすれば何をしてもよいという自由度の高さが特徴。芝村裕吏が制作に携わった。

※2 3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!
2004年に発売されたPlayStation 2用のアドベンチャーゲーム。主人公(プレイヤー)は、名物教師・金八先生こと坂本金八の代理として教壇に立ち、さまざまな問題を解決しながらクラスと卒業式まで過ごすことになる。イシイジロウが企画・監督を務めた。

※3
『ガンパレード・マーチ』が2000年9月28日発売、『3年B組金八先生』が2004年6月24日発売。続く芝村氏の「15年前くらい」という発言によると、ふたりの出会いは、その間の2002年前後ということになる。2作品の共通点は、システムこそ大きく違うが、ともに残り期間の区切られた学園生活を送ることで、結果的に群像劇をプレイヤーに体験させる作品だったということ。イシイ氏の「『金八』が『ガンパレ』になれなかった」という発言は、そのような共通項を持ちながら、口コミに始まり根強い人気を博して販売本数を積み上げていった『ガンパレ』に対し、『金八』の販売本数がそこまで及ばなかったということを意味している。

芝村裕吏氏(以下、芝村氏):
 いやいやいや(笑)。もう15年くらい前ですか。

イシイ氏:
 僕としては最初に会ったとき、「イシイさん、もう脚本とか物語を人間が書く時代は終わりますよ。もう全部“芝村AI(人工知能)”【※】が書くので」と言われたのが忘れられません。

※芝村AI
芝村氏が開発した物語を構築するためのAI。その詳細は、本記事内で語られている。

――出会い頭に、シナリオライター職をまさかの全否定(笑)。

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イシイ氏:
 そのときに僕も、キャラクターのAIをいかにアドベンチャーゲームやシミュレーションゲームに取り入れるか、考えていたことを話してみたんです。すると「……それはゲームに落とし込めないなぁ」と言われてしまいました。

 当時から、芝村さんは「ゲームキャラだけでなく、物語さえも芝村AI化していく」と豪語していたので、『ガンパレ』や『新世紀エヴァンゲリオン2』(以下、『エヴァ2』)は、芝村AIによる自動生成していく物語として、ずっと注目していたんです。
 最近では小説も書いてますけど……あれも、もしかして?

芝村氏:
 (笑)。……実は、小説の大部分はAIが書いてます。私は最終的な細かいつじつま合わせなどを担当しているだけなんです。

――へ!?

芝村氏:
 そうなんですよ。むしろ、プロットやキャラクターの動きに関しては、人間が考えるとすごく恣意的に見えてしまうんですよ。リアリティらしいリアリティを出したいなら、もうAIに任せたほうがいいかもしれません。

 それに、コンピューターは内容を忘れないので、例えば途中で伏線が行方不明になることもない(笑)。一方で、AIは個々の考えで動いているので、作品全体の世界観を切り出すのは難しくて、散漫な印象になりがちなのが問題ですね。

――あの、ちょっと確認させていただきたいのですが、文字通りに「芝村さんの小説はコンピューターが書いている」ということでいいんですか?

芝村氏:
 基本的な話の筋や時間に応じたキャラクターの動きは、すべてコンピューター、というか、AIにプロットを作ってもらっているんですよ。

――それって……もしかして芝村さんが作ったAIだったりするんですか?

芝村氏:
 そうですね。自分で作りました。
 最初は小説の表記の揺れを防ぐ執筆支援プログラムとして作ったんですけどね。そのうちに、もう一歩先に進んで、キャラクターの動きも書いてもらうようになりました。

 で、だんだん小説の仕事が増えてきて、月間の生産数が1冊以上になると、もう人間の限界値を超えます。そうしたら、コンピューター様のお力がないとちょっと難しい(笑)。小説の場合はゲームと違って、「話の筋が”ない”と思ったらまた書き直せばいいか」と思ってやってます。

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 まあ、私はどちらかというと、クリエイターというよりも技術者寄りの人間なので、ものづくりにおいてはまず機械力が使えるかを検討して、使えないならいかにアルゴリズムにできるか、あるいはいろいろな人の力を借りてそれを実現するか、そういったことを考えてますね。

――軽く自己紹介をしていただいて本題に入ろうかと思ったんですが、唐突にかなりぶっとんだ話が飛び込んできちゃいました(笑)。

芝村氏:
 ぶっとんではないですよ!

