『DARK SOULS TRPG』の概要とは?
さて、『DARK SOULS TRPG』だが、まず目につくのは分厚いルールブックである。
約300ページもの長さに及び、進行に必要な敵やアイテムなどの各種データに加えて、プレイヤーが行えることが明確かつ丁寧に示されている。300ページ以上あることはTRPGとしてはそこまで珍しくはないのだが、その一方でゲームの世界観の説明はたったの5ページ。
TRPGの中には世界設定を説明することを主目的とした本がルールブックとは別に発売されるタイトルもあるため、これは異例の短さと言える。その理由については加藤氏曰く、「この本の中で明文化された内容が、ある種の公式解釈であると受け取られてしまうことを防ぐために、極力ぼかした表現を使うことにした」とのことだ。
だが、本作はその“ぼかした表現”が巧みだ。
世界観の概要は単純な説明文ではなく、目覚めたばかりの「火の無い灰」【※】である読者≒プレイヤーの操るキャラクターを主人公とするストーリー仕立ての導入となっておりグッと世界に引き込まれる。
※火の無い灰
『DARK SOULS III』に登場する、プレイヤーが操作する存在。「多くを語らない」同シリーズの特徴から、詳しく定義はされていないが、呪われた不死の身を持つとされている。
なお、細かなデータ類や画像はオリジナルのアートではなく、基本的にゲーム内の画像を収録。やはり『DARK SOULS』はあの独特のデザインあってのもので、雰囲気の再現に効果を発揮している。フィールド風景に関しても、デザイナーの加藤氏が制作のために改めて実際にプレイしながらコツコツと撮影したスクリーンショットが使用されている。
内容については、シリーズ最新作である『DARK SOULS III』をベースにしており、「灰の墓所」「ロスリックの高壁」「不死街」「深みの聖堂」などのゲーム内エリアを再現したサンプルシナリオを収録。シナリオに沿って探索を繰り広げ、立ちはだかるエリアボスを倒すことを目指すことが目的だ。各エリアは雰囲気を再現しながらも、TRPGで遊びやすいようにアレンジが加えられている他、場所によってはランダムでフィールドが生成されるなど、先の見えないスリルがある。
ちなみに、シナリオはルールブックをもとに自作することも出来るが、各サンプルシナリオの想定プレイ時間は2~6時間なので、ボリュームはかなりのもの。GM初体験という人でもサンプルシナリオで遊ぶ限りあまり苦労なくゲームの進行ができるはずだ。
原作再現と独自要素が混ざりあったキャラメイク
それでは、まずはキャラクターメイク要素から見て行こう。
この『DARK SOULS TRPG』のキャラクターメイクは、自由度が高い設計になっている。だが、その分参照しなければいけないデータも多く、やはりTRPG経験者向けの仕様になってはいる。
例えば、キャラクターには「年齢」「性別」「名前」といった基本プロフィールの他、本作のオリジナル要素である「思い出」(上記画像右下)をルールブックに記載されている中から3つ設定する。この「思い出」は生い立ちのストーリーが思い浮かぶような様々なシチュエーションの断片のことで、そのキャラクターを演じる上での助けとなるだろう。
一方で各能力値(ステータス)に関してはダイスを振ってランダムに決め、そこから素性を選んで初期装備を決めスキルを選ぶ。スキルは原作に登場する魔法である「火球」や「回復」などに加え、「バックスタブ」【※1】や「パリィ」【※2】などの全キャラクターができた基本のアクションもスキルという扱いとなっており、TRPGオリジナルのものも幾つか用意されている。この辺りは、やはりTRPGに慣れない人には大変な部分かもしれない。
※2 パリィ
敵の攻撃を弾き、高威力の一撃を与えられる状態にする戦闘テクニック。
だが、安心してほしい。本作では、初期装備やスキルに加え、能力値が事前に割り振られているサンプルキャラクターが「素性」をベースに10タイプ用意されている。基本的には原作のイメージ通りのキャラクターですぐに遊べるわけだ。
「非言語」を推奨した協力要素
こうして作ったキャラクターで遊ぶ上で、面白いことに本作では「非言語」のやり取りを推奨している。
