著名なドイツゲームデザイナー『ライナー・クニツィア』氏が制作した、中国大陸で繰り広げられる国々の勃興と戦乱を描いた新作ボードゲームのデジタル版が、SteamとiOS/Androidで公開されています。
『Reiner Knizia Yellow & Yangtze』(イエロー&ヤンツィー)です。
アナログ版は2018年末に公開されましたが、日本での一般販売はまだない模様。
デジタル版の公開は2019年末です。
先ほど新作と言いましたが、正確にはライナー・クニツィア氏が1997年に公開した『Tigris & Euphrates』(チグリス&ユーフラテス)の改修版と言えます。
前作はチグリス川とユーフラテス川で興った”メソポタミア文明”をテーマとしていましたが、今回は黄河と揚子江(長江下流)で興った”黄河文明”をテーマにしており、題材とタイトルも似ていますね。
タイトルのYellow(イエロー)は黄河、Yangtze(ヤンツィー)は揚子江を表します。
この作品の特徴は、国々の発展・内紛・反乱・戦争などを描いている歴史物語的な内容と、そんなゲームであるにも関わらず国家の興亡は勝敗に直接関係しないこと。
プレイヤーは神のような立場で、国々の争いを利用して勝利点を稼いでいきます。
ライナー・クニツィア氏の新作ということでボードゲームファンから注目されているようですが、日本語化されていないうえに独特なルールであるため、遊べないという人が多い模様。
そこで今回、説明を兼ねてレビューしておきたいと思います。
価格はiOS版1220円、Android版1100円、Steam版1520円。
ドイツゲーム系のアプリとしては高額ですが、見た目のクオリティはiOS版の『Tigris & Euphrates』とは比べものにならないぐらい良くなっています。
デジタル版の開発元はアメリカのメーカーです。
プレイヤーは2~4人。
デジタル版にはEasy・Normal・HardのAIが用意されていて、なかなか手強いです。
「AIが弱すぎてつまらない」ということはないのでご安心を。
1人用のキャンペーンモードもあります。
ゲームを始めると、二本の川があり、黒い建物が点々と建てられているマップ画面が現れます。
マップはヘックス(六角形のマス)で区切られており、各プレイヤーには6枚のタイルが配られます。
画面左下には各プレイヤーのエンブレムが描かれていますが、これをタップすると手札の表示が、手持ちの「リーダー」の表示に切り替わります。
各プレイヤーは5色のリーダーのタイルを1枚ずつ持っていて、まずはこれを設置するべき。
ただし、リーダーは黒い建物の隣にしか置けません。
リーダーを置くと、黒い建物とリーダーのマスが黄色い線で囲われます。
この線で囲われた、隣接したタイルの塊はひとつの「国家」とみなされます。
そして手札表示に戻し、国に隣接した場所にリーダーと同色の“市民タイル”を置くことで、スコアを得ることができます。
例えば、自分の赤リーダーがいる国家に赤の市民タイルを置くと、赤のスコアが1点増えます。
他人の赤リーダーがいる国家に赤の市民タイルを置くと、そのリーダーの所有者に点が入ってしまいます。
赤リーダーがいないのに赤の市民タイルを置いても点は増えませんが、その国に黒のリーダーがいる場合、赤のリーダーが置かれるまでは黒リーダーの所有者に点が入ります。
1ターンに行えるアクション(行動)は2回まで。
終わったら最大(6枚)まで手持ちの市民タイルが補充され、次の人の番になります。
なお、手持ちの市民タイルをタップして右下の「Confirm」のボタンを押すと、指定したタイルをすべて捨てて引き直すことができます。
これも1回のアクションに含まれます。
そしてスコアアップに欠かせないのが大きな塔“パゴダ”(Pagoda)。
市民タイルを置くと建物ができますが、同色の建物を3つ三角形に並べると、合体してパゴダが建設されます。
パゴダのある国に同色のリーダーを配置しているプレイヤーには、毎ターンその色のスコアが与えられます。
ただし、パゴダは2つ(黄色のみ1つ)しかボード上に存在できません。
それ以上のパゴダが作られると古いパゴダは解体されてしまいます。
どれを解体するかは新たなパゴダを建てるプレイヤーが選べます。
よって中盤からはパゴダの建て合いになるのですが……
戦争や暴動で破壊したり、権力闘争をしかけて乗っ取ることも可能。
序盤は平和に国が発展して行きますが、徐々に破壊と追放が飛び交うようになるでしょう。
今作『イエロー&ヤンツィー』が『チグリス&ユーフラテス』と大きく違うのは、5色のタイルの役割がより明確化されたこと。
黒いタイルは「文官」、赤いタイルは「武官」、青いタイルは「農民」、緑のタイルは「商人」、黄色のタイルは「職人」を表しており、それぞれ以下のような効果があります。
・黒:文官(Governor)
黒い建物は”政庁“であり、リーダーはこの周囲にしか配置できない。
同じ国に、同色の2つ以上のリーダーが置かれるとRevolt(反乱)が発生する。リーダーの周囲の黒い建物の数と、対象プレイヤーが反乱発生時に加えた黒タイルの数を足したものが戦力値となり、低いリーダーは取り除かれる。引き分けは防御側の勝利。勝ったリーダーの所有者はその色のスコアが+1される。