イシイ氏:
 いや、でも芝村さんは既に15年前の時点で、まさにこの話をしていたんです。まあ、真面目に聞くと相当ぶっ飛んだ内容ですよね。

 1年ほど前に、AIが書いた小説【※】が「星新一賞」【※2】の一次審査を通過したことが話題になってましたけど、あれもまさに芝村さんと同じような考え方で出てきたものですよね。最近では僕自身も、ゲームデザインをいかに物語に落とし込むかや、世界観をプログラムとして走らせるためには、どんなルールを物語に配置すればいいか、という点にこだわり始めています。

※1 AIが書いた小説
きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよという人工知能に面白いショートショートを創作させることを目指すプロジェクトによる応募作品。作品一覧ページはこちら

※2 星新一賞
2013年より始まった日本経済新聞社が主催する理系的な発想に基づいたショートショート、及び短篇小説を対象とした公募文学賞。ショートショート作品で知られた作家・星新一の名を冠している。一般、ジュニア、学生の3部門から成る。

芝村氏:
 とはいえ、AIも万能ではなくて、文脈の理解のようなことは苦手としています。言い換えると、そこ以外は人間じゃなくても構わないんですよ。なんでもかんでもAIにやらせようというのは、もちろん技術的によくないし、コストもかかるんですけど、役割分担としてAIの支援は十分に有用だと思います。

“世界観”という言葉はなぜ生まれたのか

――で、いきなりメチャクチャ面白い話が続いているのですが……ちょっと本題に入らせてください。実は今回、このPR記事ではお題が一つ与えられてまして、それは「世界観」について話すということなんです。お二人とも、複数の作品で世界観の構築を担当されていますから。で、あとは「何を話してもOK」という感じなので、さっきのお話も含めて、ゲーム業界を代表する理論家肌のお二人に、とにかく色々と話していただければな……という企画です。

ちなみに、この「世界観」という言葉って、デジタルゲームやTRPG【※】の周辺から出てきたのかな、と思うのですが。

※TRPG
テーブルトーク・ロールプレイングゲームの略。ゲーム機などのコンピュータを使わずに、紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて、ゲームマスター(GM)と呼ばれる進行管理者(ルール作成者を兼ねることも)に従って遊ぶ“対話型”のロールプレイングゲームを指す言葉。

芝村氏:
 いやあ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』【※】からTRPGをずっとやってますけど、「世界観」なんて言葉が出てきたのは本当に突然でしたよ。

※ダンジョンズ&ドラゴンズ
1974年に制作・販売されたアメリカのファンタジーテーブルトークRPG。世界で最初のロールプレイング、ロールプレイングゲームの原点と言われている。

――あれ、そうなんですか。てっきり芝村さんのような、TRPGの人たちが使い出したんじゃないかと思っていたんですが……。

イシイ氏:
 もともとは哲学用語でしょう。割と最近になって、急に物語の世界に入ってきたものですよ。映画業界の50代の人に聞いてみたんですが、昔は世界観という言葉を使ってなかったそうです。当時は「設定」という言葉が一般的だと言ってました。だって、僕は『428 〜封鎖された渋谷で〜』【※】で映画スタッフの方たちに「どんな世界観なんですか!?」と聞かれて、むしろこっちが「え……」ってなってましたから(笑)。

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※428 〜封鎖された渋谷で〜 2008年12月4日にセガより発売されたWii用サウンドノベルゲーム。渋谷の街を舞台に繰り広げられるサスペンス。イシイジロウが総合監督を務め、劇場映画のスタッフを中心に製作された。
(画像は『428 〜封鎖された渋谷で〜』の公式サイトより)

――時期的にはいつ頃から使われているイメージなんですか?

イシイ氏:
 確か、2000年代に入ってからは、みんなすごく言うようになりました。ただ、ゲームが普及した時代になってから、監督やシナリオライターがこの言葉を使い出したのはあると思うんです。だから、ゲームからの逆輸入なんじゃないかと、話していましたね。

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 ちなみに、ゲーム業界では「世界設定」という言葉を使ってたんですよ。ここで言う世界の設定とは、作品内の「重力」のような科学的な考証まで含めた、登場するあらゆる要素のリアリティのことです。

 ここは映画や小説との違いです。彼らは重力の話なんてほとんどしませんよね。彼らが話すのは、例えば警察が登場するなら、「太陽にほえろ!」なのか、もしくは「踊る大捜査線」なのか、はたまた「火曜サスペンス劇場」なのかによって、作中での描き方が大きく変わってくるというレベルの話です。

