先日、フロム・ソフトウェアの『DARK SOULS』のTRPG化が発表された。本稿はその発売前の2017年5月20日にKADOKAWA本社で行われた、『DARK SOULS TRPG』メディア向け体験会のレポート記事である。
知っている読者も多いと思うが、そもそも『DARK SOULS』はデジタルゲームであり、しかもアクションRPGである。それが、なぜTRPGになったのか? そして『DARK SOULS TRPG』はどのようなプレイ体験をもたらすのか?――ここは本作を知る人ほど、疑問に思う部分だったのではないか。
この記事では、メディア向け体験会でゲームマスター(GM)をつとめてくれた、TRPG版のデザイナーであるグループSNEの加藤ヒロノリ氏に伺った話と合わせて、その内容をTRPGと『DARK SOULS』を知らない読者にも最大限に配慮しつつ、紹介していこうと思う。
取材、文/傭兵ペンギン
基礎知識1:TRPGとは?
それでは、まず本作を紹介する前に、TRPGというゲームジャンルと『DARK SOULS』というゲーム作品について、よく知らない読者のために解説しておきたい。
まず、TRPG(Tabletalk Role Playing Game)とは、紙とペンを使って遊ぶアナログ版のロールプレイングゲーム(RPG)のことである。
だが、実はその歴史はデジタルのRPGよりも古い。1974年にアメリカで発売された『ダンジョンズ&ドラゴンズ』【※】を皮切りに、今のようにデジタルゲームが普及する前の70年代から80年代にかけて大ヒット。一気にそのスタイルとジャンルを確立。それから世界中で無数のタイトルが発売され、今でも多くのファンに愛されている。
では、プレイの仕方はどんなものか。
まず、プレイヤーが同じテーブルを囲み、会話を通じて“キャラクターの役割を演じる(=ロールプレイする)”ことで物語を進めていくのが基本的なスタイルとなる。デジタルゲームのようにコンピューターを使用しないため、攻撃などの行動の成否をダイスを使って判定し、物語のナレーションやNPCの操作などを行う進行役は、ゲームマスター(以下、GM)と呼ばれる人間が担当する。その遊び方はルールブック(デジタルで言うところのゲームソフトにあたる)にまとめられているものの、あくまでGMとプレイヤーのやり取りの中でゲームが進行する。ここがデジタルのRPGを遥かに凌駕する面白さを持つところで、その選択肢の自由度の広さから、誰も予想しなかった驚きの展開を迎えることもある。アナログならではのライブ感のあるゲームだ。
※リプレイ動画
TRPGのプレイ結果を物語風にまとめて動画にしたもの。上記は『クトゥルフ神話TRPG』のリプレイ動画で代表的なもの。
近年は、ネットの普及によりオンラインのコミュニケーションツールを使ってのプレイもポピュラーになり、ニコニコ動画のリプレイ動画などをきっかけに『クトゥルフ神話TRPG』【※】が日本で大ヒット。
これらがきっかけでTRPG全体の人気が高まってきている。因みに、デジタルゲームのTRPGへの移植はそこまで珍しいものではなく、古くは『真・女神転生』や最近では『艦隊これくしょん -艦これ-』などもTRPG化されている。
基礎知識2:「DARK SOULS」とは?