『DARK SOULS』ではチャット機能などを廃して、あえてオンライン経由のコミュニケーションを不自由にしている。加藤氏は「そこに驚き、感動した」と語っていて、本作にその驚きを反映させているのだ。
この『DARK SOULS TRPG』は複数人プレイに対応しており、2人の場合は「ホストPC」と「GM」に分かれ、3人以上の場合はホストPCとGMに加え、残りのメンバーは「白霊PC」としてホストPCをサポートする。また、ここからは原作をどこまで再現するのかによってルールが変わってくる。ゲーム内の基本的な進め方はホストPCが決定することが推奨されており、ホストPCと白霊PCがコミュニケーションするのだが、そこで会話ではなく、ジェスチャーなどを使った非言語的なやり取りを使うことが提案されているわけだ(強制ではなく、あくまで選択ルール)。
なお、ホストPCが死亡すると白霊PCも同じく死亡扱いとなり、死亡ペナルティを受ける。そのため、罠の香りがするところは白霊PCが率先して進むなど、白霊PCは積極的にホストPCを守らなければならず、自然と連携が生まれるようになっている。
ジェスチャーでの会話はなかなか難易度が上がってしまうと思うが、かなり原作のマルチプレイっぽい雰囲気が味わえることだろう。
原作の面白さを絶妙にアナログ化したアクション要素
では、ここからはゲームプレイについて説明していこう。
さっそくフィールドを探索していくと、有用なアイテムや、なんだか危険な気がする怪しい物体、そして凶悪な敵など、様々なものに出会う。ではPCは、それらに対してどのようなアクションを取ることができるのだろうか。
まず、アイテムに手を伸ばしてみたり、怪しいところを調べたりするといった、敵との直接戦闘ではない様々なアクションは、ダイスを振ってそのアクションが成功したかどうかの判定を行う。成功確率はシナリオの難易度によって異なり、そのアクションに対応する能力値が高ければ高いほど成功しやすくなる。また、「木によじ登る」といったルールブックには書かれていないアドリブ感あるアクションに関しても、目標値が難易度毎におおまかに設定されており、臨機応変にアクションの判定ができる。
次に、戦闘はどうだろうか。
原作はリアルタイムで戦闘が展開されたが、『DARK SOULS TRPG』ではターン制になっており、違和感なく落とし込むために「スタミナダイス」と「イニシアチブバッティング」というシステムが用意されている。
各PCは「スタミナダイス」と呼ばれる5つのダイスを持っており、それを消費することで戦闘内でのアクションを取る。要するに原作でのスタミナ管理の要素をダイスで表現しているのだ。戦闘でのアクションには、武器やスキルなどを使った攻撃、アイテム使用、武器の持ち替え、逃走などの他に、リアクションとしての防御や回避などがある。アクションは「スタミナダイス」が残っている限り連続で行うことが可能。アイテムの使用や持ち替えはダイスを1つ消費するだけだが、攻撃は、「攻撃コスト」として記されるダイス目の合計を消費して行う。出目が良ければ強力な連続攻撃が行える。
そして攻撃を受けたキャラクターは、リアクションとして防御か回避を行うことができる。こちらも攻撃と同じような方法でダイスを消費して判定を行う。因みに攻撃、防御、回避の際は複数のダイスを振り成功確率を上げることもできるが、「スタミナダイス」は有限。強力な攻撃ばかり出していると、スタミナが切れて回避ができなくなるというわけだ。また、スタミナが切れていると逃げることすらままならない。このリソース管理が原作と同じく戦いの鍵となる。
続いて、もう一つの戦闘システムの要素である、「イニシアチブバッティング」についても説明しよう。だが、その前に「イニシアチブ」という要素を理解する必要があるので、先にその話をしたい。
先ほど本作はターン性だと言ったが、キャラクターの行動順を決めるのがこの「イニシアチブ」という要素で、能力+サイコロの出目によって決まる「イニシアチブ」の値が最も高いキャラクターから行動し、その行動が終わったら再び同じ方法で行動順を決め、まだ行動をしていないキャラクターの中で最も値が高いキャラクターが行動をし……というのを繰り返していく。