 でもゲーム業界では、重力のような細かな設定も仕様書の水準にまで落とし込んで、しっかり記述する必要があるんですよ。「世界観」は、その行為の延長線上で生まれた言葉なのかもしれません。

――ああ、なるほど。ゲームは制作過程の中で、そもそも物理法則のようなレベルから大量に決めなきゃいけないことがあるんですね。確かに、そうなると創作の過程で「世界観」というレイヤーを意識せざるを得ないですね。

イシイ氏:
 とはいえ、ひとつひとつの設定を考えるのが当然だった僕からすると、逆に改めて「世界観」という言い方はしませんでしたね。だからこそ、スタッフから「この作品の世界観は?」と、やたら質問されたときは驚いたんですよ。

芝村氏:
 私はある日、インタビュアーからその単語を聞いたんです。たぶん「世界設定」よりも「世界観」と言ったほうが、なんとなく良さそうなイメージがあるんでしょうね。

 技術者としての考え方でいうと、別の言葉で意味が成立するなら古くからあるほうを選択する――「世界設定」でいいわけですよ。つまり私にとって「世界観」が入り込む余地などない!……と言いたいところですけど、あえて否定してケンカしてもしょうがないですね(笑)。

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争いを回避しながらつながる日本人の知恵

――うーむ……。ちなみに、これはちょっとした思いつきなんですが、2000年頃に登場したという点で思ったのが「コミックマーケット」【※】の一般化やHPの同人サイトの登場です。こういう一つの作品を二次創作として複数の人間が共有していくなかで、世界観という表現が用いられていった歴史があった気もするんですよ。

※コミックマーケット
毎年8月と12月東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催される,、世界最大級の同人誌即売会。第一回は1975年。

イシイ氏:
 なるほど、わかります。

芝村氏:
 オタクこそ、衝突を嫌う人たちですからね(苦笑)。
 我々が幼かった頃――人と人が衝突しても壊れないと思っていた時代がありました。「ああ、ガウォークの足の構造【※】について大げんかしたアイツら、いまでも生きてるだろうか……」――まあ、そんな反省があるわけですよ。良い悪いではなく、今のオタクはそういう衝突が少ないじゃないですか。まぁ、ケンカして相手を泥の海に沈めても、なんら良いことはないですからね。

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※ガウォークの足の構造 「マクロス」シリーズに登場する可変戦闘機の形態の一つ。通常の戦闘機形態、二足歩行する人型形態の中間にあたる。人間の脚のようにも鳥の脚のようにも見えるが、鳥だとしたら膝に見える部分はかかとになる。
(画像はAmazonより)

イシイ氏:
 住み分けですね。

芝村氏:
 そうなんですよ! 人とは違う差別化した表現をしてみたいけど、みんなひとりでは生きていけない。そんなとき、「世界観」という言葉でモヤッとしながらも「私たち、同じ世界観の中で創作してるよね」とつながれる!

 そもそもオタクコミュニティ内で互いにやり取りすることって、世界的に見ても珍しいんです。そういう意味では、争いを回避しながらつながれる世界観という概念は、日本人の知恵によって生み出されたもの、と言えるかもしれません。

――手厳しいですね(笑)! つまり芝村さん的には、「世界観」は当時の新世代のオタクや映画業界のような人たちが発見した「便利ワード」という感じで、特に厳密な定義がある言葉ではないということですか?

芝村氏:
 んー、私自身は「監督によるモノの切り取り方」として使っています。
 でも一般的に使われている「世界観」という言葉は、だいぶモヤッとしていますよね。言葉が指す範囲がものすごく広い。もちろん、インタビューで「世界観について語ってください」と言われるときは、そういうモヤッとしたものについて語ってほしいときだと理解して、対応しています。

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 だって「まずは定義から始めましょう!」と意気込んでも、そんな細かいことを聞いて喜ぶ人なんて誰もいませんからね。論文ならまだしも、記事だったら、バンバンとスクロールされてしまう(笑)。

――なるほど。このインタビューの前提が崩壊してしまったことがよくわかりました。どうしたらいいんでしょう(笑)!