続いて、今度は『DARK SOULS』【※】も説明しておこう。
さすがに現役のゲーマー世代にとっては、もはや説明不要の大人気タイトルだと思うが、ゲームをプレイしない読者や、昨今のゲームからとんと離れた年長のゲーマー読者には、本作を知らない人も少なくないだろう。だが、日本から生まれた本作は、国内のみならず世界的にも高い評価を得て、商業的にも大成功を収めている、まさに日本を代表するコンテンツなのだ。
そんな『DARK SOULS』だが、基本的にはプレイヤーが「不死者」なるキャラクターを操り、謎多きダークファンタジー世界で探索や戦いを繰り広げながら「ソウル」【※1】というものを集めていき、キャラクターを成長させていくアクションゲームだ。
その面白さの核となるのが“手に汗握るシビアな戦闘”で、敵の動きを読み、間合いをはかりながら一進一退の攻防を繰り広げる戦闘は、ザコですら容赦なく殺しに来る難易度で、多くのゲーマーをシビれさせてきた。さらに無慈悲に命を狙ってくるトラップや突然の落下死など、油断ならないハードさが加わり、心を折られそうになりながらも探索を終えて「篝火(かがりび)」【※2】で休憩をした時の安心感と達成感がプレイヤーの脳内でエンドルフィンをドバドバ出させる。
※1 ソウル
原作ではお金および経験値のような位置で、装備の補充・強化やレベルアップのために使われるもの。敵を倒したり、アイテムとして拾ったりなど入手方法は様々。TRPG版でもほぼ同じ形で使用・獲得していく。
その特徴ゆえに、本作は「死にゲー」【※1】なるジャンル名(?)を冠されるに至った。
難易度が高く、とにかく死にまくるゲームなのだがそこで諦めずに、死と復活を繰り返していく中で覚えたことを実践しながら攻略していくのも、「死にゲー」の面白いポイント。加えて、独特のダークなキャラクターデザインと決して多くを語らぬ世界観も大きな魅力であり、プレイヤーの想像や考察意欲を掻き立て、キャラクターの「素性」【※2】から選ぶキャラクターメイキングも合わせ、ロールプレイ性を高めている。
※1 死にゲー
難易度が極端に高かったり、回復手段が極端に少ないなどの理由で、プレイヤーが何度も死んでしまうゲームを指す造語。「DARK SOULS」シリーズをはじめ、『仁王』や『Bloodborne』などがその筆頭。
※2 素性
戦士、騎士、放浪者、盗人、山賊、狩人、魔術師、呪術師、聖職者、持たざるもの、の10種類から選択可能。選んだ素性によってキャラクターにパラメーターが振り分けられる。
ちなみにオンラインプレイもかなり独特で、他プレイヤーのゲームに参加して探索を助ける「白霊」【※1】と、突如としてゲームに乱入し襲いかかる「闇霊」【※2】の2つの参加方法があり、普通のオンラインゲームとはちょっと違ったマッチングのCOOP(プレイヤー同士の協力プレイ)・PvP(プレイヤー同士の対戦プレイ)が楽しめる。またコミュニケーションはあえてチャットではなくジェスチャーを使うのも特徴だ。
※1 白霊
オンラインプレイにおいて、ホストプレイヤーが召喚できる味方PC。ゲストが、アイテム「白いサインろう石」でサインを書き、それをホストが調べることで、サインを書いたプレイヤーを白霊として召喚することができる。
『DARK SOULS』がTRPGになった経緯
では、なぜそんな『DARK SOULS』シリーズが、なぜTRPGになるのか。先にも書いたように、ここは本シリーズを知っている人間であればあるほど、驚いたところではないだろうか。
そもそも今回の企画は、ある日『DARK SOULS』シリーズの生みの親である宮崎英高氏【※1】が、長年ファンであったという「グループSNE」のオフィスに訪れたことで始まった。そこで宮崎氏は同社のデザイナーである加藤ヒロノリ氏【※2】と知り合い、その関係を知った富士見ドラゴンブック【※3】編集部副編集長の稲垣健氏がTRPG化の企画を、2016年の夏頃に持ち込んだという。
※1 宮崎英高
日本のゲームクリエイター。フロム・ソフトウェア取締役社長。『Demon’s Souls』『Bloodborne』のディレクターであり、初代『DARK SOULS』ではディレクターとプロデューサーを兼任した。『DARK SOULS II』ではスーパーバイザーという関わり方だったが、『DARK SOULS III』で再びディレクターを担当する。
※2 富士見ドラゴンブック
1985年に創設された、富士見書房の文庫レーベル。専門はTRPG関連書籍。PCゲームのノベライズ作品なども刊行している。
その完成度は確かなもので、詳しくは後述していくが、複数人による協力プレイに対応しており、バトルはターン性になり、死亡ペナルティなども表現されているほか、いくつか本作オリジナルの要素もある。また、会話方法としてジェスチャーが用意されていたり、世界設定の説明がほとんどなかったり、オリジナルのキャラクター/シナリオ作りに重点が置かれていなかったりと、TRPGとしてはかなり異色な作りになっている。
それでは、このダークソウルTRPGがどんなものかの詳細を、ここから見ていこう。