2019年5月11日~15日まで東京・ヒューリックホールにて舞台「DYNAMIC CHORD the STAGE」が、上演されました。
「DYNAMIC CHORD」は、同名の音楽事務所兼レコード制作会社に所属する4つのバンドKYOHSO(キョーソー)、Liar-S(ライアーズ)、[rêve parfait](レーヴ パッフェ)、apple-polisher(アップルポリッシャー)にスポットを当てたメディアミックスタイトル。バンドマンとの甘く激しい恋物語を楽しめるゲーム作品やCDシリーズ、テレビアニメなど幅広く展開しています。
作品の魅力は、なんといっても所属バンドが奏でる、魂を震わせるような音楽。その初の舞台化ともなれば、やはりライブシーンに期待が高まってしまいます。
今回は5月10日に行われたゲネプロをレポートしつつ、どのようなステージが届けられたのかについてご紹介!
【STORY】
音楽の街で、誰も予想できないバンドマン達の未来と出逢う──注目のアーティストが多数所属している音楽事務所「-DYNAMIC CHORD-」
その中でもっとも人気を集めている4つのバンドがある。
激しさを持ちつつも妖艶なロックサウンドと圧倒的な演奏力で魅せる【KYOHSO】。
静かな中にも激しさを感じさせるエモーシャルなロックサウンドの【Liar-S】。
プログレッシブなロックサウンドで独特な世界観を表現する【[rêve parfait]】。
ダンスナンバーとロックをミックスさせたサウンドで若者に人気を誇る【apple-polisher】。
全てはダイナミックコード株式会社社長・伊澄久臣の一言で始まった。
『1か月後にお前達4バンドで2日間の野外フェスを行うことにした』
フェスを成功させるために彼らが向き合ったものは?
バンドメンバーそれぞれが魂に問いかける。『自分たちの音楽とは?』
音楽の街、そしてバンドマンの憧れの地“藍鉄区”で繰り広げられる彼らのリアルを描いたドキュメンタリーが今始まる。
(引用:DYNAMIC CHORD the STAGEより)
ライブステージを実現させるための“本気”
「DYNAMIC CHORD」といえば、ヒロインとバンドマンたちとの恋愛、そして、4つのバンドが紡ぐ音楽が魅力のシリーズです。
しかし、今回の「DYNAMIC CHORD the STAGE」には、いわゆる“ヒロイン”が登場しないため、恋愛要素はなし。物語は、バンドメンバーたちのライブにかける思い、仲間との絆、音楽に対する飽くなき情熱が描かれていました。
とくに、ライブシーンでは、“リアルサウンド”と“バンドの実在性”へのこだわりが感じられ、舞台作品でありながらも彼らのライブを鑑賞しにきたかのような感覚に包まれていきました。
それもそのはず、各バンドのボーカルを演じたのは、その多くが歌唱力に定評のあるキャストばかり! KYOHSOのYORITO役・新里宏太さんはテレビアニメの主題歌を担当したり、「ミュージカル『スタミュ』Second Season」の出演経験もある人物。
[rêve parfait]のKing役・松岡卓弥さんもユニットやソロでの音楽活動を行っており、これまでにもアルバムをリリースしたり、舞台で活躍しています。
apple-polisherのNaL役・藤家和依さんは、バンドやステージの出演はもちろん、楽曲の作詞作曲までも自身で行うほどの音楽通。
そして、Liar-Sの檜山朔良役・三山凌輝さんは、歌やダンスが得意で、舞台「2.5次元ダンスライブ「ツキウタ。」ステージ」第6〜8幕の神無月郁として活躍していました。
激しく、静かに、切なく、甘く……。ボーカリストの歌声に加え、ギター、ベース、ドラムというバンドサウンドに色付けされ、カラーの異なる4バンドがステージに実在していました。
キャストたちの演技を一層引き立てたのは、舞台装置や照明です。ヒューリックホールの会場に足を踏み入れた際に圧倒されたのは、ステージ上方や客席ギリギリまで配置された、4つのバンドを色とりどりに映し出す華やかな照明の数々でした。
さらに、舞台後方には巨大なスクリーンまでもが控えています。スクリーンは背景描写だけにとどまらず、ライブシーンでは世界観を構築する映像としても使用されており、会場全体が「DYNAMIC CHORD」の世界に変貌していたのです。
『DYNAMIC CHORD』がついに舞台化! 白熱のライブシーンはどのように演じられるのか──『DYNAMIC CHORD the STAGE』のこだわりを演出家+ヴォーカル役のキャスト4名にインタビュー!