芝村氏:
 いやいや(笑)。

ハリウッド映画と世界観

イシイ氏:
 とはいえ、今や映画業界ではよく使われている言葉みたいですよ。自分も映画業界の仕事に関わるにあたって勉強したんですけど、その講義でも頻繁に聞きました。そこでは「世界観を映像化するとコストがかかる」「日本の映画に足りないのは世界観だ」「日本のアニメには世界観を映像化するテクニックがある」という話はバンバン出てきましたから。

 ただ、僕としては「世界観」という言葉には、ゲーム業界の「世界設定」と、芝村さんが言った「世界の切り取り方(ワールドビュー)」の二つがあるのであって、映画業界で求められているのは前者ということなのかな、と思います。

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 ただ単純に「監督なりの視点で切り取る」だけなら、実写はカメラを向けるだけでも成立するわけです。そうではなくて、「オリジナルで考えた細かな設定」ということですね。

――ちなみに、その「日本に世界観が足りない」という話は、例えばよくあるような、「ハリウッド式の脚本術を学ぶ」みたいな講座とかで出てきたのですか?

イシイ氏:
 いや、ハリウッドの脚本術には「世界観」のような言葉は出てこないですね。

芝村氏:
 おそらく「世界観」という言葉を使ってるのは日本だけですよね。ハリウッドではそういった表現はしない気が……一番近いのは「アートワーク」だと思います。

――それは海外の映画などのレビューの語彙を思い出すと、非常にわかります。日本人が思い浮かべる「設定を集積したデータベース」のようなものよりは、むしろ宣伝の際のキービジュアルやPVで象徴的に表現されるような「視覚・聴覚的なもの」という印象はありますね。

イシイ氏:
 そういう意味では、僕らの世代からすると、やっぱりSFの影響がある気はしてしまうんですよ。

 僕らは「SFは絵だ」と言われてきて、その世界観を文章で表すよりも、一枚の絵の方が作品のすべてが見える瞬間があったんです。その感覚は、確かに「アートワーク」という表現がしっくりきます。

ゲーム生成ルールが世界観を強くする

――ううむ。となると言葉としては、本当に日本で独自に使われている可能性が高いんでしょうか。逆に、だからこそ「日本の作品には世界観が足りない」という言い回しが成立しているだけのような気もしますね。

イシイ氏:
 ただ、僕はこの映画業界の使う意味での「世界観」には足りないものがあると思っていて、それはルールなんですよ。

――「世界観」を表現するようなルール……ということですか?

イシイ氏:
 僕は、それこそが日本の強みになりうると思ってるし、ここにゲームデザイナーとして「ゲーム生成ルール」を持ち込むことこそが今後の仕事だと思ってるんですよ。

 例えば、今のハリウッドでは「マーベル・シネマティック・ユニバース」【※】のような原作モノが流行しているように見えて、実は「原作不足」で苦労しているという話がありますよね。あれも僕からすれば、設定としての「世界観」があっても、「ゲーム生成ルール」を本格的に導入できていないからだと思うんです。まあ、マーベルについては、もともとそんな発想がない時代から作り続けられたからだと思うんですけど、今後は「ゲーム生成ルール」を持つコンテンツが強いと思ってます。

※マーベル・シネマティック・ユニバース
マーベル・スタジオが製作するアメリカン・コミックヒーロー映画作品が共有する架空の世界、及び作品群。『アイアンマン』、『インクレディブル・ハルク』、『アベンジャーズ』などが代表作。

――なんかこう、具体的なイメージが湧かないんですが……二次創作の「バトルロワイヤル設定」みたいな感じなんでしょうか。

イシイ氏:
 僕がよく例に出すのは、現実に存在している設定なんですけど、「甲子園」ですよ。実は、甲子園は最強の「ゲーム生成ルール」なんです。

 だって多くのチームは3年生が出場するから、1回でも負けたら、もうそこで彼らにとっての甲子園は終了です。つまり、常に一番ドラマティックな「最後の試合」を見ているわけです。しかも、甲子園は毎試合、敗者が出ますからね。

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 僕たちはそんな彼らの試合を「いつ負けるか?」とドキドキしながら観戦して、そして負けられないチームが負ける瞬間を見る――そういうドラマが毎回毎回、勝手に生まれる装置が「甲子園」なんです。

――なるほど! 甲子園のルールそのものが、ドラマを次々に生成してくるデザインを持っているというわけですね。確かに毎回、人が入れ替わっていくのにあんなに面白いというのは、その説明が妥当な気がしますね。