このシステムに一捻り加えたのが「イニシアチブバッティング」で、ダイスを振って決まったイニシアチブの値が他のキャラクターと同じ値だった場合、敵味方問わず互いに打ち消しあって無効になってしまうというものだ。例えばイニシアチブの値が15のキャラクターが3人いて、13のキャラクターが1人いた場合、一番高いイニシアチブの値は15だが、打ち消しあってしまうので行動はできず、13のキャラクターが行動することになる。
このバッティングが予期せぬタイミングで起こることで、強力なボスキャラの行動が遅れて有利になることもあれば、PC同士で仲良くみんなでバッティングして敵から手痛い先制攻撃を受けるなんてことも起こるようになっているのが面白い。後者はイメージとしては原作と同様、キャラクター同士がぶつかってうまく行動できなかったといったといった状況の再現と言えるだろう。
文面でみるとやや複雑に思えるかもしれないが、間合いの要素はかなり簡略化されており、シビアな戦闘ではあるものの簡単に遊べるように工夫されている。特にGM側はそれが顕著であり、敵NPCの行動の処理方法はデータの中に設定されたものの中から、ダイスを振ってランダムで行動を選択し、ランダムでその対象を選ぶだけでいいのだ。
TRPGに慣れたGMだと物足りないと感じるかもしれないが、GMの負担を減らすことが徹底されており、遊びやすい印象だ。ほぼ自動化されているのでソロプレイも非常に楽だろう。
これはTRPG版を遊んでから感じたことだが、『DARK SOULS』の“敵の攻撃を防御or回避してから、隙を伺い攻撃する”という一連の流れは、ある意味擬似的なターン制なのかもしれない。だからこそ、今回のバトルシステムは上手くいったのだろう。また、スタミナやエスト瓶/エストの灰瓶【※】といったリソース管理の要素も、スリリングな戦闘の再現に寄与しており、悩ましくって面白い。戦闘部分は間違いなく“ダクソしてる”と言っていいだろう。
オリジナル要素のつまった「死亡と復活」
『DARK SOULS』と言えば「死にゲー」というジャンルを世に広めた作品だが、TRPGとなった本作でも“気を抜けば結構、簡単に死ぬ”という難易度は健在だ。
では死亡するとどうなるか。原作の死亡ペナルティはソウルと人間性【※】を落としてしまうが、本作では前述した「思い出」を1つ喪失する。そしてそのキャラクターがすべての「思い出」を失うと、心が折れてゲームから脱落(ロスト)してしまうのだ。
※人間性
ゲーム内メーターの一種。数値が上昇することにより、アイテム発見能力や防御力が上昇するなど、様々な恩恵が得られる。
そして死亡後は「篝火」で復活を遂げるのだが、ここは原作と大きく異なる特徴をもっている。本作では「篝火」は火を灯すことでHPやエスト瓶/エストの灰瓶などのリソースが回復する他、ファストトラベル【※】要素などもしっかり再現されているが、休憩による敵の復活に関しては再現が推奨されておらず、サンプルシナリオでは復活が起こらない。
つまり、原作は復活と再挑戦が魅力の一つだったが、TRPGではそれが起こらないようになっているのだ。加藤氏の説明によればTRPGで再現すると、単純な同じ作業の繰り返しになりダレてしまう可能性があり、あえて「脱落条件」を設けることで緊張感を保つという意図のものなのだとか。
※ファストトラベル
主にオープンワールド型のゲームで採用されている、任意の場所に瞬間移動できる機能のこと。広大なマップを移動する手間が省ける。
であるならば、戦闘する度に「篝火」に戻ればいいじゃないかと思うかもしれないが、ここでさらなるオリジナル要素である「悪意」が登場する。これはPC一行がフィールドに移動したり、篝火を使用したりすると蓄積されるもので、その溜まった悪意を使ってGMは敵NPCを強化したり、NPCの「闇霊」を侵入させることで、プレイヤーたちにさらなるスリルを味あわせることができるようになっている。
こうすることでプレイヤーの緊張感を維持することができる他、「悪意」の効果も自由に選択できるのではなく、ダイスを使ったランダム要素を持ったミニゲーム的な趣きになる。GMも一参加者として楽しむためのモチベーションの維持も狙ったルールとなっていると言える。体験会でも、その結果にプレイヤーとGMが一喜一憂する場面があった。