感情移入しながら心身で味わうライブパフォーマンス
物語は、圧倒のライブシーンで幕を開けます。本作に登場する4バンドはすべてボーカル・ギター・ベース・ドラムで構成された、スタンダードな4ピースバンドです。
ですが共通点といえばそれくらいで、バンドの空気や楽曲のノリ、映像や照明効果までそれぞれで大きく異なっていました。
とくにドラムの位置こそ固定されていましたが、バンドごとに上下や左右などステージの空間をどのように使うかも違っていました。例えばKYOHSOは上から見下ろしながら貫禄ある演奏をし、Liar-Sはステージ上で全員がしっかりと呼吸を合わせているような印象、[rêve parfait]はステージを広く動きながらファンへ音を届けようとしていて、apple-polisherは自由かつ堂々とした振る舞いで、客席の目を奪っていきます。
そして、冒頭のライブシーンもさることながら、4バンドからなる大規模野外ライブ「藍鉄Rock Fes」のシーンは、まさに“圧巻”のひとこと。
「藍鉄Rock Fes」は、4バンドのメンバーたちがそれぞれ、バンドのコンセプトを決め、新たな一面を打ち出すというライブ。物語にはこのフェス開催に向けての道のりが描かれているのですが……。個性派揃いのメンバーばかりのため、話し合いの様子はなかなかまとまらず難航。
やっとの思いで決まったコンセプトライブが運営サイドに受け入れてもらえないかもしれない危機もありましたが、それを乗り越えてからは、バンドらしい持ち味と、ひと味違う雰囲気も併せ持ったパフォーマンスを構築していきました。
ライブというものは、会場で体感するだけでも十分に楽しいもの。しかし、観客はそこにいたる道のりで、メンバーがどのように新たな一面を発見し、どう膨らませて昇華したのか、どんな演出でファンを楽しませたいと思ったのか……大いに悩み、考え抜いた過程をすべて知っています。
そのため、苦労した結果がきちんと形になったコンセプトライブが目の前で披露された瞬間は「上手くいって良かった……!」と、より一層感動することになるのです。
[rêve parfait]
Liar-S
apple-polisher
KYOHSO
もちろん、ライブの再現だけにとどまらないのが“舞台”というもの。一般的な音楽ライブではあまり見受けませんが、キャストたちが会場の通路を舞台として使用する「客降り」も頻繁にありました。なんとも、ファンには嬉しいサービスです。
メンバーがステージを飛び出し、すぐ近くで観客を煽るという夢のような展開が待っています。楽しそうなバンドマンたちに歓声を求められたら、テンションが上がらないわけがありません!
本作ではステージ上で恋愛模様が繰り広げられないからこそ、いちファンとして彼らを応援するもよし、素敵なバンドマンたちに恋をする乙女になるもよしという、自由なスタンスでメンバーとの交流を楽しむことができました。
先輩としての貫禄をみせたKYOHSOと、芹をサポートするLiar-Sにフォーカス
舞台は公演回により、KYOHSOとLiar-Sがメインの物語と、[rêve parfait]とapple-polisherがメインの物語という2パターンで上演されました。
大筋こそ変わりませんが、取材時のゲネプロで描かれたのはKYOHSOとLiar-Sの回で、YORITOと結崎芹(吉澤翼)を軸に物語が進んでいきました。
YORITO(新里宏太)は、とても自由奔放で気まぐれなボーカリスト。劇中ではコミカルなやりとりが多く、一見ノリと勢いだけ動いているようにも思えます。
実際、そうした面もないわけではないのですが、KYOHSOはDYNAMIC CHORDに所属するバンドの中でももっとも先輩ということもあり、後輩たちをよく見ていることが伺えました。
とくに「藍鉄Rock Fes」のプロデューサーに推薦され、成功に向けて尽力する芹のために、YORITOは多くを語らずフォロー。言葉よりも行動で周囲に道を示すスタイルを持ったYORITOだからこそ、メンバーも信頼しているんだろうなと感じられました。
KYOHSOのリーダー・TOKIHARU(杉江優篤)は、メンバーの豊かな個性を尊重しつつ、本人は飄々とした雰囲気。そんなTOKIHARUが熱さを見せたと思えたのが、2日目のライブ直前のシーン。出番ギリギリになっても姿を見せないYORITOに「きっと戻ってくる」ときっぱり言い放つシーン。ほかのメンバーももちろんですが、「KYOHSOは4人でKYOHSO」と強い想いを抱いているのが分かり、思わず胸がじんわりと温かくなりました。
クールなベーシスト・YUU(山口大地)は、こだわりが強く几帳面。あまり表情や言動で語るタイプではありませんが、じつは飼っているフクロウのビビにはめちゃくちゃ甘いという一面も。ツンとした態度の中にある確かな優しさを感じられました。
ドラムのSHINOMUNE(KEN’ICHI)はビジュアルこそ強面といったイメージですが、全体ミーティングで自身の肉体美を披露したり、腕立て伏せを始めたり、YORITOに負けず劣らずの突拍子もない企画案を考えたりと、思わず笑ってしまうシーンが多数。
そんなSHINOMUNEですが、ライブになるとその空気が一変。激しいまでのドラムさばきでその情熱を見せつけてくれました。……というのもSHINOMUNEを演じているKEN’ICHIさんは現役のプロドラマー。ドラムのリズムからSHINOMUNEの激しい思いが伝わってきました。
一方、エモーショナルなロックサウンドで注目を集めるLiar-Sは、「藍鉄Rock Fes」のプロデューサーとして奮闘する結崎芹を信じ、全員でサポートする、仲睦まじくも、信じ合う絆が描かれていました。
檜山朔良(三山凌輝)は、寡黙でクールなギター&ボーカリスト。しかし、芹をプロデューサーとして推薦しようと考えていたり、メンバーが行き詰ったときの突破口となるのが彼のひと言だったりと、多弁ではないけれど発する言葉の重要さたるや!