未配置の黒リーダーは反乱時に黒タイルの代わりとして使える。
・赤:武官(Soldier)
赤い建物の数はその国の軍事力となる。
国同士が接するとWar(戦争)となり、双方の赤い建物の数に、各プレイヤーが戦争発生時に加えた赤タイルの数が戦力値となる。低い方は敗北し、引き分けの時は戦争を発生させたプレイヤーが勝つ方を選べる。負けた国にいる競合する色のリーダーはすべて取り除かれ、勝った国の競合していたリーダーの所有者はその色のスコア+1。負けた国の赤い建物はすべて破壊され、勝った国も相手の戦力に応じた数の赤い建物が破壊される。どれを破壊するかは戦争を発生させたプレイヤーが選ぶ。
未配置の赤リーダーは戦争時に赤タイルの代わりとして使える。
競合する色のリーダーがいない場合、国が接しても合併となり、戦争にはならない。
・青:農民(Farmer)
農民というか漁民。水上のタイルにしか配置できない。
複数の青タイルを持っている場合、1アクションでまとめて配置できる。ただしパゴダを作ったり戦争を起こした場合はそこで終わる。
2枚使うことでPeasants’ Riot(暴動)を起こすことができ、ダブルタップで指定したタイルを破壊できる。
青リーダーが未配置の場合、青タイル1枚で暴動を起こせる。
暴動によってパゴダを解体したり、国を分裂させることも可能。また、暴動で黒い建物に接していないリーダーが生じた場合、そのリーダーは取り除かれる。
・緑:商人(Trader)
緑のタイルを置くと“マーケット”にある6つのタイルのうちの1枚を取得できる。マーケットの中身は画面右下に表示されている。
同色が三角形に3つ並んでいるが、パゴダになっていない建物をダブルタップすると、緑タイル2枚を消費してパゴダにすることができる。
緑リーダーが未配置の場合は、緑タイル1枚でパゴダへの建て替えができる。
・黄:職人(Artisan)
黄色のスコアは“追加点”であり、ゲーム終了時に他の色のスコアに加算される。
タイルの枚数が少なく、パゴダはマップ上に1つしか存在できない。
チグリス&ユーフラテスは反乱時、緑リーダーの争いなら緑のタイルの枚数で競っていたのですが、今回はどの色の反乱でも黒タイルを使うようになっており、黒(文官)の重要度が上がっています。
”政争”の意味合いが強くなっていて、中国ぽくありますね。
そして戦争で勝者側にも被害が出るようになったことで、強国の独走が減り、派手な乱戦に突入しやすくなっています。
タイルを破壊する暴動も強力なのですが、青と緑のタイルは赤や黒より少なく、青タイルは川にしか置けないこともあってスコアを稼ぎ辛いため、暴動で消費するのは勿体なくもあります。
なお、リーダーはボードから取り除かれても、所有者のプレイヤーに返却されます。
すぐに再使用が可能で、任意に手元に戻したり、別の場所に配置替えすることも可能。
1アクション消費しますが、柔軟に使い回すことも時には必要です。
残りの市民タイルがなくなったらゲーム終了。
黒・赤・青・緑のスコアのうち、一番低いものを比べて、それがもっとも高い人が勝利です。
この「一番低いスコアを比べる」というのはドイツゲームにはよくあり、そのため各色のスコアは平均的に稼いでいかなければなりません。
ただ、スコア集計時に黄色のスコアが、他の色に加算されます。
この処理はもっとも点が高くなるように自動で行われ、それ次第では逆転も可能です。
ゲームのコツは、熱くならないこと。
ひいきにしていた国が攻め込まれてボロボロにされたり、せっかく作ったパゴダを反乱で乗っ取られたりすると悔しいですが、そこで仕返しにいくのは得策ではありません。
その国で稼げる色のスコアを十分に稼いだのであれば、もうその国はどうなっても構いません。
封神演義の仙界の神の如く、要らなくなった国はドライに見捨て、必要とあれば争いを起こし、利用できるものを利用していく冷淡さが、勝ち抜くためには不可欠です。
チグリス&ユーフラテスは1998年にファン投票で決まる「ドイツゲーム賞」で首位になったボードゲームですが、その改修版ですから、今作も面白さと戦略性は十分。
個人的にも好きなゲームでしたから、新バージョンが出たのは嬉しいですね。
オンラインのマルチプレイをするにはアカウント登録が必要で、さらに対戦ルームを作って参加者を募る形式のため敷居が高いのですが、ひとつの本体を交互に使って遊ぶ”Pass and Play”のローカル対戦も可能です。
1人用のキャンペーンモードは全9ステージ。特定の条件を満たしたうえで勝利しなければなりません。
1プレイは15分前後で、ちょうど良いぐらいの長さです。
小さなボード上で毎回異なる歴史が紡がれていく、浪漫のある作品。
しかもプレイヤーが王ではなく、その上の存在として人間たちの争いを操るという壮大なゲーム。
ボードゲームファンなら試しておきたい作品です。
Reiner Knizia Yellow & Yangtze
中国の戦乱を描いたライナークニツィア氏の新作ドイツゲーム
・デジタルボードゲーム
・Dire Wolf Digital(アメリカ)
・iOS版1220円、Android版1100円、Steam版1520円
文/カムライターオ