なお、これらのオリジナル要素が気になる人は、その部分を調整したりカットしたりして遊んでみてもいいかもしれない。TRPGは必ずしもルールブックに書いてあることに100%従って遊ばなくてもOKで、ある程度遊び慣れたら、デジタルゲームのMODのような感覚で自分たちなりに手を加えて遊ぶという人も少なくない。
今作の場合は、きっとオリジナル要素を削っていくとプレイアビリティが低下し、難易度はゲームの運用面でも大きく上がっていくが、自分の理想に近い形で遊びやすいところを探すのも楽しいことだろう。
『DARK SOULS TRPG』は興味深いTRPG化
このように『DARK SOULS TRPG』は、原作を再現しながらもオリジナルの要素を存分に入れ込んだ作品だ。
原作再現の面で言えば、戦闘の行動周りの処理がとりわけ素晴らしく、本当に『DARK SOULS』のアクションの雰囲気を楽しめ、原作ファン同士で遊べばワイワイ騒いで楽しめる作品だと言える。体験でも盾で防御した後に武器を両手に持ち替えて一気に殴る――が実際に起こった時の雰囲気は抜群だった。
さらに、TRPGはシナリオの準備から実プレイまでGMの負担が大きいタイトルが多いが(それも楽しさのうちでもあるのだが)、今作はGMが行う処理をとにかく軽くしようという工夫が随所に感じられ、GMはかなり簡単に遊ぶことができるようになっていると思う。
またGMの処理の軽さは、ソロプレイのやりやすさにもつながっている。近年、ソロプレイができるTRPGは少なくないが、その中でもなかなか遊びやすいもので、TRPGというよりもむしろゲームブック【※】に近い感覚で遊ぶことができる。
※ゲームブック
1980年代に流行した、テキストを追う書籍型のアドベンチャーゲーム。アドベンチャーブックともいう。各文章が数行~数十行ごとに分けられて番号を振られており、読者(プレイヤー)は文章をたどりつつ、選択肢やサイコロなどによる分岐も含め、文中に指定された番号の文へと移動し、書籍の中を行き来しつつ物語を完結させる。二人称で書かれた独特の文体のものが多いのが特徴。代表的なものにS・ジャクソン/I・リビングストンによる『火吹山の魔法使い』(日本では1984年・社会思想社)やS・ジャクソンによる『ソーサリー』シリーズ(日本では1985年・東京創元社)などがある。
もちろん、“遊びやすい”が決して“優しい”ゲームではないので、PCたちに襲いかかるゲームとしてのシビアさは容赦ない。だがそこがいい。
敵はほとんど自動で動くとはいえ、かなり手痛い攻撃をしかけてくるし、エリアボスは複数の形態を持つものもあり、しっかり行動が変化する。おそらくGMが細かく敵の行動を制御すれば、簡単にPC一行を全滅させることができてしまうだろう。宝箱に擬態した「貪欲者(モンスター)」が襲い掛かってくるルールなども用意されているあたり、殺る気が満々である。
その一方で、会話やロールプレイに重点を置いたセッションや、原作『DARK SOULS』と寸分違わぬプレイなどにははっきりいって向いていないゲームだろう。
TRPGにもいろいろあり、様々なプレイスタイルを幅広くサポートしていくものから、特定のシチュエーションでの出来事に特化して遊んでいくことにフォーカスしている作品もある。今作は間違いなく後者であり、『DARK SOULS』というゲーム、特にアクション・パートにフォーカスしている。
また、原作をまったく知らなくても楽しめはするが、世界観の説明が控えめな関係上、やはり原作をある程度知っていてこそ楽しめる作品でもある。デジタルゲーム上でのデータがどのようにTRPG版に変換されているのかを見るのも楽しいところだ。
総合的に見ると必ずしも万人向けではない斬新さのあるTRPGだが、そもそもとして多くのゲーマーの心を折ってきた原作『DARK SOULS』シリーズ自体が万人向けではないので、その雰囲気までも捉えた興味深いTRPGへの移植なのではないだろうか。
『DARK SOULS TRPG』はKADOKAWAから1400円(税別)で発売中。また電子版(Kindle版、PDF版)も用意されている。タブレットなどがあれば電子版は非常に遊びやすいので、こちらもオススメだ。