昨今、香川県でゲーム規制条例が施行され、秋田県大館市も似た条例を検討するなど、地方行政によるゲーム排斥の動きが広まりつつありますが…… その一方で、ゲームを地域振興に活用している自治体も存在します。
過去、埼玉県さいたま市が同地をモチーフにしたRPG『ローカルディア・クロニクル』を、埼玉県行田市も同地の戦国期と古代史を元にした『言な絶えそね』を公開していました。
そしてこれらの作品を踏襲する、千葉県佐倉市を舞台とした新たなRPGが登場しています。
『天倫の桜 -佐倉市サムライRPG-』です。
去年(2019年)、同様に地方創世RPGとして公開された、兵庫県淡路島を舞台とする『はじまりの島 -淡路島日本遺産RPG-』も合わせてご紹介したいと思います。
先に述べておきますが、振興アプリであるためか、どちらも無料です。
![]() |
![]() |
これらの作品は共通のシステムを使って作られており、インターフェイスがほぼ同じ。
グラフィックやキャラクターデザインも似ています。
ただ、ストーリーはその地方の歴史や伝承、民話を元にしており、雰囲気もそれぞれ異なります。
自治体の振興アプリには簡易的なものが多いですが、これはそこいらの案内アプリとは違う本格的な長編RPGで、セリフも主要人物はフルボイス。
「RPGツクール」感はありますが、スマホの無料RPGとしては破格の内容と言えます。
ゲームはオーソドックスなJRPGで、ドラクエ型のターン制コマンドバトル。
難易度のバランスもドラクエに近く、しっかりレベル上げや資金稼ぎをして、育成しながら進めなければ全滅の恐れがあります。
全体的に、ちょっと古風なRPGですね。
敵とのエンカウント率はかなり高めですが、全員攻撃や前回の行動を自動で繰り返せるボタンがあり、バトルはサクサク進められます。
一応、MP消費半減などの特性を得られる課金がありますが、なくても十分にクリア可能。
また、地方振興アプリらしく、地元のお店の紹介などが含まれており、現地を訪れることで武器や防具が手に入るGPSを使った機能もあります。
まずは千葉県佐倉市を舞台にした『天倫の桜』の紹介から。
『天倫の桜』は江戸時代のサムライたちが主人公。
千葉県のことは私はよく知らないのですが…… 最近見た映画で「鼻にピーナッツを詰めて九十九里浜で漁をする県」と紹介されていたので、そういうところなのでしょう。
佐倉市には「印旛沼の竜伝承」(wikipedia)と呼ばれる民話があり、これがストーリーの元になっています。
干ばつで困っている人々のため、天に背いて雨を降らせた竜が雷に打たれて引き裂かれたと言われるもので、他にもワラで作ったヘビを魔除けとして飾る「辻切り」などの風習が盛り込まれています。
江戸時代の話ですが、物語は完全にファンタジー。
「骸」と呼ばれる黄泉の怪物が佐倉藩に出没し、親友である侍と、ヒロインであるその姉が調査に向かうところから始まります。
ストーリーはかなり重く、「地元紹介のアプリだからフレンドリーで楽しげなんだろう」とか思ったら大間違い。
その重さに文句を言うレビューもチラホラ見られるほど。
ただ私的には、もうありきたりなゲームには飽きているので、このぐらいヘビーな方が好み。
しっかりとストーリーで引っ張ってくれるRPGです。
フィールド画面の様子。最初の町である「佐倉城」には5方向に門があり、それぞれ異なる地域に繋がっています。
ただ、どの門がどの町に繋がっているのか案内してくれる門番がストーリーの途中で消えてしまうので、中盤から迷子になりがち。
門とその先の地名をメモ、もしくは撮影しておいた方が良いかもしれません。
右の画像はゲーム後半に登場する謎のくノ一。パーティーメンバーの入れ替わりがあるゲームなので、強化アイテムを使うときはご注意を。
一方、兵庫県の淡路島を舞台にした『はじまりの島』は、古代に異世界転生した現代の高校生が主人公というラノベ的な設定。
江戸時代を背景とした『天倫の桜』とは雰囲気からして違います。モンスターもちょっと可愛げ。