ライブシーンにおいては、射抜くような力強い瞳から発せられるオーラで客席を酔わせるなど、その激しいギャップと格好良さにはキュンとさせられてしまいます。
ギタリストの珠洲乃千哉(服部武雄)は、メンバーの中でもっとも年下。礼儀正しい一方で先輩相手でも物怖じせず、ライブのミーティングでもしっかり言うべき意見を言っている印象でした。
信念を持ちつつ、周囲からの助言もきちんと受け止められる度量の広さを、服部武雄さんが丁寧に表現。とくにバンド内には強烈な人物がふたりもいるので、千哉の素直な言動にはある種の癒しを感じられました。
ベーシストの榛名宗太郎(正木郁)は、ライブの演奏では男性的な力強さを見せつけてくれるものの、普段は美麗と表現したほうがしっくりきてしまう佇まい。
ムードメーカーとして盛り上げつつ、ちょっと周囲をからかったりもする愛嬌のある姿には、男性的な格好良さとは少し違ったときめきを感じてしまいました。
そして、KYOHSO&Liar-Sの回で、キーマンの1人だった結崎芹。最初の全体ミーティングの時点でもさりげなくまとめ役に回り、バンド内外からも「芹なら大丈夫」と厚い信頼を得ているのが伺えました。
ライブ全体のプロデューサーを任され、信頼に応えようと奔走するものの、急にエグゼクティブプロデューサーとなったYORITOの行動に「認められてないのでは」と悩む芹。
それが誤解あったことが後々判明するのですが、それでもメンバーからの励ましもあり、自分なりのやり方でプロデューサーをまっとうしようとする強い責任感が伝わってきます。
芹に一方的に押し付けるだけではない信頼を寄せ、それに応えようと成長する芹とメンバーの関係性は、Liar-Sというバンドがさらなる高みへと上っていく未来を予感させてくれました。
光と影で描かれる“バンドマンのリアル”
物語ではメンバーだけでなく、彼らを支える側の姿も描かれていました。音楽事務所「DYNAMIC CHORD」の社長である伊澄久臣(塩川 渉)が“10年後、20年後もバンドを続けていられるか”と口にするシーンがあり、マネージャーの加賀真実(松村泰一郎)も、社長の側でメンバーたちをサポートしていきます。
登場する4バンドはすでに一定の成功を収め、忙しい毎日を送っています。しかし、音楽で思うような成功を掴める人はごく一部。その成功の影で夢に破れ、音楽の道から遠ざかるしかなくなった人は少なくありません。
舞台オリジナルの登場人物である、KYOHSOのインディーズ時代からの知り合いという聖矢(笹 翼)も、夢に破れた元バンドマンのひとり。現在はバーで働き、みんなのよき相談相手となっている兄貴分です。
聖矢をはじめ、伊澄や加賀に支えられながら、メンバーたちは“藍鉄Rock Fes”の成功に向けて、改めて自分たちの音楽に正面から向き合います。何を目指すのか、誰に音楽を届けたいのか……。こうした悩みを解決することで、メンバーたちが“10年後、20年後”の未来まで感じさせてくれる、確かな成長を遂げていく姿がしっかりと描かれていました。
一方で、メンバーにアドバイスをしていた聖矢にもスポットが当てられていました。音楽で成功をすることができなかった聖矢。時折見せる表情からは、いくら願おうとも掴めなかった光を求め、さまよい続ける彼の影が描かれていました。
このように「DYNAMIC CHORD the STAGE」の舞台では、メンバー同士の絆と成長、音楽が伝えるものの深みが物語の中に深く描かれており、さらに“リアルなライブ”まで楽しむことができました。
4バンドはそれぞれ、言葉よりもサウンドで、絆やメッセージを客席まで届けてくれました。まさに物語とライブが一体化した、「エンターテインメント舞台」でした。
2014年にCDシリーズが誕生してから、さまざまな展開でファンに愛されてきた「DYNAMIC CHORD」。今回の舞台は、そんなファンからの愛にとことん応えようとする強い意志が伝わってくるものでした。
とくにライブステージの迫力を一度味わってしまうと、「音楽に特化した、ライブだけの公演も見てみたい!」と思わされました。
公演初日に発表されたDVD化の続報も楽しみにしつつ、バンドマンたちがステージ上で見せてくれたような、本作のさらなる可能性を期待せずにはいられません。
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