イシイ氏:
 だからこそ、甲子園は何度も繰り返し見られて、息の長い人気を誇っているんです。

 しかも、このルールを使って『タッチ』『ドカベン』のように、いろいろな作品がフィクションでも生まれてるじゃないですか。

――確かに、リアルでこれだけ面白くなる「物語の自動生成装置」なら、当然フィクションでも面白くなるわけですね。

イシイ氏:
 それこそ『幽☆遊☆白書』【※1】のトーナメント表を見ただけでご飯何杯でも食べられる、みたいなこともあったじゃないですか。その瞬間こそ、僕は「ゲームデザインの勝利」だと思っているんです。

 もちろん、こういう物語が自動で生まれる仕組みはアメリカにもあるんです。例えば、僕からすると、アメリカのドラマやリアリティショーが優れているのも、ゲーム生成ルールが築かれているからなんです。『ハンガー・ゲーム』【※2】なんかもそうですよね。あのルールに突っ込めば物語をどんどん生成できるじゃないですか。でもハリウッド映画の影響力が強いせいか、こういう物語とルールデザインのような発想が、アメリカで本格的に注力されているかというと、実はそうでもないんです。

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芝村氏世界観・脚本・監修の『刀剣乱舞-ONLINE-』。
(画像はDMM GAMESの公式サイトより)

 それに対して、日本だったらFateシリーズ【※3】や、まさに芝村さんの『刀剣乱舞-ONLINE-』【※4】もそうですけど、いくらでも続編が生まれて、キャラクターを入れ替えて物語が生成されるような作品が沢山あるんですよ。そして、それを「世界観」として作品に落とし込むという技術は、日本が先行していると思います。

※1 幽☆遊☆白書
「週刊少年ジャンプ」にて1990年から1994年まで連載された、冨樫義博による漫画作品。主人公の浦飯幽助とその仲間たちの活躍や熾烈なバトルを描く冒険活劇。

※2 ハンガー・ゲーム
2008年にアメリカで発行された小説。文明崩壊後の北アメリカに位置する国家パネムを舞台に、16歳の少女カットニス・エヴァディーンの一人称視点で書かれている。パネムはキャピトルという高度に発達した都市によって政治的に統制されていて、そこでは年に一度、キャピトルを囲む12の地区から選ばれた12歳から18歳までの男女24人が、テレビ中継される中で最後の1人が残るまで殺し合いを強制されるイベント「ハンガー・ゲーム」が開催される。ここでは、この「ハンガー・ゲーム」という仕組みは「いくつでも物語を作れる設定の好例」として語られた。

※3 Fateシリーズ
2004
年発売のアダルトPCゲーム「Fate/stay night」という作品を起点とし、アニメ、漫画、小説などさまざまに派生している作品シリーズ。

※4 刀剣乱舞-ONLINE-
2015年にサービス開始。DMM GAMESとニトロプラスが共同製作したPC版ブラウザゲーム/スマホアプリ。名刀を擬人化した「刀剣男士」を収集・強化し、合戦場の敵を討伐していく刀剣育成シミュレーション。ミュージカルやアニメをはじめとするメディアミックス作品も多数。

――イシイさんの感じている可能性がよくわかりました。実際、二次創作なんかでも、ストーリーの形式に注目したジャンル分類とかがあって、そこにファンがついていたりしますもんね。

芝村氏:
 ゲームのルールは無数に存在すると思うんですけど、ルール化、枠組み化の圧倒的なメリットって、その内部で集団化できることなんです。極端な話をすると、イシイさんが決めたルールに従って私が書けば、イシイさんっぽい作品が作れる。ルールに従ったうえで、少しアレンジを加えた作品が次々出てくるので、ルール作りは商業的に成功するための一つの手段ですよね。

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 日本は、そもそも本当の意味でクリエイティブな仕事ができる人って、ごくわずかでしかないんです。アレンジする人たちこそが、エンタメ業界においては主役なんです。でも、それは決して悪い意味ではない。「オリジナルは嫌いだったけど、(アレンジされた)似たような作品は好き」ということもあるし、アレンジの中から新しい作品が生まれるかもしれないですから。

――面白いですね。ちなみに、こういうふうにルールをデザインするときにも、個人の作家性や独自性は出るものなんですか?

芝村氏:
 もちろん、それがゲームをデザインするということですからね。だからこそ、きっと僕はルール作りにおいてイシイさんと意見が合うことはないと思います(笑)。

 将棋で例えると、「この駒はこうやって動く」ということ決めた時点で、世界が生まれて、その世界の中でルールに従う限りは、そこにドラマが生まれるわけですよ。最初にルールがあって、その上で初めて物語が構築される一番の根本を作りたいというのは、ゲームデザイナーの本能みたいなものですよね。

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