淡路島はご存じの方が多いでしょう。琵琶湖にあった土地を大阪湾に放り投げたような、ほぼタマネギで出来ている島で、うず潮が四国からの流入者を阻み、兵庫感は限りなく薄いです。
余談ですが、すぐ西にはゲーマーにとってのディストピア「香川県」があり、かたやゲーム撲滅、かたやゲームで振興と、政策が正反対。
この島は、よく知られているイザナギとイザナミの「国生み神話」(wikipedia)において、最初に作られた大島だと言われています。
そのため各所にイザナギとイザナミにゆかりの土地があり、また地理的に交易の拠点であったため、土器や銅鐸が多く見つかっています。
ストーリーはこれらを盛り込んだものとなっていますが…… メジャーな神話がベースなこともあって、割と普通のRPGらしい物語ですね。
前述したように『天倫の桜』はストーリーが重めなので、もっとラクに楽しめるRPGがいいという方には、こちらの方が良いかもしれません。
そして、一応兵庫県なので、主人公とヒロインが関西弁。
フルボイスのおかげで普段の会話からして、イントネーションも含めてコテコテの関西弁。
独特の雰囲気があって、これが最大の特徴かもしれません。
異世界転生したのにチート能力がないとなげく関西高校主人公。
実際にはチート回復魔法とチート神代武器を持っているのでご安心を。ハーレムは作られませんが。
メニューの上部には現在地と次の目的地を示す表示があります。
迷いやすい点を説明しておくと…… ストーリーの途中、1人になったら「先山のふもと」の村にある山に登ります。
「木戸原ムラ」は「下内膳ムラ」に行き、西にある橋を渡った先。
共通しての難点は、たまに行き先がわかりにくくなること。
ほぼ一本道で進むのですが、目的地を地名で言われ、しかしそれがどの方面にあるのかサッパリということが。
地元の人ならわかるのでしょうけど。
できればもう少し、位置情報を町の人の会話に含めて欲しかったところ。
もしストーリーシーンのセリフに目的地の話が出て来たら、聞き逃すと再確認できないので注意して下さい。
2018年に公開された埼玉県行田市のRPG『言な絶えそね』と比較すると、アビリティを課金でしか入手できなくなっているのも難点でしょうか。
クリアに必須なものではありませんが、キャラのカスタマイズ要素が減っているのは否めません。
一方で、どこでもセーブが可能で、いつでも中断できるようになっているのはスマホのRPGとしてありがたいところ。
ただし、オートセーブはなく、全滅したらゲームオーバーなのでご注意を。
地元の名所やお店の紹介。メニュー画面で「GPS通信」や「クーポン」を選べば表示されます。
「はじまりの島」(淡路島)の方が協力店舗が多く、サービスや割引を受けられるお店も。
アビリティの利用には課金が必要ですが、最後の町では例外的に「経験値3倍」のアビリティをタダで入手できます。
ラスボスがかなり強く、「課金ゲー」と批判するレビューも見られますが、このアビリティを使って十分にレベルを上げれば無課金でも戦えます。
前述したように古風なRPGなので、ファミコンやスーファミ時代の作品を経験している方におすすめです。
そつなく楽しめるゲームで、なによりタダですから、試して損はありません。
伝承を知ることで、その土地に興味も湧くかも。
もちろん近隣に住んでいる方なら、なじみの土地が出てくるため、より楽しむことができるでしょう。
天倫の桜 -佐倉市サムライRPG-
千葉県佐倉市を舞台とする江戸風の振興RPG
(画像は天倫の桜 -佐倉市サムライRPG- – AppStoreより) ・RPG
・equo / 千葉県佐倉市
・無料。アイテム課金あり
はじまりの島 -淡路島日本遺産RPG-兵庫県淡路島を舞台とする古代風の振興RPG
(画像ははじまりの島 -淡路島日本遺産RPG- – AppStoreより) ・RPG
・井桁屋 / 淡路島日本遺産委員会
・無料。アイテム課金あり
文/カムライターオ
【あわせて読みたい】
多忙な人にこそスローライフで息抜きを。海外版『牧場物語』といえる大ヒット農場運営ゲームのモバイル版【レビュー:Stardew Valley】